ブレイディアDELTA 第14話「宿命の再会」

 

 

 2学期が始まって数週間になろうとしていた。

 学園祭を控えた式部学園。各クラスで出し物や発表の準備を進めていた。

 みなもたちのクラスではメイド喫茶をやることとなった。女子がメイド服を着て接客することに、秋葉は上機嫌になり、いつきは妙な分析を行い、みなもは戸惑いを感じていた。

「まさか学園でメイド服が着れるなんて、思ってもみなかったよ〜♪」

「これがメイド服ですか・・ですがなぜ、来客に“おかえりなさいませ、ご主人様”というのでしょうか・・?」

「メイド服・・私に合わない気がする・・・」

 各々の反応を見せながら、メイド喫茶の準備は着々と進んでいった。

 そんなクラスをライムが訊ねてきた。

「みなもさん、様子を見に来ました・・」

「あ、ライムちゃん♪いらっしゃーい♪」

 声をかけてきたライムに、秋葉が笑顔で答える。

「あれ?ライムちゃん、その格好・・?」

 秋葉が疑問を投げかけると、ライムが頬を赤らめる。彼女は漫画やアニメに出てくる魔法少女の格好をしていた。

「実は・・私たちのクラス、コスプレカフェをやることになって・・そのための衣装なんです・・」

「なるほど・・だからそんな格好をしているのね・・まぁ、私たちも似たようなものだけど・・」

 事情を説明するライムに、みなもが声をかけてきた。

「とても似合っていますよ、みなもさん、秋葉さん、みなさん・・」

「冗談でも言わないで。ただでさえ気が滅入っているのだから・・」

 褒め言葉をかけるライムに、みなもが肩を落とす。

「す、すみません・・悪く言うつもりは・・」

「分かってるって♪ライムちゃんも似合ってるよ♪」

 気まずくなったライムに、秋葉が笑顔で声をかけてくる。するとライムが再び赤面して、

「この格好・・やっぱり恥ずかしいです・・・」

「大丈夫だって♪自信持っていいよ♪」

 あくまで上機嫌の秋葉だが、ライムは恥ずかしさに耐えきれずに教室を飛び出してしまった。彼女の反応に秋葉は唖然となっていた。

「軽はずみな褒め言葉は逆効果よ、秋葉・・」

「そうですよ。少しはライムさんの気持ちを考えてあげないと・・」

 みなもといつきに注意をされて、秋葉はひどく落ち込んでしまった。

「さて、準備を再開しないと。まだまだやることはいっぱいあるんだから・・」

 みなもは呼びかけると、秋葉といつきとともに準備を進めていった。

 

 同じ頃、結花は学園の屋上にいた。彼女が外を見ながら考え事をしていると、一矢がやってきた。

「こんなところで油売ってないで、ちょっとは手伝ってくれよな・・」

「結局は茶番だろう?そんなものに付き合う気にはならない・・」

 声をかけてくる一矢に、結花は憮然とした態度を見せる。

「ハァ・・こういうときだからこそ、楽しまないと損だって・・」

「そんな気分にならないんだ・・プルートだけでなく、みなもたちのことも気になる・・・」

 気さくに声をかけていく一矢だが、結花は考えを巡らせていた。

「ヤツらは本格的にみなもを狙ってきた。いや、みなもだけでなく、秋葉やいつきさえも・・私が受けてきたようなことがまたあってはいけない・・絶対に・・・」

 言いかける結花の脳裏に、1年前の悲劇が蘇ってきていた。彼女の心境を察して、一矢も表情を曇らせる。

「だったらなおさら、楽しめるときに楽しまないとさ・・・」

「やれやれ・・お前の言葉を聞いてやらないと、後々面倒なことになりそうだからな・・・」

 一矢にさらに呼びかけられて、結花はため息交じりに渋々聞き入れることにした。

「今年の1年はユニークな出し物が多いみたいだぞ。」

「お前こそ油を売っているではないか・・」

 学園祭の出し物に期待する一矢に、結花は呆れ果てていた。

 

