魔法少女リリカルなのはSchlüssel
final step「lyrical step」
魔女の完全な消滅により、世界を侵食していた闇が取り払われた。その影響における人々の石化も解かれた。
「あれ・・私たち・・・」
石化から解放されたすずかたちも当惑を見せていた。
「これで・・・もうっ!何がどうなってるのよー!」
疑問が膨らむあまり、アリサが地団太を踏む。大河は状況が把握できず、眼を回していた。
その傍らの窓辺では、海、陸、奈々、紅葉が次第に闇が晴れていく空を見つめていた。
「仁美ちゃん、やったんだね・・・」
「ユウキもやったんだよな・・・」
奈々と海が言いかけると、陸と紅葉も無言で頷いた。彼らはユウキと仁美の無事を悟っていた。
ヘクセスを倒し、異空間を脱出したなのはたち。アースラ、ミーティアに乗艦した彼女たちは、そのまま時空管理局本局に戻ってきていた。
ユーノ、ジャンヌ、シャマル、そして管理局の医務班の治癒や介抱を受けていたなのはたちの心に落ち着きはなかった。全てが終わったことへの喜びと安堵と同時に、大切なものを失った悲しみと虚無感を感じていた。
ユウキと仁美が助けようとしていた庵を、なのはたちは助けることができなかった。なぜ助けられなかったのだろうかと、心の中で後悔の念が押し寄せることもあった。
「大丈夫、なのは?」
「うん・・ありがとう、ユーノくん・・」
魔法による治療を終えたユーノに、なのはが微笑んで感謝する。しかしすぐに沈痛な面持ちを見せる。
「私にもっと力があったら、庵さんを助けられたかもしれなかった・・・」
「なのはちゃんのせいじゃないよ・・悪いのは、お兄ちゃんと、私・・・」
後悔を口にするなのはに、仁美が弁解を入れる。悲しみに暮れる医務室の中、その沈黙を破ったのはフォルファだった。
「みんな自分を責めるな。君たちの力で、魔女を退けることができたんだ・・」
フォルファの言葉を聞いて、なのはたちが何とか笑みを作る。
その医務室に、オレンジの髪の青年と、髭を生やした中年の男が入ってきた。2人の入室にエイミィが立ち上がる。
「ハイネ、ヴォルス提督。」
「久しぶりだね、エイミィくん。君たちにはいろいろ迷惑をかけてしまったようだ・・」
エイミィが敬礼を送ると、ヴォルスは沈痛の面持ちで謝罪の言葉をかける。
彼の顔を見た仁美が眼を見開く。
「お、お父さん・・・!?」
「えっ・・!?」
仁美が口にした言葉になのはたちが驚き、ヴォルスに眼を向ける。
「仁美さん、お父さんって・・・!?」
フェイトが声をかけると、仁美は真剣な面持ちで頷く。
「間違いない・・私のお父さんでしょ・・・!?」
仁美がヴォルスに詰め寄って問いかける。沈痛の面持ちを崩さずに、ヴォルスは小さく頷いた。
「仁美、お前や庵、ユウキくんには本当にすまないと思っている。」
「お父さん・・・」
父親の姿を確信して、仁美が悲痛さを見せる。
「私は探検家として、三種の神器の調査を独自に行っていた。だが私は探検家であると同時に、ミーティア艦長、ヴォルス・バウンスでもあったのだ。」
「バウンス・・どういうことなの・・・!?」
困惑する仁美に、蓮は続ける。
「ヴォルス・バウンスは、お前の母さんと結婚する以前の私の名だ。それから私は京野蓮として、お前と庵の父親として生活していくことを決めたんだ。もちろん母さんは、私が管理局の人間であることを知っていた。それでいて、母さんはお前たちに私のことを明かさないでいてくれた・・私は母さんに感謝していた。同時にすまないとも思っていたよ・・」
「父さん・・・」
蓮の心境を知った仁美がたまらずすがりつく。涙する娘を、蓮は優しく抱きとめていた。
そこへクロノが医務室に入ってきた。蓮の姿に一瞬戸惑いを見せるも、クロノはすぐに真剣な面持ちに戻る。
「ヴォルス提督、いや、蓮さんのことは僕も知っていたんだ。でもユウキや仁美に内密にしていると聞かされていたので、あえて問い詰めなかったんだ・・」
クロノがなのはたちに言いかける。蓮は自分が管理局の人間であることを庵や仁美には内密にしていた。彼の妻、庵と仁美の母親とクロノ、リンディには明かさないでほしいと念を押していた。
「私が追っていたのは三種の神器に関する情報だった。特務隊を指揮とあわせて、私は1人の探検家としてその情報を細大漏らさず集めた。だが私個人のことで家族を巻き込みたくないと思っていた。」
「父さん・・・」
「仁美、お前にはかえって迷惑をかけてしまった・・本当にすまなかった・・」
蓮が仁美やなのはたちに謝罪の言葉をかける。だが仁美は微笑んで、首を横に振った。
「もういいよ・・私も十分、みんなに迷惑をかけちゃったから・・・」
