GUNDAM WAR Violent Emotion-

PHASE-01「ジン」

 

 

 戦火に巻き込まれた市街。住民たちと一緒に逃げ惑う2人の男女がいた。

 2人は市街に備わっているシェルターに向かっていた。そしてそのシェルターへの入り口にたどり着こうとしていた。

 そのとき、少女が首から下げていたロザリオが、切れて落ちてしまう。

「あっ!」

 少女が足を止めて、ロザリオを拾いに戻っていく。

「おい!戻れって!」

「大切なものなの!置いてはいけないよ!」

 青年が呼び止めるが、少女は戻らずにロザリオを追っていった。

 次の瞬間、街が戦闘の爆発に巻き込まれた。青年は爆風に襲われて横転する。

 爆風と衝撃が治まって、青年が顔を上げる。だが爆発と煙の中に少女の姿はなかった。

「お・・おい・・・!」

 目を疑う青年が声を振り絞る。彼は何かを踏みつけた感覚を覚えて視線を下に移す。少女が身に着けていたロザリオである。

「おい・・どこだ・・どこにいるんだ・・・!?

 青年が少女を見つけようと周りを見回す。自分と同じようにどこかに転がっているのだと思っていた。

 だが視界に捉えた光景に青年は目を疑った。彼が見たのは血まみれになって倒れていた少女だった。

「お、おい・・・!」

 青年が声をかけるが、少女は全く反応しない。彼女の姿を目にしていくごとに、彼女の死を痛感させられていく。

 青年の心の中に怒りが込み上げてくる。今まで感じたことのないほどの憎悪の感情だった。

 激情のままに空を見上げる青年。空には激しい攻防を繰り広げているMS(モビルスーツ)の姿があった。

「アイツらが・・アイツらが・・・!」

 青年、ジン・シマバラが空で争うMSたちに向けて絶叫を上げていた。彼は少女、ミナ・メルミンを殺された怒りに駆り立てられていた。

 

 コズミック・イラ75年。遺伝子調整が行われた人種「コーディネーター」の国家「プラント」と中立国「オーブ」が停戦締結を交わしてから1年がたった。

 地球連合は戦争での被害がひどく、未だに復旧に追われる日々を過ごしていた。

 地球、プラントの各国の和平と協定が深まっていく中、この情勢が腑に落ちない人々も少なくない。

 プラントの武力組織「ZAFT(ザフト)」に所属しているMSパイロット、シン・アスカもその1人である。

 シンは両親と妹、マユと一緒にオーブで暮らしていた。だがオーブが攻撃を受けた際、彼の家族は戦火に巻き込まれて命を落とした。目の前で一瞬で家族を失った悲しみと戦争への憎悪、自分の無力さに駆り立てられて、シンはプラントに移ってザフトに入隊した。

 パイロットとしての才能と実績を開花させて、シンは自分が追い求めていた力をつかみつつあった。だが情勢は彼が願っていた形にはならなかった。

 家族を死に追いやったオーブが各国と平和を築こうとしていることに、シンは納得していなかった。

「オーブのことを気にしてたんだね、シン・・」

 そこへ赤い髪の少女がやってきて、シンに声をかけてきた。彼と同期のMSパイロット、ルナマリア・ホークである。

 過激化する戦争の中で悲劇を体験していったシンとルナマリア。2人は心のよりどころを求めるように、互いに惹かれあっていった。

 1年前の戦争の後も、シンとルナマリアは互いに協力し合ってザフトでの任務をこなしてきていた。

「気にしてるっていうより、納得してないだけだ・・オーブと和解することで成り立つ平和なんて・・・」

「シン・・・複雑だよね・・こういう形で平和が戻りつつあるなんて・・・」

「いや、まだみんなが幸せになれる平和じゃない・・それを実現させるためには、オレ自身が決断して行動するしかないんだ・・」

 深刻な面持ちを見せるルナマリアに、シンが自分の考えを口にしていく。彼は戦いの中で自分自身の答えを見出していた。

 そのとき、シンとルナマリアのいる基地に警報が鳴り響いた。

「な、何だ・・!?

「どうしたの・・!?

