ブレイディアDELTA 第3話「3人の騎士」

 

 

 みなもたちの前に現れた姉妹。姉が光の剣を発して、切っ先をいつきに向けてきた。

「この人たち、もしかしてブレイディア・・・!?

 緊迫のあまりに声を荒げるみなも。だが秋葉が喜びを浮かべていた。

「よかったぁ♪あたしたち、ブレイディアについて調べてたんだよ♪知っていることがあったら教えてほしいんだけど・・」

「ちょっと!何で馴れ馴れしくしているの!?

 秋葉の態度にみなもが声を荒げる。2人のやり取りを見て、姉があざ笑ってきた。

「やっぱり一般人にはブレイディアのことは何も分かっていないのね!でもあなたたちを相手にしても全然楽しくないから、邪魔しないでよね!」

「お姉ちゃん、意地悪言ったらダメだって・・・」

 高らかに言い放つ姉に、妹が注意する。しかし姉は全く聞こうとしない。

「そこの緑の髪、私と勝負してもらうわよ!」

「残念ですが、私は無益な争いをするつもりはありません。対戦相手でしたら他を当たってください・・」

 挑戦してくる姉だが、いつきは相手にしようとせず、みなもと秋葉を連れて去ろうとする。その態度に姉が憤慨する。

「コラー!私を無視するなんていい度胸じゃない!今すぐ八つ裂きにしてやるわよ!」

「お姉ちゃん、落ち着いてー!」

 いきり立つ姉に妹が悲鳴を上げる。だが姉は大きく飛び上がり、みなもたちの前に回り込んできた。

「私は桃山(ももやま)あかね!そっちは妹のかなえ!あなたたちを叩き潰してやるわよ!」

「本当に仕方のない人です・・やむを得ませんが、私が相手になりましょう。ただし2人には手を出さないこと。」

 名乗りを上げる姉、あかねにいつきが渋々挑戦を受ける。

「そんなこと私が聞くと思ってるの?・・かなえ、2人をやっつけちゃいなさい!」

 あかねが言い放った言葉に、みなもが緊迫を膨らませる。

「イヤだって、お姉ちゃん!弱いものいじめは悪いこと・・!」

「おだまり!私の言う通りにしないと、後でおしおきするわよ!」

 不満を口にするかなえに、あかねが怒鳴りかかる。

「分かったよ・・お姉ちゃんは本当に厳しいんだから・・・」

 渋々聞き入れるかなえも光の剣を発する。両側に刀身のあるあかねのブレイドと違い、かなえは短剣の形状をしていた。

「悪く思わないで・・お姉ちゃんの言うことだから・・・」

「みなもさん、獅子堂さん、逃げてください!」

 低く告げるかなえと、みなもと秋葉に呼びかけるいつき。そこへあかねがいつきに飛びかかってきた。

「あなたの相手は私よ!」

 振り下ろされたブレイドを、いつきもブレイドを出して受け止める。

「へぇ、あなたも私と同じ形のブレイドを使うのね・・」

「みなもさんたちに危害を加えさせるわけにはいきません!退かないのなら、すぐに倒させてもらいます!」

 笑みをこぼすあかねに言い放ついつき。彼女はブレイドを振りかざし、あかねを退ける。

「言ってくれるわね・・やれるもんならやってみなさいよ!」

 目を見開いたあかねが、いつきに向かって再び飛びかかっていった。

 

 みなもと秋葉を追うかなえ。力のない自分たちには太刀打ちできないと思い、みなもは秋葉を連れてかなえから逃げていた。

 だが素早い動きと軽い身のこなしに長けたかなえに、2人はすぐに前に回り込まれてしまう。

「たとえ鍛錬されている人でも、ブレイディアでなければ敵うはずもないですよ・・大人しく私に倒されてください・・」

「そういうわけにいかないわ!倒されてと言われて倒される律儀な人間ではないのでね!」

 弱々しく言いかけるかなえに、みなもが言い返す。

「こうなったら私が注意をそらす・・その間に秋葉は逃げて・・」

「ううん・・逃げるのはみなもちゃんのほうだよ・・・」

 呼びかけるみなもに、秋葉が言葉を返してきた。

「何を言っているの、秋葉!?それではあなたが・・!」

「ずっと言おうと思ってたけど言えなかった・・・今度こそちゃんと言うよ・・・」

 声を荒げるみなもに、秋葉が真剣に言いかける。

「あたしも実は、ブレイディアなんだよ・・・」

 秋葉はみなもに告白すると、かざした右手から光の剣を発した。巨大な槍の先端のような刀身をした剣である。

「秋葉・・あなた・・・!?