娘の心境を聞いて、蓮の瞳を閉じた。小さく頷いてから、クロノが話を切り出した。
「今回のユウキと仁美の行動は、世界を混乱させかねない重罪に当たるものだ。だけどそれは親友や家族のためにしたこと。魔女を退け、最後には世界の混乱を防ぐために全力を注いでくれたことを考慮すれば、保護観察にとどまる可能性は十分にある。」
「ホントですん?よかったですね、仁美さん。」
はやてが仁美に安堵の言葉をかける。
「本当なら喜ぶところなんだけど、いろいろあって・・・」
しかし仁美は物悲しい笑みを浮かべていた。兄、庵を失った悲しみに、彼女の心は重く沈んでいたのだ。
「それと他にも問題があるんだ。」
「問題って?」
クロノが口にした言葉にライムが聞き返す。
「ユウキにもこのことは明確にしておいた。だけど・・」
「だけど何?」
言いかけて口ごもるクロノに、ライムが再び聞き返す。気持ちを落ち着けてから、クロノは再び口を開いた。
「彼は、保護観察を受けることを頑なに拒んでいるんだ・・」
「そんな・・・!?」
クロノの言葉になのはが動揺する。同時に医務室の空気が悲痛さに包まれた。
その頃、ユウキは別室にて、リンディとの話し合いを行っていた。リンディから今回の事件の詳細と、その中での言動からの罪と、それに対する保護観察について聞かされていた。
罪が軽減されることになる保護観察であるのだが、ユウキはその処分を受け入れられないでいた。
ユウキは今回自分がしてきたことを許せないでいた。庵を助けるため、仁美やなのはたちを守るため、彼は罪や禁忌を犯した。たとえ罪人となろうと、彼は大切なものを守りたいと思ったのだ。
だがその先にあったのは、親友と思っていた人との決別と、永遠の別れだった。彼の心には悲しみと罪の意識と、どうしようもない虚無感だけが漂っていた。
何も守ることもできず、何も得ることができず、周りに迷惑ばかりをかけてしまった。ユウキはそんな自分が許せずにいた。
「ユウキさん、あなたの気持ちは分かります。罪を犯し、みんなを傷つけてしまった自分が、許せなくて仕方がないのだと・・でもそれは、庵さんや仁美さん、なのはさんやはやてさん、大切な人たちのためを思ってやったこと・・」
リンディが沈痛の面持ちを浮かべているユウキに弁解を入れる。
「時空管理局は、そんなあなたの気持ちを無碍にするような非情な集団ではない。それにあなたと仁美さんは、魔女撃退のために私たちに力を貸してくれた。あなたたちに保護観察が適用される可能性は十分あります。どうか、仁美さんやなのはさんたちのためにも・・」
「リンディさんやみなさんの心遣い、本当に感謝しています。ですが、それでもオレはオレを許せないんです・・・」
しかしユウキは自分の中にある気持ちと後悔を消すことができなかった。
「たとえあなたたちや法律、神様が許してくれたとしても、オレは自分を許せない。もしも自分をこのまま許したら、父さんの死が犬死になってしまう・・」
「大丈夫です。あなたの父、悠二さんも、あなたを許してくれますよ。」
「・・でもダメです。オレがここでオレを許したら、父さんや庵が浮かばれなくなる・・・」
あくまで罪の償いをしようとしているユウキに対し、リンディはわだかまりを胸に秘めたまま席を立つ。
「少し休憩にしましょう。私は仁美さんと話をしてくるから・・」
「あ、リンディさん、お願いがあるんですが・・・」
部屋を出ようとするリンディをユウキが呼び止める。
「なのはちゃんたちに、オレに会わないように言ってくれませんか・・・?」
「ユウキくん・・・」
ユウキの申し出にリンディが沈痛の面持ちを見せる。
「こんなことになって、なのはちゃんたちに会わせる顔がないですよ・・・」
沈痛さをあらわにするユウキ。するとリンディは微笑みかけてユウキに弁解する。
「ユウキさん、あなたはなのはさんたちを信じているのでしょう?」
「えっ?あ、はい・・」
「なら、すぐにでも会って、なのはさんや仁美さんのそばにいるべきでしょう?」
「・・だからこそ、今は会えないんです・・・」
頑なになのはとの面会を拒絶するユウキ。これ以上言葉をかけることができず、リンディはひとまず部屋を出た。
その頃、困惑を抱えていたなのはたちは、蓮とハイネに導かれて別の大部屋に移動してきていた。ハイネが小さなエースたちと話をしたいということだった。
「お前たちのことはクロノやレティ提督から聞いていたよ。とんでもないルーキーが次々と出てきたって。」
気さくに話しかけてくるハイネに、なのはたちは照れ笑いを浮かべる。
