GUNDAM WAR -Shine of Mebius-

PHASE-38「ひとときの休息」

 

 

 バルディッシュ・ザンバーを駆るシスカの活躍によって、デッド・ライダーズとの戦いに終止符を打ち、和解を果たした。これにより、オーブとライトサイドは、強力な同士を持ったのだった。

 その戦いから一夜が明け、ジュンは自室にて眼を覚ました。彼はこれまでの出来事を、ベットの上で思い返していた。

 戦いの後、ジュンとジョージはミドリとユキノの立会いの下、会合を行った。ジュンはジョージたちをはじめとした戦争被害者に対する救援を約束し、これを受けたジョージが、ジュンたちの戦いに助力することを約束した。

 2人の交渉は成立し、交友関係が築き上げられるのも遠くないことになっていた。

(ジョージさん・・・分かり合えればいいけど・・僕たちとも、シスカさんとも・・・)

 周囲の人々のことを気にかけながら、ジュンはベットから起き上がる。そして部屋を出たところで、彼はアリカと会う。

「アリカちゃん・・・おはよう・・」

「うん。おはよう、マシロちゃん♪」

 ジュンが戸惑いを見せながら挨拶すると、アリカが笑顔を見せて挨拶を返してきた。

「今日はみんなの体調を考えて、1日休むみたいだよ。発進はそれからになるから、今日はじっくり休もう。体も心も。」

「アリカちゃん・・・そうだね。今までいろいろとありすぎたから、丁度いい機会かもしれないね。」

 アリカの言葉にジュンも微笑んで頷く。その中で彼は胸中で呟く。

(そうだ・・・本当にいろいろなことがあった・・・ミナミちゃん、ニナちゃん、母さん、シスカさん・・・)

 壮絶になっていく戦いの中で、命を終えた者、葛藤と絶望にさいなまれ、心に傷を負った者。どんなに願ってもどんなに体を張っても救えなかったものに、ジュン自身も心を痛めた。

(もう失いたくない・・誰かが傷ついたら、みんなが辛くなってしまうから・・・)

 一途の決意を秘めて、ジュンはこれからも平和のために戦うことを誓った。

 そのとき、ジュンはアリカが困惑していることに気付く。頬を赤らめて、うまく言葉を切り出せないでいる。

「どうしたの、アリカちゃん?」

「えっ?・・・うん・・マシロちゃんが男の子って分かってると・・・」

 ジュンが訊ねるとアリカが頬を赤らめる。彼女も彼の正体を知ってしまっているのだ。

 そのことを思い返して、ジュンも照れくささを感じた。これからアリカとどう接していけばいいのか、今更ながら戸惑ってしまっていた。

「そういうことを言ったらヘンかもしれないけど・・いつもどおりでいいんじゃないかな・・・?」

「えっ・・・?」

「確かにこれまで“マシロ様”としていろいろやってきたけど、やっぱり、僕は僕なんだって分かった気がするんだ・・・どんなに誰かを演じても、結局は僕だってことに変わりはないんだ・・・」

 微笑んで頷くジュンに、アリカは再び戸惑いを覚える。そしてジュンはアリカの肩に優しく手を添える。

「僕は守りたい・・戦争のせいで辛い思いをしている人たちを・・もちろんアリカちゃんも・・」

「マシロちゃん・・・」

 マシロの切実な思いを聞いて、アリカが赤面する。あまりの気恥ずかしさに、彼女は完全に言葉を失う。

「こんなところで、2人で何をしているのですかな?」

 そこへシスカが通りがかり、声をかけてきた。彼女にからかわれ、ジュンとアリカが我に返って弁解を入れようとする。

「シ、シスカさん、これは、別に・・」

 慌てふためくジュンを見て、シスカがふと笑みをこぼした。

「本当にありがとうございました、マシロさん・・そして、すみませんでした・・」

 シスカが言いかけて笑みを消し、ジュンに謝罪する。

「私の感情のままに判断したために、オーブだけでなく、ライトサイドまで危険にさらしてしまって・・・」

「・・・でもそれで、シスカさんはお兄さんに会えた・・お兄さんの心を取り戻せた・・・」

 シスカの言葉を受けて、ジュンは微笑んで言いかける。その言葉にシスカは当惑を見せる。

「それに、デッド・ライダーズのみなさんとも和解することができた・・・シスカさんの判断と活躍が、彼らを引き寄せたのだと、僕は思います・・・」

「マシロさん・・・ありがとうございます・・マシロさんにそういわれると・・・」

「シスカさん、今日は1日休みを取るそうです。気持ちを落ち着けてください・・」

「・・・そうですね。たまには羽休めも大事ですよね。」

 ジュンの言葉に感謝を覚え、シスカは笑顔を見せた。アリカも落ち着きを取り戻して、笑顔を浮かべていた。

 

