ブレイディアDELTA 第7話「深紅の剣士」
抜き打ちテストの結果が出た。テストを返されて、教室内の生徒たちはいろいろな様子を見せていた。
「ふえ〜、みっともない点数出しちゃったよ〜・・・」
秋葉が不甲斐ない成績を出したことにひどく落ち込んでいた。
「日ごろの勉強を怠らなければ、このような事態に陥らずに済むのです。」
「いつきの言うとおり。勉強に集中しなかった秋葉の自業自得よ・・」
いつきとみなもに注意をされて、秋葉はさらに気落ちする。
「そういえば、プルートは何を企んでいるのかな・・・?」
秋葉が唐突に投げかけた疑問に、みなもが眉をひそめる。
「そうね・・またブレイディアの戦いの段取りでもしているのかしら・・・?」
「彼らは今まで、一般人に悟られることなく、戦乙女の舞を進めてきました・・私たちが気付かないだけで、彼らはこの間にも何か動きを起こしているのかもしれません・・」
みなもが続けて疑問を投げかけると、いつきが語りかける。
「もしかしたら、クラスの生徒全員が洗脳されてて・・・って、まさかね・・・」
秋葉が切り出してから苦笑いを浮かべる。だが彼女の言葉を耳にして、みなもといつきは緊張を膨らませていた。
「秋葉・・冗談でも言っていいことと悪いことがあるのよ・・・」
「ゴ、ゴメン・・口が過ぎたよ・・・」
再び注意をしてくるみなもに、秋葉がさらに気落ちした。
その日の放課後、みなもたちは下校しようとしていた。正門を通ろうとしたとき、トオルとライムがやってきた。
「みなもさん、会えてよかったです・・」
「ライムさん、こんにちは・・トオルさんもこんにちは・・」
声をかけてきたライムに、みなもが笑顔を見せ、トオルにも挨拶をする。
「こんにちは、みなもさん・・そこの2人はクラスメイトかな・・?」
「は、はい・・獅子堂秋葉と、神凪いつきです・・」
トオルに訊ねられて、みなもが秋葉といつきを紹介する。
「オレは檜山トオル。この子は妹のライム。秋葉ちゃん、いつきさん、よろしくね。」
「はい♪よろしくお願いします♪」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
トオルに声をかけられて、秋葉といつきも答える。
「ところでみなもさん、今度の日曜日は用事はあるかな・・?」
「えっ?今度の日曜日は用事はないですけど・・・もしかして、その日にお出かけに・・?」
「うん。楽しく過ごせればと思ってるよ・・」
喜びを覚えるみなもに、トオルが笑顔を見せる。次第に動揺を膨らませていくみなもが、声を振り絞った。
「秋葉、いつき・・2人とも一緒に行く・・・?」
「えっ・・・?」
みなもに誘われて、秋葉といつきが当惑を覚える。
「私は構いませんが、みなもさんやトオルさんたちはよろしいのでしょうか・・・?」
「僕は構わないよ・・みなもさんとライム、みんながいいなら・・・」
いつきが口にした言葉に、トオルが了承の反応を見せる。
「私は大丈夫です。むしろみんなで一緒に行ったほうがもっと楽しいと思う・・」
「そうか・・それじゃ、みんなで行こうか・・」
ライムの言葉を受けて、トオルは秋葉といつきを誘うことを決めた。この新しい時間に、みなもは心の中で喜びを膨らませていた。
同じ頃、零球山では密かに戦いが行われていた。その日、数体のハデスを打ち倒した1人の少女がいた。
有間凛。ブレイドで戦うことを楽しいことと認識している。ブレイドを出せるようになってから、彼女はハデスや他のブレイディアと戦っては、次々と打ち倒してきていた。
「あ〜あ、つまんないな〜・・もうちょっと強い相手が出てこないのかな〜・・・」
退屈に感じて、凛がため息をつく。
「ここにブレイディアが集まってるらしいわね・・強いブレイディアなら、私を楽しませてくれるかも・・」
一途の期待を感じて、凛が笑みをこぼす。
「しばらくここで暇つぶししてたら、向こうから現れるかも・・」
