スーパーロボット大戦CROSS

第78話「新しい未来へ」

 

 

 カナタとラブ、カンナはシンたちの前に戻らなかった。収縮された空間の歪みから脱出した様子は見られなかった。
 シンたちは疲弊した体を動かして、戦場とその周辺を捜索した。しかしカナタたちの姿もイザナギの機影も見つけられなかった。
 シンたちの過労を危惧して、タリアは1度彼らをミネルバとオルペウスに戻した。
 翌日も改めて捜索したが、カナタたちを見つけることができなかった。

 カナタたちもその手掛かりも見つけられないまま、クロスは武蔵野に戻ってきた。
「カナタもラブも、どこへ行ったって言うのよ・・・!」
 アンジュがカナタたちに対する不満を募らせる。
「あの2人のことだから、どっかでラブラブしてるんじゃねぇか?」
「いくらなんでも、全然連絡しないでそれはないでしょう・・」
 孝一が口にした言葉に、霧子が注意を口にする。
「今もレーダーで捜索を続けているけど、見つけることができない・・・」
「平行世界は無限にある・・その中の1つに絞るのも大変だよ・・・」
 シンが捜索のことを伝えて、海潮が落ち込む。
「世界各国は自国の立て直しで精一杯で、他の国にまで手が回らないみたいよ・・」
「プラントも連合軍の攻撃の被害からの復旧にかかりっきりだし、ザフトもデスティニープランの件でまだ落ち着きを取り戻していない・・」
 恭子とルナマリアが各地の状況を説明する。
「カナタたちは、私たちで捜さないといけないのね・・」
「最後の最後で、私たちにここまで迷惑を掛けるなんて・・・」
 魅波が苦言を呈して、夕姫が不満を浮かべる。
「私たちのいる地球にも来ていません。もう思い当たる場所はないです・・」
 サラマンディーネも言って、深刻な面持ちを浮かべる。
「カナタ、ラブ・・せめて、連絡をしてくれ・・どこにいるかを、教えてくれ・・・!」
 シンがカナタたちに向かって声を振り絞る。アンジュたちもカナタたちのことを考えて、気持ちが晴れなかった。

 カナタたちが行方不明になってから、1週間が経った。
 シンたちはミネルバで1度ミネルバに戻り、プラント最高評議会にこれまでの戦いについて報告をした。
 デスティニープラン導入の際には、ギルバートと反目することになったタリアたちだが、ザフトの在籍とフェイスの称号は剥奪されることはなかった。
 その後、シンたちはプラント復興に協力した。ザフトの総力での復興を続けたことで、プラントは落ち着きを取り戻しつつあった。
 それからタリアはアンジュたちと連絡を取り合い、シンたちと共に1度地球へ向かうことになった。

