ブレイディア 第22話「蘇る剣」

 

 

 大貴と要のいる学園長室に、牧樹が姿を現した。

「しばらく見ない間に、ずい分と雰囲気が変わったね・・もっとも、あんなことがあったら、変わらないほうがおかしい・・」

「それじゃ何もかも知っていて、その上で黙って見ていたっていうの・・・?」

 悠然と声をかける大貴に、牧樹が目つきを鋭くする。だが大貴は顔色を変えない。

「全部見ているわけでも、何もかも知っているわけじゃない。僕としても予期していたわけじゃない・・」

「予期していたわけじゃないって・・傍観者なのに好き勝手に言っちゃって・・」

 大貴の言葉に不満を返してきたのは牧樹ではなかった。彼女の隣に現れた真二だった。

「まさかあなたが冥王だったとは・・正直驚きましたよ・・・」

「君たちが傍観者となってからずい分たつな・・だが僕と同じ陰陽師の一族の1人と、戦乙女、いつまでも高みの見物ができると思ったら大間違いだよ・・」

 要が声をかけ、真二が淡々と語りかける。

「それでも僕たちは戦に直接手を加えるようなことはしない・・ただ観客気分を味わいたいだけさ。今までも、これからも・・」

「それは叶わないよ。なぜなら教頭先生、あなたも立派なブレイディアだから・・」

 大貴の言葉に真二が冷淡に返事をしたときだった。牧樹が剣を手にして、要に飛びかかる。

 要も剣を手にして、牧樹の剣を受け止める。だが牧樹の剣の力に耐えられず、要が押される。

(重い・・これほどの力を秘めていたのですか、赤澤牧樹さんは・・!?

 牧樹の勢いに耐えられず、要が牧樹の剣を受け流して回避する。牧樹の背後を取り、要が即座に剣を突き出す。

 だが牧樹は振り向き様に剣を振りかざして、剣ごと要をなぎ払う。

「ぐっ!」

 壁に叩きつけられてうめく要。真二が大貴に向けて不敵な笑みを見せる。

「牧樹ちゃんはブレイディアをひどく憎んでいる。その矛先は、ブレイディアである教頭先生にも向けられているということさ・・」

「参ったね・・僕たちは自ら戦うつもりはないというのに・・・」

 真二の言葉に大貴が苦笑いを浮かべる。体の痛みを感じながら立ち上がる要に、牧樹が剣の切っ先を向ける。

 危機感を覚えた要が素早く動き出し、大貴を抱えて窓から外に飛び出した。毒づいた牧樹がその窓から外を見下ろすが、2人の姿は見えなくなっていた。

「深追いをしてもムダだよ。あの2人は隠れるのと、高みの見物が得意だから・・」

 真二が牧樹に向けて呼びかける。不満を浮かべながら、牧樹は剣を消した。

「他にも戦乙女は存在する・・先にそっちを攻めたほうが効率がいいかもしれない・・・」

「そうだね・・こうして動いていれば、いつか教頭先生も姿を見せることになるから・・・」

 真二の言葉に牧樹が頷く。2人は他のブレイディアを求めて、学園長室を後にするのだった。

 

 突如家から姿を消してしまった結花に、一矢と姫子は困惑を感じていた。

「結花がいなくなったって・・何で・・・!?

「分からない・・だが窓から外に飛び出したことは間違いない・・・」

 声を荒げる一矢に、姫子が深刻な面持ちを見せる。

「とにかく私は探しに行く。まだ近くにいるはずだ・・」

「先生・・・」

「紫藤くんはここにいてくれ。戻ってくるかもしれないから・・」

「いえ・・オレに結花を探させてください・・・!」

 一矢が切り出した言葉に、姫子が眉をひそめる。

「今でもオレに何ができるか分からない・・だけどこういうときだからこそ、オレはアイツを助けてやりたいんだ・・・!」

「一矢くん・・君はそこまで、青山くんのことを・・・」

 自分の気持ちを切実に告げる一矢に、姫子が当惑を覚える。生徒を信頼するのが教師としてあるべき姿だと思い、彼女は頷いた。

「分かった・・私はここで待機している。何かあればすぐに連絡するように。すぐに駆けつける・・」

「山吹先生・・・ありがとうございます・・・」

 姫子の優しさに感謝して、一矢が深々と頭を下げる。彼は笑顔を見せると、結花を追って家を出た。

(子供たちの問題は子供たちで解決する・・それが最善策ということなのだろうか・・・)

