ブレイディアDELTA 第22話「守リタイ・・・」

 

 

 突然の牧樹の出現。秋葉といつきに助けられて、みなもとトオルは病院の中に逃げ込んでいた。

「とりあえず中に逃げたけど、ここだと病院の人たちに危険が及ぶ・・外に出ましょう!」

「でも、秋葉ちゃんといつきさんが・・・!」

「私がブレイドを使って屋上まで一気に飛び上がります!そうすればすぐに2人を助けられます!」

 言葉を交わし合って、みなもとトオルが病院の出入り口に向かった。そして2人は裏口から外に出た。

 そのとき、その裏口の上の壁が突如爆発を起こした。その爆発から牧樹が飛び出し、みなもたちの前に降り立った。

「牧樹さん・・・!」

「逃がさない・・何もかも私を邪魔することはできない・・・」

 目を見開くみなもに、牧樹が低い声音で言いかける。

「2人は・・秋葉といつきはどうしたの!?

「2人は邪魔だからどかした・・それからどうなったのかは分からない・・・」

 問い詰めるみなもに、牧樹が淡々と答える。彼女はみなもではなく、トオルにブレイドの切っ先を向けてきた。

「力を出さないと、今度はその人が傷つくことになる・・・」

「やめて!トオルさんは関係ないでしょう!」

「なら力を出して・・でないと関係のない人まで傷つくことになる・・・」

 呼びかけるみなもだが、牧樹は聞き入れようとしない。

「簡単だよ・・あなたが力を出せばいいだけなんだから・・・」

「どうして・・どうしてそこまで人を傷つけるの!?・・・そんなことをして、あなたが大切にしているひとが喜ぶと思っているのですか・・・!?