「プレシア事件、天地事件、闇の書、そして三種の神器・・重大で辛い事件ばかりだが、解決したのは能力的にも精神的にもすごいヤツばっかってのも事実だ。」
「そんなことないですよ。ハイネさんたちが駆けつけてきてくれなかったら、私たち、勝てたかどうか・・」
ハイネの言葉になのはが弁解を入れる。
「それに、フェイトちゃん、はやてちゃん、ライムちゃん、ジャンヌちゃん、ユーノくん、アルフさん、それにクロノくんたちやシグナムさんたち、ユウキさんや仁美さんがいてくれたから、私は最後まで頑張れたんだと思います、ヴェステンフルスさん・・」
「ハイネでいいよ。オレは気軽に声をかけられたほうがいいから。」
あくまで気さくに振舞おうとするハイネに、なのはは戸惑いを浮かべていた。その後、ハイネは真剣さを浮かべながら、一同に視線を巡らせる。
「インテリジェント4人にストレージ1人、アームドが3人に融合型が1人、魔導師2人に使い魔、守護獣が3人、そして三種の神器か・・さすがにこれだけいたら、魔女もお手上げだな・・」
あくまで気さくに振舞うハイネに、なのはたちは和やかさを感じ始めていく。そんな大部屋にアンナが入室し、振り向いた仁美に眼を向ける。
「仁美ちゃん、ちょっとお話があるんだけど・・あなたと私、あとリンディ先輩と・・」
「・・はい・・・」
アンナの言葉に仁美は沈痛の面持ちで頷き、部屋を出た。
「あの、アンナさん・・・」
続いて部屋を出ようとしたアンナに、はやてが声をかける。するとアンナは満面の笑みを浮かべてはやてに抱きついてきた。
「あ〜、やっぱりはやてちゃんはかわいいなぁ♪なのはちゃんやフェイトちゃん、ユーノくんもそうだけど・・」
上機嫌のアンナに、はやてだけでなく、なのはたちも唖然となっていた。
「おい、コラ、はやてから離れろ!」
そんなアンナをヴィータが引き離そうとするが、今度はアンナはヴィータに狙いを変えて抱きついてきた。
「あ〜、ヴィータちゃんもかわいいよ〜♪最近のルーキーたちはかわいい子がおおくていいよ〜♪」
「コ、コラ!いい加減にしろ!」
怒り出すヴィータがアンナから離れようとするが、アンナはなかなか離れない。そんなやり取りに、なのはたちは笑みをこぼした。
アンナも笑みをこぼしたところで、真剣な面持ちを見せる。
「悪い話じゃないよ。仁美ちゃんは三種の神器に選ばれたんだ。これからのことも含めて、いろいろ聞きたくてね。」
アンナはそういうと、改めて部屋を後にした。
「さて、オレたちはオレたちの話を続けるか。そういえばお前たち、これからどうしていく気だ?」
ハイネの問いかけに、なのはは気持ちを落ち着けてから答える。
「私たち、管理局で頑張っていこうと思います。役職とかみんなバラバラだけど、方向は一緒です。」
「なるほど。とりあえずは、管理局からの誘いを受けてみるってことか・・自分の意思を貫くっていうのは、大変だけど気分がいいよな。」
なのはの答えを聞いて、ハイネが頷いてみせる。
「確かにこれまでの事件の中で、お前たちは良かれ悪しかれ、自分の意思を最後まで貫こうとしてたんだろ?管理局の責務とか、守護騎士の使命とか、そういうのとか以上の感情みたいなものがあったはずだ。」
「感情、ですか・・?」
ハイネの言葉にシグナムが疑問を投げかける。
「だってそうだろ?ミッドだろうとベルカだろうと、人間だろうと使い魔だろうと守護獣だろうと、戦場に出れば誰もが平等だろ?少なくとも戦っている間は感情的になってたはずだぜ。」
ハイネの指摘に、なのはたちは今までの自分の行動を思い返した。困っている人のため、母親に喜んでほしいため、母親の笑顔を取り戻すため、優しき主を救うため、自分を慕う者たちの気持ちのため、家族、親友のため。誰か、何かのために言葉だけでなく、心と力もぶつけ合ってきた。
強い意思で自分を固めてしまうと、周りの声に耳を貸さなくなってしまう。思いを伝えるためには、言葉だけでなく、力と体をぶつけることも必要となってくる。
なのはたちは、今までの戦いの日々とともに、自分たちが戦ってきた意味を思い出していた。
しばらく続いた沈黙を破ったのはジャンヌだった。
「なのは、みんな、私はアンナと一緒に本局の研究室で働こうと思ってる。デバイスをはじめとした魔法技術の研究に協力していこうと思うの。でも表向きは捜査官ということになりそうだから、なのはたちと一緒に仕事ができるかもしれない。」
「捜査官?なら私と同じやね。」
ジャンヌが自分の進む道を告げると、はやてが笑顔で答える。
「はやても?なら、はやてと一緒にいることが多くなるかな・・」
「そうやね・・頑張っていこうな、ジャンヌちゃん。」
ジャンヌとはやてが互いに笑顔を見せて握手を交わす。
