ブレイディアDELTA 第10話「死霊の剣」
プルートの本拠地にある研究施設。そこでは恐ろしい研究が行われていた。
連日研究員が作業を続けている施設に、クリムゾンが訪れた。
「どこまで進んでいる?」
「計算上では我々の指令に忠実に行動する手駒へと調整が行われました。しかしまだ実践されていませんので・・」
クリムゾンの問いかけに、研究員の1人が答える。
「数人連れ出して成果を試せ。データ収集も忘れるな。」
「了解。」
クリムゾンの命令を皮切りに、研究の進行は最終段階に入ろうとしていた。
「ゾンビが出た?」
秋葉からの話にみなもが眉をひそめる。
「そう。ここ最近、ゾンビが徘徊してるって噂を聞くの。特に零球山で・・」
「ゾンビって、死んだ人間が生き返ったってヤツでしょう?そんなのあり得ないって・・」
秋葉の話を信じようとしないみなも。
「確かに死んだ人間が生き返るなんてことはあり得ません。仮にそう見えても、それはその人間の姿をした別物です。」
いつきも否定的な意見を口にする。2人に信じてもらえず、秋葉が落ち込む。
「幻か、そのようなホラーを偽ったからくりなのでしょうね・・」
「どちらにしても、近いうちに化けも皮がはがれることになるわよ。私たちがムキになって探ることではないわ・・」
いつきとみなもの言葉に言い返せず、秋葉は渋々頷いた。
「それにしても、私の前に現れたあの鎧の人・・」
みなもが真剣な面持ちになって、話を切り出した。
「確かにブレイディアだった・・それもかなり強い・・あの人のブレイドを、簡単に折るなんて・・・」
「そこまでの相手だったのですか・・・私たちも注意しないと・・・」
みなもが語っていく言葉に、いつきも深刻さを込めて呼びかける。
「でもそんな格好の人だったら、すぐに分かると思うけど・・・」
「それはそうですが・・それならば、あまり公には姿は見せませんよ・・・」
秋葉が投げかけた言葉に、いつきが付け加える。
「何が起ころうとしているのか、予測がつかない・・・」
込み上げてくる迷いに対して、みなもがため息をついた。
「そういえば、結花さんは・・・?」
「えっ?今日はまだ見かけていませんが・・」
みなもが唐突に投げかけた疑問に、いつきが返事をした。
その頃、結花は理事長室に向かおうとしていた。一矢も彼女に同行していた。
「何もお前も来なくてもいいのに・・」
「確かに蚊帳の外だけどさ・・乗りかかった船でもあるからさ・・」
声をかける結花に、一矢が淡々と答える。結花はノックせずに理事長室の扉を開けて中に入っていった。
「戻っているのだろう?姿を見せたらどうだ?」
廊下を進みながら声をかける結花。彼女は大貴と要のいる部屋にたどり着いた。
「ノックもせずに勝手に入ってくるとは、礼儀がなっていませんね、青山さん・・」
要が結花の態度に呆れて肩を落とす。
「お前たちは私たちを利用してきた側の人間だ。礼儀を尽くす必要はない・・」
「やれやれ、相変わらず強引だね、結花ちゃんは・・」
憮然とした態度を見せる結花に、大貴が悠然と言葉を返す。
「またプルートが再編されたそうだな・・どこまで情報を得ているのだ?」
「さぁてね。僕たちは傍観者だから、詳しいことは分かんないよ・・」
「とぼけるな。今までずっとブレイディアの戦いを見てきて、何も学んでいないはずがないだろう・・」
「今回は本当に詳しくは知らないんだって・・この前は僕たちも狙われていたんだから・・」
苦笑いを見せて答える大貴だが、結花は疑いの視線を送るばかりだった。すると要が話を切り出してきた。
「今回ばかりは私たちもプルートの現状を把握しかねています。こちらへは情報も流れてきていませんし・・」
「フン。最初から私は信用していないが・・」
結花はきびすを返して、部屋を出ていった。
「ホントに謎だらけだな、アンタら・・オレでもはぐらかされてるって気になるぞ・・」
一矢が肩を落として大貴たちに苦言を呈する。
「ま、そのうち向こうの動きも大きくなるかもしれないな・・」
