ブレイディア 第15話「願い、儚く・・・」
祐二たちがブレイディアについて知ってから数日がたった。牧樹はそのことに対して困惑を拭いきれずにいた。
その気持ちのまま登校していく牧樹は、その途中、祐二と出会った。
「おはよう、牧樹さん・・この前は本当にありがとう・・」
「お、おはようございます、祐二さん・・この前はどうも・・・」
笑顔で挨拶をしてくる祐二に、牧樹が空元気を見せる。
「そんなに落ち込まないで、牧樹さん・・あのような力を見せられても、僕は別におかしいとは思っていないから・・・」
「祐二さん・・・ですが・・・」
「たとえブレイディアであってもそうでなくても、牧樹さんであることは変わらない・・僕はそう思う・・」
困惑していたところで祐二に励まされて、牧樹が微笑みかける。
「私が私であることは変わらない・・そうですよね・・私は私ですよね・・・」
「これからも遠慮しないで僕に相談してきて・・僕も力になりたいから・・」
「祐二さん・・・何から何まで、本当にありがとうございます・・・」
今までと変わらずに優しく接してくる祐二に、牧樹は安らぎを感じていた。彼女は抱えていた怖さを和らげることができた。
「私、頑張っていきます・・勉強も生活も、精一杯楽しんでいきます・・」
「その意気だよ・・それでこそ牧樹さんだ・・アハハ・・」
意気込みを見せる牧樹に、祐二が笑顔で頷く。
(そう・・これからもどんなことにも一生懸命にやっていく・・そして落ち着いてきたら、祐二さんに・・・)
決心とともに祐二への想いを募らせていく牧樹。元気を取り戻した彼女に、祐二も喜びを感じていた。
プルートの行方を追って、結花はこの日も調査を続けていた。みどりといちごの捜索を含めて紛争する結花だが、それ以上の手がかりはつかめずにいた。
途方に暮れる形で学園に来た結花は、その廊下で一矢と対面する。
「また、プルートってヤツらを追ってたのか・・?」
一矢が言葉を切り出し、結花が目つきを鋭くする。
「なぁ・・何であそこまでプルートを追いかけるんだ?・・アイツらに何かされたのか・・?」
一矢が深刻な面持ちを見せて訊ねる。だが結花に睨みつけられて、一矢が気まずさを覚える。
「お前には話していなかったな・・私はプルートに、全てを奪われた・・家族も殺され、全てを踏みにじられた・・・」
「家族を殺されたって・・そんなことが、お前に・・・」
結花が切り出した言葉に、一矢が緊迫を覚える。
「私がブレイディアとして覚醒したのはその直後だった・・おそらく、プルートへの怒りが、私をブレイディアにしたのだろうな・・・皮肉なものだ・・ヤツらが長年掌握してきた力を、復讐の武器にしているのだからな・・・」
「それで今まで、プルートを追ってきて、この清和島にまで来たってことか・・・」
「ブレイディアが次々とこの清和島に集められている・・プルートの監視下に置くために・・・秘密保持、ブレイディアの掌握、様々な都合が込められている・・・」
結花の口から語られる話を聞いて、一矢が困惑しながらも頷きかける。
「プルートの企みにいいことなどありはしない・・必ず根絶やしにしてやる・・少なくとも、私の家族を殺したプルートの人間だけは・・・!」
「だったらオレにも何か手伝わせてくれよ・・」
憎悪を募らせる結花に、一矢が呼びかけてくる。その言葉に結花が眉をひそめる。
「お前に何ができる?ただの人間のお前に、私の援護が務まるとでも思っているのか?」
「確かにお前たちに比べたら全然弱いかもしれない・・けどオレは、お前を放っておけないんだよ!」
一矢が呼びかけてくる言葉に、結花が一瞬戸惑いを見せる。しかし彼女はすぐに憮然とした態度を見せる。
「余計なことを・・・この前に度胸のこともあるからな・・いいだろう・・だが死にそうになっても助けてやらないからな・・・」
結花は一矢に言いかけると、そそくさに歩き出す。
「調査は明日からだ。それまで覚悟を決めておくことだな・・」
結花に声をかけられて、一矢は笑みをこぼした。
その翌日。結花は一矢が待っていた式部学園の裏門の前にやってきた。
「後ろに乗れ。今日は式部海岸に赴くぞ。」
