ブレイディアDELTA 第2話「さんかく関係?」

 

 

 昨年繰り広げられた戦乙女、ブレイディアの戦い。この壮絶な戦いを生き抜いた1人が結花だった。

 結花はブレイディアとの戦いの後、自分を見つめなおすために旅に出ていた。その途中、彼女は剣術を指導してくれた師匠に会いに行っていた。

 (くれない)椿(つばき)。古流剣術の師範で、結花を鍛えた女性である。自分が結花に教えた剣術が復讐に使われたことを悔んでおり、椿は以後鍛錬や指導において厳格さを強めるようになっていた。

 そんな彼女の前に、結花は再び姿を現した。

「またこうして、お前と会うことになるとはな・・・中に入れ。茶を入れよう・・」

 憮然とした態度を見せて、椿が結花を広間に招き入れる。そこで彼女は茶を煎じていく。

「昔の私は、教え導く者としては甘かった・・お前の憎しみに気付けなかったのだから・・もしも気づけたなら、お前を鍛えようとはしなかった・・」

「私が教わっていた頃と比べて、厳しくなった・・だがその厳しさに芯が通っている・・分かったものだ・・・」

「そういうお前もずい分変わったぞ・・憎しみが和らいでいる・・私の前を去ってから、何かあったようだな・・」

 椿が投げかけた言葉に、結花は答えようとしない。その反応を肯定と見て、椿は話を続ける。

「憎しみからは何も生まれない。憎しみの力では何も救われない・・自らの手をけがさなければ、自分の過ちは分からないもの・・皮肉なものだ・・・」

「簡単に言ってくれるな・・私が受けた苦しみは、そんな生易しいものではない・・」

「生意気な口を叩くな。お前の自業自得だ・・」

 苛立ちを込める結花だが、逆に椿に叱責される。

「お前のこれからすべきことは、かつても自分と同じ過ちを犯そうとしている者を止めること。そして過ちを犯してしまったその者を救うこと・・それは、お前が1番分かっていることであろう・・?」

「そうだな・・こんな馬鹿げたことをするのは、私たちだけで十分だ・・・」

 椿が投げかけた言葉を受けて、結花が皮肉を込めた笑みを見せる。椿が出した茶を受け取り、結花が口にする。

「相変わらず苦味のある茶だな・・」

「茶は苦味と渋みだ。良薬口に苦し、ともいうからな・・」

 茶の苦味に顔をしかめる結花に、椿が澄まし顔で自分の分の茶を口にする。

「・・少し早いが清和島に戻る・・いきなり来て悪かった・・」

「もう帰るのか?1日ぐらい厄介になっても構わないぞ?」

 立ち上がる結花に、椿が眉をひそめる。

「待たせているヤツがいるのでな・・・それに・・・」

 椿に答える結花の笑みが徐々に消えていく。

「また戦いが起こりそうな気がしている・・戦乙女・・ブレイディアの戦いが・・・」

 一抹の予感と不安を抱えて、結花は椿の道場から去っていった。

 

 零球山での出来事から一夜が過ぎた。みなもはそのときのいつきの力を深く気にしていた。

 突如山に現れた異形の怪物と、その怪物を切り裂いた光の剣。どういう原理のものなのか。その力を出す条件は何か。

 その謎が、自分が追い求めている答えがあるのではないか。みなもはそう思えてならなかった。

「みなもちゃーん♪」

 そこへ秋葉が、みなもを後ろから抱きついてきた。

「ち、ちょっと、秋葉・・!?

