Blood –Cursed Eyes- File.7 消された記憶

 

 

 私は、生まれたときから周りから忌み嫌われていた。

 吸血鬼だからだけではなかった。同じブラッドからも、私を嫌悪する者も少なくなかった。

 私は生まれながらに右目に忌まわしき力を宿していた。その右目で見たものは全て灰色の石に変わってしまう。

 そのせいで私は周りの吸血鬼以上に人間から嫌悪されてきた。それ故に、私はこの呪われた右目を妬んだ。

 どうしてこんな力を持ってしまったのだろうか。なぜ私がこんな運命を背負わなければならないのか。

 その答えを見つけようと、私は町から町へと移り住んでいったが、どこへ行っても化け物扱いされ、答えも見つけられないままだった。

 そしてついに私は、自分の中に右目と勝るとも劣らない闇が膨らんでいたことに気づいた。

 私の中に宿る闇が私に語りかけてきた。忌まわしいもの、憎いものは全て滅ぼしてしまえばいいと。

 その闇と私の心がひとつになったときだった。その憎悪の矛先にあるものに向けて、私は呪われた眼を解放した。

 愚かしきものが全て、私の視界の中で灰色に染まり、動かなくなる。死よりも忌まわしい呪縛を与え、憎悪は解消されるはずだった。

 だが私の心には安らぎが戻らず、さらに憎悪が強まるばかりだった。

 そして長く途方に暮れていた私に、ひとつの出会いがやってきた。

 

「どうしたの?眼、ケガしたの?」

 どことも分からない町を歩いていた私に、1人の男の子が声をかけてきた。その子は私に笑顔を見せながらも、右目に眼帯をつけている私を心配してくれた。

「病院とか行ったほうがいいんじゃないかな?それとももう行ったとか?」

「お前、私が怖くないのか?」

 私はおもむろにその子にそんなことを言った。だがその子は怖がるどころか、笑顔を絶やさないでいた。

「怖い?何言ってるんだよ。僕がどうして君を怖がったりするんだい?」

 その言葉を聞いて、私は今まで感じたことのない気持ちを感じた。いいえ。私が求めていたものを手にしたような気持ちといったほうがいい。

「まぁ、言いたくないならムリに聞かない。君の事情とかあるからね。僕は杉山レイジ。君は?」

「私は・・マナ。苗字はない。ただのマナだ。」

「苗字がない?身寄りがないのかな・・・?」

 私が名乗ると、その子、レイジが首をかしげた。私に苗字がないことに疑問を感じながらも、私に対して疑いを持ちかけてはいなかった。

「まぁいいや。よろしくね、マナちゃん。」

「うん。よろしく・・・」

 差し出してきたレイジの手を取り、私は握手を交わした。笑顔を絶やさないレイジの姿に、私も笑みをこぼしていた。

 

 私とレイジは場所を変えて、広い草原で話をすることとなった。といっても、レイジが自分のことを一方的に話す形となってしまい、私は自分のことを話せないでいた。

「僕、大きくなったら世界中を旅してみたいと思ってるんだ。いろいろな場所に行って、いろいろな人と出会って、いろいろなことを知ってみたいんだ。」

「世界・・・すごいね、レイジって・・」

 自分の夢を語るレイジに、私は感嘆の声をかけた。

「そういえばマナちゃんはこれから何かしたいとかあるの?」

「私か?・・分からない・・いろいろあって考える余裕もなかったから・・」

 レイジが聞いてきた問いかけに、私は答えることができなかった。

 私は呪われた眼に振り回されてきた。だから私はいつも過去に縛られてきた。だから未来や将来に関心を持てないでいた。

「だけど・・これから少しずつ考えていければいいと思ってる・・・」

「・・・まだまだ人生はこれからさ、僕も君も。今すぐ考える必要なんてない。ゆっくり見つけていけばいいさ。」

 レイジに励まされて、私はとても嬉しく感じた。私にここまで優しくしてくれる人は、同じブラッドの中にもいなかった。まして人間にこんなふうにされるなんて思いもよらなかった。