「そこにプルートに関わる何かがあるっていうのか?」
呼びかける結花に、一矢が疑問を投げかける。
「今は断定はできない。だが必ず尻尾をつかんでみせる・・」
結花の答えを聞くと、一矢は彼女の乗るバイクの後ろに乗る。
「振り落とされないように腰にしがみつけ。」
「わ、分かった・・」
結花の言うとおりにして、一矢が手を回す。だがその手は彼女の胸に触れていた。
「お、おい、お前!どこ触っている!?」
「ふ、不可抗力だ!お前がしがみつけって言うから!」
「コイツ・・本気で叩き落とすぞ!」
弁解する一矢に赤面する結花が怒鳴りかける。ドタバタした雰囲気の中、結花は一矢を乗せてバイクを走らせる。
しばらく走行して、2人は式部海岸の近くにたどり着いた。結花はそこでバイクを止めて、海辺のほうを見据える。
「おい、海岸まではまだあるぞ・・」
「プルートが警戒している可能性がある・・騒音を立てれば確実に気付かれる・・」
声を上げる一矢に、結花は淡々と答える
「行くぞ。くれぐれも騒がしくするな・・」
「だ、だから待てって・・置いてかないでくれって・・!」
とんとんと歩き出す結花に、一矢が慌しく追いかけていく。2人は浜辺から離れた岩場に足を踏み入れる。
「危なっかしい場所だな・・岩も硬いし・・・」
「以前に調査をしようとしたときは、牧樹たちとハデスに邪魔をされたからな・・今度こそ徹底的に調べ上げてやる・・・」
不安を口にする一矢と、周囲に注意を払う結花。彼女の視線は、暗闇の広がる洞窟に向けられていた。
「あの奥に何かあるな・・」
「そうだな・・いかにも胡散臭いって感じだ・・・」
結花と一矢が洞窟を見据えて呟きかける。
「行くぞ。ここに手がかりがあるかもしれない・・」
「だからオレを置いてくなって・・!」
そそくさに歩いていく結花と、追いかけていく一矢。洞窟だったのは入り口から少し進んだところまでで、それ以降は整備された人工的な様相となっていた。
「うわぁ・・これじゃヒーローと戦う悪の組織の基地だぞ・・・」
一矢が周囲の風景に異様さを感じて、気まずくなる。
「こんなのが、オレたちの知らないところでおかしなことやからしてるなんて・・・」
「世の中はそんなものだ・・この世界は、お前たちの知らない大きな力によって動かされている・・暗躍、暗殺、記憶置換、全てが隠ぺいされながら行われている・・・」
冷や汗を流す一矢に、結花は淡々と語りかける。
「こんなこと、ニュースじゃ全然・・・」
「隠ぺいしているといっただろう・・もしプルートに殺されても、その事実は表から完全に隠される、あるいは別の事件に摩り替えられる・・プルートなどまるで着手していないかのように・・」
結花の言葉を聞いて、一矢が愕然となる。裏社会の強大さを痛感して、彼はどうしたらいいのか分からず困惑していた。
「軽口は控えろ。些細な音でも敏感に反応するぞ・・」
結花の呼びかけに一矢が無言で頷く。2人はさらに廊下を進んでいく。
(妙だ・・監視の視線が感じられない・・ここまで来れば、気付かれずに敵の監視を感じ取れるはずなのだが・・)
その中で結花は不審を感じていた。
(もぬけの殻か・・それとも私をおびき寄せる罠か・・)
結花はさらに警戒心を強めていく。一矢は周りを警戒することばかり気にかけており、余裕がない。
やがて2人は小さな部屋に行きついた。資料室として使われていたようだが、資料の一部が無造作に置かれており、使われなくなっていた。
「ここで何らかの研究が行われていたようだ・・だがどうやら破棄されたようだ・・」
結花が周囲を見回し、資料の紙の1枚を手にして言いかける。
「研究って・・何を研究してたっていうんだ・・・!?」
「さぁな。プルートはいろんなことに精通しているからな。まぁ、まず挙げられるのが、ブレイディアに関することだな・・」
不安を口にする一矢に、結花が淡々と語りかける。
「プルートは昔からブレイディア、戦乙女のお目付け役として暗躍してきた。ブレイディアにまつわるあらゆる事態を想定できるよう、研究と情報収集も兼ねて行ってきた。これまで長く戦いが行われているんだ。想定外のことのひとつやふたつ、出てくるものだ・・その異常事態を極力抑えることも、プルートの仕事だったんだ・・」
