黒と稲光の解放
魔界にて保管されていた宝石「魔石」。
そのうちのひとつ、石化の力を備えた魔石は、保持した男の欲望を引き金にして、数多くの美女を脅かしていった。
街を騒がせる怪盗と、その怪盗の打倒を目的とする稲光。
2人もまた、その魔性の力に脅かされようとしていた。
貧富の激しい街「グレイシティ」。その街を騒がせる怪盗がいた。
シャドウレディ。数多くの獲物を盗み、警察の追跡や包囲をかいくぐってきた怪盗である。
そのシャドウレディを倒そうとする正義の稲光が現れた。
スパークガール。ワイヤーを駆使した素早い動きが特徴の美少女。シャドウレディの正体を暴くべく挑戦し追い詰めるが、シャドウレディに衣装を切り裂かれて敗北を喫している。
だがこの怪盗とヒロインの話題をよそに、グレイシティである事件が続発していた。
夜な夜な美女が忽然と姿を消していた。警察は誘拐事件として捜査し、街の警戒に当たっていた。
そのある日の夕暮れ時、街中を歩く1人の少女がいた。
小森アイミ。あのシャドウレディの正体である。普段は気弱な性格だが、マジックシャドウを塗ることで正反対の派手で活発な性格へと変わるのである。
アイミは突如やってきた魔界警察から魔石の回収を要求された。その魔石の手がかりを求めて、彼女はこの日、この誘拐事件の誘拐犯をおびき寄せようとしていた。
だがミニスカートといったやや派手な服装をしているため、アイミは恥ずかしさを感じていた。
(やっぱりこの格好は恥ずかしいよ〜・・これじゃ犯人じゃない人にまで襲われそうだよ〜・・)
「あれ?アイミちゃん?」
不安を浮かべていたところで声をかけられ、アイミが驚く。恐る恐る振り返った彼女の視線の先に、1人の少女がいた。
細川ライム。シャドウレディを倒すためにスパークガールに変装する少女である。
アイミとライムは意気投合した親友同士である。だが2人とも互いの正体を知らない。
「アイミちゃんじゃない。こんなところでどうしたの?」
「えっと・・ちょっと用事があって・・その帰りなんです・・」
ライムに訊ねられて、アイミが出まかせな答えをする。
「そうなんだ・・実はあたしも。せっかくだから一緒に帰ろうか。」
ライムに誘われて、アイミは胸中で気まずくなった。2人きりでいるときに誘拐犯が現れたときに、シャドウレディに変身することができなくなってしまうと、彼女は思っていた。
だが断ることができず、アイミはライムと一緒にいることとなった。
「アイミちゃん、例の誘拐事件のことは知ってるよね?」
「あ、はい・・」
ライムが投げかけてきた話題に、アイミが当惑しながら答える。
「罪のない女性を次々にさらうなんて許せない・・女の敵よ、その誘拐犯は!」
「でも、女性ばかりをさらって、何を考えているのでしょうか・・・?」
「きっとハレンチなことよ!最悪、口では言えないようなことまで・・・!」
誘拐犯への怒りを膨らませていくあまり、ライムが赤面する。
「ライムちゃん、落ち着いて・・・!」
アイミに声をかけられて、落ち着いたライムが苦笑いを見せる。
「それにしても、今日のアイミちゃん、すごいミニスカートだねぇ・・」
ライムからの指摘を受けて、アイミが恥ずかしくなってスカートを下に引っ張ろうとする。
「イメージチェンジか何か分かんないけど、そんな格好じゃ誘拐犯に狙ってくださいって言ってるようなもんだよ・・」
からかってくるライム。アイミは恥ずかしさのあまりに、言葉を返すこともできなくなってしまった。
そのような会話をしていくうちに、既に日は落ちて夜になっていた。
「あちゃー・・話しこんじゃったねー・・・」
失敗したと感じて、ライムが落ち込む。そんな彼女にアイミが作り笑顔を見せる。
「だ、大丈夫ですよ・・急いで帰ればいいんですから・・・」
「そ、そうだね・・それじゃダッシュで帰ると・・・」
アイミに同意して、ライムが急いで帰ろうとしたときだった。
突如周囲に霧が立ち込めてきた。その霧を目の当たりにして、アイミとライムが緊張を覚える。
「何、この霧・・・!?」
「山じゃないんだし・・濃霧注意報なんて出るはずないし・・・」
不安を浮かべるアイミとライム。さらにライムは、霧の中に潜む人の気配を痛感した。
「アイミちゃん、逃げるよ!」
ライムがアイミを連れてこの場から逃げ出した。だが全速力で走っていても、ライムは自分たちを狙う存在を感じてならなかった。
(こんなときに誘拐犯が現れるなんて・・スパークガールになっていたら、すぐにでも戦ってやるのに・・・!)
