仮面ライダーオメガ&W -Memories of Double-
第7章
光輝たちが心配になり、ヒカル、くるみ、弥生、亜樹子は風都タワーに向かっていた。その途中、彼女たちは竜也との戦いを終えて体力の回復を待っていた竜を見つける。
「竜くん、しっかりして!」
亜樹子が慌てて竜に駆け寄り、声をかける。
「所長・・不様なところを見せたな・・・」
「何があったのですか?・・光輝くんたちはどうしたのですか?・・・って、質問するのはいけなかったのでしたね・・・」
ヒカルが声をかけると、竜が亜樹子に支えられながら起き上がる。
「みんなは先に風都タワーに行った・・オレはあのガルヴォルスと戦っていた・・何とか追い返したが、力を使いすぎた・・・」
「竜也さんが・・・どうして、憎しみを膨らませていくの・・・?」
竜から事情を聞いて、ヒカルが竜也に対して困惑を感じていた。未だに正義に怒りや憎しみを抱いている竜也に、ヒカルは辛さを感じずにはいられなかった。
「いい加減に行かないと・・タワーだけでなく、風都全体に危険が迫っている・・・!」
竜が風都タワーに向かおうとする。するとヒカルが彼に声をかけてきた。
「光輝さんなら大丈夫です・・光輝さんは強いです・・オメガとしてだけでなく、光輝さん自身も・・・」
「それに翔太郎くんやフィリップくんたちもついてるんだから・・これでダメなわけないじゃない・・」
ヒカルに続いて亜樹子も呼びかけてくる。しかし竜は足を止めようとしない。
「だったらせめて、事件の解決をこの目で確かめておきたい・・オレは刑事だからな・・・」
「それじゃ、みんなで行かないとね。所長のあたしが事件解決の瞬間を見ないでどうすんのって話だからね・・」
竜の言葉を聞いて、亜樹子も意気込みを見せる。
「そのつもりでも、最低でも危なくなったらすぐに逃げろ・・痛い目を見たら元も子もないからな・・」
竜が注意を促して、亜樹子に支えられながら風都タワーに向かう。
「あたしたちも行くわよ、ヒカルちゃん・・」
くるみに呼びかけられて、ヒカルが真剣な面持ちになって頷いた。
スピリットフォームオメガとなった光輝と、W・サイクロンジョーカーエクストリームとなって一体化した翔太郎とフィリップ。さらにクリスに変身した太一も、カオスの力を発揮した勝の前に立ちはだかっていた。
「これだけの人数と力を揃えてもムダだ。どんな力も、カオスの前では無力となる・・」
しかし勝は勝気な態度を崩していなかった。
「気をつけて・・今のアイツはパワーが強いだけじゃない。いろんなエネルギーを吸収して、自分のものにしてしまう・・!」
「エネルギーを吸い取る!?・・そんな相手にどうやって・・・!?」
光輝が状況と勝の能力を説明すると、太一が不安の声を上げる。
「このスピリットフォームでも、何とか耐えているのが正直なところだ・・本当だったら、こういうことなら1発で撃破しなければならないことだった・・」
ますます上がっていく勝の力に、光輝は困惑していた。しかしフィリップは諦めていなかった。
「このからくりを破る方法はある。光輝くん、君のオメガとしての、無限に上げることが可能の底力があれば・・もちろん僕と翔太郎、全員の力が必要になるんだけどね・・」
「オレたちの力・・力を合わせる・・・!」
フィリップの言葉を受けて、光輝は揺らぎかけた戦意と正義感を強固なものへと戻した。
「どんな手段を使おうとしているかは知らないが、ムダだと言っているだろう?もっとも、諦めて降参したところで、お前たちがカオスであるオレにパワーを奪われて始末されることに変わりはないがな・・」
