ブレイディアDELTA 第1話「新たなる戦」
ブレイディア。
各々の剣を振るう血塗られた少女。
彼女たちに課せられる運命が導くのは、楽園か、地獄か。
その答えは、心の剣のみぞ知る・・・
2人の戦乙女の壮絶な戦い。関わりのない人にその事実を知ることはなく、平穏な時間を過ごしていた。
その戦いも終わりを迎え、新しい春が訪れようとしていた。
私立式部学園。日本国内に点在する島、清和島にある私立高校。
清和島には自然に満ちあふれた島であるが、街や施設など、都会に勝るとも劣らない場所も存在している。
その島にて、人知れず行われていた舞と、剣を交えた戦乙女がいた。
心の強さを光の剣に変えて戦う者。女性のみにその力と存在が確認されている。それらを知る者からは「ブレイディア」と呼ばれている。
長きに渡るブレイディアの戦い。理由や思惑はそれぞれだが、その衝突は大きな輝きを煌かせていた。
だが近年繰り広げられた戦いが終わり、生き延びた戦乙女たちも日常へと戻ろうとしていた。
新しい春が訪れ、進級と入学の季節となった。この年の式部学園の入学生の中に、1人の女子がいた。
星川みなも。水色の長い髪をひとつに束ね、物静かな雰囲気をかもし出している。
みなもは自分の身の回りで起きている不可解な出来事に疑念を抱き、この式部学園の入学を決めた。
式部学園、清和島に自分の求める手がかりが必ずある。みなもはそう悟っていた。
(このどこかに・・私の周りで起こっていた何かが・・・)
みなもは視線だけを動かして周囲の様子を伺う。わずかでも不審に見られるのは致命的であると感じていたからである。
(みんな楽しそう・・おかしなことが起きているとは思えない・・・きっと、誰も知らされていないんだね・・・)
周囲の平穏さを実感しつつ皮肉を覚えるみなも。これ以上の警戒は効果的でないと判断し、彼女は深呼吸をした。
「では、気持ちを切り替えて、新しい学校生活を楽しむとしようかな・・」
ようやく緊張を解いて笑みを見せるみなも。
「どいてー!どいて、どいてー!」
そのとき、背後から声がかかり、みなもが振り返ろうとする。その瞬間、彼女は突然背中から突き飛ばされた。
たまらずしりもちをつきそうになるのを、みなもは何とか踏みとどまった。彼女の前にいたのは、ピンクのショートヘアの、活発な女子だった。
「イタタタ・・ゴ、ゴメンなさい!急いでたものだから・・!」
女子が慌しくみなもに頭を下げてきた。
「ううん、私も考え事をしていて、気付かなかったから・・・」
「本当にゴメンなさい・・もしかして、新入生だったり・・・?」
「えっ?うん、まぁ・・」
「よかったよ〜・・中学のときの友達は誰もここにいないから、気軽に話せる人がいなくて困ってたんだよ・・」
みなもが答えると、女子が安堵の笑みをこぼす。彼女の言動にみなもは半ば唖然となっていた。
「あたし、獅子堂秋葉。君は?」
「私はみなも。星川みなも・・」
「同じ新入生として、これからよろしくね、みなもちゃん♪」
自己紹介をすると、女子、秋葉が笑顔を見せて手を差し出してきた。みなもも笑みを見せて彼女に手を取りあ、握手を交わした。
「ところでいいの?急いでいるんじゃなかったの・・?」
「あっ!そうだった!急がないと入学式に間に合わない!・・って、みなもちゃんも急がなくていいの・・・?」
「えっ?・・・あっ!そうだった!」
互いに入学式開始が間近であることを思い出し、みなもと秋葉は急いで式場となっている体育館に走っていった。
入学式を控えた体育館。そこを2人の人物が見つめていた。
黒部大貴と白川要。式部学園の学園長と教頭であり、兄妹である。ただ彼女は母親の旧姓を使っており、自分が周囲におかしな目で見られたくないという理由で使っている。
「また新しい生徒が入ってきましたね・・」
要が大貴に向けて淡々と声をかける。
