ブレイディアDELTA 第11話「死人の剣」

 

 

 みなもたちの前に現れたゾンビの群れ。その中にエリカの姿があった。

「金城エリカは死んだはず・・どういうことなんだ・・・!?

「結花さん、この人と知り合いなのですか・・・?」

 驚愕する結花に、いつきが疑問を投げかける。

「かつての私たちの敵だ・・だが前回の戦いで、ヤツは死んだはずだ・・私の目の前で・・・」

「でしたら、私たちの前にいるのは何だというのですか!?本当に、死者が蘇ったとでもいうのですか!?

 結花の説明にいつきが声を荒げる。

「本当に生き返ったのか、それとも偽者か・・どちらにしても、私たちが取れる手段は、これしかない・・・!」

 みなもがブレイドを握りしめて、エリカに飛びかかる。みなもには当てるつもりはなく、けん制を狙うにとどめていた。

 だが次の瞬間、みなもは視界に入ってきたものに驚愕する。エリカの手からブレイドが出現していた。

「そんな・・・!?

 目を疑ったみなもに向けて、エリカがブレイドを突き出してきた。みなもは後退するも、その刃が左頬をかすめた。

「みなもちゃん!」

 悲鳴を上げる秋葉。踏みとどまったみなもが、傷の付いた頬を左手の甲で拭う。

「ブレイド・・ブレイドまで出してくるなんて・・・!」

「たとえ偽者でも、ブレイドまで真似をすることはできない・・ヤツは紛れもなく、本物の金城エリカ・・・!」

 声を荒げるみなもと結花。形状や色など、エリカが使っていたブレイドそのものだった。

「どういう理屈かは分からないが、プルートの仕業であることは間違いない・・エリカはプルートの、冥王の間で死んでいるのだから・・・!」

 結花は確信していた。ゾンビと噂されたこの者たちが、プルートによって動かされていることを。

「正体が分かっているんだ。すぐにこのからくりも暴いてやるぞ・・・!」

 不敵な笑みを見せる結花。迫ってきたエリカのブレイドを、彼女もブレイドを掲げて受け止める。

「死に損ないの相手をするつもりはない!」

 結花が言い放ち、エリカを突き放す。だがエリカは踏みとどまり、結花を見据える。

「ブレイドは生きていたときと威力は大差ない・・心がない分、威力も変わりなく単調になっている・・」

 エリカのブレイドを分析する結花。だが数で不利となっている状況は変わっていない。

 そのとき、ゾンビたちが突然後退し、姿を消していった。

「えっ・・・!?

 その行動に秋葉が疑問を覚える。

「どういうことだ・・あれだけの数だ・・いっせいにかかれば、消耗戦になって私たちは危機に陥ったはず・・・」

「1度ここを出ましょう・・情報を整理してから出直しましょう・・」

 疑念を募らせる結花に、みなもが呼びかける。彼女たちはひとまず、零球山を出ることにした。

 

 ゾンビと噂されていた者たちは、プルートによって動かされたものだった。

 収集した死体を科学力で蘇生。精神エネルギーを送り込むことでブレイドを扱えるようにすると同時に、プルートの操り人形とされた。

 だが蘇生といっても自分の意思で行動することができず、人としての行動は望めない。生きながら死んでいるも同然だった。

「他のブレイディアと接触したか・・」

 連絡を耳にしたクリムゾンが、研究室に足を運ぶ。

「ですがやはり付け焼刃のようです・・数で圧倒できても、本物のブレイディアより力が劣ります・・」

「労働力とこちらの意のままに動く手駒の確保が最大の目的だ。本物と張り合わせようとまでは考えていない・・」

 研究員からの報告に、クリムゾンが淡々と返事をする。

「だがこれ以上は表立って行動させるのもよくない。今後は必要最低限の出撃に留める・・」

「分かりました。引き続きデータ整理を行います。」

 クリムゾンの指示に研究員が答える。

「星川みなも、獅子堂秋葉、神凪いつき、そして青山優花か・・彼女が清和島に戻ってきていたとは・・」

 クリムゾンが得られた情報に目を通していく。

「彼女に面白い趣向を与えておくか・・・金城エリカを含む小隊を向かわせる。」

 不敵な笑みを見せたクリムゾンが、新たなる戦略を企てるのだった。

 