 シンとルナマリアが声を荒げて、警戒して周りを見回す。

「襲撃です!MSが攻撃をしてきました!」

 そこへ1人のオペレーターが2人の前に駆け込んできた。これが新たな争いの始まりだった。

 

 和解に向かいつつある世界に対して攻撃が仕掛けられた。地球連合、ザフト、オーブ軍問わず、基地や軍事施設が襲撃を受けた。

 攻撃を仕掛け、全ての軍隊に宣戦布告をしてきたのは、武装組織「ヴァルキリー」だった。

 ヴァルキリーの攻撃は迅速かつ強大で、各軍とも迎撃と追撃が追いつかなくなっていた。

 ヴァルキリーの最初の攻撃から1ヶ月が過ぎた。

 他の部隊と連携しながらヴァルキリーとの戦闘を繰り広げてきたシンが、ルナマリアとともに召集を受けた。2人が呼び出されたのは、ザフト所属の戦艦「クレスト」だった。

「クレスト・・ミネルヴァとは常に別行動を取っていたけど、ここで私たちが足を踏み入れるなんてね・・」

「オレたちの機体が収容されるってことは、今度はこの艦のクルーになるってことか・・」

 クレストの艦体を見て、ルナマリアとシンが呟く。

「来てくれたか、お前たち・・」

 そこへ1人の男が現れて、シンとルナマリアが敬礼を送る。

「聞き及んでいると思うが、ここで名乗っておく。私はクレスト艦長、ガル・ビンセントだ。」

「ルナマリア・ホークです。ビンセント艦長のことは、ミネルヴァにいたときにも耳にしていました。」

「シン・アスカです。」

 男、ガルとルナマリア、シンが自己紹介をする。

「シン・アスカ・・ザフトの新しいスーパーエースが、クレストに乗ってくれるとはな。」

「やめてくださいよ、艦長・・スーパーエースという称号は、もう過去の栄光ですよ・・」

 賞賛の言葉を投げかけるガルに、シンが苦笑を見せてきた。

「そうか・・何にしても、お前たちは我々の正式なクルーではない。各々の判断を無碍にするようなことはしない。」

「それって、あなたの命令なしで行動しても構わないということですか・・?」

「それだけお前たちに信頼を寄せているということだ。少なくとも私個人としては。」

 ルナマリアが投げかけた疑問に、ガルが落ち着きを払って答えていく。

「お前たちをクレストに乗せることを推薦したのは私の他にもう1人・・マリア・スカイローズだ。」

「えっ?マリアが?・・それじゃ、ソワレも・・?」

 ガルの言葉を聞いて、ルナマリアが疑問を投げかける。

「あぁ。とにかく中に入ってくれ。クルーにも紹介しておきたい。」

 ガルはクレストに入って、シンとルナマリアを招き入れた。クレストの指令室ではオペレーターたちの他、2人の男女がいた。

 MSパイロット、ソワレ・ホークスとマリア・スカイローズである。

「待っていたわよ、お二人さん。」

「アンタたち・・ザフトの・・この艦のパイロットだったのか・・・!?

 微笑んで声をかけてきたマリアと、目つきを鋭くするシン。

「僕とマリアさんは戦闘中にクレストとはぐれてしまって・・その後に僕たちを救助してくれたのが、ラクス・クラインが乗っていたエターナルだったんだ・・」

 ソワレが自分たちが体験してきたいきさつをシンとルナマリアに話した。

 プラントの歌姫、ラクス・クライン。平和に向けて尽力していた彼女は、戦艦「エターナル」に搭乗して戦闘停止を訴え続けてきた。

 結果的にザフトと敵対することとなったラクスに対しても、シンは屈しようとせずに戦い続けた。

「これまでのラクスの動向に、私もソワレくんも賛同しているわけではないわ。どちらにしても、今はヴァルキリーの襲撃を食い止めることが先決よ。」

 マリアが言いかけて、モニターに映されているレーダーに目を向ける。

「ヴァルキリーは1隻の戦艦、ヴァルキリアで主に行動している。量産型のスナイパーと、専用機の“ブレイズ”が主なMSね。」

 マリアがこれまでの戦闘から、ヴァルキリーの戦力に関する情報を整理していく。

「地球連合がヴァルキリー討伐のために、あの巨大なMSを導入してきた。ヴァルキリーを一時的に追い詰めはしたが、ヴァルキリーも新たなMSを導入していて、それが現れてからはたやすく撃破されている・・」

「あのMS・・ステラ・・・」

 ガルの話を聞いて、シンが自分が体感した戦いや悲劇を思い出した。

 ステラ・ルーシェ。強化人間「エクステンデッド」の少女で、シンが守ることを誓った相手だった。だが地球連合のパイロットとして使われていたステラは、戦いの中で命を落としてしまった。

