Blood Endless Desire- File.9 奪われた2人

 

 

 ミーアとトモミの前に現れたトール。彼はミーアを連れさらおうとしていた。

「相変わらず私を付け狙っているのか、トール・・」

「当然だ。お前と出会ってから、私の心は決まっていたのだ・・」

 ため息混じりに声をかけるミーアに、トールが淡々と答える。

「しかし以前の私は君より弱かった・・同じブラッドでありながら、私は君に手も足も出なかった・・」

「当然だ。同じブラッドでも生きてきた時間も踏んできた修羅場の数も違う。お前が私に手が出なかったのはムリのない話だ・・」

 昔を思い返すトールに、ミーアが不敵な笑みを見せる。

「昔はことごとく返り討ちにされていた。本当に弱かった・・・だが、今の私は昔とは違う。確実に君をものにできる・・」

「ずい分自信があるではないか。」

「もちろん。でなければ君に会いに行っても意味はないからね・・」

 互いに不敵な笑みを見せるミーアとトール。2人のやり取りにトモミは困惑するばかりになっていた。

「長話をしてもお互い都合が悪いだろう?一緒に来てもらうぞ、ミーア・・」

「悪いがお前の誘いは受けない。早く済ませることには賛成だが・・」

 手招きをしてくるトールの誘いを拒み、ミーアが紅い剣を手にする。

「ブラッドの能力で生み出した剣・・君が得意としている戦い方だ・・・」

「今度は逃がしはしない・・2度と私の前に出て来れないよう、真っ二つにしてやろう・・・」

 悠然としたままのトールに、ミーアが素早く飛び込んで剣を振り下ろす。トモミの目には、トールが真っ二つに斬られたように見えた。

 だが斬られたトールの姿が霧散して消えた。彼も素早く動き、残像が斬られたように見えたのである。

「こんな悪ふざけをするところも変わっていないな、トール・・・」

 ミーアは振り向かずに声をかける。彼女とトモミの後ろにトールはいた。

「これが私の好きなやり方なのは、君も分かっていただろう?」

 笑みをこぼすトールだが、ミーアは真剣な面持ちを変えない。

「悪ふざけは気に入らないか・・すぐに終わらせたほうが本当によさそうだ・・・」

 トールが笑みを消して、両手を強く握りしめる。直後、ミーアが再び飛びかかって剣を振りかざした。

 だがトールが右手だけでミーアの剣を受け止めてしまった。

「何っ!?

 簡単に攻撃を受け止められたことに目を疑うミーア。力を込める彼女だが、トールはビクともしない。

「これが今の私の力と、君との差だ・・・」

 低く告げるトールが、右手をひねってミーアの剣を折った。簡単に力を捻じ曲げられたことに、ミーアは愕然となった。

「私はある方法を使って一気に力を高めた。もはや君をも超えている・・・」

 トールはミーアを捕まえようと両手を伸ばしてきた。

「ミーア!」

 そこへトモミが飛び込み、トールを突き飛ばした。不意を突かれたため、トールはよけきれずに後ろに下がる。

「君もブラッドだったね・・ミーアにばかり気を取られていたから油断をしてしまった・・・」

 トールがトモミに視線を移して、笑みをこぼしていく。

「私を助けるとは・・私を気に入ってくれたのか・・・?」

「そんなつもりはないよ・・自分の手でミーアを乗り越えないと、私が納得できない・・それだけだから・・・」

 戸惑いを浮かべるミーアに、トモミが自分の心境を打ち明ける。彼女の答えを聞いて、ミーアは笑みを取り戻した。

「どういうつもりかは分からないが、私に牙を向けていることは確かだ・・」

 トールがトモミを見つめて悠然と語る。

「せっかくだ・・君もミーアと一緒にものにしてやろう・・君もミーアに負けず劣らずの美少女だからね・・・」

「そんなこと言われたって、全然嬉しくないわよ!」

 手を差し伸べてきたトールに、トモミが不満の声を上げる。

「君がどれほどの力なのかは分からないが・・私ほどではないだろう・・・」

「ずい分と自信があるみたいだけど・・私はあなたのものにも、誰のものにもならない!」

 笑みを強めるトールに言い返し、トモミが身構える。

「確かめさせてもらうよ・・いろいろと・・・」

 トールが直後にトモミの後ろに回り込み、つかみ上げてきた。

「キャッ!ちょっと!」

 トールに体を触られて、トモミが悲鳴を上げる。振り払おうとする彼女だが、トールの手から逃れることができない。

「思っていた通り、整った体をしている・・ものにするにはふさわしいよ・・・」

「トール、トモミから離れろ!」

 トモミの体に触れて喜ぶトールにミーアが飛びかかる。彼女が紅い剣を突き出すが、トールはトモミから素早く離れてかわす。

「トモミ、大丈夫か!?

