Blood Blue Fiend- File.4 血の代価

 

 

 ヤヨイ、リサ、エリの前に現れたヴァルとハヤト。3人の女子の困惑する前で、ハヤトとヴァルは不敵な笑みを浮かべて互いを見据えていた。

「いったい、何がどうなってるの・・・!?

 エリが声を振り絞って呟きかける。突進してくるヴァルをからかう意味で、ハヤトがどんどん後退していく。

「どうした?ご自慢の力も、当たらなければ意味はないぞ。」

「おのれ!大人しく当たればいいんだよ、お前は!」

 不敵な笑みを崩さないハヤトと、苛立ちを見せるヴァル。いきり立ったヴァルが再びハヤトに向けて拳を繰り出した。

「当たれといわれて当たってやるヤツがいるものか。それにそんなバカの一つ覚えでは、オレにかすり傷すら与えることはできないぞ。」

「ほざくな!当たればデカい!当たれば貴様など!」

 ヴァルはさらに突進を仕掛けるが、ハヤトに難なくかわされていく。もはや2人の差は雲泥の差になっていることは明白だった。

 その光景をただじっと見ていることしかできなかったヤヨイたち。当惑しているヤヨイに、リサが声をかけてきた。

「ヤヨイ、ホントにどういうことなの!?こんなの、映画の撮影だなんていわせないわよ!」

 問い詰めてくるリサに、ヤヨイは困惑を浮かべたまま答えることができないでいた。

「キャアッ!」

 そのとき、エリの悲鳴が上がってヤヨイとリサが眼を向ける。その先で、エリが全身黒ずくめの何者かに捕まっていた。

「エリ!」

 ヤヨイが声を荒げてエリに駆け寄ろうとする。だがエリの姿は黒ずくめとともに忽然と消えてしまった。

「フッフッフッフ。この娘はいただいていきます。あなた方は次の機会ということで。」

 どこからともなく不気味な声が響いてくる。その声にヤヨイはかつてない恐怖を覚える。

「そんな・・・エリが・・エリが・・・!」

 エリがさらわれたことにヤヨイは愕然となり、その場に座り込んでしまう。リサもいたたまれない気持ちに襲われ、どうしたらいいのか分からなくなっていた。

 その2人の気持ちを気に留めず、ヴァルと対峙するハヤト。

「いい加減茶番には飽きたな。そろそろ終わりにさせてもらうぞ。」

「あぁ、終わりだ。貴様が粉々にされることでな!」

 不敵な笑みを見せるハヤトに、ヴァルが叫んで迫る。するとハヤトは右手に紅い光を灯して振りかざす。

 鞭のように放たれた光は、眼にも留まらぬ速さで駆け抜けていった。その一閃は、向かってきたヴァルの体を一瞬にしてバラバラにしてしまった。

 ハヤトの眼前に広がる鮮血。光を消したハヤトが、座り込んでいるヤヨイに眼を向ける。

「どうした?何かあったのか?」

 淡々と声をかけてくるハヤトだが、ヤヨイは反応しない。その声に我に返ったリサが、怒りを募らせてハヤトに詰め寄ってきた。

「もしかして、あなたがヤヨイをおかしくさせたの!?

「だとしたら何だ?」

 言い寄ってくるリサだが、ハヤトは冷淡な面持ちを崩さない。

「あなたさえいなければ、ヤヨイは普通のままだったし、エリだってさらわれることもなかったのよ!あなたさえいなければ!」

「勝手な言いがかりだな。その娘が人間でなくなったのは、彼女が自ら望んだこと。それにお前の友達をさらったのはオレではない。」

「都合よく言ってくれるわね!ヤヨイが人間でなくなることを望むわけないじゃないのよ!」

 怒りと悲しみをあらわにするリサだが、ハヤトは顔色を変えない。

「いいよ、リサ・・・」

 そこへヤヨイが声をかけ、リサは言葉を詰まらせる。物悲しい笑みを浮かべているヤヨイに向けて、リサが反発する。

「でもヤヨイ、この人があなたを・・・!」

「ううん。その人の言うとおりだよ。結果的に私がこうなることを望んだ・・・生きるために・・・」

 ヤヨイの答えにエリはかける言葉が見つからず、困惑を膨らませるばかりだった。

「ゴメンね、リサ・・こんなことに巻き込むつもりはなかったのに・・・」

 眼に涙を浮かべて謝罪の意を示すヤヨイ。しかしそれでもリサの心は晴れなかった。

 2人のやり取りを気にしていないのか、ハヤトはこの場から離れようとする。するとヤヨイが彼に駆け寄ってきた。

「本当にゴメン・・あなたは何も悪くはないのに・・・」

 ヤヨイが弁解を入れるが、ハヤトは何も答えずに立ち去っていってしまう。彼を追いかけようとしつつ、ヤヨイはリサに声をかける。

「リサ、後で詳しい話をするから・・・」

 そしてヤヨイはハヤトを追いかけて駆け出していった。リサはどうしたらいいのか分からず、しばらくこの場に立ち尽くしていた。

 