「私は執務官になろうと思ってる。私のできることを、精一杯やりたいから・・」
「私はまだはっきりとは決まってないけど、方向はみんなと同じだと思う・・」
フェイト、そしてなのはも自分の道を告げる。その中でライムは沈痛の面持ちを浮かべていた。
「僕はまだはっきりとした目標が決まってない・・でもそれ以前に、管理局の役職に就くことに抵抗を感じてる・・」
「ライムちゃん・・・」
ライムが口にした言葉になのはが困惑を浮かべる。
ライムはかつて管理局に懐疑的になっていた。局内での特訓を受けたのは、なのはたちときちんとした気構えで再会するため、フェイト、シグナムともう1度戦うためだった。友情と疑念が心の中で渦巻き、ライムは葛藤にさいなまれていた。
「だったら、別に管理局のために働くことはないんじゃないか?」
そこへハイネが気さくに声をかけ、ライムが戸惑いを見せる。
「とりあえず言っておくよ。うちの艦長、そろそろ引退しようと考えてる。」
「蓮さんが・・・?」
ハイネの言葉にはやてが声を荒げる。
「それで、艦長はオレを次のミーティア艦長にしようと考えてるらしい。だからせめて、新しい魔導師を1人入れようと考えてるんだけど・・・」
ハイネは言いかけると、なのはたちに眼を向ける。しかしなのはたちはそれぞれ進む道を大方決めている心境であり、管理局の人間からも声をかけられていた。
ただ、ライムはまだ道に迷っていた。そんな彼女と眼を合わせたとき、ハイネは笑みをこぼした。
「よかったら、ミーティアに来ないか?特務艦だから連続した仕事にはなりそうもないが、大きな事件を請け負うことがほとんどだ。強くなる意味でも、損はないと思うが?」
ハイネの誘いに対し、ライムは考え込む。
「もし時間と都合が合うなら、模擬戦もできるから、その点は心配要らないさ。」
「模擬戦・・・」
その言葉にライムは迷いが晴れたような心地を感じ、フェイトとシグナムに眼を向ける。
「あくまで自分のため、あるいは自分以外の誰かのために戦っても、バチは当たらないぜ。今までだってそうしてきたんだろ?」
「ハイネ・・・そうですね。」
迷いを振り切ったライムは、自分自身の気持ちと向き合う。その彼女に、フェイトとシグナムが微笑んで頷く。
「僕は僕の前に現れる壁を越えるために、この2人ともう1度、全力でぶつかるためにここまで来たんだ・・・」
ライムがフェイトとシグナムに対して、真剣な眼差しを向けて頷く。
「あなたとの勝負、いつでも受けるから・・」
「私もこの真剣勝負、いつでも受ける。正々堂々戦い、必ず決着を付けよう、テスタロッサ、小室ライム。」
フェイト、シグナムが手を差し伸べ、ライムも2人の手に自分の手を添える。
「僕もフェイト、シグナム、君たちと全力で戦いたい。もっと強く、もっと速く、もっと高く!」
決意とともに手に力を込めるライム。フェイト、シグナムとの勝負は、まだ始まったばかりなのだ。
「僕は執務官を目指す。フェイト、もしお前も執務官を目指すなら、僕が先になってみせる。」
「私も負けないから、ライム・・・」
それぞれの決意を胸に秘めて、ライムとフェイトは頷いた。
一方、アンナに呼ばれて別室に移ってきた仁美。そこではリンディとレティが彼女たちを待っていた。
仁美はそこで「三種の神器事件」においての保護観察の旨を伝えられる。そして三種の神器を使いこなした功績と潜在能力を見込まれ、時空管理局の魔導師になることを勧められる。
「ポテンシャルやこれまでの戦いから、あなたが上位魔導師の資質を持っているのは明らか。あなたがそのつもりなら、どの役職にも就くことが可能だと思うわよ。」
レティがデータファイルに眼を通しながら、仁美に声をかける。
「せめてフェイトさんのように嘱託に就けば、保護観察に置かれているあなたの行動の自由が広がりもします。まだ、気持ちの整理がついていないというなら、少し考える時間を・・」
「いえ、もう心は決まっています・・・」
リンディの言葉に、仁美が重く閉ざしていた口を開いた。
「リンディさん、レティさん、申し訳ないのですが、魔導師にはならないつもりです・・」
「仁美さん・・・!?」
仁美の言葉にリンディが当惑をあらわにする。
「あなたほどの魔力の持ち主なら、管理局のどの役職に就くにも十分な素質はある。むしろ魔導師になれば、あなたの行動の自由は広がるわ。」
レティが仁美への説得を試みるが、仁美は考えを改めようとしなかった。
「確かにそうかもしれません。今の私にはそれだけの素質も力もある。フォルファもそういってくれました。でもこのまま魔導師になっても、自分の魔力やクライムパーピルに甘えてしまうと思うんです。だから、私は・・・」