「今年もかわいい生徒が入ってきているから、本当にいい感じだね・・」
「ふざけないでください、お兄さん・・仮にも学園長なのですから・・・」
笑顔を見せる大貴に、要が呆れながら注意を促す。苦笑する大貴だが、すぐに笑みを消した。
「戦乙女の戦いも終局へ・・プルートも壊滅して、これで平穏な月日が流れることでしょうね・・・」
「・・・いや・・まだ楽しみは終わっていないと思うよ・・・」
言いかける要に対し、大貴が期待を込めた言葉を口にする。彼の言葉に要は眉をひそめる。
「確かにプルートは壊滅した・・でも、ブレイディアがいなくなったわけじゃない。きっとまた、剣と剣がぶつかり合うときが来るよ・・・」
「そうなったとしても、危険にならないところで干渉して下さい。今度は助けませんよ・・」
「ちょっと、冗談きついって、そういうの・・・」
冷淡な態度を見せる要に、大貴が気まずさを見せる。
「ま、もし戦いが起こるとしたら、誰がどんな舞を見せるのかな・・・」
次に起こるかもしれない戦乙女の新たなる舞。それを予感して、大貴は悠然としていた。
何とか入学式に間に合ったみなもと秋葉。入学式は淡々と進み、2人は退屈から抜け出せたと感じて、安堵を感じていた。
「ふぅ・・やっぱりこういうのは何度やっても退屈になるね・・」
「話が長いのが1番の理由だけど・・・」
言葉を交わした後、2人は肩を落としてため息をついた。自分のクラスの教室に移動して、黒板に張られている座席表を見る。
「よかったぁ♪同じクラスで、しかも席が近いなんて〜♪」
「・・・本当のところ、あまり騒がしくない人が近くだとよかったんだけど・・・」
上機嫌を見せる秋葉と、気まずくなって肩を落とすみなも。
クラスの生徒たちは性格の明暗はあるものの、誰もが穏やかそうだった。不良といった生徒は見当たらなかった。
「はい、みなさん、席に着いてくださいね・・」
そこへ1人の教師がやってきて、生徒たちに声をかけてきた。このクラスの担任、神楽坂しおんである。
しおんの担当教科は地理。冷静で穏和な性格で、周囲からの評価も良好である。
「みなさん、式部学園入学おめでとう。今日から1年間、このクラスの担任になる神楽坂しおんです・・」
しおんがクラスメイトたちに自己紹介をしていく。彼女の雰囲気を見て、みなもと秋葉が安心感を覚える。
だが一方でみなもは、クラスメイトの中のある女子を気にしていた。
この日は式とホームルームだけで終わり、みなもと秋葉は女子寮に向かっていた。2人とも寮暮らしで学園生活を過ごそうとしていた。
だがこの年の女子寮の利用者は多く、2人が兼用するのを余儀なくされていた。
「本当は寮では1人での時間を過ごしたかったんだけれど・・そのほうが落ち着けるのに・・・」
「でも2人で一緒にご飯食べたり寝たりするのも楽しいよ♪みなもちゃんもすぐに慣れるって♪」
現状を目の当たりにして肩を落とすみなもと、上機嫌に振舞う秋葉。秋葉の言葉を耳にした瞬間、みなもが眉をひそめる。
「ちょっと待って・・いつあなたと同じ部屋になるって決まったの・・・!?」
「いいじゃない♪一緒のほうが絶対楽しいって♪ね♪」
「私の話を聞いていなかったの!?私は寮では落ち着きたかったの!あなたみたいな天真爛漫が来たら、絶対に落ち着けないって!」
「う〜、ひどいよ、その言い方・・・」
みなもに怒鳴られて、秋葉が気落ちする。
「四の五の言っていられそうもないし、あなたと一緒に過ごすしかなさそうね・・」
「ありがとうね、みなもちゃん♪これでこの学園生活が、もーっと楽しくなるよー♪」
観念したみなもに秋葉が大喜びする。
(あまりいい気分がしないけど、カモフラージュになるかもしれないからよしとするかな・・)
ひとまず楽観的になろうとして、みなもは秋葉との生活を受け入れることにした。
その日の夜、早速問題が起こった。この事態にみなもも秋葉も心の整理がつかなくなった。
