ブレイディア 第13話「負けられない・・・」
突如結花の前に立ちはだかったプルートのブレイディア、みどり。彼女の登場に結花が戦慄を覚える。
(プルートが直接、私の前に現れただと!?・・何かの罠なのか・・・!?)
突然の事態に警戒心を強めていく結花。
「おお〜・・美しい女性・・・」
みどりに魅入られて、にやけ顔を浮かべる一矢。緊張感をぶち壊す彼に、結花が裏拳を叩き込んで黙らせる。
「話があるなら場所を変えるぞ。そのほうがお前も好都合だろう?」
「好きにしろ。言っておくが、これは私個人の行動だ・・」
結花の呼びかけにみどりが答える。のびている一矢を背にして、2人は園内から離れた林の中に赴いた。
「話があるなら早くしろ。私には行くところがあるのだから・・」
「それは赤澤牧樹のことか?それならば同胞が相手をしている・・」
「だからアイツは私に電話をしてきたのか・・」
みどりの答えを聞いて、結花は淡々と呟きかける。
「アイツは私と違って卑怯な性格よ。目的のためなら手段を選ばない・・」
「牧樹を追う追跡者のことか・・牧樹はあれでもブレイディアだ。簡単に負けることはないだろう・・」
「信頼しているようだな、赤澤牧樹を・・」
「単に認めているだけだ。アイツの力と決意を・・」
不敵な笑みを見せるみどりに、結花は淡々と言いかける。
「それでお前はどうする?もう用がないなら私は行くぞ・・」
「そうはいかない。お前は私の相手をしてもらうぞ・・」
結花が立ち去ろうとしたとき、みどりがブレイドを出現させた。結花のブレイドに似た、突きに特化した形状の剣である。
「プルートは私の倒すべき敵・・そのブレイディアであるお前を、私は生きて帰すつもりはない・・・!」
結花は鋭く言いかけると、自分のブレイドを手にする。2人の持つ光の剣の刀身が交差する。
「言っておくが、生半可な力では弾き返されるぞ・・」
「関係ない・・プルートは1人残らず私が倒す!」
目つきを鋭くして言いかけるみどりに、結花が鋭く言葉を返す。彼女が突き出してくる剣を、みどりが軽くかわしていく。
「なかなかの腕のようだ。伊達に獅子堂風音を倒していないようだ・・だがこれでは攻撃を読まれるぞ・・」
みどりは言いかけると、結花に向けて反撃に転ずる。逆に結花が押されて後ずさりする。
(この女、できる・・攻撃と防御に隙がない・・・!)
みどりの力を痛感して、結花は緊張感を強めていくのだった。
いちごの襲撃を受けて崖下の海に落ちてしまった牧樹と祐二。だが2人は生きていた。
祐二が牧樹を連れて海から這い出てきた。牧樹は意識を失っており、祐二に抱きかかえられていた。
「牧樹さん!しっかりするんだ、牧樹さん!」
祐二が牧樹に呼びかける。すると牧樹が意識を取り戻し、ゆっくりと目を開ける。
「祐二さん・・・私は・・・?」
「牧樹さん・・よかった・・気がついたんだね・・・」
困惑を見せる牧樹に、祐二が安堵の笑みをこぼす。
「僕たち、海に落ちたみたいだ・・でも何とかここまで来れた・・・」
「あの子、近くにいるんですか?・・また襲ってくるんじゃ・・・!?」
「分からない・・僕の見えるところにはいないみたいだ・・・」
不安を浮かべる牧樹に、祐二は周囲を見回しながら答える。2人の周辺にいちごのいる様子はない。
「でも近くにいるかもしれない・・移動したほうがいい・・」
「はい・・でも祐二さん、ケガとかしていませんですか・・・?」
「うん、僕は平気・・それよりも、牧樹さんに何かあったときのほうが、僕にとっては辛いことだけど・・・」
心配の声をかける牧樹に、祐二が微笑みかける。その言葉に牧樹は戸惑いを覚える。
「まずは結花と真二さんたちと合流しましょう・・まだ園内にいるはずです・・」
牧樹は祐二に言いかけると、連絡を取ろうと携帯電話を取り出した。携帯電話は壊れていなかったが、電波が圏外になっていた。
「ダメです・・電話がつながりません・・・」
