ブレイディアDELTA 第23話「揺れる思い、伝わる想い」
反逆の意思を示した牧樹は、ついにクリムゾンを手にかけた。事切れたクリムゾンを見下ろして、牧樹はブレイドを消した。
「あらあら。ずい分と思い切ったことをしているわね・・」
そこへ声がかかり、牧樹が視線を移す。その先には若菜が立っており、牧樹に向けて妖しい笑みを見せていた。
「あなたも私の邪魔をするの・・・?」
「そんな邪険にしないでよ。私もプルートの一員って思っていなかったんだから・・」
目つきを鋭くする牧樹だが、若菜は笑みを消さない。
「ただ・・1度楽しんでおこうと思ってね・・・」
若菜は言いかけると、自分のブレイドを手にする。
「起こって強くなるあなたの力、どういうものなのかを確かめたくなっちゃって・・・」
「ブレイディアは逃がさない・・・1人残らず、この手で倒す・・・!」
牧樹も鋭く言いかけてからブレイドを出す。崩壊を喫したプルート。その本拠地にある冥王の間にて、牧樹と若菜が戦いの火ぶたを切ろうとしていた。
休養を終えて退院を果たしたみなもは、問題なく学園に通うことができた。平穏な日常を取り戻したように見えた彼女だが、心には穴が開いていた。
その日常の中にライムはいない。その現実が呼ぶ悲しみが、みなもを今も苦しめていた。
「ここは・・・星川さん、答えてください。」
そこへしおんがみなもに声をかけてきた。しかしみなもは落ち込んだままである。
「みなもちゃん、呼ばれてるよ・・・」
「えっ・・・?」
秋葉に声をかけられて、みなもはようやく我に返った。
「星川さん、ここを答えてください・・」
「えっ!?あ、はいっ!」
再びしおんに声をかけられ、みなもは慌てて答えるのだった。
授業の後の休み時間になり、みなもは不甲斐ない自分に対してため息をついていた。そんな彼女に秋葉が声をかけてきた。
「大丈夫、みなもちゃん?」
「えぇ・・ごめんなさいね、秋葉・・見苦しいところをみせてしまって・・・」
秋葉に心配の声をかけられて、みなもが苦笑いを見せた。
「ライムちゃんのこと、気にしているんだね・・・」
秋葉がライムについて口にするが、みなもは何も答えない。
「あたしも辛いよ・・あたしに、もっと力があったなら・・・」
「秋葉が気に病むことはない・・秋葉もいつきも、できることを精一杯やっていたんだから・・・」
気落ちする秋葉にみなもが弁解を入れる。しかし2人ともライムのことを気にして、力なく肩を落とす。
「みなもちゃん・・ちょっといいかな・・・?」
そこへトオルが教室を訪れ、みなもに声をかけてきた。
「トオルさん・・・何でしょうか・・・?」
立ち上がったみなもが、トオルに歩み寄ってきた。
「みなもちゃん・・もし君がよければ、放課後に買い物に行かないかな・・・?」
「トオルさん・・・私は、構いませんが・・・」
トオルからの誘いを、みなもは戸惑いを見せながら受ける。
「いいなぁ、みなもちゃんは・・でもあたしは用事があるから行けないんだよねぇ〜・・」
秋葉がからかってくるようにみなもに近寄ってきた。
「だからみなもちゃん、2人で楽しんできてね♪」
「秋葉・・・ありがとう・・この埋め合わせはいつかするわね・・・」
上機嫌に声をかける秋葉に、みなもが感謝の言葉にかける。彼女に笑顔を見せると、秋葉はそそくさに自分の席に着いた。
「獅子堂さんも機転が利くようになりましたね・・」
そこへいつきが小声で話しかけてきた。
「あたしだって、みなもちゃんの気持ちぐらい分かるんだから・・・」
「私もみなもさんの心境を察しています・・これから牧樹さんの戦いが待っています・・今ぐらい、安らぐ時間を過ごしてあげないと・・・」
