GUNDAM WAR Violent Emotion-

PHASE-09「シン」

 

 

 シンのデスティニーとバーンのヴァルカスが激しい攻防を展開する。2機がビームソードをぶつけ合っていく。

 バーンがデスティニー撃破を見据え、ヴァルカスが胸部ビーム砲「グラディス」を発射する。シンも反応して、デスティニーが高エネルギー長射程ビーム砲を放って迎撃、相殺させる。

「ビームソードによる近距離攻撃や突撃だけではない。けん制が多いが遠距離の攻撃も侮れない。」

 バーンがデスティニーの力を実感していく。

「もっとも、デスティニーの最大の武器はスピードと攻撃力。だがそれは、今のヴァルカスも同じこと。いや、ヴァルカスのほうが上だ。」

 バーンは迷うことなく、ヴァルカスがスピードを上げてデスティニーに向かう。

「負けるか!」

 シンも負けじとデスティニーのスピードを上げる。デスティニーとヴァルカスがビームソードをぶつけ合い、さらにビームライフルを発射しては回避を取っていく。

(まだエクストリームブラストは使えない・・ここで使ったら、また使えるまでにフェイスを止められなくなってしまう・・・!)

 シンはエクストリームブラストの発動に踏み切れなかった。彼はフェイスとの、ジンとの対峙も見据えていた。

 そのとき、ヴァルカスが右左と素早く動きながらデスティニーに迫ってきた。ヴァルカスが振り下ろしてきたビームソードを、デスティニーもビームソードで受け止めた。

 スピードを乗せてのヴァルカスの一戦だったが、デスティニーも押されずに踏みとどまっていた。

「スピードとパワーだけではない。ヴァルカスもデスティニーのように、どの局面からでも攻防が可能だ。」

 バーンがシンに冷徹に告げる。直後、ヴァルカスがビームブレイドを発した右足を振りかざしてきた。

 だがシンは即座に反応して、デスティニーが左手を出す。左手のパルマフィオキーナがヴァルカスのビームブレイドを弾き返した。

「おのれ・・こんなことでヴァルカスは・・!」

 バーンが毒づきながらも追撃を狙う。

「これがデスティニーの、オレがつかんだ力だ!」

 そこへシンのデスティニーが一気に力を入れてきた。両手に持たれたアロンダイトビームソードが、ヴァルカスのビームソードを弾き飛ばした。

「何っ!?

 驚愕を覚えるバーンが、迫り来るデスティニーを目の当たりにして危機感を覚える。次の瞬間、デスティニーのビームソードが振り下ろされ、ヴァルカスの左肩を切り裂いた。

「大切な人を奪われた悲しみを、お前も心に刻み付けろ!」

 機動力を失って離れていくヴァルカスにいるバーンに向けて、シンが言い放つ。家族やステラ、大切な人を戦争で失った怒りと悲しみ、そしてそれらから生じた思いが、今のデスティニーの一閃に込められていた。

「私はまだ・・倒れるわけにはいかない・・・!」

 バーンが負傷しながらも、ヴァルカスを動かそうとする。

「私は理想郷を築かなければならない・・でなければ世界は混迷したまま・・私がやらなければ、世界はもう、取り返しがつかなく・・・」

“もういいよ、スバル・・もう戦うことないよ・・・”

 そのとき、バーンに向けて声が響いてきた。バーンは惑わされないようにしながら、ヴァルカスを動かそうとする。

“やめて、スバル・・そうやって、イヤなことをしてるスバル、耐えられないよ・・・”

「何だ、この声・・私はバーン・アレス・・ヴァルキリーのためだけに存在する戦士・・・」

“違うよ・・あなたはスバル・アカボシ・・あたしのボーイフレンド・・・”

 言い返すバーンだが、1つの影に突然動きを止められてしまう。彼の背後に現れた影は、バーン、スバルの恋人、フィーア・クリムゾンである。

 スバルが貫いていた正義を打ち砕かれてバーンとなった際、フィーアは手にかけられた。バーンはフィーアを恋人と全く認識せずに。

「なぜだ・・思うように動けない・・攻撃を仕掛けられない・・・!」

“スバル・・どんなことになったって・・あたしはスバルと一緒だよ・・・”

 うめくバーンにフィーアの幻影が寄り添っていく。

「邪魔をするな!私は世界に理想郷を・・!」

 バーンがフィーアを振り払おうとした。そのとき、バーンが目から涙を流した。

(これは・・・!?