勝が不敵に言い放つと、再び全身から不気味なオーラを発する。
「ここで華々しく散るがいい!」
勝が光輝たちに向けてオーラを放出する。光輝たちがとっさに動いて、オーラをかわす。
「何にしても、これ以上街やみんなを巻き込むわけにはいかない!」
光輝がスピリットカリバーを構えて、勝に向かって駆け出す。だが振り下ろしたスピリットカリバーが、勝のカオスのオーラとぶつかった瞬間に動かなくなる。
「まずはお前からか、オメガ!」
勝がスピリットカリバーから光輝の精神エネルギーを吸い取ろうとする。逃れようとする光輝だが、勝のオーラから抜け出せない。
「光輝くん!」
太一が剣「クリスセイバー」を手にして、柄に水晶をセットして勝に飛びかかる。
「クリスストラッシュ!」
勝に向けてエネルギーを込めたクリスセイバーを振りかざす太一。だがこれも勝の放つオーラに防がれる。
「この程度ではオレの邪魔をすることもできないぞ!」
言い放つ勝が右手を伸ばして、太一に叩き込む。クリスの装甲から火花を散らして、太一が突き飛ばされる。
「ぐっ!」
大きなダメージを受けて倒れる太一から、クリスの装甲が消失する。
「太一くん!うわっ!」
声を上げる光輝も勝のオーラで突き飛ばされる。
「オメガももう打つ手がなくなってきたようだな・・」
“Prism,Maximum drive!”
勝利を確信した勝に対し、翔太郎がプリズムソードを構える。その刀身に輝きが集まり、強まっていく。
「これならどうだ・・プリズムブレイク!」
翔太郎がプリズムソードを振り下ろし、輝きを宿した光の刃を放つ。
「ガイアメモリによる能力なら、カオスでもかき消すことができるはずだ!」
Wの光の刃が勝のカオスをかき消そうとする。だが同時に光の刃はカオスにエネルギーを吸い取られていた。
カオスメモリの力を完全に無効化させる前に、光の刃は弾けて消えてしまった。
「くっ・・これでも威力が足りないっていうのか・・・!」
「往生際が悪いな・・ムダだということが分からないのか!」
声を荒げる翔太郎が、勝の放った衝撃波で吹き飛ばされる。立ち上がる光輝と翔太郎だが、勝に対して焦りを膨らませていた。
「感謝の意味も込めて、お前たちから奪って強力になったカオスで葬ってくれる!」
勝が全力で光輝と翔太郎にとどめを刺そうとする。光輝が身構えて、スピリットカリバーに意識を傾けた。
そのとき、勝のまとうカオスの装甲から青白い稲妻がほとばしった。その衝撃で勝の動きが鈍る。
「ど、どうしたんだ!?」
「いったい、何が・・・!?」
勝と光輝が声を荒げる。電撃に襲われて勝が苦痛を覚える。
「どうしたというんだ!?・・力が入らない・・・!?」
思うように体を動かせずふらつく勝。カオスの装甲からあふれるオーラも、彼自身の意思を受け付けずに拡散し始めていた。
「カオスはオレの思うがままに操れる!・・カオスがオレの言うことを聞かないはずは・・・!」
「予測したとおりだ。巨大になりすぎたカオスを制御できなくなってきた・・」
驚愕する勝に声をかけたのはフィリップだった。フィリップは勝がカオスの力を抑え切れなくなることを予測していた。
「確かに君の言うカオスは最強と言っても問題ない力だった。普通の戦い方をしていては、さすがのエクストリームでも勝てなかっただろう・・でも君が元々人間である以上、扱える力の強さには限界がある・・」
「限界だと!?カオスを手に入れたオレに限界などない!それに、オレが人間ではなくガルヴォルスであることも忘れているのではないか!?」
