ブレイディア 第7話「白と黒の輪舞(ロンド)

 

 

 牧樹を助けようとエリカに立ち向かう直美。だが逆にエリカの一閃を受けてしまう。

「直美ちゃん!」

 たまらず悲鳴を上げる牧樹。直美は左腕に傷を付けられて、血を流していた。

「そら!今度はどこを切りつけてやろうかい!」

「やめて!」

 言い放つエリカに向けて、牧樹が叫ぶ。その声も虚しく、エリカが直美に向けて剣を振りかざす。

 だが、エリカの剣が別の剣に阻まれる。それは駆けつけた結花のブレイドだった。

「何っ!?

「結花さん!」

 驚愕するエリカと、声を上げる直美。結花が剣を振りかざし、エリカを突き放す。

「結花さん・・助けに来てくれたんですね・・・」

「勘違いするな。私はお前たちを助けに来たわけではない。騒がしいヤツがいるから始末しに来ただけだ・・」

 喜びを見せる直美に、結花が憮然とした態度で答える。彼女の登場にエリカは苛立ちを膨らませていた。

「まさか優等生もブレイディアだったとはね・・アンタも私の邪魔をしようっていうの?」

「私のそばで騒がれると気分が悪くなる・・大人しくする気がないなら、ここで叩き潰してやってもいいんだぞ・・?」

 妖しく微笑むエリカに、結花が不敵に言いかける。その態度がエリカの感情を逆撫でする。

「調子のいいこと言っちゃって・・・うざったいんだよ!」

 いきり立ったエリカが剣を振りかざす。その一閃を結花が剣で受け止める。

「私はこの2人のように甘くはないぞ・・・!」

 結花は鋭く言い放つと、エリカの剣を払いのける。その力に押されてエリカが後退する。

「なかなかやるじゃないの・・でも私には敵わないわよ・・」

「口数の多いヤツだ・・その大口を叩けなくしてやる・・・」

 哄笑を上げるエリカに、結花は呆れながら言い返す。その間に、牧樹は傷ついた直美に駆け寄っていた。

「直美ちゃん、大丈夫!?

「牧樹さん・・私は大丈夫です・・・」

 呼びかける牧樹に、直美が微笑んで答える。だが直美の左腕からは血があふれてきていた。

「今のうちに直美ちゃんを病院に・・・!」

 牧樹は直美を連れてこの場を離れていく。それに気付いていたエリカが2人を追おうとするが、結花に行く手を阻まれる。

「お前の相手は私だ。」

「ハァ・・拍子抜けしちゃった・・・」

 牧樹たちに逃げられ、結花にも邪魔されたことに、エリカは戦意を揺さぶられてしまっていた。

「今回はここまでにしておいてあげる・・でも次に会ったときは必ず始末してやるわ・・もちろんアンタもね!」

 エリカは結花に言い放つと、剣で眼前の地面を斬りつけて砂煙を巻き起こす。その煙を剣で振り払う結花だが、エリカは既に姿を消していた。

「逃げたか・・本当に、ブレイディアは血に飢えたヤツらばかりだ・・もっとも、例外はあるが・・・」

 結花は呟きかけると、手にしていた剣を消失させる。彼女は近くに止めていたバイクに乗り、走り去っていった。

 