みなもとトオルのつかの間の安らぎを見守ろうとしていた秋葉といつき。トオルと約束を交わして、みなもは笑顔を取り戻した。
そしてその日の放課後、みなもはトオルとともに街に繰り出した。しかしみなもはトオルの気持ちを察して、沈痛さを募らせていた。
「それじゃ、まずはどこに行こうか?・・女の子だから、やっぱり洋服かアクセサリーに目が行くのかな・・?」
トオルが声をかけると、みなもが思いつめた面持ちを浮かべていることに気付く。
「やっぱり、まだライムのことを気にかけているんだね・・・?」
トオルが疑問を投げかけるが、みなもはうつむいたままだった。それを肯定と見て、トオルは話を続ける。
「今日、オレが君を誘ったのは、君に心から笑ってほしいと思ったからなんだよ・・それで、ライムも笑ってくれると思って・・・」
「ライムさん・・・私たちが笑えば、ライムさんも笑ってくれるでしょうか・・・?」
「笑ってくれるよ・・オレはそう思っている・・・」
戸惑いを浮かべるみなもに、トオルが微笑みかける。彼の言葉に勇気づけられて、みなもがようやく笑みを取り戻した。
「私もそう思います・・・実は病院でトオルさんに励まされたとき、ライムさんの姿を見たような気がしたんです・・」
みなもがライムの姿を見たときのことを、トオルに打ち明けた。
「そのときのライムさん、私が勇気を見せたことを喜んでいました・・ライムさんも、私たちが元気でいてくれることを、今でも願っていると思います・・・」
「ライムが・・・そんなことを・・・」
みなもが告白したことを聞いて、トオルが戸惑いを感じた。だが彼はすぐに笑顔を取り戻した。
「ライムだったら、そう願っていると思うよ・・・」
「トオルさん・・・」
「さて、もっと元気になるために、これから楽しんでいこう。今日はみなもちゃんに合わせるよ・・」
「トオルさんは、いつも私に合わせてくれていますよ・・・」
勇気と元気を取り戻したトオルとみなもが、改めて買い物に向かうのだった。
みなもは普段から優しくしてくれるトオルを気遣い、自分の趣味に合わせつつ、あまり高値でないものを選ぶようにした。
洋服を中心に買っていたみなもは、トオルに唐突に声をかけた。
「今度はトオルさんの服を選びましょうか。いつも私ばかりではいけないですから・・」
「そうかい?・・だったら、みなもちゃんに服を選んでもらおうかな。」
トオルが持ちかけた話に、みなもが戸惑いを覚える。
「大丈夫。みなもちゃんのセンスを信じているよ・・」
「トオルさん・・・分かりました。トオルさんに似合う服を選びますね・・・」
信頼を寄せるトオルに、みなもは喜びを膨らませた。
みなもとトオルのひと時の休息に対し、秋葉といつきは信頼を寄せていた。だが2人のことがどうしても気になってしまい、秋葉はいてもたってもいられなくなっていた。
「少しは落ち着いたらどうですか、獅子堂さん・・」
「だって気になっちゃって、気になっちゃって・・・」
呆れるいつきの前で、秋葉が悲鳴染みた声を上げる。
「私より先に気配りをしたのはあなたですよ。でしたら最後まで信じてあげてください・・」
「う〜、信じるよ〜、最後まで〜・・・」
微笑みかけるいつきに、秋葉は涙目で頷いた。
「それよりも、私たちも注意を怠らないようにしましょう・・いつ牧樹さんやプルート、他のブレイディアが襲ってくるか分かりません・・」
「うん・・でも、あたしたちで牧樹さんを止められるのかな・・・」
真剣な面持ちを見せたいつきの言葉を聞いて、秋葉が不安を浮かべる。
「不安になっているのは私も同じです。むしろ、みなもさんのほうが・・・だからこそ、私たちがしっかりしないと・・・」
「いつき・・・そうだね・・あたしたちがみなもちゃんを支えてあげないとね・・」
