ブレイディアDELTA 第9話「海辺の大決闘」
みなもたちの前に現れ、凛を打ち負かしたブラッド。冥王の間に戻ってきた彼女の前に、クリムゾンがやってきた。
「他のブレイディアと戦ったか・・・」
クリムゾンが声をかけるが、ブラッドは何も答えない。
「あまり人目につく行動を取るな。少なくとも、数人のブレイディアにお前の存在が知られたことになる・・」
クリムゾンが深刻さを込めて、ブラッドに言いかける。
「あまり軽率な行動はするな。自分の破滅を呼び込むことになるぞ・・」
忠告を送るクリムゾンだが、ブラッドは再び歩き出し、冥王の間を出ていった。
(全てを捨て去ったと言っていたはずの彼女が、妙に未練がましいというか、過去に執着している節がある・・・)
ブラッドの真意を察して、クリムゾンが懸念を抱く。彼女への監視に力を入れて、クリムゾンは行動を再開した。
1学期が終わりを迎えた。生徒の多くが夏休みに入ることを喜ぶ一方、宿題を多いと感じて頭が上がらなくなっていた。
秋葉も夏休みの宿題に頭を抱えていた。そのそばでみなもといつきは平穏だった。
「う〜、難しい宿題がこんなに〜・・・」
「夏休みは長いのよ。量は多いけど、夏休みの間でこなせないことはないわ・・」
悲鳴を上げる秋葉に、みなもが淡々と言いかける。
「このくらいでしたら、普通にやっても2、3日で終わらせられますよ。その後は自身の精進に打ち込めます。」
冷静沈着を保って、いつきも言いかける。2人の言葉が重くのしかかり、秋葉はさらに気落ちする。
「まぁ、早く宿題を終わらせて、残りの休みを遊びに使うのもよく聞くけど・・・」
「そうだよ!それだよ!早く宿題をやっちゃえば、その後は遊べるじゃない!」
みなもが口にした言葉を耳にして、秋葉が意気込みを見せる。
「何か目的が間違っているようですが・・・」
いつきが唖然となっているのを気に留めず、秋葉は狂喜乱舞していた。
「この夏休み・・ブレイディアと戦うことがなければいいんだけど・・・」
暗い表情を浮かべるみなもの言葉を聞いて、秋葉といつきも深刻さを募らせる。
彼女たちはブレイディアの最期を目の当たりにした。ブレイディアがどういうものなのか、みなもと秋葉は改めて思い知らされた。
「私たちも、ブレイドを折られれば・・・」
「極力ブレイドを使わないようにしましょう。そうすればブレイドが折られることはないのですから・・」
不安を口にするみなもに、いつきが励ましの言葉を投げかける。
「そうならないことを祈るばかりね・・・」
物悲しい笑みを見せるみなも。ブレイディアの死の宿命は、彼女に重くのしかかっていた。
それから1週間がたった。既に宿題を終えたみなもは、アルバイトをいくつかこなしていた。
この日、みなもは海の家での仕事をしていた。淡々と仕事をこなしていた彼女は、やや退屈を感じていた。
(この仕事も収入はいいんだけどね・・・)
「みなもちゃん、これも運んでくれー!」
焼うどんが出来上がったことを知らせる声がかかり、みなもは仕事に集中した。
その日の仕事を初めて2時間ほどがたとうとしたときだった。
「それにしても、この日に限って・・・」
みなもが海辺に目を向けてため息をついた。来客が多くにぎわいのある海辺、浜辺には式部学園の生徒や教師の姿があった。
「あっ!やっぱりここにいたんだね、みなもちゃん♪」
秋葉がいつきとともに、海の家にいるみなもに声をかけてきた。気兼ねなく笑顔を見せてくる秋葉に、みなもは肩を落としていた。
「ご注文は?」
席についた秋葉といつきに、みなもが注文を取る。だが彼女の態度は明らかにさわやかではなかった。
「ス、スマイルひとつ・・・」
「ありません。」
苦笑いを見せて言いかける秋葉に、みなもが冷淡に告げる。
「でもスマイル見せたほうがいいって〜・・でないとお客さん来なくなるよ〜・・」
「悪ふざけは営業妨害ですのでやめてください。」
からかってくる秋葉に、みなもが目を吊り上げる。
「この、イカの塩焼きをひとつ、お願いします。」
いつきが仲裁の意味を込めて、みなもに注文する。
「う〜、あたしは焼きそば〜・・」
秋葉も気まずさを感じながら注文をした。
休憩時間に入ったところで、みなもは浜辺に出てきた。すると秋葉といつきが駆け込んできた。
「どうして2人がここにいるのよ?私がここでアルバイトをしているの、あなたたちには教えてあったはずじゃない・・」
「すみません。ですが獅子堂さんがどうしても行ってみたいと言って、私を連れ出して・・・」
