魔法少女リリカルなのは&エメラルえりな 第12話

 

 

 絶望の闇に包まれていく世界の真っ只中。ヘクセスの眼前に、なのはとえりなが現れた。

「そなたら・・なぜ・・・!?

 2人の姿を目の当たりにして、ヘクセスが驚愕する。石化から解放されていることが信じられなかったのだ。

「フェイトちゃん・・スバル・・ティアナ・・・」

「明日香ちゃん・・タケルくん・・健一・・・」

 石化された仲間たちのことを想うなのはとえりな。この悲劇の引き金を引いたのが自分たちであることを痛感し、2人は歯がゆさを覚えていた。

「まぁいい。もはやそなたら2人だけでは、わらわを止めることなど不可能だ。」

「不可能なんかじゃない・・不可能なんかじゃない!」

 笑みを取り戻すヘクセスに向けて、えりなが言い放つ。

「みんなが、私たちが帰ってくるのを待っている。だからあなたに、私たちの歩みを止めることはできない!」

「みんなが頑張っているのに、私たちだけ何もしないわけにいかない・・だからヘクセス、あなたは私たちが止める!」

 えりなとなのはが言い放つと、左右に分かれて身構える。2人の決意と戦意をヘクセスはあざ笑う。

「愚かな。ならばそなたらの抱くその希望、粉々に打ち砕いてくれるぞ。」

 ヘクセスがなのはとえりなに向けて右手をかざし、魔力を解き放つ。2人は素早く動いて、その魔力を回避する。

「ディバインバスター!」

「ナチュラルブラスター!」

 なのはとえりながヘクセスに向けて、同時に砲撃魔法を放つ。その直撃を受けて一瞬怯むも、ヘクセスはさほどこたえていなかった。

 ヘクセスから解き放たれる漆黒の閃光。それを回避しながら、なのはとえりなは思いを巡らせていた。

(私は自分に間違いはない、間違いを起こさないように気をつけてきた。痛い目にあって出た結論だったから余計に・・でも結局は、自分の気持ちの押し付けになってたんだね・・えりなやみんなの気持ちを、もっと聞き入れてあげればよかったかもしれない・・・)

(私は自分勝手と思える考えや行動が許せなくて、反抗的になってた。それを認めてしまったら、私の全てが壊れてしまうと思った・・ムキにならずに、ちゃんと話し合えばよかったんだね・・・健一も、そう思うよね・・・?)

 自分の信念と裏腹な後悔を痛感していくなのはとえりな。

(もう後悔したくない・・その気持ちが別の後悔を生んでいた・・だから、後悔するときも、周りの気持ちをもっと知っていこうと思う・・・)

(今、ちゃんと思い出したよ・・みんなの気持ちを大切にしていきたい・・その気持ちを壊させずに守り、育んでいく・・それが、私の正義!)

 その後悔をばねにして、決意を強めていく2人。それは全力を出すことへの躊躇を断ち切る引き金となった。

(だから、私を信じてくれるみんなのために今、私は飛ぶ!)

(みんなの気持ちを守るため、私はこの未来(みち)を突き進む!)

「レイジングハート、ブラスターモード!」

Blaster set.”

「ブレイブネイチャー、フェニックスモード!」

Phoenix mode,awekening.”

 なのはとえりながついに、レイジングハートとブレイブネイチャーのリミットブレイクを起動させた。

 杖の先端にある槍の形状をした突起「ブラスタービット」を射出して連携攻撃を取る「ブラスターモード」となったレイジングハート。その出力は他の形態をはるかに凌駕しているが、デバイス、使用者双方への負担もまた大きいため、一撃必殺の最後の切り札とされている。

 炎をまとった巨大な光刃を発する「フェニックスモード」となったブレイブネイチャー。炎属性の魔力を放出し、高出力、大威力の打撃、砲撃を繰り出すことができるが、その炎で火傷を被るなど、破損しかねないほどに反動が大きすぎるため、滅多なことでは発動されない。