「忘れているのは君のほうだろう?ガルヴォルスは人間の進化。元をたどれば人間ということだ・・」
声を荒げる勝だが、フィリップは淡々と語っていく。
勝は確かにカオスという巨大な力を手に入れて、光輝たちを追いこんでいた。だが膨れ上がったカオスは、ついに勝が制御できる強さを超えてしまった。
「たとえパワーが最強でも、きちんと使うことができなきゃ宝の持ち腐れだな・・」
翔太郎も続けて勝に向けて言いかける。
「形勢逆転だ・・熊木勝、お前の悪だくみもこれで終わりだ!」
光輝がスピリットカリバーを構えて、勝を見据える。光輝も翔太郎も勝機を見出していた。
「信じるものか・・カオスは今、オレの体の一部となっている・・・!」
勝が声と力を振り絞り、強引に体を動かしていく。
「オレはカオス!オレが風都を、世界を動かせる!」
怒りを膨らませた勝が、カオスを放出させる。だが彼は実際にはカオスを制御できておらず、暴走状態にあった。
「このままカオスを使わせたら、熊木勝はカオスにのみ込まれて消滅してしまう・・・!」
「今度こそメモリブレイク・・いや、カオスのベルトを破壊する・・・!」
フィリップの呼びかけに翔太郎が答える。
「カオスは風都や世界を壊す力・・熊木勝の暴走、必ず止めてみせる!」
光輝も最後まで勝に立ち向かおうとしていた。
「それでも、アイツのカオスが強力だということに変わりはない・・今度こそ、一気に全力で終わらせるぞ・・・」
「そのつもりだ・・次の攻撃で、全てを賭ける!」
翔太郎の呼びかけに光輝が答える。光輝がスピリットカリバーを地面に刺し、翔太郎がプリズムメモリをWドライバーに移す。
“Prism,Maximum drive!”
翔太郎が黒と緑の風を巻き起こして飛翔し、光輝も右足にエネルギーを集めて大きく飛び上がる。
「お前たち2人まとめて、オレのカオスで木っ端微塵にしてやる!」
“Chaos,Maximum drive!”
勝も右足にカオスの力を集めて飛び上がる。
「砕け散れ!カオススマッシャー!」
「スピリットライダーキック!」
「ダブルエクストリーム!」
勝の右足のキックに対し、光輝が右足を、翔太郎が両足を突き出してのキックを繰り出す。3つのエネルギーがぶつかり合い、太陽のような閃光が放たれた。
竜を連れて風都タワーの前に辿りついたヒカルたち。ヒカルが光輝たちを探して周囲を見回したときだった。
勝と光輝、翔太郎のキックの激突による閃光が発した。そのまぶしさにヒカルたちは目を閉じた。
「な、何よ、あれ・・・!?」
「これも、熊木勝の仕業か・・・!?」
亜樹子と竜が声を上げる。やがて光と轟音が弱まり、ヒカルたちが目を開く。
「ど・・どうなったの・・・!?」
「行きましょう、みなさん・・・!」
困惑を見せるくるみと、何とか気持ちを落ち着かせて呼びかけるヒカル。彼らは光が放たれたほうに向かって、再び歩いていった。
駆け付けたヒカルたちの視線の先で、光輝、翔太郎、勝が着地した。彼らは振り返ることなく、重苦しい静けさがのしかかってきていた。
この沈黙を破ったのは、勝が身につけているカオスドライバーの破損だった。シャイン、ダーク、カオスの3つのガイアメモリ、カオスクリスタル諸共、カオスドライバーが壊れて、勝から外れた。
全ての力を使い果たした勝が、力なく倒れる。彼の体からカオスの装甲が消失した。
「バカな・・・カオスが・・打ち砕かれるなど・・・!?」
愕然となる勝。体力の消耗と体の痛みで、彼は立ち上がることも動くこともできなくなっていた。