 ライトサイド、オーブによって撃退されたものの、ラグナログの奪取に成功したカオスサイド。オーブ領土から離脱したアザトースの中で、イオリは次の戦略を練り上げていた。

(絶大な破壊エネルギーをもたらすとされるエネルギー体、ラグナログ。これを動力源とした機体を造り上げれば、絶対無比の最終破壊兵器となる・・)

 ラグナログを組み込んだ兵器を見据え、イオリは不敵な笑みを浮かべていた。だが、彼は事態を楽観視していなかった。

 カグツチとマイスターに加え、デュランとアテナの介入で、絶対的なはずのカオスサイドの戦力がねじ伏せられてしまった。脅威の防御力を備えたオレイカルコスを負傷させ、カオススーツの攻撃さえ跳ね返されてしまったのだ。

「この状況、どちらかといえば私たちに分が悪いですね。」

 考えを巡らせているイオリに、スミスが悠然と声をかけてきた。

「スミスか・・状況はどうなっている?」

「はい。ラグナログの母体となるMSの開発は8割がた完了しております。ラグナログのデータをあらかじめ研究所に送っておいた甲斐がありました。完成次第、ラグナログを組み込むだけです。」

「そうか・・いよいよアレを動かせるのか・・・ならもうひとふんばりといくか・・」

 スミスからの報告を受けて、イオリが笑みを強める。下ろしていた腰を上げ、イオリは混沌軍に命令を下す。

「24時間後に発進する!オーブに攻め込み、今度こそクサナギ、ジーザスを落とすぞ!」

 イオリの言葉を受けて、クルーたちが声を返した。

 

 アザトース内の私室にて、ニナは閉じこもっていた。倒したはずのアテナの登場と、その対決での敗北に、彼女はひどい動揺にさいなまれていた。

“今の私はお父様のために戦う!このオレイカルコスは、そのための力なのよ!”

“なら僕はニナちゃんを止める!ニナちゃんを守るため、僕はその力を撃つ!”

 自分とジュンの言葉と力の衝突を、ニナは思い返していた。動揺の隙を突かれたのか、ジュンの決意がニナの想いに勝ったのか、強大な戦闘能力を誇るオレイカルコスが、アテナに敗北を喫した。

 それはカオスサイドの侵攻を阻まれるだけでなく、ニナの想いが砕かれることにもつながっていた。

「負けられない・・負けたくない・・・私が負けたら、世界は・・・」

「迷う必要はないぞ、ニナ。オレたちの目指す道はひとつなのだからな。」

 言葉をもらしたところで、ニナは声をかけられた。彼女が振り向いた先、部屋の入り口の前にはオーギュストの姿があった。

「お父様・・・私は、お父様の目指した道を閉ざすようなことを・・・」

 ニナが沈痛の面持ちを浮かべるが、オーギュストは不敵な笑みを崩していなかった。

「お前はまだ、オレたちの道を閉ざしてはいない。この戦いの先に、栄光の未来が待っている。それはニナ、お前の力にかかっている・・」

「お父様・・・」

「オレもお前のために尽力を注ぐ。だからニナ、お前はお前の追い求めるもののために戦うんだ・・」

 オーギュストは言いかけて、ニナに手を差し伸べた。ニナも微笑んでその手を取り、迷いを振り切った。

「私が追い求めているもの・・それはお父様、あなただけです・・・」

「・・・そうか・・・」

 ニナの決意にオーギュストが笑みを浮かべる。だが一瞬、その笑みが野心のこもったものとなったことを、彼女は気付いていなかった。

 