 翌朝、みなもはライムの夜の出来事を話した。ゾンビの正体を聞かされて、ライムは困惑した。

「それでは、そのプルートという組織が、ゾンビを出してきたというの・・・?」

「そうらしいって・・しかもブレイドを出してきて、とても厄介・・」

 不安を口にするライムと、肩を落とすみなも。

「迂闊に零球山周辺を歩くのは危険です。あの死者が昼間に出ないとは言い切れませんから・・」

 いつきもライムに向けて注意を投げかける。

「でも、このままやっつけてもいいのかな・・・?」

 すると秋葉が不安を口にしてきた。

「だって、元々は人間だったんでしょ?・・傷つけるなんて・・・」

「獅子堂さん、正確には、死んだ人間です・・命を落とした人が、プルートによって操られ、本人の意思に関わらず動かされているのです・・」

 沈痛の面持ちを浮かべる秋葉に、いつきが呼びかける。

「あの人たちを私たちの手で弔ってやること。それがあの人たちを救うことです・・」

「いつきちゃん・・気が重いよ・・・」

 いつきに励まされても、秋葉は気落ちしたままだった。

「プルートのことです。公に行動を起こすことはないと思いますが・・」

「そんなことをしたら、向こうに不都合なことが多くなるからね・・」

 いつきに続いてみなもも言いかける。

「それで、結花さんは今日は・・・?」

「今日は見ていませんが・・学園に来ているのでしょうか・・・?」

 ライムが疑問を投げかけると、いつきが深刻さを見せながら答えた。

 

 その頃、結花は清和島の公道をバイクで走っていた。零球山以外にもゾンビが出てきていないか、彼女は捜索の範囲を広げようとしていた。

(零球山とその周辺以外に死体が出てきた形跡はない・・やはり零球山が拠点か・・・)

 結論を出した結花が、改めて零球山に向かった。

 だがその公道の途中、結花は周囲のざわめきを感知してバイクを止めた。直後、彼女の前後にゾンビたちが姿を現した。

「昼間に出るゾンビか・・太陽の光が苦手ということはないようだな・・・」

 結花は呟くと、バイクから降りて臨戦態勢に入る。その彼女の前にエリカが出てきた。

「昨夜の決着か・・悪いがお前に未練などない。私が直接地獄に送り返してやる・・・」

 不敵な笑みを見せる結花が、ブレイドを手にする。エリカもブレイドを出して、彼女に飛びかかる。

 エリカが振り下ろしてきた光の刃を、結花がブレイドで受け止める。

「こんな操り人形にされて、お前だったら納得できるものではないはずなのだがな・・」

 結花は不敵な笑みを見せて、ブレイドを振りかざす。引き離されて後退するも、エリカは結花を見据えたままだった。

「こんな挑発にも耳に入らなくなったとは・・本当に操り人形に成り下がったようだな・・」

 呆れ果てた結花が、再び飛びかかってきたエリカに向けて、ブレイドを突き出す。ブレイドの刀身が左肩をかすめるも、エリカは顔色を変えずにさらに迫ってくる。

「くっ!」

 エリカのブレイドが左頬をかすめ、結花が目つきを鋭くする。エリカの追い打ちを即座にかわし、結花が距離を取る。

「痛みも感じていない・・体を傷つけられても、顔色ひとつ変えずに攻撃を続けてきた・・・!」

 エリカたち死者に対して、結花が毒づく。冷静さを取り戻した彼女が、エリカにブレイドの切っ先を向ける。

「もう金城エリカではない・・生きながら死んでいる・・まさにゾンビだ・・・」

 嘲笑を見せると、結花がエリカに向かっていく。エリカが振りかざしてきた剣をかわすと、結花が降下しながら剣を振り下ろす。

 だがエリカは振り上げたブレイドで結花の攻撃を防いできた。

「何っ!?

