ブレイディア 第16話「復讐者の剣」

 

 

 ついに家族の仇の正体を知った結花。だが彼女の前にみどりが立ちはだかる。

 敵として攻撃を仕掛ける結花だが、冷静沈着に対応するみどりに歯が立たずにいた。

「真剣に私と戦え。お前は別のものへの憎悪に駆り立てられて、動きが直線的になっている・・」

「別のものへの憎悪に駆り立てられているだと!?当然だ!私が倒すべき相手はお前ではない!」

 淡々と言いかけるみどりに、結花が鋭く言い返す。彼女の態度にみどりが呆れてため息をつく。

「久しぶりの楽しい勝負になるかと思われたが、拍子抜けだ・・・」

 飛び掛ってくる結花に対し、みどりが突然ブレイドを消す。懐に飛び込んできた結花に、みどりが膝蹴りを叩き込む。

「うっ!」

 痛烈な一撃を体に入れられ、結花が衝撃にさいなまれてその場に倒れ込む。

「お、おいっ!」

 みどりに受け止められる結花に、一矢が駆け寄っていく。だがみどりに鋭い視線を向けられて、一矢が思わず足を止める。

「心配するな。気絶させただけだ・・お前には、青山結花を任せたい・・」

「えっ・・・!?

 みどりが口にした言葉に驚く一矢。みどりは一矢に向けて結花を突きつける。

「頭を冷やしてやることだな。今、激しい憎悪で頭がいっぱいになっている・・」

「何のつもりだ・・アンタと結花は敵同士だろうが・・・!」

 言いかけてくるみどりに、一矢が警戒の眼差しを向ける。

「私は青山結花と戦いたいだけだ。それも真剣勝負を申し込みたい・・他の事など一切関係ない・・」

「本気なのか・・ホントに真剣勝負だけなのか・・・!?

 真剣な面持ちのまま語りかけるみどりに、一矢は疑問を膨らませる。みどりはそれに答えることなく、きびすを返して歩き出す。

「1日だけ待つ。その後に決着を付けると伝えておけ・・」

 一矢にそう言い残すと、みどりは立ち去っていった。彼女の後ろ姿を、一矢は唖然と見つめたまま動けなかった。

 

 今まで隠してきたブレイディアの力を発揮した要。彼女のブレイドは強力で、姫子は敵わずに敗れ去ってしまう。

 だがブレイドを折られることはなく、姫子は要の力に押されて結花に這いつくばるに留まっていた。

「まさか私が、手も足も出ずに一方的に負けることになるとは・・・」

 姫子がうつ伏せに倒れたまま、うめき声を上げる。彼女を見下ろしたまま、自分のブレイドを消す。

「敵ならば容赦なく倒し、とどめを刺すのが軍人や戦士の道理なのでしょうが・・私は戦いから退いた身ですので・・・」

 姫子にとどめを刺そうとせず、戦意を治めていく要。そこへ悠然とした態度を保っていた大貴が声をかけてきた。

「そういうこと。僕たちはあなたの質問に答える気はないけど、情け容赦なくやっつけるつもりもない。このままブレイディアの戦いを続けていってほしい。それだけだよ・・」

「・・分からない・・あなた方の考えていることが・・・」

 つかみどころのない大貴の振る舞いに、姫子は動揺を感じていた。

「兄さんの考えていることは、妹である私も分からなくなることがありますから・・」

「ひどい言い方するなぁ、要は・・」

 淡々と言いかける要に、大貴が苦笑いを浮かべる。

「とにかく、今はこれまでどおり、みなさんの支えになってあげてください・・みなさんの本当の障害は、これから起こりそうですから・・・」

 要が姫子に向けて呼びかけてくる。その言葉に疑問を抱いたが、姫子は要に追及することができなかった。

 

 みどりに気絶させられた結花は、式部海岸の浜辺で目を覚ました。彼女のそばには一矢の姿もあった。

「やっと気がついたか・・・」

「お前・・・アイツはどうした・・・?」

 声をかけてきた一矢に、結花が周囲を見回して言いかける。

「あの人ならいなくなったよ・・次に戦うときまでに、頭を冷やしとけってさ・・・」

「アイツが・・・私をおちょくっているのか・・・!?