「ありがとう、レイジ・・私は嬉しいよ・・・」

「アハハハ、そう言われると、何だか照れちゃうなぁ・・・」

 レイジは私に笑みを浮かべていた。私に感謝されることに少し戸惑っているのだろう。

「ところでレイジ、私、その・・・ここのこと、よく分からなくて・・・」

「えっ?もしかして最近引っ越してきたってヤツ?」

 興味津々に聞いてくるレイジに、私は答えられないでいた。するとレイジは再び笑顔を見せてきた。

「実は僕も少し前にここにやってきたばかりで、ここのことはよく分からないんだよね・・・ねぇ、これから2人で町を探検してみようよ。」

「えっ?」

 レイジの提案に私は思わず驚いた。

「まだお昼の時間はあるし、そんなに遠くには行けないけど、それでもいくつか寄れると思うんだよね。」

「でも・・」

「あ、もしかしてこれから用事とかあった?」

「う、ううん、そんなことはないけど・・・」

「それじゃ決まりだ。早速行こう♪」

 レイジは笑顔で頷くと、私の手をとって駆け出した。とても楽しそうにしているレイジに、私もいつしか楽しくなっていた。

 

 それから、私とレイジのひと時が始まった。私が今まで見た中でさほどにぎやかではなかったが、懐かしさを思わせるような風景だった。

 だが自分の過去を忌まわしく思っている私には、あまり実感が湧かなかった。

「うわぁ、何だか子供心をくすぐるなぁ。って、僕たちの時代じゃ、駄菓子とかちょっと古いよね、アハハハ・・」

 店を見回っているレイジが笑みをこぼしている。なぜなのかはよく分からなかったが、私はそんなレイジの様子が嬉しく思えた。

「あ、退屈じゃないかな?何だか僕だけ楽しんじゃってる感じがしてるんだけど・・」

「ううん、そんなことはない。いろいろなものが見れて勉強になるし、何よりお前の笑っているのを見ていると、私も楽しくなってくる・・」

 苦笑いを浮かべるレイジに、私も戸惑いながら答えた。うまく言葉にできなかったが、正直に答えるようにした。

「僕もマナちゃんと過ごしていると、何だか楽しくなってくるよ。」

「そうか・・レイジもそう思うか・・・」

 またレイジに励まされて、私はさらに安らぎを覚えた。

「レイジ、私はお前と一緒にいる今が、1番楽しいと思ってる・・」

「ちょっとマナちゃん、そんな大げさな・・」

 私が感謝の言葉をかけると、レイジは照れていた。その様子に私はまた笑みをこぼしていた。

「あっ!あれ!」

 そのとき、レイジが慌しく川のほうを指差した。その川の真ん中で、1匹の犬が溺れて流されていた。

「大変だ!早く助けないと!」

 レイジはとっさに川に向かって走り出した。私も急いでレイジを追いかけた。

 川の中にいる犬を助けようと、レイジはなりふり構わずに川に飛び込んだ。

「レイジ!」

 私はたまらずレイジに向かって叫んだ。レイジは必死に犬のほうに向かって泳いでいく。

 何とか覚える犬のところまでたどり着き、レイジは犬を連れて引き返そうとする。だがそこでレイジの様子がおかしくなる。

 犬と同じように溺れて川から抜け出せなくなる。犬につかまれているせいなのか、それとも実は泳げないのに勢いで飛び込んでしまったのか。

「レイジ!」

 私はすぐに川に飛び込み、犬とレイジを助けようと必死になった。このときの私は、自分が眼帯をつけていることなどすっかり忘れていた。

 レイジと犬を連れて、私は必死に岸まで泳いだ。レイジと犬を上がらせたところで、私は眼帯が外れていることに気づく。

「しまった!どこに・・!?」

 私は周りを見回して眼帯を探した。もしかして川に流されてしまったのだろうか。

 でも眼帯は岸の草に引っかかっていた。私は安心の吐息をついて眼帯を拾い、右目に付け直した。

 

 犬を助けた場所の近くの大きな橋の下で、私はレイジが起きるのを待っていた。川に飛び込んだせいで着ていたものは全て濡れて、そばの大きな石場の上で乾かすことになった。ただし右目を隠すため、眼帯だけは外さなかった。