仁美の切実の思いを受けて、リンディは微笑をこぼした。
「分かりました。もう私たちは何も言いません。あなたの道ですからね、仁美さん。」
「すみません。わざわざ誘ってくれたのに・・」
「気にしないで。あなたが選んだ道ですから。でもこれだけは覚えておいて。」
リンディは席を立ちながら、仁美に言いかける。
「あなたは高い魔力を備えている。それは管理局の総意でもある。もしもあなたが魔導師として志願するのなら、私たちに連絡を入れて。私たちは、あなたの席を空けておきますね。」
「本当にありがとうございます、リンディさん、レティさん・・・」
リンディたちの気遣いに、仁美は眼に涙を浮かべつつ、笑顔を見せた。
その頃、フェイトとアルフ、そしてフォルファは、本局内の独房の前に来ていた。そこでは魔女に加担していたシルヴィアが閉じ込められていた。
シルヴィアは今回の事件で起こした行動が世界を崩壊させかねないとして管理局に拘束され、重罪としてこの独房に入れられていた。保護観察は受け入れられない事態であり、彼女自身もそれを望んではいなかった。
その彼女のいる独房を、フェイトたちは訪れていたのだ。
「シルヴィア、フェイトだよ・・」
フェイトが声をかけるが、シルヴィアは沈痛の様子のまま振り向くだけだった。
「誰だって弱いところはある。あなただけじゃない。私にも・・」
「フェイトさんにも・・・」
フェイトに答えるシルヴィアの声は弱々しかった。
「でもその弱さを支えてくれる人がいるし、その弱さがあるから、人は強くなっていける・・」
「一緒に強くなっていこうよ、シルヴィア。フェイトもあたしも、みんながついてるからさ。」
「フェイトさん・・アルフさん・・・」
フェイトとアルフに励まされ、シルヴィアは初めて笑顔を見せた。シルヴィアは今回犯した罪を償いながら、本当の強さを得ていくことを心に決めた。
大まかな事件の処理が済んだところで、なのはたちはひとまず時空管理局本局を後にした。なのはたちは、アースラ、ミーティアにそれぞれ戻ることにしたリンディ、クロノ、エイミィ、ハイネ、そして蓮とも別れた。
仁美に京野家に戻るよう説得された蓮だったが、ミーティア艦長としての責務を最後まで全うするため、あえて本局に残ったのだった。
帰ってきた魔法少女たちを、アリサ、すずか、そして大河たちが迎えてくれた。様々な雰囲気の談話に、なのはたちは平和を実感したのだった。
だがそこにユウキ、そして庵の姿はなかった。自分の意志を曲げなかった庵は、異空間の裂け目へと身を投げた。そしてユウキは今回の自分の言動に罪悪感を感じ、保護観察さえも拒み、管理局にとどまった。
それからなのはたちはユウキの姿を見ていない。はやても仁美も、ユウキには会っていない。
ユウキの心境を受け入れながらも、なのはたちはわだかまりを感じていた。大河、陸、海は愚痴をこぼしながらも、ユウキの決意を汲むことにした。
大河主催の、なのはたちの無事帰還を祝ってのパーティーを楽しんだ後、フォルファは三種の神器の保管庫へと戻っていった。しかしクライムパーピルとクリンシェンは仁美に、シェリッシェルはユウキに託すことにした。
「これからは保管庫の門番だけでなく、ユーノと協力して管理局の無限書庫の管理を務めることにもなるだろう。あと、ユウキのことは心配ない。オレが彼を励ますよ。」
フォルファはそう告げて、仁美やなのはたちと別れた。
それから数日後、なのはとフェイトはユウキへのビデオレターを送ることを決めた。はやて、ライム、ジャンヌ、アリサ、すずかは了解し、早速京野家にて撮影を行うことにした。
そしてそのビデオレターはリンディを通じて、管理局に滞在しているユウキに届けられた。
「これ、なのはちゃんたちが・・・」
「せめて見るだけでもって、なのはさんたち、思いを込めてあなたに送ってきたのよ。」
戸惑いを見せるユウキに声をかけながら、リンディはビデオデッキにセットした。砂嵐の後、画面になのはたちの姿が映し出される。
笑顔で近況を報告してくるなのは。学校でのひと時を語るフェイト。自身の足の治り具合を告げるはやて。自分の特訓について報告するも、ヴィータと口ゲンカを始めてしまうライム。ユウキの状況を改めて教えるジャンヌ。
そして大河や学校のみんなの様子を報告し、自分の気持ちを伝える仁美。仁美は庵に甘えずに、自分の力を信じて頑張っていることを、切実な面持ちで語りかけてきた。
様々な人の想い、様々な心に支えられていることを実感し、ユウキは涙を浮かべていた。幾度となくあふれてくる涙を、ユウキは拭いきれないでいた。
「みんな・・こんなオレなんかのために、ここまで・・・」
