Blood -Cursed Eyes- File.11 運命
自分の因果を呪い、自らを石化させたマナ。変わり果てた彼女の姿に、レイジもミナミも動揺を隠せなかった。
「マナちゃん・・・どうして、こんな・・・!?」
悲痛さにさいなまれて、ミナミが脱力して壁にもたれる。愕然さを拭えないまま、レイジはゆっくりと立ち上がり、振り返ってマナに背を向けた。
「レイジ・・・?」
ミナミが呆然とした面持ちのまま声をかけるが、レイジは全く反応していなかった。ミナミはこれ以上声をかけることができず、レイジもそのまま外に出て行ってしまった。
ミナミはマナに視線を向けていた。物言わぬ石像となってしまったマナに、ミナミはどうしたらいいのか分からなくなっていた。
(マナちゃん、元に戻って・・マナちゃんが戻ってこないと、レイジは・・・)
ミナミはひたすら願った。マナが元に戻ることを。
エリナが発した光を受けたヒカルの体が石になり始めていた。その効果で衣服が引き裂かれ、白く冷たく固まった素肌がさらけ出されていた。
「ウフフフ。子供とはいえ、いい体をしているじゃないの。私もその年頃のときも自信があったほうだけど、あなたはそれ以上かも。」
「なんて力・・体だけ石にして、身に着けているものを壊す効果も備わっている・・ブラッドの力は、そのブラッドによってそれぞれ違うけど、効果次第では使えない高度なものも含まれている・・・これだけの力を、転化したばかりのエリナさんが・・・」
妖しく微笑むエリナの力に、ヒカルは脅威を感じていた。ヒカルの左腕、左胸、下半身は石化に包まれていた。
「高度かどうかなんて、私には関係ないことだわ。私はレイジをものにするために、人間を捨ててブラッドになったのよ。」
「そのためにブラッドを、この石化を求めたというの、エリナさん!?」
「そうよ。私はこの力でレイジとその心の支えとなるものを全て手に入れる。」
声を荒げるヒカルの問いかけに、エリナが妖しく微笑んで答える。だがその直後にその笑みが消える。
「でもマナだけは別よ。アイツは石にしたりしない。石化以外の力で、徹底的に傷つけて苦しめて、息の根を止めてあげるわ。」
「ダメ・・マナさんには手を出させない・・今のあなたは、自分のために動いているだけ!」
ピキキッ パキッ
苛立ちを見せるエリナに呼びかけた直後、ヒカルにかけられた石化が進行する。彼女の両足の先まで石に変わり、素足がさらけ出される。
「ずい分と大きな口を叩いてくれるじゃないの。でもね、口は災いの元とも言うのよ。」
冷淡さを込めて、エリナがヒカルに言いかける。ヒカルは次第に裸の石像へ近づいていることに恥じらいを覚えてきていた。
「さて、これからもっと気持ちよくさせてあげないとね。怖がらせるだけじゃ、私の趣味に反するから・・」
悩ましい面持ちを見せると、エリナはまだ石化していないヒカルの右胸に手を当てる。その接触にヒカルは思わずあえぐ。
「あらあら。いい反応を見せるじゃないの。またまた感心しちゃった。」
「やめて・・そんなことしたら・・私、どうかなってしまう・・・!」
笑みをこぼすエリナの前で、ヒカルは押し寄せてくる快感と刺激に必死に耐えようとしていた。だがエリナはそんなヒカルの胸を揉み始め、ヒカルはさらにあえぐ。
「どうして・・望んでないのに、気分がよくなってく・・・」
「人は触れられることで快楽を覚えていく。触れるものが体でも心でも。あなたにもそれが分かるはず。」
「私は、そんなこと望んでない・・・」
「言葉でどんなに否定しても、体は正直なものよ。あなたは私にこうされることを望んでるのよ・・・」
「そんな・・・」
エリナの言葉と抱擁に、ヒカルはもはや反論することができなかった。人肌と石の肌を撫でられることに、ヒカルは次第に心地よさを感じていった。
しばらくヒカルの体を撫で回したところで、エリナはヒカルから手を離した。
「もう十分だと思うから、石化を終わらせてしまいましょうか。その心地よさを、ずっと留めておかないと。」
パキッ ピキッ