(どうしよう・・これじゃシャドウレディになることもできないよ〜・・・!)
互いに胸中で焦るライムとアイミ。呼吸が乱れ、2人は走ることがままならなくなり、足を止めた。
「ハァ・・ハァ・・・逃げ切れたかな・・・!?」
呼吸を整えながら、ライムが周囲に注意を向ける。アイミも誘拐犯が来ていないかどうか、注意を払う。
そのとき、アイミとライムの足に黒い縄のようなものが伸びてきた。
「キャッ!」
「うわっ!」
2人とも足を引っ張られて宙に舞う。さらに両腕や体を黒い縄が伸びて締めつけてきた。
「な、何なのよ、コレ・・・!?」
必死にもがいて縄から抜け出そうとするライムだが、うまく抜け出ることができない。
「ヒッヒッヒッヒ。今日はついてる。1度に獲物が2人とは・・」
動けなくなっているアイミとライムの前に、1人の男が姿を見せた。服だけでなく全身までもが黒ずくめの男で、2人を縛っていたのは彼が伸ばしていた髪だった。
「これでお前たちも私のものだ・・・」
不敵な笑みを見せる男。彼から白い煙があふれ出し、アイミとライムはそのまま男に連れて行かれてしまった。
誘拐犯に連れ去られたアイミとライム。意識を失った2人は、暗闇の広がる部屋で目を覚ました。
「ここは・・・あたしたち、誘拐犯に捕まって・・・」
ライムが呟きながら、自分たちがどこにいるのかを確かめようとする。アイミも自分たちがどういう状況下にあるのか分からず、不安を浮かべていた。
「2人とも目が覚めたようだな・・」
そこへ声がかかり、アイミとライムが振り向く。目の前に現れた男に、2人は見覚えがあった。
「ア、アンタ・・確か、花山クライン・・・!」
ライムがその男、クラインに対して驚きの声を上げる。
クラインは寄付やボランティアなどを行い、グレイシティの「街の英雄」と呼ばれている青年実業家である。彼がこの誘拐事件の犯人だったのである。
「アンタが女性をさらってたなんて・・どういうつもりなの!?女性たちはどうしたの!?」
ライムが問い詰めてくると、クラインが苛立ちを見せる。
「私に対する言葉づかいではないぞ、女・・」
「アンタ、何様よ!?」
鋭く言いかけてくるクラインに飛びかかろうとするライム。だが彼女はアイミ共々、足に錠を付けられて柱から離れることができなくなっていた。
「フン。生意気な割に何もできないとはな。」
思うように動けずにいるライムを見下して、クラインがあざ笑う。
「ホントに女性はどうしたのよ・・どこにいるのよ・・・!?」
「ここまで連れ込んだのだ。見せておくとしよう・・」
声を振り絞るライムに、クラインが後ろに目を向ける。その先に目を向けたアイミとライムが、驚きを覚える。
その先には、数多くの全裸の女性の石像が立ち並んでいた。
「何よ、これ・・女性の石がたくさん・・・」
「どうだい?美しいだろう、私のコレクションたち・・・」
息をのむライムとアイミに、クラインが悠然と言いかける。
「元はどいつもこいつも薄汚いブタさ。それを美しいオブジェに変えてやった・・」
「それじゃ、ここにいる石像、みんな・・・!?」
クラインの言葉を聞いて、アイミが不安を浮かべる。彼女はここにいる石像全てが、元々はクラインにさらわれた女性であると悟ったのである。
「ここにいるのがさらわれた女性!?・・バカなこと言わないで!人が石になるなんて、現実にあるわけないでしょ!」
目の前の出来事が信じられず、ライムが声を荒げる。
「ならば体験してみるか?お前たちも私のコレクションに加わることになるのだから・・・」
不敵な笑みを見せるクラインが、かけていた眼鏡を外す。すると彼の肌が黒く染め上げられた。
(いけない・・このままだと私たちも石にされちゃう・・何とかしてシャドウレディにならないと・・・!)