「みんな、あなたを心から信じて、あなたの帰りを待っています。それでも、あなたはまだ・・」
リンディが優しく声をかけるが、ユウキはそれでも首を横に振る。
「オレはなのはちゃんたちには会えない・・いえ、これを見てしまったら、なおさら・・・」
ユウキは頑なな気持ちを持ちながらも、一途の決意を胸に秘めた。その想いを抱えた彼はおもむろに立ち上がる。
「だけど、なのはちゃんたちのおかげで、オレは迷いを吹っ切ることができたかもしれません。いいえ、事件の中で、庵との戦いの中で、オレは答えを見つけていた・・・」
決意を告げるユウキに、リンディが安堵を込めた微笑を浮かべた。
「すぐには会えませんが、必ずなのはちゃんたちに会いたいと思っています。今よりも体も心も強くなったところを、みんなに見せたい・・・」
「それが、あなたの決意なのですね、ユウキさん・・・」
「みんなに伝えてもらえますか?・・10年、いえ、5年後にはみんなの前に現れると。強くなったオレの姿を、みんなに見てもらいたいから・・・」
ユウキは自分の胸に手を当てて、自分が見出した答えを確かめる。
(みんな、待っててくれ・・・必ず、自分の答えにたどり着いてみせるから・・・)
それから、6年後・・・
「ライム、忘れ物はない?」
「うんっ!いくらなんでも、そう毎日忘れ物をするわけにはいかないからね。」
母親の言葉に、ライムは笑顔で答える。
「明日からまた管理局のほうに戻るんでしょう?」
「うん。だからまたアリサちゃんたちにノート書き留めておくように頼んでいくから。」
「ひばりちゃん、ライムがムチャしないように、しっかり見てるのよ。」
「大丈夫だよ、お母さん、ライムもひばりもしっかりしてるから。」
母親の言葉にひばりは笑顔で答える。
「それじゃ母さん、いってきます。」
ライムは母親に一礼してから、ひばりとともに家を飛び出した。一礼して出かけたのは初めてのことだったので、母親は一瞬きょとんとなるも、すぐに笑顔を取り戻して2人を見送った。
小室ライム。時空管理局所属、特務艦「ミーティア」執務官。
特攻部隊の隊長に任じられることが多いが、隊員たちを指揮するより自ら戦線に飛び込んでいく様から「切り込み隊長」と呼ばれることもある。
私立聖祥大附属中学校三年生となった今も、「ラーク」の名を改めたひばりと共に、第一線で活躍している。
フェイト、シグナムとは現在も好敵手の関係にあり、都合が合うときは模擬戦を行っている。
勝利と敗北を繰り返しているものの、依然として3人の決着は着いていない模様。
海鳴市内にあるマンションの一室。そのキッチンにて、ジャンヌがお弁当のサンドイッチを作っていた。
そのサンドイッチの何枚かを皿に乗せ、それを持って彼女は別室のドアをノックする。反応がないのでドアを開けると、パソコンを使ってデータ整理を行っていたアンナが、机に体を預けて眠っていた。
(お疲れ様、お母さん・・・)
アンナの寝顔を見て微笑むジャンヌ。パソコンの横にサンドイッチを置くと、きびすを返して部屋を飛び出した。
「行こう、カッツェ。」
ジャンヌは小さな黒猫を肩に乗せて、マンションを飛び出していった。
ジャンヌ・F・マリオンハイト。時空管理局所属、開発部第一班副班長。
「三種の神器事件」から数日後、彼女は正式にアンナの養子となった。
黒猫を祖体とした新しい使い魔、カッツェを伴って、デバイスの試験と局員の治療のために奮起する。
アンナ・マリオンハイト。天地事件における保護観察を終え、時空管理局開発部第一班班長に就任。
様々なデバイスや魔法技術の解析、開発に貢献している。
リンディに対しては、今でもよき先輩として敬っている。
特務艦「ミーティア」は現在本局に戻り、束の間の休息を取っていた。蓮が艦長を辞任し、現在はハイネが艦長を務めていた。
その作戦室にて、ハイネはアースラへの連絡を取っていた。
“どうです、ハイネ?そちらの執務官の活躍は?”
ミーティア作戦室のモニターに映し出されているクロノからの通信を受け、ハイネが気さくに答える。
「期待以上の活躍をしてるさ。いい意味でも悪い意味でも。」
“悪い意味?”
ため息をついてみせるハイネに、クロノが眉をひそめる。
「ご自慢の速さで事件をスピード解決するのはいいが、すぐに自分から飛び出していってしまうから、他の連中の出る幕がなくなってしまうんだ。」
“そうか・・確かに彼女は感情的で、自分でやってしまう性格だからね。”
“ま、みんなムチャする子ばかりだからね。それもよきことかなってね♪”
苦笑するクロノに続いて、エイミィも笑みをこぼす。
“ところでハイネ、彼はどうしてます?”