 ハヤトはヤヨイに後をつけられながら、街外れの森の中に来た。そこでハヤトは足を止め、ヤヨイに声をかける。

「これで分かったはずだ。お前は2度と、お前が望む日常には戻れないことを。」

 冷淡に告げるハヤトに、ヤヨイは小さく頷いた。

「お前が何を望もうとお前の自由だ。だが宿命は非情にその望みを粉砕する。それがイヤだというなら、お前の持てる全てを賭けて、その宿命を打ち破るしかない。」

「私・・私は・・・」

 ハヤトの言葉にヤヨイは困惑を浮かべる。

「お前はこれからどうするのだ?この血塗られた宿命の中、お前は何を求めるのだ?」

 ハヤトに問いかけられて、ヤヨイは迷いを見せる。これから自分は何を求め、何を目指して歩いていくのか。その答えをつかみあぐねていた。

「お前がどの答えを出そうとも、オレには関係のないことだがな。」

 ハヤトはヤヨイに言いかけると、再び歩き出す。そして近くの大木に寄りかかり、腕組みをして佇んだ。

「私にも、そのブラッドの力が使えるの・・・?」

「当然だ。使い方はお前自身の感覚で身に付けろ。オレが教えてやれるのは、ブラッドとしての特性だけだ。」

「特性?」

「ブラッドは様々な効果をもたらす。だがいずれにも、自身の血を媒体にして発動される。吸血鬼は食料として血を求めるが、ブラッドの場合は力を使うために代価に値する血を求める。」

 ハヤトの口からブラッドについて語られる。その説明の意味をなかなか理解できず、ヤヨイは困惑していた。

 

 突如現れた黒ずくめに捕まったエリは、数人の男たちに連れられて王室にいた。そこには不敵な笑みを浮かべるエドガーの姿があった。

「エドガー様、娘1名の確保に成功しました。しかし蒼の死霊が介入し、ヴァルが命を落としました。」

 エドガーの前に黒ずくめの影が姿を現す。影は人の形を取り、やがて正体である男が現れる。

「そうか。やはり数で攻めても意味を成さないか・・ならばお前の奇襲で見事追い込んでみるか?」

「よろしいのですか?もしかしたら、エドガー様と蒼の死霊との再会が、永遠に実現しなくなるかもしれませんよ。」

 男が忠告を述べるが、エドガーは不敵な笑みを崩さない。

「見くびられたと思ったのなら詫びよう。彼を手中に収められるのは、おそらくは私だけだろう・・・だが、それが腑に落ちず、敵意を覚えるなら、やってみるがいい、クロウ。」