 アンジュはタスク、サリアたちと共に武蔵野に喫茶店を開店した。島原家やバロウ王国から支援を受けて、海潮たちも手伝いに来ることもある。
「アンジュ、店員なんだからもうちょっと笑顔を見せなくちゃ。お店の評判が落ちるよ・・」
「これでも全力の笑顔でやってるんだから・・」
 海潮が注意すると、アンジュがため息混じりに言い返す。
「顔は笑っていても目が笑ってなくて、客がビビっちまってるなぁ・・」
「うるさいわよ。私はノーマなのだから・・」
 ヒルダがからかってきて、アンジュが不満を口にする。
「では私が笑顔のお手本をお見せしますね、アンジュリーゼ様♪」
 モモカがアンジュに声を掛けて、心からの笑顔を見せた。
「モモカ、あなたも意地悪になったわね・・・」
 彼女にからかわれていると思い、アンジュが肩を落とす。
「こんにちは、みなさん。」
 恭子が来店して、アンジュたちに声を掛けてきた。
「おほー♪ウェイトレスがより取り見取りー♪」
 孝一も来て、アンジュたちのウェイトレスの制服を見て目を輝かせる。
「ここは喫茶店です。そういう冷やかしをするならお帰りください。」
 アンジュが孝一を睨みつけるが、孝一は有頂天になっていて笑顔を絶やさない。
「今日は1日貸し切り状態ですね。私たちのためにわざわざすみません。」
「1週間ぶりにみんな勢ぞろいだね。」
 霧子が謝意を見せて、将馬が喜ぶ。
「連絡を取り合ってこの日に集まると約束したからね。それに合わせて準備してきたし。」
「もうすぐミネルバがこっちに来ることになっているし。」
 タスクが話に加わり、魅波がタリアたちのことを考える。
「でも、カナタもラブもまだ見つかっていない・・・」
「早く戻って来いって・・そうじゃねぇとパーティーが盛り上がんねぇだろうが・・・!」
 海潮が悲しい顔を浮かべて、孝一がカナタたちに対して不満を感じていく。
「ところで、ペンギンロボに乗っていた2人はどうしたのよ?」
 アンジュがリカンツとアムダのことを聞く。
「あの2人はペンギン帝国に帰りましたよ。」
「ペンギン帝国、いつか必ず日本を住処にするって言ってたな・・ま、そのときは、オレたちがまた相手になってやるぜ!」
 霧子が答えて、孝一がリカンツたちの挑戦を真っ向から迎え撃つと考えて張り切る。
「そしてこうしている間にも、タオがランガを倒そうと狙っています。」
 サラマンディーネも話に加わってきた。彼女も店のウェイトレスの格好をしていた。
「ううぉー♪またまたウェイトレスが来たー♪」
 孝一が彼女を見て興奮する。
「サ、サササ、サラマンディーネ様・・・!」
 ナーガがサラマンディーネの格好に、動揺を隠せなくなっている。
「店員という仕事も楽しいものですね。」
「そ、そのようなことをお考えになるなんて・・・」
 ウェイトレスの仕事に興味津々になっているサラマンディーネに、ナーガが参って肩を落とす。
「まぁいいじゃない、ナーガ。ミネルバへのサプライズになるかもしれないと思っているみたいだし。」
 カナメがサラマンディーネを見守って、微笑んでナーガに言った。
 そのとき、店内にある通信機が鳴って、タスクが応答した。店としての連絡用とは別の、クロス専用の通信機である。
「グラディス艦長、お久しぶりです。」
“今、到着したわ、タスクくん。私とアーサー、数人のクルーはミネルバに残るけど、シンたちはそちらに向かうわ。”
 挨拶するタスクに、タリアが現状を伝える。
「分かりました。詳しい話はシンたちから聞きますね。」
 タスクが答えて、連絡を終えた。
「シンたちも来たか!これで9割盛り上がれるな!」
「さぁ、こっちも準備を一気に進めるわよ。」
 孝一が喜び、アンジュが指示を出す。彼らはパーティーの支度を整えていった。

 隼人たちが運転する車に乗って、シンたちはアンジュたちのところへ向かっていた。
「すみません、鉄さん。オレたちをみんなのところに連れてってくれて・・」
「オレたちも丁度行くつもりだったんだ。一緒に行けてよかったよ。」
 シンが感謝して、隼人が気さくに答える。
「プラントの復興を続ける間も、こちらでもカナタたちの捜索を続けていました。しかし未だに発見には至っていません。」
「そうか・・みんなも2人を見つけられなくて参っていたぞ・・」
 レイがカナタとラブのことを話して、隼人がため息をつく。
 彼らの乗る車と一緒に走る車には、ルナマリアとステラ、運転するエリナがいた。彼女たちもシンたちと同じ話題をしていた。
「すみません・・2人を見つけ出せなくて・・・」
「謝らないで。私たちも見つけられなくて悔しいと思っているんだから・・」
 ルナマリアが頭を下げて、エリナが励ます。
「2人とも、しんだんじゃないよね・・・?」
「そんなわけないわ・・カナタもラブも諦めていなかった・・どこかで必ず生きているはずよ・・・」
 ステラが心配して、ルナマリアがカナタたちへの信頼を口にする。
「それは私たちもみんなも同じ気持ちよ。だからこそ信じて待ちながら、今まで通りの生活をしていくのよ。」
「今まで通りの・・・私たちも、それに向かって力を尽くしている・・・」
 エリナの言葉を聞いて、ルナマリアが戸惑いを覚える。
「ステラの、いままでどおりのせいかつ・・・」
 ステラが自分のこれからのことを考える。戦うために育成された彼女は、普通の人の日常というものを実感できていない。
「ステラはこれから、みんなと一緒に生きることを考えればいいのよ。戦いで感じることができなかった分も含めて・・」
「みんなといっしょに・・ステラは、いきる・・・」
 ルナマリアに励まされて、ステラが戸惑いを感じていく。
「プラントか地球か、どこに暮らすかはこれから決めるけど、私、ステラ、シン、レイ、みんな一緒よ。」
「みんな、いっしょ・・ステラも、いっしょ・・・」
 ルナマリアから元気づけられて、ステラが笑顔を浮かべた。
「みんな、幸せに向かっているわね。」
 2人の会話を聞いて、エリナも喜んでいた。