 突然のことにバーンがさらに驚愕する。涙は彼が無意識に流れたものだった。

「私は・・お前たちに悔いることなど、何も・・・!」

“大切な人を奪われた悲しみを、お前も心に刻み付けろ!”

 抗おうとするバーンの脳裏に、シンの叫びが響いてくる。その瞬間、バーンはフィーアを手にかけた瞬間を思い出した。

「フィー・・僕は・・・君を・・・」

 バーンが脱力する中で弱々しく言いかける。この瞬間、彼はバーンからスバルに戻っていた。

 スバルは自暴自棄を抱えたまま、ヴァルカスは動くことなく宇宙を流れていった。

 

 ジンと交戦するキラとアスラン。フリーダムとジャスティスを同時に相手をしても、フェイスは劣勢になってはいなかった。

「フェイス・・これが、ニュートロンジャマーキャンセラーを2機搭載しているMSの力だというのか・・!」

「でもこのまま戦わせたら、彼の命に係わることになる・・絶対に止めないと・・・!」

 毒づくアスランとキラ。フェイスを駆るジンが、フリーダムとジャスティスに怒りを向ける。

「お前たちがいるから・・世界はいつまでたっても乱れたままなんだ・・・!」

 ジンが声を振り絞り、フェイスがストライクセイバーを2本のストライカーに戻して構える。

「やめろ!ヴァルキリーの衛星は破壊された!もう戦う必要はない!」

「お前たちがいるから・・ミナも・・ミリィも・・・!」

 キラが呼びかけるがジンは聞き入れない。フェイスがストライカーを構えてフリーダムに飛びかかる。

 キラも反応して、フリーダムもビームサーベルを手にして振りかざす。4本の光の刃が素早く激しくぶつかっていく。

「こんなことをしても誰も喜ばない!君自身も絶対に安心できない!」

「違う!これ以外にもう方法はない!お前たちがいなければ、世界の混乱は消えない!」

 キラに言い返すジン。フェイスが振りかざしたストライカーを、フリーダムがビームサーベルで受け止める。

「お前たちがいる限り、世界の敵が消えない限り、世界は混乱したまま!だからオレがお前たちを倒す!身勝手なヤツによって、これ以上誰かが苦しまないために!」

「違う!誰を討ったって、平和が来ることはない!みんなそれをやっているけど、戦いは終わらない!だから僕たちは、自分たちで戦いをやめないと!」

「オレが終わらせる!でなければオレもみんなも、落ち着いてこの世界にいられない!」

 キラの言葉をはねつけて、ジンが怒りを募らせていく。ビームライフルの要領でストライカーでビームを放つフェイスは、フリーダムと互角の銃撃戦を繰り広げる。

「自分たちのしていることを正当化して、他人を苦しめて平気な顔をしているヤツを、オレは絶対に野放しにしない!」

 ジンが殺気と狂気をむき出しにする。フェイスが2本のストライカーを組み合わせて、ストライクセイバーにする。

 フェイスが振りかざすストライクセイバーをかわして、フリーダムが両翼のドラグーンを射出してあらゆる角度からビームを放っていく。ジンは即座に反応し、フェイスがドラグーンのビームを回避、またはストライクセイバーで弾いてかいくぐっていく。

 さらにフリーダムがビームライフルを組み合わせてレールガンにして、フェイスを狙い撃つ。フェイスはそのビームもかわしていく。

「オレは倒す・・お前たち、世界の敵を!」

 ジンが目つきを鋭くしてフェイスがストライクセイバーを振り上げる。キラも感覚を研ぎ澄ませて、フリーダムが全ての銃砲を展開して一斉発射する。

「倒す・・お前たちは、オレが倒す!」

 ジンが激情を爆発させて、フェイスがストライクセイバーを振り下ろした。ストライクセイバーの巨大な光の刃が、フリーダムの放ったビームの群れをなぎ払った。

「なっ!?