危機感を覚えるアイミが、マジックシャドウをしまっているポケットに手を伸ばす。だがそのとき、ライムがアイミを守ろうと、彼女を抱きしめてきた。
「ち、ちょっとライムちゃん・・!?」
「何がどうなってるのか全然分かんないけど、アイミちゃんにおかしなことはさせないから!」
アイミが動揺を見せる前で、ライムが真剣な面持ちでクラインに言い放つ。しかしクラインは不敵な笑みを消さない。
「どこまでも生意気な・・そんな態度がいつまで続くかな・・・!?」
鋭く言いかけるクラインに睨みつけられて、アイミとライムは緊迫を募らせる。
カッ
次の瞬間、クラインの目からまばゆい光が放たれた。
ドクンッ
その眼光を受けたアイミとライムが、強い胸に高鳴りに襲われる。
「何、今の・・・!?」
「まさか、これって・・・!?」
2人が声を荒げたときだった。
ピキッ ピキッ ピキッ
突如アイミとライムの衣服が弾けるように引き裂かれた。さらけ出された素肌が固くなり、ところどころにヒビが入っていた。
「2人一緒に手にしたのだ。一緒にオブジェにするのも悪くない・・」
「な、何なの、コレ!?」
再び不敵な笑みを見せるクラインと、自分の体の変化に驚愕するライム。アイミを抱いたまま固まった彼女の左腕は、彼女の石を受け付けず動かなくなっていた。
「今のは石化・・私たち、石になっていますよ!」
アイミもたまらず声を上げる。それでもライムは自分たちが石になっていることが信じられなかった。
「そんなおかしなことが現実に起きるなんてありえない・・夢でない限りは・・・!」
これが現実でないと言い張って、ライムが自分の頬をつねる。だが自分たちの身に起きていることに変わりはない。
「そんな・・夢じゃないなんて・・・!?」
「ヒッヒッヒッヒ。さぁ、仲良くコレクションに加わるがいい・・」
愕然となるライムに、クラインが哄笑を浮かべる。
パキッ
石化が進行し、アイミとライムの体を蝕む。衣服がほとんど引き裂かれて、素肌が丸見えになっていた。
「ダメ・・自由に動けない・・・!」
体の不自由と恥じらいにさいなまれて、アイミが困惑する。
「こんなことをして・・女を裸の石にして何が面白いのよ!?」
「面白いさ!こうして女どもが私に屈していく!こんなに気分のいいことはない!」
声を張り上げるライムを、クラインがあざ笑ってくる。
「それに喜ばしいことではないか。女は、美しくなることを願う生き物なのだろう?美しいオブジェになれて、お前たちも幸せだろう・・」
「冗談じゃない!丸裸の石にされて、全然幸せじゃないって!」
ピキッ パキッ パキッ
クラインの嘲笑に抗議の声を上げた瞬間、ライムがアイミとともにさらに石化に蝕まれた。
「その生意気な口をすぐに叩けなくすることもできるのだぞ。石化の進行は私の思うがまま。一部分だけ石にしてそのままにすることも、一瞬でオブジェにすることもできる・・」
完全に衣服を引き剥がされて全裸となったアイミとライムを見て、クラインがさらに笑みをこぼす。
(どうしよう・・これじゃもう変身もできないよ・・・)
「アイミちゃん・・ゴメン・・守ることができなくて・・・」
困惑しているアイミに、ライムが声をかけてきた。