「私の大切なものは消えてしまっている・・ブレイディアのせいで・・・」

 悲痛の声を上げるみなもに対し、牧樹が怒りを募らせて、ブレイドを持つ手に力を込める。

「ブレイディアを滅ぼす・・ブレイディアがいる限り、悲しみは消えないのよ・・・!」

 鋭く言いかける牧樹だが、突如みなもに飛びつかれた。

「それは違う!ブレイディアがいるから、悲しみが生まれるわけではない!」

「悲しみは全てブレイディアから生まれる!私はそれを体感している!」

「なら分かるでしょう!自分のしていることが、逆に悲しみを増やしていることを!」

「違う!全てはブレイディアが元凶なのよ!それはもうあなたも分かっているはず!」

 みなもに言い返すと、牧樹が膝蹴りを見舞う。体に膝蹴りを叩き込まれたみなもが怯み、続けて牧樹に投げ飛ばされる。

「あの子が消えたのも、あの子とあなた、そして私がブレイディアだったから!私がブレイディアに憎むように、あなたも私を憎むべきなのよ!」

「いいえ・・私はもう、憎しみのために、怒りのために戦わない・・それがどれだけ罪深く、どれだけ悲しく辛いことなのかを知っているから・・・」

「そう思い込もうとしても、悲しみが消えることはない・・・!」

 みなもの言葉を一蹴すると、牧樹が改めてブレイドの切っ先をトオルに向ける。

「力を見せないと、この人が傷つくことになる・・それがイヤなら、力を出して私を倒すしかない・・」

「そんなことしても、あなたの心は絶対に晴れない・・大切な人を失う悲しみは、あなたも分かっているはず・・・」

「だからこそのこの行動・・あなたはまだ、その悲しみを分かってはいない・・・」

 みなもの呼びかけを聞いても考えを変えない牧樹。牧樹はトオルに向かって歩を進めていく。

「もう理屈は無意味・・この人を助けたいなら、私を倒すしかないの・・・」

「これだけ言ってもダメだというの・・・そこまでトオルさんを傷つけようとするなら、あなたのしていることは正義でも復讐でもない・・・!」

 トオルに敵意を向ける牧樹に対し、みなもが低く告げる。

「復讐でも怒りでもない・・トオルさんを、みんなを守るために、私はあなたを倒す・・・!」

 言い放つみなもが右手を掲げる。その手の平から光が放たれた。

 光は剣へと形を変えて、みなもの手に握られる。彼女は勇気を振り絞って、ブレイドを具現化することができた。

「たとえ悪者と思われても・・・!」

「開き直り?・・どっちにしても、それではまだ足りない・・力も怒りも足りない・・・!」

 目つきを鋭くするみなもに対し、牧樹がトオルに向けてブレイドを振りかざす。だがみなもが飛び込み、牧樹が振り下ろしたブレイドを受け止める。

「足りないと言ったでしょう・・・!」

 だが牧樹の力にみなもは次第に押されていく。

「トオルさん、早く逃げて・・私は大丈夫ですから・・・!」

 みなもはトオルに呼びかけると、意識を集中してブレイドに力を込める。彼女は踏みとどまり、逆に牧樹を押し返していく。

「もっと怒りを見せて・・それでは私の怒りには勝てない・・・!」

 だが牧樹に振り切られて、みなもがなぎ払われて倒される。

「力は怒りによって引き出される・・怒りを見せないと、あなたは私には勝てない・・・!」

「そんなことはない・・怒りよりも、真っ直ぐな気持ちのほうが強くなれる・・・」

 牧樹に言い返し、みなもが立ち上がる。

「私はトオルさんを守り、あなたを倒す・・悲しみを生み出す敵として、あなたを倒す・・・!」

「現実から目を背けないで・・あなたはあの子を私に殺され、私に怒って力を発揮したのは間違いないんだから・・・」

「いいえ・・私は怒りや憎しみで戦わない・・守りたいという気持ちで、私は戦っていく・・・!」

 信念を見せるみなもがブレイドを構えて、牧樹を鋭く見据える。

「それで突っ込むにしてもブレイドを伸ばすにしても、私には勝てない・・あなたが負けることになる・・・」

 牧樹が忠告を送るが、みなもは構えを解かない。

「私は負けない・・自分のしていることを棚に上げて、悲しみの原因を他に押しつける人には・・・!」

 みなもは牧樹に言い放つと、ブレイドを逆にして地面に突き立てた。直後にブレイドの刀身を伸ばし、その勢いを利用して大きく飛び上がった。

 上空まで飛んだみなもが、落下の勢いを利用して牧樹に突っ込もうとしていた。

「それでもダメよ・・勢いがあっても真っ直ぐに来ることは分かっている・・・」

 牧樹がみなもを迎撃しようとブレイドを構える。だがみなもは体勢を変えることなく牧樹に向かっていく。

(ブレイド・・もっと大きく・・もっと力強く・・・!)

 みなもが自分のブレイドに意識を集中する。すると彼女の持つブレイドが巨大に、さらに頑丈となった。

 虚を突かれた牧樹に向けて、巨大なブレイドが叩き込まれた。その巨大さと落下の勢いから、大きな砂煙が舞い上がった。

 ブレイドを元に戻して体勢を整えるみなも。着地した彼女にトオルが駆け寄ってきた。

「みなもちゃん、大丈夫!?

「トオルさん・・・私は大丈夫です・・でも、まだ逃げたほうがいいです・・・!」

 声をかけるトオルに、みなもが緊張を解かずに呼びかける。

「今の攻撃は自分でもすごかったと思う・・でもこれで牧樹さんが倒れたとは思えません・・・」

「そう・・私は負けない・・負けるわけにはいかない・・・」

 そのとき、砂煙が突然切り裂かれてかき消された。姿を見せた牧樹は、身に着けていた鎧を全て外していた。

「正直、全開になっていなかったら危なかった・・私にも負けず劣らずのあなたの力・・間違いじゃなかった・・・」

「すごい力・・これが、牧樹さんの本当の力・・・!」

 全ての力を解放した牧樹の力に、みなもが緊迫を覚える。牧樹の体からあふれてくる力の奔流が、周囲の草木や壁を壊していた。これは彼女の意思に関係なくあふれていたものだった。

「でもまだ・・怒りを見せないと、私を倒すことはできない・・・」

「もうよせ、ブラッド!」

 そのとき、牧樹に向けて声がかかった。彼女の後方にはクリムゾンの姿があった。

「あなたは、プルートのクリムゾン・・・!」

「ここで力を全開にするな、ブラッド!ブレイディアだけでなく、全てを破壊するつもりか!?

 声を上げるみなもの前で、クリムゾンが牧樹に呼びかける。しかし牧樹は聞き入れようとしない。

「ブレイディアを滅ぼすためなら、私は手段を選ばない・・邪魔をするなら、あなたたちでも容赦はしない・・・」

「・・我々に牙を向けてまで、ブレイディア打倒に執着するか・・・ならばやむを得ない・・・」

 牧樹の意思に懸念を抱いたクリムゾンが、取り出したスイッチを押す。すると牧樹が全身に駆け巡ったショックで、突然意識を失って倒れた。

「あなた、牧樹さんに何を・・!?