 そして学園祭の第1日目を迎えた。

 式部学園は普段以上の盛り上がりを見せており、来客も多かった。

「おかえりなさいませ、ご主人様♪」

 メイド喫茶となった教室を訪れる客に、みなも、秋葉、いつきが挨拶をする。彼女たちはメイドらしく、そつなく接客をこなしていった。

「ふぅ・・やっぱりこの格好は慣れないわね・・」

「私も未だに違和感を感じます・・」

 みなもといつきが仕事の合間に苦言を口にする。

「みなもちゃん、みんな・・」

 そこへ声をかけられて、みなもが振り返る。すると訪れていたトオルが笑顔を見せてきていた。

「ト、トオルさん!?こ、これは、その・・!」

「かわいいメイドさんになったね、みなもちゃん。ライムのコスプレに負けていない・・」

 激しく動揺するみなものメイド服姿を、トオルが笑顔で褒めてきた。

「そ、そうですか・・・す、すごく嬉しいです!」

「さっきまでと感想が違うじゃない・・」

 満面の笑みを見せて喜ぶみなもに、秋葉は呆れていた。

「みなもちゃん、もし時間ができたら、学園内を見て回ろうか。今年の出し物は個性的だってことだから・・・」

「トオルさん・・・はい。午後でしたら大丈夫ですので・・」

 トオルからの誘いを受けて、みなもが微笑んで答えた。完全にトオルに魅入られているみなもを、秋葉といつきは半ば呆れ気味に見つめていた。

 

 学園内は様々な格好をした生徒であふれていた。普段の制服だけでなく、出し物に関連した服装からコスプレまで様々だった。

 その学園の廊下を歩く紅い鎧があった。周囲は誰かの出し物の衣装であると思っていた。

 だがその人物は、プルートのブレイディア、ブラッドだった。

 

 午後の時間帯となり、メイド喫茶での仕事を終えたみなもたち。みなもはメイド服を着替えることなく、トオルとの待ち合わせの場所へと向かっていった。

「みなもったら、トオルさんのこととなるとすぐに目の色変えちゃうんだから・・」

「これが恋心というもの・・難しいものです・・・」

 上機嫌に教室を出ていったみなもに、秋葉は呆れ、いつきは真剣に考え込んでいた。

 待ち合わせの場所である昇降口にやってきたみなも。そこには既にトオルが待っていた。

「トオルさん・・お待たせしました・・・」

「あれ?みなもちゃん、メイド服のままだけど・・」

 頭を下げてきたみなもの格好を見て、トオルが当惑を見せる。

「すみません・・トオルさんを待たせてはいけないとおもって・・・」

「なるほど・・でもオレはメイドさんのみなもちゃんと一緒に過ごすのも、いいかな・・・」

 トオルに優しく言われて、みなもが戸惑いを見せる。

「それじゃ行こうか、みなもちゃん・・今日はめいっぱい楽しんじゃおう。」

「トオルさん・・・はい♪」

 トオルに呼びかけられて、みなもは笑顔で頷いた。

 校庭ではたくさんの出店が並んでいた。たこ焼き、焼きそば、的当てなど、お祭りの定番がそろっていた。

 みなもとトオルは互いに食べ歩いたりした。正確な的当てを披露したトオルに、みなもが拍手を送った。

 そして2人は、ライムたちのクラスのコスプレカフェを訪れた。

「あ、お兄さん、みなもさん・・いらっしゃいませ・・」

 接客をしていたライムが2人に声をかけてきた。

「ゴメンね、お兄さん・・午後に仕事が入っていて・・」

「こっちこそゴメンね、ライムさん・・トオルさんとの時間を先に使ってしまって・・」

 互いに謝るライムとみなも。

「明日はトオルさんとの時間を楽しんできてね。私も応援するから・・」

「ありがとうございます・・みなもさん、今日はお兄さんとたくさん楽しんできてくださいね・・」

 頭を下げるみなもに、ライムが笑顔を見せた。

「さぁ、立ち話もなんですから、あいている席へどうぞ。」

 ライムがみなもとトオルを案内した。

 

