ブレイディア 第3話「弱気な剣士」
「結花や亜美たちと同様に、光の剣を具現化させた牧樹。自分の光の剣を眼にして、牧樹は驚きを隠せなくなっていた。
「どうなってるの!?・・・私も、剣を・・・!?」
自分が出した剣に、牧樹は驚きを隠せなくなっていた。
「まさかアンタもブレイディアだったなんてね・・・厄介なのが増えるのはやっぱ厄介だから、すぐにやっちまうに限る!」
いきり立った麻美が剣を振り下ろす。牧樹はとっさに剣を掲げて、麻美の一閃を受け止める。
「コイツ!無駄な抵抗を!」
苛立ちを見せる麻美だが、牧樹を押し切ることができない。
「何だかよく分かんないけど・・ここで死ぬのだけは、絶対にイヤ!」
牧樹が剣を振りかざして、麻美の剣を振り払う。ガムシャラに剣を振りかざす牧樹だが、麻美はその攻撃をよけるのに手一杯だった。
「くそっ!力あるじゃない!」
毒づく麻美が反撃に転ずる。振り下ろされてきた剣に対し、牧樹は対処の仕方を知らなかった。
だが麻美の剣を、結花が剣をかざして受け止める。
「見るに耐えんな。その様では力を発揮しても死ぬのが眼に見えている・・」
「何、邪魔してんのよ・・アンタの相手は姉さんでしょうが!」
牧樹に言いかける結花に、麻美が苛立ちを見せる。そこへ牧樹が剣を振りかざし、麻美を引き離す。
「ったく!ホントにウザいったらありゃしない!」
「今日はここまでよ、麻美。」
結花と牧樹に反撃しようとした麻美を、亜美が呼び止める。
「何でよ、姉さん!?始末しないと厄介だって!」
「2人に組まれて攻められても厄介よ。1度出直してからやっつけても問題はないわ。」
抗議の声を上げる麻美だが、亜美に言いとがめられる。腑に落ちない心境の麻美だが、渋々亜美の言うとおりにした。
「今度会ったら確実に始末してやるからね・・それまで有意義な時間を過ごすことね・・・」
麻美は捨て台詞を吐くと、亜美とともに去っていった。戦いが終わったと感じて、結花と牧樹が剣を消す。
「お前もブレイディアとして覚醒するとはな・・もう逃れることはできない・・」
結花が光の剣を具現化させた牧樹に対して肩を落とす。
「できることなら、深く首を突っ込む前に島を出てほしかった・・・」
「どういうことなの?・・ブレイディアって、いったい・・・?」
落胆を見せる結花に、牧樹が当惑しながら問いかける。だが結花は空を見上げ、その空は夕暮れを示していた。
「お前も寮生活なのだろう?寮に行ってから話をしてやる・・・」
結花の呼びかけに牧樹が頷く。2人はひとまず、この零球山を後にするのだった。
駆け足で寮に戻ってきた結花と牧樹。呼吸を整えてから、牧樹が結花に話を切り出した。
「さて、いい加減に話してよね。ブレイディアって何なの?ここまで来て、私は当事者じゃないっていえないもんね。」
「そうだな・・不覚にも、お前もブレイディアになってしまったのだからな・・・」
聞き耳を立てる牧樹に、結花がようやく話をする決心をする。
「ブレイディアは、さっきのように剣を自在に出現させ、武器として戦う女のことをいう・・」
「剣を・・・」
「1度ブレイディアとして覚醒すれば、自分の意思ひとつで剣を出現させ、操ることができる。ただし剣の形はそれぞれ異なっており、変化することはない。」
結花の説明を聞いて、牧樹が何度も頷く。
「それじゃ、私もあなたみたいに剣が出せるわけね・・でもどういう原理なの?人間が剣を出せるなんて聞いたことないし・・」
「当然だ。ブレイディアは公になるどころか、常に表社会から隠蔽されてきた・・ヤツらによってな・・」
「ヤツら・・?」
「プルート・・冥界の神の名を持つ、裏社会のトップだ・・」
疑問符を浮かべる牧樹に、結花が苛立ちを覚えながら答える。
「ブレイディアが剣を振るう理由は人それぞれだ。だがそのほとんどが、プルートの監視を受けている。今も私たちを影から見ている。」
「えっ・・・!?」
結花の言葉を聞いた牧樹が周囲を見回し、監視している人物を見つけようとする。