 フリーダムの攻撃を打ち破られて思わず驚愕するキラ。フェイスの巨大な一閃が、フリーダムの右腕と右足を切り裂いた。

「ぐああっ!」

 ストライクセイバーの光の刃の衝撃に襲われて、キラがうめく。右腕と右足を損傷したフリーダムは、機動力を奪われることになった。

「キラ!」

 アスランが叫び、ジャスティスがフェイスに向かう。ビームライフルを放つジャスティスだが、フェイスはストライクセイバーを盾にして防ぐ。

「そんな怒りや憎しみで戦って、本当に平和が戻ると思っているのか!?

「お前もまだ勝手なことを・・!」

 呼びかけてくるアスランにジンが怒りをあらわにする。フェイスが振りかざしてきたストライクセイバーを、ジャスティスが素早く動いてかわす。

「お前も過去に囚われているんだな!その激しい怒りと憎しみを見せつけられれば分かる!」

「黙れ!」

「オレも怒りに駆られたことがある・・だがそれで勝ち取れるものなど何もない!」

「黙れと言っているのが分からないのか!?

 呼びかけるアスランにジンが怒号を放つ。

 ジャスティスがビームキャリーシールドからビームブーメランを引き抜いて投げつける。だがフェイスから光があふれ出して、ビームブーメランを弾き返す。

「オレは勝ち取る!お前たちの勝手を許すつもりはない!オレがここでお前たちを倒して、世界をあるべき形にする!身勝手なヤツに苦しめられるヤツがいない形にな!」

「それが、お前の正義だというのか・・・!」

 言い放つジンの意思を悟って、アスランが歯がゆさを覚える。

「誰にでもそれぞれ正義を持っている!自分たちのやっていることが、世界のため、平和のためになると信じて・・自分の正義に反するものは悪・・だが悪と定めている自分たちの正義も、相手にとっては悪と取られかねないんだ!」

「ふざけるな!身勝手で誰かを傷つけて苦しめて、それを詫びるどころか正当化しようとしているのを正義だと言いたいのか!?そんなふざけたこと、認めていいわけがないだろう!」

「あぁ。オレもその点には納得している・・そして、それがお前の正義だ・・だがお前の正義のために、関係のない人まで傷つけてはいけない!怒りや憎しみに駆られれば、その間違いを犯してしまうことになる!」

「間違っているのはお前たちのほうだ!オレは間違っているお前たちを、オレがここで倒す!」

 アスランの言葉を聞かずに、ジンが怒りを膨らませる。ストライクセイバーを構えて向かってくるフェイスを、ジャスティスも「シュペールラケルタビームサーベル」を両端からビームの刃を出して迎え撃つ。

 パワーは明らかにフェイスが上。ジャスティスは素早く動きながら、ビームサーベルでストライクセイバーを受け流すしかなかった。

(あの剣は大振りだ。剣と機体から出る光の境目を突くしか、フェイスを止める術がない・・!)

 アスランが感覚を研ぎ澄ませて、フェイスの動きを見計らう。フェイスが振りかざしてくるストライクセイバーを、ジャスティスが後退しながらかわしていく。

「逃げるな!誰が逃げていいと言った!?

 離れていくジャスティスに対し、ジンが怒号を放つ。それでもアスランは動じず、ジャスティスを動かしてフェイスとの一定の距離を保つ。

 やがてジャスティスはデブリ帯に入り込んだ。ジンは躊躇せずに、フェイスを動かしてデブリの群れに突入する。

「そんなものでオレは止まらない!」

 ジンが叫び、フェイスがストライクセイバーを振りかざす。巨大な光の刃で隕石が次々に切り裂かれていくが、同時にフェイスの動きが一瞬一瞬に鈍りが出てきた。

 その隙を狙って、アスランのジャスティスが背部に搭載していたリフター「ファトゥム-01」を射出してきた。ストライクセイバーを振り下ろそうとしたフェイスだが、デブリに引っかかってしまう。

「こんなことで引っかかるな!そんなに切られたいか!?

