ブレイディアDELTA 第17話「混沌の暗雲」
あかね、かなえの襲撃から逃げ伸びたみなもとライム。だが彼女たちの前に、ブラッドの鎧に身を包んだ牧樹が現れた。
「牧樹さん・・・こんなときに、あの人が現れるなんて・・・!」
「ここで会うとはね、星川みなも・・せっかくだから声をかけておくよ・・・」
緊迫を募らせるみなもに、牧樹が落ち着いた様子で声をかけてくる。
「私と一緒に来なさい、星川みなも・・あなたを導いてあげる・・・」
「どういうことなの・・・私をプルートにでも引き込もうとでもいうの・・・!?」
「あなたの力を見越してのことよ。あなたはすごい素質を秘めている。もしかしたら、私以上の力を持っていて、しかもその力を制御できる抑止力もあるのかもしれない・・・」
問い詰めてくるみなもに、牧樹が語りかける。
「私に力を貸して・・一緒にブレイディアを滅ぼすのよ・・・」
「ブレイディアを滅ぼす・・・何を言って・・・!?」
呼びかけてくる牧樹に、みなもが困惑を覚える。
「ブレイディアは悲劇しか生み出さない・・そのブレイディアでさえ、悲劇に苦しめられる・・・悲劇を全て終わらせるために、私はブレイディアを滅ぼす・・・!」
「そんなの間違っている・・悲劇を生み出しているのはプルートです!牧樹さん、あなたはプルートに怒りと悲しみを利用されているのです!」
口調を鋭くする牧樹に、みなもが呼びかける。
「私は私の意思で、ブレイディアを滅ぼす・・たとえプルートでも・・いいえ、私自身でも止めることはできない・・・!」
「牧樹さん!」
「隠された力は怒りによって発揮されるケースが多い・・あなたに怒りを植え付けて力を発揮させれば、あなたもブレイディアを滅ぼす希望となる・・・」
みなもの言葉を聞き入れないまま、牧樹がブレイドを手にする。その切っ先をみなもではなく、その後ろにいるライムに向けた。
「あなたが折り紙つきのブレイディアであることは知っている・・私があなたを倒す動機はある・・・」
「ふざけないで!ライムさんは関係ない!狙いは私のはずでしょう!?」
ライムに敵意を見せる牧樹の前に、みなもが立ちはだかる。
「言ったでしょう?私は全てのブレイディアを滅ぼす・・彼女も見逃すつもりはない・・・!」
「ライムさん、逃げて!ここは私が食い止めるから!」
みなももブレイドを出して、ライムに呼びかける。
「でも、それではみなもさんが・・!」
「このままでは確実にあなたがやられる・・私を心配してくれるなら、すぐに秋葉たちと合流して!」
声を上げるライムに、みなもがさらに呼びかける。必死になっている彼女の言葉を受け入れて、ライムが小さく頷く。
「分かりました・・・どうか無事でいて・・・!」
みなもに言葉を投げかけると、ライムは全速力で走りだした。彼女を追おうとする牧樹の前に、みなもが立ちはだかった。
「ここから先へは行かせないわ・・・!」
「邪魔をするなら、あなたでも容赦なく倒す・・・!」
同時に飛びかかるみなもと牧樹。2人が振りかざしたブレイドがぶつかり合い、激しく火花を散らしていた。
日直の仕事を終えて帰路についていた秋葉といつき。秋葉がもたついて帰りが遅くなったことを、いつきは気まずく感じていた。
「獅子堂さん、もう少し丁寧かつ迅速に作業を行えないのですか?効率が悪いです・・」
「だって掃除とか日記とかうまくできないんだもん・・」
注意を促すいつきに、秋葉が肩を落とす。そんな彼女たちの前にライムが駆け込んできた。
「ラ、ライムさん・・?」
「どうしたの、そんなに慌てて・・・?」
「大変です・・みなもさんが危険なんです!」
声をかけるいつきと秋葉に、ライムが声を張り上げる。彼女の言葉を聞いて、2人が緊迫を覚える。
「案内してください!すぐにみなもさんを助けないと!」
