ブレイディア 第14話「大地をかける剣士」

 

 

 ついに祐二に自分の力を発現した牧樹。迷いを振り切った彼女が飛びかかり、いちごに向けて剣を振りかざす。

「あたしを追い払う?あなたもずい分というようになったじゃないの・・」

 目を見開くいちごが牧樹の剣を打ち払う。一瞬押される牧樹だが、怯まずにさらに攻め立てる。

(やっぱり大きな剣だけあって、力がある・・あたしのブレイドじゃ防ぎきれなくなる・・・!)

 胸中で毒づくいちごが、後退して牧樹との距離を取る。彼女はブレイドをブーメランのように投げつけるが、牧樹の剣に弾き返される。

 剣を受け取ったいちごが再び剣を投げつける。しかし剣は牧樹の横に外れていく。

 剣は牧樹の後ろにいる祐二を狙っていた。

「いけない!祐二さん!」

 牧樹がとっさに自分の剣を投げつけて、再びいちごの剣を弾く。だが再び剣を受け取ったいちごが牧樹に迫る。

「自分のブレイドを手放すなんてね!」

 いきり立ったいちごが牧樹に剣を振りかざす。だが牧樹の右手から光が発し、剣へと形を変える。

「えっ!?

 目を疑ういちごの前で、剣が牧樹に受け止められる。牧樹は1度剣を消して、再び右手から出したのである。

「そんな方法で、あたしの攻撃を受け止めるなんて!」

「私を倒すために、祐二さんにまで手を出すなんて・・・!」

 毒づくいちごに牧樹が怒りを見せる。

「許せない・・あなたを許すわけにはいかない!」

 牧樹は剣に力を込めて、いちごを跳ね除ける。その力に押されて、いちごが背後の大木の幹に叩きつけられる。

「つ・・強い・・・剣の見た目以上に、全然・・・」

 痛みにうめくいちごだが、立ち上がれずに大木にもたれたまま座り込む。彼女の眼前に、牧樹が剣の切っ先を向ける。

「もうこれ以上、私と祐二さんの前に現れないで・・もしもこれ以上危害を加えようとするなら、もう我慢しない・・・!」

 いちごにむけて忠告を送る牧樹。痛みに耐えられなくなったのか、いちごの手からブレイドが消失する。

「牧樹さん!」

「兄さん!」

 そこへ直美と真二が駆けつけてきた。祐二の前でブレイドを出している牧樹を見て、直美が困惑を覚える。

「牧樹さん・・祐二さんの前でブレイドを・・・!?

 たまらず声を上げる直美。真二も牧樹が手にしている光の剣を目にして、動揺を浮かべていた。

「直美ちゃん・・真二さんも・・・」

 直美たちの登場に牧樹が戸惑いを覚える。

 そのとき、いちごがとっさにブレイドを出して、牧樹に向けて突き出してきた。牧樹がとっさに剣で受け止めようとするが、防ぎきれずにいちごの剣が彼女の頬をかすめる。

「油断しちゃダメだって・・首を落とされても文句は言えないよ・・!」

 笑みをこぼすいちごが、牧樹に向けてさらに剣を振りかざす。体勢を崩された牧樹が、いちごの一閃に押されてしりもちをつく。

「牧樹さん!」

 直美もブレイドを出して牧樹を助けようとする。だがいちごが剣を投げつけてその援護を阻む。

「せっかくのチャンスだもん・・これを逃す手なんてないよ・・」

 笑みをこぼすいちごに、直美が息を呑む。祐二も真二も迂闊に手が出なくなり、動けずにいる。

「どこまで卑怯なの、あなた・・そこまでして、私たちを倒したいの!?

「そこまでして?そんなこと、あたしの知ったことじゃないわよ。勝負にルールなんてない。勝てばそれでいいんだから・・」

 憤りを見せる牧樹だが、いちごはあざ笑うばかりだった。

「形勢逆転ね。これですぐに終わらせてあげるわね・・!」

 いちごが未だに立ち上がれずにいる牧樹に向けて、剣を振り下ろす。だがそこへ一条の刃が飛び込み、いちごが怯む。

 牧樹のブレイドではない。その一閃は漆黒に彩られていた。

「あのブレイドは・・!」

 たまらず牧樹が声を荒げる。後退したいちごの前に立ったのはエリカだった。

「き、金城さん・・・!?