問い詰めるみなもに、いつきが謝意を見せながら事情を説明する。
「もう、このおてんばは・・」
睨みつけてくるみなもに、秋葉は苦笑いを見せる。
「でもここに来たのは、あたしたちだけじゃないみたいだよ・・」
「そのようね・・どうして今日に限って・・・」
秋葉の言葉を聞いて、みなもがまたも肩を落とす。
「おや?みなもちゃんじゃないか・・」
そこへ聞き覚えのある声を耳にして、みなもが動揺する。彼女たちが振り向いた先には、トオルとライムがいた。
「トオルさんも来ていたのですか・・・!?」
「うん。丁度オレとライム都合が合ってね。2人でやってきたんだよ・・」
声を上げるみなもに、トオルが事情を説明する。
「でもこうしてみなもちゃんたちに会えるなんて・・オレは嬉しいよ・・」
「私もみなもさんたちと会えてよかったです・・みなさんと一緒に、海で楽しい時間を過ごせるのだから・・・」
トオルとライムがみなもたちに会えたことを喜ぶ。そんな2人を見て、みなもも素直に喜んだ。
「ちょっと!冷たいじゃないよ!」
そのとき、海の家から怒号が飛び出してきた。みなもたちが様子を見に行くと、店員の女子が怒鳴られていた。
怒鳴っていたのはあかね。そばではかなえが気まずそうにしていた。
「ちゃんと運びなさいよね!よりによってかき氷をこぼすなんて!」
「すみません!すみません!」
怒鳴るあかねに女子がひたすら謝る。
「謝って済むことじゃないわよ!氷をかけられて冷たいし、シロップで汚れたし!」
「お姉ちゃん、そこまで怒ることはないと思うよ・・みんなも迷惑になっているし・・」
かなえがなだめるが、あかねは怒りを治めない。
「ちゃんと償ってもらうわよ!とりあえずクリーニング代は出してもらわないと!」
「そんな怒鳴り声ばかり出していると、他のお客様の迷惑になりますよ。」
そこへみなもが注意を投げかけてきた。彼女に声をかけられて、あかねが驚きを覚える。
「あ、あなた!そこで何してるのよ!?」
「ここで働いているのよ。騒がしいので怒鳴るなら外で怒鳴って。何なら海に向かって叫んでみれば?」
声を荒げるあかねに、みなもが呆れながら呼びかける。
「まさかここであなたと会うなんてね・・せっかくだから勝負してやるわよ!」
あかねがみなもに向けて指をさし、高らかに言い放つ。
「ちょっと、人前でそんな・・」
「心配しなくていいわ。ここは海らしく、海のスポーツで勝敗を・・」
「却下。」
あかねが持ちかけた勝負を、みなもがすぐに拒否する。
「私は泳げないの。だから海のスポーツなどできるわけないでしょう。」
「そんな自慢げに言わなくても・・・」
みなもが口にした言葉に、かなえが苦言を呈する。
「別に水泳をやろうだなんて言ってないわ。勝負の内容は・・」
「勝負の内容は・・・!?」
「ビーチフラッグよ!」
「はあっ!?」
あかねが告げた勝負の内容に、みなもが声を荒げる。
「それなら陸上でやれるじゃないの。あなただって文句はないわよね?」
「それなら文句はないけど・・」
「それとも、私に負けるのが怖いの?臆病者の腰抜けなの?」
あかねが投げかけてきた挑発に、みなもが眉を吊り上げる。
「言ってくれるわね・・そんなにこてんこてんのけちょんけちょんにされたいなら、望み通りにしてやるわよ・・・!」
「ちょっと、みなもさん・・そんな挑発に乗っては・・」
苛立ちを込めた笑みを見せるみなもを、いつきがなだめようとする。しかし既にみなもとあかねの対決の火ぶたは切って落とされていた。
みなもとあかねの対決は、またたく間に周囲の人たちの耳に入った。ビーチフラッグの準備が整い、2人がうつ伏せになって勝負の時を待つ。
「まさかここまで人が集まるなんて・・」
「あら?私はギャラリーが多いほどやる気を増すタイプなのよ。」
ため息をつくみなもと、勝気に言いかけるあかね。
「今のうちに尻尾巻いて逃げたら?みんなの前で恥をかくことになるから・・」
「同じセリフを返すわ。負け恥をかくのはあなたのほうだから・・」
互いに不敵な態度を見せるみなもとあかね。
「それでは始めますよ・・いいですね・・・?」
合図を出すかなえが声をかけると、みなもとあかねが構える。秋葉たちも緊張を感じていた。
「位置について・・よーい、ドン!」
かなえの掛け声と同時に、みなもとあかねが起き上がり飛び出す。2人は1本の旗を目指して、全速力で駆けていく。
(なかなかやるわね・・でも勝負とは非情なものなのよ!)
