悪夢のあやかし

 

 

 妖(あやかし)を祓う忍者「祓忍(はらいにん)」。
 その祓忍の1人である風巻祭里(かざまきまつり)は、漆黒の妖を見つけて追跡していた。
「挑発しといて逃げ回るなんて!」
 飛び跳ねながら逃げ回る妖に、祭里が毒づく。妖と彼女はとある家の近くまで来た。
「あそこは・・まさか、アイツ・・!」
 祭里がその家を目にして、危機感を覚える。妖が逃走を止めて、彼女に振り向いた。
「ここから先へは行かせないぞ!」
 祭里が言い放ち、妖の上に大きく跳び上がった。彼女は刀を手にして振りかざし、真空の刃を放つ。
 妖が多数の刃を受けて切られたが、すぐに元の形に戻っていく。
「コイツ、まるで煙のようだ・・だったら・・!」
 祭里が毒づいて、刀を構えて妖の動きを見計らう。
「祭里・・・?」
 そのとき、1人の少女が祭里たちの前に顔を出してきた。
(すず!?こんなタイミングで出てくるなんて!?)
 祭里が少女、花奏(かなで)すずを見て、緊迫を募らせる。妖がすずに気付いて振り向いた。
「離れろ、すず!」
 祭里がすずに向かって叫び、妖に向かって突っ込んだ。その直後、妖が再び祭里のほうに振り向いた。
 次の瞬間、煙のような妖からまばゆい光が放たれた。祭里が身構えるが、回避が間に合わずに光を目に入れてしまった。
「しまった・・ヤツの力に・・・!」
 妖の力を受けたことに、祭里が緊迫を募らせた。
  ピキッ ピキッ ピキッ
 次の瞬間、祭里の着ていた忍装束が引き裂かれた。あらわになった彼女の左手、左胸、尻、下腹部が灰色に固まっていた。
「こ、これは・・!?」
「祭里!?」
 祭里が自分の異変に驚き、すずも驚愕する。
(あの妖、石にする力があったなんて・・しかも・・・)
「何で服が破れてるんだよ!?」
 緊張を膨らませる祭里が、裸にされていることに叫ぶ。
「祭里、どうしたの、一体!?」
 すずも祭里に対して驚きを隠せなくなる。
「すず、早く逃げろ!そいつに近づいちゃいけない!」
 祭里が緊迫を募らせて、すずに呼びかけた。
 その瞬間、妖がすずに対して光を放った。祭里に近づこうとしたすずが、その光を目に受けてしまった。
「えっ!?・・い、今のって・・・!?」
 この瞬間にすずが驚きを覚えた。
  ピキッ パキッ パキッ
 彼女の着ていた上着が引き裂かれて、その体が石に変わり始めた。
「わ、私の体も・・!?」
「すず!」
 すずが自分も石化していくことに驚愕し、祭里も叫ぶ。
「この呪いを解かないと、オレもすずも・・・!」
 祭里が石化を解こうと試行錯誤をする。
  ピキッ ピキキッ
 掛けられた石化が進行して、彼女の体がさらに石に変わっていく。
「体が思うように動けない・・これじゃ、近づけない・・・!」
 体の自由が利かなくなり、祭里が危機感を募らせる。
(せめて、アイツに1発食らわせないと・・・!)
 彼女が右手を動かして、妖に攻撃を仕掛けようとした。
  ピキキッ パキッ
 石化が進行して、祭里の右手と両足が先まで石に変わった。
(アイツ、思うがままに石化を進められるのか!?・・これじゃ、術も使えない・・・!)
 術も技も使えなくなり、祭里が危機感を募らせていく。妖がゆっくりとすずに近づいていく。
  ピキッ パキッ パキッ
 すずに掛けられた石化も進み、下半身もさらけ出される。
「ち、ちょっと・・石にされただけで裸にもなるなんて・・!」
 自分の石の裸身を目にして、彼女が困惑していく。
「すず!」
 祭里が抵抗するが、石になった体を動かすことができない。
「やめろ・・すずに手を出すな!すぐに元に戻せ!」
 祭里が妖に向かって声を張り上げる。
  パキッ ピキッ
 すずの石化が進み、彼女の手足の先まで石に変わり、髪や頬にも及んでいた。
「祭里、ごめんね・・足を引っ張って・・・」
 すずが祭里に目を向けて、声を振り絞って謝る。
「すず・・・!」
 祭里が彼女を見つめて困惑する。
  ピキッ パキッ
 唇も石になって、すずが祭里を見つめて目に涙を浮かべる。
     フッ
 その瞳から涙があふれたと同時に、すずは完全に石になった。
「すず・・すず!」
 全裸の石像にされたすずに、祭里が悲痛の叫びを上げた。
「アイツだけは・・絶対に払わねぇと・・・!」
 振り返ってきた妖に、彼女が怒りを燃やす。
  パキッ ピキッ
 祭里に掛けられた石化が進行を再開し、彼女の首元や頬も固めていく。
「ちくしょう・・全然動けねぇ・・・!」
 身動きが取れず術に集中することもできず、悔しさを覚える祭里。
  ピキッ パキッ
 口も石になって声を出せなくなり、彼女は石像として立ち尽くすすずを見つめる。
(すず・・・ゴメン・・すず・・・)
 祭里が心の声で、すずに謝る。祭里は意識が薄らぐ中、自分も全裸の石像としてこの場に佇むと思っていた。

「すず!」
 祭里が叫び声を上げながら飛び起きた。
 祭里は自分の部屋にいた。彼女が遭遇したのは、夢の中の出来事だった。
「夢だったのか・・ホントのことじゃなくてよかった・・・!」
 悪夢が現実でなかったことに、祭里が胸を撫で下ろす。
(それにしても、あんな夢を見るなんて・・しかも、オレもすずも裸にされて・・・)
 彼女が自分の胸に手を当てて、ため息をつく。
(女になっちまったから、おかしなことを考えるようになっちまったのか?・・まだまだ精神修業が足りないな・・・)
 祭里は気を引き締めなおして、日常と祓忍の使命に臨んだのだった。

 

 

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