ブレイディアDELTA 第21話「強さの証明」
突如襲撃してきた若菜に追い詰められるみなもとトオル。若菜がみなもに向けてブレイドを振りかざしてきた。
そこへ秋葉が駆け付け、ブレイドで若菜の攻撃を受け止めてきた。
「大丈夫、みなもちゃん!?」
「秋葉・・・!」
声をかけてくる秋葉に、みなもが戸惑いを見せる。
「あらあら。邪魔が入っちゃったね・・でも、あなたの相手をするほうが面白いかも・・」
若菜が秋葉を見つめて笑みをこぼす。遅れていつきもみなもたちの前に駆け付けてきた。
「いつきも・・どうしてここが・・・!?」
「不本意ではありましたが、みなもさんの靴に発信機を仕込ませていただきました。この清和島にいる限りは確実にこちらとの電波の直結が可能ですので、すぐに居場所が把握できました。」
疑問を投げかけるみなもに、いつきが真剣な面持ちで答える。
「ここはあたしに任せて!いつきはみなもちゃんとトオルさんを連れて、ここから離れて!」
「分かりました!獅子堂さんも気をつけて!」
秋葉の呼びかけにいつきが答える。
「みなもさん、トオルさん、行きましょう!」
「でも、それでは秋葉が・・・」
「今のあなたはとても戦える状態ではありません!ここは獅子堂さんに任せるのです!」
いつきに呼びかけられて、みなもがトオルとともに逃げ出していった。2人が離れたのを確かめてから、いつきも秋葉と若菜から離れていった。
「別に慌てなくていいよ。もう追いかけるつもりはないから・・」
「追いかけようとしても追わなくても、これ以上アンタの勝手にはさせないんだから!」
悠然と声をかけてくる若菜に、秋葉が叫ぶように言い放つ。2人が同時に飛び出し、互いのブレイドをぶつけ合った。
いつきに連れられて、みなもとトオルは病院に逃げ込んでいた。3人は結花と一矢のいる病室に来ていた。
「ここならまず大丈夫です・・私は獅子堂さんのところに戻りますので、みなもさんたちはここにいてください・・・」
いつきはみなもたちに言いかけると、秋葉を助けるために再び外に飛び出した。彼女の姿が見えなくなったところで、みなもが沈痛の面持ちを浮かべる。
「何があった?よければ話してくれないか・・?」
結花がみなもに向けて声をかけてきた。しかしみなもは思いつめたまま、答えようとしない。
「実はみなもちゃん、戦うのを怖がって・・・」
結花の問いかけに答えたのはトオルだった。彼の言葉を聞いて、結花が眉をひそめる。
「戦うのが怖いか・・誰かを傷つける自分が怖いか・・・」
結花が投げかけた言葉を聞いても、みなもは何も答えない。
「実は私も、ブレイドを使うことを怖がったことがあったんだ・・・」
「結花、さんも・・・?」
結花の告白にみなもが戸惑いを見せる。
「私は復讐のために悲劇を引き起こした・・牧樹に怒りを植え付け、破壊者に仕向けてしまった・・同じ過ちを繰り返してしまうという気持ちが心の奥で生まれ、私は無意識にブレイドを拒絶してしまった・・今のお前と違い、戦おうとする気持ちは表向きにはあったのに・・・」
「それで、結花さんはどうやってブレイドをもう1度出したのですか・・・?」
「・・・答えてもいいんだが、今ここで話しても、お前のためにならないと思う・・・」
みなもが訊ねてくるが、結花はそれ以上のことを話そうとしない。話してもみなもが再び戦えるようになるとは限らない。彼女のためにならないと、結花は考えていた。
「これはお前自身で何とかするしかない・・私や他のヤツが励ますことはできるが、最終的にはお前が乗り越えるしかない・・・」
「私が乗り越える・・・でも、私は・・・」
結花に後押しされるみなもだが、まだ自分への恐怖にさいなまれていた。割り切ることができず、彼女はおもむろに病室を出た。