 私は裸の体を抱きしめながら待っていると、レイジがようやく眼を覚ました。

「あれ?ここは・・・?」

「やっと気がついたか。このまま眼を覚まさないかと思ったぞ。」

 周りを見回すレイジに、私はとっさにからかいの言葉をかけた。レイジは少しだけ不機嫌そうな顔を見せたが、すぐに笑顔を見せた。

「もしかして君が助けてくれた?」

 レイジのその問いかけに私が頷くと、レイジはまたまた照れた。

「いやぁ、参ったよ。助けに飛び込んでおいて逆に助けられちゃ世話ないよ。アハハハ・・・」

「・・・そんなことはないよ。レイジが犬を助けようとしなかったら、私もその気にならなかったよ。」

「アハハハ。それじゃ僕の頑張りも、全然無駄だったわけじゃなかったんだね。」

 互いに笑顔を見せ合うレイジと私。そこでレイジが自分と私の今の姿を見て顔を赤くした。

「う、うわっ!何で僕、裸なんだ!?」

「あ、すまない・・濡れてしまったものだから・・・迷惑だったなら本当にすまない・・・」

 動揺しているレイジに、私は素直に謝った。頬を赤らめながらも、レイジはまた笑みを見せた。

「気にしないで、マナちゃん。マナちゃんは僕のためにやってくれたんでしょ?」

「うん・・・」

「僕は迷惑だなんて少しも思っていないよ。ありがとね。」

 レイジのこの言葉に、私はこれ以上にないくらいの喜びを感じた。レイジは今まで会った人の中で最も心優しい。私はそう思った。

「ところで、あの犬はどうしたんだ?」

「えっ?あぁ、あの犬はレイジより先に起きて、どこかへ行ってしまったぞ。元気そうに走っていったから大丈夫だろうと思って、私は止めなかったけど・・」

「そうか・・よかった、元気になってくれて・・・」

 私の答えにレイジが安心を見せた。動物にも小さな命にも優しくするレイジが、私はとても頼もしく感じた。

 

 しばらくして服も乾き、私もレイジもそれらを着て気を落ち着けていた。

「乾きはしたけど、洗濯しなきゃダメなのは変わらないな。」

 乾いたズボンをはたきながら、レイジがため息混じりに呟く。

「ねぇ、また明日も会えるかな?」

「明日?私は時間は空いてはいるけど・・」

 レイジの唐突な問いかけに私は戸惑いを見せながら答えた。するとレイジは満面の笑みを浮かべてきた。

「よかった。よかったら明日も会わない。また今日みたいにいろいろ見て回っていこうよ。」

「いいのか?私がまた会いに行っても・・・?」

「いいよ。この橋の上で3時に待ち合わせでいいかな?」

「・・・うん、いいよ。それでは3時に、ここで会おう。」

「それじゃ、また明日。」

 私が誘いを受けると、レイジは笑顔を見せたまま私と別れた。私も笑顔でレイジに手を振って見送った。

 なぜレイジの誘いを受けたのだろうか、自分でもよく分からなかった。私が抱えている呪いは、周りにいる全てを不幸にしてしまうのに。

 レイジには知られたくない。もし私のこの眼のことを知れば、レイジは必ず私を嫌う。少なくとも好きにはなってくれないだろう。

 そう思った私は、レイジに右目のことを知らせないようにした。

 

 その翌日、私はレイジと会うことが待ちきれなくなり、1度約束の橋の上に行ったものの、レイジが帰っていったほうへと探しに向かってしまった。自分でも心弾んでいるのだろうと思ってしまっていた。

 入れ違いになってしまうのではないかという事態も予測できたが、その心配はなかった。私はレイジの姿を見つけ、声をかけようとした。

 だが出掛かっていた声が出なかった。レイジのそばには女の子が1人いて、その子がレイジに寄り添ってきていた。レイジもその子を優しく受け止めていた。

 なぜレイジがその子に優しくしているのだろうか。なぜ私以外の人に笑いかけているのだろうか。

「やぁ、マナちゃん。ここまで来ちゃったのかい?」

 私に気づいたレイジが笑顔を見せて声をかけてきた。だが今の私には、その笑顔が疑わしく思えてならなかった。

 私は怖くなり、たまらずこの場から逃げ出した。

「マナちゃん!」

 レイジが呼び止める声が聞こえてきたが、私はその声に耳を貸さずにひたすら走り続けた。やがて走ることに疲れて、私は道の真ん中で立ち止まった。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。レイジは私を騙していたのだろうか。

