GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-20「ミリィ」

 

 

 ジンとゼビルが発進した後も、ヴァルキリアはファントムを追い求めて飛行を続けていた。そのレーダーにはブレイズとスナイパーだけでなく、ファントムの熱源も捉えていた。

「うまく回り込む形で移動ができているな・・」

 ジャッカルがそれぞれの位置をレーダーで確認していく。

「ジンとゼビルを援護する。ただしあのMAは手足を攻撃して動きを止めることを優先する。」

「了解。」

 ジャッカルの指示にアンとアイナが答える。ヴァルキリアはブレイズと同じくファントムを目指していった。

 

 レックスたち特別育成班と合流するため、ミリィとファントムは飛行していた。そのファントムに最初に接触しようとしていたのはクレストだった。

「あれが例の機体が・・こうして近くで見ると本当にでかいな・・」

 直にファントムの胴体を目の当たりにして、ガルが呟く。そんな彼に向けて、リード上層部からの通信が入ってきた。

“ガル・ビンセント艦長、会談における我々と地球連合の見解を報告する。”

 上層部からの通信に、ガルが真剣な表情で耳を傾ける。

“地球連合は特別育成班が指揮するMA、ファントムの行動を危険視。総合の指揮下から外すという決断を下した。結果、我々リードもファントムへの攻撃、撃墜を許可する。”

「了解しました・・ありがとうございます・・」

 報告する上層部に、ガルが感謝の言葉を口にする。

“会談の見解を待たずにファントム迎撃に向かったな。けしからん部隊だな・・だがおかげで迅速に行動に移せたのでよしとしよう。”

「そのことは申し訳ありません・・直ちに防衛行動に出ます。」

 上層部との通信を終えて、ガルが戦いに意識を傾ける。

「ソワレ、マリア、準備はいいか?」

“艦長、こちらは準備完了しています。”

“私も大丈夫です。いつでも出られます。”

 ガルの呼びかけにソワレとマリアが答える。

「よし・・全MS、発進!ソワレとマリアはファントムを止めろ!他は防衛線を立て直せ!」

 ファントムを止めるべく、ガルがクレストのパイロットたちに指示を出した。

 

「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」

「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」

 ソワレのゼロ、マリアのルナがクレストから発進する。

 リードの最高峰のMSの1機、ゼロとスカイローズ家がかつて保有していたMS、ルナ。射撃、砲撃といった遠距離攻撃の武装と鎌「クレッセント」が主力である。

 ゼロ、ルナに続いてザク、グフも発進していく。だが直接ファントムには向かわず、周囲への被害を防ぐための防衛線を立て直す役目を担っていた。

「僕が単身でファントムに攻撃します。マリアさんは援護射撃をお願いします。」

「分かったわ、ソワレくん・・大きさに見合うだけの攻撃力があるから、気をつけて・・」

 声を掛け合うソワレとマリア。ゼロがビームライフルを手にして射撃するが、ファントムの胴体にビームが弾かれる。

「やはりこのくらいのビームは効かないか・・!」

 今の射撃でファントムの性能を分析するソワレ。ゼロがトラスカリバーを手にして、接近戦に打って出る。

「敵は全て倒さないと・・本当の平和は訪れない・・」

 ミリィが呟く中、ファントムが人型に変形する。

「誰にも・・私にも!」

 ミリィが叫び、ファントムがゼロを捕まえようと手を伸ばす。だがゼロは素早く動いてファントムの手をかわし、トラスカリバーを突き立てる。

 ゼロの突きに押されるも、ファントムの右手は傷つくことなくトラスカリバーを振り払った。

(これほど頑丈とは・・トラスカリバーでも一撃で突き立てられない・・・!)

 ファントムの驚異的な性能に、ソワレは徐々に緊張感を膨らませていた。距離を取ろうとするゼロだが、ファントムが前進して迫ってくる。

 そのとき、ルナがレール砲を発射してファントムの胴体に当てる。この爆発の風圧も相まって、ゼロは距離を広げることができた。

「大丈夫、ソワレくん!?