 牧樹に連れられて病院に向かった直美。木の枝に引っかかって傷ついたと理由付けた直美は、病院での手当てを受けて、左腕を包帯で巻かれていた。

「よかった・・すぐに治るって・・・」

「私のことはいいんです・・牧樹さんが無事だっただけでも・・・」

 安堵を浮かべる牧樹に、直美が弁解を入れる。

「自分で受けた傷を、他の人に移すことはできないんだね・・」

「はい・・仮にできたとしても、私はやらないと思います・・誰かを傷つけてまで助かろうとは思いませんから・・」

 牧樹が口にした言葉に直美が答える。牧樹は自分のために直美が傷ついたことを辛く感じていた。

「ゴメン、直美ちゃん・・私がちゃんとしていたら、直美ちゃんが傷つくことはなかったのに・・・」

「そんなに自分を責めないでください・・あの金城さんが相手では、迷ってしまうのも無理ないですよ・・」

 謝る牧樹を直美が励ます。それでも牧樹の後悔は和らぐことはなかった。

「やはりここに来ていたか・・・」

 そこへ結花が現れ、牧樹と直美に声をかけてきた。

「結花・・結花も直美ちゃんのことが心配で・・・」

「勘違いするな。お前たちの心配などするか。お前たちに、あの女、金城エリカについて聞かせてもらおうと思ってな・・」

 牧樹が声をかけると、結花が憮然とした態度で答える。

「分からない・・どうして襲われたのか・・・」

「ブレイディアと思って狙っただけなのか・・ともかく警戒したほうがいい・・」

 困惑を募らせる牧樹に、結花も真剣に言いかける。

「優しいんだね、結花は・・・」

「だから勘違いするな。私はあの女が鬱陶しいだけだ・・あの様子から粘着質のようだからな・・」

 微笑みかける牧樹に、結花は頬を赤らめながらも突っ張った態度を見せる。

「もしもヤツが私の前に現れたら、次こそはこの手で始末する。ヤツにうろつかれると、私の行動の妨げになるからな・・」

「ううん・・金城さんとは、私が相手をする・・」

 結花が言いかけたところで、牧樹が声をかける。その言葉に直美が当惑を覚える。

「お前にやれるのか?さっきはアイツに手も足も出ず、直美が犠牲になってしまったんだぞ・・」

「だからだよ・・私のせいで、直美ちゃんにケガをさせてしまった・・もしかしたら、取り返しのつかないことになってたかもしれない・・・」

 鋭く言いかける結花に、牧樹は真剣な面持ちで言いかける。

「本当は戦いなんてしたくない・・でも私のために、誰かが傷つくことのほうが、もっと耐えられない・・・」

「牧樹さん・・・」

 自分の気持ちを切実に告げる牧樹に、直美が戸惑いを浮かべる。

「どういう目的や理由で戦うかはお前の自由だ。だが1度戦いの場に足を踏み入れたなら、迷いは命取りだと思え・・」

「そんなこと、言われなくたってそうするよ・・・」

 結花が言いかけた言葉に、牧樹が不満げに言葉を返す。そのやり取りを見て、直美は笑みをこぼした。

 