 隼人たちの運転する車が喫茶店に到着した。
「シン、おめぇらも来たか!」
「遅いわよ。こっちはとっくに準備を済ませて待っていたのよ。」
 孝一が気さくに声を掛けて、アンジュが悪ぶった素振りを見せる。
「店の服を着ても相変わらずだな・・」
 シンがアンジュの態度に呆れて、タスクが苦笑いを見せた。
「プラントは落ち着きを取り戻してきているけど、復興までまだ時間がかかるわ・・」
 ルナマリアが表情を曇らせて、プラントの現状を話す。
「地球でのランガ反対のデモは鎮静化したわ。それでも前のようにランガを信じてくれる人がいるとは思えないわね・・」
「穏やかにはなったけど、前よりは不安な感じがしているし、いつまた戦うことになるか分からない状態でもあるわね・・」
 魅波が武蔵野や日本、地球の状況を話して、エルシャが続ける。
「平和にはなったけど、何だか落ち着かないもんだなぁ・・」
「平和ボケするよりはマシと思うしかないわね・・」
 ヒルダが肩を落とすと、夕姫がため息混じりに言う。シンたちも完全に楽な気分になってはならないと、それぞれ自分に言い聞かせた。
「ミスルギ皇国は壊滅したけど、シルヴィアを筆頭にして立て直しているわ。オーブは政府が壊滅して、機能がストップしているけど・・」
「ジェネシスの攻撃を止めきれず、致命傷を受けたのか・・それでも市街地は守ったようだが・・」
 アンジュがミスルギ皇国のことを、レイがオーブのことを語っていく。
「オレ、オーブが許せなかった・・綺麗事ばかりで身勝手で、連合軍やキラたちの味方になるし・・・だけど、オレが軍人になる前に住んでた場所なのも確かなんだよな・・・」
 シンが複雑な気分を感じて表情を曇らせる。彼はオーブを憎み切ることも、オーブが痛手を被って喜ぶこともできなかった。
「私はミスルギ皇国には未練はないわ。それに過ぎたことをいつまでも気にしてたってしょうがないわよ。」
「それはそうだけど・・アンジュみたいに簡単には割り切れないんだよ、オレは・・」
 アンジュが悪態をつくが、シンは思い詰めているままである。
「私たちは性格も考え方も違う・・割り切っても、抱え込んだままでもいいと思う・・」
「その通りだ!オレはあくまでオレだからな!」
 海潮と孝一が自分の考えをシンに伝える。
「みんな・・・そうだな・・オレは自分で、オレの生き方を決めたんだ・・・」
 シンが励まされて、今までの自分の人生と戦いを思い返していく。
「私たちも来て、パーティーの参加者は大体揃ったわね・・」
「後は、カナタとラブだけですね・・・」
 ルナマリアが言いかけて、霧子が思い詰める。
「無事なら早く戻ってこい・・オレたちを怒らせるんじゃないよ・・・!」
 シンがカナタたちへの不満を募らせて、そばの椅子に腰を下ろした。

