仮面ライダーマックス
ブレイクハート・魂の闘い
第7章
国会議事堂に向かっていくゴウ。彼の前に自衛隊の1部隊が現れて、銃砲を構えた。
「止まれ!これ以上進むと発砲するぞ!」
部隊の隊長がゴウに向けて警告する。
「そんなものでオレを止められるわけがないだろう・・・」
ため息まじりに言いかけるゴウが、警告を聞くことなく前進する。
「止まらないか!撃て!一斉射撃だ!」
隊長が指示を出して、隊員たちが銃やバズーカをゴウ目がけて発射する。次の瞬間、ゴウがエネルギーのパンチを振りかざして、銃撃をかき消した、
「な、何っ!?」
攻撃が通用しないことに、隊長が驚く。
「身の程と愚かさを思い知ることだ・・」
ゴウが自身の両手を振りかざして、エネルギーのパンチを繰り出す。パンチはロケットのように飛んで、自衛隊に直撃した。
「うわあっ!」
隊員たちが吹き飛ばされて、次々に地面に倒れていく。立ち上がれずに動けなくなる隊員たちを見下ろして、ゴウがため息をつく。
「後は中にいるヤツら・・・いや、逃げ出している・・・」
ゴウが議員たちを狙って歩き出す。彼は議員たちが議事堂から離れていることに気付いていた。
ゴウから1度逃げ出したツバキたちだが、少しして戻ってきた。そこでツバキたちは、倒れていたノゾムたちを支えていた。
「ノゾム、しっかりして!」
「ソウマくん!シゲルさん!」
ツバキ、タイチたちに呼びかけられて、ノゾムたちが意識を取り戻した。
「くっ・・アイツ、ふざけたマネを・・・!」
ノゾムが体を起こして、ゴウへの怒りをたぎらせる。
「アイツは、どこに行ったんだ・・!?」
「分かんない・・戻ってきたときには、あのライダーはいなかったよ・・」
ソウマが周りを見回して、ツバキが答える。
「もしかしたら、日本のお偉いさんのところに行ったのかもな。世界をひっくり返すことがアイツらの目的みたいだからな・・」
シゲルがゴウたちのことを考えて言いかける。
「アイツらの好き勝手にさせるか・・すぐに追いかけて・・・!」
「待って、ノゾムお兄ちゃん!エクシードでも勝てなかったアレを、どうやって止めるの!?」
立ち上がるノゾムだが、ワタルに呼び止められる。
「どけ、ワタル・・オレはアイツを許しちゃおけないんだよ・・!」
「でもこのまま行ってもどうにもならないよ!ノゾムお兄ちゃんに何かあったら、僕たち・・!」
怒鳴りかかるノゾムだが、ワタルが投げかけた言葉を聞いて、我に返って思いとどまる。
「ワタル・・すまない・・・」
肩を落とすノゾムに安心して、ワタルがひと息つく。
「私が、あのカードを持ち出して渡さなければ、こんなことにはならなかったのに・・・」
カイトがノゾムたちに謝罪をしてきた。
「過ぎたことを悔やんでもしょうがないですよ。問題は、これからどうするかです。」
シゲルが言い返して、腕組みをしてみせる。
「急いであのカードを持っていくことばかり考えていたけど・・あそこは、そのベルトやカードと思われるものがあったような・・」
カイトが記憶を呼び起こして、自分が侵入した施設のことを思い出した。
「その施設って、もしかして、お父さんたちの・・・!?」
彼の言葉を聞いて、ツバキが戸惑いを覚える。
「あの、その施設、どこにあるか知りませんか!?・・もしかしたら、お父さんたちが使っていた施設かもしれないんです!」
「ツバキちゃん・・!?」
カイトに問いかけてきたツバキに、ソウマが動揺を覚える。
「その場所は覚えているよ・・ここから北西の山奥の施設で、しばらく使われていなくて、人が入った感じもなかった・・」
「そうですか・・でも私、行きます!もしかしたら、近くにお父さんがいるかもしれない・・!」
カイトの話を聞いて、ツバキが施設へ行くことを決める。
「でもツバキちゃん、今はそんなことをしている場合じゃ・・!」
「いや、オレもそこへ行く・・」
タイチが不安の声を上げると、ノゾムもツバキと一緒に行こうとする。
「ノゾム・・・!」
「そこに行けば何かあるかもしれないからな・・悪い気は今のところしてないし・・」
ユウキが戸惑いを見せる中、ノゾムが自分の考えを口にする。
「ツバキ、さっさと行って何か見つけて、さっさとあのヤローを追いかけるぞ・・・!」
「ノゾム・・うん・・ありがとうね、私のために・・」
呼びかけるノゾムに、ツバキが微笑んで感謝する。
「オレがそうしようと思っただけだ・・」
“タイガー!”