「みなもちゃん・・・」
トオルが当惑しながらみなもを追いかけていった。2人が見えなくなったところで、一矢が肩を落とす。
「何でハッキリ言ってやらないんだ?もったいぶってる状況じゃないのは、オレよりも結花のほうが分かってるだろう・・」
「ハッキリ言って何とかなるなら、迷うことなく言っている。それで何ともならないから言わないんだ・・」
一矢が口にした苦言に、結花が淡々と言葉を返す。
「取り返しがつかなくなっても知らないぞ・・」
「心配するな。みなもは弱いヤツではない。自分に溺れるヤツでも、自分に過剰に怯えるヤツでもない・・」
呆れ果てる一矢だが、結花はみなもを信じていた。
「どちらにしろ、今の私は肉体的に戦うことができない・・ここは、みなもたちを信じるしかない・・・」
「オレは肉体的にも精神的にも戦えないけどな・・・」
真剣な面持ちを浮かべる結花に、一矢が呆れ果てていた。
みなもたちを守るために、果敢に若菜に立ち向かう秋葉。だが若菜に軽々と攻撃を防御、回避されていた。
「もうちょっと楽しませてよ・・最初に会った頃のあの子のほうがまだ楽しめたわよ・・」
挑発を投げかける若菜に対し、秋葉は焦りを感じていた。
(逃げたほうがいいけど・・ここで逃げてもまたみなもちゃんたちを狙ってくる・・そうなる前に、ここであたしが・・・!)
秋葉が意を決して、ブレイドを構えて若菜を見据える。
「全力全開!」
秋葉が全速力で飛び出し、若菜に向けてブレイドを突き出した。だが若菜はジャンプして、秋葉の突進をかわした。
「えっ!?」
「怖い怖い。当たったら確実にやられちゃうねぇ・・」
驚きの声を上げる秋葉に、若菜が笑みをこぼす。彼女が秋葉に向けてブレイドを振り下ろす。
そこへ戻ってきたいつきが飛び込み、若菜を横から突き飛ばした。
「いつき!」
声を上げる秋葉の前に、いつきが着地した。若菜もすぐに態勢を整えて着地する。
「ケガはありませんか、獅子堂さん!?」
「うん・・危ないところだったけどね・・」
呼びかけてくるいつきに、秋葉が安堵の笑みをこぼす。
「ここは撤退しましょう・・あなたもみなもさんも万全ではありませんから・・!」
いつきは秋葉に呼びかけてから、ブレイドで地面を切りつけた。砂煙を巻き上げられて、若菜は視界をさえぎられる。
「とりあえず終わりかぁ・・今度はもっと楽しめるようにしないと・・」
若菜はため息交じりに呟くと、ブレイドを消して立ち去っていった。
いつきに助けられて、難を逃れた秋葉。2人は病院に、結花と一矢のいる病室に戻ってきた。
「秋葉、いつき・・無事だったのか・・・」
「あたしは大丈夫ですよ、結花さん・・でもそれ以上に、みなもちゃんが無事だったのがよかった・・・」
互いに安堵を浮かべる結花と秋葉。
「みなもちゃんとトオルさんは・・・?」
「今は屋上にいる・・声をかけるのは今は控えてくれ・・・」
問いかけるみなもに結花が呼びかける。
「でも今のみなもちゃん、もしかしたら突然いなくなっちゃうかもしれない・・せめて見張っていないと・・」
「でしたら私も一緒に・・獅子堂さんだけですと、すぐに見つかってしまいますので・・・」
「う〜、いつきのいじわる〜・・・」
みなもを見張ろうとする秋葉だが、いつきが投げかけた言葉に落ち込んだ。
あかねを守るために決死の戦いを挑むかなえ。だが牧樹に太刀打ちできずにいた。
「そんな・・攻撃が全然通じないなんて・・・!」
「ムダよ・・誰だろうと、私を止めることはできない・・ブレイディアは全て私が倒す・・・」
うめくかなえに牧樹が低く告げる。
「これで終わりよ・・あなたのお姉さんも、すぐにあなたのところに送るから・・・」
牧樹がかなえを鋭く見据えて、ブレイドを高らかに振り上げる。