「言うタイミングが全然合わなくて・・あれから言えないままになってて・・・」

 驚きをあらわにするみなもに、秋葉が困り顔で言いかける。秋葉はすぐに真剣な面持ちに戻って、かなえに視線を戻す。

「ここはあたしが何とかする・・みなもちゃんを守ってみせる・・・!」

「もう1人ブレイディアがいたなんて・・・でも1人ぐらいなら何とかなるかな・・・」

 声を振り絞る秋葉と、呟きかけるかなえ。

「できればこの力を使いたくなかったけど・・もうやるしかない!」

 迷いを振り切った秋葉がかなえに飛びかかる。かなえは自分のブレイドで秋葉の攻撃を受け止めようとせず、回避を続けた。

「あんなの受け止めたら、簡単にブレイドが壊れてしまうから・・・」

 かなえは呟いてから、秋葉に反撃を仕掛ける。彼女は秋葉の動きではなく、ブレイドを注視し、警戒していた。

 だがかなえが振りかざしたブレイドが、秋葉のブレイドに受け止められる。

「止めたよ!もう逃がさない!」

 かなえに向けて叫ぶ秋葉。彼女は勝負が決したと思っていた。

「ううん・・勝ったのは私のほう・・・」

 だがかなえが呟いた瞬間、彼女の左手から光の剣が発せられた。その閃きが秋葉を捉えた。

 

 いつきに挑んでいったあかね。だが実力も経験も上回っているいつきに、あかねは劣勢を強いられていた。

「思ってた以上に強い・・やってくれるわね・・・!」

「これ以上の戦闘はお互いに賢明ではありません。撤退されることを勧めます・・」

 うめくあかねに向けて、いつきが忠告を送る。それがあかねの感情を逆撫でした。

「私をバカにするな!それでも私のほうが上なのよ!」

 いきり立ったあかねがいつきに向けて剣を振りかざす。だがいつきによって軽々とかわされていく。

「平常心の欠如が最大の敵です。今のあなたでは、私には敵いません・・」

 あかねに淡々と言いかけるいつき。あかねはたまらずブレイドをブーメランのように投げつけるが、いつきにブレイドで叩き落される。

「こんなことじゃ・・私は負けたりしない!」

 目を見開いたあかねが、自分のブレイドを消して後退していった。戦闘が終わったと判断して、いつきはみなもと秋葉に注意を向けた。

 

 新たに出現したかなえのブレイドが、秋葉の左の二の腕をかすめた。秋葉は痛みに耐えながらかなえとの距離を取る。

「まさかよけるなんて・・・」

「もう1本のブレイド・・そんなの聞いてない・・・!」

 不満を口にするかなえと、傷ついた左腕を押さえてうめく秋葉。かなえの手には短剣の形状のブレイドを2本具現化させていた。

「ブレイディアの中には、同じ形のブレイドを2本出すことのできる人がいるの・・私みたいに・・・」

 かなえは言いかけると、右手のブレイドの切っ先を秋葉に向ける。

「切り札は滅多に見せるものではありません・・警戒を怠ったあなたの負けです・・・」

「秋葉・・・!」

 かなえに追い詰められた秋葉。そこへみなもが割って入り、かなえの前に立ちはだかる。

「これ以上、秋葉を傷つけることは許さない・・もしも来るなら、私が相手をするわ・・!」

「みなもちゃん・・ダメ・・危ないよ・・・!」

 かなえに言いかけるみなもに、秋葉が呼びかける。だがみなもは退かない。

「ブレイディアでない・・力もない・・そんなあなたが、私に勝てるはずもないのに・・・」

「力がないとか、そんなのは関係ない・・こうして友情が芽生えて、新しい生活や調査を行おうとしている・・その親友を傷つけられているのに、何しないで見ているだけだなんて・・私は生憎、そんな薄情な人ではないのよ・・」