ノゾムは言いかけると、ビースドライバーにタイガーカードをセットした。
“チャージ・タイガー!タイガーマッハ!タイガーパワー!タイガータイガーランナー!”
タイガーランナーが駆けつけて、ノゾムとツバキの前で止まった。
「乗れ、ツバキ・・行くぞ・・!」
「うん・・!」
ノゾムが呼びかけて、ツバキが頷く。タイガーランナーに乗ったノゾムの後ろに、ツバキも乗る。
「ノゾムお兄ちゃん、ツバキお姉ちゃん、必ず戻ってきてね・・」
「もちろんだ、ワタル・・」
ワタルが言いかけて、ノゾムが低い声で答える。タイガーランナーが彼とツバキを乗せて走り出した。
「オレたちはアイツを追いかけるか・・!」
「このままアイツを野放しにしていたら、世の中がおかしくなってしまう・・・!」
シゲルとユウキが言いかけて、ゴウが歩いていったほうへ振り向いた。
「リク、カズトのことを頼む・・私もノゾムくんたちを追いかける・・」
「お父さん・・・」
呼びかけるカイトに、リクが戸惑いを見せる。
「お父さん・・絶対に戻ってきて・・もう離れ離れはイヤだよ・・・!」
カズトが涙ながらに言いかけると、カイトが彼の頭を優しく撫でる。
「もちろんだ、カズト・・また私たち家族そろって、一緒に暮らそう・・・!」
カイトとの約束に、カズトとリクが頷いた。カイトはフクロウの姿をしたオウルビースターとなって、翼をはばたかせて飛び上がって、ノゾムたちを追っていった。
「お父さん・・・」
カイトを心配するカズトを、リクが優しくなだめた。
カイトの知らせた施設の近くに、ノゾムとツバキがたどり着いた。カイトも着地して、彼らに追いついた。
「ここが、お父さんたちが使っていた研究施設・・・」
ツバキが施設の建物を見つめて、悲しい顔を浮かべる。
「本当に、しばらく人が来た感じがしない・・これじゃ、お父さんがここにいる可能性は・・・」
「確かめもしないでそう決めるな・・まず入ってみるぞ・・」
不安を口にするツバキに、ノゾムが不満げに呼びかける。
「ノゾム・・そうだね・・もしかしたら奥にいるかもしれないし・・」
ツバキが小さく頷いて、ノゾムとともに施設の中に向かっていく。カイトも2人のことを気に掛けながら、彼らに続いた。
施設の建物の中は明かりがなく、廊下は暗かった。ノゾムたちは目を凝らして、周りを確かめながら進む。
「本当に誰かがいた気配がしない・・ほこりだらけで、誰かが入っていたら足跡が付きそうだが・・」
カイトも目を凝らして廊下を見回していく。
「誰かいる気配もしない・・ビースターが気配を隠して隠れているかもしれないけど・・・」
カイトの言葉を聞いて、ツバキが緊張を感じていく。ノゾムは目つきを鋭くしたまま、部屋を見て回っていく。
そしてノゾムたちは、ある1つの部屋の前にたどり着いた。
「ここだ・・この部屋の中に、ゴウが使ったアクシスのカードがあった・・」
カイトがノゾムたちに告げて、部屋のドアを開けた。彼はドアのそばのスイッチを押して、明かりを入れた。
「ここに、あのカードが・・・」
アクシスカードを思い出して、ノゾムが呟く。
「もしかしてカイトさん、ここに入ったことがあるのですか?それにしては、足跡も付いていなかったような・・」
ツバキがカイトに疑問を投げかける。
「忍び込むことには慣れているんだ・・ただ、足跡1つ残さずに出入りできるのは、ビースターの中でも少ないはずだ・・」
「カイトさんも、そうやってここに・・・」
カイトの説明を聞いて、ツバキが納得する。
「もしかして、ここにあるカードじゃないのか・・?」