「行きますよ、なのはさん!」

「うんっ!」

 えりなの呼びかけになのはが頷く。2人はデバイスを構えて、魔力を収束させる。

「これだけの魔力を発揮するとは・・だがそなたら自身が耐えられるか・・・」

 ヘクセスが悠然さを浮かべたまま、なのはとえりなに向けて漆黒の魔力を放つ。

「いくわよ!エクセリオンバスター!ブレイクシュート!」

「フェニックスブラスター!バーストクラッシュ!」

 なのはとえりなが高出力の砲撃魔法を解き放つ。白と赤の閃光が混ざり合い、漆黒の魔力を打ち破ってヘクセスに直撃する。

 その大威力に顔を歪めるヘクセスだが、彼女を怯ませるだけだった。

「ブラスターモードまで使ってるのに、決定打にならないなんて・・・!」

 なのはがヘクセスの底力に思わず毒づく。

「えっ・・・?」

 そのとき、えりながヘクセスの体内からあふれてきているわずかな光を発見する。

「なのはさん、あれって・・・?」

「えっ?・・・もしかして、あれは・・・!?

 えりなからの指摘を受けて、なのはが思い立つ。

「ウィッチコア・・えりなのカオスコアを使って復元させてたんだよ・・・」

「ウィッチコア?」

「魔女の力の源・・あれを破壊することができれば、ヘクセスの力は一気に弱まるはず・・・!」

「あの光を・・・分かりました。やりましょう!」

 なのはの言葉を受けて、えりなが頷く。2人はそれぞれ手にしているデバイスに力を込める。

「どっちにしても、急いで終わらせる必要があるね・・・!」

「はい・・このフェニックスモード、負担が大きいだけじゃなく、すごく熱いんです・・・!」

 言いかけるなのはにえりなが言いかける。フェニックスモードの負担として、ブレイブネイチャーは膨大な熱量を抱え込むことになる。ブレイブネイチャーを握っているえりなの手から、湯気があふれてきていた。

