ブレイディアDELTA 第8話「舞う乙女、散る乙女」
みなもたちの前で、ブレイドを発動させたライム。金色の光の剣を手にした彼女が、凛を見据える。
「ライムちゃんが、ブレイディアだったなんて・・・!?」
「えっ?・・それじゃ、みんなももしかして・・・」
声を荒げる秋葉の言葉を聞いて、トオルが声を上げる。
「えっ・・・!?」
彼の言葉を聞いて、みなもがさらに驚く。
「トオルさん、ブレイディアのことを知っていたのですか・・・!?」
たまらず声を荒げるみなも。トオルは困惑のあまり、答えられずにいる。
「ちょっとちょっと、そっちばかり盛り上がっちゃって・・こっちは全然楽しくならないわよ・・」
そこへ凛が不満の声をかけてきた。
「まさか1発でブレイディアにぶち当たるなんてね・・ちょっとは楽しませてほしいわね!」
いきり立った凛が飛びかかり、ライムにブレイドを振り下ろしてきた。ライムもとっさにブレイドを掲げて受け止める。
「お兄さんには手を出させない・・みんなには手を出させない!」
ライムが凛に向けて言い放つと、彼女の持っていた金色の剣から電撃がほとばしった。
「えっ!?」
驚きの声を上げながら、とっさにライムから離れる凛。だが電撃の余波をかわせず、彼女が顔を歪める。
「コイツ、電気を出せるの!?」
「剣自体は強くないけど、電気を出すことができるの・・電気ショックで仮死状態にすることもできるのよ・・」
声を荒げる凛に、ライムが低く告げる。
「面白いじゃないのよ・・こうでないと楽しくならないじゃない・・・」
凛は笑みを見せると、再びライムに飛びかかる。ライムがブレイドを振りかざし、電撃を解き放つ。
「そう何度も食らうわけないじゃない!」
凛が言い放ち、後ろに下がって電撃を回避する。電撃が弱まったところで、彼女は改めてライムに飛びかかる。
そこへみなもがライムの前に割って入り、凛の振り下ろしたブレイドを、自分のブレイドで受け止める。
「ライムさんには危害を加えさせない・・・!」
声を振り絞るみなもが、ブレイドを振りかざして凛を突き放す。
「みなもさんも、ブレイディアだったの・・・!?」
「ライムさんが、自分のことを打ち明けてきた・・私も自分のことを打ち明けるよ・・」
驚きを見せるライムに、みなもが微笑んで告げてくる。2人のブレイディアを目の当たりにして、凛が笑みを見せる。
「ブレイディアが2人とは、ますます面白くなってきたわね・・他の2人も、ブレイディアだったりするの?」
「秋葉といつきはトオルさんと一矢さんをお願い・・この人は私が押さえるから・・・」
凛が呟く前で、みなもが小声で呼びかける。
「しかし、それではみなもさんとライムさんが・・」
「大丈夫・・危なくなったらすぐに逃げるから・・・」
いつきが心配の声をかけるが、みなもは首を横に振る。
「・・・分かりました・・みなもさん、ライムさん、気を付けてください・・・!」
みなもたちへの信頼を寄せて、いつきが秋葉たちとともにこの場を離れた。
「逃がしたって気にしないよ・・楽しめる相手が目の前にいるんだから・・・」
凛がみなもとライムに笑みを見せて、ブレイドを構える。
「詳しい話は後で聞くわ。それと、くれぐれも軽率な行動を取らないように・・」
「みなもさん・・・分かりました・・・」
みなもの呼びかけにライムが頷く。
「ますます面白くなってきたよ・・2人相手でも別に構わないよ!」
目を見開いた凛が、みなもとライムに迫っていった。
ライムとみなもに助けられて、秋葉、いつき、トオル、一矢は逃げることができた。安全な場所まで逃げたところで、いつきがトオルに訊ねた。
「トオルさん・・・トオルさんは知っていたのですか?・・ライムさんがブレイディアであること、ブレイディアがどういう存在なのか・・・?」