 一矢に連れられて、結花は学園内にいた。だが乗り気でない彼女は、憮然とした態度を見せてばかりだった。

「いい加減に機嫌を直してくれって・・オレまで気まずくなるって・・」

「だったら私など連れてこなければいいだろう・・一緒に楽しめるヤツなど、探せばいくらでもいるだろう・・」

 ため息をつく一矢だが、結花は態度を変えない。

 その直後、結花が突然足を止めた。いきなり立ち止まった彼女に、一矢が眉をひそめる。

「どうしたんだ、結花・・?」

 声をかけてきた一矢に、結花が声を振り絞った。

「いる・・ものすごい殺気を持ったヤツが、この近くに・・・!」

「それって、ブレイディアか・・・このあたり、人がたくさんだっていうのに・・・!」

 一矢が周りを見回して警戒する。だが周りは生徒や来客でいっぱいで、誰が何をしてくるか分からなくなっていた。

「ブレイディアかどうかは分からない・・だがこれほどの殺気を放っているヤツ・・尋常ではない・・・!」

「だったら1度外に出ようぜ・・お前を狙っているなら、ここだとみんなが巻き込まれるって・・・!」

「その手に出るのはまだ早い。敵が殺戮のみを楽しむ殺人鬼のようなヤツなら、私たちがいなくなってはかえって危険だ・・」

「じゃ、どうしたらいいんだよ・・どうすることもできないじゃないか・・・!」

 声を荒げる一矢と、周囲に警戒の視線を向けていく。

 そんな2人の耳に、重圧のある足音が響いてきた。

「この音・・・!?

 ゆっくりと振り返る一矢と結花。2人の目に入ったのは、紅い鎧を着た人物、ブラッドだった。

「アイツ・・みなもたちの言っていた、鎧姿のブレイディアか・・・!」

 徐々に距離を詰めてくるブラッドを見据えて、結花が呟きかける。周囲からはコスプレをしていると思われており、ブラッドを怪しむ人は結花と一矢以外にいなかった。

「この殺気は、ヤツが放っているものだ・・・!」

 警戒を強めながらブラッドを迎え撃とうとする結花。するとブラッドが右手を掲げ、指で結花を誘導してきた。

「ついて来いってことか・・・」

「指示どおりにしたほうがよさそうだ・・・」

 一矢と結花はブラッドに渋々ついていくことにした。

 

 トオルとの時間を有意義に楽しむみなも。2人は講堂に向かおうと廊下を進んでいた。

 だがその途中、みなもはブラッドと結花、一矢の姿を目撃した。

(あれは・・・結花さんたちも・・・何かあったんじゃ・・・!?

「トオルさん、すみません・・ライムさんのところに行っていてください・・・!」

 みなもはトオルに呼びかけると、結花たちを追って駆け出していった。

「み、みなもちゃん・・・!」

 声を上げるトオルだが、みなもは立ち止まらずに結花たちを追っていった。

 ブラッドと結花たちが来たのは学園の屋上。その出入り口の物陰から、みなもは彼らの様子をうかがった。

「ここまで来れば周りを気にしなくて済む、か・・その殺気に似合わず律儀なことだ・・・」

 結花が挑発を投げかけるが、ブラッドは無言を貫く。彼女の様子を見て、結花が笑みを消す。

「プルートに組するブレイディアというのはお前か?これだけの殺気だ。力も相当のものなのだろうな・・」

 結花が言葉をかけるが、ブラッドはそれでも答えない。

「なぜ黙っている?何か言ったらどうだ?」

 目つきを鋭くする結花に対し、ブラッドが右手からブレイドを出してきた。

「問答無用か・・ならば何も聞かずに始末させてもらう・・・」

 結花もブレイドを手にして、ブラッドと対峙する。

「お前は下がっていろ、一矢・・お前を気にして戦える余裕はないようだ・・・」

「わ、分かった・・・」

 結花に呼びかけられて、一矢が屋上の出入り口に向かって離れていく。結花とブラッドがブレイドを構えて、互いの出方をうかがう。

(コイツ、出方が読めない・・戦い方もかなり腕が立つようだ・・・それにしても・・・)

 ブラッドの力量を分析する結花。

(この構え・・どこかで・・・?)