「ムダだ。簡単に見つかる監視なら、私が即座に始末している。」
結花がため息混じりに言いかけると、牧樹も肩を落とす。
「私の企みなど、もうプルートに筒抜けになっている。ヤツらは私の企みをあえて見逃して逆に楽しんでいる・・つくづく私をイラつかせる・・・」
「そんな組織が、私たちの知らないところで動いていたなんて・・・」
結花が苛立ち、牧樹が困り顔を浮かべる。
「そんな悪い組織に、私の新しい生活を邪魔されたくないよ・・・」
不満をあらわにする牧樹。だが戦う理由が間の抜けたことに思えて、結花は呆れていた。
「今のところ、プルートは表向きの行動は見せていない。戦う意思がないならば、お前はこのまま日常に戻るべきだ・・」
「でも・・私も・・・」
「中途半端な覚悟で力を使ったり戦いに加わったりするのはやめろ。足手まといになって後悔するだけだ・・」
困惑する牧樹に、結花が冷たい態度で言いかける。その言葉に反論できず、牧樹は口ごもるしかなかった。
牧樹がブレイディアとして覚醒してから一夜が明けた。登校するも、牧樹は自分自身について考え込んでいた。
昨晩のうちに、牧樹はブレイディアの力を確かめようとした。彼女は自分で好きなときに光の剣を作り出せることを確認していた。
(いつでも出せるってことは分かったけど・・まだ分からないことが多すぎる・・・)
ブレイディアは何なのか。どういう原理の力なのか。何のためにこの力はあるのか。
考えれば考えるほど、牧樹の頭の中の疑問は膨らむばかりだった。
「赤澤くん・・赤澤くん・・」
そこへ声がかかるが、考えにふけっている牧樹は気付いていない。
「ちょっと牧樹・・先生が・・・」
「えっ・・・?」
すずめが声をかけて、牧樹はようやく我に返った。彼女が見上げた先には、立腹した姫子が見下ろしてきていた。
「赤澤くん、問題の答えは?」
「えっと、その・・・どの問題ですか・・・?」
問題を出す姫子に逆に聞き返す牧樹。すると周囲から笑いが湧き、姫子が呆れる。
「気が緩んでるぞ、赤澤・・廊下に立って頭を冷やせ。」
「はい・・すみません・・・」
姫子に叱られて肩を落とす牧樹。廊下に出て行く彼女に眼もくれず、結花は外を見つめていた。
恥ずかしいところを見せてしまい、落ち込んでいた牧樹。彼女はため息をつきながら、校舎の廊下を歩いていた。
「ハァ・・新しい学園生活だけでも頭が痛いのに・・現実離れしたおかしなことまで・・・」
増える一方の悩みに、牧樹は頭が上がらなくなっていた。
そのとき、牧樹は近くから発せられる物音を耳にする。彼女は音のするほうに足を運んだ。
彼女がやってきたのは校舎裏。そこでは1人の女子が数人の女子にいじめられていた。
「ねぇ、ちょっと貸してくれって言ってるのよ・・」
「あたしたちの仲じゃないのー・・」
「それともあたいらを裏切るってんじゃねぇだろうなぁ・・・!?」
上級生たちに脅されて、女子は怯えて震えていた。その光景を目の当たりにして、牧樹は黙っていることができなかった。
「あなたたち、何をやってるの!?」
牧樹が呼びかけると、上級生たちが眼つきを鋭くして振り向いてきた。
「ああっ!?何だ、アンタは!?」
「あたいらに文句があるってのか!?」
「邪魔すると痛い目見るよ・・イヤなら今のうちにあっち行けっての。」
上級生が脅してくるが、牧樹は引き下がらない。
「1人相手に大勢でいじめるなんて、恥ずかしいと思わないの!?」
「コイツ、生意気な!」
牧樹が言い放った言葉に上級生が苛立つ。牧樹が飛びかかり、上級生に突っかかる。
運動神経は優れたほうの牧樹だが、3人を相手にするのは無謀だった。
「へっ!あたいらに盾突いた割には大したことなかったな!」
上級生たちの暴力に、牧樹も地面に這いつくばることになった。起き上がろうとする彼女の頭を、上級生の1人が踏みつける。
「もう詫び入れたって許してやんねぇ・・あたいらの気が済むまでいたぶってやるよ!」
