ブレイディアDELTA 第13話「悪魔のささやき」
突然のクリムゾンからの誘いに、みなもは驚愕を隠せなくなっていた。
「なぜ、私をプルートに・・・!?」
「君の潜在能力に期待しているからだ。今はまだ未熟だが、成長すれば指折りのブレイディアになれるだろう・・」
声を振り絞るみなもに、クリムゾンが説明を入れる。彼が彼女に向けて手を差し伸べる。
「我々なら、君の力を的確に引き出すことができる・・君の求める疑問の答えも導きだしてやろう・・」
「耳を貸してはいけません、みなもさん!」
クリムゾンがみなもを誘いこもうとしたとき、いつきが呼びとめてきた。
「このまま誘いに乗ってしまったら、プルートの言いなりです!あのゾンビのようになるかもしれませんよ!」
「そうだよ、みなもちゃん!プルートの誘いなんか聞いたらダメだって!」
いつきに続いて秋葉もみなもに呼びかける。
「悪いことをしたり、無闇にみんなを傷つけたりするみなもちゃんを、あたしは見たくない!」
「悪いとは言ってくれる・・この戦乙女の舞を段取りしてきたプルート、誤った力の使い方をすることはない・・」
秋葉の言葉を嘲笑するクリムゾン。
「長い時間が正しさを証明している。もっとも、私もその歴史のほんのわずかしか生きていない一端にすぎないが・・」
淡々と語るクリムゾンが、みなもに視線を戻す。
「改めて声をかけよう。星川みなも、プルートに招待しよう・・」
「・・・悪いけど、お断りさせてもらうわ・・」
クリムゾンの誘いを、みなもは微笑みかけて断ってきた。彼女の返答に秋葉といつきが笑みをこぼし、逆にクリムゾンが笑みを消す。
「私の力をどう使うかは私が決める。それに私、謎解きは自分でやったほうが気分がいいと思っているから、わざわざ教えてもらわなくてもいいわよ・・」
「みなもちゃん・・・」
「みなもさん・・・」
自分の考えを告げるみなもに、秋葉といつきが戸惑いを覚える。その返答を聞いて、クリムゾンがため息をつく。
「誤った道を進むことになるというのに・・・どちらにしても、力や答えを求める君は、いずれ自らの足で我々の前に現れることとなるだろう・・・」
淡々と言いかけるクリムゾンに対し、みなもたちは警戒を強めていた。
結花との攻防を繰り広げていた若菜。両刃のブレイドを駆使して、若菜は結花に優勢を見せていく。
「私に追い詰められているように見えるけど・・実はまだ全然本気出していないでしょう・・」
若菜に指摘された結花が、後退して彼女との距離を取る。
「ふざけた態度を取っているが、力や戦い方はなかなかのものだ・・私としては無益な殺生というのはしたくないのだがな・・」
ため息混じりに言いかける結花が、ブレイドに意識を傾ける。彼女の集中力が高まり、ブレイドの強度も増す。
「気を抜くな・・でなければ一瞬であの世逝きだぞ・・・!」
低く告げる結花が、若菜に向けて素早く飛びかかる。その速さに一瞬驚く若菜だが、即座に動いて結花のブレイドをかわした。
立て続けに繰り出される結花の攻撃。その全てを防いでいくも、若菜が次第に焦りを感じていく。
(まさかここまで強いなんて・・まだどこかで侮ってたってことね・・・!)