「そうか・・・とにかく急ごう・・これ以上危ないことにならないうちに・・・」
沈痛の面持ちを見せる牧樹に、祐二が呼びかける。2人は結花たちに合流すべく、慎重に移動していくのだった。
みどりとの一進一退の攻防を続ける結花。互いにとって一瞬の油断でも命取りになる勝負になっていた。
「実に戦い慣れている、私以上に・・この調子では埒が明かないな・・」
この状況に毒づく結花。みどりは常に冷静沈着を保っており、隙を見せることがない。
「私を本気にさせたことは評価しておこう・・だがこれで、お前は無事では済まなくなる・・・」
「私は常に戦いに身を置いている。無事で済むなどとはわずかも思っていない・・」
本気を見せる結花と、これを迎え撃つみどり。
だが2人のいる林に、目を覚ました一矢がやってきていた。
「あれは、結花とさっきの綺麗な人・・2人が持ってる光の剣は・・・!?」
結花とみどりが手にしている剣に、一矢が目を疑う。
「何なんだ、あれは!?・・特撮に出てくるような・・合成、ってわけじゃ・・・!?」
どういうことなのか分からず、一矢が困惑する。彼が疑問を膨らませるのをよそに、結花とみどりは見合ったまま、動き出そうとしない。
「おい、結花!これはどういうことなんだ!?」
そこへ一矢が声を張り上げる。その声を聞いて結花が目を見開いて振り向く。
「お前、なぜここにいる!?」
「だって、2人ともいなかったから探したんだ・・」
怒鳴りかける結花に、一矢が言い訳を口にする。さらなる危機を感じて、結花がみどりに視線を戻す。
(あのバカ・・アイツのせいで状況がさらに悪くなったぞ・・・!)
どうすべきか思考を巡らせる結花。みどりを倒すことも牧樹を助けることもすべきことだが、一矢をこのまま放置することもできない。
「プルート、勝負は預けるぞ!」
結花はみどりに言い放つと、困惑している一矢をつかんでこの場から離れる。
「イデデデ!何なんだよ、いったい!?」
「うるさい!お前のせいでややこしくなった!その首を切り落とされないだけでもありがたく思え!」
無理矢理引っ張られて痛がる一矢に、結花がさらに怒鳴る。1度ブレイドを消した彼女は、一矢とともにミラーハウスに入り込んだ。
「ここでひとまず急場を凌ぐしかない・・・」
「なぁ・・マジで何なんだ!?・・お前が持ってた光の剣は・・・!?」
呟きかける結花に、一矢が疑問を投げかける。
「切羽詰った状況だから、詳しい話は後だ。単刀直入にいうと、あの女は私の敵で、牧樹も危険にさらされている・・おそらく直美も・・」
「敵!?あの綺麗な人が敵って・・!?」
「だから詳しい話は後だ・・今はヤツをどうするかだ・・!」
声を荒げる一矢に、結花が強く言いかける。
「アイツは私が相手にしてきたどの敵よりも強い・・その上この状況下だ。真っ向から攻めても敗北は必死だ・・」
「じゃどうするんだよ・・何か手はあるのか・・?」
「心配するな。ここをどこだと思っている?」
不安を浮かべる一矢に、結花が不敵な笑みを見せる。
「追いかけてきたようだ・・」
結花が呟いた直後、足音の反響が彼女と一矢の耳に入ってきた。みどりが2人を追って、ミラーハウスにやってきた。
ブレイドを手にしているみどりの姿が、周囲の鏡に次々と映し出される。
「これで私をかく乱させるつもりか・・」
みどりは呟きかけると、手にしている剣を振りかざす。その衝撃で周囲の鏡が割れていく。
「私に小細工は通用しない。鏡の反射に紛れようとも、気配でお前の居場所は筒抜けだ・・」
みどりが顔色を変えずに呼びかける。その言葉に結花が毒づく。
「お前は先にここから出ていろ・・私がここでヤツと戦う・・」
「バカいうなって!男のオレが、お前みたいな女を置いて、逃げられるわけないっての!」
呼びかける結花だが、一矢は聞き入れようとしない。
「私も甘く見られたものだな・・お前より私のほうが力があることは、火を見るより明らかなことだろう・・」