「分かりました。ではこのクロウ、見事蒼の死霊を仕留めてみせましょう。」

 エドガーの挑発とも取れる言葉を受けて、クロウは頷いて王室を出た。そしてエドガーは、不安を浮かべているエリに眼を向ける。

「さて、そろそろ始めようか。解放の時間を。」

「わ、私をどうするつもりなの!?・・ヤヨイとリサのところに返して・・・!」

 不敵な笑みを浮かべるエドガーに、エリが悲痛の声を上げる。だがエドガーは笑みを強めるばかりだった。

「心配することはない。お前はただ、私に身を委ねればいいのだ。」

「そんなの・・そんなの・・・」

 エドガーの言いかける言葉に、エリがさらに募らせる。そんな彼女に向けて、エドガーが両手を伸ばしてきた。

 その両手から稲妻のような力が発せられ、エリを辛め取る。その刺激がエリの心身を大きく揺さぶる。

「な、何なの、コレ!?・・体が、ムチャクチャにされてる感じが・・!」

 押し寄せる刺激に不快感を覚えるエリ。その反応を堪能してエドガーが微笑む。

 稲妻のような力がエリの着ている制服を引き裂く。素肌にあらわになっても、彼女は押し寄せる刺激にさいなまれて、裸身を隠すこともままならなかった。

「そうだ。それでいい。このまま私に身を委ねるのだ。いずれこの抱擁が心地よくなってくるぞ。」

 エドガーに言われるがまま、エリは徐々に苦痛を忘れて脱力していく。彼女の体がだらりと下がり、球状を成していく力に包み込まれていく。

 そして力が光となってエリを完全に包み込む。光が治まると、エリは水晶の中に眠るように閉じ込められていた。

「また1人、美しき女が私の手中に堕ちた。また私の恍惚が積み重ねられた。」

 エリの入った水晶を手にして、エドガーが悠然さを浮かべる。周囲にいた黒ずくめの男たちも喜びを感じていた。

「私の中にある欲望が、執念が、狂気が、美女を得よと私の中を駆け巡っている。」

「それでエドガー様、次にご所望の女はおりますか?よければその女の拉致を優先させましょう。」

「そうだな・・ならば蒼の死霊が転化させた、あの娘を掌握するとしようか。」

 男の1人が言いかけると、エドガーが笑みを浮かべたまま答える。

「それではクロウ様にお任せしていただくことになりますね。」

「そうだな・・これもまた一興、というところか・・」

 男の言葉にエドガーが淡々と答える。サターンの魔手がハヤトだけでなく、ヤヨイにも本格的に伸びようとしていた。

 

 ハヤトからブラッドについて聞かされ、困惑を膨らませていくヤヨイ。これからどうすべきなのか、何をしたいのか、彼女は深く考え込んでいた。

 その傍らにはハヤトの姿があった。ハヤトはヤヨイのそばから離れる様子を見せず、彼女はなぜ彼が留まっているのか、疑問に感じていた。

「あなたは、どうしてずっと・・・?」

「あまりお前におかしなマネをされても困るからな。お前の答えを聞くまではここにいてやる。」

 ヤヨイが疑問を投げかけると、ハヤトは憮然とした態度で答える。

「ありがとう、私のために・・・」

「言ったはずだ。お前におかしなマネをされると困ると。勘違いするな。」

 感謝の言葉をかけるヤヨイに、ハヤトは憮然とした態度で答えた。

 そのとき、ハヤトは周辺に異様な気配を感じ取り、周囲に視線を巡らせる。その様子にヤヨイが戸惑いを見せる。

「どうしたの?」

「隠れているのは分かっているぞ。それで隠れたつもりでいるようだが、オレには筒抜けだ。姿を見せろ。でなければ先手を打たせてもらうぞ。」

 ヤヨイの声を無視して、ハヤトは視線を止めて言い放つ。すると彼の見つめる先の地面から黒い何かが盛り上がってくる。

「やはりあなたにはお見通しでしたか。さすが蒼の死霊と言うべきでしょうか。」

 地面に身を潜めていた男、クロウが悠然とした態度で声をかけて、ハヤトとヤヨイの前に姿を見せる。

「あなた、エリを連れて行った・・・エリはどうしたの!?

 ヤヨイがたまらずクロウに声をかける。するとクロウが視線をヤヨイに向ける。

「あなたの友人はエドガー様に献上いたしましたよ。エドガー様は大変お喜びになられていましたよ。」

「献上って・・あなたたち、エリに何をしたの!?

 淡々と答えるクロウに、ヤヨイがさらに問い詰める。

「エドガーの悪趣味のためだろう。相変わらずというか何というか。」

 そこへハヤトがあざ笑ってきた。その言葉にクロウが笑みを消して、ハヤトに鋭い視線を向ける。

「エドガー様を愚弄することは許しませんよ。たとえ蒼の死霊、あなたといえど。」

「気に障ったか?だがオレはそれでも構わないがな。元々オレは、エドガーを始末したいと思っているのだからな。」

 冷徹に言いかけるクロウだが、ハヤトは不敵な笑みを崩さない。ついにクロウが激昂し、眼を見開く。

「あまり軽口を叩かないほうが身のためですよ!長らえるはずの寿命を縮めることになりかねませんから!」

「そのセリフ、そっくりそのまま返してやろう。」

「いいでしょう!では私とあなたの格の違い、存分に堪能してご覧に入れましょう!」

 いきり立ったクロウが地面の中に身を潜めて姿を消した。だがハヤトにはクロウの気配がつかめていた。

 だが突然、ハヤトが笑みを消して視線を巡らせる。

(気配が消えた?・・そんな芸当までできるとは・・)

 ハヤトは胸中で毒づきながら、さらにクロウの行方を追う。だがハヤトは突然、気配の捜索を止める。

 ハヤトがその場に立ち尽くした直後だった。それを好機と見て、クロウがハヤトの足元に手を伸ばしてきた。

 だがその瞬間にハヤトが飛び上がり、クロウの奇襲を回避する。その反応にクロウが驚きを覚える。

「バカな!?私は姿だけでなく、気配までも完全に消していました!その私の攻撃をかわせるはずが・・!?