上級生が牧樹にさらに殴りかかろうとする。だが振り下ろした彼女の右手が、別の手につかまれる。
「なっ!?」
突然のことに上級生が声を荒げる。彼女の手を止めていたのは結花だった。
「アンタ・・・!?」
「群れなければ大きな口を叩くのも、勝ち誇ることもできないとは・・実に不様だな。」
声を荒げる牧樹の前で、結花が憮然とした態度を見せる。割り込んできた結花に、上級生が苛立ちを見せる。
「テメェ、調子に乗りやがって!」
「コイツもボコボコにしてやるよ!」
上級生たちが結花に迫る。だが結花は上級生たちを軽くあしらってしまった。
「ぐっ!・・何て強さ・・・!」
「今すぐ消え失せろ・・これでも理解できないというなら、今度は命はないと思え・・・!」
倒れてうめく上級生たちに、結花が鋭い眼つきで言いかける。その言葉に恐れをなして、上級生たちが慌しく逃げ出した。
「あ、ありがとう・・・まさか助けてくれるなんて・・・」
「勘違いするな。私はお前を助けたつもりはない・・」
感謝の言葉をかける牧樹に、結花は突っ張った態度を見せる。そこへいじめられていた女子がやってきて、結花を見上げる。
「あ、ありがとうございます・・あなたにまで助けてもらって・・・」
「だから勘違いするな。私はお前たちを助けたつもりはない。単に目障りだっただけだ・・」
感謝の意を示す女子だが、結花はそれでも突っ張った態度を取るだけだった。
「私、萌木直美です・・あなたの名前、よろしいでしょうか・・・?」
「青山結花だ・・意気地のないヤツを見ると、腸が煮えくり返る・・・」
名を打ち明ける少女、直美に結花が鋭く言いかける。
「ちょっと!そんな言い方ってないじゃない!いじめられて辛い思いをしていたのに・・!」
牧樹が結花の態度に腹を立てる。だがそれでも結花は態度を改めない。
「弱い自分が悪い・・不条理は情け容赦なく襲い掛かってくる・・それを払いのけたいなら、強くなるしかない・・・」
結花は言いかけると、きびすを返して歩き出していった。
(そうだ・・あのとき、私に力があれば・・・)
昔のことを思い出し、結花が苛立ちを隠せなくなる。彼女は昔の無力な自分を嫌っていた。
「ちょっと結花!・・結花!」
不満の声を上げる牧樹だが、結花は立ち止まることなく去っていってしまった。
「結花・・・ゴメンね・・彼女、いつもあんな感じだから・・・」
牧樹が結花の変わりに、直美に謝る。だが直美は結花が立ち去ったほうを見つめて、呆然となっている。
「素敵です・・・結花さん・・・」
「えっ・・・!?」
直美が口にした言葉に、牧樹が驚きの声を上げる。
「あのようなクールな人、見たことがないです・・・結花さん・・・」
「あ、あの・・・」
結花に心を打たれて笑顔を浮かべる直美。有頂天になっている彼女に、牧樹は唖然となり言葉を失ってしまった。
牧樹と直美は校舎前の広場にやってきた。ぬらしたハンカチを傷口に当てて、牧樹が痛みを覚える。
「イタタタタ・・やっぱりムチャはいけないってことかな・・・」
「ごめんなさい・・私のために、ケガをさせてしまって・・・」
直美が沈痛の面持ちで牧樹に謝る。
「大丈夫、大丈夫・・このくらいのケガ、どうってことないよ。アハハハ・・・」
牧樹が照れ笑いを浮かべて弁解する。しかし直美の沈痛さは和らがなかった。
「私、いつもこんな感じなんです・・・今までもあんなふうにいじめられて・・・」
「どうして、誰かに相談しないの?・・どうして、いじめられるのを我慢してるの・・・?」
物悲しい笑みを浮かべる直美に、牧樹がおもむろに問いかける。その疑問に戸惑いを覚えるも、直美は再び物悲しい笑みを見せる。
「言ってもダメなんです・・先生もしっかり調べてくれないし、言えばもっといじめてくるから・・・」
直美の口にした言葉に、牧樹は当惑を覚える。
これが社会の現実だった。確固たる証拠がなければ上は動かない。しかも下手に動けばさらなるしっぺ返しを受けることになる。