 次元の歪みに巻き込まれて、シンたちの前から姿を消したカナタとラブ。2人の乗るイザナギは次元の狭間を漂っていた。
「力が入らない・・・イザナギを全然動かせない・・・」
「次元の力が出ない・・・みんなのところに帰れないよ・・・」
 カナタもラブも動けず、弱々しく呟く。
「戻らないといけないのに・・・この肝心なときに・・・」
「もう、消えてなくなっちゃったっていうの・・・?」
 次元の力を欲して、カナタとラブが体を動かそうとする。
「オレたち、ゼロス博士の実験に付き合ったことで、いろんなことを体験したな・・・」
「世界が交わって、シンたちと出会って、一緒に戦って・・・」
「世界が合わさって、危機が一気に強まったけど・・」
「みんなと力を合わせて乗り越えてきた・・・」
「そのみんなを心配させたまま、終わりたくない・・・」
「私たちの力がまだ残っているなら、今出てきて・・私たちは、こんなところでじっとしているわけにいかないの・・・」
 弱々しくも声を振り絞るカナタとラブ。2人は次第に寄り添い合い、顔を近づけつつあった。
「私たち、好きになっちゃったね・・・」
「オレたち、感情に任せて、裸の付き合いをしたな・・・」
「また、カナタと一緒の時間を過ごしたい・・安心してあなたといたい・・・」
「あぁ・・ただ、みんなの見てないところでな・・・」
 ラブとカナタが会話を弾ませて笑みをこぼす。
「帰りたい・・帰りたい理由がたくさんある・・・」
「あぁ・・絶対に帰るんだ・・みんなのところに・・オレたちの世界に・・・」
 2人は想いを募らせて、互いの唇を重ねた。そのとき、2人の体から光があふれ出した。
(これは・・・!)
(私たちの力・・次元の力が、また出てきた・・・!)
 力が戻ったと思い、カナタとラブが戸惑いを覚える。2人は体を動かして、口付けをしたまま抱擁した。
 安らぎと希望を感じたカナタとラブが意識を集中する。2人の光が強まり、イザナギからあふれ出した。
(オレたちの世界へ・・シンたちのいる世界へ帰るんだ・・・!)
 カナタが感覚を研ぎ澄ませて、シンたちの居場所を探っていく。
(みんな、パーティーをするって言っていた・・きっとどこかに集まっているはず・・・!)
(みんないるなら、感じ取るのは難しくないはず・・だから、絶対に見つけてみせる・・・!)
 2人は感覚を研ぎ澄ませて、自分たちの世界を捉えた。
「動く・・体が動くよ・・・!」
 ラブが思うように動けることを実感する。カナタも彼女から唇を離して、微笑んで頷いた。
「これで、イザナギを動かせる・・・!」
 カナタが笑みをこぼして、イザナギの操縦桿を握った。
「ディメンションブレイカーで、一気に外へ出る・・行き先はもう分かっている・・!」
 カナタが言って、ラブが頷く。イザナギがディメンションブレイカーを起動して、エネルギーをチャージする。
「ディメンションブレイカー!」
 カナタとラブが同時に叫び、イザナギがディメンションブレイカーを発射した。放たれた光が前方の空間を歪ませて、次元のトンネルを作り出した。
「行こう、ラブ!」
「うん、カナタ!」
 2人が声を掛けて、イザナギが次元のトンネルに飛び込んだ。
(カンナ、オレたちは行くよ・・お前もいつか必ず帰ってこい・・人の心を取り戻して・・・)
(さようなら、お姉ちゃん・・・)
 行方不明になっているカンナに別れを告げるカナタとラブ。カンナへの思いを抱えたままの2人を乗せたイザナギが、次元の狭間を去っていった。