「それはそうだけどさ・・後味が悪くなるじゃないか・・・」
「フン・・そこまで言い切るのなら、命を賭ける覚悟はできているのだろうな?そうでないなら、大人しく言うことを聞くんだな・・」
結花に忠告されて口ごもる一矢。だがすぐに真剣な面持ちになって頷きかける。
「ここまで来たならやってやるさ・・こんなオレでも、お前の盾になるぐらいできる・・・!」
「そこまで言い切るとは・・その度胸は大したものだと言っておこうか・・」
言い放つ一矢に、結花が不敵な笑みを見せる。そのとき、2人の前にみどりが姿を現した。
「ここにいたか・・小細工を破られたときに、即座に外に出ていると思っていたのだが・・」
「この手段が破られた今、場所がどこかなど関係がなくなる・・ならばここでお前を迎え撃っても大差はない・・」
言いかけるみどりに、結花は淡々と言いかける。続けて結花は自分のブレイドを出現させる。
暗闇に包まれていたミラーハウス内の道、2人のブレイドの輝きが照らしていた。
「こちらには余裕も暇もない。早く決着を付けるぞ・・・!」
「いいだろう・・私も長丁場は好まないからな・・」
構えを取る結花とみどり。互いの動きを伺う重苦しい静寂が再び訪れる。
固唾を呑んでこの戦況を見守る一矢。彼の顔から汗が落ちて地面にぶつかった瞬間だった。
2つの刃がぶつかり、煌いた。次の瞬間、結花が吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「あ、おいっ!」
たまらず声を荒げる一矢。うめく結花の前にみどりが立ちはだかる。
「諦めろ・・大人しくプルートから手を引くなら、あの男共々手を出すことはない・・」
みどりは言いかけると、剣の切っ先を結花の顔に向ける。すると結花は笑みを浮かべてきた。
「正々堂々としたいい気構えだ・・といいたいところだが、それは聞き入れられないな・・」
結花の言葉にみどりが眉をひそめる。
「プルートへの復讐だけが私の全てだ。お前の言葉を受け入れれば、私は死んだも同然ということになる・・」
「・・そうか・・・抵抗できない相手を手にかけるのは、私の主義ではないが、これも仕方がないことか・・」
自分の意思を口にする結花に向けて、みどりが剣を振り上げてとどめを刺そうとする。
「やめろ!」
そこへ一矢が飛び込んできた。不意を突かれたみどりが、彼に飛びつかれて突き飛ばされる。
「戦いに水を差すのならば、誰であろうと容赦はしないぞ・・・!」
「結花がやられるのを黙って見てるよりは気分が悪くならないよ!」
鋭く言いかけるみどりだが、一矢は彼女から離れようとしない。
「お前も覚悟はできているようだな・・ならば私も躊躇を捨てる!」
目つきを鋭くしたみどりが、組み付いている一矢を突き飛ばす。倒れた彼に対して、みどりが剣を振り上げる。
だが振り下ろされた彼女の剣が、飛び込んできた結花の剣が受け止める。
「ゆ、結花・・お前・・・」
「勘違いするな・・お前を守りたいなどとは思ってはいない・・ただ・・」
困惑を見せる一矢に、結花が言いかける。彼女が剣を振りかざし、みどりを引き離す。
「このままお前を死なせては、後味が悪くなるからな!」
結花が言い放った瞬間、彼女の手にしているブレイドの光が強まったそのまぶしさに一矢が目をくらまされ、みどりも一瞬目を背ける。
「何だ、この光は!?・・ブレイドから力が放出されている・・・!」
この事態に声を荒げるみどり。結花自身もこのブレイドの輝きに驚きを感じていた。
「どういうことなんだ、これは・・・!?」
光を強めていくブレイドに、結花は動揺の色を隠せなくなっていた。
結花たちと合流すべく移動を続ける牧樹と祐二。その途中、牧樹は直美に連絡を取っていた。
“分かりました・・私がすぐにそちらに行きますから・・”
「ありがとう、直美ちゃん・・」
直美の言葉に牧樹が安堵を浮かべる。
“兄さんは無事なの!?今、どこにいるの!?”
