ブレイディアDELTA 第12話「紅の強襲」

 

 

 トオルとのプールでの時間を過ごすこととなったみなも。その昨晩、みなもは寮の部屋にて上機嫌になっていた。

 その様子を秋葉は疑問に感じていた。

「みなもちゃん、どうしたの、そんな嬉しそうにして・・?」

「秘密よ。残念だけど教えられない・・」

 秋葉が訊ねても、みなもは上機嫌に振舞うばかりだった。

(もしかしてみなもちゃん、トオルさんと・・・)

 みなものことを予測して、秋葉がにやけ顔を浮かべた。そのことにみなもは気付いていなかった。

 

 そしてデート当日、みなもは上機嫌に出かけていった。彼女を見送ってから、秋葉がいつきに連絡を入れた。

「もしもし、いつきちゃん♪すぐにこっちに来て♪みなもちゃんがデートみたいだよ♪」

“獅子堂さん・・あまりみなもさんの私情に口を挟むのはよしましょう。また後でしっぺ返しをされますよ・・”

 上機嫌に電話を入れる秋葉に、いつきが苦言を呈する。

「そんなこと言ってたら見逃しちゃうよ〜♪あたしだけでも行っちゃうから〜♪」

“ちょっと、獅子堂さん!獅子堂さん!”

 いつきの呼び止めも聞かずに、秋葉が電話を切ってみなもを追いかけていった。

 

 待ち合わせのプール。その入口の前でトオルは待っていた。

 そこへみなもがやってくると、トオルが笑顔を見せてきた。

「す、すみません、トオルさん・・いつもいつも遅れてしまって・・」

「気にしなくていいよ、みなもちゃん・・オレが早く来てしまうだけだから・・」

 謝るみなもにトオルが弁解する。

「あ、でもライムさんの姿が見えないのですが・・?」

「ライムは今日は友達とお出かけだって・・2人で楽しんできてって言ってくれたけど・・・」

 みなもの問いかけに、トオルがやや困った面持ちで答える。

「それは残念です・・・こうなったらお言葉に甘えて、楽しむことにしましょう。」

「ありがとう、みなもちゃん・・それじゃ行こうか・・」

 みなもに促されて、トオルはプールに向かった。2人は水着に着替えて、プールにやってきた。

「私、うまく泳げるようになれるかな・・・」

「大丈夫だよ。みなもちゃんは運動神経抜群なんだ。水泳も頑張ればできるようになるよ・・」

 不安を口にするみなもに、トオルが励ましの言葉をかける。彼に背中を押されて、みなもは勇気を出してプールに入った。

 そんな2人のやり取りを、秋葉が物陰から見ていた。彼女のそばにはいつきもいた。

「けっこういい感じになってるじゃな〜い・・」

「本当にこんなことをして、獅子堂さんは心が痛まないのですか・・?」

 にやけ顔を浮かべる秋葉に、いつきが苦言を呈する。

「そういういつきだって来たじゃない・・」

「それは、獅子堂さんがおかしなことをしないように見張るためです・・・!」

 秋葉が投げかけた言葉に、いつきが動揺を見せながら答える。彼女がみなもとトオルのことが全く気になっていないと、秋葉は察した。

「とにかくじっとしていてください。トオルさんはともかく、みなもさんは必ず怒りますから・・」

「分かってるよ。ちゃんと注意するから・・」

 注意を促すいつきに、秋葉が小さく頷く。2人は引き続き、みなもとトオルのデートを見守った。

 