一矢はそう告げると、結花に続いて部屋を出ていった。
「やれやれ。そんなに詳しく知らないのに・・」
「私たちもそれほど知っているわけではないでしょう・・」
呆れた素振りを見せる大貴に、要がため息をつく。
「ま、今まで通り、僕たちは見守るだけさ・・」
笑みを見せる大貴が、窓から外を見つめる。要も呆れながらも、彼の意見に賛同するのだった。
1人で理事長室に向かおうとしていたみなも。その途中、彼女は帰ってきた結花と一矢と会った。
「結花さん・・一矢さん・・・」
「みなも・・お前もあの2人に会いに行くのか・・・?」
足を止めるみなもに、結花が声をかける。
「悪いけど、理事長も教頭も何も話さないぞ。はぐらかされるだけだ・・」
一矢も呆れながら声をかける。
「理事長は、気まぐれな性格なんですか・・・?」
「そうだな・・教頭、白川要は真面目な性格で、大貴の性格に手を焼いているようだが・・」
「それで、ここ最近のプルートの動きは・・・?」
「はっきりしたことは分からない。大貴たちが言うにも、動きをつかみ切れていないということだが、信用できるかどうか・・」
みなもからの問いかけに、結花がため息混じりに答える。
「それで、お前が会ったあの鎧のブレイディアについて聞かせてくれないか?」
「えっ?でもそんなに詳しくは・・」
「知っている範囲でいい。聞かせてくれないか・・?」
今度は結花がみなもに訊ねてきた。
「本当に詳しくは知らないのです。ブレイドが強力なことぐらいしか・・」
「強力なブレイドか・・よほど強い精神を備えているのだろう・・・」
結花が返した言葉に、みなもが当惑を見せる。
「ブレイドはブレイディアの精神状態で、強弱が大きく左右される。その者のブレイドが強いのは、それだけの精神力の強さ、信念を持っているのだろうな・・」
「そうでしたね・・そういう相手は厄介ですね・・・」
結花の説明を受けて、みなもが深刻な面持ちを見せる。
「いずれにしろ十分注意したほうがいい。軽率な判断が、自分だけでなく周りにまで被害をもたらすことになる・・」
「分かっています・・そのことで、秋葉といつきとも話をしましたから・・」
結花の注意にみなもが頷く。ブラッドへの警戒がさらに強まることとなった。
その日の夜、トオルとライムは帰宅のために公道を歩いていた。ゾンビが出るという噂を耳にしていたライムは、不安を膨らませていた。
「怖い・・どこからゾンビが出てくるのか・・・」
「大丈夫だよ、ライム・・ゾンビなんて怖い話の中だけさ・・・」
震えるライムに、トオルが優しく声をかける。
「もしも出てきたら、オレがライムを守るから・・」
「ブレイドが使える私のほうが強いのに・・・」
励ましの言葉をかけるトオルだが、ライムに不満の言葉を返されてしまう。
「そう言われてしまうと、オレも言葉がないよ・・・」
逆に困ってしまい、トオルが頭を下げた。
そのとき、2人の前の草むらから物音がした。その音を耳にしてライムが不安を一気に膨らませる。
「も、もしかして、ゾンビ・・・!?」
「まさか・・ゾンビなんて、ホントにいるなんてこと・・・!」
声を荒げるライムとトオル。2人は草むらに潜んでいる存在を警戒する。
その草むらから出てきたのはいつきだった。
「えっ?いつきさん・・?」
「トオルさん・・ライムさん・・・」
ライムといつきが当惑を覚える。
「零球山で調べ物があったのですが・・ここであなた方と会うとは・・」
「脅かさないでください・・噂のゾンビかと思いましたよ・・・」
事情を説明するいつきに、ライムが安堵を覚える。
「ゾンビ・・確かに噂になっていましたが、結局は非科学的、空想の産物ですよ・・」
「そ、そうですよね・・ゾンビが現実にいるわけないですよね・・・」
現実的な意見を口にするいつきに、ライムが作り笑顔を見せるばかりだった。
そのとき、いつきの背後の物陰から何かが飛び出してきた。その姿を目にした瞬間、ライムが恐怖を覚える。
