ブレイディア 第8話「剣士の行く末」

 

 

 夏休みが目前に迫った今日。学園の授業を終えた結花は、プルートの行方を追うべく零球山に向かおうとした。

「待って、結花・・」

 そこへ牧樹が直美と一緒にやってきて、結花に声をかけた。

「何だ?」

「私たちも一緒に行っていいかな・・・?」

 足を止めて憮然とした態度を見せる結花に、牧樹が訊ねてくる。

「お前たちには関係のないことだ。一緒にいられると、逆に足手まといだ・・」

「確かに私には関係のないことかもしれない・・でも結花には何度も助けられて・・でも、助けられてばかりじゃ、私の気が済まないの・・・」

「それならば気にするな。別に私はお前を助けたつもりはない。あくまで私のためだ。」

「だったら同じセリフを返す・・あくまで私のため・・・」

 淡々と言いかける結花に対し、牧樹は真剣な面持ちを保っていた。彼女の言葉を聞いて、結花がひとつ吐息をもらす。

「勝手にしろ・・だが邪魔をしたら容赦しないぞ・・」

「邪魔にならないって・・私をいつまでも見くびらないでよね・・」

 憮然さを見せて歩き出す結花に、牧樹は不満を口にする。しかし牧樹は自信を取り戻しつつあった。

 

 結花、牧樹、さらには他のブレイディアの動向を把握していた大貴と要。ブレイディアたちの戦いを、大貴は悠然と見守っていた。

「だんだんと楽しくなってきたな・・もっとも、本当に楽しくなるのはこれからなんだけど・・」

「そんな有意義になっている場合ではありませんよ、お兄さん・・」

 笑みをこぼす大貴に、要は呆れてため息をつく。

「何人かは既にご存知のようですが、あのことはほとんどのブレイディアが知らないようです・・」

「でもいつか知ることになるだろうね・・もしかすると、自分の体で理解することになるかもしれないけど・・・」

 淡々と言いかける要に、大貴は悠然とした態度のまま答える。2人はブレイディアに関する秘密を知っていた。

 

 プルートの調査に出る結花と、彼女に同行する牧樹と直美。零球山の入り口で、牧樹は結花に疑問を投げかけた。

「そういえば・・結花は何で、プルートを追ってるの・・・?」

 その問いかけを耳にして、結花が鋭い視線を向ける。怖さを覚えて直美は一瞬体を震わせる。

 だが結花はすぐに物悲しい笑みを浮かべて語りだした。

「・・・プルートは、私の全ての仇なんだ・・」

「全ての、仇・・・?」

 切り出した結花の言葉に、牧樹が当惑を浮かべる。

「私の家族は今のように裕福ではなかった・・だが私たちは一生懸命に生きていこうと考えて、決して不幸な生活ではなかった・・だがその家族も家も、全てプルートに奪われた・・」

 自分の過去を思い返して、結花が憤りを浮かべる。

「どうして、結花の家族が・・・?」

「簡単にいうと、私がブレイディアだったからだ・・いや、私にブレイディアの資質があったからだ・・・」

 直美が訊ねると、結花が気持ちを落ち着けようとしながら答える。

「プルートは、かつて私の父さんに資金援助を行ったことがある・・もっとも、それは私を監視するための口実だったのだがな・・」

「それじゃ、私たちもプルートが・・・!?

「おそらくな。だが父さんは何らかの方法で、プルートやブレイディアのことを知ったのだろう・・日に日に警戒心を強めていった・・だがその行動に気付かないプルートではなかった。ヤツらは粛清のために・・・!」