 ステラを守れなかった悲しみと、彼女を死に追いやった相手への憎悪に、シンは駆り立てられることになった。

「そういえばあのとき、あのMSにヴァルキリーのMSが攻撃しないで近づいていた・・オレがステラに呼びかけたときみたいに・・あのパイロットも何か呼びかけてた・・」

 シンが先日の戦闘を思い出していた。彼は巨大MS、デストロイに呼びかけていたヴァルキリーのパイロットを、ステラを守ろうとした自分と重ねていた。

「向こうにも何かあるんじゃないか?・・もしかしたら、内部で揉め事でも起きてるのかも・・」

「シン・・・」

 呟くシンにルナマリアが戸惑いを感じていた。

「両名がこちらに到着しました。」

 そこでオペレーターがガルたちに報告をしてきた。

「艦長、誰か来たのですか・・?」

「お前たちにとっては、懐かしいというか憎らしいというか・・」

 ルナマリアが問いかけると、ガルがため息まじりに答えてきた。

 

 クレストの停泊している基地に、専用のMSに乗って2人の青年がやってきた。

 キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。親友同士でありながら、地球連合とザフトに分かれて争うことになったコーディネーターである。

 2人はそれぞれの平和や正義に対する思いを見出して、和解をして戦争終結を目指した。だがキラもアスランも、理想の平和を求めたシンたちと対立することになった。

 力と戦う理由に対する答えを見出したシンは、アスランを打ち負かし、キラとも互角の戦いを演じた。停戦後も平和への考え方の違いから、シンはキラと和解せず、アスランとも袂を分かっていた。

「ヴァルキリーの攻撃を食い止めるために、ここも慌ただしくなっているな・・」

「ヴァルキリーが攻撃を続けているからね・・それを止めようとしているのは、ここも同じということだよ・・」

 アスランとキラが基地内を見回して話をしていく。その2人の前に、ルナマリアとマリアがやってきた。

「やはりあなたたちでしたか。ここも落ち着かなくてすみませんね、キラさん、アスランさん。」

 マリアがキラたちに微笑みかけてきた。ルナマリアはアスランに対して複雑な心境を抱えていた。

「すまない。カガリとラクスが向こうを離れられなくて、オレたちをここによこしたんだ。」

「そうだったんですか・・お二人だけでなく、世界中がヴァルキリーの襲撃で慌てていますからね。これも仕方ないことですよ。」

 事情を説明するアスランに、ルナマリアが笑みを見せる

「相変わらずの鋭い指摘だな、ルナマリア・・シンは一緒じゃないのか?」

「一緒でしたよ・・でもシン、あなたたちに会いたくないみたいで・・」

 アスランが問いかけると、ルナマリアが表情を曇らせる。

「シンもまだ、平和に向かって走り続けているんだね・・自分自身で答えを見つけて・・・」

「その道に、オレたちはまだ交わらないんだな・・・」

「キラ・・アスラン・・・」

 シンのことを気にするキラとアスランに、ルナマリアは戸惑いを感じていた。

「それで、あなたたちがここに来たのは、アレを確認するためですね?」

 マリアがキラたちに対して本題を振った。

「あぁ。とても強力でありながら危険視している機体があると・・」

「しかも迂闊に処理できない代物でもあるので、私たちとしても手を焼いているんです・・」

 アスランが言葉を返すと、マリアが肩を落とした。

「秘密事項扱いなので映像は送れなかったので、直に見せることにしますね。」

「ありがとうございます。助かります。」

 マリアに案内されて、キラがアスランと一緒に歩き出していった。ルナマリアは彼らについていかず、シンのところに戻ることにした。

 

 マリアの案内で、キラとアスランはMS格納庫を訪れた。「ザクウォーリア」、「グフイグナイテッド」といった量産型MSが配備されている傍らに、1機のMSが立っていた。

「これがその代物、フェイスです。デスティニー、レジェンドとともに、1年前の戦争に導入する前提で開発されていたMSです。」

 マリアの説明を聞いて、キラとアスランが眼前にそびえ立つMS、「フェイス」を見上げる。

「フェイスの最大の特徴は、“ニュートロンジャマーキャンセラー”を2機搭載していること。その莫大なエネルギーがもたらす機動力と戦力で、相手の撃破、一掃が可能・・と、設計では言われています。」

