ブレイディアDELTA 第19話「暴走」
牧樹の手にかかり、ブレイドを折られたライムは光となって消滅した。彼女の死にみなもが怒りを爆発させる。
「許さない・・・あなただけは、絶対に許さない!」
憤怒をあらわにして、みなもが牧樹に飛びかかる。みなもは力を込めて、牧樹に向けてブレイドを振りかざす。
自分のブレイドで攻撃を防ぐ牧樹だが、みなもの力に徐々に押されていく。
「そうよ!それを待っていた!あなたも激しい怒りで力を発揮している!」
牧樹は怒りと力を見せつけてくるみなもを喜んでいた。激怒のために力任せに攻め立てるみなもから、牧樹は下がって距離を取る。
「力を強くする方法は怒り!あなたも怒りで力を発揮している!」
牧樹が鎧に手をかけ、みなもの眼前で外す。抑え付けられていた彼女の力がさらに解放され、衝撃や地割れを引き起こしていた。
「私が憎いなら力を上げろ!その程度ではまだ足りない!」
「赤澤牧樹!」
みなもが怒りのままに牧樹に攻撃を仕掛ける。彼女の振るうブレイドが、怒りに呼応するように揺れ動いていた。
「もう甘い考えはいらない!ライムさんを殺したお前を、私は絶対に許さない!」
ひたすら叫び、ブレイドを振りかざすみなも。彼女と牧樹の剣のぶつかり合いは、周囲にも影響をもたらしていた。
牧樹とみなもの激突は、大貴と要も気付いていた。
「まさか、みなもちゃんも・・・」
「あのときの牧樹さんと同じです・・今のみなもさんは、怒りで我を忘れて、なりふり構わずに牧樹さんを攻撃してきています・・」
戦況を注視する大貴と、不安を浮かべる要。2人が窓越しに見つめる外では、みなもと牧樹の戦いでの影響が垣間見えていた。
「2つの巨大な力の激突は、相応の影響ももたらします。これ以上拡大すれば、ここも無事では済まないでしょう・・」
「それもそうだね・・とりあえず上で続きを見ようか・・すぐに逃げられるように・・」
要の助言を聞き入れて、大貴は理事長室を出る決心をした。
襲い来るゾンビたちを迎え撃つ秋葉といつき。体力を消耗し、2人は焦りを膨らませていた。
「倒してもきりがない・・次々に出てくる・・・!」
「みなもちゃんとライムちゃん、トオルさんが心配だよ・・急いでみんなと合流したいのに・・・!」
打開の糸口を探るいつきと秋葉。だがゾンビたちはまだ数を残していた。
そのとき、突如起こった爆発に気付き、秋葉といつきが振り返る。
「何、コレ・・・!?」
「あの方角は女子寮のほうです・・みなもさんとライムさんに何かあったのでは・・!?」
一抹の不安を感じた2人が、力を振り絞ってゾンビたちの群れをかき分けていく。
「ここで足止めをされている場合ではありません!」
「もう強行突破するしかないね!」
言い放ついつきと秋葉が、女子寮に向かって駆け出していった。
ライムを殺された怒りに駆られて、みなもは牧樹への攻撃を続けていた。だが彼女が振るうブレイドの力は、確実に周囲の草木や建物に被害をもたらしていた。
「それでいい・・あなたのその力は、ブレイディアを滅ぼすカギになる・・・!」
牧樹はみなもの怒りと力を垣間見て、喜びを感じていた。
「赤澤牧樹・・あなたがライムを・・ライムを!」
みなもが叫びながら牧樹に飛びかかる。2人のブレイドの衝突で、周囲には嵐のような衝撃が放たれていた。
そこへ結花が駆け付け、みなもの怒れる姿を目にして緊迫を覚える。
(みなも・・まさか、ライムがやられたのか・・・!?)