「はい・・ファントム、僕たちが思っている以上に手強いようです・・・!」

 マリアの呼びかけにソワレが答える。ルナのビームを受けても、ファントムは傷ひとつ負っていなかった。

「このくらいで、私は諦めない・・・!」

“今度の相手はゼロだ!油断するな!”

 いきり立つミリィに、レックスからの通信が飛び込んできた。この言葉を耳にして、ミリィは警戒と緊張を強めた。

 ファントムが右手からビームブレードを発して、ゼロを狙う。だがゼロは高い機動力でビームブレードをかわしていった。

 

 ミリィとファントムを追い求めて移動を続けていたジンとゼビル。彼らがファントムを見つけたときには、既にゼロたちとの戦闘が始まっていた。

「ゼロ・・ファントムと交戦している・・・」

「アイツ・・ミリィを死なせてたまるか!」

 ゼビルが呟く前で、ジンがブレイズを動かし、ゼロとファントムの交戦の真っ只中に飛び込んでいった。

「やめろ!」

 ジンが叫び、ブレイズが手にしたビームサーベルを振り下ろして、ゼロからファントムを引き離す。

「あれは、ヴァルキリーの・・!」

「ジン・・・!?

 声を荒げるソワレとミリィ。ジンの駆るブレイズが振りかざすビームサーベルを、ソワレのゼロがトラスカリバーで受け止める。

「どういうことだ!?どうしてファントムの味方をする!?あれは君たちにとっても敵のはず・・!?

 ソワレが声を荒げるが、ブレイズは立て続けにゼロに攻撃を仕掛けてくる。

「仕方がない!」

 ソワレが反撃を決断し、ゼロがビームブレイドを発した右足をブレイズに向けて振りかざす。だがブレイズが一気にスピードを上げてゼロにツッコミ、ビームブレイドの一閃をかいくぐる。

「同じ攻撃を受けると思うな!」

 ジンが言い放ち、ブレイズが再びビームサーベルを振りかざす。だがゼロにトラスカリバーを叩きつけられて、ブレイズが突き飛ばされる。

「あれにはミリィが乗っているんだ!攻撃するな!」

 ジンが言い放ち、ゼロをファントムに近づけさせないようにする。

「ジン、あのパイロットを連れ出せ!」

 そこへゼビルのスナイパーが駆け付け、ゼロに向けてビームを発射する。ソワレはすぐに気付き、ゼロが素早く動いてビームをかわす。

「ゼビル・・・!」

「ゼロたちはオレが注意を引き付ける!その間にあの機体とパイロットを何とかしろ!」

 目を見開くジンに、ゼビルが呼びかける。スナイパーがビームライフルを発砲して、ゼロをけん制する。

「本当に勝手なマネを・・・!」

 ジンは毒づきながらも、ブレイズを動かしてミリィの乗るファントムに近づく。

「もうやめろ、ミリィ!そんなものに乗る必要はないんだ!」

「ジン・・・!」

 呼びかけてくるジンに、ミリィが一瞬動揺を見せる。だがレックスの命令に突き動かされて、戦いを繰り返してきた彼女は、心を凍てつかせて優しさを失っていた。

「私は世界に平和を取り戻す・・お前たちは平和の敵・・・!」

 ミリィが目を見開き、ファントムがブレイズに向けて右手を伸ばしてきた。

「ミリィ!」

 ジンがミリィにさらに呼びかけ、ブレイズがファントムの手から逃れる。

「ミリィ、やめろ!そんなことをやって、お前は満足なのか!?