いつきに呼びかけられて、ライムは呼吸が整わないまま、再び走り出していった。
ライムに敵意を向けてきた牧樹に、みなもが果敢に攻め立てる。2人の攻防は拮抗したものとなっていた。
「力を抑えているとはいえ、私が追いこまれるなんて・・・でも・・」
牧樹はみなもの力を称賛しながら、兜を外して素顔を見せた。鎧で封じていた彼女の力が少しだけ解放された。
「誰も私を止めることはできない・・・私でも・・・!」
低く告げる牧樹がみなもに向かって飛びかかる。彼女の強まった力を痛感して、みなもは防御はせずに回避行動を取る。
牧樹が振り下ろしたブレイドが地面に深くめり込んだ。その衝撃で、直後に地面が爆発したように吹き飛んだ。
「隠していた力の差が出てきたってこと・・・!」
牧樹の本領にみなもが焦りを膨らませていく。劣勢へと追い込まれた彼女は、退避の策を模索していた。
「これ以上邪魔をするというなら、たとえあなたでも倒すことに躊躇しない・・・!」
牧樹がブレイドを振り上げて、みなもに敵意を見せつける。最善手が見つからず、みなもは足を止めていた。
「あなたの力を潰すのは、正直辛い・・・」
「みなも!」
そこへ秋葉が牧樹の前に駆け付けてきた。いつきとライムも遅れてやってきた。
「秋葉、いつき!・・ライム、2人と合流できたのね・・・!」
「結花さんにも連絡しようとしたのですが、つながらなくて・・・!」
安堵の笑みを浮かべるみなもに、ライムが言いかける。
「みなもさんは下がってください!私たちが時間を稼ぎます!」
「あたしたちも、みなもちゃんが逃げたらすぐに逃げるから!」
いつきと秋葉がみなもに向けて呼びかける。
「ダメよ!それでは秋葉たちが・・!」
「あたしたちの力も、牧樹さんに負けてないんだから!」
「ライムさんはみなもさんを連れて逃げてください!私たちもすぐに追いつきますから!」
みなもの声を聞き入れることなく、2人はさらに呼びかける。返す言葉がなくなり、みなもはライムに連れられてこの場を離れた。
「お前たちもブレイディアであり、星川みなもとは強い絆で結ばれている・・そのあなたたちを倒しても、みなもの怒りを呼び起こすことがあ可能・・」
牧樹は言いかけると、自分のブレイドの切っ先を秋葉に向けてきた。
「甘く見ないで!あたしだって簡単にはやられないんだから!」
「ちょっとお待ちなさい!」
秋葉が反論したところで、別の声が割り込んできた。みなもとライムを追ってきたあかねが、かなえとともにやってきた。
「星川みなもとその他1名を追ってきたら、何やらまたおかしなことになっているわね!」
「お姉ちゃん、そういう言い方したら失礼だよ・・」
高らかに言い放つあかねに、かなえが注意を促す。しかしあかねはその注意を聞かないまま、牧樹を指差してきた。
「あなた、ずい分とふざけていますわね!そんな西洋の兵士みたいな格好をして!」
「あなたたちもブレイディア・・私が倒すべき敵・・・」
高らかに言い放つあかねに向かって、牧樹が飛びかかってブレイドを振りかざす。あまりに速く感じたことに驚きながらも、あかねは紙一重でブレイドをかわす。
「ちょっと!いきなり攻撃してくるなんて、ずい分荒っぽいじゃないのよ!」
あかねが抗議の声を上げるが、牧樹は耳に入れずに攻撃を続ける。だが彼女が振りかざしてきたブレイドを、かなえがブレイドで叩いてきた。
「お姉ちゃんを傷つけるのはやめて・・・!」
かなえは鋭く言いかけて、右手で持っていたブレイドを振りかざす。牧樹は2人から離れて一閃をかわす。
「2本の短いブレイド・・ブレイドはいろんな種類があるのね・・・」
かなえのブレイドを見て、牧樹が呟きかける。
「それでも、私がブレイディアを滅ぼすことに変わりはない・・・!」
牧樹がかなえに向かって飛びかかる。かなえが驚きを見せながら、とっさにブレイドで防ごうとする。