ノゾムが声をかけて、机の1つの引き出しから1枚のカードを取り出した。白と黒に彩られたカードで、特徴などは描かれていない。
「何だろう、このカード?・・アニマルカードかどうかも分かんない・・・」
ツバキもカードを見て戸惑いを感じていく。
「外に出て使うとするか・・何かあってここが崩れたらたまんないからな・・」
ノゾムがそのカードを持って外に出ようとした。
「待って!・・引き出しの中にまだ入っているよ・・!」
ツバキが机に近寄って、引き出しの中にあったものを取り出した。それを見たツバキが目を見開いた。
それは1枚の写真。写っていたのは彼女の父のテツロウや、彼の同僚の中野シゲアキたち研究チームだった。
「お父さんたちの写真・・ということはこのカードは、お父さんたちが作った・・・!?」
ツバキは写真の中にテツロウたちを見つめて、戸惑いをふくらませていく。彼女は父親への思いを抱いて、目から涙をあふれさせた。
「ノゾム、このカードがお父さんたちが、お父さんたちの意思で作ることを決めたのなら、きっとノゾムや私たちの力にあるはずだよ・・・!」
ツバキが真剣な顔で呼びかけて、ノゾムが頷く。3人は部屋を後にして、施設の外へ出た。
「外に出れば、コイツの中身が物騒なものでも、周りにはそんなに影響は出ないはずだ・・」
ノゾムが呟いてから、白黒のカードを見つめた。
“エクストラ!”
彼は白黒のアニマルカード「エクストラカード」をビースドライバーにセットする。
「よし、行くぞ、ツバキ・・・!」
「うん・・・!」
ノゾムが言いかけて、ツバキが頷いた。ノゾムがビースドライバーの左上のボタンを押した。
“チャージ・エクストラー!エクスドライブ・エクスブレイク・エクストラマックスライダー!”
ビースドライバーから音声が発する。ノゾムが身にまとったマックスのスーツとマスクは、エクシードフォルムに似ていたが、白と黒というシンプルな色となっていた。
「ノゾム、どういう気分?・・体のほうは何ともない・・・!?」
ツバキが緊張しながら聞く。ノゾムが両手を見つめて、今の自分の状態を確かめる。
「特に何も感じない・・痛みも、おかしな感じもない・・」
ノゾムは両手を握って、さらに感覚を確かめていく。しかし彼は痛みや違和感を感じない。
「戦った後に何かあるかもしれないが・・・このまま、アイツのところに行く・・・!」
ノゾムがツバキに言って、タイガーランナーに乗った。するとタイガーランナーがノゾムに反応して、一瞬輝きを発した。
「えっ!?・・今の、何っ・・!?」
ツバキがこの輝きに驚きを覚える。
「よく分かんないが・・トラも悪い感じは受けてないみたいだな・・・」
ノゾムがタイガーランナーの様子を見て呟く。彼はアクセルをかけて、タイガーランナーを走らせた。
「私も追いかけます・・ありがとうございました、カイトさん。」
「待ってくれ。私につかまってくれ。飛んでいけば少し早く着ける・・」
お礼を言うツバキに、カイトが呼びかける。
「すみません・・お願いします・・!」
ツバキが感謝して、カイトの背中にしがみつく。
「振り落とされないように、気を付けてください・・・!」
カイトは呼びかけると、ツバキを連れて空へ飛び上がって、ノゾムを追いかけていった。
政治家たちを追って、ゴウが歩いていく。彼を追いかけて、ソウマ、シゲル、ユウキ、セイラ、タツヤが駆けつけた。
「そこまで葬り去られたいと・・・?」
ゴウが振り返ってため息をつく。
「違うな・・お前を倒したくてウズウズしてるんだよ!」
“フォックス!”
