ブレイディアDELTA 第4話「剣の舞/変革の刃」
結花に向けて告げた秋葉の言葉。この発言に結花が緊迫を覚える。
「お前の姉・・・まさか、獅子堂風音か・・・!?」
結花が疑問を返すと、秋葉は小さく頷いた。
風音はプルートのメンバーになっていたブレイディアである。目的のためなら手段を選ばない彼女だったが、結花によって息の根を止められた。
秋葉はその風音の妹だったのである。
「お姉ちゃんをやっつけた・・・その人が、目の前に・・・!?」
緊迫を募らせる秋葉に、結花が身構える。いつでも攻撃を仕掛けられても対応できるように、彼女は警戒していた。
「・・・意地悪なお姉ちゃんを懲らしめてくれて、ありがとうございます!」
「はっ・・・!?」
秋葉が発した言葉に、結花だけでなく、いつきも一矢も唖然となった。
「な・・何を言っている!?・・・私はお前の姉を殺した仇のはずだろう・・・!?」
「確かにそうだけど・・・お姉ちゃんは、家族の中でも評判が悪くて・・・でもお姉ちゃんの性格や行動が問題で、自業自得なんだけど・・・」
問いかける結花に、秋葉が深刻さを込めて語り出す。
「あんな振る舞いの女なら、嫌っている人間もそれなりに多いか・・まさか身内にまで嫌われているとは・・・」
風音を思いだして、結花が肩を落とす。
「仕切ってばかりのお姉ちゃんにみんな愛想を尽かして家を出て・・あたしも少し前から家出して・・・」
「い、家出少女だったのか・・・!?」
秋葉の言葉を聞いて、一矢が呆れる。
「でもお姉ちゃんが死んだって聞いて・・だからこの清和島に来たの・・・」
「そうだったのか・・・すまなかった・・あんな性格だったとはいえ、お前の姉を手にかけてしまった・・・」
「だから気にしないで・・あたしがここに来たのは仇討ちじゃなくて、ホントのことを知りたかっただけなんだから・・・」
謝意を見せる結花に、秋葉が弁解をする。そのとき、眠りについていたみなもも意識を取り戻して、体を起してきた。
「私・・何が起こって・・・?」
「みなもちゃんも気がついたんだね♪よかったよぅ♪」
記憶を巡らせるみなもに、秋葉が喜びを見せる。一瞬笑みをこぼすも、みなもは結花と一矢を目にして警戒の眼差しを送る。
「秋葉、いつき、この2人は・・・?」
「青山優花さんと紫藤一矢さん。お二方が私たちを助けてくれたのです・・・」
みなもが疑問を投げかけると、いつきが結花たちを紹介する。するとみなもがいつきに小声で次の疑問を投げかける。
「もしかして、彼女はブレイディア・・・?」
「確定ではありませんが、深い関係にあることは確かです・・・」
「なら、私たちのことを話しても問題ないかも・・・」
「それはまだ早いです・・まだ様子を見たほうがいいです・・・」
結花に目を向けたまま内緒話をしていくみなもといつき。
「聞こえているぞ、お前たち・・」
そこへ結花に声をかけられ、2人が息をのむ。結花の耳には2人の話が聞こえていた。
「私たちはプルートの味方ではない。お前たちもプルートの人間でないことはよく分かった・・ヤツの妹がヤツと袂を分かっていることからな・・」
「それでは、あなたたちのことは信じていいのですか・・・?」
みなもが訊ねると、結花が不敵な笑みを見せて頷いた。
「改めて名前を聞いておこうか・・お前たち自身の口から・・・」
「私は星川みなもです・・」
「獅子堂秋葉です。」
「神凪いつきです。」
結花に訊ねられて、みなも、秋葉、いつきが自己紹介をする。
「詳しい話は退院してからだ。式部学園で落ち合おう・・」
結花はそう告げると、みなもたちのいる病室を出た。
「じゃ、オレも・・またな・・」
一矢も気さくな笑みを見せてから病室を後にした。
(あの人は何か重要な情報を持っている・・たとえ敵であっても、こっちの素性を明かした上で話を聞いたほうがよさそうね・・)
結花への関心を募らせていくみなも。彼女は記憶を巡らせて、自分の右手を見つめる。
(私にも、ブレイディアの力が・・・)
自分もブレイディアとして覚醒したことに、みなもは当惑を膨らませていた。
「少し廊下を歩いてくる・・少し気分を落ち着かせたいから・・・」
みなもは秋葉といつきに言いかけると、ベットから起きて病室を出ていった。
「みなもちゃん・・・」
「自分もブレイディア・・みなもさんなりに苦悩しているようですね・・・」
戸惑いを見せる秋葉と、深刻さを浮かべるいつき。みなももまた、ブレイディアの力と運命に翻弄されようとしていた。
気持ちの整理をつけようとしながら、病院の廊下をゆっくりと歩いていくみなも。だが心身ともに満身創痍の彼女の足取りは不安定だった。
(なかなか自覚が持てない・・目の前で起こっているのだから、現実だと割り切れるはずなのに・・・)
自分の身に起きていることへの整理がつかず、みなもが苦悩する。
(ブレイディア・・この力を手にしたことで、私はこれからどんな出来事に巻き込まれていくことになるのだろう・・・母さんは、どんな戦いを経験していたというの・・・?)