 一矢がみどりからの伝言を伝えると、結花が苛立ちを浮かべる。

「オレも、さっきのお前、何かおかしかったと思うぞ・・もしかして、仇が見つかって・・・」

「・・そうだ・・私は、家族を殺したアイツを叩き潰さなければならない・・他の事にかまけている場合ではない・・・!」

「だから待てって!その仇って誰なんだよ・・・?」

 一矢が疑問を投げかけると、結花は歯がゆさを浮かべたまま押し黙ってしまう。しばしの沈黙を置いてから、結花は持ってきた資料を一矢に見せる。

 その資料に載っている写真を見て、一矢は目を疑った。

「おい・・マジ、かよ・・・!?

「アイツが言っていた・・ヤツが、私の家族を・・・!」

 体を震わせる一矢に、結花が深刻さを込めて言いかける。

「ウソだろ!?・・・あの人が・・そんな!?

 信じることができず声を荒げる一矢。

「何にしろ、ヤツは私の最大の敵だ・・すぐにでも始末しなければ気が治まらない・・」

 立ち上がった結花が学園のある方向に振り返る。驚愕に駆り立てられるあまり、一矢は彼女を止めることができずにいた。

 

 その1時間前、寮に戻ってきた牧樹に向けて、丁度携帯電話が鳴り出した。相手は祐二だった。

「もしもし、祐二さん・・どうしたのですか、突然・・?」

“もしもし?ゴメンね、牧樹さん・・いきなり電話をかけてきてしまって・・時間、大丈夫かな・・?”

「はい・・帰る途中なのですが、大丈夫です・・・」

 祐二の言葉に牧樹が微笑んで答える。

“明日の放課後、清和海岸に一緒に行ってもらえないかな・・?”

「は、はい・・明日は空いていますけど・・なぜ清和海岸に・・?」

“その近くに僕の別荘があるんだ・・もし君がいいなら、2人きりで過ごせたらと思って・・・”

 祐二のこの誘いに、牧樹は動揺を覚える。互いの距離が一気に縮まると、彼女は直感していた。

“まずかったよね・・いきなりこんな話をされても・・・”

「い、いいえ、大丈夫です!行かせていただきます!」

 牧樹が祐二の誘いを受けることにした。動揺が膨らむあまり、彼女は電話越しの話であることを忘れて声を張り上げていた。

“ありがとう、牧樹さん・・放課後、正門で待っているから・・本当にありがとう・・・”

「私の方こそありがとうございます、祐二さん・・・それでは明日・・・」

 祐二に感謝の言葉をかけると、牧樹は電話を切った。その後、牧樹は歓喜して自分の携帯電話を抱きしめていた。

(明日・・祐二さんと2人きり・・・2人きり・・・)

 喜びと同時に戸惑いも感じる牧樹。気持ちが落ち着かないまま、彼女は再び帰路を進んでいくのだった。

 