 カナタたちが去っていくのを、ザクに乗ったカンナが見送っていた。
(私はそっちには行かない・・他の世界へ行って、強くなってから戻るわ・・・)
 カナタとラブに向けて心の中で告げるカンナ。
(私は私のやり方でここを出る・・そしてイザナミやイザナギ以上の力を手に入れてみせる・・・)
 自分だけの生き方、カナタに勝つという目的を胸に秘めて、カンナはザクから出た。
「私にもあなたたちと同じ力がある・・私も自力で世界を渡っていける・・・」
 今の自分に新しい自信を抱いて、カンナは意識を傾けた。彼女からあふれた光が、別のトンネルを作り出した。
「私が戻るまで、死んだら許さないからね・・・」
 カナタに向けて言って、カンナは光のトンネルに飛び込んだ。

 パーティーの準備を終えて、シンたちはカナタとラブの帰りを待った。
「ホントに・・2人は帰ってこないのかよ・・・!?」
 シンが憤りを感じて、諦めかけていた。
「もういいわ・・いつまでも待っていたら、料理が冷めてしまうわ・・」
 アンジュが肩を落として、作った料理を運ぶことを決めた。
 そのとき、突然揺れが起こり、シンたちが身構えた。強い揺れだったが、すぐに治まった。
「な、何だ!?」
「近くで何かあったの・・!?」
 孝一と霧子が驚いて、シンたちと共に外へ出た。
「みんな、空間に穴が開いているよ!」
 海潮が空にできた空間の歪みを指さした。次元のトンネルが開かれ、中からイザナギが現れた。
「イザナギ!」
「カナタ!ラブ!」
 サラマンディーネとシンがイザナギを見て声を上げる。イザナギが体勢を崩して、喫茶店の近くにある空き地に墜落した。
「おい!2人とも無事か!?」
 孝一がシンたちと一緒にイザナギに駆け寄る。
「カナタ、ラブ、返事をして!中にいるんだよね!?」
 海潮が呼びかけて、ランガもイザナギに近づいた。
「みんなの・・みんなの声が聞こえる・・・」
「みんな・・・イザナギのそばにいるのか・・・?」
 イザナギの中からラブとカナタの声が響いた。
「カナタ!ラブ!」
「2人とも無事なのね!?出られる!?」
 シンが笑みを浮かべて、海潮が問いかける。
「あぁ・・オレたちは無事だ・・イザナギも問題ない・・」
 カナタが答えて、シンたちが安心する。
「ハッチを開ける。少し離れてくれ・・」
 カナタが呼びかけて、シンたちとランガが離れた。イザナギのハッチが開いて、カナタとラブが外に出てきた。
「みんな・・ただいま・・・」
「ラブ・・ラブ!」
 微笑むラブに、海潮と霧子が駆け寄って抱きついた。
「2人とも、帰ってきたんだね・・・!」
「絶対に帰ってくるって、ずっと信じてたんだから・・・!」
 霧子と海潮が喜んで、目から涙をあふれさせていた。
「みんな・・・心配かけてゴメンね・・信じてくれて、ありがとう・・・!」
 ラブも再会を喜んで、大粒の涙をこぼした。
「今までどこで何をしてたんだよ!?・・ずっと捜してたんだぞ・・!」
 シンがカナタに向かって不満をぶつける。
「すまない、みんな・・ゼロス博士との戦いから、どのくらい経ったんだ・・・?」
「あれから1週間ですね。地球もプラントも復興や安息に向けて動いているわ。」
 謝るカナタの疑問に、サラマンディーネが答える。
「そんなに、オレたちは空間を流れていたのか・・・」
 カナタが記憶を呼び起こそうとしながら呟く。
「本当に戻ってくるのが遅いわよ、アンタたち・・もうちょっと遅かったら、私たちだけでパーティーをやるところだったわ・・」
「パーティー・・・みんな、悪かったよ・・ここまで心配かけて・・・」
 アンジュが悪ぶった素振りを見せると、カナタが落ち込む。
「何はともあれ、2人とも帰ってきてよかったぜ!」
「おかえり、カナタ、ラブ!みんな待っていたよ!」
 孝一が喜び、海潮が笑顔で挨拶した。
「うん・・ただいま、みんな!」
 カナタがラブと顔を見合わせてから、シンたちに答えた。
「2人も帰ってきたし、パーティーを始めようか。」
「ワーイ♪パーティー♪」
 タスクが声を掛けて、ヴィヴィアンが大喜びする。
「休息をとるのは、みんなに付き合った後だな・・」
「まずは心の回復だね。エヘヘ・・」
 カナタが苦笑いを浮かべて、ラブが照れ笑いを見せた。