 エリカの登場に祐二がまたも驚きの声を上げる。するとエリカが祐二に向けて沈痛の面持ちを見せてくる。

「申し訳ありません、祐二さん・・このような姿を見せてしまって・・」

 エリカの言葉に対して、祐二は未だに困惑していた。いちごに視線を戻すと、エリカの顔から笑みが消える。

「あなたはとてもいけないことをした・・どんなに謝っても許されないことを・・・」

 エリカが低い声音で言いかけると、いちごに向かって飛びかかる。とっさにブレイドを構えるいちごだが、エリカの突進に突き飛ばされていく。

「祐二様を傷つけた報い・・受けてもらうわよ!」

 牧樹たちの姿が見えなくなったところで、エリカがいちごに言い放つ。彼女からは憎悪と狂気があふれ出ていた。

「偉そうなこと言ってきてるけど、結局は僻んでるんじゃない・・それで大口叩いてきても惨めなだけよ・・」

「アンタ・・そんなに私に真っ二つにされたいみたいね・・・」

 あざ笑ってくるいちごに対し、エリカがいきり立つ。飛びかかる彼女の放つ一閃を、いちごが剣を掲げて受け止める。

「私はあそこのあまちゃんとは違う・・正々堂々と相手してくれるなんて思わないことね!」

「見てたの、あたしたちを?それであなたが有利になるわけじゃないんだけどね・・」

 言いかけるエリカに、いちごが余裕を見せる。2人が振りかざす剣がぶつかり合い、激しく火花を散らしていく。

 猛攻を見せつけるエリカに、いちごが徐々に追い詰められていく。

(コイツも見た目以上に力があるじゃないの・・けどあたしは負けるつもりないのよ!)

 いちごが負けじと反撃に転じ、ブレイドをエリカに向けて投げつける。

「そんな使い方をしたら、ブレイドを折られちゃうわよ・・」

「あたしの剣はやわじゃないの。見くびって叩き折ろうとしたら、逆に斬られちゃうよ・・」

 互いに妖しい笑みを見せるエリカといちご。だがエリカはいちごに対して優位を保っていた。

「そんな程度で私に勝てると思うことこそが、馬鹿げてる・・・」

 落胆の言葉を口にするエリカ。肩を落とす彼女に対し、いちごは焦りを感じていた。

「そろそろ本気出して、お前の体をバラバラにしてやるわよ・・・!」

 いきり立ったエリカが、さらにいちごに攻め立てようとした。

 そのとき、飛び込んできた一閃にエリカが行く手を阻まれる。この刃はいちごのブレイドではない。

 飛び込んできたのは亜美だった。亜美はエリカに向けて自分のブレイドを振りかざしてきていた。

「やっと見つけた・・あなたは麻美も仇・・絶対に倒す!」

「邪魔を入れてくるなんて・・鬱陶しいわね・・・!」

 鋭く言いかける亜美に、エリカが苛立ちを見せる。亜美は麻美を手にかけたエリカに、強い憎悪を向けていた。

 さらに自分のブレイドを振りかざす亜美。その攻撃に、エリカは反撃で切り抜けようとする。

「これは見物ね!どっちか生き残ったほうをあたしが始末してあげるから!」

 2人の戦いを見て、いちごが哄笑を上げる。その声を耳にしてエリカが毒づき、迫ってくる亜美を突き飛ばす。

「何だか気が乗らなくなったわ・・お前の相手は後でやってあげるから・・」

 エリカは言いかけると、きびすを返して亜美の前から去っていった。

「待て!逃げるな!私と勝負しろ!」

 怒号を上げる亜美がエリカを追いかけていく。いなくなった2人に、いちごが肩を落とす。

「もう、つまんなくしちゃって・・・」

 呆れてため息をつくと、いちごもこの場から姿を消した。

 