「オレはガルヴォルス・・・さらにカオスは、複数のガイアメモリと、クリスタルユニットを備えていた・・・それなのに、なぜ・・・!?」
「分かっていないようだな・・オレたちWの底力がどんなものなのか・・・」
疑問を覚える勝に、翔太郎が声をかけてきた。
「Wも複数のガイアメモリを使う。メモリ1つの力を超えることができる・・だけどな、Wは1人じゃない・・」
「僕と翔太郎、2人でWなんだ。僕たち2人だから、Wはどんな真実も突きとめることができる。どんな相手にも負けることはない・・」
翔太郎に続いてフィリップも勝に呼びかける。
「そうさ・・Wは、2人で1人の仮面ライダーだ・・・」
翔太郎が投げかけた言葉を受けて、勝がさらに愕然となる。さらに光輝も勝に声をかけてきた。
「オレは実際は1人で戦っている・・でもオレには、オレを助けたり支えたりしてくれる人や仲間がいる・・」
光輝の脳裏に、これまでの戦いと、仲間たちが励ましてくれた瞬間が蘇ってきた。メガブレイバーがいたから、ガルヴォルスから人々を助けることができた。ヒカルたちを守りたいという気持ちが、自分を強くしていった。
そして今、翔太郎とフィリップ、Wがいたから勝の暴走を止めることができた。光輝はそう思っていた。
「世界のどこかで1人戦う仮面ライダー・・でも本当は1人じゃない・・ともに戦ってくれる仲間がいるから、仮面ライダーは強くなれるんだ!」
翔太郎、フィリップとの絆を実感して、光輝が勝に言い放つ。正義と仲間が、彼らに限りのない力を与えていた。
「認めないぞ・・カオスが、お前たちの口にする仲間や正義に負けるなど・・・!」
力ずくで自分の体を突き動かそうとする勝。彼の頬に紋様が走る。
「オレこそが無敵・・カオスこそが絶対の力・・・ぐっ!」
だが次の瞬間、勝が突然動きを止めた。彼の体が色を失くし、固まっていった。
「どうしたんだ・・・!?」
「ガルヴォルスとしての最期を迎えたんだ、熊木勝は・・・」
声を上げる翔太郎に、フィリップが説明を入れる。光輝も勝の異変を理解していた。
勝の体が砂のように崩れて消滅していった。ガルヴォルスである彼の最後である。
「カオスは使っていた熊木勝のエネルギーや精神力だけでなく、命さえも消耗していた・・助かるわずかな可能性、僕も信じていたが・・・」
「熊木はカオスからようやく解放された・・そう言ってもきれいごとにしかならないけどな・・・」
フィリップの説明を聞いても、翔太郎はやりきれない気持ちを消すことができなかった。
光輝と翔太郎がオメガ、Wへの変身を解く。翔太郎から離れたエクストリームメモリから、フィリップが現れた。
「光輝さん、翔太郎さん、フィリップさん・・大丈夫ですか・・・?」
ヒカルが光輝たちに心配の声をかけてきた。
「体のほうは大丈夫・・でもこの結末、辛いね・・初めてのことじゃないのに、何度起こっても・・・」
光輝がヒカルに物悲しい笑みを見せて答える。彼は最終的に勝を死なせてしまったことを後悔していた。
そこへ理子が光輝たちの前に顔を出してきた。体も少し休まっており、気持ちもある程度落ち着いていた。
「熊木勝は・・・?」
「カオスの力を暴走させてしまった・・・カオスを膨らませ過ぎて、制御できなくなった・・・」
理子の問いかけに翔太郎が深刻さを浮かべて答える。理子は勝の死に対して、得とも損ともいえない気分を感じていた。
「あなたもあのままガイアメモリの力にのまれて、力を求めたまま暴走していたら、熊木の二の舞を踏んでいただろう・・」
「私も、熊木と同じようになっていた・・・?」
「でもあなたは引き返すことができた・・罪を償って、もう1度やり直すことができる・・・」