焦りを感じたあかねが、並んだところでみなもを横に突き飛ばす。
「ちょっと、それは反則!」
「そこにいるあなたが悪いのよ!」
抗議の声を上げるみなもを後ろに、あかねが前に進む。そのとき、突如砂が舞い上がり、彼女にかかった。
「キャッ!」
砂のあおられて倒れるあかね。みなもが後ろから砂を蹴り飛ばし、彼女にかけたのである。
「ちょっと、卑怯じゃないのよ!」
「ごめんなさいね。足に勢いがつきすぎて・・」
怒鳴るあかねを背にして、みなもが作り笑顔を見せる。2人は苛立ちを膨らませながら、さらに前進する。
「こ、これって・・・」
「醜い・・ものすごく醜い争いです・・・」
2人の勝負を見て秋葉が唖然となり、いつきが呆れる。勝負は拮抗したまま、フラッグが目前となった。
「負けてたまるものか!」
「こんなのに負けるものですか!」
声を張り上げてフラッグに飛びつくみなもとあかね。2人がフラッグに向かって飛びついた。
「私が!」
必死にフラッグに向けて手を伸ばす。2人の突撃により、浜辺に砂煙が舞い上がった。
「ど、どっちが勝ったの・・・!?」
勝敗の行方を気にして息をのむ秋葉。やがて砂煙が弱まり、みなもとあかねの姿が見えてきた。
だが2人のどちらの手にもフラッグは握られていなかった。
「こんなところで何だ、騒々しい・・」
そこへ声がかかり、みなもたちが顔を上げる。その先には結花が立っており、彼女の手にフラッグが握られていた。
「何をしているのですか、結花さん・・・!?」
「それは勝敗を決めるものよ・・こっちに渡しなさい!」
目を吊り上げるみなもとあかね。2人の憤慨を見て、結花が呆れてフラッグを海のほうに放り投げた。
「あっ!」
「くだらないことで争うな。ここは海だ。私が言うのもなんだが、楽しくやったらどうなんだ?」
声を荒げるみなもとあかねに、結花が呆れながら言いかける。
「このまま痛み分けになんてさせないわよ・・フラッグを取って、私が勝利するのよー!」
あかねが海に飛んでいったフラッグを追いかけていった。
「お、お姉ちゃん!」
姉の姿が見えていたかなえも、彼女を追って海に出る。フラッグを手にしたあかねだが、大きく揺れ出した波にさらわれて、かなえとともに流されていってしまった。
「あの2人・・・」
「そういえば海の家にはカレーがあったな・・食べてみるとしよう・・」
唖然となるみなもに、結花が微笑んで声をかける。みなもは肩を落としてから、笑みを見せて頷いた。
「味にうるさくされても困りますからね・・・」
勝負の騒々しさが和らぎ、海辺には本来のにぎやかさが戻っていた。
結花は海の家にて黙々とカレーを食していた。
この日の仕事を終えたみなもは、トオルとともに海沿いの道を歩いていた。
「すみません、騒がしいことになってしまって・・」
「気にしないで。むしろ楽しくなったと思っているから・・」
謝るみなもにトオルが弁解を入れる。
「本当でしたら、海に来たらまず泳ぐものなのですが、泳げないものですから・・・」
「えっ?みなもちゃん、泳げないの・・?」
みなもが口にした言葉に、トオルが驚きを覚える。
「だったらいつかプールにでも行こうか。オレが教えるよ・・」
「えっ?いいんですか、トオルさん・・?」
「誰にだって苦手なことはあるものだよ。でもどんなに苦手でも、一生懸命になれば必ず乗り越えられる・・父さんの受け売りなんだけどね・・」