「彼?あぁ、アイツか。今は家に戻ってるんじゃないか?そろそろ約束を守らないといけないからってさ。」
クロノの問いかけに、ハイネは安堵の笑みをこぼした。
ハイネ・ヴェステンフルス。時空管理局提督。前艦長の京野蓮の跡を継ぎ、特務艦「ミーティア」艦長に就任。
本格的な指揮を担う立場に昇った後も、気さくな考えと言動は変わっていない。
時空管理局本局内。無限書庫付近の廊下で、フォルファは久しぶりにユーノと会っていた。
「お久しぶり、フォルファ。保管庫の警備はどう?」
「あぁ。5年前に整理を完了させたものの、三種の神器以外に高いレベルの技術や品がほとんどなかった。まぁ、お前みたいに歴史や発掘に関心がある者にとっては、宝の山だろうけど。」
憮然とした態度で答えるフォルファに、ユーノも苦笑いを浮かべる。
「そういうお前は、論文や研究成果でずい分評されてるじゃないか。うらやましいもんだな、知恵をたくさん持っている者は。」
「そんなことないですよ。フォルファも保管庫の門番を続けてきたじゃない。」
「とはいうものの、オレは世界の情報を手に入れることを暇つぶしにしてただけで、実際にお前たちに会うまで、誰が誰だが分からなかったんだから。」
互いに苦笑いを浮かべるユーノとフォルファ。
「さて、そろそろ保管庫に戻らないと。そういえばユーノ、お前の相棒はどうしてる?」
「今は藤見町に戻っているはずだよ。今日は彼に会う約束をしていたし、久しぶりに全員集合できる機会もできたっていってたから。」
「そうか・・仁美もみんなやアイツに会うのを心待ちにしていたようだったよ・・お、そうだ。仁美、管理局の魔導師になることを考えていたようだ。」
「そう。それはよかった。仁美さん、けっこう進路に悩んでいたって聞いてたから・・」
フォルファの報告を聞いて、ユーノは安堵の笑みを浮かべた。
フォルファ。特別保管庫の管理者を続けながら、ユーノとともに無限書庫の管理を行っている。
しかしユーノほどの知識を備えているわけではなく、無限書庫ではユーノの指揮の下で管理している形となっていた。
三種の神器事件以後、なのはや仁美たち、管理局にも度々連絡を取るようになっていた。
遅刻しそうになり、仁美は慌てて朝食を口に入れていく。
「仁美ちゃん、今日だったわよね、管理局の人と話しをするのは?」
「うん。でもその前に約束があるから。後ではやてちゃんたちと合流するから。」
大河の問いかけに仁美が答える。食事を終えてから、仁美はかばんの中の持ち物をチェックする。
「それじゃ藤ねぇ、いってきまーす♪」
「慌てすぎて、衝突事故しないでよね。」
「だいじょうぶだよ。藤ねぇじゃないんだから♪」
大河が不満をあらわにしているのを背に、仁美は家を飛び出していった。
京野仁美。大学二年生。
ラクロスだけでなく、大河の指導の下、剣道にも打ち込むようになった。
大学ではラクロス部、剣道部、ともに全国大会に導いた。
精神力を養ったことを理由のひとつとして、時空管理局の魔導師への志願を心に決めていた。
京野蓮。時空管理局を辞職後、本格的に探検家としての道を歩む。
しかしあまり家に戻らないのは相変わらずのようで、京野家に居候し続けている大河にまで呆れられている始末である。
そしてその日の放課後。海鳴臨海公園になのは、フェイト、はやては来ていた。そしてライム、ジャンヌも、仁美を連れてなのはたちと合流した。
「ゴメンね、みんな。授業が少し長引いちゃって・・」
仁美が苦笑いを浮かべて、なのはたちに謝罪する。
「構わないよ、仁美さん。そんなことより、仁美さんも魔導師になるというんはほんまなん?」
はやての言葉に、仁美は笑顔で頷く。
「ブランクはあるんだろうけど、体は覚えてるから。それに、みんなが今の私たちみたいに笑っていてほしいから・・」
仁美が自分の心境と決意を語り、なのはたちも喜びを浮かべた。
「魔法使いとしては後輩となりますので、みなさん、どうぞよろしくお願いします。」
仁美がなのはたちに向けて一礼する。彼女に敬われることに抵抗を感じ、なのはたちは苦笑を浮かべていた。
「それで、彼もここに来るはずなんでしょう?」
ジャンヌが問いかけると、なのはたちは期待と心配を感じた。
「ライム、何か聞いていないの?」
フェイトがライムに問いかける。その人物がライムと同じミーティアに乗艦している人物だったからである。
「一応ここに集まることは言っておいたんだけど、その前に寄るところがあるって言ってたよ。」
ライムの答えになのはたちは戸惑いを覚える。だがすぐに彼女たちは笑顔を取り戻す。
「仁美さん、その場所がどこだか検討つきますか?」
「えっ?・・もしかしたら、あの場所じゃないかな・・・?」
なのはの問いかけに、仁美は少し考えてから答えた。するとなのは、はやて、ライムは向き合って頷きあう。
