GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-18「破滅の序曲」

 

 

 突然のカグツチの出撃。その騒動を聞きつけたミドリが作戦室に入ってきた。

「どういうことなの・・マイちゃんがハッチを破って出ていったって・・!?」

「はい。許可もなくカグツチに搭乗して、閉鎖された隔壁とハッチを破壊してそのままジーザスから発進したのです。」

 オペレーターの報告を受けて、ミドリは動揺を覚える。オペレーターは彼女に向けて報告を続ける。

「現在、ナツキさんがデュランでカグツチを追っています。」

「そう。それで、マイちゃんが向かった先は?」

「現在の進路から計測すると・・目的地は、オーブ旗艦、クサナギです。」

「クサナギ・・!?」

 ミドリが再び驚愕を覚える。マイは中立国であり、ライトサイドと友好関係にあるオーブに向かって何をしようというのか。彼女の脳裏に、一抹の不安がよぎった。

「私たちもマイちゃんとナツキちゃんの後を追うわよ。ジーザス、発進準備!」

 ミドリはジーザスのクルーたちに発進を促す。

「通信回線をこっちに回して。クサナギに連絡を入れるわ。」

「了解。」

 オペレーターから通信回線を任されて、ミドリはクサナギに向けて通信を送った。

 

 突然クサナギを襲撃してきたカグツチに、オーブのクルーたちは困惑を隠せなかった。ユキノもそわそわした様子を見せ、ハルカが不快そうな表情を見せていた。

「いったいどういうつもりなの、カグツチは!いきなりクサナギを攻撃してくるなんて!」

「どうしたんだろう・・ライトサイドはオーブと友好関係にあるはずなのに・・・」

「それにしても、どうして私をご指名じゃないのかしら!?このハルカ・アミテージが直接正義の鉄槌を下してやろうと思っていたのに!」

「ちょっと、それってオーブの理念と違ってるよ、ハルカちゃん・・」

 苛立ちを見せるハルカにユキノが言いとがめる。そのとき、2人が立っている廊下を、アリカが勢いよく駆けていった。

「あれ?アリカちゃん?」

「ご使命のお相手が、コックピットに向かったようね。」

 ユキノが眉をひそめる横で、ハルカが勝ち誇るかのような不敵な笑みを浮かべていた。

「ユキノ、アリカだけにいいところを持っていかせないわ!ダイアナも、他のMSの発進準備を!」

「分かったよ、ハルカちゃん。ううん、ハルカ少佐!」

 ハルカの指示にユキノは笑みを浮かべて頷いた。

 

 落ち着きが揺らいでいたクサナギの整備ドック。イリーナもカズヤも困惑を秘めながら、

 そこへカグツチからの挑戦を受けたアリカが駆けつけてきた。念のためと思い、彼らはMSのシステムチェックを早急に行っていた。

「あっ!アリカちゃん!」

 彼女の登場にイリーナが笑顔で迎える。

「あっ!イリーナちゃん、コーラル、発進できる?」

「うん。ちょっと慌てちゃったけど、準備は万端だよ。」

「ありがとうね。それじゃ、早速行ってみるね。」

 アリカはイリーナに頷いて見せて、コーラルのコックピットにつながるエレベーターに駆け込む。

「待って、アリカちゃん。もう少し様子を見たほうがいいと思うよ。」

 そこへカズヤが声をかけ、アリカを呼び止める。

「私もそう思うよ、アリカちゃん。ここはもう少し様子を見て、出方をうかがったほうがいいよ・・」

 そこへアカネも姿を見せ、カズヤと同じ意見を述べる。しかしアリカは首を横に振った。

「でもカグツチは、私が出てこないとクサナギを攻撃するって言ってるから、やっぱり私が出て行かないと。」

「アリカちゃん・・・」

「気持ちは受け取っておきます、アカネさん、カズヤさん。みなさんのこと、お願いしますね。」

 アリカはアカネとカズヤ、そしてイリーナに一礼して、コーラルに乗り込んだ。システムの電源を入れて、発進準備に備える。

 そこへシズルがコーラルに通信をかけてきた。

“アリカさん、多分相手は全力で向かってくるさかい。気をつけて行ってくれやす。”

「分かってます。私がクサナギを守って見せます。」

 モニター越しに敬礼を送るアリカ。これを受けてシズルが微笑んで頷く。

“ニナさんたちにもすぐに出られるように、言うておきます。それまで、ムリせんといて。”

「了解です。」

 アリカはシステムの最終チェックを済ませ、発進に備える。そこへオペレーターの声がドックに響く。

“カタパルト接続。針路クリア。システム、オールグリーン。ハッチ解放。コーラル発進どうぞ。”