 マリアがさらにフェイスの説明をしていく。

 核や原子力を無力化させる「ニュートロンジャマー」。さらにその効果を打ち消す「ニュートロンジャマーキャンセラー」が存在している。ニュートロンジャマーキャンセラーは膨大なエネルギーの発生をもたらすエネルギー源としても使え、核使用が禁止されても一部のMSのエンジンにも使われている。

 フェイスにはそのニュートロンジャマーキャンセラーが2機搭載されていた。

「でもその膨大なエネルギーは、パイロットに大きな負荷をかけて、死に至ってしまいます。大きな戦力を誇りながら、フェイスは導入を断念することになったんです・・」

「でも、それならなぜまだ処分されていないんだ?エンジンも切られていて、核爆発の心配も・・」

「2機の核エンジンを搭載しているんですもの。下手に処理しようとしたら、核爆発が起こって大惨事ですよ・・」

 キラが投げかけた疑問に、マリアがため息まじりに答える。

「どう扱うにしても手を焼くことになるのよね、フェイスは・・まぁ、過去にあったような強奪をされても、乗りこなせずに撃墜するしかないから、その点は安心と見る人が多いわね・・」

「そうだといいんだが・・」

 マリアの言葉を受けて、アスランが不安を口にする。

「ヴァルキリーのこともある・・イヤな予感がしてならない・・」

「アスラン・・・」

 深刻な面持ちの彼に、キラも困惑を感じていた。

 

 その頃、シンはクレストに収容された自分の機体を見つめていた。

 「デスティニー」。ザフトが開発した最新鋭のMS。遠近、どの状況下でも対応できる武装をそろえているが、シンは接近戦に重点を置いた戦い方を取っていた。

 シンは自分の信念とデスティニーの力で、1年前の戦争を切り抜けてきたのだった。

「ここにいたんだね、シン・・」

 デスティニーを見つめているシンに、ルナマリアが声をかけてきた。

「アスランたちが来てるけど、ホントに会わなくていいの・・?」

「いいんだ・・キラもアスランも、味方よりも敵という認識のほうが強い・・オレの求めている平和と、アイツらが抱えている正義は違う・・」

 シンがルナマリアに対して、自分の考えとキラ、アスランとの確執を口にする。

「今、相手をしているのはヴァルキリーだ。オレたちもアイツらも・・だけど最悪、キラやアスランとまた戦うことになるかもしれない・・・」

 決意を秘めるシンが、右手を強く握りしめる。彼はこれからもデスティニーで戦い続けると心に誓っていた。

 そのとき、基地内に警報が鳴り響いた。

「ヴァルキリーか!?

 シンが駆けてきた兵士に声をかけた。

「いえ、フェイスが強奪されました!」

「何っ!?

 兵士の報告を聞いてシンが驚愕の声を上げる。ルナマリアも緊張を強めていた。

 

 マリア、キラ、アスランがドッグから離れた直後だった。突然フェイスが起動して動き出した。

「な、なぜフェイスが動き出したんだ・・!?

「誰が乗っている!?すぐに止めろ!死ぬぞ!」

 声を上げる兵士たちの前で、フェイスがブーストを噴射して飛び上がった。遅れて1機のMSも飛翔してきた。

「あれはヴァルキリーの・・!」

「まさか、ヴァルキリーの仕業か!」

 兵士たちがフェイスとブレイズを追跡するため、ザクやグフに乗り込んで発進する。だがフェイスが万能武器「ストライカー」を手にして、ビームを放ってザク、グフを狙撃する。

 ストライカーはライフルとサーベル、2つの形態をとることのできるビーム兵器である。

 フェイスを止めることができず、ザクとグフが撃墜されていった。

 