母への思いを膨らませていくみなも。彼女は整理がつかないまま、廊下の交差する場所に来ていた。
「キャッ!」
そのとき、みなもは何かにぶつかり、しりもちをついた。
「す、すみません・・考え事をしていて・・・」
たまらず謝るみなも。彼女が顔を上げると、そこには1人の青年がいた。
「いえ、オレのほうこそボーっとしていて・・・ケガはない?・・でもここ、病院だから大丈夫だよね・・・?」
青年が心配の声をかけて、みなもに手を差し伸べてきた。一瞬戸惑いを感じて、みなもも彼の手を取って立ち上がった。
「本当にすみません・・・病院にいるということは、どこかケガをされたのですか・・・?」
「いや、オレは妹のお見舞いに来ていたんだ・・といっても、もうすぐ退院するんだけど・・」
謝るみなもに青年が気さくに答える。
「そういう君もお見舞い?それとも入院?」
「はい・・疲れが出て・・・」
「そうだったのか・・あまりムリをするとかえって悪化するよ・・病室で大人しくしたほうが・・」
「そうですね・・・お言葉に甘えさせてもらいます・・・」
青年の言葉を受けて、みなもは微笑んで頷く。
「私はみなも。星川みなもです。」
「オレは檜山トオル。式部学園高等部3年だよ・・」
「えっ!?あなたも式部学園の生徒だったんですか!?」
青年、トオルの自己紹介を聞いて、みなもが驚きの声を上げる。
「退院したら学園で会おう、みなもちゃん・・・」
トオルは笑顔を見せると、みなもの前から去っていった。
「トオルさん・・・優しい人・・・」
彼の後ろ姿を見送って、みなもが笑みをこぼしていた。
「みーなーもーちゃん♪」
「うわっ!」
そのとき、突然後ろから声をかけられて、みなもが驚きの声を上げる。振り返った彼女の前には、秋葉がいた。
「あ、秋葉!?あなたもここに・・!?」
「見ちゃったよー♪もしかしてー、あの人のことー?」
声を荒げるみなもに、秋葉がにやけ顔を見せてくる。
「べ、べべべべ、別にそんなこと!ふざけたこと言わないで!」
「でもものすごく動揺してるよー?」
動揺を隠せなくなるみなもを、秋葉がさらにからかってくる。だが周囲から向けられてくる冷たい視線を感じて、2人は緊迫を覚える。
騒いでいるみなもと秋葉に対して、患者や看護師たちが睨みつけてきていた。
「す、すみません・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
気まずくなったみなもと秋葉が、ゆっくりと病室に戻っていった。
みなもたちと別れて病院を出た結花と一矢。病院から離れたところで、一矢が結花に声をかけてきた。
「今日はホントに大変な1日だ・・だけど、悪くない気分だな・・・」
「いや・・もしかしたら、またまずいことになるかもしれない・・・」
結花が口にした言葉に、一矢が疑問符を浮かべる。
「おそらく3人ともブレイディアだ。少なからず、ブレイディア同士の戦いが起こるだろう・・」
「まさか・・だってプルートは全滅して、ブレイディアの戦いは終わったんだろ!?」
「確かにプルートは滅びた・・だがブレイディアそのものが消えたわけではない・・現に私はここにいて、ブレイドをまだ扱えるのだからな・・・」
「それじゃ、またあんな戦いが起きるっていうのか・・・!?」