「ねぇ、みなもちゃん・・夜ご飯、手伝ってほしいんだけど・・・」
秋葉が夜ご飯の支度をしようとして、みなもに声をかけてきた。
「えっと・・私、料理とかうまくないんだけど・・親がいないときは冷凍食品が多かったし・・・」
「えっ!?そうなの!?あたしも料理うまくないんだけど・・・」
みなもの答えを聞いて、秋葉が驚きの声を上げる。2人とも自分で料理をしたことがほとんどなく、まともに自炊ができるとは思っていなかった。
「どう、しよう・・・?」
「どうしようって言っても・・何とかしないと、これから先困るし・・・」
困惑する秋葉に、みなもが気まずくなって肩を落とす。
「・・・仕方がない。すぐにはどうにもならないから、今夜は外で何か買って食べよう・・それで明日からは協力して自炊を頑張るように・・」
「そうだね・・でも自信が持てない・・・」
「私だって自信ないのよ・・でもやるしかないのよ・・・!」
涙目になる秋葉に、みなもが鋭い視線を向けてくる。
結局、2人は今夜はコンビニでお弁当を買いに行くことにした。
「コンビニのお弁当なんて久しぶり♪どんなのがあるんだろう?」
「コンビニ弁当は栄養が偏っていて避けたいところなんだけど・・・」
笑顔を見せる秋葉に、みなもは呆れ果てていた。だが通りがかった人物に警戒心を覚えたみなもが、突如足を止めて振り返る。
(あの人・・何か引っかかる・・・誰だろう・・・?)
「どうしたの、みなもちゃん?」
疑念を抱くみなもに、秋葉が声をかける。
「私の分も買っておいて・・」
みなもは秋葉にそう告げると、その人物を追って駆け出していった。
清和島の中央に点在する零球山。伝説の戦乙女の決戦の地として歴史に残るこの山は、戦乙女の歴史を求めて訪れる人が多い。
その零球山に足を踏み入れた1人の女子がいた。黄緑の長い髪にはリボンが付いており、さらにメガネをかけていた。
女子は零球山の林道を進んでいた。彼女は周囲に視線を巡らせており、何かを探し求めていた。
(ここが零球山・・戦乙女、ブレイディアの戦いの場とされていた山・・・しかしここは、そんな歴史の地というだけではない・・・)
慎重に分析を行う女子。彼女はブレイディアについてある程度熟知していた。
そのとき、女子は後ろに何らかの気配を感じ取って、足と止めて警戒を強める。彼女の背後に現れたのはみなもだった。
「ここで何をしているの?零球山で、こんな時間に・・・」
みなもが訊ねるが、女子は焦りを感じて答えようとしない。
「もしかして、何か悪いことを企んでいるの?この零球山の歴史について調べているのでは・・・?」
みなもが問いかけているときに、女子が突然走り出した。目を見開いたみなもが彼女を慌てて追いかけていった。
そのとき、2人の前に不気味な影が現れた。巨大なサイを思わせる姿の怪物で、頭の角が長くなっていた。
「か、怪物!?こんなものが、現実にいるなんて・・・!?」
「ハデス・・こんなときに姿を現してくるとは・・・!」
怪物の登場にみなもが驚愕し、女子が緊張を覚える。ハデスと呼ばれる怪物が咆哮をあげる。
(まずい・・ここで正体を知られるわけにはいかない・・まして、あの力を見せるわけには・・・)
女子がハデスを見据えたまま焦りを膨らませていく。ハデスが彼女とみなもを見据えて、突進を仕掛けようと地ならしをしていた。
「すぐにそこから逃げなさい!アレは私が注意を引き付けますから!」
「何を言っているの!?そんなことしたら、あなたが・・!」
呼びかける女子に、みなもがたまらず声を荒げる。
「私もすぐに脱出しますから、あなたもすぐにここから・・あっ!」
女子がさらに呼びかけようとしたとき、ハデスが2人に向かって飛びかかってきた。女子もみなももとっさに突進から逃げ出していく。
(このままでは私も彼女もやられてしまう・・仕方がないか・・・!)