 そしてその一夜が明け、放課後が訪れた。ホームルームを終えて校舎を出てきた牧樹を、正門で待っていた祐二が手を振ってきた。

「すみません・・遅れてしまいました・・・!」

「いや、大丈夫だよ・・僕も今来たばかりだから・・・」

 息を絶え絶えにして謝る牧樹に、祐二が弁解を入れる。しかし彼は10分ほど正門で待っていた。

「それに誘ったのは僕のほうだから・・ゴメンね、ムリに引っ張り出すようなことをして・・・」

「いえ、そんな・・祐二さんのお誘いなんですから、とても断るなんて・・・」

 謝罪の言葉を投げかける祐二に、今度は牧樹が弁解する。気持ちを追いつかせたところで、2人は微笑みかける。

「行こうか、牧樹さん・・・」

「はい・・・」

 祐二がかけた言葉に、牧樹が頷く。2人は清和海岸の近くにある祐二の別荘へと向かう。

「牧樹さん、僕、ようやく心が決まったよ・・君のために全身全霊を賭けるって・・・」

 その最中に祐二が切り出した言葉。それを聞いた牧樹が、戸惑いのあまりに足を止める。

「ゆ、祐二さん・・・そんな大げさな・・・」

「牧樹さん、僕は本気だよ・・本気で君を守っていきたいと決心したんだ・・・」

 作り笑いを見せる牧樹だが、祐二は真剣な面持ちのまま言いかける。その姿を見て、牧樹は困惑を見せる。

「確かに僕には、君たちのような剣も力も持っていない・・足手まといになってしまうかもしれない・・・それでも僕は、君を守りたい・・君を好きでいたいんだ・・・」

「祐二さん・・・」

「わがままだよね・・こんな一方的な気持ち・・・」

 徐々に気まずさを浮かべてくる祐二。だが気持ちを落ち着けた牧樹が微笑んで、首を振る。

「わがままだなんてそんな・・・嬉しいです・・そう言ってもらえて・・・」

「牧樹さん・・・」

「でも私、守られてばかりではありません・・たとえブレイディアでなくても、自分の力で頑張ろうとする気持ちに変わりはありません・・・でも祐二さんの支えは、私にとってこれほど心強いことはありません・・・」

 逆に戸惑いを覚える祐二に、牧樹も自分の心境を打ち明けた。そして牧樹は祐二に抱きついた。

「もしも私が、誰かに、何かに甘えてしまいそうになったときは、あなたに甘えさせてください・・祐二さん・・・」

「牧樹さん・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・」

 牧樹の想いを受け止めて、祐二は感謝の言葉をかける。牧樹の目からあふれていた。

 そのとき、牧樹は自分に向けられている殺気を感じて、緊迫を覚える。

「祐二さん!」

「えっ・・!?

 声を上げる牧樹に、祐二が当惑を見せる。直後、彼女はブレイドを手にして、飛び込んできた刃を受け止める。

 牧樹に飛びかかってきたのはエリカだった。エリカは牧樹に鋭い視線を向けてきていた。

「き、金城さん!?

「ひどい・・祐二様の・・祐二様の心を奪うなんて・・・」

 声を荒げる牧樹に、エリカが悲痛の面持ちを見せてきた。だがすぐにその表情が狂気に満ちたものへと変わる。

「許さない・・お前だけは、絶対に許さない!」

 怒号を上げるエリカが剣を振りかざして牧樹を突き飛ばす。横転する牧樹を見据えてから、エリカが祐二に視線を移す。

「祐二様・・他の人に惑わされないで・・私だけを見てください・・・」

 エリカが祐二に悩ましい面持ちを見せる。

「私なら、あなたを絶対に幸せにできます・・・だから私を選んでください・・・」

「・・・金城さん、君には悪いけど、僕は君を選ぶことはできない・・・」

 深刻な面持ちを浮かべる祐二の返答に、エリカは耳を疑う。

「君は自分の気持ちのためだけに、牧樹さんを傷つけた・・他人を平然と傷つける人を、僕は受け入れることはできない・・・」

「どうして・・・どうして私の気持ちを受け入れてくれないのです・・・!?

 自分の気持ちを伝える祐二に、エリカが愕然となって体を震わせる。

「自分を抑えて、あなたに受け入れるに足りる女を振舞ってきたのに・・本当なら、受け入れて当然なのに・・・!」

 祐二に対するエリカの愛情。それが今、彼に対する敵意へと形を変えた。

「もう我慢しない・・力ずくでも、あなたをものにする!」

 狂気に満ちた表情を再びあらわにするエリカ。彼女の敵意を突きつけられて、祐二が緊迫を覚える。

 そこへ牧樹が飛び込み、エリカを横から突き飛ばす。彼女の手にはブレイドが握られていた。

「祐二さん、大丈夫ですか!?

「牧樹さん・・僕は大丈夫・・・」

 牧樹の心配の声に、祐二が戸惑いを浮かべながら答える。横転したエリカが立ち上がり、牧樹を鋭く睨む。

「アンタ・・次から次へと私の邪魔を・・・ズタズタにされないと分んないようね!」

 憎悪をあらわにしたエリカが、牧樹に向けて剣を突き出してくる。牧樹は剣で突きを受け止めながら、エリカから離れていく。

「逃げましょう、祐二さん!」

 牧樹の呼びかけに祐二が頷く。2人は迫り来るエリカを警戒しながら、必死に逃げ出していく。

 祐二に想いが伝わらないことを思い知らされ、エリカは激昂する。その怒りのあまり、彼女は見境をなくしていた。

「私たちが見えていない!?・・何にしても、今のうちに・・・!」

 牧樹が祐二を連れて、エリカの前から離れていった。

 

 エリカの襲撃から辛くも逃れることができた牧樹と祐二。2人は清和海岸近くの山道に入り、身を潜めていた。

 木陰に隠れながら、牧樹は結花への連絡を試みた。しかし電波が届かないのか電源が入っていないのか、結花の携帯電話につながらない。

「こんなときにつながらないなんて・・・直美ちゃんに連絡を・・・!」

 牧樹は気持ちを切り替えて、直美への連絡を試みる。その連絡が直美の携帯電話につながった。

「もしもし、直美ちゃん!」

“牧樹さん・・どうしたのですか・・・!?”