 ジュンはアリカとシスカとともに、近くの街に繰り出すこととなった。ユキノはそれを許可したが、彼女もイリーナもクサナギを離れることができなかった。

 代わりにマイ、ユウ、ナツキが一緒についていくこととなった。彼らがお出かけに加わってくれたことに、アリカは喜びを振りまいていた。

 だが、出かける前に、ジュンはミドリからある提案を突きつけられた。それは「マシロ」としてではなく、「ジュン」として行動してほしいということだった。それはマシロを狙う者からの危険を避けるためであり、「ジュン」としてこの時間を過ごしてほしいためでもあった。

「やっとマシロ女王の格好から解放されたのに、何だか不安を感じてしまうよ・・」

 ジュンが苦笑を浮かべて、自分の胸に手を当てていた。

「大丈夫だよ。いつもと同じようにすればいいんだよ、マシロちゃん・・じゃなくて、えっと、ジュンくん・・えっと・・・」

 ジュンを励まそうとするが、逆に困惑を募らせてしまうアリカ。その様子に、ジュンは思わず笑みをこぼし、緊張を解くことができた。

「ありがとう、アリカちゃん。そういってもらえると、僕は嬉しいよ・・」

 ジュンのこの言葉に、アリカが戸惑いを見せる。頬を赤らめて、彼女は言葉を切り出せなくなっていた。

「どうした、アリカ?いつになく顔が赤いぞ?」

 そこへナツキがからかいの言葉をかけ、アリカが何か答えようとして慌てる。その様子にジュン、マイ、シスカが笑みをこぼす。

「もう、みなさん意地悪なんですからー・・」

 アリカがふくれっ面を見せたところで、マイが彼女の肩に優しく手を添える。

「行こう、アリカちゃん。今日は楽しく過ごさないとね。」

「マイさん・・・はいっ♪」

 マイの言葉を受けて、アリカが満面の笑みを浮かべて頷いた。

「お前たち、街に出るのか・・・?」

 そこへジョージがカナデとマーヤを連れて声をかけてきた。ジュンたちが振り返り、彼らを眼にして当惑を覚える。

「ジョージさん・・・はい、そうですが・・」

「なら、私たちも同行させてもらって構わないか?」

 ジュンが答えると、ジョージが同行を申し出てきた。その申し出にジュンたちが当惑を募らせる。

「我々も休んでおきたい。体も、心もな。」

「こういう気を落ち着ける時間はなかなか取れませんからね。」

「たまには悪くないかもね。むしろ楽しいかも。」

 ジョージに続いて、カナデとマーヤが言いかける。ジュンたちの中で1番動揺を感じていたのはシスカだった。

 まだ兄妹の絆を取り戻してはいないものの、久しぶりのお出かけ。昔だったら何の気兼ねのなかったことだが、今はとても緊張することに感じてしまう。

「そうですか・・分かりました。一緒に行きましょう。こういうのは大勢のほうが楽しいですから。」

 ジュンがジョージたちの申し出を了承する。するとジョージとカナデが微笑み、マーヤが満面の笑みを浮かべる。彼らも街でのお出かけを楽しみにしていたらしい。

「あれ?どうしたんですか、シスカさん?」

「えっ?・・う、ううん、何でもない・・」

 アリカが訊ねると、シスカが我に返る。

「さて、せっかくの休みなんだから、楽しく行かないとね・・でも、高価なところは絶対却下!楽しむだけなら安値でOK!」

 いつもの自分を振舞おうとするシスカ。だがとても緊張していたのは、誰から見ても明らかだった。

 