いつきに励まされて、秋葉が笑顔を取り戻す。
「次のプルートの襲撃に備えましょう。私たちも最善を尽くすのです・・」
いつきの呼びかけに秋葉が頷いた。
ひと通りの買い物を終えて、みなもとトオルは休憩を取っていた。
「ありがとう、みなもちゃん・・本当にセンスがよくて、オレも驚いてしまったよ・・」
「そんな、大げさですよ、トオルさん・・」
喜びの声を上げるトオルとみなも。みなもの選んだ服を、トオルは気に入っていた。
「元気が出たみたいだね、みなもちゃん・・よかったよ・・」
「そうですか・・そうならいいんですが・・・」
トオルが投げかけた言葉を受けて、みなもが微笑みかける。
「私、ライムさんを守れなかった責任を感じていました・・それで、トオルさんを守らなくちゃと思って・・・」
「みなもちゃん・・・オレはそんな・・・」
「でも、そんなことをしても誰も喜ばないし、自分も納得しない・・本当に大切なのは、自分が納得するように、正直になること・・・」
戸惑いを浮かべるトオルに、みなもが寄り添ってきた。
「トオルさん・・・私、トオルさんが好きです・・・親切で勇気のあるトオルさんが好きです・・・」
「みなもちゃん・・・」
自分の想いを告白してきたみなもに、トオルが戸惑いを募らせる。トオルはすぐに落ち着きを取り戻して、みなもを優しく抱きしめた。
「オレもみなもちゃんのことが好きだ・・いつでも真面目で、誰にでも親切にしているみなもちゃんの気持ちを、オレは受け止めるよ・・・」
「トオルさん・・・ありがとう、ございます・・・本当に・・本当に・・・」
トオルに想いが伝わったことを喜び、みなもは目に涙を浮かべる。泣きじゃくる彼女の髪を、トオルは優しく撫でた。
「もう自分の気持ちを貫いていけばいいよ・・みなもちゃんにはそれだけの心の強さがあるんだから・・・」
「もう大丈夫です、トオルさん・・・私、戦っていきます・・トオルさんやみんなを、みんなのいる場所を守るために・・・」
トオルに勇気づけられて、みなもが涙を拭う。
(牧樹さん、あなたには負けません・・怒りの先には悲しみしかないことを、私が伝えてみせます・・・)
決意を胸に秘めるみなも。彼女は牧樹と心から立ち向かおうとしていた。
買い物を楽しんで夕暮れ時に帰路についていたみなもとトオル。その途中、2人は秋葉といつきを発見した。
「あれ?秋葉といつき?・・2人も帰り道でしょうか・・・?」
疑問符を浮かべるみなもが、2人に駆け寄っていく。
「2人も帰りだったのね・・・秋葉、どうしたの・・・?」
みなもがさらに疑問符を浮かべる。秋葉は緊迫した表情を浮かべて、息を絶え絶えにしていた。
「獅子堂さん、みなもさんとトオルさんのことが気になってしまって・・我慢しているうちにこんな状態に・・」
いつきの説明を聞いて、みなもが呆れてため息をつく。
「もう、秋葉ったら・・・そんなに気を張り詰め過ぎたら、枯れ葉になってしまうわよ・・・」
「う〜、枯れ葉って言わないで〜・・・」
枯れ葉と言われたことに不満を浮かべる秋葉。
「そう心配しなくても、私たちは何もなかったから・・プルートにもブレイディアにも襲われていない・・」
「そう?・・それならいいんだけど・・・」
呆れ気味に説明するみなもに、秋葉がようやく安心する。力みすぎたために、秋葉が腰が抜けてしまう。
「本当に仕方がないんですから、獅子堂さんは・・・」
いつきも呆れて肩を落とす。3人のやり取りを見て、トオルは彼女たちに元気が戻ったことを確信していた。
「それじゃオレは帰るよ・・今日は本当にありがとう、みなもちゃん・・」
「はい、トオルさん・・今日は本当にありがとうございました・・・」