 手にしたブレイドに強い輝きが宿ったことに、結花は驚きをあらわにしていた。

「すごい光・・おそらく剣の力も強くなっているはず・・・」

 みどりは結花の剣を警戒する。結花に先に攻め込まれる前に、彼女は攻撃を仕掛ける。

 だがみどりが振り下ろした剣は、結花の剣に軽々と受け止められてしまう。

「くっ!」

 予想していた通り剣の強度も上がっていたことに、みどりが毒づく。

「どういうことか分からないが、この強さに乗じない手はない・・・!」

 思い立った結花がみどりを攻め立てる。立て続けに繰り出される突きに、みどりが押されていく。

(鋭く重い突きだ・・このまま防御に徹すれば、私のブレイドが折れる危険がある・・・!)

 危機感を覚えたみどりが、結花が突き出した剣を回避すると、跳躍して距離を取る。

「青山結花・・まさかこれほどの力の持ち主とは・・不本意ながら撤退させてもらう・・・」

 みどりは結花に言いかけると、地面を剣で切りつける。砂煙を巻き上げて視界をさえぎると、みどりは姿を消した。

「ちっ!逃げたか・・・」

 舌打ちする結花がブレイドを消す。気持ちを落ち着けてから、彼女は一矢に振り返る。

「何とか切り抜けた、というところなのだろうな・・」

「もう・・何が何だか、ワケ分かんない・・・」

 整理がつかなくなり、一矢は頭が上がらなくなっていた。

「ここまで知られてしまったのなら、私たちの知る限りのことを話す。まずはここから出て、牧樹と直美と合流する・・」

「おいおい、お前の他にそんな力を持ってるのがいるのか・・・!?

 結花の呼びかけに一矢が驚きの声を上げる。

「とにかく行くぞ・・他にプルートのブレイディアがいないとも限らない・・」

「わ、分かった!分かったから置いてかないで!」

 そそくさに歩き出していく結花を、一矢が慌てて追いかけていく。携帯電話を取り出して連絡を取ろうとしたところで、結花は駆け込んできた牧樹たちを発見する。

「牧樹、直美、無事だったのか・・」

「結花・・・ゴメン・・祐二さんたちに、私たちのことを知られちゃった・・・」

 声をかける結花に、牧樹が頭を下げて謝る。それを聞いて緊迫を覚えた結花が、祐二と真二に目を向ける。

「まったく、お前というヤツは・・といいたいところだが、私も人のことが言えない・・・」

「それってどういう・・・もしかして、結花も・・・!?

「アイツにも知られた・・成り行きでな・・・お前たちと合流して、打ち明けようと思っていたところだ・・・」

 驚きの声を上げる牧樹に、結花が呆れながら一矢に目を向ける。一矢は未だに状況が飲み込めず困惑していた。

「この際だ。ここにいる全員に打ち明けることにしよう・・ただし危険と隣り合わせになりたくなければ、すぐにここから消え失せろ・・」

 結花が呼びかけるが、牧樹も直美も、祐二、真二、一矢もこの場から立ち去ろうとはしなかった。

「いいだろう・・そこまでの覚悟なら、話をしよう・・・」

 結花が気持ちを落ち着けて、祐二たちに話を切り出した。

 

 結花たちから撤退し、遊園地の外に出ていたみどり。そこへ牧樹を仕留め損なったいちごがやってきた。

「ちゃんと倒したの、青山結花を?」

「いや、思っていた以上の力を発揮してきたのでな。1度引いてきた・・」

 いちごが声をかけると、みどりは淡々と答える。それを聞いていちごが笑みをこぼす。

「なーんだー・・何だかんだ言っておいて情けないじゃないのー・・」

「そういうお前も、赤澤牧樹を仕留め損なったではないか・・」

「うるさいわよ・・邪魔が入らなければ、今回でやっつけることができたのよ・・」

 みどりに切り返されて、いちごが不満を口にする。

「藤原亜美、金城エリカ・・2人の動きにも注意したほうがよさそうだ・・」

「関係ないわ。今度は誰が割り込んできても、そいつと一緒に叩き潰してやるんだから・・」

 みどりが言いかけると、いちごが突っ張った態度を見せる。

「ひとまず撤退だ・・改めて、青山結花に勝負を挑む・・」

 みどりは呟きかけると、きびすを返して歩き出す。いちごも不満げなまま、みどりに続いていくのだった。

 