呆然としているヒカルの体をさらに石化が蝕んでいく。半壊しかかっていた衣服が全て剥がれ落ち、全裸にさらされる。
しかしヒカルはさほど恥らう様子を見せなくなり、石化を包まれるのを待っているようだった。
「このひと時を与えてくれたことを感謝するわ。ありがとうね、ヒカルさん。」
エリナがヒカルに対して感謝の言葉を投げかける。
(ゴメン・・私、何もできなかったよ・・マナさん、レイジさん、ミナミさん・・ユミちゃん・・・)
ピキッ パキッ
ユミたちを思うヒカルを蝕む石化が、彼女の唇を白く固めていく。
フッ
そして瞳も白く固まり、ヒカルは完全な裸の石像と化した。そよ風が吹く草原の真ん中で、彼女はその裸身をさらけ出していた。
「まずは1人、レイジの親しい人を手に入れた。でもやっぱりレイジを手に入れないと・・」
動かなくなったヒカルを見つめて、エリナが妖しく微笑む。
「・・・その前にもう1人捕まえて楽しまないといけないようね・・・」
笑みを崩さずにエリナが視線を向けた背後には、その様子を目の当たりにしていたユミの姿があった。
「エリナさん・・これはいったい・・・!?」
変わり果てたヒカルを見つめたまま、ユミがエリナに問いかける。するとエリナがゆっくりと振り向き、妖しい笑みを向ける。
「見られちゃったわね。放っておいても問題ないけど、騒ぎにされるといろいろと面倒だからね。」
エリナが紅い眼光を宿らせると、ユミはたまらずきびすを返して駆け出した。
(マナさんたちに知らせないと・・エリナさんが・・・!)
ヒカルが石化させられたため、もはやマナに頼るしかない。ユミはそう思い立っていた。
だがそんな彼女の前に、エリナが音もなく立ちはだかった。簡単に回り込まれたことに彼女は驚愕する。
「悪いけど、あなたをこのまま行かせるわけにはいかないわ、ユミさん。」
「そ、そんな・・・!?」
笑みを崩さず近づいてくるエリナに、ユミが恐怖を浮かべて後ずさりした。
ミナミはひたすらマナを見つめていた。揺らぐ気持ちを抑えて、長い沈黙を破って、ミナミは重く閉ざしていた口を開いた。
「マナちゃん・・マナちゃんの本当の気持ちは何・・・?」
ミナミが微笑みかけるが、マナは全く答えない。
「マナちゃんはレイジのために、モエちゃんやみんなを石に変えた。それは許されないことなのは確か。でも、こうやって自分を傷つけることが償いだと思っているなら、大間違いだよ。」
マナの背後に回りこみ、ミナミは鏡越しにマナの表情を見つめる。呆然とした面持ちのまま、マナは微動だにしなくなっていた。
「マナちゃん、私もあなたも、レイジの幸せを心から願っている。できれば私が、レイジを元気付けたいと思っている。でも私では力不足のようね。今のレイジを助けられるのは、マナちゃんしかいないもの・・・お願い、マナちゃん。あなたが本当にレイジを助けたいと思っているなら、レイジの幸せを心から願っているなら、私たちのところに帰ってきて・・・」
マナに語りかけると、ミナミは振り返って立ち去っていく。だが外に出ようとしたところで足を止めて、ミナミはマナに声をかける。
「あとひとつ言っておくわね。私はレイジを諦めたわけではないからね。今回のことが解決したら、覚悟しておいてね。」
マナに笑顔を見せて、ミナミも外に飛び出した。彼女が立ち去った後、石像となっているはずのマナの右目からうっすらと涙が流れ落ちた。
ヒカルが石化される様を目の当たりにしたユミ。しかし彼女もエリナから逃げることができなかった。
髪を伸ばしてユミの手足を縛って捕まえて、エリナは妖しく微笑んでいた。
「やっと捕まえた。さて、鬼ごっこはおしまい。これからはお楽しみの時間よ。」
「やめて・・やめて、エリナさん・・・ヒカルちゃん、助けて・・・」
語りかけてくるエリナの前で、ユミが助けを請う。
「心配しなくていいのよ。あなたもヒカルさんと同じようにしてあげる。」
エリナが力をイメージして、ユミをも石化しようと迫る。そのとき、ユミは心の中にヒカルの声が聞こえてきたような感覚を覚える。
“ユミちゃん、大丈夫だよ。私がユミちゃんのそばにいるから・・・”
(ヒカルちゃん・・・!?)