「急ぐだけではダメです・・一気に終わらせます!」

「えりな・・そうね。一気に終わらせて、みんなのところに帰るよ!」

 えりなとなのはが決意を言い放ち、散開する。2人は残された力の全てをつぎ込んで、各々の最後の攻撃を繰り出そうとしていた。

 レイジングハートの先端から突起物「ブラスタービット」が4つ出現する。ブラスタービットは後部からチェーンバインドを発生させてヘクセスを縛る。

 だがその光の縄はヘクセスの魔力で簡単に断ち切られてしまう。その瞬間にブラスタービットが彼女の左右、後ろ、上に移動しており、5方向からの砲撃を行おうとしていた。

「私がウィッチコアを撃ち抜くから、えりなはそこをブレイブネイチャーで!」

「はいっ!」

 なのはの呼びかけにえりなが答える。レイジングハートとブラスタービットに光が収束し、ブレイブネイチャーをまとう炎が槍のような形状を成していく。

「全力全開!スターライトブレイカー!」

「熱血一貫!フェニックスランサー!」

 なのはとえりなの魔力が一気に高まりを見せる。

「ブレイクシュート!」

 なのはが解き放った5つの砲撃がヘクセスに直撃し、その体内にあるウィッチコアに到達する。

「ぐっ!」

 力の源を攻撃されて、苦悶の表情を浮かべるヘクセス。ウィッチコアも輝きを強めて、その閃光も揺さぶられる。

「今だよ、えりな!」

 なのはが呼びかけると、えりながヘクセスに向かって飛びかかった。

「ソウルクラッシュ!」

 ブレイブネイチャーから発せられる光刃が、ヘクセスの体に突き刺さる。そしてその一閃が、ヘクセスの体内にあるウィッチコアを貫いた。

「ぐあっ!がはあぁっ!・・こ、こんなここが・・・!」

 急所を穿たれて、絶叫を上げるヘクセス。その体を貫通したえりなが、彼女の後ろに着地する。

「く・・・まさか再び、そなたらに敗れるとはな・・どの闇をもってしても、決して揺るがない希望が、わらわをも凌駕するというのか・・・」

 光に包まれていくヘクセスが弱々しく呟きかける。だが彼女は徐々に哄笑をもらし始めた。

「だが・・前にも言ったはずだ・・闇がある限り、わらわは何度でも蘇ると・・・そう・・そなたら人間の心の中にも・・・」

 なのはとえりなに言い放つヘクセス。その体が光の粒子に紛れて消えていった。

 正確には消えたのではない。次元の闇の中へと舞い戻っていったのだ。

 光がある限り闇がある。それは人の心も同様である。人の負の心が、魔女の復活の要因となりうる。なのはとえりなはそのことを胸に刻み、新たな決意を宿した。

 全力を出し尽くしたなのはとえりなが互いに視線を向ける。2人の心に様々な思いと困惑が渦巻いていた。

「えりな・・・」

「なのはさん・・・」

 呟くように言いかけるなのはとえりな。2人はゆっくりと歩み寄り、眼前に迫ったところで立ち止まる。

「今回は、いろいろとムチャしちゃったかな・・みんなに申し訳が立たないね・・・」

「ですね・・でも、そんなに悪い気分じゃないですよ・・・こうして無事でいられたわけですから・・私も、あなたも・・・」

 心の底に沈んでいたもやもやが消えたような気分を覚えて、思わず笑みをこぼす2人。その安堵で緊張が解けたのか、2人は力なくその場に倒れ、横たわってしまった。

 立ち上がる力さえ残っていなかった2人は、そのまま眠りへと落ちていった。

 

 なのはとえりなの活躍でヘクセスは世界から消滅した。世界に広がっていた瘴気が弱まり、石化していた人々や建物が元に戻っていった。

「なっ!?・・オレは・・・?」

「どうやら僕たちは、敵の力にかかってしまっていたようだ・・・」

 当惑を見せるハイネの横で、クロノが自分たちの身に起きたことを思い返す。

「だが、その石化も解除されたようだ・・・」

 そこへフォルファが言いかけ、クロノとハイネが微笑んで頷いた。

 その隣でも、石化されて動けなくなっていたユーノとアルフも、体の自由を取り戻していた。

「ユーノ、これって・・・?」

「うん。なのはやフェイトたちが、うまくやってくれたみたいだ・・・」

 戸惑いを見せるアルフに、ユーノが頷いてみせる。その言葉を聞いて、アルフは笑顔で頷いた。

 そして、ライムとジャンヌも安堵の表情を浮かべていた。

「ふぅ。一時はどうなることかと思ったよ。あのまま動けなくなってたらどうなるかと思ってたよ・・」

「ゴメン、ライム・・肝心なときに何もできなくて・・・」

「それなら僕も同じだよ。なのはたちが大変なことになってたのに、僕は・・・」

 謝るジャンヌに対し、ライムも沈痛の面持ちを見せる。そこへ同じく石化から解放されたはやてと玉緒がやってきた。

「2人とも、私たちにとってかけがえのない友達や。2人がいなかったら、なのはちゃんもえりなもどうなってたか・・」

「そうですよ。ライムさんやジャンヌさん、たくさんの人たちの支えがあったから、なのはさんやえりなちゃん、みなさんが頑張れるんですから・・」

 はやてと玉緒に励まされて、一瞬戸惑いを見せるライムとジャンヌ。だが2人はすぐに笑みを取り戻し、頷きかける。

「そういってくれると、本当に心強いよ・・・」

 感極まるあまり、涙をこぼしてしまうライム。そんな彼女を、ジャンヌは背中に手を当てて落ち着かせていた。

 その傍らで、同じく石化から解放されていたエリオとキャロ。自分たちの身に何が起こったのか分からなかった2人だが、エリオはキャロを抱いていたことに気付いて動揺を見せ、キャロも頬を赤らめていた。

「ゴ、ゴメン、キャロ!・・僕、そんなつもりじゃ・・!」

「う、ううん!私こそゴメンね、エリオくん!・・私を庇ってくれたのに・・・」

 エリオとキャロが同時に声を荒げて弁解しようとする。だが気持ちを落ち着けたところで、2人は照れ笑いを浮かべる。

「フェイトさんたちが、助けてくれたのですね・・・」

「ミウラも間違いを正すことができたみたいで・・本当によかった・・・」

 フェイトへの信頼とミウラの改心を実感して、エリオとキャロは微笑んだ。

 同じ頃、ヴィヴィオも石化を解かれたものの、なのはの安否が気がかりになり、不安の色を隠せないでいた。そこへリッキーがやってきて、ヴィヴィオを支える。

「これからママを見つけて迎えに行くんだけど、一緒に行く?」

「ママ・・・うんっ!」

 微笑みかけて言いかけるリッキーに、ヴィヴィオは笑顔を見せた。

 