ソウマが言い放って、ビースドライバーにフォックスカードをセットした。
「オレたちが諦めることに、期待しないほうがいいぞ・・・!」
“オックス。”
シゲルも告げて、オックスカードをビースブレスにセットした。
「変身!」
“チャージ・フォーックス!ソニックフォックス!ソリッドフォックス!ビース・ハイスピード!”
“スタートアップ・オックス。”
ソウマとシゲルがフォックス、オックスに変身して構えを取る。ユウキ、セイラ、タツヤもドラゴンビースター、キャットビースター、スネイクビースターとなる。
「何をしようと束になろうと、オレに敵わないことが分からないとは・・」
ゴウはため息をつくと、ソウマたちを迎え撃つ。
「一気に力の全部を叩き込んでやる!」
“フォックスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
“オックス・ロードスマッシュ。”
ソウマが言い放って、シゲルとともにジャンプして、ゴウに向けてキックを繰り出す。
「身の程を知ろうともしない愚か者たちが・・・!」
ゴウが言いかけて全身からエネルギーを放出する。エネルギーのパンチが、ソウマたちのキックにぶつかった。
「ぐあっ!」
ソウマとシゲルが吹き飛ばされて、地面に強く叩きつけられる。
「ソウマくん、シゲルくん!」
タツヤが叫んで、ユウキとセイラがゴウに向かっていく。ユウキは一気に刺々しい姿へと変わる。
ユウキとセイラが加速して、ゴウを飛び越えて注意を乱そうとする。
「蚊トンボの小細工もオレには通用しない・・!」
ゴウが呟いて、自分の握った両手を強く合わせる。エネルギーの両手も同様に合わせて、衝撃を巻き起こした。
「うぐっ!」
「キャッ!」
強い突風が押し寄せて、ユウキが耐えるが、セイラは吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「セイラさん!」
タツヤが叫んで、ユウキに加勢する。
“アクシスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ゴウがビースドライバーの左上のボタンを2回押して。エネルギーのパンチを飛ばす。
「ぐっ!」
ユウキとタツヤがパンチを受けて、地面に叩きつけられる。ユウキは力を振り絞って、ゴウのパンチを押し返そうとする。
「ムダなあがきを繰り返す・・・」
ゴウがもう1つのエネルギーのパンチも、ユウキに叩き込む。
「ぐあぁっ!」
さらに重みのある打撃を受けて、ユウキが絶叫を上げる。パンチの威力に耐えられなくなって、彼は動けなくなる。
「2度と抵抗できぬよう、バラバラにしてくれる・・・!」
ゴウがユウキにとどめを刺そうと、エネルギーの両手を振り上げた。
「ユウキ、逃げて!」
セイラが呼びかけるが、ダメージが大きくなっているユウキは立ち上がることもままならない。
そのとき、ゴウが気配を感じて動きを止めた。気配はユウキ、セイラ、タツヤも感じ取った。
エクストラのカードを使ったノゾムが、タイガーランナーに乗って駆けつけて、ゴウの前で止まった。
「ノ、ノゾム・・!?」
「その姿・・・!?」
ソウマとシゲルがノゾムを見て、驚きを覚える。
「もしかして、新しいカードを手に入れて使っているのか・・・!?」
タツヤが問いかけると、ノゾムが振り向いて小さく頷く。
「お前、マックス、神奈ノゾムか・・?」
「今度こそお前をブッ倒す・・お前のようなヤツを、オレは許さない・・!」
声をかけるゴウに、ノゾムが鋭く言いかける。彼がアクセルを掛けて、タイガーランナーがゴウに向かって走り出す。
「そんなものでオレを倒せると思っているとは・・」
ゴウは呆れ果てて、ノゾムを迎撃しようとエネルギーの両手を構えた。彼はノゾムに向かってエネルギーのパンチを繰り出した。