 トオルに支えられて、バタ足の練習をするみなも。トオルに教えられて、みなもはゆっくりとバタ足の感覚を覚えていった。

「そうそう。段々と早くしていけば、沈まずに前に進むことができるよ・・」

 トオルの言葉に心の中で頷くみなも。だが動揺を抑えることができなくなり、みなもはバタ足のフォームが悪くなって溺れそうになってしまった。

「み、みなもちゃん!?しっかりして!」

「す、すみません、トオルさん・・・!」

 呼びかけるトオルに助けられて、みなもが赤面しながら謝る。

「いや、みなもちゃんが無事ならいいんだけど・・・緊張しなくてもいいから、ゆっくりやっていこう・・」

「は、はい・・・」

 トオルの言葉にみなもが頷く。トオルに迷惑ばかりかけていると思い、みなもは落ち込んでいた。

 しばらく練習をしてから、みなもとトオルは休憩を取った。だがみなもは自分があまり上達していないと思い、落ち込んでいた。

 そんな彼女に、トオルは買ってきたジュースを差し出してきた。

「これをどうぞ。飲んで落ち着いて・・」

「トオルさん・・ありがとうございます・・」

 トオルが差し出した缶ジュースを受け取り、みなもが微笑んだ。

「・・・トオルさん・・聞いてもいいですか・・・?」

 みなもが笑みを消して、トオルに質問を投げかけた。

「なぜそこまで、私に優しくしてくれるのですか?・・みんな自分のことしか考えられなくなっていて、とても他の人を気にかける余裕はないのに・・」

「それは・・・オレもよく分かんない・・・」

 語っていくみなもに、トオルが少し悩みながら答える。

「もしかしたら、これはオレのおせっかいなのかもしれない・・自分よりも人のこと・・聞こえはいいんだけど、自己満足なのかも・・」

「そ、そんなことは・・トオルさんは悪くないですよ・・」

 思いつめるトオルに、みなもが弁解する。

「人に優しくすることはとても大事なことですし、なかなかできることじゃないと思います・・だから、トオルさんは悪くないです・・」

「みなもちゃん・・・ありがとう・・そう言ってもらえると、独りよがりじゃないって思えるよ・・・」

 今度はトオルがみなもに励まされた。彼女の優しさを感じて、トオルも笑顔を取り戻した。

「トオルさん、私、これからはもっと頑張りますから!」

「張り切ってるね、みなもちゃん・・」

 意気込みを見せるみなもに、トオルが照れ笑いを見せる。

 それから努力を見せるみなもだが、上達は意気込むように大きなものではなかった。

 

 その頃、結花と一矢は零球山に足を踏み入れていた。数日前に出てきたゾンビの出現の痕跡を、彼女は探っていた。

「おい、ホントにここに手がかりがあるのか?」

「あるはずだ。あの死者たちはここを拠点としていた。ヤツらが地上に出てきた痕跡がこのどこかに・・」

 一矢が投げかけた疑問に、結花が淡々と答える。

「だがもうプルートが痕跡をけしているだろうな。だがそれこそが、プルートが暗躍している証拠になる・・」

「すごいな・・そこまで分析してるなんて・・さすが成績優秀・・」

 説明する結花に、一矢が気さくに言いかける。からかってきた彼だが、結花は反発してこなかった。

「なるほど。なかなかの分析じゃない・・」

 そこへ声がかかり、結花が身構え、一矢が振り返る。若菜が悠然とした態度で、2人を見つめていた。

「き、きれいな人だ・・惚れてしま・・ぐふっ!」

 若菜に魅入られたところで、一矢が結花にどつかれる。一瞬憮然とするも、結花は冷静を取り戻して声をかける。

「お前は誰だ?私たちに何の用だ?」

「私がそのプルートのブレイディアだったら?」

 結花の問いかけに若菜が答える。その答えを聞いて、結花が目つきを鋭くする。

「まさか堂々と姿を見せてくるとは・・まぁ、そんなヤツが全然いなかったわけではないが・・」

「あなたのことは聞いてるわ・・かなり強いブレイディアだってね・・」

「ほう?そこまで有名になっていたとはな・・」

「1度プルートを滅ぼしたからね。どうしても耳に入ってくるわよ・・」

「それで、お前は私に何の用だ?私を邪魔者として排除しに来たのか?」

「プルートはそのつもりみたいだけど、私はあなたの力がどれくらいなのか、確かめたくてね・・」

 若菜の真意を聞いて、結花が不敵な笑みを見せる。

「一矢は下がっていろ。巻き添えにならないように・・」

「あ、あぁ・・」

 結花の呼びかけを受けて、一矢が下がる。若菜に視線を戻して、結花がブレイドを出現させる。

「本当にすごい剣だね。それじゃ私も・・」

 若菜は笑みを強めると、自分のブレイドを出した。2人の少女がこの零球山で対峙しようとしていた。

 