「そんなことのために、一家皆殺しまでやってのけるのかよ・・・」
「どんなことも不条理にできているんだよ・・あんな腐った連中が世界を影で操っている・・だが、それで割り切れるほど、私はお人よしでも臆病でもない・・・」
歯がゆさを浮かべる一矢に、結花も憤りの言葉を口にする。だが彼女はすぐに気持ちを落ち着けて、周囲を見回す。
「いずれにしろあまり長居はできない・・早く調べて脱出するぞ・・」
「調べるったって・・何を手につけりゃいいのやら・・」
呼びかけてくる結花に、一矢が滅入って頭を抱える。結花は隣の部屋に入り、調査の手を伸ばす。
その中で彼女はある資料を目にする。手にしたその紙には、顔写真を載せた名簿が綴られていた。
「これは・・もしかして、プルートの・・・!?」
目を見開いた結花が、その名簿に目を通していく。しかしそこに記載されている情報が、真実なのか表向きの虚偽のものなのかは疑わしかった。
その中には風音、みどり、いちごのものも記載されていた。
「確かにここにプルートはいた・・しかしどういうことなんだ・・このような重要機密を置き去りにするとは・・・」
手がかりをつかめた喜びと同時に、結花は疑念を抱いていた。それは簡単に事が運んでの拍子抜けともいえた。
「罠としか思えない・・しかしどういう罠なのか・・全く予測がつかない・・・」
押し寄せる疑問にさいなまれて、苦悩する結花。しかしどんなに思考を巡らせても、疑問の答えを見出すことができなかった。
「考えるのは後だ・・こうしている間にも、プルートの陰謀は広がっているのだから・・・」
結花は気持ちを落ち着けると、部屋から出ようとした。
「やはりここに来ていたか、青山結花・・」
そのとき、結花は眼前に現れた人物に目を見開く。彼女の前に現れたのはみどりだった。
みどりは一矢を捕まえて、結花を見据えていた。
「お前!?・・・人質を取るとは姑息なマネを・・!」
「勘違いするな。抵抗される前に動きを止めただけだ・・」
鋭く言いかける結花に言葉を返すと、捕まえていた一矢を結花に向けて突き飛ばす。
「イタタタ・・すまねぇ、醜態さらしちまった・・」
「さっさとどけ!足手まといは引っ込んでろ!」
うめく一矢を横に突き飛ばす結花。彼女はブレイドを手にして、みどりを見据える。
「それにしてもこの部屋と資料・・お前たちの仕組んだ罠だったか・・・!」
「これは私の一存ではない。私としては、お前との勝負を所望したかった・・だがこれは、プルートの統治者が打ち立てた策略だ。」
「プルートの策略!?・・どういうことだ・・・!?」
「単刀直入に言おう。ここがプルートの研究室のひとつであるのは確かだ。だがそこに散りばめられている資料のほとんどがダミーだ。」
「やはりダミーか・・このような重要機密、簡単に外部にもらすはずがないか・・」
「だがお前が手にしているその名簿だけは本物だ。お前は家族の敵討ちを考えているようだからな・・」
「何だと!?ではこの中に、私の仇がいるのか・・・!?」
結花が声を荒げると、みどりが彼女に近づいてくる。しかし彼女はブレイドを発していなかった。
みどりは結花から資料を取り上げ、ある人物の顔写真を指し示す。
「この者が、お前の家族を手にかけた者だ・・」
その人物に結花は目を疑った。その瞬間、彼女は驚きのあまりに動揺の色を隠せなくなっていた。
そのとき、部屋に振動が湧き起こる。突然の地震に結花が眉をひそめ、一矢が困惑を見せる。
「じ、地震・・!?」
「統治者の策略か・・一応は重要機密だからな。それを知ったお前たちを葬ろうという演出なのだろう・・」
一矢が声を荒げ、みどりが淡々と言いかける。
「すぐに脱出しろ。このような形でお前を失うのは惜しい・・」
みどりは呼びかけると、きびすを返して走り出す。ここでようやく彼女はブレイドを出現させた。
「行くぞ!こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