 牧樹の不安に答える結花が、右手を強く握り締める。その指の爪が刺さり、手から血があふれてきた。

「表向きには火事による焼死にされた・・プルートの隠ぺい工作で、私の家族は完全に闇に葬られた・・自分たちのために、父さんも母さんも・・・!」

 怒りを抑えきれなくなり、体を震わせる結花。その彼女の手を、牧樹が取って握手をしてきた。

「ぅぅ・・ホントに・・ホントに大変だったんだね・・結花・・・」

 結花の話を聞いて、牧樹が大粒の涙をこぼして泣きじゃくっていた。

「お、おい、お前・・・」

「もう大丈夫だよ、結花・・これからは私がついてるから・・・」

 涙ながらに言い寄ってくる牧樹に、結花は困惑を隠せなくなっていた。そのやり取りを見て、直美は笑みをこぼしていた。

「ええい、鬱陶しい!いい加減に離れろ!」

 結花が不満を浮かべて牧樹を引き離す。

「おしゃべりはここまでだ!お前も遊びに来たのではないのだろう?」

「ちょっと・・前々から気にしてたんだけど、いつまでも“お前”呼ばわりしないでよね・・私には赤澤牧樹って立派な名前が・・」

「ならば牧樹、早く行くぞ・・」

 不満げの牧樹に結花が言いかける。零球山に入っていく結花を、牧樹と直美も追いかけていく。

「ところで・・ブレイドって、どういう原理なのかな・・・?」

 牧樹が再び疑問を投げかけてきた。

「ブレイドって、念じれば出てくるし、威力もある程度調節できる・・まるで私の一部みたいに・・」

「当然だ。ブレイドは使用者の意思に応じて働く。精神力を糧にしてその力を発揮する。つまりブレイドは、精神状態に大きく影響される。心を乱せばブレイドは弱くなり、意思を強固にすれば強くなる・・」

 結花の説明を聞いて、牧樹は当惑する。自分の出している剣が心の一部であることに、彼女は動揺を感じていた。

「ねぇ・・ブレイドも剣、形のあるものだよね・・もし、ブレイドが折れたら・・・」

 牧樹が結花に向けて三度疑問を投げかけようとしたときだった。

「また会ったわね、お二人さ〜ん♪」

 そこへ声がかかり、結花たちが振り返る。亜美と一緒に、麻美が妖しい笑みを浮かべてきていた。

「またお前たちか・・いい加減にしつこいぞ・・・」

「アンタじゃなきゃ楽しめないのよ・・今度も満足させてよねぇ・・・」

 眼つきを鋭くする結花に、麻美が淡々と言いかける。

「おや?初めて見る顔もいるねぇ・・」

 麻美が直美に目を向けて微笑みかける。

「でもとても気弱そうね・・あまり期待できないかも・・・」

「それじゃあの2人からやっちゃおうか、お姉ちゃん・・」

 亜美がため息をつき、麻美が結花と牧樹に視線を戻す。

「またコイントスで決めるの?」

「じゃんけんじゃ不満でしょ?それ以外に方法ある?」

「分かったわよ・・それで決めよう・・」

 亜美の提案に渋々同意する麻美。

「あたしは表。」

「また表?・・あなたも好きね・・」

 手にしていたコインを上に上げて落とす亜美。落ちたコインは絵柄の描かれた表を示していた。

「当たったよ、お姉ちゃん。それじゃあたしは結花をやるね・・」

「私は赤澤牧樹か・・どれほどのものなのか試してみたかったと思ってたし・・・」

 喜びを見せる麻美と、微笑みかける亜美。2人が同時に各々のブレイドを出現させる。

「いつもよりも思い切ってやっちゃうんだから・・油断してあっという間に終わるなんてことになんないでよね・・」

「同じセリフを返してやる・・せめて私を拍子抜けさせないようにしてもらいたいな・・」

 悠然と言いかける麻美に、結花が不敵な笑みを見せる。その言葉に麻美が苛立ちを覚える。

「ホントにいつもいつも、調子に乗ってくれちゃって・・・うざいんだよ!」

 いきり立った麻美が結花に飛びかかり、剣を振りかざす。結花も剣を出現させて、麻美の攻撃を受け止める。

「結花!」

 牧樹が結花に駆け寄ろうとするが、亜美が行く手を阻んできた。

「あなたの相手は私よ。そこの小娘も、一緒に相手してあげるわよ・・」

 牧樹に言いかけると、亜美が直美に視線を移す。不安を感じながらも、直美も自分のブレイドを出現させる。

「やるしかないってことなのかな・・気が進まないけど・・・!」

 気持ちを引き締めた牧樹もブレイドを手にする。

「そんな大振りの剣で、私を切り裂くことなんてできないわよ・・逆に私が、あなたを切り刻んであげるから・・」

 眼を見開いた亜美が飛びかかり、剣を振りかざす。牧樹は亜美の攻撃をかわしながら後退していく。

「逃げてばかりじゃ私に勝てないわよ。もう少し攻めてきたら?」

 亜美が挑発してくるが、牧樹はそれに乗ることなくペースを保っていく。2人は直美たちから離れたところまで来た。

「なるほど・・あの小娘を守ろうとして・・つまらないことしてくれるじゃない・・」

「みんなを傷つけさせるくらいなら、私は戦う・・この力を使うことに、迷ったりしない!」

 不敵な笑みを見せてくる亜美に、牧樹が決意を言い放つ。

「威勢はいいじゃない・・せいぜいがっかりさせないでよね!」

 亜美が再び牧樹に飛びかかる。彼女が振り下ろしてきた剣を、牧樹は自分の剣で受け止める。

「何っ!?