その瞬間を心待ちにして、凛は零球山の林道を歩き出した。
約束の日曜日が訪れた。だがその前日、みなもは期待と緊張のあまり、なかなか寝付くことができなかった。
「またあたしが先に起きちゃうなんて・・水泳の授業があるわけじゃないんだから、緊張することなんてないのに・・」
先に目を覚ましていた秋葉が、ねぼけまなこのみなもに言いかける。
「秋葉は能天気ね・・もっとも、恋心っていうのを体験するのは、私も初めてだけど・・・」
「よく分かんないけど・・そんな疲れた顔、トオルさんとライムちゃんに見せられないよ・・」
呟きかけるみなもに、秋葉が呼びかける。起き上がったみなもが、自分の頬を叩いて気合を入れる。
「それもそうね、秋葉・・気を引き締めていかないと、トオルさんに迷惑をかけてしまう・・・」
「す、すごい気合だね、みなもちゃん・・・」
意気込みを見せるみなもに、秋葉は唖然となっていた。
街に繰り出していたのは、みなもやトオルたちだけではなかった。結花と一矢も買い物に出ていた。
だが一矢は結花の荷物持ちをさせられていた。
「やっぱり男は女の荷物を持たされるのか・・だけどちょっと買いすぎじゃないか?お金も大丈夫なのか?」
「お金のほうは問題はない。まだまだ資金が残っているし、力仕事のバイトをこなしていたからな・・」
ため息混じりに言いかける一矢に、結花が憮然とした態度で答える。
「力仕事こなせるなら、少しは持ったらどうなんだ・・?」
「持ちながらでは買うものを選べないだろう・・終わったら私も持ってやる・・」
「ホントに持ってくれよな・・」
淡々と答える結花に、一矢がふくれっ面を浮かべた。すると結花が唐突に深刻な面持ちを浮かべる。
「アイツも、こんな時間を過ごしたかったのだろうか・・・」
「結花・・・」
結花が口にした言葉に、一矢も深刻さを膨らませる。
「今悔んだって、牧樹ちゃんは帰ってこないって・・むしろヘンに思いつめたまんまでいるほうが、牧樹ちゃんは喜ばないって・・・」
「一矢・・・」
一矢の言葉を聞いて戸惑いを浮かべる。だが彼女は憮然とした態度を見せる。
「お前に心配されているとは、私もまだまだ情けないことだな・・」
「素直じゃないな、まったく・・・」
突っ張った態度を見せる結花に、一矢は肩を落とした。
「では次に行くぞ。まだまだ買うものはあるのだからな・・」
「お、おい!待ってくれって・・!」
進んでいく結花を、一矢は慌てて追いかけていった。
街の中央の広場にトオルとライムはいた。2人とみなもたちはここで待ち合わせをしていた。
しばらく待っているトオルたちの前に、いつきがやってきた。
「おはようございます、トオルさん、ライムさん。」
「おはよう、いつきさん。みなもちゃんと秋葉ちゃんはまだ来ていないよ・・」
挨拶をするいつきに、トオルが答える。いつきが周りを見回すが、みなもと秋葉はまだ来ていなかった。
「獅子堂さんのことだから、寝坊しているのではないでしょうか・・?」
「ハハハ・・みなもちゃんも大変だね・・」
いつきが口にした言葉に、トオルが苦笑いを浮かべる。
「す、すみません!遅くなりましたー!」
そこへみなもと秋葉が駆け込んできた。息を絶え絶えにしながらやってきた2人に、トオルたちは唖然となっていた。
「ぼ、僕たちは気にしていないよ・・僕たちも今来たところだから・・・」
トオルが笑みを作って弁解する。
「で、では買い物に行くとしようね。こうしてみんな集まっているんだから・・」
そこへライムが呼びかけ、みなもとトオルが落ち着きを取り戻す。
「そうですね・・楽しみましょう、トオルさん・・」
「何かほしいものがあったら、気兼ねなく言ってよ・・」
作り笑顔を見せるみなもとトオル。2人の中から緊張感が抜けきれないでいた。
みなもたちが最初に狙ったのは、夏用の私服。涼しく感じられて動きやすいものを中心に買おうとしていた。
「こういうのはいつきが似合うんじゃないかな?」