 ジンが狂気と殺気を膨らませて、フェイスが全身から光を放出する。ストライクセイバーの巨大な光の刃も輝きを増し、取り巻いているデブリを吹き飛ばした。

 フェイスはそのままストライクセイバーを振り下ろして、向かってきたファトゥム-01を両断した。

「そこまでだ!」

 その瞬間、回り込んできたアスランのジャスティスがフェイスの背後の隕石から飛び出してきた。ジャスティスがビームサーベルとビームの刃を発したビームシールドを、フェイスに向けて振り下ろす。

 ジャスティスの2本の刃は、振り向いたフェイスを捉えた。

「オレは、こんな世界にいるつもりはない!」

 ジンの激情が頂点に達した。フェイスからあふれる光が強まり、ジャスティスのビームの刃を押し返す。

「ぐっ!」

 フェイスの発揮する力に驚愕するアスラン。ジャスティスがすかさずビームブレイドを発した右足を振りかざすが、これもフェイスの光に防がれる。

「オレは死なない・・身勝手なヤツの言いなりになるつもりもない!」

 ジンが目を見開いて、フェイスがストライクセイバーを振りかざす。巨大な一閃がジャスティスの胴体を捉えた。

「ぐあっ!」

 コックピットにも衝撃と爆発が起こり、アスランがうめく。だがストライクセイバーはジャスティスの胴体を完全に切りつけておらず、巨大な刃に押されて突き飛ばされていった。

「オレは止まらない・・敵を倒すまで、止まるわけにはいかないんだ・・・!」

 ジンは声を振り絞り、フェイスが移動をしていく。しかしジンは呼吸が乱れてきていた。

 

 ヴァルカスを撃破したデスティニー。キラとアスランを撃退したジンのフェイスの動きにシンが気づいた。

「アスランとキラもやられたのか・・フェイス・・・!」

 シンは毒づきながらも、デスティニーを駆ってフェイスを追っていく。その動きにジンも気づいた。

「やめろ!これ以上フェイスで戦うな!」

「それでオレが戦いをやめると思っているのか!?

 シンの呼びかけをジンがはねつける。デスティニーとフェイスがビームソードとストライクセイバーをぶつけ合い、激しく火花を散らす。

「フェイスはその巨大なエネルギーのせいで、パイロットにも危険が及ぶものだ!これ以上戦えばどうなるか分かんないんだぞ!」

「関係ない!世界の敵を倒すために、オレは絶対に死なない!」

「そこまでしてオレたちを倒したいっていうのか、お前は!?

「そうしなければ世界は平和にはならない!」

 憤るシンにジンが怒号を放っていく。

「オレのやってきたことが、お前を、オレと同じ境遇の人間を生み出してしまったのか・・・!」

 シンの脳裏に、これまでの自分たちの戦いの記憶がよぎってきた。自分が平和のために、戦争を終わらせるためにやってきたことで、家族を失った自分と同じ境遇の人たちを生み出してしまった。

(今目の前にいるフェイスは、家族や大切な人を失い、力を求め続けたときのオレそのもの・・オレがここでフェイスを倒しても、フェイスに倒されても、オレは答えを見つけられないかもしれない・・)

 シンが自分自身の決意を確かめていく。

(世界のために、平和のために戦うこと、それで生まれた悲劇を受け入れていくのがオレの運命なら、オレはこれからも背負っていく・・・!)

 シンが意思を強めて、デスティニーがビームソードを構える。

「オレは運命を背負い、運命を切り開く!」

 シンが言い放ち、デスティニーがフェイスに向かっていく。フェイスがストライクセイバーを振りかざして、デスティニーのビームソードとぶつけ合っていく。

「ジン!」

 そのとき、戦闘を続けるデスティニーとフェイスに、カナのブレイズが近づいてきていた。

「アイツ・・・!」

 ブレイズを加勢と察して、シンが警戒を強める。ジンのフェイスと合流しようとしたところで、ブレイズが追ってきたルナマリアのインパルスに行く手を阻まれた。

「どいて!ジンを助けるんだから!」

「待って!フェイスに長い時間乗るのは危険よ!すぐにやめさせないといけないわ!」

「分かってる!それでもジンには、やらないといけないことがあるから!」

 呼び止めるルナマリアに、カナが自分の気持ち、ジンへの思いをを叫ぶ。

「ジンは心から本当の平和を求めているだけ・・世界の敵を倒すことが平和になると信じて・・・!」

「そのために死んでもいいというの!?死んだら平和も何も・・!」

「ジンは死なない・・世界に平和を取り戻すまでは、絶対に死なないよ・・・!」

 当惑を見せるルナマリアに、カナがさらに言いかける。彼女はジンが絶対に平和を取り戻してくれると信じていた。

「だからジンの目指す平和の邪魔はさせない・・そのために私も戦うよ!」

 カナが言い放ち、ブレイズがビームサーベルを手にしてインパルスに向かってきた。

「そうまでして戦おうとするなら・・私も!」

 ルナマリアも意思を強めて、インパルスもビームサーベルを手にしてブレイズを迎え撃つ。

 インパルスとブレイズが交戦を始めた頃も、デスティニーとフェイスは激闘を繰り広げていた。

(徐々に押されている・・こうなったら、エクストリームブラストで一気に終わらせるしかない!)