 分からない。何を信じていいのか分からない。

 混乱していた私に語りかけてきたのは、私を蝕んでいた闇だった。

「何もかも止めてしまえばいいんだ。全てを灰色に染めて、その憎しみを消せばいい。」

「私は・・・」

「私のこの力を憎むならそれでもいい。その憎しみを解き放ち、苦しみを消すがいい。」

 語りかけてくる闇の言葉を、私は逆らうことができなかった。気持ちが落ち着かないまま、私は右目を隠していた眼帯を外した。

 右目に映る灰色の視界。それが現実となり、その景色を次々と石に変えていく。

(そうだ・・私の心は、この景色のように灰色のままなんだ・・・)

 絶望的な考えさえ感じながら、私は石化を続けていた。いつしか町にたどり着くと、私の力に人々が悲鳴を上げて逃げ出す。

 その人々や建物でさえも石にしていく私。揺れ動く感情の赴くまま、私は町の中を歩いていった。近くに女の子が隠れていたことも気づかずに。

 

 そして私はいつしか、町から外れた小さな道にやってきていた。いろいろなものを石に変えていった自分の行為と右目が今になって忌まわしくなり、私は途方に暮れていた。

 そしていつしか私は、とある家の近くを通りがかった。そこから女の子の声が響いてきて、私は足を止めた。

「お兄ちゃん、大変だよ!家や人がみんな石になっちゃってるんだよ!」

「えっ?石に?モエ、お前何言ってるんだよ。」

 その女の子の声に笑みをこぼしていた男の子の声に、私は聞き覚えがあった。レイジだ。

「女の子がみんな石に変えていっちゃって!あたしたちも早く逃げないと!」

「いい加減にしなよ、モエ!いくらなんでもそんな夢みたいなこと・・・!」

 モエという女の子がレイジに呼びかけているが、レイジは信じていない。モエが言っている女の子とはおそらく、

(私・・・)

 モエは見ていたのだ。私が右目を解放して周りを石に変えていったことを。

「夢なんかじゃないよ!町に行ってみよう!行ってみれば夢じゃないって分かるから!」

「あっ!コラ、モエ!」

 モエがレイジが止めるのも聞かずに家から飛び出してきた。そこで私の前に現れると突然足を止めた。

 このとき私は右目を閉じていたため、モエを石にすることはなかった。

「モエ、待てってんだよ!・・・あ、マナちゃん・・・」

 それからすぐにレイジが飛び出してきて、私を見て笑みを浮かべた。だが隣にいたモエは私を見て怯えだした。

「お兄ちゃん、この子だよ!この子が町やみんなを石にした・・!」

 モエが私を指差し、私は動揺した。だがレイジはモエの言葉を信じようとしなかった。

「モエ、バカなことをいうのはやめろ!夢みたいなことを言うだけじゃなく、その犯人がマナちゃんだなんて!」

「本当だよ!早く逃げようよ!じゃないとあたしたちも石にされちゃうよ!」

「モエ!」

 レイジがついに怒り出し、悲痛の声を上げていたモエが黙り込む。だがあくまで自分の言っていることが嘘ではないとして、モエはいきなり私を突き飛ばしてきた。

 私は一瞬、モエのこの態度が当然のように思えた。これが普通だ。私は吸血鬼。しかも右目に忌まわしき力を宿していて、その眼で見たものを石にしてしまう。明らかに人間ではなく、化け物の力を使用する存在と見るほうが普通だった。