「それでしたら獅子堂さんのほうが似合うのではないでしょうか?」
手にした服を見せ合いながら、秋葉、いつき、ライムは心を通わせていった。だがみなもは緊張したままだった。
「もう、いつまでも緊張してないでよ、みなもちゃん・・」
「そうですよ・・過度の緊張は心身ともに自分を追い込んでしまいます・・」
秋葉といつきがみなもに心配の声をかける。しかしみなもは複雑な心境に陥ったままである。
「そうはいっても・・自分でもどうすれば落ち着けるのかが分からなくて・・・」
「みなもさんは考えすぎなのです・・いつも通り、いつも私たちに接しているように、トオルさんとライムさんの相手をすればいいのです・・」
困惑するみなもに、いつきが励ましの言葉をかける。そしてライムもみなもに歩み寄り、笑顔を見せてきた。
「素直になっていいですよ、みなもさん。私も素直に受け止めますから・・」
「ライムさん・・・すみません、だらしのないところを見せてしまって・・・」
ライムの言葉を受けて、みなもはようやく落ち着きを取り戻した。元気を取り戻した彼女に、秋葉といつきも安堵の笑みをこぼしていた。
「さて、気を取り直したところで、女には欠かせないものを狙うとしますか・・・!」
「そうだね・・この夏の美少女の武器・・それは・・・!」
みなもと秋葉が目を鋭くして振り返る。2人が見据える先にあるのは、水着売り場。
「いざ、女の武器を手にするために!」
「たとえみなもちゃんでも、譲れないからね!」
いきり立ったみなもと秋葉が、水着売り場に向かっていった。
「元気になった途端に大人げなくなるのですから、獅子堂さんもみなもさんも・・」
「でも私も水着は捨てがたいです!」
呆れるいつきの隣で意気込むと、ライムも水着売り場に向かっていった。
売り場にたどり着き、みなもたちが水着を物色しようとしたときだった。
「あっ・・・」
そこでみなもが目にしたのは、同じく水着に手を出そうとしていた結花だった。
「あ、あなたは結花さん・・・!?」
「お、お前たちもいたのか・・!?」
たまらず声を荒げるみなもと結花。秋葉は近くに一矢がいるのを目にしていた。
買い物に区切りをつけて、みなもたちは広場にて小休止していた。みなもたちはそこでソフトクリームを口にしていた。
「まさかお前たちまで買い物に出ていたとはな・・で、そこの2人は誰なんだ?」
ため息混じりに訊ねる結花の言葉を受けて、みなもがトオルとライムに目を向ける。
「トオルさんとライムさん・・式部学園の生徒なんです・・」
「なるほど・・それで、2人はブレイディアについては知っているのか?」
「まさか、そんな・・2人は普通の人ですよ・・」
「だが2人の正体は知らないのは確かなのだろう?」
「・・プライバシーの侵害は好ましくないのですが・・・」
結花の投げかける言葉が腑に落ちず、みなもが不満を覚える。すると結花が深刻な面持ちを見せてきた。
「こういうことを言うと疑り深いを思われるのだろうが・・信用しすぎるあまり、自分を見失うことがないようにな・・」
「結花さん・・・それって・・・」
「誰かに魅入られて自分を見失うな・・怒りに身を委ねるな・・軽率な行動が、絶望的な悲劇を招く・・・」
当惑を見せるみなもに、結花が呟くように言いかける。彼女の言葉が重くのしかかり、みなもは息の詰まるような感覚を覚えていた。
日が傾き始め、みなもたちは帰路に就こうとしていた。楽しい1日と感じていた一方、みなもは結花の言葉に悩まされていた。
「どうしたの、みなもちゃん?楽しくなかった?」
「い、いえ、そんなことはないです・・」
トオルに声をかけられて、みなもが慌てて答える。
「でも、何だかトオルさんに甘えてしまったようで・・」
「それは気にしなくていいよ。オレが誘ったんだから・・むしろオレのほうが迷惑になっちゃったのかなって・・」
「そんなことないですよ・・トオルさんが誘ってくれて、こんなに楽しい時間を過ごせて、私、すごく嬉しいです・・」