 トオルに教えられてもなかなか上達しないことに、みなもはひどく落ち込んでいた。

「私、本当に水泳の才能がないのですね・・・」

「そんなことないよ・・バタ足はかなりうまくなっていたよ・・後は手のかき方をしっかり覚えれば完璧だよ・・」

 肩を落とすみなもを、トオルが微笑んで励ます。

「ありがとうございます・・機会があれば、これからも頑張っていきたいと思います・・」

「オレは信じてるよ、みなもちゃん・・」

 決心を告げるみなもに、トオルも喜びを見せた。

 そのとき、みなもはただならぬ殺気を感じ取って、緊迫を覚える。表情を険しくした彼女に、トオルが当惑する。

「どうしたの、みなもちゃん?・・どこか、具合でも・・・」

 トオルが声をかけるが、みなもの耳には入っていなかった。やがて2人の前に、ブラッドが姿を現した。

「あなたは、この前の・・・!?

 声を振り絞るみなも。ブラッドは無言のまま、紅いブレイドを手にする。

「この人も、ライムやみなもちゃんみたいに・・」

「トオルさん、逃げてください!この人は危険です!」

 言葉をもらしたトオルに、みなもがたまらず呼びかける。迫ってきたブラッドが、みなもに向けてブレイドを振り下ろす。

 即座にブレイドを出して、ブラッドの攻撃を受け止めるみなも。

「早く、逃げてください、トオルさん・・・!」

「みなもちゃん・・・すぐに誰か呼んでくるから・・・!」

 みなもに促されて、トオルがやむなくこの場を離れた。彼の姿が見えなくなったところで、みなもはブラッドとの対峙に専念する。

(力が強い・・このままでは押し切られる・・・!)

 危機感を覚えたみなもが、後退してブラッドのブレイドをかわす。ブラッドの振り下ろしたブレイドが地面にめり込む。

(1対1の勝負では危険・・ここは退いたほうが・・・!)

「みなもちゃん!」

 思考を巡らせていたところで、みなもが声をかけられる。彼女とトオルのひとときを見ていた秋葉といつきが駆け付けてきた。

「秋葉、いつき・・どうしてここに・・・!?

「そ、それは・・・!」

「偶然です、偶然!」

 みなもが投げかけた言葉に、秋葉といつきが慌てながら答える。だがすぐに3人が緊張感を浮かべる。

「それにしても、とんでもない人を相手にしていますね・・・」

「1対1で勝負をするのは危険すぎる・・だから退散しようとしていたんだけど・・・」

 焦りを募らせながら言葉を交わすいつきとみなも。ブラッドはブレイドを手にしたまま、無言で3人を見据えていた。

「でもやってみなくちゃ分かんないよ!こっちは3人なんだから・・・!」

 そこへ秋葉が呼びかけてきた。彼女の言葉に奮起して、みなもといつきが落ち着きを取り戻す。

「そうね・・まだ諦める方向に進むときではないわね・・」

「撤退は、打てる手を出しつくしてからでも遅くはないです・・・」

 みなもと言葉を交わしたいつきが、秋葉とともにブレイドを手にする。3人のブレイディアを相手にしても、ブラッドは全く動じていない。

「できる限り同時攻撃を仕掛けましょう。単独での攻撃は命の危険がありますし、連携も崩されます・・」

「それは分かっているけど・・阿吽の呼吸になれればいいんだけど・・・」

 いつきの呼びかけに気のない口調で言いかけるみなも。彼女たちが3方向からブラッドを取り囲む。

 いつきがみなもと秋葉に視線を送り、頷き合う。直後、3人がブラッドに向かって同時に飛びかかる。

 だがブラッドは飛び上がり、みなもたちの攻撃を回避する。

「あの鎧のような服を着てて、何て身軽なの!?