 同じ頃、フェイトと明日香も石化から解放されて、自由を取り戻していた。

「なのはさんとえりながやったみたいですね・・・」

 明日香がフェイトに向けて言いかける。だがフェイトは今、モデナのことを思い返していた。

 もしも力の使い方や生き方を誤れば、自分がモデナと化してしまうこともありうる。そのことを胸に刻み、フェイトは自分の心に炎を灯していた。

「1番恐ろしいのは、力や存在意義じゃなく、力に囚われてしまう人の弱さだと思う。」

「フェイトさん・・・」

 フェイトがもらした言葉に、明日香が戸惑いを見せる。

「もしも私が心を折ってしまったら、モデナのように、自分のためだけに力を使う人間になってしまうかもしれない・・でも私には、たくさんの仲間たちがいる・・・」

 再び言いかけるフェイトの脳裏に、なのは、アルフ、ユーノ、はやて、ライム、ジャンヌ、シグナム、仁美、クロノ、リンディ、エリオ、キャロの姿が蘇る。そして明日香に眼を向けたフェイトは、彼女の髪を優しく撫でる。

「明日香、あなたも・・・」

「フェイトさん・・・私にも、仲間がいます・・・」

 フェイトと明日香が微笑みかけて頷きあう。そこへスバルとティアナ、ナディアとロッキーがやってきた。

「あなたたち、無事だったのね・・」

「無事ともいえないんですけどね・・」

 微笑みかけるフェイトに、スバルが苦笑いを浮かべる。

「でも、みんな無事に帰ってきてよかったですよ・・傷ならゆっくり治していけばいいんですから・・・」

「そうだな・・命あってのものだねっていうからな・・」

 明日香が言いかけると、ロッキーが不敵な笑みお浮かべて口を挟む。

「すみません・・何にも役に立てなかったばかりか、迷惑までかけてしまって・・・」

「気にすんなって。オレには分かってるぞ。ナディアちゃんが思念波なんかに負けなかったんだって。」

 沈痛な面持ちを浮かべて謝るナディアに、ロッキーが気さくな笑みを見せる。彼の励ましの言葉を受けて、ナディアが微笑みかける。

「ありがとうございます、ロックさん。ロックさんに本当に助けられてしまいましたね・・」

 ナディアのこの言葉を聞いて、ロッキーが動揺を覚えて押し黙ってしまう。

「あたしたちが元に戻ったということは、エリオたちやライムさんたちも無事ということね。」

「そうだね・・でも、疲れて自力じゃ帰れないよ・・」

 ティアナが言いかけると、スバルが肩を落とす。

「とにかく、今はなのはたちを見つけましょう。はやてたちなら、すぐに私たちを見つけてくれるはずだから・・・」

 そこへフェイトが呼びかけ、明日香が小さく頷いた。

「そうですね・・私たちは、1人じゃないのですから・・・」

 

 庵の攻撃を受けて墜落させられたヴァイス。だが彼は無傷で、ヘリコプターも大きな損傷はなかった。

 事態の終息を察したヴァイスのところに、オメガとバサラを連れたシグナムたちがやってきた。

「ヴァイス、無事か?」

「あ、シグナムねえさん・・こっちは無事生き残れましたよ。ねえさんたちは?」

「腕をやられた。ヴィッツやヴィータたちが駆けつけてくれなかったら、おそらくやられていただろう・・・」

 声を掛け合うシグナムとヴァイス。オメガとの戦いで腕を負傷させていたシグナムは、ヴィッツに支えられていた。

「スバルたちは心配要らないですよね、ねえさん・・・?」

「心配すんな。あたしらの仲間は、そう簡単にやられるようなタマじゃねぇよ。アイツらもなのはも、えりなも・・」

 ヴァイスの声に答えたのはヴィータだった。

「とにかく、玉緒たちに連絡をしておこう。この状態では、オレたちはここで立ち往生することになってしまう・・」

 ダイナの言葉にシグナムたちが頷く。ヴィッツは起動六課本部とデルタのメンバーへの連絡を行った。

 