そのとき、牧樹が後ろから突然突き飛ばされた。驚きを覚えるかなえの視界に入ってきたのは、あかねだった。
「お姉ちゃん・・・!?」
「さすがにブレイディアの力を抑えて近づけば、あなたに気付かれなかったわね・・」
声を荒げるかなえの前で、あかねが不敵な笑みを見せる。
「ダメだよ、お姉ちゃん・・まだケガが治っていないのに・・・」
「私を甘く見ないの。このくらいのケガなんてかすり傷と一緒よ。それに何度も言わせないで・・」
心配の声を上げるかなえに、あかねが笑みを向けてくる。
「あなたを守れるのは私だけだということを・・・!」
あかねがブレイドを手にして、牧樹に向かっていく。牧樹はあかねを見据えたまま、兜を外して力を解放する。
「ブレイディアは全員倒す・・全員私が・・・!」
あかねが振りかざしてきたブレイドを、牧樹が自分のブレイドを振りかざして打ち砕いた。
「お姉ちゃん!」
悲鳴を上げるかなえの前で、あかねが力なくひざをついた。自分のブレイドを消した牧樹が、外した兜を持って去っていった。
「お姉ちゃん!イヤだよ、お姉ちゃん!消えないで!」
「かなえ・・とことんバカなことを言うのね・・・そんなことを言わなくても、私は消えたりしない・・・」
声を張り上げるかなえに、あかねが弱々しく言いかける。彼女の体から光の粒子があふれていた。
「私は負けない・・かなえがいるから・・私は強くなれるのだから・・・」
あかねが口にした言葉に、かなえが戸惑いを覚える。彼女は改めて姉に大切にされていることを実感した。
だが次の瞬間、あかねが光となってかなえの眼前から消えていった。この瞬間にかなえは目を疑った。
「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん!」
心から大切にしていた姉を失い、かなえが悲しみと絶望に打ちひしがれた。
気持ちの整理がつかないまま、病院の屋上に出ていたみなも。落ち込んでいる彼女を、トオルが支えていた。
「私、これからどうしたらいいのでしょうか?・・・自分の気持ちも分からなくなっている・・・」
トオルに向けて不安を口にするみなも。
「自分自身のため、みんなのために何とかしないといけないと思っている・・でも私が戦えば、みんなを傷つけてしまう・・今度は、トオルさんまで・・・」
「みなもちゃんは、オレやみんなを傷つけたくないと思っているんだよね・・・?」
震えるみなもに向けて、トオルが優しく声をかける。
「みなもちゃんはみんなのことを大切にしたいと思っている。だからみんなを傷つける自分が怖い・・そうなんだね・・・?」
「トオルさん・・・それは、そうですけど・・・」
「だったら、みんなを傷つけないように注意することもできるんじゃないかな?・・みなもちゃん、しっかり者だから・・・」
トオルのこの言葉を受けて、みなもが戸惑いを覚える。彼女はこれまでの自分を思い返していった。
「そう・・私がきちんとしていれば、私が私でいようとするなら、傷つけてしまうことはなくなる・・・」
「自分を見失わないで・・自分を信じるんだ・・オレたちが、みなもちゃんを信じているように・・・」
トオルが震えているみなもを優しく抱きしめる。彼からの抱擁に、みなもの心が揺れ動いていく。
「でももし、また誰かを傷つけてしまったら・・・」
「みなもちゃんが傷つけたくないと願うなら、みんな傷つかない・・みんなを守れる・・・」
さらに不安を見せるみなもを、トオルが強く抱きしめてくる。
「君を信じさせてくれ、みなもちゃん・・だからみなもちゃん、自分を信じて・・・!」
「トオルさん・・・私・・私は・・・!」
トオルの率直な気持ちに、みなもは涙を浮かべていた。
そのとき、みなもはライムの姿を目にしたような気がした。
(ライム・・・!?)