「やめろ、みなも!1度ブレイドを消せ!」
状況を把握した結花が呼びかける。だがみなもには届いていない。
「くそっ!怒りが増し過ぎて、周りからの声や状況に気付いていない!力ずくで止めるしかないか・・!」
毒づく結花がみなもに近づいて止めようとする。だがみなもと牧樹のぶつかり合いがすさまじく、結花は迂闊に近づけなかった。
「やめろ、みなも!何もかも無茶苦茶にするつもりか!?」
結花が再び声を張り上げたところで、みなもと牧樹が距離を取って互いを見据える。だが牧樹が結花に気付いて、視線だけを向けてきた。
「結花・・星川みなもも、怒りで力を上げるようになった・・あのときの私のように・・」
「何をバカなことを!牧樹、復讐と怒りがもたらす悲劇がどれほど心を傷つけるか、お前も分かっているだろう!それなのにお前は同じことを繰り返して・・!」
「その悲劇を起こしたのは結花じゃない!」
声を上げる結花に、牧樹が感情を込めて言い返す。
「あなたのせいで私は・・何もかも狂わされた・・・あなたのせいで!」
「ならば私を狙えばいいだろう!関係ないみなもまで苦しめて・・!」
「でもあなただけ倒せば済むことではないと分かっている・・私はブレイディアを滅ぼす・・1人だって逃がさない・・・!」
「そこまで腐ってしまったというのか・・私がお前をそうさせた・・私が・・・!」
ブレイディア全てに敵意を向ける牧樹に、結花は歯がゆさを見せる。
「あなたの相手は私だ!」
そのとき、みなもが牧樹に向かって飛びかかってきた。彼女が振り下ろしたブレイドを、牧樹は後退してかわす。
「逃げるな!」
みなもが追撃を仕掛けようとしたとき、結花が彼女を後ろから捕まえてきた。
「やめろ、みなも!落ち着け!」
「放して、結花さん!あの人がライムさんを!」
間近で呼びかける結花を、みなもが怒りのままに振り払おうとする。
「今のお前は怒りに駆られ、牧樹だけでなく、見境なしに周りのものを傷つけている!そんなことが、お前のしたいことなのか!?」
「私は赤澤牧樹を絶対に許さない!あの人を倒さないと、ライムさんは犬死にになってしまう!」
あくまでライムの仇を討とうとするみなもを、結花が強く叩いた。そのショックで、みなもはようやく我に返った。
「落ち着け、みなも!ライムがお前にそんなことをやってほしいと思っているのか!?復讐をしてほしいというのが、アイツの望んだことなのか!?」
「でも・・こうでもしないと、ライムがかわいそうですよ・・・!」
呼びかける結花の言葉を、みなもは受け入れようとしない。
「自分を抑えろ・・ここで怒りに任せて戦えば、お前は自分自身に負けることになるんだぞ・・・!」
「それのどこが敗北だというの・・・?」
さらに呼びかける結花に、牧樹が声をかけてきた。
「怒りは力を増す要素・・怒りを覚えた私は、力を増すことができた・・・」
「その力をお前は制御できていない・・抑えられない力を持つことは、決して強さとは言わない!」
「ブレイディアを滅ぼす!その怒りを叶える力!それが私の強さ!」
結花の呼びかけを牧樹が一蹴する。牧樹は視線を移して笑みを見せる。
「私を憎まなくていいの?私に怒りを見せないと、檜山ライムは本当に犬死にになってしまうよ・・」
牧樹の挑発を耳にして、みなもが心を揺さぶられる。
「聞くな、みなも!戦ってもライムのためには・・!」
「それとも、彼女だけでは足りないの?だったら他の仲間も倒す必要があるね・・・」
みなもを呼び止めようとする結花と、さらに挑発を告げる牧樹。
「そんなことはさせない・・秋葉やいつきにまで、手出しはさせない・・・!」
再び怒りを爆発させるみなもが、牧樹に飛びかかろうとする。だがすぐに結花に押さえられる。
「やめろと言っているだろう!ライムのことを思うなら、ここは心を落ち着けて・・!」