 なのはとえりなと合流するために、満身創痍の体に鞭を入れて捜索を行ったフェイトたち。そこで彼らは健一とタケルと合流した。

「健一、タケルくん、大丈夫?」

「あぁ。オレたちは大丈夫だ。けどえりなたちが見つかんねぇんだ・・・」

 フェイトの呼びかけに答えるも、健一が沈痛の面持ちを浮かべる。なのはもえりなも魔力を著しく消耗していたため、魔力を探知して見つけることができないでいたのだ。

「急いで探したいとこだけど、オレもタケルも力を使っちまって・・・」

「すみません。僕にもっと力があれば・・・」

 自分の無力さを悔やむ健一と、沈痛の面持ちを浮かべるタケル。

「心配しなくても大丈夫だよ。あなたたちも本当に頑張ってた。あなたたちがいなかったら、なのはもえりなも・・」

 そこへフェイトが励ましの言葉をかける。その言葉に励まされて、健一とタケルが笑みを取り戻す。

「そういってくれるのが、オレの1番の薬っス・・」

 改めて奮起した健一が、なのはとえりなの捜索を続ける。フェイトたちも彼に続く。そしてついに彼らは平原に横たわるなのはとえりなを発見した。

「なのはさん、えりなさん・・よかった・・2人とも無事で・・・」

「けど、2人とも疲れて寝てるぞ。こっちの苦労も知らずに・・・」

 安堵を浮かべるタケルと、呆れて肩を落とす健一。フェイト、スバル、ティアナ、ナディアも思わず苦笑いを浮かべていた。

「でも、みんなが来るまで、そっとしておいてあげよう。1番疲れてるのは2人だから・・」

「そうですね・・・」

 フェイトの言葉にスバルが同意する。世界を救った2人のエースは、全ての力を出し尽くして眠りについていた。

 

 その後、フェイトとヴィッツからの連絡を受けたはやてとユウキ。外に出ていたメンバーを仲間たちが迎えにやってきた。

 シグナムの腕もティアナの足も骨に異常はなく、軽傷で済んでいた。なのはとえりなも魔力を消耗しすぎてこん睡状態に陥っているだけだった。

 起動六課本部に帰還したフェイトたちを、ライムたちが迎えた。様々な思いが交錯する中、彼らは喜びと決意を胸に秘めるのだった。

 そんな中、タケルはフェイト、はやて、ライム、ジャンヌに念話で真実を語り始めた。それは自分にえりなと健一の未来の子供であることだった。

 未来に当たる情報を打ち明けることは、時間の混乱を引き起こすため、規制されている。それを打ち明けたのは、フェイトたちに対する信頼の証だった。

 フェイトたちはえりなと健一に内緒にすることを約束し、タケルの気持ちを保守した。

 

 そしてその翌日、タケルは未来へと帰ろうとしていた。彼との別れの場に、なのはやえりなたちが顔を出していた。

「すみません、みなさん。何もしてあげられなくて・・・」

「そんなことはないよ。タケルくんが教えてくれなかったら、多分世界やみんなを守れなかったよ・・あなたには、本当に感謝してるよ・・」

 申し訳なさそうな面持ちを浮かべるタケルに、えりなが感謝の言葉をかける。

「タケル、お前なら絶対に未来を立て直せる。オレたちみんな、お前のことを信じてるからな。」

「ありがとうございます、健一さん・・みなさんも、本当にありがとうございました・・・」

 健一に言いかけられたところで、タケルが感極まって涙を浮かべる。するとなのはがタケルに手を差し伸べてきた。

「大丈夫だよ。あなたも立派なストライカーの1人だよ。」

「なのはさん・・・」

「そうだよ。タケルくんは、あたしたちのかけがえのない仲間だよ。」

 なのはの言葉に戸惑いを見せるタケルに、続けてスバルが声をかけてきた。

「スバルさんも・・みなさんも、本当にありがとうございました・・・」

 タケルは流れていた涙を拭うと、笑顔を見せた。なのはたちも微笑んで頷いた。

「それではみなさん、さようなら・・・」

「今はサヨナラだけど、いつかまた会える・・必ずね・・・」

 別れの挨拶をするタケルに、なのはが微笑んで言いかける。フェイトから話を聞いていたなのはは、タケルに向けて意味深さを込めて言葉を送ったのだ。

 笑顔を絶やさないまま、タケルはなのはやえりなたちの前から姿を消した。自分の居場所である未来に帰っていった。

(さようなら、タケルくん・・未来で待ってて・・・)

 なのはがタケルに向けて、胸中で切実な思いを呟いた。

 