毒づく女子が再びハデスに目を向けると、両手を前に掲げて意識を集中する。
「あなた、何を・・・!?」
声を荒げるみなもの前で、女子の手から光が放たれる。強まっていく光は、両端が刀身になっている剣へと形を変えていった。
「えっ!?・・手から、光の剣が・・・!?」
不可思議な現象を目の当たりにして、みなもが驚きを隠せなくなる。ハデスが咆哮を上げて、女子に突っ込んでいく。
女子が手にしている剣を振り上げる。その直後、ハデスの胴体が真っ二つに両断された。
絶命して光の粒子になって消滅したハデスを目にすると、女子は光の剣を消してみなもに振り返る。
「大丈夫でしたか?・・どこかケガはありませんか・・・?」
「あなた、その力・・・!?」
呼びかけてくる女子に、みなもが疑問を投げかけて詰め寄ってきた。
「何なの、その力は!?もしかしてこれが、最近起きている事件の正体なの!?」
「お、落ち着いてください・・申し訳ありませんが、このことは話すことはできません・・」
「教えて!この力のことが、私の求める手掛かりかもしれないから!」
言いとがめる女子だが、みなもは引き下がらない。
そのとき、女子の髪が突然ずり落ちて、地面に落ちた。その下から深緑の短い髪が現れた。
「えっ・・・!?」
女子の素顔を目の当たりにして、みなもが驚きを隠せなくなる。彼女は女子の素顔に見覚えがあった。
「あ、あなた・・・いつき・・・神凪いつき・・・!?」
みなもが口にした言葉に、女子は困惑を膨らませる。彼女、いつきが自分の正体を知られたことに毒づいていた。
「みなもちゃ〜ん・・やっと見つけたよ〜・・・!」
そこへ秋葉が駆け込んできた。彼女の登場にいつきが危機感を膨らませる。
「・・・いつきちゃん?・・・いつきちゃんだよね?」
「ま・・まさか・・・秋葉、さん・・・!?」
声をかけてくる秋葉に、いつきも驚きを見せる。2人は互いに面識があった。
「秋葉・・いつきと知り合いだったの・・・!?」
「うん・・中学のときの同級生・・式部学園に行くって聞いてなかったから、ビックリしちゃったよ〜♪」
みなもが投げかけた問いかけに、秋葉が上機嫌に答える。
「そういうみなもちゃんも、いつきと知り合いだったの・・・?」
「家が近所だったからね・・途中で私たちが引っ越して・・・って、もしかして秋葉、いつきのあの力のこと・・!」
秋葉の質問に答えたとき、みなもがいつきに手で口を押さえられる。
「ん?・・どうしたの、いつき・・・?」
「何でもない・・何でもありません・・・!」
秋葉が疑問符を浮かべると、いつきが必死に弁解を入れる。彼女はみなもから手を離すと、小声で話しかけてきた。
「このことは内密にお願いします。騒ぎになるのはお互い得策でないことは分かっていますね・・?」
「・・・詳しい話は明日にするわ・・秋葉と一緒に帰らないといけないし・・・」
いつきに念を押されて、みなもは渋々了承する。彼女たちはひとまず零球山を後にするのだった。
追い求めてきた謎に近づけて、みなもの決心はさらに強まるのだった。
夜明け前に清和島に到着した1隻のフェリー。そのフェリーから1人の少女が降りてきた。
長身と青く長い髪が特徴。クールで大人びた雰囲気を宿している少女だった。
「またここに来るとはな・・・」
清和島の風景を見回して、少女、青山結花が呟く。旅を続けていた彼女が、この清和島に戻ってきたのだった。
次回
みなも「またまた始まったブレイディアの物語・・」
秋葉「楽しみだね♪」
みなも「ところで、“もえ”とは何なの?」
秋葉「えっと〜・・・」
結花「気にするな。
燃え萌えならばオールOKだ。」
みなも「は、はぁ・・・」
秋葉「そ、そう・・・」