 ジンがさらに呼びかけるが、ファントムはブレイズに迫ってくる。

「ジン、ヤツの動きを止めろ!手足を仕留めれば、パイロットを傷つけずに連れ出すことができる!」

 ゼビルがジンに向けて呼びかける。スナイパーの機動力では、ゼロとルナの攻撃をかいくぐるのは至難の技だった。

「どうして邪魔をする!?ファントムを放っておいたら、たくさんの人たちが!」

「思い通りにさせてやらければ、ジンは戦う意味を見失うことになる!」

 声を掛け合うソワレとゼビル。ファントムに向かおうとするゼロの行く手を、スナイパーが阻んでくる。

「これ以上犠牲を出したらいけない・・ここは撃墜させてでも!」

 覚悟を決めたソワレ。ゼロがトラスカリバーを構えて、スナイパーに向かって加速する。

「速い!」

 たまらず声を荒げるゼビル。紙一重でトラスカリバーの突きをかわしたスナイパーだが、一気にスピードを落としたゼロが、ビームブレイドを発した右足を振りかざしてきた。

 ゼロの一閃がスナイパーの左腕と頭部をなぎ払う。

「ぐぅっ!」

 衝撃に襲われてうめくゼビル。体勢を崩されたスナイパーが力なく落下していく。

 そのとき、数機のスナイパーが駆け付け、その中の1機がゼビルのスナイパーを受け止めた。スナイパーたちはゼロとルナにけん制の射撃を放ってから、続けて現れたヴァルキリアに戻っていった。

「ヴァルキリアも来たのか・・もはやオレたちの切り札はブレイズだけか・・・!」

 自分のスナイパーも大破させられ、ブレイズに頼るしかなくなったことに、ゼビルは危機感を感じていた。

 

 ブレイズを敵と認識して、ミリィはファントムを駆る。ファントムが左手を収納して、ファントムレインを発射する。

 ジンはとっさに反応して、ブレイズが素早く動いてファントムのビームをかわす。外れたビームは海に直撃して爆発、大きな水柱を上げた。

「やめろ、ミリィ・・オレはお前にこんなことをやってほしくないんだ・・・!」

 ミリィが攻撃してくることに絶望感を感じながら、ジンが声を振り絞る。

「それはお前がミナとそっくりだからじゃない・・お前も平和と幸せを望んでいるからだ・・・!」

「私が、平和と幸せを望んでいる・・・!」

「だがそんなことをしても、平和にも幸せにもなれない!それに乗っている限り、平和も幸せもつかめないんだ!」

 必死に呼びかけるジンの言葉を耳にして、ミリィの動揺がさらに膨らんでいく。

「思い出してくれ、ミリィ!街に出てきたときのことを、オレに見せてくれた優しさを!」

 ジンのこの言葉で、ミリィが記憶を巡らせていく。彼女の脳裏に、ジン、カナと過ごしたひと時が蘇ってくる。

「ジン・・カナ・・2人が、私に優しくしてくれた・・・」

 次第に笑顔を取り戻していくミリィ。ブレイズを追いまわしていたファントムが、攻撃の手を緩めていく。

「来るんだ、ミリィ!オレが戦いのない世界へ連れ出すから!」

「戦いのない世界・・・」

 さらに呼びかけるジンに、ミリィが心を動かされていく。

“何をしている!?ヴァルキリーを、敵を倒せ!

 そこへレックスからの声が飛び込み、ミリィが顔を強張らせる。

“お前の前にいるのは敵!敵を倒さなければ、私たちに安息は訪れない!”

「はい・・敵を倒さないと、平和は訪れない・・・!」

 レックスの言葉に突き動かされて、ミリィが再び敵意をあらわにする。ファントムが伸ばしてきた右手から、ブレイズが上昇して回避する。

「やめろ、ミリィ!やめるんだ!」

 ジンが声を張り上げるが、ファントムは攻撃をやめようとしない。

 そこへソワレのゼロが駆け付け、トラスカリバーをファントムに向けて突き出してきた。ミリィが気付き、右手のビームブレードを振りかざしてトラスカリバーを受け止める。

「何をしているんだ!?このままでは被害が広がるばかり!君も的になるだけだ!」

 ソワレがジンに呼びかけながら、ファントムを食い止めようとする。ファントムがゼロに向けてファントムレインを放とうとする。

 ゼロがファントムの上に移動し、ファントムレインの矛先を地上からそらす。ファントムが放ったファントムレインをもゼロが回避し、ビームは雲を突き破って虚空に消えていった。