みなもはそのライムの姿に目を疑った。だがライムはみなもに向けて笑顔を見せていた。
「あなたを信じていますよ・・みなもさん・・・」
(ライム・・・)
優しく言いかけるライムに、みなもが戸惑いを募らせる。次の瞬間、ライムは霧のように姿を消していった。
(ライム・・・ありがとう・・・)
心の中でライムへの感謝を告げるみなも。彼女はようやく、心からの笑顔を見せることができた。
「トオルさん・・・自分を、信じてみたいと思います・・・」
「みなもちゃん・・・ありがとう・・・」
言葉を投げかけたみなもに、トオルが感謝の言葉をかける。
「秋葉といつき、隠れているのは分かっているのよ・・相変わらず盗み見なんてして・・」
みなもがトオルから離れたところで、屋上の出入り口の陰に隠れている秋葉といつきに声をかけた。気付かれた2人が慌ただしく姿を見せた。
「い・・いつものみなもちゃんに戻ったみたいだね・・・」
「まだ、確信できるところまでは来ていません・・油断してはいけません・・・」
倒れ込んだところで呟くように言いかける秋葉といつき。
(まだ安心していいわけじゃない・・自分でブレイドを出せるようにならないと・・・)
自分の気持ちを確かめるみなもが、自分の右手を広げて見つめる。決意を秘めた彼女は、その手を握り締めた。
そのとき、みなも、秋葉、いつきが強烈な気配を感じて緊迫を覚える。
「この気配は・・・!」
声を振り絞るいつきが振り返った先には、兜を外した牧樹がいた。
「牧樹さん・・・!」
「怒りに身を委ねて、みなも・・力は怒りによって解放される・・・」
緊迫を膨らませるみなもに、牧樹が低く告げる。
「みなもちゃんはトオルさんを連れて逃げて!ここはあたしが食い止めるから!」
秋葉がブレイドを出して、牧樹の前に立ちはだかる。
「ダメよ、秋葉!それでは秋葉が!」
「獅子堂さんには私がついています!」
声を荒げるみなもに、いつきが続けて呼びかける。
「2人がかりでも危険よ!大人数でかかれば勝てるような相手ではないことは、あなたたちにも・・!」
「そんなことは私たちも分かっています!」
みなもに言い返して、いつきもブレイドを手にする。
「みなもさんが私たちを大切にしているように、私たちもみなもさんを大切にしている・・そのことを忘れないでください・・」
「それに、あたしたちは死んだりしない・・みなもちゃんやみんなを悲しませるようなことは、絶対にしない・・・」
いつきと秋葉に励まされて、みなもは2人の言葉を受け入れることにした。
「行きましょう、トオルさん!」
「う、うん・・」
みなもがトオルの手を取って、屋上から病院の中に入っていく。
(そう・・あの人がみなもの大切な人・・・)
2人の後ろ姿を見て、牧樹が心の中で呟く。
「あの人を手にかければ、みなもは今度こそ怒りと力を発揮する・・・」
狙いを定めた牧樹が、ブレイドを手にして歩き出す。
「行かせない!」
秋葉がいつきとともに牧樹に立ち向かっていく。だが牧樹が発した力による衝撃波で、2人とも吹き飛ばされて横転する。
「邪魔をしないで・・あなたたちは後で倒すから・・・」
牧樹は低く告げると、秋葉といつきに背を向けて病院へと踏み込んでいく。彼女はみなもの怒りと力を引き出すため、トオルに狙いを定めていた。
次回
秋葉「みなもちゃんに勇気を与えるために、あたしたちも頑張らないと!」
いつき「ではまず、獅子堂さんの苦手なものを克服しましょう。」
秋葉「えっ!?トマト!?」
いつき「苦手なものを克服することも、みなさんの勇気につながるのです!」
秋葉「苦手なものは苦手なんだよー!」