「今日も元気に明るく頑張っていこうね♪」

 驚きを見せるみなもに、秋葉が笑顔で言いかけてくる。

「秋葉・・昨日のことは公にしないように・・あまり厄介事にしたくないから・・・」

「大丈夫・・といっても、言っても多分誰も信じてくれないと思うよ・・・」

 注意を促すみなもに、秋葉が落ち着いて頷く。2人ともまだ昨日のことを打ち明けるべきではないと思っていた。

「話は昼休みにでもしよう・・今は日常に気持ちを切り替える・・」

「うん・・あ、神楽坂先生だよ!」

 担任のしおんが来たことで、秋葉たちは自分の席に着く。しおんと一緒に教室に入ってきた女子に、クラスメイトたちがざわめく。

 みなもと秋葉には見覚えがあった。教室に入ってきたのは、制服姿のいつきだった。

「あの・・君は・・・?」

下山(しもやま)むつみです。イメージチェンジをさせていただきました。」

 クラスメイトの1人に訊ねられて、いつきが真剣な面持ちのまま答える。「下山むつみ」は学園に入学する際に使った彼女の偽名である。

「イメージチェンジ・・ずい分と大胆に出てきたね・・・」

 いつきのややずれた生真面目さに、みなもは呆れていた。

 

 その日の昼休み。購買部でパンを買ったみなもと秋葉は、校舎の屋上に出た。人の姿は見られず、青空が広がっていた。

「うーん、いい天気だねー♪」

「あなた、昨晩のことを聞かされてよくそんなのん気でいられるわね・・」

 大きく背伸びをする秋葉に、みなもが呆れて肩を落とす。

「それよりも、そろそろ姿を見せたらどうなの、いつき?」

「えっ・・?」

 背後に向けて声をかけたみなもに、秋葉が疑問符を浮かべる。屋上の出入り口の裏から、いつきが姿を見せてきた。

「敏感ですね、みなもさん。感づかれないようにしていたのですが・・」

「私もそれなりに鍛錬されたからね。そのくらいでは私は欺けないってこと・・」

 淡々と声をかけてくるいつきに、みなもが苦笑気味に答える。

「さて、どこから質問していけばいいのやら・・・」

「ではまず、私が使っていた力についてお話しましょう・・」

 質問に困るみなもに、いつきが話を切り出した。

「昨日出した光の剣は、ブレイドと呼ばれるものです。そのブレイドを使える人を、ブレイディアと呼ばれています・・」

「ブレイディア・・・?」

「ブレイディアのブレイドは、使う人の精神力によって威力が決定されます。心を研ぎ澄ませればどのような壁も切り裂くことができますが、逆に動揺や意気消沈に陥れば、ブレイドの威力が弱まります・・」

 いつきの説明を聞いて、みなもが納得して頷く。

「あの〜・・その力ってもしかして・・」

「秋葉、今は大事な話をしてるの。後にして・・」

 秋葉が声をかけるが、いつきの話に集中しているみなもに言いとがめられる。

「それで、ブレイディアはあなたの他に誰かいるの?」

「それは分かりません。ただブレイディアは複数います。ブレイドの形状や能力も、人によって違います。」

 みなもの続けての問いかけに、いつきが落ち着いて答える。

「この清和島に伝わる戦乙女の伝説。その戦乙女がブレイディアとされています。自身の剣を手にした乙女同士の舞。それは昨年にも行われていたという話です。」

「昨年も?・・そんな戦いがあるなら、生徒や教師が不審に思うはず・・・何者かが隠ぺいしていたというの・・・?」

「そうです。全ては“プルート”と呼ばれる組織によって隠ぺいされた戦いだったのです。一般人に気付かれないように戦乙女の舞を取り行い、秘密を知った人間については抹消、もしくは記憶の操作を行います・・表の社会には存在さえ明らかにされない裏社会のやり口と同質です・・」

 いつきの説明を聞いて、みなもは緊迫を覚える。今まで自分が気づいていなかった、自分の手に余ると直感している組織の存在に、彼女は畏怖を覚えていた。

「心配はいりません。昨年の戦いでプルートは崩壊を喫しています。ブレイディアについて詳しく知っているのは、私たちと、理事長の黒部大貴・・」

「えっ!?理事長先生も、このことを知っているの!?

 いつきのこの言葉に驚いたのは秋葉だった。

「黒部理事長と、教頭の白川要・・兄妹である2人は、ブレイディアの舞を見守り続けていたそうです・・」

「・・・やはり、私の母さんもブレイディアだったのかもしれない・・・」

 みなもが口にした言葉に、秋葉もいつきも驚きを覚える。

「あなたの母がブレイディア・・・どういうことなのですか・・・!?