結花が呼びかけていたときだった。みなもが発したブレイドの切っ先が、結花の左肩に刺さった。
「みなも・・・!」
刺された肩に激痛を覚え、結花がみなもから離れてしまう。
「みなも・・・お前・・・!」
「邪魔をしないで・・このまま赤澤牧樹を見過ごすことはできない・・・!」
うめく結花にみなもが鋭く言いかける。彼女は牧樹に視線を移し、敵意をむき出しにする。
「あなたは絶対に逃がさない・・ここでライムさんの仇討ちを・・・!」
「みなもちゃん!」
そこへ秋葉がいつきとともに駆け付け、みなもに声をかけてきた。
「みなもさん・・・これは、どういうことなのですか!?・・・結花さん・・・!」
いつきがみなもに状況を訊ねる。すると結花が傷ついた肩を押さえて、声を振り絞ってきた。
「秋葉、いつき・・みなもを止めろ・・ライムを殺された怒りで、牧樹を倒すことしか考えられなくなっている・・・!」
「ライムちゃんが!?・・・だから、みなもちゃんは怒って・・・!」
驚きの声を上げる秋葉が、みなもに視線を戻す。いつきも周辺の損害が、みなもと牧樹の力のぶつかり合いによるものだと悟っていた。
「結花さんの言うとおりです!みなもさん、これ以上戦うのはやめなさい!」
「そうはいかない・・牧樹さんを倒さないと、ライムさんが・・・!」
いつきの呼びかけにも、みなもは聞き入れようとしない。
「結花さんは何もしてないよ・・ライムちゃんにもみなもちゃんにも、何もしてないじゃない・・・!」
秋葉が体を震わしながら、みなもに呼びかける。
「その結花さんを傷つけたら・・ライムちゃん悲しむよ!」
秋葉が上げた悲痛の叫びに、みなもは心を揺さぶられた。彼女はここで自分のしていた過ちを痛感した。
「ライムさんが、喜ばない・・・!?」
困惑にさいなまれたみなもが、手にしていたブレイドを落とす。地面に刺さったブレイドは、彼女の戦意とともに消えていった。
「ライムさんのためにしたことなのに・・私は・・・」
「何を迷っているの!?それとも、そこの2人を傷つけられてもいいの!?」
そこへ牧樹が呼びかけてきた。だがみなもは絶望感に打ちひしがれて、戦おうとしない。
「獅子堂さん、結花さんを!」
そのとき、いつきがブレイドを手にして地面を切りつけた。砂煙が広がり、牧樹の視界を遮った。
その間に秋葉が結花を、いつきがみなもを連れてこの場を離れた。牧樹からあふれていた力が砂煙をかき消したときには、既に彼女たちの姿はなくなっていた。
「まだ・・まだ足りないというの・・・!?」
みなもが怒りと力を出し切れていないと感じ、牧樹が憤りを浮かべる。そんな彼女の前にクリムゾンが現れた。
「そこまで鎧を外すとは・・これでは隠ぺいは難しくなるな・・・」
「クリムゾン・・・」
「ひとまず鎧を着て力を抑えろ。これではブレイディアやプルートの存在を知られることになる・・・」
クリムゾンに促されて、牧樹は脱いでいた鎧を拾ってこの場を後にした。
(ブラッドをここまで本気にさせるとは・・星川みなも・・彼女の潜在能力は本物だ・・・)
周囲の被害を見回して、クリムゾンが胸中で呟く。彼も歩き出し、この場を去っていった。
牧樹の襲撃から逃れ、男子寮に来ていたトオルと一矢。一矢は結花と連絡を取ろうと携帯電話をかけていた。
「結花、どうしたんだ・・まさかやられたりしてないだろうな・・・」
不安を募らせていく一矢。トオルもみなもやライムたちのことが心配でたまらなかった。
「結花・・早く出てくれよ・・・!」
次第に焦りを膨らませていく一矢。待ちかねた彼は携帯電話をしまい、トオルに声をかけた。
「結花たちを探しに行く・・誰かにかくまってくれ・・・!」
「そうはいかないよ・・ライムやみなもちゃんが危険な目にあっているかもしれないのに・・・本当は、ここでじっとしているのも辛くなっている・・・」
しかしトオルは一矢の言葉を危機に入れることを躊躇していた。結花たちを探しに行けず、一矢も困惑していた。