 その翌日、牧樹は直美と一緒に普段どおりの登校をした。直美が左腕に包帯を巻いていることに、周囲は動揺の眼差しを向けていた。

 牧樹は周囲に警戒を向けていた。人目をはばからずに、エリカが襲い掛かってこないとも限らないからだ。

「何をそんなにビクビクしているのだ?」

 そこへ突然声をかけられ、牧樹が過剰に反応する。恐る恐る後ろに振り返ると、そこには結花がいた。

「結花か・・おどかさないでよ・・」

「人をオバケみたいに言うな。私は神出鬼没ではない。」

 安堵を浮かべる牧樹に、結花が憮然さを見せる。

「そう怯えるな。不安をあおって事を荒立てるぞ。」

「そんなこと言ったって・・金城さん、いつどこから狙ってくるか分かんないよ・・・」

 注意を促す結花だが、牧樹も直美も不安の色を隠せない。

「何かあったのかい、牧樹さん?」

 そこへ祐二が声をかけてきた。突然の彼の登場に、牧樹が不安を覚える。

「祐二さん・・・」

「何か思いつめているようだけど・・何かあったのかい?」

 戸惑いを見せる牧樹に祐二が訊ねてくる。だがブレイディアのことを打ち明けられず、牧樹は押し黙るしかなかった。

「ほ、本当に何でもないんです・・気を遣ってくれて、ありがとうございます・・」

「本当かい?・・それならいいんだけど・・・」

 弁解する牧樹だが、祐二は心配でたまらない様子だった。

「すみません・・失礼します・・・」

「あっ!牧樹さん!」

 そそくさに立ち去っていく牧樹と、慌てて追いかけていく直美。そのとき、唐突に結花と祐二の目が合う。

「牧樹さんのこと、お願いしてもいいかな?・・牧樹さん、逆に僕のことを気遣っているようだから・・」

「私の知ったことではない。アイツがどうなろうとな・・」

 祐二がお願いをするが、結花は冷淡な態度を見せるだけだった。

「おいおいおい、あの鷺山祐二さんにそんな態度を取るのはナンセンスだと思うぞ。」

 そこへ一矢が現れ、結花に気さくに声をかける。

「お前・・また私に馴れ馴れしく・・」

「アハハ・・すいません、鷺山さん・・失礼な態度ばっかで・・」

 不満を浮かべる結花をよそに、一矢が祐二に苦笑いを浮かべる。

「気にしなくていいよ。僕は大丈夫だから・・」

「そ、そうですか・・アハハハ・・で、では失礼しまーす・・」

 祐二が弁解を入れると、一矢が笑みを見せたまま、結花を連れてこの場を後にした。校舎に入ったところで、結花が一矢の手を振り払う。

「なぜあんなごまかしをする?私は私の思うがままに・・」

「相手はあの鷺山祐二だぞ・・他の女子たちを敵に回すつもりかよ・・・!?

 憮然とした態度を見せる結花に、一矢が小声で言いかける。

「そんなことは私の知ったことではない。私にはやることがあるのだからな・・」

「なぁ・・前から気になってたんだが・・お前のやることって何なんだ?」

「お前に話しても意味はない。それにお前が関わったところで、どうにもなりはしないからな・・」

「何だよ、それ・・オレじゃ足手まといだっていうのか・・・!?

「そういうことだ。諦めるんだな・・」

 結花は一矢に冷淡に告げると、1人でこの場を後にした。憤りを感じながらも、一矢はしばらくその場から動けなかった。

 

 その日の最初の休み時間。牧樹はお手洗いに向かった。

 この日、牧樹はエリカの姿を見ていなかった。それが逆に牧樹に不安を煽っていた。

 お手洗いを済ませてトイレから出る牧樹。彼女は教室に戻ろうと廊下を進んでいた。

「そんなにビクビクしていたら、みんなにおかしいって思われちゃうじゃない・・」

 そこへ突然声をかけられて、牧樹は一気に緊迫を募らせる。彼女の後ろから、エリカが声をかけてきた。

「祐二様に近づく女は、誰だろうと許さない・・私が全員叩き潰してやるから!」

 いきり立ったエリカがブレイドを出現させる。周囲に人がいないとはいえ、校舎内で戦いを引き起こす彼女の行為に、牧樹は困惑を膨らませる。

「本気なの!?まだみんな学園に・・!」

「それがどうしたの!?仮に見つかったって、この力にみんなびびるっての!」

 声を荒げる牧樹の言葉を一蹴して、エリカが攻撃性をむき出しにして飛びかかる。牧樹はたまらず逃げ出し、校舎を飛び出してその裏に行き着く。

 するとエリカが追いつき、牧樹の前に回りこんできた。

「鬼ごっこは私は好きじゃないの。大人しく私に八つ裂きにされなさい・・・!」

 牧樹に妖しく微笑みながら、エリカがゆっくりと近づいていく。下げていた剣の切っ先が地面をこすり、金属がこすれるような音を立てる。

「せめて抵抗のひとつでも見せなさいよね・・でないとやりがいが全然感じないじゃない・・・!」

 いきり立ったエリカが飛びかかり、牧樹に向けて剣を振りかざす。だがその剣が別の剣に受け止められる。

 エリカの一閃を阻んだのは、駆けつけた結花だった。

「逃げ回ったところで何になる?お前が拒否し続けようと、ヤツはお前を狙い続ける・・」

「結花・・・」

 鋭く言いかける結花に、牧樹が戸惑いを見せる。結花がエリカの剣を振り払い、眼つきを鋭くする。

「またアンタなの?2度も邪魔してきて・・・!」

「そこの女のことなどどうでもいいが、お前に好き勝手にされるのは目障りだからな・・」

 苛立ちを見せるエリカに、結花が鋭く言いかける。

「目障り・・それは私のセリフよ!」

 憤慨をあらわにしたエリカが結花に飛びかかる。結花も迎撃して剣を振りかざす。

 2人の剣が激しくぶつかり合い、火花を散らす。2本の刀身が衝突し、2人がつばぜり合いを繰り広げる。

「私は全てを手に入れる!私の想い人も全て!そして邪魔者は全て私が始末してやる!」

「そんな理由・・私にはくだらないな・・」

「何だと!?