突然のヒカルの声にユミが戸惑う。
“一緒に頑張ろう、ユミちゃん。ユミちゃんにはすごい力があるから・・・”
(ヒカルちゃん・・・ありがとう。私、やってみるから・・・)
思い立ったユミの眼が紅く光りだす。力が発動されると察して、エリナが笑みを消す。
「手も足も出ないのに、何をしようというのかしら?」
悠然としながらも冷淡な視線を向けるエリナに対し、ユミは自らの血を媒体にして、紅い矢を数本出現させる。その矢の群れを解き放ち、手足を縛っている髪を断ち切り、さらにエリナにも攻撃を仕掛ける。
「なかなかだけど、私も甘く見られたわね。」
エリナがブラッドの力を発動させ、紅い触手を使って矢を弾き飛ばす。その間に再び逃げ出そうとするユミだが、エリナは紅い触手で再度彼女を捕まえる。
「もう逃げられないわよ。今度はあなたの力では破れないから。」
笑みを浮かべるエリナ。ユミが再び紅い矢を解き放つが、髪以上の強度にしてある触手を断ち切ることができない。
「だから言ってるでしょう。あなたはもう逃げられないって。それじゃ改めていくわよ・・・」
カッ!
エリナがユミに向けて灰色の光を解き放つ。
ドクンッ
その閃光を受けたユミが、強い胸の高鳴りを感じて眼を見開く。その直後に、ユミの手足を縛っていた触手が消失し、ユミは解放される。
「ゴメン、ヒカルちゃん・・私、マナお姉ちゃんに伝えることもできなかったよ・・・」
抵抗の意思が消えてしまい、ユミはその場に立ち尽くしてしまう。その姿を見てエリナが笑みを強める。
「ウフフフフ。これでチェックメイト。さて、これからじっくりと楽しませてもらうわよ。」
ピキッ ピキキッ
エリナが言い終わると、ユミの上着が引き裂かれて、白く固まった胸がさらけ出された。その変化にユミは動揺を隠せなくなる。
「わ、私もこのまま、ヒカルと同じように・・・」
「その通りよ。でも怖がることはないし、恥ずかしがることでもない。あなたはヒカルさんと同じように気持ちよくさせてあげるわ。」
困惑を見せるユミに語りかけると、エリナは彼女の石の胸に触れる。胸を撫でられて、ユミがあえぎ声を上げる。
「ちょっと、エリナさん・・・やめ、て・・・」
「やめない。あなたが最高に気分がよくなるまで・・・」
エリナはさらにユミの胸を撫で回して、彼女の反応を確かめる。
「ダメだよ・・それ以上やったら、私、どうかなっちゃうよ・・・」
「いいのよ、どうかなっちゃっても。あなたの気分がよくなるんだから・・」
エリナに言われるがまま、ユミは押し寄せる快楽にさいなまれていた。その刺激に耐えられなくなり、足から愛液が滴り落ちてくる。
「イヤ・・どうして・・どうしてこんな・・・お願い、出ないで・・・」
「我慢しなくていいのよ。ここにいるのは私とあなた、あとはヒカルさんだけ。何も気にすることはないのよ。」
完全に赤面してしまっているユミに、エリナがさらに語りかける。ユミの意思に反して、愛液はさらにあふれてきていた。
「そんなに止めてほしいなら、私が簡単に止めてあげる。」
ピキッ パキッ パキッ
ユミのはいていたスカートが破れ、石化した下腹部がさらけ出される。あふれていた愛液までが弾け飛び、ユミがさらに赤面する。
「いいわね。ますますいい感じになってきてるじゃないの。」
エリナが妖しく微笑む前で、ユミは声を張り上げることさえできなくなっていた。