 不満を口にするかなえに、みなもが自分の心境を打ち明ける。彼女の言葉に、秋葉は戸惑いを感じていた。

「そんなことを言っても、勝てないものは勝てないよ・・」

 かなえは暗い表情のまま、みなもにブレイドの切っ先を向ける。

「たとえいつきや秋葉のような力がなくても・・私にはまだ戦うことができる・・・!」

 みなもが2本の短剣を構えるかなえに向かって飛びかかり、右手を突き出す。

「そんな攻撃で、ブレイディアに敵うはずが・・・」

 かなえがみなもの特攻を跳ね返そうと、右手の剣を振りかざそうとする。

 そのとき、みなもが突き出した右手からまばゆい光が放たれた。その光にかなえが一瞬目をくらまされる。

「うわっ!」

「この光・・まさか・・・!?

 悲鳴を上げる秋葉と、驚愕するかなえ。右手から発せられる光に、みなも自身驚いていた。

 その光は形を変えて、剣へと変化する。ブレイディアが扱う光の剣である。

「これは・・ブレイディアの剣・・・私にも、ブレイドが・・・!?

 自分のブレイドを見つめて、みなもが緊張を隠せなくなる。長身の剣で、突きに特化した形状をしていた。

「そんな・・・3人ともブレイディアだったなんて・・・!?

 危機感を覚えたかなえが後ずさりする。

「まだこの力をうまく使える自身がないけど・・これ以上秋葉を傷つけるなら、容赦しないよ・・・!」

 みなもは呼びかけて、かなえに自分のブレイドの切っ先を向ける。

「こんなの聞いていない・・どうしたらいいっていうの・・・!?

 悲鳴気味に叫ぶかなえがたまらず逃げ出す。逃亡した彼女に、みなもも秋葉も唖然となっていた。

「助かったの・・・私たち・・・?」

 安堵を感じた瞬間、みなもはその場で突然倒れた。彼女が握っていたブレイドも消失していった。

「みなもちゃん!」

 慌ててみなもに駆け寄ろうとする秋葉。だが負傷した左腕がうずき、彼女も地面に膝をついた。

「秋葉さん!・・・みなもさん・・・!」

 そこへ駆け付けたいつき。呼びかけるいつきだが、みなもも秋葉も意識を失っていた。

 

 久方ぶりに清和島に戻ってきた結花。表向きには平穏なままの清和島に、結花は思いつめていた。

「長く離れていたわけではないから、そんなには変わっていないな・・・」

 通りの道を歩きながら周囲を見回し、結花が物悲しい笑みを浮かべる。

「あの出来事があったからか・・すごく長い時間、ここを離れていたような気がしてならない・・できることなら、思い出したくないほどの・・・」

 結花はかつて自分が体験した悲劇を思い返していた。

 結花はプルートへの復讐のために清和島を訪れた。自分の家族の仇を討ったものの、それが悲劇の引き金となってしまった。

 その仇は、絆を深めていた親友、赤澤(あかざわ)牧樹(まき)が想いを寄せていた相手だった。結花が復讐を果たしたことで、恋人を失った牧樹は激昂し、結花を敵と見なしてしまう。

 ブレイディアへの憎しみに駆り立てられるまま、牧樹はプルートに加担してしまった。復讐の虚しさと新しい絆を胸に秘めた結花は、牧樹との決着に臨んだ。プルートを壊滅に追い込んだが、結花は牧樹を救うことができなかった。

