祓忍の危機

 

 

 妖(あやかし)を祓う忍者「祓忍(はらいにん)」。
 その祓忍の1人である風巻祭里(かざまきまつり)は、全身黒ずくめの男と対峙していた。
 2人のそばで女子、月丘(つきおか)ルーシーが壁際に追い込まれていた。
「オレの宇宙忍法で、お前を成敗してやる!」
 祭里が男に言い放って、クナイを手にして構える。
「私に対する言葉使いではないぞ、女。」
「ずい分と偉そうなヤツみたいだな・・!」
 男が冷徹に言って、祭里が苦笑を浮かべる。
「とにかく、お前を祓わせてもらうぞ!」
 祭里が飛び出して、クナイを振りかざす。彼女の高速の一閃が、男の頬をかすめた。
 続けて祭里がクナイを振りかざし、さらに回し蹴りも繰り出す。しかし男にことごとく回避されていく。
「祭里様はものすごく速い動きッス・・それなのに、アイツはそれを軽々とよけてるッス・・・!」
 ルーシーが男の動きに驚きを感じていく。
「しかしいくら何でも、祭里様が敵わないはずがないッス・・もしかして、うちを守ろうとして・・・!?」
 彼女は祭里が男から守ってくれていると思い、戸惑いを感じた。
(ここにいたら祭里様が本気で戦えないッス・・早く逃げなくちゃッス・・!)
 ルーシーが祭里を気遣い、男に気付かれないようにこの場から動き出す。
 そのとき、黒く長いものが伸びて、ルーシーの足に巻き付いた。
「うわっ!」
 引っ張られて持ち上げられて、ルーシーが悲鳴を上げる。
「ルー!?」
 捕まったルーシーを目にして、祭里が声を荒げた。その一瞬の隙を突かれて、祭里が男に首をつかまれた。
「し、しまった・・!」
「捕まえたぞ、うるさいハエめ・・」
 うめく祭里に対して男が笑う。しかし彼の顔からすぐに笑みが消える。
「私の顔に傷を付けおって・・お前はもういらん!」
 男が祭里に憎悪を向ける。祭里がもがくが、男に首を絞められて、うまく力を入れられない。

     カッ

 そのとき、男の目からまばゆい光が放たれた。

    ドクンッ

 光を受けた祭里が強い胸の高鳴りに襲われた。
「何だ、今のは・・お前、オレに何をした!?」
 手を放した男に、祭里が緊張を募らせながら問い詰める。
  ピキッ ピキッ ピキッ
 そのとき、祭里の着ていた服が突然引き裂かれた。あらわになった左腕、左胸、尻、下腹部が固まり、所々にヒビが入っていた。
「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜のくり返しを見守り続けるがいい!」
 男が祭里に向けて鋭く言い放つ。彼は彼女に石化を掛けたのである。
「体が石に!?・・そんな力を持ってたとは・・・!」
 石になった自分の体を見て、祭里が危機感を覚える。
(体が石になってるッス!?コイツ、人間じゃないッスか!?)
 ルーシーも彼女の異変に驚きを隠せなくなる。
  パキッ
 石化が進行して、祭里の体を石にしていく。同時に彼女の服が引き裂かれて、さらに素肌がさらけ出されていく。
「このままじゃやられる・・何とか活路を見出さねぇと・・・!」
 祭里が男に一矢報いようとクナイを持っている右手を動かした。
  ピキッ ピキキッ
 男が意識を傾けると、石化の進行が速まって、祭里の右腕も固まっていく。彼女が力を入れられなくなり、手からクナイを落とす。
「コイツ・・自由に石化を進められるのかよ・・・!」
 石化の速度を思いのままにできる男に、祭里が毒づく。
「もはやお前は私の思い通りだ。美しいオブジェになれることを、光栄に思え・・!」
「オブジェだ!?オレは美術品じゃねぇぞ・・!」
 笑みをこぼす男に、祭里が文句を言う。
  ピキキッ パキッ
 さらに石化が進み、彼女の足の先まで石に変わり、素足もさらけ出された。
「すぐに反抗的な態度が取れなくなるぞ・・」
 男が祭里に勝ち誇り笑みをこぼす。必死に動いて逃げ出そうとするルーシーに気付いて、彼が振り向く。
「安心したまえ。お前はまだオブジェにはしないから・・」
 男に言われて、ルーシーが緊張をふくらませて動けなくなる。
「ダメだ・・これじゃ術も使えない・・・!」
 祭里も身動きが取れなくなり、脱力していく。
  パキッ ピキッ
 彼女の髪や頬も石に変わっていく。
「ルー・・ワリィ・・お前のこと、助けて・・やれ・・・な・・・」
 祭里が声を振り絞って謝る。彼女を見つめてルーシーが困惑する。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ・・!」
 全裸となっている祭里に対し、男があざ笑う。
  ピキッ パキッ
 唇も石に変わり、声を出すこともできなくなる祭里。諦めたくない気持ちを持っていた彼女だが、指一本動かせずルーシーを見つめることしかできなかった。
 ルーシーもそんな祭里を見つめて困惑していく。
    フッ
 瞳も石に変わり、祭里は完全に石化に包まれた。
「祭里様!」
 ルーシーが祭里に向かって悲痛の叫びをあげる。
 男は白い煙を発しながら、ルーシーを連れて姿を消した。全裸の石像にされた祭里がその場に立ち尽くしていた。

 祭里が石化されてからしばらく時間が過ぎた。立ち尽くしていた祭里が、突然元に戻った。
「あ、あれ?オレ、どうしたんだ?ここはどこだ・・?」
 祭里が周りを見回して考え込む。しかし彼女は何が起こったのかが分からなくなっていた。
「どういうことなんだ?・・全然思い出せない・・・」
 祭里が頭に手を当てて、記憶を呼び起こそうとする。
「えっ・・?」
 そのとき、彼女は自分が裸であることに気付いた。
「ええっ!?オレ、何で裸になってんだ!?しかもこんな外で!?」
 驚く祭里がたまらず身構える。彼女の周りには人はいなかった。
「何がどうなってるのか、調べないといけないみたいだ・・・とにかく、早く家に帰らないとー!」
 祭里が慌ててこの場を離れて、急いで家へ戻った。彼女が事件のことを聞いたのとルーシーと再会したのは、家に戻ってしばらく経ってからのことだった。

 祭里が石化された一連の出来事。それはルーシーの想像、妄想だった。
 多種多様の内容の漫画を集めているルーシー。その中の1つを読んで、彼女はその1場面にて自分たちに登場人物を当てはめて想像していたのである。
「お嬢様・・聞こえていますか、お嬢様?」
 想像にふけっているルーシーに、1人の少年が声をかけてきた。
「日喰、来てたッスか・・また考えごとをしてたッス・・」
 ルーシーが少年、日喰想介(ひのじきそうすけ)に気が付いて答える。
「また漫画を読んでの妄想ですか?それ自体は悪いとは言いませんが、それにかまけて勉強をおろそかにしてはいけないですよ・・」
「うぅ・・これは無理難題ッス・・・」
 想介に注意されて、ルーシーが気まずくなる。
「そろそろ勉強をするように。漫画はその後で。」
「しょうがないッス・・勉強を済ませて、すぐまた漫画タイムッス。」
 想介に言われて、ルーシーは漫画を読むのを中断して、勉強をしに向かった。
(でも祭里様だったら、どんな宇宙人にも負けないッス・・・!)
 祭里に対して強い信頼を寄せていたルーシー。ただし彼女は祭里のことを祓忍ではなく、宇宙忍者だと思っていた。

 

 

短編集に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system