 喫茶店に用意された料理を、カナタとラブ、シンたちは堪能した。彼らはこの1週間の出来事を中心に、話を弾ませていった。
「結局、愛野カンナは戻らなかったのですね・・」
「はい・・カナタに勝つことしか頭になくて、前よりも強くなって戻ってくるみたい・・・」
 サラマンディーネがカンナのことを聞いて、ラブが悲しい顔を浮かべる。
「どんな形でも、ラブのお姉ちゃんは生きていて、必ず帰るって言ってるんだから・・」
「家族とか仲間とかじゃなくて、敵のままだけどね・・・」
 海潮がラブを励ますと、夕姫が皮肉を言う。
「お姉ちゃんはきっと分かってくれる。私たちの気持ちを・・そして人の心を取り戻すよ・・・」
 ラブがカンナを信じて微笑んだ。
「それと1つ、お姉ちゃんと再会したら言うことがあるの・・・」
 ラブが話を切り出して、カナタと目を合わせる。
「私たち、結ばれたから・・・」
「え・・・えーっ!?」
 ラブが打ち明けたことを聞いて、孝一、霧子、将馬、タスク、ロザリーが驚きの声を上げた。
「む、結ばれたって・・2人とも、やってしまったってこと・・・!?」
 タスクが動揺しながら言いかけて、とっさに自分の口を手で押さえた。
「わ、私たちよりも先に行ってしまうなんて・・・!」
「霧子ちゃん、僕たちもいつか、その領域に・・・!」
 霧子が動揺を膨らませて、将馬が慌てた様子で呼びかける。
「あなたたち、やっぱり私たちのいないところでいちゃついてたのね・・」
「いくら何でもそれは無責任すぎるって思うよ・・」
 呆れ果てるアンジュに、ラブが反論する。
「力を使い果たしてしまったのか、全然動けなかったんだ・・あのまま、次元の狭間をさまようだけじゃないかって、不安も感じていた・・・」
「それじゃあれから飲まず食わずだったっていうのかよ・・・!?」
 カナタが深刻な面持ちで語って、ヒルダが息を呑む。
「でも、何とか力が戻って、こっちに出てこれたよ・・・」
「そうだったのね・・2人とも無事で、ホントによかったわ・・」
 カナタが話を続けて、ルナマリアが安心する。
「だけど、カンナは行方不明だ・・オレたちをまた狙ってくると思う・・・」
 カナタがカンナのことを考えて、彼女との戦いがいつか起こると予感していた。
「そうなったら、今度は私たちも一緒になってアイツの目を覚まさせてやるわ。」
「たとえどんな力を手に入れても、どんな仲間を連れてきてもな!」
 アンジュと孝一がカンナを迎え撃つ意思を見せる。
「でもその前に、今日はみんなで盛り上がろうか。」
「そうね。今日ぐらいは羽を伸ばすということで。」
 タスクが呼びかけて、魅波が気持ちを切り替える。テーブルに料理がどんどん運ばれていく。
「それじゃみんなー!戻ってきた仲間と自由の平和に、乾杯だー!」
「かんぱーい!」
 孝一が音頭を取って、カナタたちと乾杯をした。彼らは料理に舌鼓を打ち、会話を弾ませ、安らぎを分かち合っていた。
 みんなと一緒にいられる幸せを、カナタとラブは強く感じていた。
 カンナは戻らず、ゼロスやタマキは亡くなったが、シンたち多くの仲間がいる。たとえそれぞれの道を進むことになっても、そのつながりは消えない。
 世界を超えた絆が自分たちを支えていると、カナタもラブも思っていた。