そこへ真二が声をかけてきた。突然の彼の声に牧樹が驚きを覚える。
「目の前に観覧車が見える・・私も祐二さんも無事だよ・・」
“ホント!?・・よかったぁ・・・”
牧樹の耳に真二の安堵の声が届いてくる。
「こんなところにいたんだぁ・・やっぱり生きてた・・」
そこへ声がかかり、牧樹と祐二が緊迫を覚える。2人が振り返った先には、無邪気な笑みを見せるいちごの姿があった。
「あのまま海の藻屑になってたらつまんないと思ってたんだよね・・でももっともっと楽しめそう・・」
「もう少しでみんなと合流できるところだったのに・・・!」
微笑みかけるいちごと、焦りを募らせる牧樹。
「それじゃ、今度こそ力を見せてちょうだいね・・もう逃げたりしないでよね・・・」
いちごは言いかけると、自分のブレイドを出して切っ先を牧樹に向ける。
「牧樹さん、君は先に真二と直美さんのところに行って・・」
「えっ・・・!?」
そこへ祐二が呼びかけ、牧樹が驚きの声を上げる。
「どういうことなのか分からないけど、牧樹さんを傷つけさせるわけにいかない・・牧樹さんが傷つくくらいなら、僕が体を張って・・・!」
「祐二さん・・・」
決意を口にする祐二に、牧樹が戸惑いを覚える。だが彼女には、ブレイディアであるいちごに対してどうにもならないことも分かっていた。
「勇ましいね・・まるでお姫様を守る白馬の王子様みたいね・・」
祐二の姿を見て、いちごが妖しく微笑みかける。だが彼女の笑みがその直後に消える。
「でもね・・こういうのは勇気じゃなくて、無謀っていうんだよ!」
いちごが祐二に向けてブレイドを投げつける。ブレイドはブーメランのような回転を帯びて、彼に迫る。
だがその刃が突如弾かれる。ブレイドを受け取ったいちごが、この瞬間に目を疑う。
「いくら私でも、祐二さんを傷つけようとするなら、許しておけないよ・・」
祐二の前に牧樹が立っていた。彼女の手には大型の光の剣が握られていた。
「これ以上祐二さんに剣を向けるなら、もう迷わない・・私に何が起こったって、もう後悔しない!」
決意を言い放つ牧樹が剣を構える。彼女の手にも光の剣があるのを目にして、祐二が困惑を覚える。
「牧樹さん・・・君にも、光の剣が・・・!?」
「祐二さん、ゴメンなさい・・私にも、こういう力があるんです・・自由に光の剣を出せる力が・・・」
牧樹が祐二に対して沈痛さを浮かべる。困惑のあまり、祐二は返す言葉が出なくなっていた。
「隠していてすみません・・詳しいことは後で話します・・今は・・・」
祐二に言いかけると、牧樹は自分の剣の切っ先をいちごに向ける。
「この人を追い払うことが先決です・・・!」
言い放った牧樹が、動揺を見せているいちごに向かって飛びかかる。彼女の中に迷いや躊躇はなくなっていた。
次回
牧樹「いよいよ物語が本格的になってきたね。」
結花「謎もこの調子で解消してくれるといいのだが・・」
直美「でも私、最近出番がなくなってきている気が・・」
結花「安心しろ、直美。
お前以上に出番の少なさを嘆いている者もいるから・・」
直美「全然励みにならない・・・」