その非情な現実に、いじめられる人はさらに勇気をなくしていくのだった。
「だったらもう、自分で勇気を持つしかないよ・・私も協力するから・・」
「えっ・・・?」
牧樹が切り出した言葉に、直美が戸惑いを覚える。
「まずは勇気を出して、逃げずに立ち向かっていくこと。前に一歩踏み込む勇気が、自分をどこまでも強くしていくんだよ・・」
「そういうものでしょうか・・・勇気を出したぐらいじゃ、どうにもならないこともあるのではないでしょうか・・・」
「直美ちゃん・・・」
あくまで勇気を持てない直美に、牧樹は困惑の色を隠せなくなっていた。直美の臆病は簡単に治せるほど浅はかなものではなかった。
その日の放課後、牧樹は零球山に向かうことにした。だがその入り口の近くで、彼女は直美と出会った。
「あれ?直美ちゃん・・」
「牧樹さん・・・牧樹さんがこの山に来るなんて・・・」
互いに当惑を覚える牧樹と直美。
「私はこの山にまつわる歴史を調べたくてね・・変わってるかな・・?」
「そんなことないです・・・私は散歩です・・この山で散歩すると、心が休まるんです・・・」
苦笑いを浮かべる牧樹に、直美が微笑んで頷く。
「だったら、私と一緒に山に入ろうよ。」
「えっ・・・?」
牧樹の誘いに直美が戸惑いを見せる。
「1人より2人のほうが絶対に楽しいから・・だからいいでしょ?」
「私は構わないんですが・・・」
直美の返事に牧樹が笑顔を見せた。2人は一緒に山の中に入っていく。
「さっきはゴメンね、偉そうなことを言っちゃって・・」
「さっき?・・・いえ、気にしないでください・・私が悪いのですから・・」
謝る牧樹に直美が弁解する。
「私の周りでもいじめがあったよ。ものを隠されたり壊されたり・・私はそれが許せなかった。立ち向かったり相談したりして・・私はこうして正解だったと思う。勇気が増えた気がするから・・」
「牧樹さん・・・」
「直美ちゃんもちゃんと持ってる・・どんなことにも負けない勇気を・・・」
牧樹の気持ちを受けて、直美が戸惑いを浮かべる。ここまで自分を信じてくれている相手に、彼女は困惑していた。
そのとき、牧樹たちは草が動く音を耳にして振り返る。2人は物陰に何かいると痛感する。
「何かいるの・・・姿を見せてよ!」
牧樹がたまらず声を張り上げる。すると頭を2つ持つ怪物が姿を現した。
「怪物!?・・もしかして、ハデス・・・!?」
そびえるように立ちはだかる怪物に、牧樹が声を荒げる。
(直美ちゃんの前じゃブレイドは使えない・・ここは逃げるしか・・・!)
「逃げよう、直美ちゃん!」
思い立った牧樹が直美を連れて駆け出す。だが怪物が長い尻尾を振りかざし、近くの岩場を吹き飛ばす。
「キャッ!」
地面を揺るがされて、牧樹と直美が転ぶ。そのとき、牧樹が右足を挫いて、痛みのあまりに顔を歪める。
「イタタ・・あ、足が・・・!」
「牧樹さん!大丈夫ですか、牧樹さん!?」
心配の声をかける直美だが、牧樹は右足を思うように動かすことができない。その彼女をハデスが狙いを定め、不気味な吐息をもらす。
「直美ちゃん、逃げて・・私は大丈夫だから・・・」
「ダメですよ!それでは牧樹さんが・・・!」
言いかける牧樹に、直美が悲痛の面持ちで首を横に振る。
「私はいいから・・直美ちゃんだけでも!」
たまらず声を張り上げる牧樹。困惑を浮かべていた直美だが、真剣な面持ちを見せて立ち上がり、ハデスに振り向く。
「私に優しくしてくれた牧樹さんに、危害は加えさせません・・・!」
直美が言い放った瞬間だった。彼女の右手に光の剣が握られる。その形状は十字架のようにも見て取れた。
「直美ちゃん・・あなた・・・!?」
牧樹は驚きを感じていた。直美もブレイディアの1人だった。
次回
牧樹「まさか直美ちゃんがブレイディアだったなんて・・」
結花「これは油断がならないぞ。」
牧樹「どういうこと?」
結花「純粋ゆえに悪いほうに染まりやすい。
真の敵かもしれないぞ・・」
直美「私、そんな勇気もないです・・・」