汚れて朽ち果てた体と容姿。まさにゾンビだった。
「ゾ、ゾンビ!?」
声を張り上げるライム。ゾンビは不気味な吐息をもらしながら、ゆっくりとライムたちに迫ってくる。
「あなたは何者です!?正体を現しなさい!」
いつきが身構えて、ゾンビに呼びかける。そのとき、別のゾンビが数人現れた。いずれも女の容姿をしていた。
「トオルさん、ライムさん、ここは私が食い止めますから、2人は逃げてください!」
「でも、それじゃいつきさんが・・!」
呼びかけるいつきに、トオルが声を返す。
「私は大丈夫です・・ライムさん、トオルさんを守ってあげてください・・・!」
いつきは再び呼びかけると、ゾンビたちに視線を戻してからブレイドを手にする。彼女を信じて、トオルとライムがこの場を離れた。
「これは仮装とは違います。すぐに立ち去るなら、危害を加えるつもりはありません。」
ブレイドの切っ先をゾンビたちに向けて、いつきが忠告を送る。するとゾンビたちが後退し、そのまま彼女の前から姿を消した。
戦意を抑えたいつきがブレイドを消す。だがゾンビたちが去った意図が分からず、彼女は疑問を感じていた。
翌日、いつきはみなもと秋葉に、夜の出来事を話した。
「まさか、本当にゾンビが・・・」
「本物なのか、誰かがなりすましているのかは分かりませんが、私たちの前に現れたことは間違いありません・・」
当惑を見せるみなもに、いつきが深刻さを込めて説明する。
「トオルさんとライムちゃんも見ているのだから、いるにはいたのよね・・」
「どっちにしてもそんな嫌がらせをするなんて・・」
頷きかけるみなもと、不満を口にする秋葉。
「本格的に調べてみる必要があるみたいね・・結花さんにも相談してみよう・・」
みなもが告げた言葉に、秋葉といつきは頷いた。
「ダメだ。私は気が乗らない。」
話を切り出したみなもへの結花の即答がそれだった。
「何を言っているのですか・・ハデスの可能性も否定できなくなってきたんですから・・」
「気が乗らないと言っているだろう・・何度言われても答えは同じだ・・」
呼びかけるみなもだが、結花は頑なに拒否する。そこへ一矢がにやけ顔で声をかけてきた。
「結花、そういえばオバケが苦手だったっけ?」
「バカ!余計なことを言うな!」
一矢にからかわれて、結花が赤面しながら抗議の声を上げる。
「えっ?それじゃ、みなもさんがゾンビ探しを嫌がったのは・・」
みなもが言いかけたとき、結花が彼女の口を手で押さえてきた。
「他の誰かに話したら、八つ裂きにしてやるからな・・・!」
目つきを鋭くして忠告してくる結花に、みなもはただただ頷くばかりだった。
「それで結花さん、ゾンビが実在すると、死んだ人が蘇ると思いますか・・・?」
みなもが改めて結花に質問を投げかける。すると結花が神妙な面持ちを見せてきた。
「・・・だとしたら、ここにいる私もゾンビということになるな・・・」
「・・・どういう、ことですか・・・?」
結花の言葉の意味が分からず、みなもが疑問を浮かべる。
「私の仲間のブレイディアの1人で、治癒を行えるヤツがいたんだ・・治癒といっても、他人の傷を自分に移すのがアイツのブレイドの能力だったのだが・・」
昔のことを思い出しながら、結花が語り出す。
「アイツの力は死者を蘇らせることができた・・だがそれだけの効力、反動も計り知れない・・・」
「まさか・・・!?」
「そうだ・・私は1年前の戦いで1度死んだ・・だがアイツのおかげで生き返ることができた・・・だが、そのためにアイツは・・・」
不安を覚えるみなもに、結花が歯がゆさを見せる。自分を蘇らせたために命を落とした仲間に、結花は罪の意識を感じていた。
「死んだ者を生き返らせることは不可能ではない・・だが代わりに、誰かの命を犠牲にしなければならなくなる・・・」
「そんなことが・・・すみません、そうとは知らずにそんな質問をしてしまって・・・」
結花の話を聞いて、みなもが謝意を見せる。
「気にするな・・悔いてもどうにもならないことだ・・・」