 素早く動くブラッドに、秋葉が驚きの声を上げる。着地したブラッドが、改めてみなもたちに視線を向ける。

「こうなったら逃げ道を塞いでやるんだから・・・!」

「落ち着いてください、獅子堂さん!危険です!」

 いきり立つ秋葉にいつきが呼びかける。だが秋葉は止まらず、ブラッドに向けてブレイドを突き出す。

 だがブラッドはブレイドを掲げて、秋葉の突きを受け止める。ブラッドの大きな刀身は傷どころか微動だにしなかった。

「うわっ!」

 突きを受け止められた反動で、秋葉が突き飛ばされる。ブラッドがブレイドを振り上げ、秋葉を攻撃しようとする。

 そこへみなもといつきが同時に飛びかかる。気付いたブラッドが再び飛び上がり、攻撃を回避する。

「無事ですか、獅子堂さん!?

「う、うん・・ありがとう、いつき、みなもちゃん・・」

 呼びかけてくるいつきに答え、秋葉が立ち上がる。脅威的な力と動きを見せるブラッドに、みなもは焦りを膨らませていた。

「何という相手・・力だけでなく、速さまで・・・!」

「その上隙がない・・私たち3人でも、太刀打ちできるかどうか・・・」

 いつきも深刻さを痛感していた。するとブラッドがみなもに向かって飛びかかってきた。

 振り上げられたブラッドのブレイドに叩かれて、みなもはブレイドを跳ね上げられる。彼女のブレイドを狙って、ブラッドもブレイドを振りかざす。

(これでは折られる!)

 危機を覚えたみなもが、とっさに自分のブレイドを消して、折られるのを免れた。だが彼女は態勢を崩してしりもちをつく。

 ブラッドが立て続けにブレイドを振りかざしてくる。そこへ秋葉といつきが左右からブレイドを出してきた。

 ブラッドは自分のブレイドを縦にして、秋葉たちの攻撃を防いだ。

「何っ!?

「防がれた!?

 驚きの声を上げるいつきと秋葉が、ブラッドの力に押されて突き飛ばされる。その瞬間にみなもは立ち上がり、再びブレイドを出して距離を取った。

「強い・・私たちの力が、全然通じないなんて・・・!」

 勝機さえ見出せなくなったみなも。彼女たちはブラッドの力を痛感していた。

「攻撃をやめるのだ、ブラッド!」

 そこへ突如声がかかった。その声にみなも、秋葉、いつきが当惑を覚える。

 振り返ることなくブレイドを下げるブラッドの前に現れたのはクリムゾンだった。

「あまり過激なことはするな、ブラッド!まだ戦うときではないというのに!」

 怒鳴りかかるクリムゾンだが、ブラッドは何も答えない。

「あなたは何者ですか!?そのブレイディアの仲間ですか!?

 いつきがクリムゾンに向けて声をかける。

「この際だ。自己紹介しておくことにしよう・・私はクリムゾン。新しくプルートを指揮する者だ。」

「プルート!?あなたが・・!?

 振り返って名乗ってきたクリムゾンに、秋葉がさらに驚く。

「今回ここに来るのは本意ではなかったが、君たちがなかなかのブレイディアであることを再認識することができた・・」

「何を企んでいるのです!?私たちをどうしようというのです!?

「本当はしばらくしてから持ちかけようとしていたが・・今でもいいだろう・・・」

 いつきに問われて、クリムゾンは不敵な笑みを見せる。彼は視線をみなもに向けた。

「星川みなも、君をプルートに招待したい・・」

「えっ・・・!?

 クリムゾンの発言に、みなもは驚愕を隠せなくなった。

 

 

次回

第13話「悪魔のささやき」

 

クリムゾン「君をプルートに招待したい・・」

みなも「それってデートのお誘い?

    でも私にはトオルさんがいるの。

    だからその誘いは受けられないの。」

クリムゾン「いや、そういうことでは・・」

秋葉「何気に優越感が・・・」

 

 

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