ノゾムとタイガーランナーは的確にパンチをかわして、ゴウに詰め寄ってきた。
「くっ!」
タイガーランナーの突進を受けて突き飛ばされて、ゴウがうめく。難なく着地した彼だが、ノゾムに攻撃をかわされたことに疑問を覚える。
「今のオレの手を焼かせるとは・・だがそれもこれまでだ・・・!」
ゴウは鋭く言うと、再びノゾムにエネルギーのパンチを繰り出した。タイガーランナーは機敏な動きで、またパンチをかわした。
ゴウは変則的な軌道も織り交ぜて、ノゾムを攻め立てる。しかしノゾムとタイガーランナーはそれもかいくぐっていく。
「いつまでもいい気になれると思うな・・このオレの力、思い知らせる・・!」
ゴウがノゾムに詰め寄って、至近距離でタイガーランナーにパンチを叩き込んだ。タイガーランナーは怯んだが、ノゾムはジャンプしてゴウの横に回った。
「次はお前だ、マックス・・!」
ゴウが振り返り様に、ノゾムに向かってパンチを繰り出す。次の瞬間、ノゾムの姿がゴウの視界から消えた。
その次の瞬間に、ゴウが体に衝撃を覚えた。ノゾムが一気に詰め寄って、ゴウに高速のパンチを連続で叩き込んだ。
「な、何っ!?・・今のオレが、これほどのダメージを・・!?」
ゴウが驚きながら、大きなダメージでふらつく。足を止めたノゾムに、彼が鋭い視線を向ける。
「この力で、お前をねじ伏せる・・こんなところでもたついている場合ではない・・!」
ゴウがいきり立って、エネルギーのパンチをノゾムに向けて繰り出す。しかしノゾムはパンチを素早くかわす。
「ぐふっ!」
ノゾムの高速のキックを体に受けて、ゴウが大きく突き飛ばされる。彼はとっさにエネルギーのパンチを地面に付けて、踏みとどまって着地する。
「バカな!?・・今のオレが、ここまで追い詰められるなど・・・!?」
呼吸を乱すゴウが、ノゾムに追い詰められていることにいら立ちを感じていく。
「オレは世界に復讐するのだ・・オレを実験台にした愚か者たちに、その過ちの罪の重さを思い知らせなければならないのだ・・・!」
「それでオレたちにイヤな思いをしてもいいっていうのかよ・・・!?」
声を振り絞るゴウに、ノゾムが怒りの声を上げる。
「オレは絶対に認めはしない・・自分の考えを押し付けて、それが正しいと思い上がっているヤツを・・!」
「ならば相手が違うだろう・・お前の憎むべき敵も、愚かな世界のはず・・!」
「そいつがおかしなマネをしていると分かったら、オレはそいつを叩き潰す・・しかも、関係ないヤツを巻き込むつもりもない・・・!」
「綺麗事を・・結局お前も、思い上がっているヤツの1人ということか・・・!」
自分の意思を貫くノゾムに、ゴウがいら立ちをふくらませていく。
「お前も消えるがいい・・愚か者たちとともに!」
ゴウが言い放って、エネルギーのパンチを地面に叩きつけた。土煙が舞い上がって、ノゾムが視界をさえぎられる。
次の瞬間、ノゾムがエネルギーの手につかまれて持ち上げられた。
「ノゾム!」
「捕まえてしまえば、素早く逃げることもできないぞ!このままお前を握りつぶす!」
ユウキが声を上げて、ゴウがエネルギーの両手に力を込める。
「お前には潰されない・・潰されるのは、お前のほうだ!」
ノゾムが言い放って、全身に力を入れる。エネルギーの両手が引き離されて押し返される。
「バカな!?・・オレの、アクシスの力が通じない・・・!?」
自分の力がことごとく跳ね返されることに、ゴウが絶望を思い知らされる。
「オレはお前をブッ倒す・・自分のために他のヤツを犠牲にするヤツを許さない・・それだけだ・・!」
ノゾムが自分の考えを貫く。彼は全身から光を発して、ゆっくりと浮遊する。
ノゾムは光を足に集めて、ゴウに向かって降下する。
「オレはこの復讐を果たす・・誰にも邪魔はさせん!」
“アクシスチャージ!アニマルスマーッシュ!”