結花の話を聞いて、一矢が緊迫を覚える。結花や牧樹を苦しめたブレイディアの戦いが起こるかもしれないことに、力がないはずの一矢が不安になっていた。
「私はもう、どんな状況に直面しても耐えられるだろう・・だがあの3人がこの苛酷さに耐えられるかどうかは確信できない・・・」
「じゃ、どうすんだよ!?・・下手に話せば巻き込んじゃうし・・・!」
「・・・見守るしかない・・軽率なことをしないように・・・」
不安を隠せなくなる一矢の前で、結花はみなもたちを気にかけていた。
病院での休息を終えたみなもと秋葉。2人はいつきとともに帰路についていた。
「ふぅ・・ホントに参っちゃったよ、いろいろと・・やっぱり病院は窮屈だよ・・・」
「仕方ないとはいえ、私もああいう場所には慣れないわね・・病気や大けがにならないように注意しないと・・」
肩を落とす秋葉と、ため息をつくみなも。
「そうならないように、料理の注意は徹底しなくては・・」
そこへいつきが真剣な面持ちで呼びかけてきた。その声にみなもと秋葉がさらに気まずくなる。
「今後は私がしっかり指導しますので。料理も、そしてブレイドの扱いについても・・」
「ブレイド・・・そうか・・私もブレイドを使えるようになったのね・・・」
いつきの言葉を受けて、みなもが気まずくなる。自分もブレイディアの運命に翻弄されるのではないかと、彼女は少なからず不安を感じていた。
「いい気分になれないのは当然です・・自分が未知の力を扱うことになったのですから・・・ですがここまで来てしまったのなら、力を自覚して、自分の本当の力にするしかありません・・」
「いつき・・・」
「せめて護身のためのものにまで昇華しなくては・・力を持つあなたを、狙ってこないとは言い切れませんから・・・」
いつきが投げかける忠告を聞いて、みなもが桃山姉妹を思い出す。
「あの2人のように、突然襲い掛かってくる人もいるのですから・・・」
「せめて自分の身を守れるくらいにはなったほうがいいのね・・・それで、2人はどのぐらい前からブレイドを使っているの・・?」
頷くみなもが、秋葉といつきに疑問を投げかける。
「私は2年ほど前です。ブレイドに慣れるまで数日かかりましたが・・・」
「あたしは少し前・・清和島に行く直前だよ・・」
2人の答えを聞いて、みなもが頷きかける。
(2人ともそれなりには力を使えている・・私もうまく力を使えるようにならないと・・・)
秋葉といつきとの差を実感して、みなもは胸中で躍起になっていた。
「常に材料と火に注意すること!よそ見をしない!」
その後、みなもと秋葉は寮の部屋にていつきに料理でしごかれていた。いつきの厳しい指導に、みなもも秋葉も参っていた。
「料理・・奥が深い・・・」
「というより全然厳しいよ〜・・・」
「そこ!私語は慎む!最後まで集中する!」
呟くことも許されず、みなもと秋葉はいつきの指導を全力で受けるのだった。
その日の厳しい特訓が終わった後、みなもは人気のない林道に来ていた。そこで彼女は、ブレイドをうまく扱えるよう、力を出そうとしていた。
(うまく扱わないと・・私が2人の足手まといになってしまう・・・)
焦りに似た気持ちを無意識に膨らませていくみなも。
(母さんはブレイドをどのように使っていたの?・・私がブレイディアになったことを、母さんはどう思っているの・・・?)