結花の力に脅威を感じた若菜が、結花を引き離して距離を取る。
「今日はここまでにしておくわね。元々あの子と勝負するつもりだったんだから・・」
「あの子?・・もしや・・・」
若菜が投げかけてきた言葉に、結花が眉をひそめる。
「すぐに合流したほうがよさそうよ。今頃ブラッドが会ってるかもね・・」
「ブラッド・・プルートのブレイディアか・・・!」
若菜の言葉を聞いて、結花が毒づく。
「それじゃ私はこれで。また会ったら勝負しましょう♪」
若菜は笑顔を見せると、ブレイドを消して立ち去っていった。結花は彼女を追おうとせず、みなもたちと合流するために走り出していった。
クリムゾンからの誘いを拒んだみなも。ブラッドが改めて戦いを挑もうと、みなもにブレイドの切っ先を向けてきた。
「いい加減にしろ、ブラッド。ここは撤退だ。」
だがクリムゾンに呼びとめられて、ブラッドは渋々ブレイドを消した。
「いずれまた会うことになる。そのときにおそらく、我々の同胞になっていることだろう・・」
「だから仲間にはならないと言っているでしょう?しつこい男は嫌われるわよ・・」
クリムゾンが投げかけてきた言葉に、みなもが呆れる。
「果たしてそうかな・・・?」
不敵な笑みを見せるクリムゾンが後退し、ブラッドもこの場から離れようとする。
「みなも、秋葉、いつき!」
そこへ結花が駆け付け、みなもたちに声をかける。その瞬間、立ち去ろうとしていたブラッドが一瞬足を止める。
「ブラッド!」
クリムゾンに呼びかけられて、ブラッドは改めてこの場を離れた。2人が退散したのを目にして、みなもが安堵してブレイドを消す。
「助かった・・何とか切り抜けることができた・・・」
「みなもちゃん、しっかりして!」
倒れそうになったみなもを、秋葉が支える。いつきと結花も2人に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、みなもさん!?どこかやられたのですか!?」
「い、いや・・泳いだ後って、すごく疲れてくるのよね・・やはり、少し張り切りすぎたみたいね・・・」
心配の声をかけるいつきに、みなもが作り笑顔を見せる。
「みなもちゃん!」
さらにトオルが戻ってきて、みなもに声をかけてきた。
「みなもちゃん、大丈夫!?みなもちゃん!」
「トオルさん・・少し疲れただけです・・ケガとかはないですから・・・」
呼びかけるトオルにも笑みを見せるみなも。
「近くで休んでいくぞ。ムリをさせるのはよくない・・」
結花の呼びかけに秋葉たちが頷く。彼らは近くのレストランに立ち寄り、小休止することにした。
みなもを誘い込むことに失敗したクリムゾン。だが彼女との接触が有効的であると、彼は感じていた。
「この意外性に感謝しないといけないかもしれない・・星川みなも・・見所があるな・・」
クリムゾンがみなもの力を称賛していた。
「それに獅子堂秋葉と神凪いつきも捨てがたい・・利用するだけでも十分役に立つ・・」
呟きかけたところで、クリムゾンがブラッドがいないことに気付く。
「ブラッド・・・まさかまた・・・!?」
「好きにさせたらいいじゃないの。」
そこへ若菜が現れ、クリムゾンに声をかけてきた。
「いつまでも家の中に押し込んでいたら、子供はすくすくと育たないって。たまには外に出してのびのびと過ごさせてやんないと・・」
「軽口をたたくな。ブラッドはわがままな子供とはわけが違う。下手をすれば我々の首を絞めることになる・・」
からかってくる若菜に、クリムゾンが冷徹な口調で言いかける。
「ブラッドは他のブレイディアとは違う。ヤツは自身の力を完全に制御できていないのだ・・」
「制御できていない?暴走でもするの?」
「・・本当に制御できないということだ・・解放すれば、本人の意思に関係なく、周囲に確実に影響を及ぼすことになる・・・」
「あらあら。それは物騒なことね・・」