 軽々と受け止められたことに驚く亜美。重みのある牧樹の剣に押されて、亜美は体勢を崩される。

 すかさず反撃に転じる牧樹。大振りながらも重みのある一閃に、亜美は受け止めるだけで精一杯だった。

「なんて力・・あんなやわな体のどこにそんな力が・・・!?

 毒づく亜美が負けじと剣を振りかざす。だが牧樹の剣に逆に押し返されて、彼女はしりもちを付く。

 立ち上がろうとした亜美に、牧樹が剣の切っ先を向ける。

「もうやめて・・できることなら、あなただって傷つけたくない・・・」

 歯がゆさを込めた言葉を投げかける牧樹。身動きが取れなくなり、亜美が焦りを浮かべていた。

「だったらアンタが傷ついてみたら?」

 そのとき、別の声が牧樹に向けてかけられた。突如飛び込んできた刃に、牧樹が突き飛ばされる。

 飛び込んできたのはエリカだった。自身のブレイドを振りかざして、牧樹を突き飛ばしたのである。

「逃がさない・・アンタは私が叩き潰してやるんだから・・」

「金城さん・・・!」

 不気味な笑みを見せるエリカに、牧樹が毒づく。再び飛びかかるエリカだが、2人の間に亜美の剣が飛び込んでくる。

「その子は今、私が相手をしてるの・・横取りするなんて卑怯じゃない・・」

「赤澤牧樹は私の獲物よ・・アンタこそ邪魔しないでもらえるかしら・・・」

 再びブレイドを出現させた亜美と、標的を彼女に移すエリカ。2人の対立を見計らって、牧樹はこの場から離れることにした。

 

 その頃、結花と麻美も激しい攻防を繰り広げていた。結花を攻め立てる麻美の顔には、喜びの表情が浮かび上がっていた。

「ホントにワクワクしてくるじゃない・・あの赤澤牧樹ってヤツより全然いいよ!」

「私は退屈でいい気分がしないがな・・楽しませるつもりなら、もっと私を楽しませてみろ・・」

 歓喜の笑みを浮かべる麻美に、結花が不敵な笑みを見せる。その態度に麻美が苛立ちを覚える。

「その見下した、なめきった態度・・マジでうざいんだよ!」

 いきり立った麻美が攻め立てるが、結花に攻撃を難なく回避していく。

「あたしはあたしらを見下すバカな連中が許せないのよ・・うざくてうざくて、マジでうざいっての!」

「鬱陶しいから排除しようというのか・・実に短絡的だな。私の目的とは月とスッポンだ・・」

「ホンットムカつく・・マジでうざいんだよ!」

 さらに結花に嘲られ、麻美が激怒して突っかかる。だが逆に動きが単調になってしまい、結花に軽々と攻撃をよけられてしまう。

「私には目的がある。お前たちのような遊びとは程遠い目的がな・・」

「アンタみたいなヤツの目的なんか、安っぽいもののくせに・・・!」

 淡々と言いかける結花に、麻美は苛立ちを浮かべるしかなかった。

 そのとき、麻美が攻撃の手を止めて別方向に振り返る。彼女は亜美の危機を直感していた。

「お姉ちゃん・・まさか赤澤牧樹に・・・!?

 麻美が結花との戦いを放棄して、亜美を助けに向かう。

「待て!」

 結花が麻美を追って走り出す。零球山の森の中を駆け抜けていくと、結花は亜美とエリカから離れてきた牧樹と合流する。

「牧樹!アイツはどうした!?

「あの人、金城さんと戦ってる・・途中で金城さんが乱入してきて・・」

 問いかける結花に、牧樹が困惑しながら答える。

「2人、戦っているのか・・今、もう1人がそっちに行った。援護する気だ・・」

「見に行ってみる・・気になってしょうがないから・・・」

 言いかける結花に、牧樹が呼びかける。しかし結花は乗り気にならない。

「これはヤツらが勝手にやっていることだ。私たちのほうから首を突っ込んでやる必要はない・・」

「それでも、人が傷つくのはよくないと思うから・・・」

 考えを曲げない牧樹に、結花は呆れてため息をつく。

「お人よしだな・・・私も付き合ってやる・・早くしろ・・・」

「結花・・・ありがとう・・・」

 渋々承諾する結花に、牧樹が感謝の言葉をかける。

「私も行きます・・みなさんを止めたいんです・・」

 直美も牧樹の考えに賛同していた。3人は亜美、麻美、エリカを止めるため、駆け出していった。

 