 その後、なのはとえりなは時空管理局本局に呼び出された。そこで2人は今回の一件での行動について、カイザから尋問されていた。

 一件の詳細を綴った報告書に目を通したカイザが、呆れ気味に言いかける。

「まさかエースである君たち2人が、このようなことを仕出かすとはね・・」

 冷淡に態度を見せるカイザに、なのはもえりなも困惑を押し殺すのに精一杯だった。

「上官や他の局員の指示を聞かないままの単独行動、他の局員への武力行使、リミッターの無許可解除、市街への損害・・こんな規定違反、この時空管理局の歴史の中でも聞いたことないぞ。」

「すみません・・頭に血が上りすぎてて・・・」

 言い訳をするも、それが通用しないと痛感するえりな。カイザは顔色を変えずに話を続ける。

「世界規模の危機から人々を守った功績は大きいが、君たちの違反もまた見過ごせるものでもない。そこで局長や他の査察官との話し合いで出た、君たちの処分を通達する。」

 カイザが告げる言葉に、なのはとえりなが息を呑む。

「2週間の謹慎。現場から離れて反省すると同時に、体も心も十分に休養させるように。」

「えっ・・・?」

 あまりにも軽い処分に、なのはもえりなも唖然となって言葉が出なくなってしまった。

「あの、本当にそれでいいんでしょうか・・・?」

「局長と査察部の総意です。私も含めて全員が妥当な判断であると自負しています。それとも、さらに重い刑罰のほうがよろしいですか?」

 何とか言葉を切り出したなのはに、カイザは顔色を変えずに続ける。その返事になのはとえりなは首を横に振る。

「り、了解しました。その謹慎、甘んじて受けさせていただきます。」

「起動六課やデルタにも、そのことを伝えておいてください。」

 なのはとえりなはカイザに敬礼を送ると、揃って部屋を後にした。2人の姿が見えなくなったところで、カイザは肩の力を抜いて吐息をもらした。

「嫌われ役、ご苦労さん。」

 そこへフォルファがこの部屋に転移してきた。カイザは彼に憮然とした態度を見せる。

「オレは査察においては私情を挟まない。褒められようと責められようと、このやり方を変えるつもりはない。今もこれまでも、そしてこれからも・・・」

「ハァ・・お前もお前でけっこうガンコだよな、何であれ・・・」

 淡々と言いかけるカイザに、フォルファがため息をつく。するとカイザは唐突に微笑みかける。

「オレは2人を高く評価しているよ。実力だけでなく精神面も・・・高町なのは、坂崎えりな・・2人のエースが、これからの未来を切り開いていくことになるだろう・・・」

 カイザのこの言葉に、フォルファも頷いて笑みをこぼした。

 

 この処分から2週間、なのはとえりなは管理局局員としての職務を謹慎。スバルたちへの訓練に立ち会うこともなく、2人は戦列から離れることとなった。

 そしてその謹慎期間が経過して、2人が起動六課に復帰しようとしていたときだった。

 えりなが告げたことに、はやてをはじめ、起動六課の面々の多くが驚きを隠せなかった。その内容は、自身の起動六課の脱退だった。

 突然のえりなの申し出に、起動六課やデルタのメンバーは、彼女にどう声をかけたらいいのか分からなかった。だが彼女の意思を汲み取ったはやては、その申し出を受け入れた。

 えりなははやてには、やるべきことを見出し、それに専念するためと告げていた。だがえりなの心の中には、なのはの見解に対する不満が未だに残り、それがこの決意の引き金となっていたのだ。