 強奪されたフェイスを追うため、シンも追跡に出ようとしていた。

「オレがフェイスを止める!ルナはここを守ってくれ!ヴァルキリーがまだいるかもしれない!」

「シン・・分かったけど、十分気を付けてね・・フェイスは戦闘力だけなら、どの兵器にも負けないって言われてるから・・・」

 呼びかけるシンにルナマリアが注意を促す。シンは小さく頷いてから、発進に備えた。

「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」

 シンがデスティニーを駆り、発進してフェイスを追っていく。基地から離れていくフェイスに、デスティニーが追いついてきた。

「おい、戻れ!そのMSは危険だ!」

 シンが呼びかけるが、フェイスは止まろうとしない。

「止まれって言ってるだろ!」

 シンがさらに叫び、デスティニーがビームライフルを手にして射撃する。フェイスは素早く動いてビームをかわす。

 フェイスがストライカーを手にしてビームを放つ。デスティニーが素早く動いてビームをかわす。両翼から紅い光を発するデスティニーの動きは残像を伴っていた。

「そう来るならやってやる・・どうせ処分することになってたんだ・・・!」

 シンが声を振り絞り、デスティニーが左背部から展開した「高エネルギー長射程ビーム砲」を発射する。フェイスも素早い動きでビームをかわす。

 フェイスがもう1本のストライカーを手にして、2本をビームサーベルとしてデスティニーに向けて振りかざす。

「くっ!」

 フェイスの速い攻撃に毒づくシン。デスティニーは素早く動いて、フェイスのストライカーをかわしていく。

 デスティニーが右背部に装備されていた「アロンダイトビームソード」を展開して手にする。その巨大な剣は、巨大な兵器や戦艦を一刀両断できるほどの威力がある。

「コイツで一気に叩き斬る!」

 シンが言い放ち、デスティニーがビームソードを構えてフェイスに向かっていく。フェイスがスピードを上げて回避に回るが、デスティニーが追撃していく。

「このまあ逃げられるはずがない!」

 シンがさらに言い放ち、デスティニーが右肩に装備している「スラッシュエッジ・ビームブーメラン」を左手で投げつける。ストライカーでビームブーメランを弾くフェイスに、デスティニーが距離を詰めた。

「これで終わりだ!」

「どこまでも・・どこまでもお前たちは・・・!」

 シンに対して、フェイスから声がかかってきた。その声にシンは聞き覚えがあった。

「乗っているのは・・パイロットを助けようとしてたヤツか・・・!?

 シンの脳裏に、巨大MSからパイロットを助けようとしたブレイズの姿がよぎる。フェイスから出た声は、そのときにブレイズからした声と同じだった。

「オレは・・オレを苦しめるものを許さない・・お前たちも、ヴァルキリーも!」

 フェイスからさらに声がかかり、フェイスが2本のストライカーを組み合わせた。発せられた光の刃が巨大になり、威力が格段に上がった。

 ストライカー2本を組み合わせて完成される「ストライクセイバー」をフェイスは手にしたのである。

「オレの日常を壊した軍隊・・許してはおかない!」

 フェイスがデスティニーに向けてストライクセイバーを振り下ろす。

「ぐあぁっ!」

 デスティニーがビームソードごとストライクセイバーの巨大な光の刃に襲われ、シンが絶叫を上げる。胴体に深く傷をつけられて、デスティニーが海の中に落ちていった。

「ハァ・・ハァ・・まず1機・・・」

 ストライクセイバーを下げたフェイスに、ブレイズが駆け寄ってきた。

「大丈夫・・・?」

 ブレイズに乗っていた少女、カナ・カーティアが声をかけてきた。しかしフェイスからは返事がない。

 そのとき、フェイスが突然ふらついて落下し始める。

「ジン!」

 カナが叫び、ブレイズがフェイスを受け止める。

「ジン、しっかりして!ジン!」

 カナが呼びかけるが、フェイスからの応答はない。

 そこへ2機のMS「ストライクフリーダム」と「(インフィニット)ジャスティス」が駆けつけてきた。それぞれキラとアスランの専用機で、1年前のシンのデスティニーとの激闘で1度は撃破されたが、その1年後に修復が完了したのである。

「フリーダム、ジャスティス・・高レベル2機を同時に相手なんてできない・・・!」

 カナは毒づき、ブレイズがフェイスを抱えたままこの場を離れた。キラとアスランは最後まで追走せず、シンが落とされた場所で止まる。

「シン!応答しろ、シン!」

 アスランが呼びかけるが、シンからの応答がない。

「今はシンを助けるのが先だ・・手分けして探そう・・!」

「あぁ、分かった・・」

 キラの呼びかけにアスランが答える2人はシンを追い求めて、周囲の海を探した。

 しかしシンの姿もデスティニーの機影も発見することはできなかった。

 カナのブレイズに運ばれるフェイスのコックピットで、青年、ジン・シマバラは意識を失っていた。

 

「まさかフェイスが奪われるなんて・・・!」

 マリアが現状を痛感して焦りを募らせていく。

「シン・・どこにいるの、シン・・・!?