「ブレイディアについては今知ったばかりだから、絶対にそうとはいえない・・でも一瞬だけ、母さんが光輝く鋭いものを持っていたのを見たことがある・・それがブレイドだったとしたら・・・」

 問い詰めてくるいつきに、みなもが説明をしていく。

「みなもさんのお母さんも、ブレイディアやプルートに翻弄されていたのですね・・・それで、お母さんは・・・?」

 いつきが質問を投げかけるが、みなもは思いつめた面持ちを浮かべる。その反応から、いつきは彼女の母親がどうなったのか、すぐに察した。

「手持ちにある情報は有力とは言い切れませんが、提供できるものであるなら・・・ですができることなら、このまま何も知らずに平穏な時間を過ごしていただきたいです・・」

 いつきが自分の考えをみなもと秋葉に伝える。しかしみなもは首を横に振る。

「私が求めてきた答えが、やっぱりこの清和島にある・・それが分かっているのに、それを確かめずにいることはできない・・」

「そうですか・・・無理やり介入させないのは私としても好ましく思いませんが・・2人とも力がありません。ハデス、あるいは敵意のあるブレイディアと遭遇したら、すぐに逃げるように・・」

 決心を告げるみなもに、いつきが忠告を送る。彼女の言葉にみなもは頷いた。

「それで、他に聞きたいことは何かありますか・・・?」

「えっと・・今の話と関係があるか分からないけれど・・・」

 いつきが質問すると、みなもが話を切り出す。

「どうしてあんな変装を・・・?」

「敵の目を欺くためです・・ですが逆に不審に見られると思いましたので、決断しました・・」

「そ、そうなの・・・」

 いつきの答えを聞いて、みなもだけでなく秋葉も呆れていた。

「今現在、凶悪なブレイディアがいるという情報はないですが、用心に越したことはありません・・」

「その心配はいらないわ。注意力があるのは先ほど立証したのだから・・」

 いつきの注意にみなもが苦笑気味に言いかける。秋葉は何かを言おうとしていたが、完全に言う機会を失ってしまっていた。

 

 ブレイディアに関して詳しい話を聞こうと、みなもは理事長室に向かおうとしていた。だがその途中、いつきに止められていた。

「いけません、みなもさん!迂闊に理事長から話を聞こうなんて!」

「でも詳しい情報を知っているのは理事長と教頭先生なんでしょう?この有力な手がかり、逃すのもよくないじゃない・・」

 情報を得ようと躍起になるみなもだが、いつきも引き下がらない。

「向こうはまだこちらが情報を得ていることを知らないかもしれません。わざわざ向こうにこちらを危険視させるような行為は、自分の首を絞めることと同義です。」

「有力な情報を持っているのは向こうよ。聞き出さないわけにいかないわ・・」

「2人とも落ち着いてって!」

 そこへ秋葉が呼びかけ、みなもといつきの仲裁に入る。

「みなもちゃんもいつきちゃんも、お互いの声に耳を傾けて!自分の考えを貫くばかりがいいことじゃないって!」

「獅子堂さん・・・」

「秋葉・・・私としたことが、大人げなかったわね・・・」

 秋葉に言いとがめられて、いつきとみなもが落ち着きを取り戻す。

「まだその時ではないかもしれないわね・・あくまで最後の手段ということで・・・」

「仮に彼らから話を聞くことになるにしても、向こうが私たちに接触してくることになってからですね・・」

 和解したいつきとみなもに、秋葉が笑顔を見せた。

「それじゃ、あたしたち3人の親睦を深める意味で、どっかで食事して行こう♪」

 秋葉が上機嫌に提案を持ちかけてきた。

「悪いけど私たちにそんな余裕はないわよ、秋葉・・私たちはまともに料理ができない・・失敗して食材をダメにする危険が高い・・それなのに寄り道して食べ歩きする余裕はないの・・」