「さて、意地悪する子にはお仕置きをしないとね。ウフフフ。」
エリナはユミに寄り添い、さらけ出されているユミの秘所に手を伸ばした。触れられたくないところを触られて、ユミが声にならない悲鳴を上げた。
「そうよ。もっと叫びなさい。それがあなたの喜びの表れなんだから・・・」
笑みを強めるエリナ。荒々しい快楽に包まれて、ユミがついに声を上げることもできなくなった。
「そろそろ潮時ということね。では石化を再開しましょうか。」
エリナは呆然としているユミの頬に軽く唇を当てると、彼女からゆっくりと離れた。
ピキキッ
石化が進行を再開し、ユミの手足の先まで白く固めていく。首筋まで石になっていくユミの眼に、裸の石像となっているヒカルの姿が映る。
「ヒカル・・ちゃん・・・」
ピキッ
言いかけたところで唇が固まり、声を発せなくなるも、ユミはヒカルを想う。
(ゴメンね・・何もできなくて・・・)
フッ
やがて瞳から生の輝きが消え、ユミも裸の石像と化してしまった。その裸身を見つめて、エリナが哄笑を上げる。
「これで2人目。今度こそ本命を狙わないと。いつまでも寄り道しているわけにもいかないからね。」
エリナはブラッドの力を発動させ、ユミとヒカル共々転移しようとする。草原に荒々しい風が巻き起こる。
「それと、そろそろ血を吸い取っておかないと。あの女は徹底的に苦しめてやらないといけないからね。」
エリナは呟きながら、紅い風の中で姿を消した。その笑みにはマナに対する憎悪が込められていた。
自らを強く責めて自分自身に石化をかけたマナ。廊下で立ち尽くす中で、彼女は心の中で意識を取り戻し始めていた。
彼女は自分にかけてきたミナミの言葉を思い返していた。
(私はレイジが幸せになることを心から願った。だから私はレイジやみんなが傷つかないように、自分を石に変えた・・)
マナは自分の気持ちと見つめ合っていた。実際に眼の前の鏡に写っている自分の姿を見つめるように、彼女は自分の気持ちを合わせ鏡にしていた。
(でもそんなことをしても、レイジもミナミも幸せにはなってくれなかった・・・)
石になっているはずのマナの右目から再び涙があふれる。
(私がみんなのそばにいること。それがみんなの幸せになる。私の存在はいつしか、みんなにとってかけがえのないものになっていたのだな・・・)
思いを馳せるマナの石の体に突如ヒビが入る。
(ならば私は、ここで自分を戒めている場合じゃない。自分を石化するべきではなかった・・私は・・・)
その亀裂が広がり、マナの石の体全体に入る。
(私はレイジのために、ここにいなくてはいけないんだ・・・!)
そしてマナが自分自身にかけていた石化が弾け飛ぶように解けた。石化から解放され、マナはその場に座り込む。
自分が石化から解き放たれたことが半ば信じられず、マナは自分の両手を見つめた。
「私は・・・石化が解けたのか・・・ずっと願っても解けなかった石化が・・・」
マナは解けた石化を不思議に思えてならなかった。そして彼女はまたひとつ疑念を感じた。
「石にならない・・・右目は開いたままだというのに・・・」
常に見つめた相手を石化してしまう右目。だがその視界に入ったものが、灰色に染まっていなかった。
次回予告
次々と侵食していく暗黒の力。
邪なる想いが、容赦なくあたたかな心と体を蝕んでいく。
その果てにあるのは、灰色と白で彩られた、孤独という名の世界。
絶望という名の世界。