 虚を突かれた結花が態勢を崩されて地面に倒れる。すぐに起き上がろうとする彼女に、エリカがブレイドを振り下ろそうとする。

「しまっ・・!」

 危機感を覚える結花。だが次の瞬間、エリカが振り下ろしてきたブレイドが、別の光の刃に弾き飛ばされた。

 みなもが駆け付け、エリカの攻撃を阻止して結花を救ったのである。

「みなも・・・!」

「結花さん、大丈夫ですか!?

 目を見開く結花に、みなもが呼びかけてくる秋葉といつきが他のゾンビをなぎ払い、ライムも電撃でゾンビたちを吹き飛ばしていた。

「白昼堂々と現れるとは・・・!」

「ゾンビやお化けは夜に出るもんじゃないの!?

 毒づくいつきと、声を上げる秋葉。みなもが結花とともに、エリカを見据えていた。

「もうみんな、本人とは違うんですよね・・でも、このまま命を絶つことは・・・」

「迷うな、みなも。命を無慈悲に奪うのは滑稽だが、ここで躊躇するのは逆に命取りだ・・」

 歯がゆさを見せるみなもに、結花が呼びかける。みなもは首を横に振って、迷いを振り切る。

「もう、この手で弔うことしかできないのですね・・・!」

 みなもがエリカに向かって飛びかかる。真正面から向かってくる彼女を迎え撃とうと、エリカがブレイドを振りかざす。

 だがみなもは攻撃は出さず、上に飛んでエリカの攻撃をかわす。そこへ結花が飛び込み、ブレイドを突き出してきた。

 みなもを囮にして繰り出された結花の突きは、エリカの胸に突き刺さった。しかしエリカはその痛みさえも感じておらず、表情を変えない。

「もういいだろう・・そろそろ冥土へと戻れ・・・!」

 結花は低く告げると、エリカからブレイドを引き抜く。そして結花はエリカの持つブレイドを叩き折った。

 ブレイドを折られて消滅の兆候が現れたが、エリカはそれでも痛みを感じず、力なくその場に膝をついていた。

「もう休め・・お前も気分が悪いだろう・・・」

 再び低く告げる結花の前で、エリカは消滅していった。自分が消える末路を辿ったことに気付かないまま。

 他のゾンビ数人も、秋葉たちによって撃退されていた。残りのゾンビも攻撃に出ることができなくなっていた。

「どうします?これ以上の戦闘継続は無意味ですよ。」

 いつきが忠告を促したときだった。彼女の言葉を聞き入れたかのように、ゾンビたちが後退、撤退していった。

「追いかけないと・・ゾンビの正体を確かめないと・・・!」

「追わなくていいです、獅子堂さん!」

 ゾンビを追おうとした秋葉を、いつきが呼び止める。

「でも、それじゃまたゾンビが・・・!」

「わざわざ追わなくても、敵の正体は分かっています。下手に追いかけて、相手の待ち伏せを受けるほうが危険です。」

 いつきに諭されて、秋葉が思いとどまる。みなもと結花もゾンビが去っていったほうを見つめながら、ブレイドを消した。

「これでゾンビ騒ぎも沈静化されるだろう・・あのゾンビも、私たちがプルートのブレイディアと接触したとき以外には出てこないだろう・・」

「でもこれで、プルートが本格的に動いてくるのは間違いないでしょうね・・・」

 言葉を交わす結花とみなも。さらに現れるプルートの脅威を予感しつつ、彼女たちはつかの間の日常へと戻っていった。

 