「体内に小型の電気ショック装置を入れている。どのような力の持ち主であろうと、気絶させることができる・・」

 みなもに答えて、クリムゾンが倒れている牧樹を抱える。

「次だ・・次にお前たちが会うとき、ブラッドは全力で戦うことになる・・そのときを覚悟していてもらおう・・・」

 クリムゾンがみなもに忠告すると、牧樹を連れて去っていった。余力が残っていなかったみなもは、クリムゾンを追うことができなかった。

「みなもちゃん!」

 そこへ秋葉がいつきとともに駆け付けてきた。

「秋葉、いつき・・無事だったのね・・・」

「うん・・一応無事なんだけど、さっきまで気を失ってたよ・・・」

 安堵の笑みを浮かべたみなもに、秋葉が苦笑いを浮かべた。

「先ほど、ものすごい力を感じました・・牧樹さんのものですね・・・?」

 いつきが問いかけると、みなもが小さく頷く。

「あれだけの力を、怒りによって発揮する・・最悪、その力でこの清和島さえ崩壊させてしまうのでは・・・」

 みなもが不安の言葉を口にしたときだった。彼女が突然意識を失い、その場に倒れ込んだ。

「みなもちゃん!」

「みなもさん!」

 慌ててみなもを受け止める秋葉といつき。緊張が解けたことでみなもは気を緩み、そのまま意識を失ってしまったのである。

「あれほどの力を出した牧樹さんが相手だったのです・・意識を保つことだけでも精一杯だったのでしょう・・・」

 眠りについたみなもの顔を見て、いつきが呟きかける。みなもは病院にて休養を取ることとなった。

 

 クリムゾンによって気絶させられた牧樹は、プルート本拠地の独房の中で目を覚ました。彼女は力を封じる鎧を着させられていた。

「私は・・力を全開にしたはず・・・」

“意識を取り戻したか、ブラッド・・”

 呟きかける牧樹に向けて、クリムゾンの声がかかる。

「クリムゾン・・これはどういうこと・・・!?

“それはこちらのセリフだ、ブラッド・・勝手が過ぎたな・・”

 目を見開く牧樹に、クリムゾンが淡々と語りかける。

“お前は我々プルートの手中だ。力は確実に全てを破壊できるほどにまで跳ね上がっているが、それをいつまでも野放しにすると思っていたのか?”

「そのために、私に・・・!?

“お前との距離を取っていれば、お前はプルートという檻にいる鳥にすぎない。その気になれば、我々はお前を操り人形にできることを忘れるな・・”

 クリムゾンに冷徹に告げられる牧樹。彼女の中にさらなる憎悪が芽生えつつあった。

 

 結花のいる病室のベットにて、みなもは目を覚ました。彼女が突然飛び起きたため、そばにいた秋葉が驚きを見せる。

「ビックリした〜・・驚かさないでよ、みなもちゃ〜ん・・・」

「私・・・ここは・・・?」

 安堵を浮かべる秋葉と、疑問符を浮かべるみなも。

「結花さんの病室です。先ほど意識を失って・・・」

「驚いたぞ・・いきなりここに駆け込んできたのだからな・・せっかく寝ていたところを叩き起こして・・・」

 事情を説明するいつきと、半ば呆れている結花。

「すみませんでした・・ですがもしもみなもさんに何かあっては・・・でもどうやら体力の消耗が激しかっただけでしたので・・・」

 結花に謝意を見せつつ、笑みを見せるいつき。だが彼女はすぐに真剣な面持ちに戻る。

「また牧樹さんが狙ってくるでしょう・・怒りによってみなもさんの力を引き出すために・・・」

「私、もう迷いません・・牧樹さんがみんなを傷つけようとするなら、たとえ悪者と思われても、私は・・・」

 いつきに続いてみなもも言いかける。すると秋葉が彼女に笑顔を見せてきた。

「大丈夫だよ、みなもちゃん・・あたしたちも一緒にいるから・・」

「私もみなもさんをサポートしていきます。ですから、あまり思いつめることはないですよ・・」

 秋葉に続いていつきも優しく声をかける。

「秋葉・・いつき・・・ありがとう・・・」

「オレも、みなもちゃんが辛そうになったら、しっかり支えるから・・・」

 トオルがみなもに向けて手を差し伸べてきた。

「トオルさん・・・本当に・・本当にありがとう、ございます・・・」

 喜びを募らせるみなもが、トオルの手を取った。

(信じるのよ・・私の力を・・私を信じてくれているみんなを・・・そして、勇気を振り絞って、これからも戦っていくのよ・・・)