 激しい猛攻を見せるエリカに、亜美は劣勢を強いられていた。余裕と狂気に満ちたエリカと対照的に、亜美は息を荒げていた。

「どうしたの?私に食って掛かってきた割には、大したことないじゃない・・」

 疲弊する亜美をあざ笑うエリカ。その挑発に反応して、亜美が眼つきを鋭くする。

「けっこうやるじゃない・・これで全力で勝負して楽しめるというものよ・・」

「あらぁ?まだ全力じゃなかったの?だったらすぐに出したほうがいいんじゃないの?」

 強気な態度を見せる亜美に、エリカがさらに挑発を浴びせる。

「口が達者なのね・・その減らず口を黙らせてあげるわ・・・!」

 いきり立った亜美が力を振り絞り、エリカに飛びかかる。だが亜美が振りかざした剣は、エリカに軽々と受け止められてしまう。

「粋がる割には弱くなってるじゃない・・そんなんじゃ私は物足りないわよ!」

 眼を見開くエリカが亜美の剣を押し返そうとする。

「お姉ちゃん!」

 そこへ麻美が駆けつけ、エリカに向けて剣を振りかざす。エリカがとっさに亜美を突き飛ばし、後退して麻美の一閃を回避する。

「また邪魔者が・・ここまで来ると嫌気がさしてくるね・・・」

 苛立ちを浮かべるエリカが、標的を麻美に変える。

「よくもお姉ちゃんを・・調子に乗ってんじゃないよ!」

 怒りをあらわにした麻美が、エリカに飛びかかって剣を振りかざす。その一閃をエリカに止められるも、麻美はそのまま力押ししていく。

「やめなさい、麻美!深追いしたら・・!」

 亜美が麻美を呼び止めようとしたときだった。

 つばぜり合いを相殺させて距離を取り、すかさず亜美が剣を振りかざす。だがエリカが振りかざした剣と衝突した瞬間、亜美の剣の刀身が折れた。

「えっ・・・!?

 自分の剣が折れたことに眼を疑う麻美。

 次の瞬間、麻美は突如全身を駆け巡る激痛に襲われて、その場にうずくまる。

「麻美!?

 たまらず麻美に駆け寄る亜美。そこへ結花、牧樹、直美が駆けつける。

「えっ!?・・どうかしたの、あの人・・・!?

 麻美の異変に牧樹が困惑する。亜美が倒れた麻美にひたすら呼びかける。

「しっかりして、麻美!どうしたっていうの!?

「お姉ちゃん・・力が・・力がなくなっていく・・・どうしたっていうの・・あたし・・・」

 弱々しく声をかける麻美。彼女の体から光の粒子があふれてくる。

「お姉ちゃん・・あた・・し・・・」

 麻美が亜美に向けて手を伸ばす。その震える手をつかもうと、亜美も手を伸ばす。

 だがその瞬間、麻美の体が光の粒子になって完全に消滅する。彼女の手をつかむことができず、亜美の手から粒子がすり抜けて空に舞い上がっていく。

「麻美!?・・麻美!」

 悲痛の叫びを上げる亜美がその場にうずくまる。麻美の最後を目の当たりにして、牧樹と直美は困惑する。

「どうなってるの・・・あの人、何が起こったの・・・!?

「これが、ブレイディアの末路だ・・・」

 結花が口にした言葉に、牧樹が息を呑む。

「ブレイドは精神力が剣となったもの。ブレイドが折られることは、魂を砕かれるのと同じ・・ブレイディアの魂であるブレイドが砕かれたとき。それは、ブレイディアの死、消滅を意味しているのだ・・・」

「消滅!?・・・それじゃ、私たちも・・・!?

 結花の説明を聞いて、牧樹は驚愕を覚える。彼女は自分が振りかざしている武器が、命と同列の存在であることを思い知らされる。

 麻美を失った悲しみに暮れる亜美。その姿に拍子抜けしたエリカは、ブレイドを消失させてこの場から立ち去った。

 ブレイディアの本質を目の当たりにして、牧樹の決意と戦意は完全に揺さぶられていた。

 

 

次回

第9話「海辺の大波乱」

 

すずめ「夏だー♪」

さくら「海だー♪」

すずめ「海に行ったら豪快に泳いで・・」

さくら「サーフィンもいいかもー♪」

すずめ「焼きそば、焼きイカ、カキ氷ー♪」

さくら「もうパラダイスー♪」

ぼたん「気楽ですね、あなたたち・・・」

 

 

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