「それならその場所に行ってみよう。もしかしたら会えるかもしれないし。」
「でも、入れ違いになると思うんだけど・・」
「そのときはそのときだよ、仁美さん。」
戸惑いを見せる仁美に、なのはは自信を込めて頷いた。なのはだけでなく、フェイト、はやて、ライム、ジャンヌも同じ気持ちだった。
「立派になっても、やっぱりなのはちゃんたちって感じがするわね・・そうね。行こう。」
仁美も笑顔を見せて、なのはたちに同意した。
中心に1本の大きな気のある草原。その木のそばに1人の青年が立っていた。
青年はその木に花束を供えていた。
「久しぶりだな、庵・・・」
青年、ユウキが庵を思いつつ、物悲しい笑みを浮かべる。
「この世界が、お前が受け入れられないものだとしても、オレはその中の大切なもののために戦う。みんなが悲しい思いをするのは、もうたくさんだからな・・・」
ユウキは庵に語りかけて、剣のペンダントを取り出す。三種の神器のひとつ、シェリッシェルは正式に彼の力となっていた。
「父さん、オレも魔導師になったよ・・どこまでやれるか分かんないけど、やってみるさ・・・」
待機状態のシェリッシェルを握り締め、ユウキは決意を秘める。
そのとき、この草原に強い風が通り過ぎ、ユウキが顔を背ける。そして彼はふと後ろへと振り返った。
その先にはなのは、フェイト、はやて、ライム、ジャンヌ、仁美の姿があった。
「なのはちゃん、仁美ちゃん、みんな・・・」
「やっぱりここにいたんだね、ユウキさん。」
戸惑いを浮かべるユウキに、なのはと仁美が笑顔を見せる。
「会わないうちに、ずい分大きくなっちゃったね、みんな・・」
「6年だよ、ユウキさん。そんなにたってたら、大きくもなるよ。」
ユウキの言葉に仁美が苦笑いを浮かべ、なのはたちも笑みをこぼしていた。
「庵さんに会っていたのですか・・・?」
「うん。それと、父さんにも・・」
フェイトの唐突な問いかけに、ユウキは微笑んで頷く。そしてなのはたちに視線を巡らせて、ユウキは自身の決意を告げた。
「なのはちゃん、オレもようやく答えを見つけることができたよ。なのはちゃんたちのように・・」
するとユウキは待機状態のシェリッシェルを見せた。
「今のオレたちみたいに、みんなが幸せになってほしい。その幸せのために戦っていく。それが、オレの目指す道だよ・・・」
「ユウキさん・・・私も自分のため、みんなのために、管理局の魔導師になろうって考えてる・・・」
ユウキの決意を聞いて仁美も同意する。
「大丈夫。ユウキさんと仁美さんなら、どんな道だって進んでいけるよ。私はそう信じてる。」
なのはがユウキに励ましの言葉を送る。
「まぁ、これから一緒に頑張っていくことになるから・・とにかく、よろしくね。」
ライムが照れ隠しに声をかけて、ユウキに手を差し伸べる。ユウキは微笑んでその手を取り、握手を交わした。
神楽ユウキ。時空管理局特別捜査官。
「三種の神器事件」による罪に対する刑務を終えた後、管理局に携わる多くの資格取得に挑戦。
その言動と奮闘振りから、局内では一時期「資格荒らし」と囁かれたこともあった。
本局を基点として様々な地域や艦船を転々としており、現在はミーティアに乗艦している。
三種の神器のひとつ、シェリッシェルとともに、様々な次元犯罪に立ち向かう。
「それじゃみんな、そろそろ行こう。」
なのはの呼びかけにフェイトたちが頷く。そしてそれぞれ待機状態のデバイスを手にして掲げる。
「お願い、レイジングハート。」
“Yes, my master.”
「行くよ、バルディッシュ。」
“Yes, sir.”
「行こうか、クリスレイサー!」
“All right, my master.”
「起きて、シャイニングソウル。」
“Yes, sir.”
レイジングハート、バルディッシュ、クリスレイサー、シャイニングソウルがなのはたちの声に答える。
「行くよ、リインフォース。」
「はい。マイマスター・はやて。」
はやての呼びかけに、姿を現した小さな少女が笑顔で答える。消滅した夜天の魔導書の欠片とはやての魔力から生まれた融合型デバイス、新たなるリインフォースの姿である。
そして仁美もクライムパーピルを取り出し掲げた。彼女が魔導師になると決意したことを聞いたフォルファが、再び仁美に託したのだ。
「これから頑張ろうね、クライムパーピル。」
“All right.”
仁美の声にクライムパーピルが答える。そしてユウキもシェリッシェルを掲げる。
「頑張ろう。私たちが進んでいく未来(あした)に向かって。」
なのはの言葉にフェイトたちは微笑んで頷く。
“Standby, ready.”
「ドライブ・イグニッション!」
そしてそれぞれのデバイスを空高く放った。果てしない未来の空へ・・・
私は歩く・・・
私たちは歩いていく・・・
この広い世界を、いつまでも・・・