「アイツ、いやらしいよ!あたしの体を触ってくるなんて!」

 ミーアが心配の声をかけると、トモミが不満の声を上げる。

「ふぅ・・アイツはそういうヤツだ・・昔から目にかけた女を手に入れないと気が済まない・・・」

 一瞬安堵を浮かべたミーアだが、すぐにトールに鋭い視線を向ける。

「トモミに手を出すことは、誰だろうと許さない・・許されるのは私だけだ・・・!」

「ミーアも許していないよ!」

 トールに向けたミーアの言葉に、トモミが文句を言う。するとトールが笑みを浮かべてきた。

「心配することはないよ。ミーア、君が望むなら、彼女と一緒にものにしてあげよう。一緒にいられるなら、君も満足できるだろう・・」

「確かに満足だ・・お前の手の中で踊らされることを除いて・・」

 再び手招きをしてくるトールに対し、ミーアは冷徹さを崩さない。

「私のものになれば、その気持ちも変わるはずだ・・体感してみれば、その頑なな考えも変わる・・」

 トールが目つきを鋭くして、両手に意識を集中する。

「痛い思いをさせてしまうが、我慢して・・・」

 次の瞬間、トールがミーアとトモミの体に打撃を見舞った。予想以上に重みのある彼の攻撃に、2人とも怯んで倒れそうになる。

「み、見えなかった・・それに、重い・・・!」

「まさか、ここまで強くなっているとは・・・トール・・・!」

 痛みに耐えながら声を振り絞るトモミとミーア。するとトールが2人に向けて右手をのばしてきた。

 その手の平から放たれた衝撃波で、トモミとミーアが吹き飛ばされる。2人は壁に叩きつけられて、苦痛のあまり吐血する。

 倒れそうなった2人を、近寄ってきたトールが両手で支える。

「すまないね・・でもすぐに楽にしてあげるから・・・」

 トールが囁きかけると、ミーアがとっさに右足を突き出す。不意を突かれたトールが蹴り飛ばされる。

「お前などに楽にされる必要はない・・トモミにこんなマネをしたお前を、このまま生かして帰すものか・・・!」

 殺気と狂気をむき出しにするミーア。立ち上がったトールが、そんな彼女を見て笑みをこぼす。

「その殺気・・そういう君も見ていてすがすがしくなる・・ますます君をものにしたくなったよ・・・」

「トモミ!」

 トールが放った衝撃波を、ミーアがトモミを庇って背中に受ける。

「ぐあっ!」

 巨大な力を直撃されて、ミーアが絶叫を上げる。意識をも揺さぶられて、彼女はトモミにもたれかかっていた。

「ミーア!ちょっと、しっかりしてよ!」

 声を張り上げてミーアに呼びかけるトモミ。ミーアは苦痛にさいなまれて、うめき声を上げるばかりだった。

「やっぱりここは逃げたほうがいいかも・・ホントにまずい気がする・・・!」

 トモミはミーアを連れて逃げ出そうとする。だがトールから逃げ切れるはずもなかった。

「逃がさないよ・・2人とも、私のものにするのだから・・・」

「冗談じゃない!もうこれ以上、体と心をムチャクチャにされるのはイヤなんだから!」

 笑みを見せてくるトールに、トモミが言い放つ。するとトールがブラッドの力を使い、地面から紅い縄を伸ばして、トモミとミーアを縛り上げてきた。

「そ、そんな!?

「これでもう逃げられない・・ブラッドであっても、簡単には抜け出せない・・ましてや消耗している君たちにはね・・」

 驚愕するトモミ。彼女たちが縄から抜け出せないでいる姿を見つめて、トールが微笑みかける。

「悪いけどここでやらせてもらうよ。連れていく途中で暴れられたら大変だから・・・」

「貴様・・何をするつもりだ・・・!?

 目つきを鋭くするトールに、視線を向けてきたミーアが鋭く言いかける。彼女とトモミが見つめる前で、トールが右手をかざす。

 

    カッ

 

 その手の平に目が開き、まばゆい光が放たれた。

 

   ドクンッ

 

 その光を受けたトモミとミーアが、強い胸の高鳴りを感じた。

「何、今の・・・!?

「トール・・今、何をした・・・!?

 困惑を見せるトモミと、トールに鋭い視線を送るミーア。トールが見つめる前で、2人を縛っていた紅い縄が消失する。

「これでもう君たちは私のものとなった・・・」

  ピキッ ピキッ ピキッ

 トールが呟いた瞬間、トモミとミーアの着ていた衣服が突如引き裂かれた。あらわになった彼女たちの体が固くなり、ところどころがひび割れていた。

「ちょ・・どうなってるの、コレ!?・・・体が、動かない・・・!?