 起動六課を離れようとしていたえりなを、ライムやスバルたちが見送りに来ていた。健一もえりなの出発を、呼び止めることなく見送ることにした。

「えりな、離れていても僕たちはいつでも一緒だからね。そのことは忘れたらダメだよ。」

「いつかまた、あたしたちと一緒に仕事をしようね、えりなちゃん。」

 ライムとスバルの言葉を受けて、えりなが微笑んで頷いた。そして挨拶の合図を送る健一にも、えりなは頷きかけた。

「えりな、あなたもけっこうガンコなとこがあるからな。もう止めはしないよ・・せやけど、あなたの見つけた夢に向かって、気張っていこうな。」

「はい、はやてさん!」

 はやての激励に頷くえりな。2人は握手を交わし、それぞれの決意を確かめる。

 はやてから手を離すと、えりなは小さく頷いてから歩き出そうとした。だがその前になのはがおり、えりなは足を止める。

「行ってしまうんだね、えりな・・・」

 なのはの呼びかけに、えりなは無言で頷く。

「なのはさん、私はどうしても、あなたの考えには賛同できません。やはり成長には、その人の気持ちが大きく関わってきますから・・・」

 えりなが口にした言葉に、なのはは深刻さを感じていた。

「だからこそ、私は決心しました。私の中にあるこの気持ちを、たくさんの人に伝えていければと思います。分かってもらえなくても、伝えることができれば・・・」

 自分の決意をなのはにも告げるえりな。えりなが目指そうとしていたのは、これまでシャークから学んできた戦技教導官。なのはが歩んでいるのと同じ道だった。

 だがその方針は全くといっていいほど違うものだった。すれ違いと衝突を経て導き出したえりなの結論だった。

「あなたが悩み抜いて、やっと出した答えだから、私は止められない・・でも、私は私の考えを大事にしていきたい。それだけは確かだよ・・・」

「分かってます・・・でもなのはさん、ひとつ約束してもらえますか・・・?」

 同じく自分の気持ちを切実に告げるなのはに、えりなが申し出る。

「今度都合の合うときが来たら、もう1度、勝負をしてもらえますか?・・あのような憎しみ合うだけのものじゃなくて、正々堂々とした模擬戦を・・」

「えりな・・・そうね。そのときが来たら、モヤモヤしたものを吐き出す勢いで勝負しましょうね。」

 えりなの申し出を快く引き受けたなのは。

「ありがとうございます、なのはさん・・・」

 えりなは感謝の言葉をかけると、なのはと握手を交わした。それぞれの決意を込めた固い握手だった。

 そしてなのはとえりなは聞き手である左手と右手を握り締め、軽くこつく。それはさらなる決意と結束の証明を意味していた。

 仲間たちの思いと自身の決心を胸に抱き、えりなは自分の道を歩んでいくのだった。

 

 こうしてえりなは、起動六課を抜けることとなった。

 少年少女たちの運命を大きく変える出来事と瞬間だった・

 そしてこれを皮切りとするかのように、新暦76年4月28日、試験運用の期日に伴い機動六課解散。デルタも本来の活動と拠点に戻ることとなった。

 少年少女は、それぞれの未来に向かって歩き出していくのだった・・・

 

 

小室ライム。

特務部隊「ハイネ隊」、及び特務艦「ABS」に帰還。

心身ともにさらなる高みへと上り続ける彼女は、切り込み隊長の異名を強調するかのように、さらなる精進と任務に励んでいる。

 

 

ナディア・ワタナベ

ライムへの憧れのため、ハイネ隊入隊を志願。

ライムの補佐として前線で活躍中。

 

 

ジャンヌ・F・マリオンハイト。

起動六課解散後、第一技術部に帰還。

アンナとともに新兵器やデバイスの開発や試験を続けている。

 

 

ロッキー・トランザム。

ジャンヌの誘いを受けて第一技術部に入部。

兵器やデバイスの試験に携わり、研究に貢献している。

 

 

シルヴィア・クリストファ。

六課解散後、本局勤務となる。

天真爛漫さは相変わらずだが、通信士としてなのはやフェイトたちをサポートしていく。

 

 

シャーク・ジョーンズ。

シャブロスへの加担と起動六課任務の阻害のため、逮捕。

ピノとともに監獄入りとなった。

 

 

ミウラ。

管理局の尋問に応じ、保護観察処分に甘んじる。

現在はガイアとともに無人の次元世界に送られ、平穏な日々を送ることとなった。

そこで同じ召喚士である少女、ルーテシア・アルピーノと邂逅。

同じ召喚士であることから交流を深めている。

 

 

オメガ。

シグナム、ヴィッツたちとの戦いの後、管理局によって拘束。

監獄に連行されようとしていたところを脱走。

管理局が捜索を行っているが、現在も消息は不明である。

 

 

バサラ。

ヴィータたちとの交流を経て、更正プログラム受講後、八神家に迎えられる。

ヴィータをロードとして、新たな人生を歩んでいた。

リインフォースと「烈火の剣精」を自称する少女、アギトのいざこざに、半ば呆れていた。

 