緊張を膨らませるクリムゾンの言葉を、若菜は他人事のように聞いていた。
「まだ力を出させるときではない・・何としてでも大人しくさせなければ・・・!」
危機感を胸に秘めて、クリムゾンは再び動き出していった。
「もう、みんなしてせわしないんだから・・その私も、何もしないでじっとしているのは退屈だから・・・」
若菜も興味津々になりながら、独自の行動を取るのだった。
疲れたみなもを休めるために、秋葉たちはレストランに立ち寄っていた。そこでみなもは落ち着きを取り戻していた。
「ふぅ・・一時はどうなる事かと・・・」
「でもよかった・・みなもちゃんやみんなが無事で・・・」
安堵の笑みを見せるみなもとトオル。そこへ一矢が遅れてレストランに駆け込んできた。
「ひどいぞ、結花!どさくさに紛れてオレを置いてくなんてさ!」
「悪かったな。だが後で連絡して呼んだではないか・・」
怒鳴りかかる一矢に、結花が憮然とした態度を見せる。2人のやり取りを見て、みなもたちが笑みをこぼす。
「それにしても、あのブラッドというブレイディア・・今まで戦ったブレイディアとは明らかに違いました・・・」
そこへいつきがブラッドについて触れ、みなもたちも深刻な面持ちを見せる。
「私もそのブレイディアに会ったことはないが、お前たちがそこまで言わしめる相手なら、注意しておくに越したことはないだろう・・」
結花もブラッドに対して警戒を強めていた。
「プルート、私を狙うようになってきた・・一緒に来れば強くなれる、探している答えを見つけられると・・」
「みなも、ヤツらの言葉に耳を貸すな。」
みなもが口にした言葉に対し、結花が忠告を促す。
「プルートの誘いに耳を貸せば、必ず悲劇が起こる・・それは、ヤツらが私の復讐の相手だったからではない・・ヤツらの誘惑に乗ったために悲劇を呼んだ者のことを知っているからだ・・」
呼びかける結花が深刻さを浮かべる。彼女の表情を見て、みなもと一矢も困惑を覚える。
プルートの策略によって、ブレイディアを憎む復讐者と化してしまった牧樹。彼女の攻撃と自分の罪の償いのため、結花は対峙の道を取った。
結果、結花は牧樹を救えず、この悲劇から悲しみと苦しみ、孤独にさいなまれることとなってしまった。今は平穏な日常を送ってはいるが、彼女はそのことを拭えずにいる。
「大丈夫です。私はプルートの誘いには乗りません。先ほども断りましたから・・」
みなもが笑みを見せて、結花に事情を告げた。しかし結花は表情を曇らせたままだった。
「本当に気をつけろ・・気を付けているつもりでも、知らないうちに付け込まれている可能性も否定できない・・」
結花からの忠告に、みなもが真剣な面持ちで頷く。
「お前たちもいいか?プルートが狙っているのはみなもだけとは限らないからな・・」
視線を向けてきた結花に、秋葉といつきも頷いた。
(そして私も、注意を怠ってはならない・・・)
結花自身も胸中で自分に注意を促した。
その後、みなもとトオルは2人きりで帰路についていた。結花と一矢は先にレストランを後にし、秋葉といつきは用事があると言ってみなもたちと別れた。だがこれはみなもたちの様子を盗み見するための秋葉の嘘だった。
いつきを連れた秋葉に後を付けられていることにも気付かずに、みなもとトオルは夕暮れの道を歩いていた。
「今日はすみません・・トオルさんに迷惑ばかりかけてしまって・・」
「いや、みなもちゃんが悪いわけではないよ・・それどころか、みなもちゃんにオレは助けられたんだから・・・」
謝るみなもにトオルが弁解を入れる。
「でも、私がブレイディアだからこそ、トオルさんに迷惑をかけているのではないかと思ってしまって・・・」
「それこそ違うよ、みなもちゃん。みなもちゃんやライムのその力がなければ、オレはこうして歩いていることもできなかったはずだから・・・」