「石化が起こっている!・・・お前が発した光の効果か・・・!」

 自分の身に起きていることに驚愕するトモミと、緊迫を抱えたままトールに声をかけるミーア。

「そうさ。これが私の求めるものを手に入れると同時に、私の力を引き上げることのできる手段と能力。右手の目の視界に入った対象は、身につけているものを全て壊しながら石にしていく。つまり君たちが完全に石化されたとき、生まれたままの姿にもなる・・」

 トールが悠然と語りながら、あらわになっていくトモミとミーアの素肌を見つめていく。

「さらに私の力で石化した相手は、その力を私に奪われることになる。そうすることで、私はここまで力を上げることができたということさ・・」

「そうか・・それでお前は私をも上回る力を得たのか・・・!」

「君たちは美しいだけでなく、力も相当なものだ。最高峰のオブジェを手に入れるだけでなく、私は並ぶものがないほどの強さを身につけることができる・・」

 声を振り絞るミーアに、トールが悠然と答えていく。

  ピキッ ピキキッ

 石化が進行し、トモミとミーアの体を固めていく。体や下腹部が石になり、2人が着ていた服も完全に引き裂かれた。

「すばらしい・・思っていた以上にすばらしい体をしていたようだ・・・」

「見ないで・・こんな格好を見せることになるなんて・・・!」

 笑みを強めるトールに向けて、トモミが恥ずかしさを見せる。完全に素肌をさらしている彼女たちは、石化されているために自分の体を隠すこともできなくなっていた。

「恥ずかしがることはない・・その美しく素晴らしい姿、むしろ誇らしく感じるよ・・・」

「勝手なこと言わないで・・こんな姿にされて、気分がよくなるわけないじゃない・・・!」

 称賛の言葉を投げかけるトールに、トモミが不満の声を上げる。だが石化による不自由と恥ずかしさから、彼女は声を上げるのも必死だった。

「そうか・・この石化で狙った女を手に入れ、かつ力を増していったということか・・・!」

「そういうこと。ミーア、君もようやく私のものとすることができる・・石化をかけられた君たちに、自ら石化を解くことはできない。ブラッドの力を使ったとしても、血の枯渇を覚悟しても元に戻れる保証があるかどうか・・・」

 声を振り絞るミーアに、トールがさらに語っていく。

「さて、長話は気持ちの整理がつかなくなるよね。そろそろ仕上げにしようか・・」

  ピキキッ パキッ

 石化がさらに進行し、トモミとミーアの手足の先まで石に変わっていった。体をほとんど動かせなくなり、2人は思うように力を入れられなくなる。

「す・・すまない、トモミ・・こんなことになって・・・」

 そのとき、ミーアがトモミに謝罪を投げかけてきた。するとトモミが歯がゆさを浮かべてきた。

「ホントに・・今更何言ってくるのよ・・・すまないと思っているなら、あのときブラッドにしないで死なせてくれればよかったのに・・・」

「やれやれ・・私はどこまで行っても、お前に責められることになるのだな・・・」

「もうどうにもなんない・・このまま石になるしか・・・」

「本当にすまないな・・だがこれで、お前が望んでいたように、楽になれるかもしれない・・・」

「・・・そうかもね・・こうして石になっていたら、これ以上の辛い思いをしなくて済むかも・・・」

「・・私としても、お前といつまでも一緒にいられて・・・これこそが、私の望んでいた幸福だったのかもしれない・・・」

 呆れ果てるトモミに、ミーアは弱々しく苦笑する。

  パキッ ピキッ

 石化が体を蝕んでいく中、ミーアがゆっくりとトモミに顔を近づけていく。

「ミ、ミーア・・・!?

 困惑を覚えるトモミに、ミーアが口づけを交わしてきた。石化のために力を入れられず、トモミはミーアとの口づけに抗うことができなかった。

(・・もう、いいよね?・・このまま石になるしかないんだから・・・)

 トモミはミーアとの口づけと抱擁に完全に身を委ねていた。彼女は完全に抗うことを諦めていた。

  ピキッ パキッ

 石化が口元にまで及び、トモミとミーアは唇を離すことができなくなる。

(これでいいよね・・・これでもう、楽になれるよね・・・?)

 トモミが心の中でひたすら安心しようとする。彼女の目からは涙があふれてきていた。

   フッ

 トモミとミーアの瞳にもヒビが入った。2人はトールがかけた石化に完全に蝕まれた。

「やった・・やっと・・やっとミーアを手にすることができた・・・」

 一糸まとわぬ石像と化したミーアとトモミを見つめて、トールが喜びを膨らませていく。

「この瞬間をどれだけ待ったか・・今まさに君たちは、私の力で最も輝かしい姿へと昇華することができた・・・」

 哄笑を上げるトールが手を伸ばし、石化したミーアの頬をさする。

「こうして君に触れ合える・・こうして君を見ていられる・・これ以上の幸せはもう訪れないかもしれない・・・」

 ミーアに触れていき、トールが喜びを膨らませていく。さらにトールはトモミにも触れていく。

「君もミーアに負けず劣らずの美少女に生まれ変わったね・・ミーアのすばらしさをさらに引き立てている・・彼女が惚れ込んだのも頷けるかもしれない・・・」

 淡々と囁いていくトールだが、石化したトモミもミーアも何の反応を見せない。

「さて、そろそろ行こうか・・みんなが待っている・・・いつまでもここで立ち尽くしているのは、君たちもイヤだろうからね・・・」

 トールは気持ちを切り替えて、ミーアとトモミの石の裸身を抱擁する。

「もう放さないよ・・私たちは、いつまでも一緒だ・・これ以上の至福は、どこにもないだろう・・・」

 ミーアとトモミを手に入れた喜びを膨らませて、トールは2人を連れて姿を消した。彼の魔手にかかり、ミーアもトモミもその掌握に堕ちたのだった。

 

 

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