いつきに問い詰められて、深刻な面持ちを浮かべるトオル。だが気持ちを落ちつけてから、トオルは頷いた。
「知っていた・・ブレイディアという言葉は知らなかったけど、どういうものなのかは分かっていた・・母さんもそうだったから・・・」
「お母さんも・・それじゃ、ライムちゃんがブレイディアだって知ったとき・・・」
トオルの答えに、秋葉がたまらず声を上げる。
「オレも最初はよく分からなかった・・でも危ない力と思って、無闇に使うなとは言ったけど・・・」
「ではトオルさんの知る限り、あれ以来ライムさんがブレイドを使ったのは、今回が初めてなのですね・・?」
「うん・・そのはずだけど・・・」
いつきの問いかけにトオルが頷く。
「つまり、ブレイディアに関する情報は、ライムさんのほうが詳しいと・・・」
情報を整理して思考を巡らせるいつき。
「結花さんも気がかりです・・私が結花さんのところに向かいますから、獅子堂さんはみなもさんたちのところへ・・」
「えっ?でもそれだとトオルさんと一矢さんが・・・」
「あの2人も先ほどのブレイディアも、狙いは同じブレイディアである私たちです。トオルさんたちを狙ってくることはないでしょう・・」
不安を口にする秋葉に、いつきが状況を説明する。秋葉はトオルと一矢に目を向けてから、渋々頷いた。
「分かったよ・・でもすぐに終わらせて、すぐに戻ってこよう・・」
「私もそのつもりです。急ぎましょう。」
秋葉の投げかけた言葉にいつきが頷く。2人は結花とみなもたちの援護のために飛び出していった。
「2人だけで大丈夫なのか・・・?」
「2人ともブレイディアなんだろ?・・だったらやらせるしかないな・・・」
不安を口にするトオルに、一矢が気さくに言いかける。
「できればオレが飛び出すところなんだけどな・・ブレイディアに太刀打ちできないって分かっちまってるから、それができないんだよ・・情けないことだ・・・」
「本当だ・・オレもライムのために何もできてない・・みなもちゃんも助けられない・・・」
肩を落とす一矢と、自分の無力さを痛感するトオル。
「今は待ってるしかねぇな・・結花たちを信じるしか・・・」
一矢が投げかけた言葉にトオルが頷く。2人はみなもたちの帰りを待つことしかできなかった。
力任せに攻撃を仕掛けていくあかね。だが戦い慣れている結花には手も足も出なかった。
「そろそろ逃げたらどうだ?これでは見苦しいぞ・・」
「うるさいわよ!あなたが早くやられれば、長引かずに済んでるのに!」
呆れている結花に、あかねが不満を叫ぶ。
「その人の言うとおりにしようよ、お姉ちゃん・・もうやめたほうが・・」
「腑抜けたこと言わないの、かなえ!あなたも戦いなさいよ!」
かなえが呼びかけるが、あかねは聞こうとしない。すると結花がブレイドを消して、きびすを返した。
「もうお前たちには付き合いきれない・・もう行かせてもらうぞ・・・」
「冗談じゃないわよ・・こんな一方的にされて、打ち切っていいと思ってるの!?」
ため息混じりに言いかける結花に、あかねが怒鳴る。だが結花は構わずに立ち去っていった。
「もー!覚えてらっしゃい!」
不満を叫んで地団太を踏むあかね。かなえは彼女を見つめて困り顔を浮かべるばかりだった。
人気のない場所へと凛をおびき寄せたみなもとライム。2人は凛を見据えて、出方をうかがっていた。
「ここでなら存分に戦えるってわけ?私にはどうでもいいことだけど・・」
「よくないわ。関係のない人を巻き込んでまで戦うなんて、私は認めない。あなたのその無神経さには納得ができないわね・・」
嘲笑してくる凛に、みなもが真剣な面持ちで言いかける。しかし凛は呆れた素振りを見せる。