「防がないでよけて!」
そこへいつきが呼びかけ、かなえがすぐに回避を取った。牧樹の攻撃をかわすが、かなえはその弾みでしりもちをつく。
かなえのブレイドでは牧樹のブレイドを防ぎきれず折れてしまう。そう判断したいつきは、かなえに回避を呼びかけたのである。
「すぐに逃げなさい!あなたたちの敵う相手ではありません!」
いつきがさらに呼びかけるが、あかねは聞こうとしない。
「冗談は休み休み言いなさい!このくらいのことで私が負けるとでも思っているのかしら!?」
「思っているから言ってるんじゃない!」
高らかに言い放ったところで秋葉にも呼びかけられ、あかねがずっこける。
「あなたたち、ふざけるのもいい加減にしなさい!そんな私の力を体感したいなら、あなたたちから・・!」
秋葉といつきに対して苛立ちを見せるあかね。そこへ牧樹がブレイドを振りかざし、あかねがとっさにかわして距離を取る。
「あなたも、いきなり攻撃してこないでよね!」
「あなたたちの相手は私よ。ケンカしていないで全員でかかってきたほうが1番いいんだけど・・?」
怒鳴るあかねに牧樹が言いかける。しかし彼女の言葉もあかねは応じない。
「そんな必要がどこにあるの!?あなたなんか私が手を出すまでも・・!」
強気な態度を見せていたところで、飛びかかってきた牧樹に右手を叩き込まれるあかね。体に苦痛を覚えて、彼女が顔を歪める。
「力の差が分かっていないならそれでいい・・バカなまま倒されればいいから・・・」
「お姉ちゃん!」
低く告げる牧樹と、たまらず叫ぶかなえ。牧樹はかなえに狙いを移して、ブレイドを振りかざして衝撃波を放つ。
「キャアッ!」
吹き飛ばされて悲鳴を上げるかなえ。仰向けに倒れた彼女の眼前に、牧樹が迫ってブレイドを張り上げてきた。
「いけない・・やられる・・・!」
「かなえ!」
そこへあかねが飛び込み、横から牧樹に突進してきた。
「お姉ちゃん!」
「かなえは私の妹ですわ!手出ししていいのは私だけですから!」
かなえが叫ぶ前で、あかねが牧樹に向かって叫ぶ。
だがそのとき、あかねの左腕に切り傷がついた。激痛に襲われた彼女が、左腕を押さえて膝をつく。
「お姉ちゃん!」
かなえが再び悲鳴を上げる。牧樹の振りかざしたブレイドが、あかねの腕を切りつけたのである。
(このままではブレイドを折られるか直接斬られるかで、確実に殺されてしまう・・・!)
「死にたくなければすぐに撤退しなさい、桃山姉妹!」
危機感を膨らませたいつきが声を張り上げて呼びかける。そして彼女は秋葉を連れてこの場から離れる。
2人に牧樹が注意を向けた瞬間に、かなえが傷ついたあかねを連れて逃げ出していった。
「くっ・・・!」
4人全員に逃げられたことに毒づく牧樹。苛立ちを感じながらも、彼女は兜をかぶって完全に力を抑えてから立ち去った。
秋葉といつきに助けられて、みなもとライムは女子寮に逃げ込んだ。2人は階段に腰をおろしてから、呼吸を整えた。
「ふぅ・・秋葉たちのおかげで助かった・・・ありがとう、ライムさん・・・」
「いえ・・私にはこのくらいしかできませんでしたし、みなもさんが声をかけてくれなかったら、どうすることもできませんでした・・・」
感謝の言葉をかけるみなもに、ライムが微笑んで答える。
「でも秋葉たちが気がかりだわ・・体力を回復させたら、すぐに2人を助けに行かないと・・・」
「それなら私が行きます・・みなもさんは、私のためにこんなことになったのですから・・・」
秋葉といつきを心配するみなもに呼びかけて、ライムが立ち上がる。
「ダメよ、ライム・・あなたも疲れているんだから・・・」
「みなもさんよりは大丈夫です・・みなもさんはその間に、結花さんに連絡をお願いします・・」