 一矢の背中を見て、姫子が感慨深げに頷く。

(ここは託してみよう・・次の世代に・・・)

 結花や一矢たち、子供たちに未来を託し、姫子は微笑んで頷いた。

 

 結花を追って必死に駆け回る一矢。思い当たる場所を巡っていくうち、彼は清和海岸に足を運んでいた。

「ハァ・・ハァ・・どこに行ってしまったんだ、結花・・・!?

 呼吸を整えながら、海岸の浜辺を見回していく一矢。そして彼は、浜辺の真ん中で海を見つめている結花を発見した。

「結花!」

 一矢が急いで結花に駆け寄っていく。彼に肩をつかまれるまで、彼女はその呼び声に気付かなかった。

「こんなところにいたか・・・探したんだぞ、結花・・・」

「お前・・・どうして私を・・・?」

 安堵の言葉を口にする一矢に、結花が弱々しく問いかける。

「いきなり家を飛び出したから、何があったのかと心配したんだぞ・・・」

「・・・もう私には何もない・・戦う力も、理由さえもない・・・生きることにも、もう意味はない・・・」

 結花が一矢に物悲しい笑みを浮かべる。彼女は絶望感を膨らませていた。

「このまま死んだとしても、誰も私を悲しむ人はいない・・私は、それだけの罪を重ねてきたのだから・・・」

「何を言ってるんだ!?お前が死んだら、お前を生き返らせて命を落とした直美ちゃんはどうなるんだ!?アイツの命と気持ちをムダにするつもりなのか!?