トオルに励まされて、みなもが喜びを感じて笑みを見せる。彼との距離がさらに近くなったと、彼女は感じていた。
「ライムや君たちの使っている力のことはよく分からないけど、一般的なことだったらある程度教えられると思う・・」
「トオルさん・・・」
「ライムを助けていってほしい・・オレじゃムリだけど、みなもちゃんたちだったら・・・ごめん・・わがままを言っているようで・・」
「いえ、そんな・・トオルさんにはいろいろとお世話や迷惑をかけてばかりですから・・・」
トオルからの優しさを受けて、みなもが頬を赤らめる。するとトオルが彼女に手を差し伸べてきた。
「これからもよろしくね、みなもちゃん・・オレもできる限りのことはしていきたいから・・・」
「トオルさん・・・はい、よろしくお願いします・・・」
みなももトオルの手を取って握手を交わした。トオルとのきずなが深まったと感じて、みなもは喜びを膨らませていた。
「お兄ちゃん、もうすぐ花火が始まるよ・・」
そこへライムがやってきて声をかけてきた。秋葉といつきも一緒だった。
「お、もうこんな時間か・・みなもちゃん、行こうか・・」
腕時計を見てから声をかけるトオルに、みなもは笑顔を見せた。
浜辺では花火が行われていた。線香花火から打ち上げ花火まで、様々な花火が海や夜空を彩っていた。
その花火を見て、みなもたちは安らぎを感じていた。
「きれいですね、トオルさん・・・」
みなもが花火を見て囁くように言葉をかける。彼女の言葉を受けて、トオルも微笑んで頷く。
そのとき、みなもが光の粒子となって消えた凛の姿を思い返し、表情を凍らせる。
(違う・・あの光と、その花火の美しさとは全然違う・・・!)
込み上げてくる不安を振り切ろうとして、みなもが首を振る。
「どうしたの、みなもちゃん・・・?」
そこへトオルに声をかけられ、みなもが我に返る。
「い、いえ、何でもないです・・・」
作り笑顔を見せて答えるみなも。だが彼女の心にはまだ不安が残っていた。
海辺での花火の輝きは、大貴と要のいる理事長室からも見えていた。
「うんうん、花火はやっぱりいつ見てもいいねぇ・・」
「あまりのん気に過ごしている場合ではないですよ、兄さん・・」
満足げに頷く大貴に、要が呆れた態度を見せる。
「プルートからブレイディアが現れました。かなりの力の持ち主のようです・・」
「そのようだね・・」
「あまり楽観的に考えるのは感心しませんよ。いつものことではありますが・・」
「緊迫した状況だからこそ、楽しまないと損というものだよ・・」
「あなたという人は・・・これだけは覚えておいてください。ブラッドという名のブレイディア。彼女は要注意であるということを・・」
「ブラッドね・・・」
ブラッドのことを告げる要。大貴がブラッドに対して、意味深な推測を念頭に置いていた。
「どういうブレイディアなのかは分からないけど、まだ見物をしていてもよさそうだ・・」
「兄さん・・・」
「ひとまずあの子たちに任せてみようか・・結花ちゃんたちだけでなく、みなもちゃんたちにも・・・」
眉をひそめる要の前で、大貴は悠然と頷いていた。彼は新たに起こる戦乙女の舞を見据えていた。
次回
みなも「夏にとって欠かせないものとは?」
秋葉「海、かき氷、スイカ割り♪」
いつき「夏はやはり水分を取らないと・・
熱中症は夏場での天敵です。」
みなも「2人とも、肝試しを忘れているわよ・・」
秋葉「そういえば・・」
いつき「誰か、怖がっていた人が・・・」