 シンはデスティニーの切り札、エクストリームブラストの発動を心に決める。

(このままやってもこっちがやられるのは分かってる・・もうこれしかない・・・!)

 デスティニーが突き出した左手のパルマフィオキーナを、フェイスが胴体から放つ光で押し返す。

「これで決める!エクストリームブラスト!」

 シンがエクストリームブラストを起動させる。デスティニーの両翼だけでなく胴体からも光があふれ出してくる。

「何をしてこようと、オレは突き進むだけ!」

 ジンが言い放ち、フェイスが飛びかかってストライクセイバーを振りかざす。デスティニーは光を放出しながらビームソードを振りかざす。

 ストライクセイバーとビームソードがぶつかり合う。次の瞬間、ストライクセイバーがビームソードに押された。

「ぐっ!」

 デスティニーの上がったパワーにフェイスが押されて、ジンがうめく。エクストリームブラストを発動させたデスティニーは、光を放出するフェイスの絶対的な攻防をものともしなくなった。

「オレは負けない・・ここで倒れるわけにはいかない!」

 ジンが目を見開き、フェイスがさらに光を放出する。今度はフェイスがデスティニーを押し返していく。

「お前たちをこの世界から消さなければ、みんなが、ミナやミリィのような思いをすることになる!」

 ミナとミリィの死の瞬間を頭の中に呼び起こしていく。

「そんな思い、2度と作らせない・・世界の敵は、全てオレがこの手で!」

 感情を高ぶらせるジン。彼の怒りと憎しみに呼応するように、フェイスの胴体からの光が一気に強まった。

 フェイスが振りかざすストライクセイバーを、デスティニーがビームソードをぶつけて迎え撃つ。デスティニーはそのフェイスに対して耐えて持ちこたえる。

 斬り合いでは決定打を与えられないとシンとジンは判断して、デスティニーとフェイスがビームソードとストライクセイバーを構えて突っ込んだ。両者の刀身が互いの左肩を貫いた。

「ぐっ!」

 シンとジンが攻撃を受けた衝撃に襲われてうめく。ところがシンは退かずに、デスティニーが傷ついた左腕を突き出して、パルマフィオキーナを繰り出す。

 パルマフィオキーナがフェイスの頭部に当たる。フェイスの頭部と同時にデスティニーの左腕が爆発を引き起こす。

(エクストリームブラストの時間はわずか・・ここで決める!)

 シンが思い立ち、デスティニーが右手だけでビームソードを振り上げる。

「オレは・・オレは絶対にお前たちを!」

 ジンが目を見開いて、フェイスがストライクセイバーを振りかざす。2本の巨大な剣がぶつかり合うが、フェイスがデスティニーに押されていく。

 シンがデスティニーでこのままフェイスを押し切ろうとした。

 そのとき、デスティニーのエクストリームブラストの発動時間が終わりを迎えた。機体から放出されていた光が弱まる。

(時間切れ!?

 驚愕し目を見開くシン。エクストリームブラストによるパワーアップが消えたことで、デスティニーがフェイスに押し切られる。

 フェイスが振り上げたストライクセイバーが、アロンダイトビームソードの刀身を負った。高周波を伴った刀身も、巨大となっているフェイスのパワーに耐えきれなくなった。

 フェイスがさらにストライクセイバーを振りかざす。強力な一閃がデスティニーの右腕と両足を切り裂いた。

「ぐああぁっ!」

 デスティニーが一気に戦闘力を奪われ、シンが衝撃と損傷に巻き込まれる。形勢逆転したジンのフェイスが、デスティニーにとどめを刺そうとする。

 だがジンの精神力は限界に達していた。フェイスの大きな負担に、彼は体力を使い果たそうとしていた。

「オレは・・・オレは・・まだ・・・!」

 デスティニーへのとどめに必死に執着するジン。しかしその意思と裏腹に、彼の意識は薄れだしていた。

「もう少しで・・もう少しで・・世界を平和に・・・」

“ジン・・・”

 そのとき、ジンの耳に聞き覚えのある声が響いてきた。そして彼は懐かしいぬくもりを感じていた。

(ミナ・・・ミリィ・・・!?