困惑を見せる理子に、翔太郎が落ち着いた様子で答える。そして光輝が微笑みかけて、理子に声をかける。
「子供たちと一緒にいるあなたは、心から笑顔で、とても幸せに見えました・・これからも、子供たちの笑顔と幸せのために頑張ってほしいです・・・」
「光輝さん・・翔太郎さん、フィリップさん・・・」
優しく声をかけてくる光輝に、理子が戸惑いを膨らませる。彼らの言葉と戦いに勇気づけられて、彼女は心を揺さぶられていた。
「私・・またみんなと楽しく過ごせるのでしょうか・・・?」
「お前に罪を償う心構えがあるならな・・・」
理子が涙を見せると、竜が彼女の肩に手を添えてきた。
「行くぞ・・熊木勝ほどではないが、お前もガイアメモリを悪用した犯罪者であることに変わりはないのだからな・・・」
「あの・・・また、子供たちに会えますよね・・・?」
「オレに質問するな・・それにお前も、答えがひとつしかない質問をしてくるんだな・・・」
問いかけてくる理子に、竜が突っ張った態度を見せるだけだった。
「せめておだてるぐらいできるだろう・・・」
「それで罪が軽くなるわけではないだろう・・・」
翔太郎が口を挟むが、竜は聞き入れようとしない。彼は刑事として、理子を連れていった。
「理子さん・・・」
歩いていく理子の背中を見つめて、ヒカルが戸惑いを浮かべる。
「きっとまた・・子供たちの前にやってきてください・・理子さんはみなさんの先生なんですから・・・」
心優しい理子の姿を思い浮かべて、ヒカルは微笑んで見送った。
竜の攻撃で吹き飛ばされた竜也。増すばかりの怒りと憎しみと違い、竜也の体力は大きく消耗していた。
「オレは立ち止まるわけにはいかない・・絶対にヤツらを倒さなければ・・・!」
声と力を振り絞って、竜也がゆっくりと歩いていく。だが今の彼はすぐに戦える状態ではなかった。
「そしてヤツを・・吉川光輝を・・今度こそ・・・!」
光輝への怒りと因縁を胸に秘めて、竜也は歩いていく。偽物の正義を滅ぼすという決意の赴くままに、彼は風都を後にした。
風都で起きた今回の事件と戦い。
竜と竜也の激突。光輝、翔太郎、フィリップの戦い。一矢、太一の奮闘。
彼らの戦いと能力を、ひとつの不気味な視線が捉えていた。
「電王、W、オーズ、そしてオメガ・・全てのライダーの戦いを見させてもらった・・・」
その視線を送る影が呟くと、重圧のある足音を響かせて歩き出した。
「次に会うときがお前たちの最後だ・・・」
さらに呟きを残して、足音はさらに響く。光輝たちの戦いを見守っていたのは、暗黒結社「ゴルゴム」の世紀王の1人、シャドームーンだった。
こうして、勝と理子が起こした事件は終わりを迎えた。カオスの力を暴走させた勝は消滅し、理子はシーフメモリを失い、身柄を確保された。
オメガのベルトを盗まれたことが始まりのこの事件。探偵と依頼人の関係から始まった、光輝と翔太郎、フィリップは、仮面ライダーとしての結束を結ぶようになっていた。
束の間の休息を、光輝、ヒカル、くるみ、太一、弥生は風都で過ごした。一矢は先に風都を後にした。
「いろいろなことがありましたね・・・」
「オメガのベルトを盗まれただけのはずが、風都全体を巻き込んだ大事件になるなんて・・・」
ヒカルとくるみが今回の事件を思い出していく。
「小さな事件でも、大きな事件と何らかのつながりを持っていることもある。僕たちはそんな経験を何度もしていて、それらを切り抜けてきている・・」
フィリップが淡々とした口調で言いかけてくる。
「占いに熱中していたのに、すっかりその熱も冷めちゃったわね・・」