物悲しい笑みを見せる結花。彼女が悔いていないように見えて、みなもは困惑していた。
「・・気が変わった。お前たちに付き合ってやる・・」
「結花さん・・・ありがとうございます・・」
結花の協力にみなもが喜び、頭を下げた。2人のやり取りを見て、一矢も笑みをこぼしていた。
その日の夜が訪れた。みなも、秋葉、いつき、結花は零球山の入り口に来ていた。
「ゾンビはここ零球山から500メートルほど離れた道に現れました・・ここを拠点にしているのは間違いありません・・」
「だが零球山も広いよ・・隠れられる場所なんてたくさんあるし・・」
淡々と語るいつきと、不安を浮かべる秋葉。みなもと結花は冷静に山を見つめていた。
「手分けして探したほうがいいのでは・・・?」
「だがまだ得体が知れない。迂闊に手を出すのはよくない・・」
みなもの提案に結花が苦言を呈する。
「見つけても1人で戦おうとするな。必ず誰かと合流しろ。」
結花の指示にみなもたちが頷く。4人は散開して、零球山での捜索を開始した。
既に日は落ちて暗くなっていた。月明かりも差し込んでこず、道は見えなくなっていた。
「やっぱり怖いよ〜・・夜の山は〜・・・」
秋葉が怖がりながら周囲を見回していく。周囲は真っ暗で、何が出てくるのか予測がつかない状態だった。
「せめて何か明かりがあれば〜・・・そうだ!」
思い浮かんだ秋葉がブレイドを出して、その輝きを明かりにして周囲を見回した。
「これならよく見える、よく見える♪」
明るくなったことに喜ぶ秋葉。彼女は改めて捜索を行うことにした。
そのとき、秋葉は周囲から響いてくる物音を耳にした。
「この音・・・もしかして、ゾンビ・・・!?」
警戒して身構える秋葉。すると物陰からゾンビが続々と姿を現してきた。
「囲まれてる!?・・・いつの間に、そんな・・・!?」
ゾンビの群れに驚愕する秋葉。彼女の出したブレイドの輝きを見つけてやってきたのである。
「どうしよう・・これじゃ逃げられない・・・!」
「獅子堂さん!」
焦りを膨らませる秋葉に向けて声がかかる。ブレイドの刀身で叩くようにしてゾンビをなぎ払って、いつきが飛び込んできた。
「いつき!」
声を上げる秋葉を連れて、いつきがゾンビたちをかき分けて逃げ出していく。
「軽率ですよ、獅子堂さん!あんなに明確な光を出したら、やってくるのは分かっているでしょう!」
「そんなこといったって〜・・・」
注意してくるいつきに、秋葉が悲鳴を上げる。
「今はみなもさんと結花さんとの合流が先決です!この零球山では携帯電話などの通信機器が使えませんので・・!」
いつきがみなもたちとの合流を考えたときだった。別のゾンビの群れが2人の前に現れた。
「ここにまで・・・!」
逃げ道をふさがれて焦るいつき。
「秋葉!いつき!」
そこへブレイドを手にしたみなもが飛び込んできた。続いて結花もブレイドでゾンビをかき分けて駆け込んできた。
「お前たち、大丈夫か!?」
「結花さん・・はい、大丈夫です!」
呼びかける結花にいつきが答える。身構えるみなもたちの前に、ゾンビたちが立ちはだかる。
「本当に何者ですか!?悪ふざけもいい加減にしなさい!」
いつきが呼びかけるが、ゾンビたちは不気味な声を上げるばかりである。
「私たちのブレイドを見ても全く動じていない・・もはや理性のないバケモノと見るしかないな・・」
結花は躊躇を切り捨てて、ゾンビを撃退しようと考えた。だが彼女は突如目を見開いた。
「結花さん・・・?」
「バカな!?・・・どういうことなんだ・・・!?」
眉をひそめるみなものそばで、結花は目を疑っていた。
「お前は・・金城エリカ・・・!?」
彼女の見据える先には、かつての敵、エリカがいた。
次回
エリカ「納得いかないわ・・・
久々に出た私が、あんなみすぼらしくなっているなんて・・・!?」
結花「気にすることはない。
お前は既にたくさんの敵を作っているのだからな・・」
エリカ「今度こそ叩き斬ってやるわよ!」