 それからジュンたちは街に繰り出した。まず向かったのは衣料品店だった。

 女性ものが主に取り揃えられていたが、男物も置かれていたその店で、ジュンたち男たちはアリカやマイたち女性たちの試着に付き合わされた。

 流行りものからドレス服、挙句水着や着ぐるみまで。ジュンやユウ、ジョージは彼女たちの試着した服装を見て、いろいろな反応を見せていた。

 だが意地悪な性格のマーヤが発起して、ジュンが突然試着された。男物だけではなく、なぜか女性ものの服まで着せられていた。

 気恥ずかしくなるジュンの女装に、カナデとマーヤが笑みを、アリカ、ユウ、ナツキは苦笑を浮かべていた。

 それからクレープ、ソフトクリーム、クレーンゲームなど、様々な場所での有意義な時間を過ごした。そして彼らは一息つくため、レストランを訪れた。

「アハハ。久しぶりの買い物だから、羽目外し過ぎちゃった。」

 マイが思わず歓喜の言葉を口にする。

「ホントだぜ。いくらなんでもこれは買いすぎだろうが。」

 その隣でユウが呆れてため息をつく。

「でも、本当に楽しい時間でしたよ。こんなに楽しかったのは本当に久しぶりでしたよ。」

「そんな大げさにしなくてもいいですよ。ジュンさんは引っ張り出してしまったようなものですから。」

 率直な感想を告げるジュンに、カナデが弁解を入れる。

「本当・・こうした時間を、またみんなと過ごしてみたいね・・・ニナちゃんとも・・・」

 ジュンがもらした言葉を耳にして、アリカの表情が曇る。ニナを気にかけていたのはジュンだけではなかった。

「あっ、ゴメン、アリカちゃん。別に、そんなつもりじゃ・・」

「う、ううん、気にしないで、マシロちゃん、じゃなくて・・」

 謝罪するジュンに弁解しようとするも、またしても慌てるアリカ。

「アリカちゃん・・・いろいろと気を遣ってくれるのは嬉しいけど、これだけは覚えておいで・・“マシロ様”でも、“ジュン”でも、僕は僕だから・・だから今までどおり、“マシロ”でいいよ・・」

「マシロちゃん・・・それじゃ今までどおり、マシロちゃんって呼ぶね♪」

 ジュンの言葉を受けて、アリカが笑顔を取り戻した。それに合わせて、マイたちも笑みをこぼしていた。

 

 その帰り道のことだった。女性陣が買ったものの荷物運びをさせられているユウ。彼らの前を、ジュンとアリカが歩く形となっていた。

「今日は楽しかったね。でも体のほうが疲れが溜まっちゃったかな。エヘヘヘ・・」

 喜びの笑みを見せるアリカに、ジュンも微笑んで頷く。

「でも気持ちのほうは安らいだ気がするよ。これもアリカちゃんたちのおかげだね。」

「お礼を言うのは私のほうだよ。マシロちゃんがみんなに手を差し伸べてくれたから、みんなこうして集まってくれてると、私は思うんだよね。」

 互いに感謝の言葉をかけるジュンとアリカ。

「ありがとう、アリカちゃん。アリカちゃんに好きでいられると、僕も嬉しいというか、安心できるというか・・」

 ジュンがおもむりに口にしたこの言葉に、アリカが戸惑いを覚える。そして彼女は自分の中にあった一途な想いに気付いた。

(そうだ・・そうだったのかもね・・・私、ホントはマシロちゃんのこと・・・)

 アリカは自分の胸に手を当てて、自分の気持ちを確かめる。

(・・好き、なのかな・・・?)

「アリカちゃん?どうしたの?顔が赤いよ?」

 そこへジュンに声をかけられて、アリカが我に返る。

「う、ううん、何でもない・・ゴメンね、マシロちゃん♪」

 アリカが笑顔を振りまいて、心の動揺を誤魔化した。彼女は素直に、心の中にある想いを伝えられないでいた。

 

 オーブ侵攻を目前に控え、イオリはアザトースの整備ドックにいた。そこで彼はスミス、オーギュストと話し合いをしていた。

「では、オレとスミスはアザトースを離れる。オーギュスト、次の戦闘ではお前が指揮を執れ。」

「了解しました。時期を見計らって、私もそちらに向かいます。」

 イオリの言葉にオーギュストが頭を下げる。イオリとスミスは新兵器にラグナログを組み込むため、カオスサイドの研究施設に向かおうとしていたのだ。

「ここまで侵攻を進めてきた勢力、お前でも十分まとめられるだろう。特にニナはな。」

「彼女は私を完全に慕っているようで・・私が本物のクローンであるとも知らずに・・」

 イオリとオーギュストが不敵な笑みを浮かべる。そしてイオリはスミスを連れて、シャトルへと乗り込む。

「ではオーギュスト、ここは任せたぞ。」

 オーギュストにアザトースを任せ、イオリは発進した。カオスサイドによる世界制圧に向けて、彼は最後の拍車をかけようとしていた。

 

 

次回予告

 

「アザトース、大気圏突入!」

「今日こそあなたたちの最後よ、オーブ・・・!」

「どれだけ早く連中の思惑を押さえられるかが勝負の鍵よ。」

「先陣はマシロさんとジョージさん、シスカさんです。」

「僕たちで一気に食い止めましょう!」

 

次回・「音速の黄昏」

 

 

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