 パーティーを終えて、カナタとラブはオルペウスの私室にいた。裸になっている2人は、ベッドで抱きしめ合っていた。
「無事に帰れてホントによかった・・オレたち、この世界で生きているんだな・・・」
「うん・・パーティーは楽しかったし、今もこうして、カナタと一緒にいる・・・」
 今日のことを話して、カナタとラブが微笑む。
「結局、お姉ちゃんに今のことは話せなかったね・・」
「カンナはオレを倒すことだけを考えているからな・・このことを聞いても驚かないかもしれない・・・」
 ラブとカナタがカンナのことを気にして、苦笑いを見せる。
「もしも私たちの間で子供が生まれたら・・・」
「そのときはその子のために生きるよ。そのときに戦いが起こっていたら、子供に戦いはさせない。オレが戦う・・カンナとも・・・」
「カナタ・・それなら私も一緒に・・・」
「オレが戦っている間に、オレたちの子供をそばにいて守る。ラブにはそうしてほしいんだ・・」
 将来のことを考えながら、それぞれの考えを口にするラブとカナタ。
「必ず生きて、ラブたちのところへ戻る・・どんなことがあっても、絶対にだ・・・」
「カナタ・・絶対に帰ってきてね。私たちのところへ・・・」
 カナタが決意を口にして、ラブが信じた。
「世界が違っていても、離れていても、必ずつながっている。それはオレたちも同じだ・・」
「うん・・私たちは、いつでもどこでも一緒だよ・・・」
 2人が気持ちを分かち合い、抱擁して唇を重ねた。
 違う世界にいても、つながりが途切れることはない。自分たちもみんなも一緒だと、カナタとラブは確信していた。

 一夜が過ぎて、カナタたちはそれぞれの人生を歩むため、別れることになった。
 シンたちはミネルバでプラントに戻り、復興と和平交渉への協力に尽力した。
 ランガを懸念する風潮は残っていたが、武蔵野銀座はあたたかく迎えていた。海潮たちはランガと共に武蔵野での日常を送っていた。
 アンジュたちはその武蔵野で開いた喫茶店を続け、海潮たちや武蔵野の住人と交流を深めていた。悪ふざけをする人が来ることもあったが、アンジュやヒルダたちに撃退されていった。
 プリンスはペンギン帝国との戦いに1つの区切りが付いて、表向きの美容室での仕事に戻った。
 孝一は女子に対してハレンチを続けていて、恭子は呆れていた。
 霧子と将馬は休息の中で、2人だけの時間を過ごして愛を分かち合っていた。
 そしてカナタとラブはイザナギを乗せたオルペウスで世界を渡っていた。
「ラブ、運転は交代でやるってことになったけど、君は大丈夫か?」
「うん。きっともう少ししたら、カナタにお世話になりっぱなしになってしまうから、今だけでもやれるだけのことはやりたいから・・」
 気遣うカナタに、ラブが正直な気持ちを口にする。
「ありがとう、ラブ。でもちょっとでも疲れたとかになったら言って。すぐに後退するから。」
「うん、カナタ。」
 礼を言うカナタに、ラブが頷いた。
「みんな、それぞれの平和と時間を過ごしているんだね・・」
「うん・・オレたちも、オレたちの時間を生きる・・」
 ラブがシンたちのことを考えて、カナタが自分たちの決意を口にする。
「そして、あのパーティーの日みたいに、みんなまた集まる・・」
「そのときに、新しいオレたちを見せることになるな・・」
「話したいこともたくさんできているはず。」
「その話題を増やすために、いろんなところへ行って、たくさんのことを学ぼう。」
 シンたちとの再会を願って、ラブとカナタがこれからのことを話して、期待を膨らませた。笑顔を見せ合う2人を乗せて、オルペウスは飛行を続けていた。


戦いのない世界のために戦う運命を、自ら背負った少年。
不自由さを感じながらも、日常という楽園に身を置く姉妹。
操作された偽りの世界を壊し、新たな人生を進む少女たち。
エロを極めた男女と、愛を深めて強さとした男女。
次元と空間、その力に翻弄されながらも、自分たちの平穏と愛、世界のために戦った男女。

1つになったままの世界の中で、戦士たちは生きていく。
クロスとして、再び再会する時を心に留めて。

 

 

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