「一矢!」
そこへ結花の声が飛び込んできた。一矢とトオルが振り返った先に、彼女とみなも、秋葉といつきがやってきた。
「結花、無事だったのか・・・だったら電話に出てくれよ・・・!」
「すまない・・とても出られる状況じゃ・・・うっ!」
安堵の笑みをこぼす一矢に答えようとしたとき、結花が肩の痛みを感じてうめく。
「おい、大丈夫か、結花!?」
一矢が結花に駆け寄って支える。
「すぐに病院に連れて行かないと・・一矢さん、手伝ってください!」
「わ、分かった・・・!」
いつきの呼びかけに従い、一矢が結花を連れて病院に向かった。一方、トオルはライムがいないことを気にしていた。
「ライムは・・ライムはどうしたんだ・・・!?」
トオルが投げかけた疑問に、秋葉は気まずさのあまりに答えることができなかった。
「ライム・・ライムに何かあったんだね!?・・・まさか・・・!?」
トオルに問い詰められても、秋葉は答えることをためらう。
「ライムさんは・・・ライムさんは・・・」
そのとき、意識を失っていたみなもが声を発してきた。
「私を庇って・・ブレイドを折られて・・・」
「それって、どういう・・・!?」
悲痛さを噛みしめるみなもの説明の意味が分からず、トオルが困惑を見せる。
「ブレイディアは、ブレイドを折られると死んでしまうんです・・ブレイドを折られたから、ライムちゃんは消えてしまった・・・」
秋葉も涙ながらも説明していく。2人の言葉を聞いて、トオルはようやくライムの死を実感した。
「ウソだ・・・ライムが・・・」
「私のせいです・・私がライムさんを守れなかったから・・・」
現実を否定しようとするトオルと、自分を責めるみなも。
「私がライムさんを殺したようなものです!だから、私・・私・・・!」
涙をこらえることができなくなり、泣き崩れるみなも。彼女にかける言葉が見つからず、秋葉も困惑したままだった。
自責の念に駆られているみなもに、トオルが手を差し伸べてきた。
「みなもちゃんのせいじゃない・・みなもちゃんのせいじゃ・・・」
「いいえ!私のせいです!私のために、ライムさんは・・・!」
あくまで自分の責任であると言い張るみなもだが、トオルは首を横に振る。
「みなもちゃんはライムを守ろうとしてくれた・・ここまで大切に思ってくれるなら、ライムも分かってくれる・・・」
「トオルさん・・・」
トオルが投げかけた言葉にみなもが戸惑いを浮かべる。心を揺さぶられた彼女は、おもむろにトオルにすがりついた。
「・・許してくれるのですか?・・・私に力があれば、ライムさんが死ぬことはなかったのに・・・」
「確かにライムがいなくなって辛い・・でも、それはみなもちゃんのせいじゃない・・それだけは絶対に言える・・・!」
さらに涙ぐむみなもに、トオルが語気を強めて言いかける。
「ここで君を責めたら、オレがライムに怒られてしまう・・・」
「トオルさん・・・!」
微笑みかけてきたトオルに、みなもがひたすらすがりついた。悲しみに暮れる2人を見つめて、秋葉も涙をあふれさせていた。
「秋葉・・ゴメン・・・しばらくトオルさんのそばにいさせて・・・」
「みなもちゃん・・・うん・・・いつきたちのところに行ってるね・・・」
弱く告げるみなもの言葉を聞いて、秋葉が頷く。彼女はみなもとトオルを気にかけたまま、いつきたちを追いかけていった。
「オレの家に行こう・・構わない、かな・・・?」
「・・・はい・・・」
トオルの呼びかけにみなもが頷く。2人はひとまず檜山家へと向かっていった。
次回
結花「お前、いつもそんな格好で熱くないのか?」
牧樹「そんなことないよ。
中で冷却シートを付けて、熱を下げているから・・」
結花「そんな器用なことができるなら、力を自分で抑えたらどうなんだ・・・?」
牧樹「それができるなら苦労しないって・・・!」