「そういうつまんないことを気にすると損よ。人生楽しくなんないと・・」
「自分の楽しみのためなら、関係のない人が傷ついても構わない・・そんな考え、許すわけにいかない!」
凛の態度に憤慨するみなも。彼女は飛びかかり、凛に剣を振りかざす。
「そういう正義感もつまんないってさ!」
笑みを強めた凛もブレイドを掲げて、みなものブレイドを受け止める。だがみなもは立て続けにブレイドを叩きつけていく。
「力押しだったら、私のほうが有利よ!」
凛がブレイドを振り上げて、みなものブレイドを跳ね上げる。
「うっ!」
凛に押されてみなもがうめく。
「みなもさん!」
そこへライムがブレイドを突き出してきた。みなもと凛の間に割って入ってきたライムが、電撃を放つ。
「うわっ!」
電撃をあおられて凛が悲鳴を上げる。電撃が体に痺れをきたして、彼女は顔を歪める。
思うように動くことができなくなった凛に向けて、ライムがブレイドを振りかざす。その一閃が、凛の手からブレイドを弾き飛ばす。
凛の手元から離れたブレイドが消失する。痺れが治らない彼女に、ライムがブレイドの切っ先を向ける。
「これで終わりです・・2対1の勝負に、何の考えも持たずに挑むのは無謀ですよ・・・」
ライムが凛に向けて忠告を送る。しかし凛は聞き入れようとせず、苛立ちをあらわにする。
「退屈ばかりで嫌気が差してるのよ・・このくらいのピンチ、むしろ面白いじゃないの!」
凛が麻痺の残る体に鞭を入れて立ち上がる。ライムとみなもが再び警戒を強める。
「ここから大逆転するのはもっと楽しいじゃない!これからが私の攻撃の時間・・!」
凛がみなもたちに言い放ったときだった。
この場に近づいてくる足音が、みなもたちの耳に入ってきた。機械的な重圧感のある足音だった。
みなもたちの前に現れたのは、紅い鎧に身を包んだ人物だった。完全に体を鎧が覆っており、素顔も性別も判別することができなかった。
「この人・・・?」
その人物、ブラッドにみなもが眉をひそめる。足を止めたブラッドに、凛が目つきを鋭くする。
「悪いけど邪魔しないでくれる?2人は私が相手をしているんだから・・」
凛が声をかけるが、ブラッドは何も言葉を発しない。
「無口なの?そんなロボットみたいな鎧着ちゃって・・ダサいったらありゃしない・・」
凛が挑発を口にするが、ブラッドは何の反応も見せない。
「何か言えばいいのに・・・まぁいいわ・・私の剣の試し打ちの相手ぐらいはしてもらえそうね・・・」
凛が笑みをこぼすと、自分のブレイドを出現し、切っ先をブラッドに向ける。
「悪く思わないでね。私が楽しんでいるところにちょっかいを出したあなたが悪いんだから・・」
さらに笑みをこぼす凛。するとブラッドがようやく動きを見せた。
ゆっくりと右手を上げていくブラッド。その手から紅い光が発せられた。
「まさか・・・!?」
その光にみなもが驚愕する。ブラッドが出したのは、紛れもなくブレイドだった。刀身の大きい、斬ることに長けた紅いブレイドだった。
「あの人も、ブレイディアだったんですか・・・!?」
ライムも驚きの声を上げる。一方、凛はブラッドのブレイドを見て喜びを覚える。
「あなたもそうだったの・・ますます面白くなってきたじゃない・・」
凛がブラッドに向けてブレイドの切っ先を向ける。
「せっかくだから、あなたから相手をしてあげるよ!」
いきり立った凛がブラッドに向かって飛びかかる。だが彼女が振り下ろしたブレイドを、ブラッドはブレイドで軽々と受け止めた。
「えっ!?」
声を上げる凛が、ブレイドに力を込める。だが彼女はブラッドを押すことができない。
攻めきれずにいる凛に向けて、ブラッドが左手を突き出す。
「ぐっ!」