 自分に言い聞かせて、誓いを立てるみなも。彼女から、ブレイドに対する恐怖や迷いが払しょくされていた。

 

 独断の行動を続ける上に封じていた力を全開させた牧樹に、クリムゾンは手を焼かされていた。

(一時は沈静化させたが、ブラッドがいつ謀反を起こすか分からない・・早急に手を打たなければならない・・・)

 牧樹に対して懸念を募らせるクリムゾン。

(最悪、プルートが壊滅に追い込まれることになりかねない・・すぐに対策を・・・)

 そのとき、クリムゾンに向けて通信が入ってきた。

「どうした?」

“大変です!ブラッドが独房から脱出して、機器を次々と破壊しています!”

 研究員からの報告を聞いて、クリムゾンが緊迫を覚える。

「すぐに位置を特定!ただし絶対に手を出すな!」

“了解!”

 クリムゾンの命令に研究員が答える。

(ブラッド、まだ己の野心のために行動して・・・!)

 牧樹の行動に怒りを覚えるクリムゾン。彼は部下からの連絡と情報から、牧樹のいる場所に向かっていった。

 そこは冥王の間だった。

「そこにいたか、ブラッド・・プルートに刃向かうつもりか・・・!?

 クリムゾンが鋭く声をかけると、牧樹がゆっくりと振り向いてきた。

「私は最初からあなたたちの仲間や部下になったつもりはない・・ブレイディアと滅ぼすために利用していただけ・・・」

「お前は我々の施しを受けている。先ほどのように、お前は我々に逆らうことは許されない・・」

「許さないのはこっちのほう・・私を止めることはできない・・あなたたちも、私自身にも・・・」

「そこまで言うなら、多少力が衰えても仕方がない・・お前の心を破壊して、操り人形として利用してくれる・・・」

 牧樹の言動を危惧したクリムゾンが、彼女の体に埋め込んでいる電気ショック装置のスイッチを入れた。これにより、牧樹は電気ショックにより気絶するはずだった。

 だがクリムゾンがスイッチを入れても、牧樹は倒れない。

「何っ・・・!?

 目を見開いたクリムゾンが立て続けにスイッチを押すが、それでも牧樹は立っていた。

「どういうことだ!?たとえお前でも、気絶は避けられないはず!?

「その装置は、怒りによって増した私の力で消したわ・・」

 驚愕するクリムゾンに、牧樹が低く告げる。

「バカな!?装置は心臓に直結されている!・・・ブラッドの怒りは、心臓をも超える原動力となっているというのか・・・!?

 愕然となるクリムゾンに、牧樹がブレイドの切っ先を向ける。

「あなたも私の邪魔をする敵でしかない・・だからあなたを倒すことに躊躇しない・・・!」

 クリムゾンへの敵意を見せつける牧樹。そこへ黒ずくめの男たちが駆け付け、牧樹に向けて銃を構える。

「ブレイディアだけじゃない・・私の邪魔をするものは全部、私が滅ぼす!」

 言い放つ牧樹からエネルギーが放出される。その衝撃波で、男たちが全員吹き飛ばされ、クリムゾンも横転する。

 立ち上がろうとしたクリムゾンの眼前に、牧樹が立ちはだかった。

「自分の思い通りにするには、そうあろうとする気持ちと覚悟が必要なの・・それがないあなたに、私を縛ることはできない・・・!」

 目を見開いた牧樹が、クリムゾンに向けてブレイドを振り下ろした。

 

 

次回

第23話「揺れる思い、伝わる想い」

 

牧樹「とうとうプルートが私のものに・・

   これからどんどん勢力を拡大していくわよ・・・!

   いつかは世界征服も・・・!」

みなも「ま、牧樹さん・・・」

結花「違う意味で、間違った方向に進んでいるぞ・・・」

牧樹「う、う〜・・・」

 

 

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