「でも、こうしてみんなと会えたわけだし・・・」

 だがみなもにとがめられて、秋葉が気落ちする。

「それに、無駄遣いをしなくても、親睦を深める方法はいくらでもあるわよ・・」

「えっ・・・?」

 みなもが投げかけてきた言葉に、秋葉だけでなくいつきも疑問符を浮かべていた。

 

「なるほど・・これでも親睦は深めますね・・・」

 いつきが半ば呆れ気味に言いかけてきた。

 みなもと秋葉は寮の自分たちの部屋に、いつきを招き入れた。みなもと秋葉はいつきから料理を教わろうとしていた。

「確かに私はそれなりに自炊はできますが・・教える相手が2人だと苦労します・・」

「お手数おかけします、いつき先生・・・」

「勉強させていただきます・・・」

 言いかけるいつきに、みなもと秋葉は頭が上がらなくなっていた。いつきが冷蔵庫の中を確かめる。

「材料は一応はそろっていますね・・でも調味料が足りないようです・・・」

「また買い出しに行くしかないみたいだね・・・」

 いつきが口にした言葉に、秋葉が呟きかける。

「私がきちんと説明します。万が一にも違うものを買ってきてしまっては困りますから・・」

「すっかり信用されていない・・仕方ないわね。それだけの体たらくだからね、私たちは・・・」

 淡々と言いかけてくるいつきに、みなもは肩を落とすばかりだった。

 

 調味料の買い出しに向かったみなもたち。いつきに導かれて、コンビニではなくスーパーに行くこととなった。

「コンビニよりも多くの種類のものが揃っていますからね・・緊急時以外は極力スーパーのほうがいいでしょう・・」

「そうだね・・値段も安めだし・・」

 いつきの言葉を聞いて、秋葉が納得する。スーパーに入ると、いつきが必要な調味料の適した種類を見定めていく。

「とりあえずこれらが無難なところでしょう・・決め手は良質と値段。そのことを頭に入れておくように・・」

 いつきの説明に頷くみなもと秋葉。3人は必要な調味料を買って、帰路に就いた。

「ハァ・・やはり手慣れている人は違うわね・・・」

「習慣になれば自然と上達していくものです。何事もそうですから・・」

 ため息をつくみなもに、いつきが言いかける。

「頑張ろうよ、みなもちゃん♪みんなで頑張れば何とかなるって♪」

「あなたも頑張らないといけないのよ、秋葉・・」

 上機嫌に言いかける秋葉に、みなもが呆れていた。

「あらまぁ。ずい分と仲良しこよしじゃないの。」

 そこへ声がかかり、みなもたちが足を止める。彼女たちの前に2人の女子が現れた。

 一方は髪が長く、もう一方は短い。それ以外はピンクの髪や背丈、顔立ちなどが共通しており、双子のようだった。

「ねぇ、あたしたちに付き合ってくれないかしら?」

「お姉ちゃん・・やっぱりこういうのはいけないよ・・」

 みなもたちを誘ってくる長髪の姉に、短髪の妹が呼びかける。しかし姉は聞く耳を持っていなかった。

「確か緑の髪のヤツが力を持ってたんだっけ・・それなりに楽しませてくれないとね・・」

 姉が告げた言葉を聞いて、いつきが緊迫を覚える。

(この人、ブレイドのことを知っている・・まさか、ブレイディア・・・!?

「逃げてください、2人とも!この人たちは・・!」

 いつきがみなもと秋葉に呼びかけようとしたときだった。姉が光の剣を出して、切っ先をいつきに向けてきた。

「それじゃ始めましょうか・・楽しいショーをね・・・!」

 不敵な笑みを見せる姉が、みなもたちに牙を向けようとしていた。

 

 

次回

第3話「3人の騎士」

 

秋葉「料理にコツっていうのはあるの?」

いつき「お教えしましょう。

    必要不可欠は新鮮な材料と見合った調味料。

    かすかな狂いも許されない適量と時間。

    わずかな狂いが料理には命取りになるのです!

    それから、それから・・・!」

みなも「料理の道は長く険しいということね・・・」

 

 

小説

 

TOP

inserted by FC2 system