痛烈な一撃を体に受けて、凛がうめいて怯む。後ずさりする彼女に向けて、ブラッドがブレイドを振りかざす。
その一閃が、凛が持っていたブレイドの刀身を叩き折った。
「えっ・・・!?」
自分のブレイドを折られたことに、凛は目を疑った。ブラッドは自分のブレイドを消して、みなもたちに視線を向けてからきびすを返し、歩き出した。
「ち、ちょっと待ちなさいよ!まだ勝負は・・!」
凛がブラッドを呼びとめようとしたときだった。彼女は強い胸に痛みを覚えて、その場に膝をつく。
「な、何・・胸が、苦しい・・・!」
苦しさにさいなまれてうめく凛。彼女の体から光の粒子があふれ出してきた。
「何よ・・どうなってるのよ、これ・・・!?」
困惑を膨らませていく凛が、力を入れられなくなり、その場に倒れ込む。彼女の異変にみなももライムも困惑するばかりだった。
「私はまだ・・楽しいことをいっぱいしたいのに・・まだ、満足していないのに・・・」
絶望感にさいなまれていく凛。彼女は完全に光の粒子となって、霧散するように消滅していった。
「消えた・・・!?」
「どういうことなの・・・!?」
目の前の出来事が信じられずにいるライムとみなも。そこへ秋葉といつきが駆け付けてきた。
「どうしたのですか!?・・・あの人は・・・!?」
いつきが問いかけるが、みなもは愕然となっており、彼女の声が耳に入っていない。
「みなもさん!」
いつきに肩をつかまれて、みなもはようやく我に返った。」
「いつき・・・秋葉・・・」
「何があったのですか!?あの人はどうしたのですか!?」
改めて問いかけてくるいつきに、みなもが震えながら答える。
「消えたの・・ブレイドが折れたら、光になって・・・」
「ブレイドを折られたのですか・・・!?」
みなもの答えを聞いて、いつきが緊迫を覚える。何とか気持ちを落ちつけてから、彼女は語り出した。
「もっと早く言っておくべきだったかもしれません・・みなさんがいるのでここで話しておきましょう・・」
いつきの話に秋葉が息をのむ。
「ブレイドが折れる。それはブレイディアの死を意味するのです・・」
「死・・・!?」
「ブレイドはブレイディアの精神が具現化したもの。ブレイドが折れれば、ブレイディアは死亡して、光となって消滅してしまうのです・・・すみません、今まで話さなくて・・・」
「う、ううん、あたしはいつきが悪いなんて思ってないよ・・でもやっぱり、こういうのは不安になってくるっていうか・・・」
謝意を見せるいつきに、秋葉が作り笑顔を見せて弁解する。しかしみなももライムも不安を拭えずにいた。
「ブレイド・・そういうものだったとは・・・」
「みなもさん・・・」
呟きかけるみなもに、いつきが不安を浮かべる。
「強い力にはリスクがある・・分かっていたはずのことなのに、こうして直面すると・・・」
「それは私も分かります・・私も初めてこのことを聞いたとき、自分を保てなかったですから・・・」
落ち込みを拭うことのできないみなも、いつきたち。そこへ結花が現れ、落ち込んでいる彼女たちを見て眉をひそめる。
「何があった?・・・まさか、お前たち・・・」
声をかけたときにみなもたちの落ち込みの理由が予測できたため、結花が当惑を覚える。だが彼女はすぐに冷静さを取り戻し、改めて声をかけた。
「戻るぞ・・一矢たちが待っている・・・」
「結花さん・・・はい・・・」
結花の呼びかけを耳にして、みなもは小さく頷いた。
次回
みなも「ここでも“赤”が出てくるなんて・・・
仮面、鎧、まさに赤一色・・・」
秋葉「でも赤っていっても、あの人は仮面は赤くないよ。」
みなも「それでも意味深・・・
赤はどこまでいっても奥深いということね・・・」
秋葉「それ以上でもそれ以下でもないね。」