「だからオレを置いてくなってんだ!」
続いて駆け出す結花と一矢。落下してくる天井の破片を、結花はブレイドを振り上げて粉砕する。
間一髪のところで、結花と一矢は洞窟から脱出した。その先の岩場には、ブレイドを手にしたみどりが待ち構えていた。
「出てきたか・・ここならば存分に戦うことができる・・」
「悪いがお前の相手をしている暇はない・・私には、どうしても果たさなければならないことがある・・・」
不敵な笑みを見せるみどりだが、結花は目つきを鋭くして言いかける。
「残念だがそれは聞けない・・私はお前との勝負を楽しみにしているのだから・・」
「お前の考えなど知ったことではない・・私には今、何をしてでも倒さなければならないヤツがいるのだ・・・!」
「・・・強引というのは私の性分ではないが・・やむを得ないようだな・・・」
冷徹に言葉を返す結花に、みどりが飛びかかって剣を振りかざす。結花も剣を掲げて、みどりの一閃を受け止める。
「お前も聞き分けがいいように見えて、かなり頑固なようだな・・」
「人のことはいえないな、お前も・・」
結花は言葉を交わすと、みどりの剣を払いのける。2人は距離を取り、互いの出方を伺う。
(足手まとい・・これじゃ面目丸つぶれじゃないか・・・)
2人の戦いを見て、一矢は無力感を痛感していた。
ブレイディアの戦い。その調査を結花とは別で行っていた姫子。
彼女はその重要参考人と睨んで、ある人物との接触を図ろうとしていた。
式部学園学園長室。そこを訪れた姫子を要が迎えた。
「どうしたのですか、山吹先生?あまりここを訪れないあなたが・・」
「はい。大切なお話がありまして・・あなたと、学園長に・・」
訊ねてくる要に、姫子が落ち着いた様子で話しかける。一瞬考え込むも、要は姫子を招き入れることにした。
大貴の部屋を訪れ、姫子が彼に目を向ける。
「こんにちは、山吹先生。あなたがここに来るのは珍しいですね・・」
大貴が悠然とした態度で姫子に声をかける。しかし姫子は顔色を変えない。
「単刀直入にいいましょう・・学園長、教頭先生、あなたたちはプルートの人間ですね・・」
姫子が切り出した話に、大貴と要が眉をひそめる。
「正確にはプルートの人間だった、というのが正しいですね・・あなたたちは我々ブレイディアの戦いを、監視し続けた・・戦いの異常事態に対する対処を兼ねて・・」
姫子が突きつけてきた話題に対し、大貴が笑みをこぼす。
「誰かにかぎつけられると思っていなかったわけじゃないが、ここまで鋭く言われるとも思ってなかったよ・・」
「兄さん!?」
大貴が口にした言葉に要が声を荒げる。
「いいんだよ・・彼女はある程度のことは調べ尽くしている・・さすがは元軍人。その洞察力と情報力は伊達じゃないね・・」
「話の腰を折るな。お前たちは何者だ?我々に何をさせようとしている・・?」
悠然と振舞う大貴に、姫子が鋭く言いかける。
「確かに私は元軍人だ。戦場での悲惨な光景を幾度となく見てきた。この悲劇を繰り返さないため、命の大切さと自分の未来を切り開く知恵と勇気を身に付けさせるため、私は教師の道を選び、この学園に来た・・この剣の力も、生徒を守るために使っている・・もしもあなた方の行おうとしていることが、誰かの命や人生を脅かすものならば、私はあなた方に刃を向けなければならない・・」
「山吹先生の優しさと心構え、感服いたします。ですがたとえ生徒のためであっても、私たちはあなたの問いに答えるわけにはいきません・・」
決意を告げる姫子に口を挟んできたのは要だった。
「どうしても答えを知りたければ、私たちを倒すことです・・・!」
言い放つ要の手から光の剣が出現する。彼女もブレイディアの1人だった。
答えを求める姫子の前に、要が完全と立ちはだかった。
次回
結花「まさかお前もブレイディアだったとはな・・」
要「敵を欺くには味方からといいますから・・」
結花「なぜ今まで隠していたのだ?」
要「私が出てきてしまったら、主役の座を奪ってしまいますから・・
そうなっては結花さんが可愛そうですから・・・」
結花「やはり食えないヤツだ、お前は・・・!」