互いに感謝の言葉をかけ合うトオルとみなも。
(本当に感謝しています・・秋葉やいつき、そしてトオルさんがいてくれたから、私は怒りにも恐怖にも囚われずに済んだのですから・・・)
自分らしさと勇気を取り戻し、みなもは牧樹との戦いに備えるのだった。
牧樹に戦いを挑んだ若菜だが、兜を外した牧樹の力に次第に追い込まれていった。
「ちょっと・・シャレにならなくなってきたじゃない・・・」
「その程度で私に敵うと思っていたの?・・気まぐれで私の前に出てくるべきではなかったね・・・」
苦笑いを浮かべる若菜に、牧樹が冷淡に告げる。
「これだけ分かればもういいわ・・あまり刺激が強すぎても逆効果になっちゃうし・・」
若菜が退避しようとするが、牧樹に左腕をつかまれる。
「うわっ!」
牧樹にそのまま投げられ、激しく横転する若菜。さらに牧樹がブレイドを振り上げて衝撃波を放ち、若菜を吹き飛ばした。
立て続けに攻撃を受けたことで、体力を大きく消耗した若菜。立ち上がることもままならない彼女の前に、牧樹が立ちはだかった。
「もうあなたは、無事でいることも逃げることもできない・・・」
「それはちょっと勘弁してほしいわね!」
いきり立った若菜が素早く立ち上がる。その彼女に向けて、牧樹がブレイドを振りかざした。
牧樹の強烈な一閃が、若菜の持っていたブレイドを叩き折った。
「ウソ・・・!?」
「だから言ったでしょう・・無事でいることも逃げることもできないって・・・」
愕然となる若菜に、牧樹が冷徹に告げる。ブレイドを折られた若菜が力なく倒れ込む。
「こうなりたくなかったから、切りのいいところでやめるようにしていたのに・・・こんなんじゃとても楽しめないわよ・・・」
「そんな自分勝手な考えが、悲劇を呼び込むのよ・・・」
苦笑を浮かべる若菜に、牧樹が冷淡に告げる。ブレイドを失った若菜の体から、光の粒子があふれてくる。
「・・そういうあなたも、十分自分勝手に思えるけど・・・」
若菜が投げかけた言葉に、牧樹が目つきを鋭くする。
「あの子たちは手強いわよ・・私が言わなくても、あなたには十分分かってることだけどね・・・」
笑みを絶やすことなく、若菜は牧樹の前から消滅していった。
「・・・確かに手強い・・でも、それでも私を止めることはできない・・・」
若菜の言葉に対し、牧樹が冷淡と呟く。
「それに、手強いからこそ、その力を引き出す必要があるのよ・・今までそのために手を尽くしてきた・・・」
みなもを思い返して、牧樹がブレイドを持つ手に力を入れる。
「あなたの力を引き出す方法がなくなったわけではない・・あなたの力を引き出すためなら、私は手段を選ばない・・・」
信念を強める牧樹が、ブレイドを消して歩き出す。
「みなも、あなたは私と同じ・・強い力を持っていて、怒りによって力を発揮する・・あのときもそれが証明されている・・・」
牧樹はライムを殺されて怒りをあらわにしたみなもの姿を思い返す。怒りのままに力を発揮したみなもは、牧樹を攻撃することしか考えず、見境がなくなっていた。
「みなも、あなたは必ず、ブレイディアの悲劇を憎むようになる・・私のように・・・」
みなもを自分を継承する者に仕立てようとする牧樹。
「プルートは完全に叩き潰した・・あとはあそこ・・・」
さらに怒りと力を強めながら、牧樹は歩き出す。彼女は式部学園を、理事長であり戦乙女の舞の傍観者である大貴に狙いを向けた。
次回
いつき「いよいよ最終決戦に迎えようとしています。
私たちも活躍しなくては。」
秋葉「あたしも全然活躍していない・・
こうなったらしっかり決めちゃうんだから!
なんだったら主役を奪ってでも・・!」
いつき「獅子堂さん、気持ちは分かりますが、これはご法度です・・」
秋葉「う〜・・・」