母への思いと疑問を投げかけるみなも。だが彼女の疑問に答えは返ってこなかった。
「何か熱心になっているようね、あなた・・」
そこへ突然声をかけられて、みなもが目を見開く。その声は秋葉でもいつきでもなかった。
彼女の前に現れたのは長い黒髪の女性。大人びた雰囲気を醸し出していたその女性は、妖しい笑みを浮かべてきていた。
「もしかしてあなた、ブレイディアかしら?」
「ブレイディア・・・あなたもまさか・・・!?」
疑問を投げかけてきた女性に、みなもが警戒を見せる。
「そう怖がらないで・・私は戦うつもりであなたに声をかけたわけじゃないの・・むしろあなたを誘いに来たの・・」
「誘いに・・・?」
女性の言葉にみなもが眉をひそめる。
「あなたは何者なの!?私に何の用なの!?」
「フフフ。そうね。名乗りもしないで話を進めてしまうのもよくないわね・・」
問い詰めるみなもに対し、女性が笑みをこぼす。
「私は水無月若菜。プルートのメンバーよ・・」
「プルート!?・・そんな!?プルートは滅びたって聞いているわ!」
名乗ってきた女性、若菜にみなもが驚愕する。
「確かにプルートは壊滅した・・でもメンバーが全滅したわけじゃない・・生き残った人、壊滅した後に新しく入ってきた人がいるのよ・・・」
「あなたがその1人だというの!?・・・それで、私に何の用なの!?」
「もちろん、あなたを新しいプルートのメンバーに加えようと思ってね・・あなたなら鍛えれば十分強くなれるわよ・・」
「残念だけど、自分の都合のいいように人々を動かす組織に、私は加担するつもりはないわ!」
若菜の誘いをみなもが拒絶する。しかし若菜は妖しい笑みを消さない。
「あなたが知りたかっていることも分かるわよ・・プルートに入れば、あなたの都合のいいことばかりじゃない・・」
「たとえそうでも、私はプルートには入らない!私の求める答えも、私自身が見つけ出す・・・!」
「そう・・それは残念ね・・・」
あくまで誘いを受けないみなもに対し、若菜はついに笑みを消した。
「だったら不本意だけど、力ずくで連れていくしかないわね・・・」
若菜が目つきを鋭くして、光の剣を出現させる。巨大なくないのような形状をした剣である。
「どうしても拒絶しようというなら、斬るのもためらわない・・・」
若菜がみなも向けてブレイドを振りかざす。みなもがとっさに後退して、若菜の一閃をかわす。
「まだ使えるとは言えないけど・・やるしかない!」
いきり立ったみなももブレイドを発する。若菜が振り下ろしてきたブレイドを受け止めるみなもだが、ブレイドの力の差で徐々に押されていく。
「そのような形状のブレイドでは、私に力で対抗するのは難しいようね・・・」
淡々と声をかける若菜が、みなもを突き飛ばす。横転するみなもだが、すぐに態勢を整える。
「今の段階では、あなたは私には勝てない・・でもプルートに来れば、その問題もなくなる・・・」
若菜がみなもに近づいて、笑みをこぼす。みなもは追い込まれ、息を荒くしていた。
(何とかしないと・・・せめて、ブレイドの形が変われば・・・!)
思考を巡らせるみなも。危機感を覚えた彼女は、賭けに出た。
(やるしかない・・イメージを膨らませて、ブレイドに力を込める・・・!)
“想像と集中・・その2つがブレイドを強固にします・・”
意識を集中するみなもの脳裏に、いつきからのアドバイスがよぎってくる。彼女の言葉を思い返して、みなもはブレイドに力を込めた。
「もう1度言うわよ・・私と一緒にプルートに来なさい・・そうすれば、あなたに幸せが訪れ・・」
若菜が再びみなも誘いの手を差し伸べたときだった。みなもが手にしていたブレイドが輝き出し、形状が変化した。細身だった刀身が太く大きくなり、力負けしない光の剣となった。
「ブレイドの形が、変わった・・・!?」
その変化に若菜が驚愕を覚える。みなもの意思に呼応して、彼女のブレイドが変化した。
次回
一矢「そういえばオレたち、前作でラブラブになったよな?」
結花「ラブラブって・・・
そんないかがわしいことを・・・」
一矢「だって夜の時間を過ごしたじゃないか・・
またいつか、そんな2人きりのひとときを・・」
結花「その性根、必ず叩きなおしてやる・・・!」