ゴウも全身から光を発して、エネルギーの両手のパンチを繰り出して、ノゾムのキックとぶつけ合った。
ノゾムのキックに押されて、ゴウが大きく吹き飛ばされて倒れた。
「や、やった・・!」
「ノゾムお兄ちゃん、あの悪いライダーをやっつけた・・・!」
タイチとワタルがノゾムの勝利に戸惑いと喜びを覚える。
「やったよ・・やったんだね、お兄ちゃん、お父さん!」
「うん・・僕たち、やっと解放されたんだ・・・!」
カズトも喜んで、リクが頷く。カイトも2人を見て小さく頷く。
「まだだ・・オレが、終わらせん・・・!」
そのとき、倒れていたゴウが立ち上がって、声と力を振り絞ってきた。彼の体から煙のような黒いオーラがあふれ出していた。
「お前・・性懲りなく・・・!」
ノゾムがゴウにいら立ちを浮かべる。呼吸を乱しながらも、ゴウはオーラを放出していた。
「復讐を果たすまで、オレは倒れん・・こうなれば、オレの持てる力の全てを使って、全てを滅ぼす・・・!」
復讐心をたぎらせて、ゴウは力も感情もあらわにする。それに呼応するように、黒いオーラが一気にふくらんでいく。
「おいおい・・何だよ、こりゃ・・!?」
「暴走というの!?・・それで、これほどの力を出してくるなんて・・・!」
シゲルとセイラがゴウの変化を目の当たりにして、息をのむ。
「消し去ってくれる・・お前たちを、オレの手で・・・!」
ゴウは言い放つと、黒いオーラに完全に包まれた。漆黒の姿となった彼が、ノゾムたちに迫る。
「オレは消えない・・オレたちは消えない・・消えるのは・・お前のほうだ!」
ノゾムが怒鳴り声を上げて、全身から光を発して浮遊する。
「みんな、早くここから離れるんだ!」
「リク、カズト、こっちだ!」
タイチとカイトが呼びかけてツバキ、カズト、リクとともに離れる。ソウマ、シゲル、ユウキ、セイラ、タツヤはノゾムとゴウの勝負を見届ける。
「この力の全てを使って、お前を他のヤツら諸共消し去る!」
ゴウが言い放って、ノゾムに向かって突っ込む。
「消えるのは、お前だけだ!」
ノゾムが言い放って、ビースドライバーの左上のボタンを2回押した。
“エクストラチャージ!エクストラスマーッシュ!”
ノゾムがエネルギーを集めたキックを繰り出して、ゴウとぶつかり合う。
「うわっ!」
閃光のような爆発と衝撃で、ソウマたちは目がくらんで押されていく。ノゾムのキックのエネルギーが、ゴウの漆黒のエネルギーを吹き飛ばしていく。
「バカな・・このまま、復讐を果たせずに倒れるのか・・・倒すべき敵がまだいるのに・・・!」
生き延びようと抗うゴウが、ノゾムに向かって手を伸ばす。
「オレたちをどうかしようとする敵が出てきたら、オレが叩きつぶす・・身勝手な敵を倒すのが、オレの戦いだ・・・!」
「身勝手な敵を倒す・・お前も、敵と戦う生き方をしているのか・・・」
ノゾムの揺るぎない意思を聞いて、ゴウが共感を覚えた。
「まさかオレが、他のヤツにオレの意思を託すことになるとは・・絶対にありえないと思っていたはずなのに・・・」
自分の考えの揺らぎを馬鹿馬鹿しく感じながらも、ゴウは安らぎを込めた笑みをこぼした。
「神奈ノゾム・・お前が世界を正しく変えようとするなら、オレはお前の戦いを見届けさせてもらう・・・」
「お前の言うことは聞かない・・オレはオレの戦いを続けるだけだ・・・」
告げるゴウに、ノゾムが態度を変えずに言い返す。
「どこまでも強情だ・・オレ以上に・・・」
ノゾムの意思に呆れ果てながら、ゴウは彼の前から消えていった。
「オレはオレだ・・・オレを貫けなければ、オレでなくなる・・・」
ノゾムは呟いてから、弱まっていく光の前から降りていった。
「ノゾム・・・」
降り立ったノゾムに、ツバキがソウマたちと駆け寄る。