 自分の考えをあざ笑われ、エリカが声を荒げる。

「私は命を捨ててでもやり遂げなくてはならないことがある・・それが全て終われば、私の命などお前にでもくれてやる・・だがそれまでは、誰が相手でも、私は死ぬわけにはいかないのだ!」

 自身の決意を言い放つと、結花が剣を手にする手に力を込める。彼女に押されてエリカが突き飛ばされる。

「メス豚の分際で偉そうに!その大きな口を叩けなくしてくれる!」

 怒号を放つエリカが結花に飛びかかる。だが激情をむき出しにしたエリカは直線的な動きになってしまい、結花に軽々と回避されていた。

「バカな!?この私の攻撃が、全然ヒットしないなんて!」

「今のお前の動きは丸見えだ。最初に一戦交えたときのほうがまだマシだったぞ。」

 苛立つエリカに、結花が不敵な笑みを見せる。結花の一閃に叩き伏せられて、エリカが横転する。

「ぐっ!・・認めない・・こんなバカなこと、私は認めない!」

「悔しがるだけの意地はあるようだな・・だが生憎私はお前には容赦はしない。」

 声を荒げるエリカに、結花が剣の切っ先を向ける。

「体を串刺しにしてほしいか?それとも首を切り落としてほしいか?」

「願い下げよ・・私も殺されるなんてね!」

 結花の言葉を一蹴して、エリカが立ち上がる。彼女は結花に剣の切っ先を向けながら、この場から走り去っていった。

「逃げたか・・姑息な手段ばかり使ってくる・・・」

 結花は嘆息をつくと、手にしていた剣を消失させる。彼女は未だに困惑している牧樹に視線を移す。

「お前が何を考えているのかは私には分からない。だが自分の身が危険にさらされているにもかかわらず戦わないのは滑稽なことだ。」

「だって・・金城さんは、学園の憧れの存在なんだよ・・それに、私が祐二さんにひかれているから、だから金城さんは・・・」

「そのために、お前はアイツに殺されてもいいというのか?実に情けないことだな・・」

「どうしてそんなこというの!?悩むことが情けないというの!?

「お前のは悩んでいるのではない。意地汚くウジウジしているだけだ・・誰かに甘えて、自分の身を自分で守ろうとすらしない甘ったれの臆病者だ。」

「違う!私は甘ったれでも臆病者でもない!私はこの想いにだけは、ウソをつきたくない!」

 嘲る結花に反発する牧樹。すると結花が不敵な笑みを見せてきた。

「その意地、今度はあの女にぶつけることだな・・自分は鷺山祐二に恋焦がれている。その想いは誰にも譲れない、とな・・」

 結花は牧樹に言いかけると、きびすを返して立ち去っていった。彼女の後ろ姿を見つめて、牧樹が気持ちを引き締めていた。

(ここまで見下されて黙っているような臆病者じゃないよ、私は・・これからも負けん気を大切にしておこう・・・!)

 気持ちを新たにして、牧樹も自分に降りかかる敵意に立ち向かうことを心に決めた。

 

 結花に太刀打ちできず、撤退を余儀なくされたエリカ。彼女は結花への憎悪を抑えきれず、そばの壁を横殴りする。

「邪魔者は誰だろうと叩き潰す・・赤澤牧樹も、青山結花も・・・!」

 邪魔者の排除の意思をさらに強めて、エリカは歩き出す。自身の想いを遂げるべく、彼女は血塗られた戦いのさらなる深みへと踏み入ろうとしていた。

 

 

次回

第8話「剣士の行く末」

 

牧樹「私は臆病者じゃない!」

直美「その意気ですよ、牧樹さん!

   牧樹さんは私に勇気をくれました!」

牧樹「そう、私には勇気がある!」

直美「今度も勇気を見せてください!」

牧樹「ありがとう、直美ちゃん!」

結花「私、間違ったことを言ったか・・・?」

 

 

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