 エリカが倒され、蘇生させた死人でも太刀打ちできず、プルートの研究の本格化は失敗に陥った。

「やはり戦い方が単調しすぎたか・・もっとも、予測できる範疇ではあったが・・・」

 クリムゾンが戦況を目にしていく。

「ブレイディアに対抗できるのは、生存しているブレイディアだけ・・だがブレイディアに関する情報は、こちらの手の内にある・・」

「クリムゾン様、もしや死者たちに・・・」

「この件の進行は任せる。私は別行動を取る・・」

 研究員に研究を委ね、クリムゾンは研究室を後にした。廊下を進んでいく彼の前に、ブラッドが現れた。

「まだお前の出番ではないぞ、ブラッド。もう少し大人しくしてくれ・・」

 クリムゾンが呼びかけるが、ブラッドは反応を見せない。

「お前が戦うときはすぐに来る。だがそれは今ではない・・」

「そうそう。今度は私が行くから・・」

 クリムゾンに続いて声をかけてきたのは若菜だった。

「あの子がどのくらい強くなったか、他の子がどのくらいなのか、いろいろと直接確かめておこうかしらね・・」

「この前以上に注意を払え。お前が接触した星川みなもの仲間も、彼女に負けず劣らずの力を備えている。肝に銘じておけ。」

「大丈夫よ。私、じっくりやっていきたいから・・死に急ぐなんてバカバカしいって思ってるから・・」

 クリムゾンからの忠告に気楽に答える若菜。

「それじゃ行ってくるから、お留守番お願いねぇ・・」

 若菜はブラッドに気楽に声をかけると、悠然とこの場を後にした。彼女の態度にもブラッドは全く動じない。

「そういうことだ。ブラッド、お前はしばらく・・」

 クリムゾンが改めてブラッドに呼びかけようとした。だがブラッドは聞かずに立ち去っていく。

「待て!外に出るな、ブラッド!」

 クリムゾンの呼び声もむなしく、ブラッドは姿を消してしまった。

「くっ・・早まったことをしなければいいのだが・・・」

 一抹の不安を感じて、クリムゾンは歯がゆさを浮かべていた。

 

 ゾンビの事件は終局に向かった。みなもはそのことをトオルに伝えに行った。

「もう、あのゾンビは現れないんだよね・・・?」

「多分・・・あんな恐ろしいこと、何度も起きてほしくありませんが・・・」

 トオルがおもむろに投げかけてきた問いかけに、みなもも困惑気味に答える。

「これからはきちんと、楽しい夏休みを過ごしていけたらいいね・・・」

「トオルさん・・・そうですね・・夏休みに限らず、怖いのも辛いのも、終わってほしいものです・・・」

 優しく声をかけるトオルに、みなもも笑みを見せた。だがそれが作り笑顔であることを、彼女自身分かっていた。

「そうだ。みなもちゃん、今度の土曜日にプールにでも行かないかな?」

「えっ・・・?」

 トオルからの誘いに、みなもが戸惑いを覚える。

「でも私、泳げなくて・・・」

「それならオレが教えるから・・・遊園地のプールなら、たくさんのプールやスライダーがあるから、みなもちゃんも楽しく過ごせるよ・・」

「トオルさん・・・そういってもらえると嬉しいです・・・」

 トオルの言葉を受けて、みなもが安らぎを覚える。だが次の瞬間、彼女は動揺を感じた。

(こ、これってもしかして・・トオルさんとデート!?・・この前はみんなも一緒だったけど・・今度は2人きり・・・!?

 あまりの動揺に冷静でいられなくなるみなも。落ち着きがないまま、彼女はトオルに深々と頭を下げる。

「は、はい!喜んで行かせていただきます!」

 みなもの返答に、トオルは照れ笑いを浮かべていた。

 

 

次回

第12話「紅の強襲」

 

エリカ「何よ、あの扱いは!?

    全然不格好じゃないのよ!

    しかもうめいてばかりでセリフはないし!」

結花「思いつめるな。

   再登場すら叶わなかったヤツもいるのだからな・・」

エリカ「気休めにもなってないわよ!」

 

 

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