「お兄ちゃん、逃げよう!この子が、この子がみんなを・・・!」

 モエがさらにレイジに呼びかける。するとレイジがモエの頬を叩いた。

「なんてことをするんだ、モエ!マナちゃんは絶対に悪い子じゃない!僕やみんなを大切に思ってくれている優しい子なんだ!」

「だってあたし、本当に見たんだよ!本当にみんなを・・・!」

 あくまで私を信じようとしてくれるレイジと、真実を伝えようとするモエ。その中で、私の心に先ほどまで押し寄せてきていた闇が再び私を突き動かしていた。

 おもむろに立ち上がって、私は左目でレイジとモエを見つめる。怯えているモエを気にせず、レイジが私に近づいて声をかけてきた。

「マナちゃん、大丈夫!?・・ゴメンね。モエがいきなりこんなこと・・」

 レイジが心配してくれていることも気に留めず、私はレイジとモエの間に割ってはいる位置に立つ。そしてそこで私は右目を開いた。

 その灰色の視界に入ったモエの体も灰色に染まりだす。私の呪われた力が、彼女を石にしていたのだ。

「イ、イヤアッ!あたし、石になんてなりたくないよ!」

 石化していく自分にモエがさらに恐怖を見せる。それを前にして、私は右目を閉じて後ろに気を向けた。

「モ、モエ・・・!?」

 違うものへと変わっていくモエを目の当たりにして、レイジが信じられない面持ちを浮かべている。

「マナちゃん・・これはどういうことなんだ・・・どうしてモエがこんな・・・!?」

 レイジが必死に私に問いかけてくるが、私は答えない。その間も、モエの石化は進んで、手足の先まで灰色に染まっていった。

「お兄ちゃん・・助けて・・・助けてよ・・・」

 レイジに助けを求めるモエの声がだんだん小さくなっていく。石化はモエの首元まで達していた。

「マナちゃん・・本当に君の仕業なの!?・・・ねぇ、マナちゃん!」

 レイジが後ろから私の肩をつかんで問い詰めてくる。しかし私はモエの恐怖する様を見つめたまま答えない。

 やがてその恐怖を宿したまま、石化がモエを完全に包み込んだ。変わり果てた妹の姿を目の当たりにして、レイジは愕然となっていた。

「これが私の力・・私の呪われた眼の効果・・・」

 私はレイジに向けて言いかける。

「私の右目には忌まわしき力が宿っている。その眼で見たものを全て石にしてしまう。私自身でも制御できず、元に戻すこともできない・・・」

「そんな・・・それじゃ、本当に君が・・・!?」

「でも今となってはどうでもいいこと。私は人間に絶望しているから・・・」

 私が笑うと、レイジはさらに信じられないような顔を見せた。

「次はあの子か・・・」

「あの子・・・もしかして、ミナミちゃんのことじゃ・・!?」

 レイジの声に答えずに、私は振り返ってそのミナミという子のところに向かおうとした。

「どうして・・・どうしてこんなことを!?」

「どうして?言ったはずだ。私は人間に絶望していると。だけど、レイジは私を受け入れてくれたから、石にしないだけ・・・」

 レイジに向けて私は皮肉るような笑みを見せていた。レイジを悲しませないためにも、私は全てを灰色にしなければならない。そう思い込んでいた。

「やめて・・・もうやめてよ!」

 そんな私にレイジの悲痛の叫びが響いてきた。

 そのときだった。私の右目に激しい痛みが押し寄せてきたのは。

「僕は・・僕はこんなこと望んでない!こんな暗い世界なんて、僕は望んでないよ!」

 その痛みにうなだれている間も、レイジが私に向かって叫び続けていた。

「こんなことをするマナちゃんなんて、僕は大嫌いだ!」

 その言葉を耳にした直後、私は突然意識を失った。その瞬間に、私は心の中で何かが弾けたような感じがしたことだけ覚えていた。

 

 気がついたら、私はどこかの病院のベットの上にいた。そして私の記憶から、レイジのことは失われてしまっていた。

 だがしばらく使えなかった右目の力は、少し時間がたったら使えるようになった。そして私はまた、感情と闇の赴くままに歩き出した。

 このとき培ってきた思い出が、まるではじめからなかったかのように。

 

 

次回予告

 

少年と少女に蘇った記憶。

それは、かけがえのない思い出と忌まわしき過去。

かつてないすれ違いに戸惑う2人。

その葛藤の中、人々の思いが交錯する。

 

次回・灰色の世界

 

 

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