彼の様子を見て、亜樹子がため息をつく。興味を持ったものに熱中するフィリップだが、検索を終えると興味が全くなくなってしまうのである。
「さて、そろそろ帰らないと・・いつまでも出かけたままじゃいけないから・・・」
光輝がヒカルたちに呼びかけてきた。
「もう行くのか・・まだ風都を十分に楽しんでないと思うんだが・・・」
翔太郎が声をかけるが、光輝が微笑んだまま首を横に振る。
「またいつでも風都に行けるから・・・それに、この風都を守る仮面ライダーがいることも分かった・・・」
光輝が翔太郎に向けて手を差し伸べてきた。
「たとえ離れていても、自由と平和を守りたいという気持ちは同じ・・そうだよね・・・?」
「そういうことになるな・・能力に違いはあるが、人を守り悪事を止める。その考えは同じだ・・」
光輝の言葉に翔太郎が答え、手を取って握手を交わした。遠く離れることになっても、友として、仮面ライダーとしてともに戦っていくことを、光輝も翔太郎も誓いを立てていた。
「それじゃ行くよ・・また必ず風都に、この事務所にやってくるよ・・・」
「あぁ・・今度はくだらなくない依頼を頼むぜ・・・」
事務所から去っていく光輝に、翔太郎が悠然とした態度で声をかけた。
「では私たちも失礼します・・」
「あぁ・・ヒカルさん、いつでも遊びに来てくれ・・・」
頭を下げて挨拶するヒカルに、翔太郎がキザな態度を見せて答えた。くるみ、太一、弥生とともに帰っていったヒカルを、翔太郎、フィリップ、亜樹子が見送った。
こうして、力を追い求めての事件と、風都の外で戦う仮面ライダーとの出会いは終わった。
たとえ離れていても、自由と平和を守りたいという気持ちは同じ。
吉川光輝、仮面ライダーオメガとの出会いは、オレとフィリップにとって心強いことだ。
風都の中でうごめく犯罪を吹き飛ばす風として、オレたちはこれからも戦っていく。
2人で1人の探偵として、仮面ライダーとして。
罪を憎んで人を救う。オレたちがこの志を忘れなければ、光輝だけじゃない。他の仮面ライダーと出会い、力を合わせるときがまた訪れる。
仮面ライダーとして、そう信じていきたい。
光輝たちと協力して解決した事件についてまとめた報告書を、翔太郎は仕上げていた。彼は報告書をタイプライターで打ち込んでいった。
(吉川光輝、オメガか・・仮面ライダーとして、また一緒に戦いたいものだな・・・)
光輝との再会と協力を願って、翔太郎は微笑んだ。
「あーー!!しまったーー!!」
そのとき、事務所に亜樹子の悲鳴が響き渡った。突然の彼女の声に翔太郎が驚く。
「どうしたんだよ、いきなり・・・!?」
「光輝くんたちから、ベルト探しの依頼料をいただいてなかった〜・・せっかくの儲けが〜・・・」
声を荒げる翔太郎に、亜樹子が肩を落とす。依頼料を忘れてしまい、彼女は儲けを得ることができなかった。
「アイツらとはもう親友だ。その友情が、今回の依頼料だ・・」
落ち着いた口調で声をかける翔太郎。だが彼は直後に亜樹子にスリッパで叩かれる。
「いたっ!何すんだよ、亜樹子!?」
「重要が芽生えたって儲けはでないわよ!ちゃんと稼がないと、あたしたち働けなくなるわよ!」
不満の声を上げる翔太郎に、亜樹子が怒鳴りこんでくる。
「あー、もうどうしたらいいのよー!」
「やれやれ・・オレが最後までハードボイルドでいられるのはいつになるんだよ・・・」
悲鳴を上げる亜樹子と、呆れて肩を落とす翔太郎。フィリップは次の新しい関心を求めて検索を進めていた。
新しい仮面ライダーの絆を胸に、翔太郎たちは次の依頼を待つのだった。