 ジンが目にしたのは死んだはずのミナとミリィ。彼は同時に、今現れた2人が幻であることを思い知らされた。

“もういいよ・・ジンは生きて・・・”

“ジンが平和でいられるなら、私もカナも平和でいられる・・・”

 ミナとミリィがジンに向かって呼びかけてくる。しかしジンは歯がゆさを覚える。

「違う・・世界の敵を野放しにしたら、ミナやミリィみたいに・・・!」

“私のことはいい・・ジンのことを、あなたが大事にしている人のために・・・”

「それだとミリィ、お前が何のために死んでしまったのか・・・!」

“私は、ジンのそばにいつもいるよ・・いつでも・・どんなことがあっても・・・”

 戦おうとするジンに、ミリィが呼びかけてくる。彼女の声がジンの怒りを揺さぶっていく。

“ジン・・カナのところへ帰って・・あなたを大切にしている人たちのところへ戻って・・・”

「ミリィ・・オレは・・・オレは・・・」

 ミリィとミナの幻に抱かれて、ジンは保とうとしていた意識を失った。

 

 デスティニーにとどめを刺す前に、フェイスは胴体から放出していた光が消えて活動を止めた。ジンはフェイスのコックピットの中で意識を失っていた。

「ジン!」

 ルナマリアと交戦していたカナが、ブレイズを動かしてフェイスに駆け寄った。ルナマリアはインパルスでブレイズを追おうとしなかった。

「ジン、応答して!ジン!」

 カナが呼びかけるが、ジンからの応答がない。

「そこまでよ。」

 そのフェイスとブレイズの周りを、マリアのルナや多くのMSが取り囲んできた。

「どうやらフェイスに乗っている彼が意識を失ったようね・・2人とも私たちについてきなさい。」

「イヤ・・あなたたちに捕まるぐらいなら、戦って死んだほうがマシよ・・・!」

「違うわ。あなたたちの身の安全を保護するのよ・・これ以上フェイスに乗れば、彼が命を落とすのは目に見えているのよ・・」

 抵抗の意思を示したカナだが、マリアからの言葉を聞いて思いとどまった。

「ジン・・・」

 ジンのことを思ったカナは、マリアの言葉を聞き入れることにした。

 その頃、ルナマリアがインパルスでシンのいるデスティニーに駆け寄った。

「シン!しっかりして、シン!応答して!」

「ル・・ルナ・・・」

 ルナマリアが呼びかけると、シンが失っていた意識を取り戻した。

「シン・・よかった・・・すぐに手当ての準備を!」

“クレストに来い、ルナマリア。医療班の準備も整っている。”

 安心と同時に周囲に呼びかけたルナマリアに向けて、クレストにいるガルが通信を送っていた。

「ビンセント隊長・・分かりました!」

「僕がクレストまで運びます!インパルスよりゼロのほうが速い!」

 ガルに答えるルナマリアに、ゼロで駆けつけたソワレも呼びかけてきた。

 インパルスによってデスティニーのコックピットのハッチが開かれる。ゼロがシンを回収して、クレストに向かった。

 