 ルナマリアがシンの無事を心配して、困惑していた。シンの捜索から戻ってきたキラとアスランが、彼女たちの前にやってきた。

「あの地点と空と海、島々を徹底的に探したが・・」

「シンもデスティニーも見つけられなかった・・・」

 キラとアスランの報告に、ルナマリアがさらに困惑を深める。

「フェイスにもブレイズにも逃げられた・・フェイスを奪われるとは・・・」

 ソワレも現れて悔しさを見せる。

「フェイスはパイロットに大きな負担がかかるMS・・そのはずなのに、動かしてみせただけでなく、あそこまで性能を発揮するとは・・」

「それだけの戦いをして、無事でいられるはずがないんだけど・・・」

 フェイスのことを口にしていくソワレとマリア。彼らは様々なことを考えさせられ、悩まされていた。

「もう少し探してみよう。必ずどこかにいるはずだよ・・」

 キラがシンの捜索を持ちかける。するとルナマリアが首を横に振ってきた。

「シンの捜索は私たちでやります。キラさんとアスランは戻って体勢を整えてください。」

「しかしルナマリア、それでは・・」

「あなたたちはオーブとクライン側の人間。そちらでの防衛と迎撃に備えるのが賢明ですよ。」

 当惑を見せるアスランに、ルナマリアが落ち着きを払って言いかけていく。

「見つけたらそちらに連絡しますから・・」

「ルナマリア・・分かった。オレたちは1度戻る・・こちらでもこちらなりの捜索をさせてもらうさ・・」

 ルナマリアの言葉を聞き入れて、アスランは戻ることを決めた。

「でもアスラン、シンをこのまま見捨てるのは・・」

「見捨てるつもりはない。だがその役目はもうオレたちにはない。優先させるべきことが他にあるということだ・・」

 キラが不安を口にするが、アスランに言いとがめる。

「分かったよ、アスラン・・シンのこと、頼んだよ・・」

「はい。任せてください・・」

 キラが頷くと、ルナマリアが微笑んで答えた。キラとアスランは1度、フリーダムとジャスティスに乗って基地を後にした。

「さて、シンくんをもう1度探すわよ。大見得切っておいて情けない結果にはできないからね。」

「大見得って、そんな大げさな・・」

 呼びかけるマリアに、ルナマリアが苦笑いを浮かべた。

 

 ヴァルキリーの戦闘艦、ヴァルキリア。ヴァルキリーは地球連合、ザフト、オーブ軍への攻撃を迅速にするため、戦力の向上を図っていた。

 その主な計略が、強力なMSの導入だった。「ヴァルカス」、「カース」、「リヴァイバー」、「グレイヴ」。それぞれ遠近や一撃必殺に特化した性能を備えている。

 ヴァルキリーの創始者、レイア・バルキーは1人のMSパイロットを参戦させた。仮面で顔を隠した男、バーン・アレスである。

「ヴァルキリーの作戦も順調に進んでいる。ここから作戦は一気に加速することになるだろう・・」

 レイアが笑みを見せて、ヴァルキリアのクルーたちに目を向けていく。ひと通り視線を巡らせたところで、彼女は笑みを消した。

「ジン・シマバラ、カナ・カーティアの裏切りを除いて・・」

 レイアが低く告げたこの言葉を耳にして、クルーたちが息をのむ。

「ジンがすぐに一触即発になることは、あなたも分かっていたはずですよ・・」

 ヴァルキリアの艦長、ジャッカル・イカロスがレイアに言葉をかける。するとレイアが再び笑みを浮かべた。

「そうだったな。それを先刻承知で、ヴァルキリーの最大の戦力をバーンにしたのだから・・」

「ジンに代わる最大の戦力、バーン・アレス・・」

「ジンとカナ・カーティアが裏切り、ブレイズを敵に回したことは残念だが、我々の新たなる戦力の前では無力も同然だ。」

 ジャッカルと言葉を交わして、レイアが自信を強めていく。

「次の戦闘に入るまで、全員十分休養を取っておけ。」

「はっ!」

 レイアの言葉にクルーたちが答える。彼らの前からレイアが歩き出していく。

(我々の実現する理想郷の邪魔は誰にもさせない。ジンとカナはもちろん、アルバ・メモリア、ソワレ・ホークス、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ、シン・アスカ、彼らも理想郷を阻む障害となる・・)

 レイアはヴァルキリーの目指す平和、理想郷を視野に入れていた。

 

 

PHASE-02

 

作品集

 

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