 悲しみと辛さを痛感した結花。自分自身を見つめなおすための旅に出ていた結花は、再び清和島を訪れたのである。

「牧樹・・私にはまだ、償ったとはいえないのか・・・?」

 牧樹に対する罪の意識を巡らせる結花。彼女は牧樹を傷つけてしまった負い目に苦悩を続けていた。

「昔の私ならば、すぐに割り切れたのだがな・・・」

 物悲しい笑みを浮かべる結花が、さらに歩を進めていった。

「お、おい・・結花じゃないか・・・!」

 そこへ声がかかり、結花が足を止めて振り向く。その先には1人の青年がいた。

 紫藤一矢。式部学園での結花のクラスメイトで、苦悩する彼女の心の支えになっている。

「お前か・・まさかこの島で最初に再会したのがお前だったとは・・不覚だな・・」

「おいおい・・感動の再会でこんな言葉が出てくるなんて・・・」

 憮然とした態度を見せる結花に、一矢が気落ちする。

「相変わらず突っ張った性格をしてるな・・そんなヤツを助けてやりたいって思うのは、オレぐらいなものか・・」

「そういうお前も相変わらずのようだな・・緊張感のかけらもない・・・」

 気さくに振舞う一矢に、結花が不敵な笑みを見せる。

「では私は行くぞ・・しばらく家を空けていたからな。掃除をしないと・・」

「だったらオレも手伝うぞ。お前だといつ終わるか分かんないからさ。」

「私を見くびるな!掃除だけでなく、家事も全部こなしてやるぞ・・!」

 からかってくる一矢に結花が不満を浮かべる。彼女の反応を見て、一矢が笑みをこぼす。

「さっさと行くぞ!グズグズしてると置いてくぞ!」

「わわっ!そんな冷たい態度・・!」

 足を速める結花を、一矢が慌てて追いかける。だがしばらく進んだところで、一矢は結花とぶつかる。

「何だよ・・いきなり止まんないでくれって・・・!」

 結花に向けて不満を口にする一矢。だが彼女が見ている光景に目を向けて、彼も顔を強張らせる。

 2人が遭遇したのは、気絶して倒れているみなもと秋葉、必死に呼びかけているいつきだった。

「お前たち、そこで何があった!?

 結花が声をかけると、振り向いたいつきが警戒を浮かべてきた。彼女が何か深刻な状況に置かれていると察しながらも、結花はあえてその疑問を心の中に留めた。

「とにかく今は手当てが先だ・・病院に連れていく。手伝ってくれ・・」

「分かりました・・助力を感謝します・・」

 結花の呼びかけを受けて、いつきは微笑んで頷いた。みなもと秋葉は結花たちに運ばれ、病院にて手当てを受けることとなった。

 

 秋葉の腕の傷は軽傷で、彼女とみなもは疲れによるものだった。ブレイドを使った消耗によるものだった。

 みなもと秋葉が運ばれた病室に、いつき、そして結花と一矢が入ってきた。

「大事に至らなくて何よりです・・あなた方には本当に感謝しています・・」

「気にするな。助けなければ後味が悪くなると思っただけだ・・」

 頭を下げるいつきに、結花が憮然とした態度を見せる。

「素直じゃないのも相変わらずだよな・・」

「うるさい。お前は黙っていろ・・」

 からかってくる一矢に、結花が言いとがめる。そのとき、眠りについていた秋葉が意識を取り戻した。

「あ・・あたし・・・?」

「獅子堂さん・・よかった・・目が覚めたんですね・・・」

 意識がはっきりしていない秋葉に、いつきが安堵の笑みを浮かべる。

「獅子堂・・・?」

 いつきが口にした秋葉の苗字に、結花が眉をひそめる。彼女に秋葉が目を向けたときだった。

「あっ!あなたは!?

 突然声を上げた秋葉に、いつき、結花、一矢が驚きを覚える。

「この人、あたしのお姉ちゃんを・・・!」

「なっ・・・!?

 秋葉が口にした言葉に、いつきと結花が緊迫を覚える。この病室にて、新たなる緊迫が押し寄せようとしていた。

 

 

次回

第4話「剣の舞/変革の刃」

 

結花「おい、これはどういうことだ!?

   前作は私が主人公だったではないか!

   それなのにこの3人は誰だ!?

   いつの間に主役交代になったのだ!?

みなも「時代は変わっていくものですよ・・」

結花「まだ諦めないぞ・・・!

   必ずまた主役の座を・・・!」

 

 

小説

 

TOP

inserted by FC2 system