 自暴自棄になっている結花に、一矢がたまらず怒鳴りかける。

「お前がしっかりしないと、直美ちゃんが浮かばれない!オレだって!・・あっ・・・!」

 たまらず自分の気持ちを口にしてしまい、一矢が動揺する。

「い、いや、これは、その・・・!」

「私が死ねば、お前も悲しむとでもいうのか・・・?」

 慌てふためく一矢に、結花が問いかけてくる。何とか気持ちを落ち着けて、一矢が改めて言いかける。

「オレ、お前のそんな辛い姿、見てられないんだよ・・たとえお節介だとか余計なお世話だとか言われても、お前に元気になってほしいって思ってるんだ・・・」

「勝手だな・・私が言えた義理ではないが・・・」

 切実に想いをぶつける一矢に、結花が思わず苦笑を浮かべる。

「いつまたあの力が使えるようになるのか、もう力が使えないのか、オレにも分からない・・だけどそういうときぐらい、オレがお前の盾になってやる・・」

 一矢は言葉をかけると、結花を優しく抱きしめる。その抱擁に結花が戸惑いを覚える。

「こんな状態になっているときぐらい、お前を守らせてくれ・・・」

「そこまで、お前は私のことを・・・」

 振り絞るように言いかける一矢に、結花が困惑する。だが彼からの抱擁に、彼女は安らぎを感じていた。

「バカだ・・お前は本当にバカだ・・・私にもう、守る価値などないというのに・・・」

「そんなのはオレが決めることだ・・それにオレ、ホントにバカだから・・・」

 互いに苦笑いを浮かべる結花と一矢。2人は体を離すと、互いの顔を見つめあう。

「何にしても、まずは家に戻ろう・・先生が待ってる・・・」

「アイツ・・余計なことを・・・」

 一矢の呼びかけに結花が憮然とした態度を見せる。彼女は渋々家に戻ることにした。

「ここにいたか、青山結花・・」

 そこへ声がかかり、結花と一矢が振り返る。ブレイドを手にしたみどりが、2人を見据えていた。

「アンタ・・・!」

 みどりの登場に一矢が緊迫を覚える。結花に剣の切っ先を向けて、みどりが呼びかける。

「もはや私には猶予はない。青山結花、お前との勝負の決着を付けさせてもらう・・」

 みどりが告げた言葉を聞いて、一矢がたまらず結花を守ろうとする。

「待て!今の結花は力が使えないんだ!自分でもあの剣を出すことができないんだ!」

「何?」

 一矢の言葉にみどりが眉をひそめる。

「力がどうなったのか、全然分かっていないんだ・・だから、今の結花に戦うことなんて・・!」

「いや、ブレイディアは死んでいなければ力を失うことはない・・現に彼女はこうして生きている・・」

 一矢の呼びかけをさえぎって、みどりが言葉を切り出す。

「その様子・・おそらく何らかの恐怖で力を拒絶しているのだろう・・だから戦う意思を呼び起こせば、力も戻るはず・・」

「ちょっと待て・・アンタ、結花に何をするつもりなんだよ・・・!?

 みどりが口にした言葉に、一矢が声を荒げる。

「青山結花を追い込む・・そうすることで、力は触発されて蘇らせることができる・・」

「やめろ!そんなことされて、結花が死んでしまうじゃないか!」

「言っただろう・・私には猶予がない、と・・この機会を逃せば、青山結花と戦う機会は失われることになる・・・!」

 鋭く言いかけるみどりに、一矢が息を呑む。

「青山結花、赤澤牧樹はプルートにいる。それもプルートを束ねる冥王の片腕として・・」

「牧樹が!?・・プルートにいる・・・!?

 みどりが告げた言葉に、塞ぎこんでいた結花が驚愕する。

「どういうことだ!?・・なぜ牧樹がプルートに・・・!?

「詳しいことは分からない・・ただ、彼女は全てのブレイディアを排除しようとしていることは確かだ・・」

 結花の問いかけにみどりが答える。その言葉を聞いて、結花が愕然となる。

「私のせいなのか・・私が悲劇を与えたから、アイツはブレイディアを恨むようになってしまったのか・・・」

「いつ彼女の剣が私の喉元を裂くか分からない・・その前に、青山結花、お前との決着を果たす・・・!」

 さらなる絶望に駆り立てられる結花に、みどりが鋭く言いかける。

「ふざけるな!戦えない結花と戦って、アンタは満足なのかよ!?

「そのために彼女を追い込む・・こういうのは私の主義ではないが、青山結花、私はお前と戦うためなら手段を選ばん!」

 一矢の抗議を一蹴して、みどりが結花に飛びかかる。

「結花!」

 一矢が結花を抱えて、みどりが突き出した剣を回避する。倒れ込んだ2人を、みどりが目つきを鋭くして見下ろす。

「戦え!強い者との真剣勝負こそが、私の望むもの!」

 鋭く言い放つみどりがさらに剣を振りかざす。彼女の一閃が砂地を削って砂を舞い上げる。

「うわっ!」

 跳ね上げられた結花と一矢が引き離されて砂地に倒れる。戦う力が出ないことに困惑し、結花は翻弄される一方だった。

「くそっ!・・早くここから逃げないと・・それで山吹先生に・・・!」

 毒づく一矢が姫子への連絡を取ろうと携帯電話を取り出す。

「もしもし、先生!すぐに清和海岸に・・!」

 つながったところで呼びかける一矢だが、みどりが飛びかかって剣を振りかざす。その弾みで彼の手にしていた携帯電話が切り裂かれる。

 体勢を崩された一矢が、みどりにつかみかかられる。彼女の腕に首を絞められて、一矢がうめく。

「お前に恨みはないが、青山結花との戦いのために利用させてもらう・・・」

 みどりが一矢に向けて低く告げる。起き上がった結花にも、みどりに捕まった一矢の姿が飛び込んできた。

 

 結花の家にて待っていた姫子だが、一矢からかかってきた電話が突然途切れたことに不安を覚えた。

(紫藤くん、青山くん、どうしたというのだ・・何者かに襲われていると考えるのが妥当か・・・!)

 家を飛び出して清和海岸に向かう姫子が思考を巡らせる。

(何とか逃げ延びてくれ、2人とも・・せめて私が駆けつけるまで・・・!)