 ブラッドの構えに対して、結花が疑問を覚える。彼女はこの構えに見覚えがあったのだ。

(ただの偶然か・・どちらにしても、油断はできない・・・!)

 気を引き締めた結花が、ブラッドに対して先手を打ってきた。飛びかかった彼女が、ブラッドに向けてブレイドを突き出す。

 だがブラッドはブレイドを掲げて、結花の一閃を受け止めた。さらにブラッドは間を置かずに、結花に向けて左手を伸ばす。

「くっ!」

 毒づく結花が後退して、ブラッドの左手をかわす。だがブラッドが飛びかかり、結花に向けてブレイドを振り下ろす。

 結花がとっさにブレイドを突き出し、ブラッドを狙った。結果、2人のブレイドはぶつかり合い、結花が突き飛ばされる。

 態勢を崩された結花。ブラッドが彼女に向けて追撃を加える。

「結花さん!」

 そこへ飛び込んできたのはみなもだった。彼女が振りかざしてきたブレイドに気付き、ブラッドが攻撃を止めて横に飛ぶ。

「結花さん、大丈夫ですか!?

「みなも・・お前もここに来ていたのか・・・!」

 心配の声をかけるみなもに、結花が声を振り絞る。

「それにしても、私が押し切られるとは・・やはりただ者ではない・・・!」

「私も本当に身震いがしてしまいました・・こんな相手、私の知る限りでは他にいないでしょう・・・」

 ブラッドの力に結花が毒づき、みなもも緊張感を膨らませていく。

「だが、ヤツは単に強いだけではない・・ヤツの戦い方・・・」

 結花が口にしてきた言葉に、みなもが当惑を見せる。

「思った通り、隙のない戦い方をしているよね・・・」

 ブラッドがついに声を発した。その声を聞いて、結花が目を見開いた。

「その声・・・バカな・・・!?

 愕然となる結花の前で、ブラッドが1度ブレイドを消して、自分の兜に手をかける。その兜を外し、素顔を見せた。

「その顔・・お前なのか・・・!?

 ブラッドの素顔に結花が目を疑った。紅い鎧に身を包んでいたブラッドの正体は、結花との因果のあるブレイディア、牧樹だった。

「久しぶりだね、結花・・・また会えるなんてね・・・」

「牧樹・・・牧樹なのか・・・!?

 声を発する牧樹に、結花は驚愕する。素顔や声は紛れもなく牧樹そのものだった。

「結花さん、知っているのですか・・・!?

 みなもが声をかけるが、愕然となっている結花には伝わっていなかった。

「あなたは何者です!?結花さんとどういう関係なのですか!?

 みなもが牧樹に声をかける。すると牧樹が視線だけをみなもに向けてきた。

「私はかつて、赤澤牧樹として生きていた・・そして私は、血塗られた戦乙女、ブラッドとしての生を過ごしている・・・」

「牧樹・・結花さんが話していた、赤澤牧樹さんというのですか・・・!?

「そう・・私は牧樹だった・・・でも・・・」

 声を荒げるみなもに淡々と答えると、牧樹が再び出したブレイドの切っ先を彼女に向ける。

「牧樹はあのときに死んだのよ・・・」

 牧樹は低く告げると、みなもに向かって飛びかかり、ブレイドを振りかざした。

 

 

次回

第15話「血塗られた魂」

 

結花「牧樹、本当に牧樹なのか・・・!?

牧樹「久しぶりだね、結花・・

   牧樹はあのときに死んだのよ・・・

   これからは本当の主役の私!

   ブレイディアの真の主役は、この私よ!」

みなも「あの、主人公、私なんだけど・・・」

牧樹「認めたくないものだ・・・!」

 

 

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