「どんな手に撃ってくるにするも、動きを見せれば必ず周囲も影響を及ぼす。お前が姿を現す瞬間にかすかだが空気の流れが乱れる。その揺らぎが、お前の攻撃の瞬間を教えてくれたのだ。」

 驚愕の声を上げるクロウに、ハヤトが不敵な笑みを浮かべて答える。追い込まれて歯がゆさを見せるクロウに、ハヤトはさらに言いかける。

「どうする?このままかくれんぼを続けるなら、オレはお前が出てくる瞬間を狙って、その息の根を止めてやるぞ。」

 眼つきを鋭くして警告を送るハヤト。だがクロウはそれに屈することなく、再び地面の中に身を隠した。

 気配さえも消したクロウの攻撃の瞬間を探るハヤト。彼は狙いやすいよう、周囲から見やすい草木の少ない場所へと移動してみせる。

 だがクロウの狙いはハヤトではなかった。

「キャアッ!」

 ヤヨイの悲鳴が上がり、ハヤトが振り返る。その先にはヤヨイを捕まえたクロウの姿があった。

「油断しましたね?この隠密の能力は、相手に奇襲を仕掛けるためだけではないのですよ。」

 勝機を見出したクロウが、ハヤトに向けて不敵な笑みを浮かべる。だがハヤトは顔色を変えない。

「これで動じないとはなかなかですね。ですがあなたが不利であることに変わりはありませんよ。」

「言いたいことはそれだけか?まさかそんな手がオレに通用すると思っていたのか?」

 人質という手がハヤトに通用しないことは、クロウには先刻承知のことだった。だがそれでも彼には勝機があった。

 ハヤトが何らかの行動に出た瞬間にヤヨイの体を引き裂いて血をまき散らす。そうなればハヤトに対する眼くらましにすることが可能。、クロウはそう考えていた。

「お前は、まだ答えが出せないのか?」

 そのとき、ハヤトに声をかけられてヤヨイが戸惑いを覚える。その問いかけが分からず、クロウが眉をひそめる。

「お前にもオレと同じ忌まわしき血が宿っているはずだ。その血でお前が自分にもたらすのは何だ?」

「私は・・・」

 ハヤトに言いかけられて、ヤヨイが困惑する。自分が今何をすべきなのか、彼女は次第にぼやけていたその答えを明確にさせつつあった。

「おしゃべりはそろそろ打ち切ってもらえませんか?選択を迫られているのは蒼の死霊、あなたなのですよ。」

 そこへクロウの声がかかる。その手に捕まっているヤヨイが、ついに決意をする。

「私も、答えが見つかった気がする・・・」

 ヤヨイが呟くように言いかけると、右手に力を込めるイメージを膨らませる。するとそのイメージが具現化したかのように、彼女の右手に紅い光が宿る。

「何っ!?・・まさか、ブラッドの力を開花させて・・・!?

 その光に驚愕するクロウ。ヤヨイの手に宿った光が、一条の刃となってクロウの体を貫いた。

「ぐはっ!」

 激痛を覚えたクロウが吐血し、ヤヨイから離れる。その直後、別の一条の刃が飛び込み、クロウの頭部に突き刺さった。

 刃を放ってきたのはハヤトだった。彼の放った紅い刃が、クロウにとどめを刺したのだった。

「お前も答えを見出したというのか・・・」

 ハヤトが冷淡に言いかけると、ヤヨイは微笑んで頷く。

「私は決めました。ここまで来たら、あなたについていきます・・・」

「そうか・・好きにしろ。お前が選んだ答えだ。だがオレは、お前のお守をするつもりはない。それだけは理解してもらうぞ。」

 ヤヨイの決意を聞いて、ハヤトが憮然とした態度で答える。するとヤヨイは再び頷いた。

「私は東条ヤヨイ。あなたは?」

「他人に名前を教えてやる義理はない。」

 自己紹介をするヤヨイだが、ハヤトは憮然とした態度を返すばかりだった。だがひとつ吐息をついてから、ハヤトは言いかけた。

「天城ハヤトだ・・・」

 

 

File.5

 

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