 結花から切り出した話を聞いて、祐二は何とか納得した様子を見せていた。しかし一矢も真二も飲み込めず、困り顔を浮かべていた。

「まさか牧樹さんたちが、そんな危険なことを・・・」

「ゴメンなさい・・隠していたことは謝ります・・ですがこれは、祐二さんを危険に巻き込みたくなくて・・・」

 呟きかける祐二に、牧樹が沈痛の面持ちを浮かべる。すると祐二が微笑んで、牧樹の肩に手を添える。

「牧樹さんは悪くないよ・・むしろ僕たちのことを思って、あえて明かさなかったんだよね・・?」

「祐二さん・・・」

 祐二の言葉に牧樹が戸惑いを覚える。

「謝らなければならないのは僕のほうだ・・君がこんなに辛い思いをしているのに、何も知らずに・・・」

「そんな・・祐二さんこそ何も悪くありません・・・」

 自分を責める祐二に、牧樹が弁解を入れる。互いに戸惑いを見せて、言葉を出すのもままならなくなっていた。

「いつまでバカップルをやっているつもりだ?」

 そこへ結花が口を挟み、牧樹と祐二が我に返る。

「とにかく私と牧樹と直美、あとあの金城エリカはブレイディアだ。そして私は、プルートを倒すために戦っている・・・お前たちは、これ以上プルートやブレイディアに関わらないほうがいい・・」

「残念だけどそうはいかない・・君たちが危険と隣り合わせになっているというのに、僕が黙って見ているわけにはいかない・・」

 忠告を送る結花だが、祐二は牧樹を支える決意をしていた。

「牧樹さんやみんなを悲しむ姿を、僕は見たくないから・・」

「祐二さん・・・その気持ちだけでも、私は嬉しいです・・・」

 祐二の優しさを感じて、牧樹が喜びの笑みを見せる。

「もういい・・勝手にしろ、お前たち・・・」

 呆れ果てた結花がこの場を立ち去ろうとする。

「おい、結花!」

 そこへ一矢が呼びかけ、結花が足を止める。

「これからもそのプルートってヤツと戦うのか・・死ぬかもしれないんだぞ・・・!」

「そんなことは覚悟の上だ。プルートを滅ぼせるなら、私はこの命など惜しくはない・・お前たちのように、自分の死を悲しむヤツもいないからな・・・」

 声を振り絞る一矢だが、結花の意思は変わらない。彼女は改めてこの場を立ち去った。

「結花・・・」

 彼女の後ろ姿を見つめて、一矢は困惑を膨らませていた。

 

 遊園地での一件は、大貴と要の耳にも入っていた。

「いよいよ戦が本格的になってきたようだ・・どんな争いになるのか・・・」

「楽しみ、というような様子ですが・・私としては快く思いませんね・・」

 喜びを浮かべる大貴に、要は呆れていた。

「それはこの戦いのことかい?それとも、僕たちの運命というヤツかな・・?」

「どちらもです・・長年に渡って繰り広げられてきた戦乙女の戦い・・しかし月日が流れるに連れて、何の見返りのないものになってきています・・」

「全ては戦乙女を監視する人たちの段取りの中・・今はプルートと呼ばれているんだったね、彼らは・・」

 要の言葉を聞いて、大貴が再び笑みをこぼす。

「そして私たち・・私たちは常に、この戦乙女の運命と隣り合わせにあるのです・・命や魂さえも、この連鎖から逃れることなく・・・」

「それも仕方のないことだよ・・僕たちは、傍観者なのだから・・・」

 続けて言いかける要の言葉に、大貴は淡々と答える。彼らはブレイディアの戦いの激化を予測していた。

 

 

次回

第15話「願い、儚く・・・」

 

真二「いいなぁ、かっこいいなぁ、ブレイディアって・・」

祐二「憧れているのかい、牧樹さんたちに?」

真二「当然!

   あの剣で相手を思いっきり突き刺す!

   そんでもって主役の座をオレのものにする!」

祐二「真二・・・」

 

 

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