 

タケル。

本名、辻健(つじたける)。

事件解決後、自分の住む未来に帰還。

ヘクセスの消滅により、復興していた世界を目の当たりにし、両親との再会を実感しながら喜びを感じていた。

 

 

京野庵。

インピューレスキルを封じられた状態で監獄入り。

なのは、スバル、ユウキとの交流を経るものの、現在も管理局や世界に対して非協力的な態度を崩していない。

 

 

神楽ユウキ。

現在もデルタのコマンダーとして全力を注いでいる。

クラウン、エリィ、カレン、ルーシィ、リーザ、そして産休を終えた仁美とともに、世界の犯罪に立ち向かっている。

 

 

アレン・ハント。

現在もソアラとともにデルタを活躍の場としている。

仁美帰還後もサブコマンダーとして、現場の指揮を行っている。

 

 

リッキー・スクライア。

時空管理局本局医療局に帰還後、特別救助隊配属を志願。

現場での救助と医療に全力を注いでいる。

 

 

豊川玉緒。

ヴィッツ、アクシオ、ダイナとともにデルタの一員として活躍中。

仁美の帰還後、サブコマンダーの席を彼女に返上している。

 

 

町井明日香。

時空管理局1831航空隊に帰還後、再び前線で活躍する。

ラックスとの連携も見せ、砲撃魔導師としての風格を見せ付けている。

 

辻健一。

六課解散後、えりなと合流。

教官免許取得と飛行魔法の会得のため、努力を続けている。

 

 

坂崎えりな。

1039航空隊帰還後、戦技教導官を志望。

前線での任務をこなす一方、後進の育成にも尽力を注いでいる。

なのはとは異なる見解で、自身の思いを伝えようとしていた。

 

 

 起動六課解散から数週間が経過した頃、約束の時が訪れた。

 2人のエース、なのはとえりなの模擬戦が行われようとしていた。この2人の真剣勝負を見逃すまいと、多くの局員が見物に来ていた。

「まさかここまで集まってくるとはな。どっから聞きつけてきたのやら。」

 周囲を取り巻く群衆に、健一が呆れた態度を見せていた。

「私もなのはさんも、人目を気にすることはしないよ。ただ、気分が悪くならないように全力を出すだけ・・」

 しかしえりなは気にした様子を見せず、準備を行っていた。

「ま、気が済むようにしてくれ。けどえりな、オレがそばにいることだけは忘れんなよ。」

「うん、分かってる。ありがとうね、健一・・・」

 励ましの言葉をかける健一に、えりなが笑顔を見せた。

 一方、なのはもえりなとの勝負を心待ちにしていた。その彼女をヴィヴィオが不安の面持ちで見守る。

「ママ・・またケンカするの・・・?」

「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。これはケンカじゃなくて試合。お互いの気持ちを確かめ合うための大切なことなんだよ・・」

 困り顔を見せるヴィヴィオに、なのはが笑顔を見せる。

「私はそう簡単に負けたりしない。だって私は、無敵のエース・オブ・エースなんだから・・・」

 なのはの言葉を受けて、ヴィヴィオが笑顔を取り戻した。それを確かめたなのはは、えりなとの勝負に身を投じようとしていた。

 模擬戦の擬似フィールドの真ん中に立ち、向かい合うなのはとえりな。気持ちをすれ違いを経験していた2人だが、今は負の感情は薄らいでいた。

「なのはさん、もう1度勝負するときが来ましたね・・」

「今度は恨みっこなしの真剣勝負。お互い、悔いのないようにしないとね。」

 互いに自信を込めた笑みを見せて、えりなとなのはが言葉を掛け合う。

「私も結局は、なのはさんと同じ道を歩いてます・・でも、その気持ちはあなたとは正反対です・・・」

「私は私の大切なこと、あなたはあなたの大切なことを伝えていく・・それはどっちも間違ってない。どっちも本当に大切なことだから・・・」

 えりなとなのはは言いかけると、聞き手である右手と左手を握って、軽くこつく。2人は戦う直前の互いの気持ちを確かめ合っていた。

 それぞれ伝えたいことがある。守りたい大切なものがある。

 それらの想いがある限り、少女たちは進み続ける。

 

 これから訪れる、果てしなき栄光の未来に向かって・・・

 

 

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