「・・・そう言ってもらえると、オレも嬉しいよ・・・」
みなもの感謝を受けて、トオルも笑顔を見せる。そこへライムが2人に声をかけてきた。
「楽しかったです、みなもさん。ありがとうございます。」
「そんな・・褒められるようなことはしてないよ・・全然だらしがなかったし・・・」
感謝の言葉をかけるライムに、みなもが苦笑いを見せる。
「私、この学園に入ってから初めてだったんです・・たくさんの人とお出かけしたのは・・・」
「私もここに来てから初めてよ。秋葉といつきとは一緒だったけど、学園と寮以外には特に出かけていなかったから・・」
互いに心境を打ち明けるライムとみなも。2人のやり取りを見て、トオルも笑みをこぼしていた。
そのとき、結花といつきが突然足を止めた。
「どうしたの、いつき・・結花さんも・・・?」
「お前たちは先に言っていろ・・何も聞かずにな・・」
秋葉が疑問符を浮かべると、結花が小声で呼びかける。
「一矢、お前はトオルというヤツのそばにいろ・・」
「わ、分かった・・・」
結花が続けて呼びかけ、一矢が頷く。彼らが先に行くのを見送ってから、結花は後ろに振り返った。
「いるのは分かっている・・姿を見せろ・・・」
結花が低く声をかける。彼女の前に現れたのはあかねとかなえだった。
「せっかく不意打ちしようとしてたのに・・何で気付くのよ!?」
「お前たちの殺気など、イヤでも感じてしまう・・不意を突くならもう少し気配を消すことを覚えるのだな・・」
不満を口にするあかねに、結花が淡々と言いかける。
「お姉ちゃん、やっぱりやめて出なおしたほうが・・・」
「うるさいわよ、かなえ!こうなったらやるしかないわよ!」
かなえが呼びとめるが、あかねが聞かずに結花に敵意を見せる。2人は各々のブレイドを出して戦おうとする。
「あまり時間を取りたくない。すぐに終わらせてもらうぞ・・」
結花はため息をついてからブレイドを手にする。いきり立ったあかねが、結花に飛びかかっていった。
結花に助けられて、トオルとライムの家の近くまで来ることができたみなもたち。だがトオルが結花にいないことに気付いて足を止める。
「あれ?あの青い髪の人がいないけど・・」
「えっと、それは・・・」
トオルが疑問を投げかけて、秋葉が慌てて弁解しようとしたときだった。
「あらあら、楽しそうね、お揃いで・・」
みなもたちの前に凛が姿を現した。妖しい笑みを見せてくる彼女に、みなもたちが緊迫を覚える。
(もしかして、ブレイディア・・・!?)
「あんまり退屈で困っちゃってるのよ・・暇つぶしぐらいはさせてほしいなぁ・・」
凛は言いかけると、光の剣を出現させる。やや先端が曲った太い刀身のブレイドである。
「悪く思わないでね・・こうすれば、楽しくなりそうな気がするから・・・」
笑みを強めてブレイドをみなもたちに向ける凛。
(いけない・・戦わないといけないけど、トオルさんとライムさんが・・・!)
トオルたちの前で力を使うことができず、焦りを募らせるみなも。そのとき、ライムが凛の前に出てきた。
「ライムさん、ダメよ!逃げないと・・!」
「ううん・・逃げるのはお兄さんとみなもさんたち・・私があの人の相手をする・・・」
みなもが呼びかけるが、ライムは首を横に振る。
「できることなら、この力を見せたくはなかった・・・」
呟きかけるライムの手から光があふれる。光は剣へと形を変えて、彼女の手に握られた。
「ライム、まさか・・・!?」
この光景を目の当たりにして、みなもは秋葉、いつきとともに驚きを感じていた。ライムもブレイディアだった。
幕を開けようとしているこの戦いを、ブラッドが遠くから見守っていた。
次回
みなも「う〜、最近かっこ悪くなっている・・・」
結花「気にすることはない。
私も散々な扱いをされたものだ・・
時期にお前も慣れる・・・」
みなも「そんな扱いに慣れたくないものです・・・」