 ゼロがすかさずトラスカリバーを突き出す。この一撃がファントムの左腕を切り裂いた。

「やめろ!ミリィを傷つけるな!」

 ジンが呼びかけるが、ゼロもファントムも攻撃の手を手を止めない。

「やめろと言っているのが分からないのか!」

 ジンが激昂し、ブレイズがゼロに飛びかかる。ゼロが振りかざしたビームサーベルと、ゼロのトラスカリバーがぶつかり合い、激しく火花を散らす。

「ファントムを止めないといけないと言っているだろう!」

「ミリィを傷つけるなと言っている!」

 声を張り上げるソワレとジン。ブレイズがスピードを上げて、強引にゼロをファントムから引き離す。

「ミリィを傷つけるな・・アイツは、心から本当の平和を望んでいるんだ!」

 ジンが言い放ち、ブレイズがゼロを突き飛ばす。直後、ルナがレールガンをブレイズに向けて発砲してきた。

「どいつもこいつも!」

 ジンが毒づき、ブレイズがビームライフルを発砲する。ビームがルナのレールガンの銃口に直撃する。

「くっ!」

 的確な反撃を受けて、マリアがうめく。ルナがクレストに向かってゆっくりと後退していく。

 ブレイズがまたファントムに近づく。攻撃的になっているミリィだが、ファントムは攻撃の手立てを失いつつあった。

「もういいんだ、ミリィ・・ミリィは戦わなくていい・・戦うのはオレの役目だから・・・!」

「ジン・・・私は・・私は・・・!」

 呼びかけてくるジンに、ミリィが苦悩を深めていく。

“攻撃をやめるな!敵を倒せ!戦い続けろ!”

 レックスの怒号がミリィを突き動かしていく。

「命令してくる・・私に・・・!」

「命令・・・!?

 ミリィが口にした言葉に、ジンが一瞬当惑を覚える。彼はミリィが誰かに命令されていると悟った。

「どこだ、ミリィ・・お前を戦わせているヤツはどこだ!?

 ジンが感情をむき出しにして、ミリィに問い詰めてくる。しかしミリィはレックスの命令に従わないようにするだけで精一杯になっていた。

 苦悩を深める中、ミリィがファントムを操作して右手を動かす。右手から発せられているビームブレードの切っ先を、彼女はレックスたちのいる地点、彼らの乗っている戦艦に向けた。

“戦え、ファントム!戦わなければお前が辿るのは破滅の末路だ!”

 レックスの怒号とともに、ミリィが電磁波と思念波に襲われる。命令に抗うことができなくなり、ミリィは戦うことしか考えられなくなった。

「戦わないと・・戦わないと平和がやってこない・・・!」

 ミリィが敵意をむき出しにして、ファントムがブレイズにビームブレードを振りかざす。

「ミリィ!」

 ジンがたまらず叫び、ブレイズがファントムの一閃をかいくぐって、その先の戦艦に向かって加速していった。

「ヴァルキリーがこちらに向かってきます!」

「私たちを守れ、ファントム!ヴァルキリーを滅ぼせ!」

 オペレーターの言葉を受けて、レックスがミリィに呼びかける。しかしファントムが近づく前に、ブレイズがレックスたちのいる戦艦に迫った。

「お前たちがいるから・・ミリィは・・ミリィは!」

 ジンが怒りをあらわにして、ブレイズがビームサーベルを振り上げる。

「ファントム、ヤツを倒せ!ヤツを倒さなければ、世界は・・!」

 声を張り上げるラックスだが、ブレイズが彼らのいる戦艦にビームサーベルを振り下ろした。断末魔の叫びを上げる間もなく、ラックスたちは光の刃に巻き込まれた。

 ジンの怒りを込めたブレイズの一閃で、ラックスたちの乗っていた戦艦が爆発を起こして撃墜された。

 

 

次回予告

 

平穏と命令、戦いに打ちひしがれるミリィ。

彼女を止めるべく、全てを賭けて戦おうとするジン。

2人の錯綜を見守り続けるカナ。

彼らの衝突の果てに待ちうけているものとは?

 

次回・「救われる心」

 

 

作品集

 

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