「あたしがちゃんとしていたら、アイミちゃんまでこんなことにならずに済んだのに・・・」
「そんな・・ライムちゃんは悪くないですよ・・・」
「ううん・・ホントにだらしがないよ、あたし・・友達1人守れないなんて・・・こんな恥ずかしい格好にされて・・・」
弁解するアイミだが、ライムは自分を責める。締めつけられるような気分に駆られて、ライムが必死にアイミを抱き寄せる。
「あたしも自由が利かなくて・・アイミちゃんの裸を隠すこともできない・・・もう、このくらいしかできない・・・!」
突然、ライムがアイミに顔を近づけ、口づけを交わしてきた。突然のことに、アイミの動揺が一気に膨らんだ。
パキッ ピキッ
石化が2人の手足の先まで及び、首元や頬、髪を固めてきた。体を完全に動かせなくなり、アイミとライムは互いを見つめ合っていた。
(そんな・・魔石をひとつも回収できずに、こんなことになるなんて・・・)
(ゴメン、ブーちゃん・・ホントはブーちゃんとキスしたかったよ・・・ゴメン・・・)
絶望感にさいなまれていくアイミとライム。
「ヒッヒッヒッヒ、ヒッヒッヒッヒ・・」
どうすることもできず抱き合って立ち尽くすだけの2人に向けて、クラインが哄笑を上げていた。
ピキッ パキッ
唇さえも石に変わり、唇を離すこともできなくなったアイミとライム。2人の目には涙があふれてきていた。
フッ
その瞳にもヒビが入り、あふれていた涙が石の頬を伝って流れ落ちていく。アイミとライムは完全に石化に包まれた。
「本当にいいぞ!一気に2人もコレクションに加わった!」
喜びを抑えきれなくなるクライン。物言わぬ石像と化して微動だにしなくなったアイミとライムを、彼は様々な方向から見回していく。
「2人同時にオブジェにして、そろって私に従うこととなった・・今夜は一段と喜ばしい・・・」
感嘆するクラインが、アイミとライムを移動させて、同じく石化した美女たちの中に紛れ込ませた。
「こうして一緒に抱きしめ合っていられるのだ。それも美しい姿で・・これ以上の喜びはないだろう・・」
永遠の抱擁をしているアイミとライムを、クラインがあざ笑ってくる。
「だがまだだ・・まだ世の中には女がたくさんいる・・特にグレイシティには、あのシャドウレディとスパークガールがいるし・・・」
クラインが笑みを消して、女の支配への欲望を膨らませていく。だが彼はすぐに笑みを取り戻した。
「だが今の私ならそれも可能だ。あの宝石の力で、私は最高の力を手に入れた・・シャドウレディも、私に屈することになる・・・!」
欲望に駆り立てられて、クラインが哄笑を上げる。彼は次の標的に備えて、部屋を後にした。
だがクラインは気付いていなかった。自分が既にその怪盗と、正義の稲光を手中に収めていることを。
それからも、クラインの手によって数多くの美女が石化され、コレクションしていった。同時にシャドウレディとスパークガールは、突如として姿を見せなくなった。
その正体であるアイミとライムは、クラインの邸宅の部屋の中で立ち尽くしていた。一糸まとわぬ姿で、全てをさらけ出した姿で、2人は互いを抱擁したまま終わりのない時間を過ごしていくこととなった。
クラインの手の中の、美しいオブジェとして。