 オーディンは全て破壊され、ヴァルキリーは壊滅に陥った。パイロットやクルーたちは拘束され、ザフト、オーブ軍に連行された。

 シン、キラ、アスランも保護、介抱されて、療養していた。しかし彼らが乗っていたMSの損傷は激しく、修復に尽力が注がれていた。

 そしてジンとカナもザフトにて拘束された。激情をあらわにして暴れようとしたため、ジンはさらに体を拘束されて麻酔と精神安定剤を与えられて大人しくさせられていた。

 ジンが収容されている個室の前に、シンとルナマリアは訪れていた。

「ジン・シマバラ。オーブ市街の戦闘に巻き込まれて、恋人を殺されて・・それで軍隊や武力に怒りを覚えるようになったそうよ・・」

「それでヴァルキリーに入って、他の軍隊全部を叩き潰そうとしたのか・・」

 ルナマリアの話を聞いて、シンが戸惑いを感じていく。

「アイツ、やっぱりオレと同じだ・・大切な人を奪われて、その敵を倒そうとして・・・」

「シン・・・」

 ジンに自分を重ねていくシンに、ルナマリアも戸惑いを見せる。

「それで、自分を利用していたヴァルキリーも敵に回して、世界全体を相手に、自分自身の平和のために戦い続けた・・・」

「この後目を覚ましても、ジンは戦おうとするでしょうね・・私たちとも、みんなとも・・フェイスがこっちが管理したけど、またそれぐらいの武器や兵器を手にして・・・」

 ジンの性格と行動に、シンもルナマリアも苦悩を深めていく。

「それでもオレたちは、自分を信じて戦うしかない・・」

 シンが落ち着きを取り戻して、自分の意思を口にする。

「オレはみんなが幸せに暮らすことのできる世界を導き出すために戦う・・運命を背負い、運命を切り開く・・それが、オレの戦いだ・・・」

「シン・・・」

 改めて決意をするシンに戸惑うルナマリア。しかし彼女も落ち着きを取り戻した。

「私も戦う・・こんな辛いことや、憎むしかなくなる世界になんてしたくない・・私も戦う運命を背負う・・・」

「ルナ・・すまない・・・」

 同じく決意を口にするルナマリに感謝して、シンは彼女を抱き寄せた。2人もお互いを心の支えとしていた。

 そこへキラとアスランもやってきて、シンとルナマリアに声をかけた。

「彼の様子は・・?」

「まだ眠り続けているわ・・このまま目を覚まさないでいてほしいと言っている人も出てきてる・・」

 キラが問いかけると、ルナマリアが深刻な面持ちで答える。

「アイツのように、怒りや憎しみに駆り立てられる人間を増やしてはいけない・・アイツにもオレたちにも、それぞれの正義がある・・誰が正しいのかはオレにも分からない・・」

「だから僕たちは、僕たちの正義を貫くしかない・・・」

 アスランが決意を口にして、キラが続ける。

「そうだな・・オレも、オレの戦いをするしかない・・・」

 シンがキラたちに言いかけて、彼らに背を向ける。

「今回は力を合わせることになったけど、考え方の違いで争い合うことがあるかもしれないことは変わらない・・」

「シン・・・」

 自分の意思を口にするシンに、アスランが戸惑いを募らせる。

「運命を受け入れ、運命を切り開く・・本当の平和のために、アンタたちともアイツとも戦う・・それが、オレの戦う理由と答えだ・・・!」

 シンは言いかけてキラ、アスランの前から歩き出していった。ルナマリアもキラたちに小さく頭を下げてから、シンを追いかけた。

「シン・・・キラさんやアスランと、分かり合えるときが来るかな?・・もちろん、フェイスに乗っていたジンという人とも・・」

「分かり合えれば、それ以上に幸せなことはない・・だけど違う理由、違う答えを持っている以上、オレたちはまだ分かり合えない・・」

 ルナマリアが投げかけた言葉を受けて、シンが頑なな意思を口にする。

「だからオレは戦う・・オレやジンみたいに、戦いで悲しむ人が現れないようにするために・・・!」

 戦いを終わらせる戦い。悲劇を繰り返させない戦いをする。

 その運命を背負い、自らの手で戦いの運命を切り開いていく。

 自分自身の決意を胸に秘めて、シンはルナマリアとともに戦いの場に戻っていった。

 

 ヴァルキリーは壊滅し、彼らによる世界への挑戦は終わった。

 だが世界に本当の平和が戻ったわけではない。

 平和に対する考え方の違いで、世界はまた戦いを続けていく。

 その混迷した世界に本当の幸せをもたらすため、シンは戦いを続けていく。

 修復されたデスティニーを駆り、彼は戦い続ける。

 自分たちの見出した平和への答えを見据えて、シンは宿命の戦いに臨む。

 キラともアスランとも、ジンとも戦いを交えることになるだろう。

 それぞれが見出した答えを貫くため。

 

 

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