自分を責めるみなもを励ますトオル。だがトオルが今度は沈痛の面持ちを見せた。
「責められるのはオレのほうかもしれない・・何の力もなくて、ライムやみなもちゃんたちに助けられてばかり・・・」
「その私たちが疲れたり悩んだりしたときに励ましてくれるのは、トオルさんです・・・」
自分の無力を呪うトオルに、みなもが微笑みかける。彼女はトオルの優しさを実感していた。
「みなもちゃん・・・ありがとう・・そう言ってくれると、心が休まるよ・・・」
「私もトオルさんに励まされています・・トオルさんに声をかけられて、私も心が休まります・・・」
互いに感謝の言葉をかけ合うトオルとみなも。2人は膨らんでいく気持ちのまま、無意識に抱こうとした。
「お兄さん、みなもさん・・」
そこへライムがやってきて声をかけてきた。彼女の登場に、我に返ったみなもとトオルが赤面する。
「お兄さんとみなもさん、ここにいたんですね。」
「あ、うん・・丁度帰り道だったんだ・・・」
笑顔を見せるライムに、トオルが照れ笑いを見せる。
「秋葉さんといつきさん、そんなところに隠れて何をしているのですか?」
「えっ!?バレてる!?」
ライムに声をかけられて、秋葉が驚きの声を上げ、いつきが呆れて頭を下げる。
「あなたたち、後を付けていたのね・・・!?」
振り向いたみなもが、秋葉を睨みつけてきた。
「あ、いや、これが用事っていうか、何というか・・別にからかおうってつもりじゃなくて・・・」
「言い訳無用!」
苦笑いを見せる秋葉に、みなもがつかみかかった。彼女にお仕置きされる秋葉を目の当たりにして、いつきは呆れ果てていた。
「ライムこそ帰り道だったのか・・?」
「うん。みんなと別れて家に帰ろうとしたら、お兄さんたちが見えたから・・」
トオルが投げかけた疑問に、ライムが微笑んで答える。
「それじゃオレはそろそろ行くよ、みなもちゃん・・」
「はい。今日はありがとうございました、トオルさん・・」
声をかけるトオルに、みなもが感謝の言葉をかける。秋葉は彼女にお仕置きされてつまみ上げられていた。
「行こうか、ライム・・それじゃ、みなもちゃん・・」
みなもたちと別れて、トオルとライムは帰宅していった。2人を笑顔で見送った後、みなもが秋葉に鋭い視線を向けてきた。
「後でもっと罰を与えるからね、秋葉・・・」
「う〜、みなものいじわる〜・・・」
さらにきつく言いかけてくるみなもに、秋葉は涙目を見せていた。
「みなもさん、今夜はしっかり休んだほうがいいですよ。プールでの運動に加えて、ブレイディアとしての戦いも重なったのですから・・」
いつきがみなもに向けて心配の声をかける。
「そうだよ♪夜ごはんはあたしが頑張るから♪」
秋葉もみなもを励まそうと笑顔を見せてきた。
「いえ、それだと余計に休んでいられなくなる・・」
「う〜・・」
みなもに冷たくされて、秋葉が再び泣く。
「大丈夫ですよ。今夜は私も寮に行きましょう・・」
「いつき・・いつきが来てくれると助かるわ・・」
助力するいつきに、みなもが安堵の笑みを見せる。
「そうと決まれば行きますよ。獅子堂さん、みなもさんの分までしっかりしないといけませんよ。」
「ふえ〜・・」
いつきに注意されて、完全に気落ちする秋葉。この屈託のない会話に喜びを見せるも、みなもは深刻さを拭えずにいた。
プルートの狙いが強まっていることを、みなもは重苦しく感じていた。彼女の心に、結花の告げた悲劇への不安がのしかかっていた。
日常へと戻っていくみなもたちの様子を、クリムゾンから離れたブラッドが見つめていた。
次回
一矢「ところでアンタ、けっこういい顔してるな・・
イケメンってヤツか・・」
トオル「そういうあなたもイケメンではないですか。
自信を持っていいと思いますよ・・」
一矢「そうは言うけどな・・
最終的に男は顔より度胸だぞ・・」
結花「人をおちょくる度胸はいらないぞ・・」