「ノゾム・・無事に、戻ってきたんだね・・・」
「オレは倒れない・・ムチャクチャには絶対に従わないからな・・・」
微笑みかけるツバキに、ノゾムは落ち着いて答える。
“スリービースト。”
ノゾムはビースドライバーからエクストラカードを抜いて、マックスへの変身を解いた。直後、彼の持つエクストラカードが消えた。
「そのカード・・1度きりのカードだったみたいだ・・・」
消えたエクストラカードのことを考えて、ノゾムが右手を握りしめる。
「あのアックスの使っていたカードに対抗するためのカードだったんだね・・そのために、お父さんが作った・・」
ツバキもエクストラカードのことを考えて言いかける。
アクシスカードの脅威を止めるための歯止めとして、テツロウはエクストラカードを作った。あくまで止めることを目的に、1度限りのアニマルカードとして。
「お父さんの思いがこのカードを作って、ノゾムがそれを使って止めた・・」
「オレはオレの戦いを続けただけだ・・そんなオレに、ツバキの父さんが力を貸してくれたんだ・・」
感謝を告げるツバキに、ノゾムも感謝を口にしていた。
「アイツとは違う・・ツバキの父親は、ものすごい父親だよ・・」
ノゾムがツバキとテツロウへの感謝を口にした。
「ノゾム・・ありがとう・・・お父さん、ありがとう・・・」
ツバキもノゾムとテツロウへの感謝を感じていく。彼女はノゾム、タイチたちとともにカズト、リク、カイトに振り返った。
「みなさん・・・ありがとうございました・・」
「ありがとう、ノゾムお兄ちゃん・・みんな・・・」
カイトとカズトがノゾムたちにお礼を言う。たくさんの感謝、たくさんの安らぎがこの場にあふれていた。
1度動物公園に戻ったノゾムたち。カズト、リク、カイトが休息を取ってから、ノゾムたちと別れることになった。
「3人とも、無事でよかったです、カイトさん。カズトくん、リクくん、よかったね。」
タイチがカイトと話して、カズトたちに笑みを見せる。
「僕たちは今まで通り、あの家で暮らしていくよ。ビースターだってことを隠してね。」
「チェーンは壊滅して、私たちは解放されたようですし・・」
リクとカイトがこれからのことをノゾムたちに告げる。
「本当に感謝しています・・ツバキさん、あなた方と、あなたのお父さんに・・」
「はい・・お父さんが力を貸してくれなかったら、私もノゾムも、チェーンを止められなかったです・・」
カイトが感謝して、ツバキが微笑みかける。2人は握手をしてから、ノゾムに目を向けた。
「オレはオレの戦いをしただけだ・・身勝手な敵を許せないってだけの・・・」
態度を崩さずに言いかけるノゾムに、ツバキもカズトも笑みをこぼした。
「カズトくん、君の家に遊びに行ってもいい・・?」
ワタルが聞くと、カズトがリクと目を合わせる。するとリクが笑みを見せて、カズトも笑顔を浮かべた。
「もちろんだよ。また遊ぼう、ワタルくん。」
カズトが答えて、ワタルに手を差し伸べた。
「カズトくん・・うんっ!」
ワタルが大きく頷いて、カズトの手を取って握手を交わした。
「みなさん、本当にありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。3人ともお元気で。」
カイトとタイチが互いに挨拶する。
「またね、カズトくーん!リク兄さーん!」
「さようならー、ワタルくーん!」
ワタルとカズトが別れを告げて、手を大きく振った。ワタルたちの前からカズトたちは去っていった。
「ありがとうございます、カイトさん・・・」
カズトたちを見送って、ツバキが感謝を口にする。
「ありがとう、ノゾム・・ありがとう、お父さん・・・」
ツバキがノゾムとテツロウにも感謝した。彼女は父親からの思いを受け取って、幸せを感じていた。