 声を張り上げる牧樹に、直美も彼女が切羽詰った状況に陥っていることを悟る。

「今、金城さんに追われてるの!祐二さんも一緒で、清和海岸の近くの山にいるんだけど・・!」

“金城さんが・・・でも、私には戦えるだけの力は・・・”

 事情を説明する牧樹に、直美が沈痛さを言葉を返す。

「直美ちゃんには祐二さんを守ってほしいの・・戦うのは私がやるから・・・」

“牧樹さん・・・大丈夫なんですか?・・牧樹さんが危険になるのでは・・・?”

「今も危険と隣りあわせだよ・・できることなら、すぐにでも結花と連絡を取りたいけど・・」

 直美との連絡を続けていたときだった。突如一条の刃が伸びてきて、牧樹が持っていた携帯電話を切り裂いた。

「逃がさない・・赤澤牧樹、アンタはズタズタに切り刻まないと気が済まない!」

 追いかけてきたエリカが、牧樹に鋭く言い放つ。

「祐二さん、逃げてください!」

「牧樹さん!」

 飛び出していく牧樹に、祐二が声を上げる。牧樹は剣を手にして、エリカを迎え撃った。

「私もすぐに追いつきますから!祐二さんに何かあったら、私は・・!」

「これ以上祐二様に近づくな!このうじ虫が!」

 祐二に呼びかける牧樹に、エリカが怒号をぶつける。2人は互いのブレイドをぶつけ合い、一進一退の攻防を繰り広げる。

「牧樹さん・・・ゴメン!」

 牧樹への罪の意識を感じながら、祐二は全速力でこの場から走り出した。

 

 家族の仇を追い求めて、結花は式部学園を訪れていた。だがその敵は学園内におらず、結花はある証言を頼りにして学園を飛び出した。

 清和海岸に通じる公道の途中で、結花は唐突にバイクを止めた。そこで彼女は自分の携帯電話を取り出した。

 電話には牧樹からの着信が入っていた。

「牧樹・・・なぜ今になってアイツのことを気にするのだ・・・?」

 湧き上がる疑問に眉をひそめる結花。だが彼女はすぐに激情に意識を委ねて、携帯電話をしまいこむ。

「今はヤツを追うことに専念しろ・・その瞬間のために、私は今まで生きてきたんだ・・・!」

 結花は声を振り絞ると、再びバイクを走らせる。やがて清和海岸の沿岸に差し掛かる。

 その近くの別荘と思しき家に向かうひとつの影を目にする結花。彼女はそれを見据えて加速し、ついに前に回り込んだ。

「これ以上は行かせない・・・とうとう見つけたぞ・・・!」

 結花が目つきを鋭くして言い放つ。彼女は一切の躊躇を捨てて、出現させたブレイドの切っ先を向ける。

「まさかお前だったとは、今でも正直驚きだぞ・・・鷺山祐二・・・!」

 低い声音で言いかける結花。その先にいたのは祐二だった。

「既に調べがついている・・お前が私の家族を殺した・・幼い頃から暗殺の技法と統率と身につけていたお前は、子供であることを利点にして、私の家族を殺したんだ・・・!」

 怒りを込めて言い放つ結花。すると祐二が突然不敵な笑みを見せてきた。

「とうとうここまで行き着いたか・・久しぶりと言っておくよ、青山結花・・・」

 淡々と声をかけてくる祐二を、結花が鋭く見据える。祐二はプルートの一員であり、結花の家族を手にかけた仇だった。

 

 

次回

第17話「絶望の予感」

 

結花「まさかお前がプルートだったとは・・

   すました顔して嫌な男だな・・」

祐二「なかなかの名演技だろう?

   男優賞を取ってもおかしくないと思うんだけど・・」

結花「お前、やっぱり何を考えているのか分らん・・・」

 

 

小説

 

TOP

inserted by FC2 system