みなもが呼び止めるが、ライムは聞かずに飛び出そうとする。そこへ秋葉といつきが駆け込んできた。
「秋葉・・いつき・・・」
「みなもちゃん、ライムちゃん、大丈夫・・!?」
声を上げるみなもに、秋葉が心配の声をかける。みなもとライムが小さく頷くと、いつきも声をかけてきた。
「私たちも何とか逃げ伸びました・・ですが牧樹さんも式部学園の生徒だった人間・・ここ女子寮に留まるのは危険でしょう・・」
「でも、どこに行けばいいというの?・・学園の生徒の多くは寮生活よ・・」
「私は違います。小さいですがきちんとした家を持っています。もっとも、両親はいないので実質1人暮らしですが・・・」
当惑を見せるみなもに、いつきが事情を説明する。
「1人暮らしって・・・寮じゃないのにさびしいじゃなーい!」
いつきの話を聞いて、秋葉がたまらず悲鳴を上げる。
「心配いりません。きちんと生活はできていますので。料理も清掃も問題ありません。」
「何だかあたしたちに対して勝ち誇ってるように聞こえるんだけど・・・」
「思い過ごしです。」
疑いの眼差しを送る秋葉の言葉に、いつきがきっぱりと答える。
「寮よりは安全といえるわね・・・私も少し休めたし、行きましょうか・・」
「お世話になります、いつき♪」
いつきの申し出を受け入れて、みなもと秋葉が頷いた。
「私も行きますけど、お兄さんに連絡を・・・」
ライムは携帯電話を取り出して、いつきの言葉を受け入れた。彼女たちはひとまず、いつきの自宅に向かうのだった。
いつきは小さな一軒家で生活していた。家の中は整えられていて、清潔感が漂っていた。
「すごい・・きれいだし、整えられている・・・」
家の中を見回して、秋葉が感嘆の声を上げる。
「常に心がけていれば、問題なく清潔を保てます。いつまでも怠けていると、そのうちゴミ屋敷同然となってしまいますよ。」
ところがいつきに苦言を呈され、秋葉が気落ちする。
「気休めではありますが、牧樹さんはここを知りませんから時間が稼げます。万全を喫しながら、結花さんに連絡を入れましょう・・」
「それは私がやるわ。みんなは私のために体力を消耗しているから・・・」
いつきが呼びかけると、みなもが言葉を返して、携帯電話を取り出す。するといつきが、ライムが沈痛の面持ちを浮かべているのに気付く。
「どうかしたのですか、ライムさん?どこかケガでも・・?」
「えっ?い、いいえ、何でもないです・・・」
いつきに声をかけられると、ライムが我に返って首を横に振る。
「ライムさんも休んだほうがいいですよ・・私にも言えることですが・・・」
「はい・・いつきさん、お世話になります・・」
いつきに心配をかけられると、ライムが小さく頭を下げた。
みなもからの連絡を受けて、トオルは事情をのみ込んだ。彼はライムがいつきの家に泊まることを了承した。
許可が出たことに安堵すると同時に、みなもはこの状況に不安を感じていた。この先どうなるのか、自分たちはどうしたらいいのか、彼女は分からなくなっていた。
この不安を抱えたまま、みなもたちは睡眠を取ることとなった。
だがライムだけは眠れずにいた。彼女はトオルのことが気がかりになっていた。
(お兄さんに、何もなければいいんだけど・・でも、もしプルートがお兄さんのことに気付いていたら・・・)
徐々に膨らんでいくライムの不安。彼女は落ち着きがなくなり、ついに家を飛び出してしまった。
(お兄さん・・無事でいて・・・!)
携帯電話を取り出して連絡を試みながら、ライムはトオルに会おうとしていた。
次回
ライム「お姉さんのお世話、大変ですね・・」
かなえ「そうですね・・・
トオルさんのようなお兄さんのいるライムさんがうらやましいです・・・
せめて私にビシッと言える勇気があれば・・・」
要「出来の悪い兄弟姉妹がいると苦労しますね・・・」
かなえ「いた!そこにも妹が!」