 結花と一矢を助けようと、姫子は全速力で走り抜けていた。

 

 プルート本部を抜け出したみどりの動向は、真二たちは既にキャッチしていた。

「やはり独自の行動を取ったか・・だが戦いに赴く点は賞賛に値するよ・・」

 モニターに映されているみどりの姿を、真二が悠然と見つめる。

「最強の戦乙女を選び出すことが、我々の務め・・その力を掌握することで、我々は絶対的な支配力を得る・・・」

 目つきを鋭くする真二が、これまでの戦を思い返す。

「もう思い通りにならない結末にはさせない・・今度こそ、全てを私の手に・・・!」

 憤りを覚える真二が、右手を強く握り締める。常軌を逸した支配欲が、彼を突き動かしていた。

 そんな重い空気の監視室に、牧樹がやってきた。

「何をしているの、真二くん・・・?」

「萩野みどりの動向を伺っている。君のよく知る人物も近くにいるみたいだ・・」

 牧樹の問いかけに真二が淡々と答える。映し出されているモニターを目にして、牧樹は驚愕する。

 自ら手にかけた結花の姿があり、牧樹は目を疑っていた。

「結花!?・・なぜ、そこに・・・!?

「正直僕も驚いたよ。確かに君は結花さんの剣を折ったはずだよね?」

「その通り・・私が剣を追って、結花は消えた・・それなのに、どうしてあそこに!?

「情報では、直美ちゃんが自分の命と引き換えに生き返らせたそうだ・・だが現時点で、結花ちゃんはブレイドが出せないでいるみたいだ・・」

 愕然となる牧樹に真二が語りかける。結花が生きていたことに、牧樹は金縛りにあったかのようにその場から動けないでいた。

 

 みどりに人質にされた一矢を目の当たりにして、結花が緊迫する。

「やめろ!お前の狙いは私のはずだ!一矢は関係ない!」

「この男を手にかけるつもりはない。おまえが力を取り戻して私と戦うならば、すぐにでも解放しよう・・」

 呼びかける結花にみどりが忠告を送る。捕まえている一矢に、みどりが剣を突きつける。

「私と戦え!でなければこの男の命はないぞ!」

 みどりが結花に力を出させようと脅しをかける。だがどうすれば再び力を使えるようになるのか分からず、結花は困惑するばかりだった。

「結花、もういい!オレに構わずお前は逃げろ!」

 そこへ一矢が結花に呼びかけてきた。

「力がなくなったのは多分、お前に普通の生活に戻れっていうことじゃないかって・・だからもうお前は戦わなくていいんだよ!」

「黙れ!青山結花を戦わせないために、お前は死んでもいいとでもいうのか!?

 結花に呼びかける一矢に、みどりが怒鳴りかける。

「今のアイツを助けてやれるのは、オレぐらいなもんだからな・・」

「そこまで覚悟を決めているということなのか・・・」

 笑みをこぼす一矢に、みどりが深刻さを浮かべる。だが結花との勝負を望む彼女の決意は変わらない。

「青山結花、お前はそこまで堕ちてしまったというのか!?戦うことを恐れ、力のない男に身代わりにしようとしている己を恥だとは思わないのか!?

 みどりが結花に向けて怒鳴りかける。その言葉を耳にして、結花は一矢に対して戸惑いを覚える。

(そうだ・・戦いの日々を繰り返してきた私が、いつまでもこんな不様をさらし続けてどうする・・・!?

 自分に言いかける結花から、徐々に迷いが消えていく。

(あんなバカにそこまで心配されるとは・・・アイツを助けてやれるのは、それ以上のバカである私しかいないだろう・・・)

 自分に対して苦笑いを浮かべる結花。彼女の心にあるのは、一矢を守りたいという一途な想いだけ。

 そのとき結花の手から光があふれてきた。光は彼女が使っていた剣へと形を変えていく。

「剣が・・・!」

 これまで具現化させることができなかった自身の剣の具現化に、結花が目を見開く。彼女のブレイドが復活を果たしたのだった。

 

 

次回

第23話「想い、ひとひら・・・」

 

一矢「やっぱり、美女に捕まえられるのって、複雑な気分・・」

みどり「私、そこまで魅力的に見えるか?」

結花「お前、私が迷っている間にそんなことを考えていたのか!?

一矢「だってああやって抱きしめられると・・・

   あぁ、いつまでもあんなこと・・・」

結花「やっぱり、とっとと死んどけ!」

 

 

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