「アリカ・ユメミヤ、コーラル、行きます!」

 アリカがアクセルをかけ、ウィングフォーマーを装備したコーラルが発射口から発進した。

 狙っていた敵機がついに姿を見せ、カグツチがビームライフルの銃口をコーラルに向ける。

「やっと出てきたみたいね、コーラル。」

 マイがコーラルを見据えて鋭い視線を投げかける。タクミを手にかけた機体に激しい憎悪を覚えていた。

「あたしは今ここで、アンタを倒す!」

 マイはいきり立ち、ビームライフルの引き金を引く。アリカはとっさに飛翔してビームをかわす。

 するとカグツチが双刀のビームサーベルを振りかざして、コーラルに飛び込んでくる。コーラルは左腕の盾でそれを受け止めるが、カグツチの力と勢いは強く、そのまま弾き飛ばされてしまう。

「うわっ!」

 アリカが声を荒げながらも、空中で体勢を立て直す。そこへカグツチがさらに飛び込み、追い打ちを仕掛けてくる。

 アリカはとっさにビームサーベルで振り下ろされたカグツチの攻撃を受け止める。2つの光刃がぶつかり、白い火花を散らす。

 しかし性能、力、ほとんどの点でカグツチがコーラルを上回っている。しかも今のマイは、感情に駆られて感性だけで戦っていた。

「何て力なの・・今までのカグツチと違う・・・私のこと、本気で壊しに来ているみたい・・・」

 アリカが怒気を見せ付けてくるカグツチに脅威を覚える。たまらず彼女はカグツチに向けて通信回線を開く。

「何でなの・・・何でなの!?ライトサイドのMSが、何でオーブを攻撃しようっていうの!?」

 アリカの必死の呼びかけだが、逆にマイの感情を逆撫ですることになった。憤りがふくれ上がり、歯を強く噛み締めるあまりに口から血があふれる。

「・・アンタが・・・アンタがやったんじゃない!」

 タクミを殺された怒りが爆発し、マイの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

「アンタが・・タクミを・・・!」

「タクミ・・・!?」

 歯がゆさをあらわにするマイの怒号の意味が分からず、アリカは呆然となる。

「アンタだけは、絶対に許さない!」

 マイはいきり立ち、双刀のビームサーベルをコーラルに振り下ろす。さらに加速したカグツチのスピードの前に回避ができず、さらに強まった力をはね返せず、アリカは再び突き飛ばされる。

(さらに動きがよくなってる・・ウィングフォーマーを装備してるコーラルが追いつけない・・・!)

 胸中で毒づきながら、アリカがカグツチを見据える。そこへ間髪置かずにカグツチが飛び込んでくる。

 そのとき、2機の間に一条のビームが割って入ってきた。マイとアリカが動きを止め、ビームの飛んできた上空を見上げる。

 その先には銃砲を構える青い機体があった。エレメンタルガンダム、デュランである。

「あれは、ライトサイドのデュラン・・・!」

「ナツキ・・・!」

 ナツキの登場にハルカとシズルが驚きを浮かべる。

 カグツチとコーラルの衝突を阻んだナツキは、2機に向けて通信回線を開く。

「お前たち、何をしているのか、分かっているのか!」

「分かってるわよ!・・あの機体が・・コーラルがタクミを!」

 しかし怒りの治まらないマイは、彼女にも憤慨の叫びをぶつける。

(タクミ!?・・まさか・・・!?)

 ナツキは先日のシアーズとの戦闘を思い返していた。もしもアルテミスの中に、アリッサとミユの他にタクミが乗っていたとしたら。

(まさか、マイ・・タクミの仇を討とうというのか・・・!?)

 マイは今、自分と同じ境遇の中にいる。大切なものを奪われ、その仇に復讐することを心に決めて。ナツキはそう感じ取っていた。

「タクミ・・タクミ・・・ああぁぁぁーーー!!!」

 怒りのあまりに獣のような叫びを上げて、マイはコーラルへの攻撃を再開する。ビームライフルを構え、コーラル目がけて連射する。

「マイ、やめろ!」

 ナツキは思わずマイに呼びかけていたが、マイは全く聞いていない。連射するビームが、やがてコーラルの機体を捉えていく。

 もちろん、アリカは防戦一方というわけではない。同じくビームライフルで反撃に転ずるが、カグツチはそれを紙一重でかわしていく。

「えっ・・!?」

 アリカが攻撃をかわされたことに一瞬眼を疑う。マイが相手が、かつての自分と同じ戦い方をしていることを知っていた。

 殺さずを重んじて、絶対にコックピットを狙わず、武装か頭部のメインカメラを狙ってくる。マイはそれを逆に利用し、相手の攻撃を予測していた。

 カグツチがビームサーベルを振りかざしてコーラルに飛び込んでくる。アリカはとっさに回避行動を取るが、カグツチの振り下ろした刃はコーラルのウィングフォーマーの右翼を切り裂いた。

「うわっ!」

 アリカが攻撃を受けた衝撃に揺られてうめく。しかし相手の動きを見据えながら、打開の糸口を探っていく。

「クサナギ!デュートリオンビーム、バスターフォーマーを!」

“あ、はいっ!”

 アリカの指示にユキノが慌しく答える。クサナギからエネルギーの閃光がコーラルに向けて照射され、発射口からバスターフォーマーが発進し、コーラルの背に換装される。

 再び万全となったコーラルだが、カグツチに対して劣勢であることに変わりはなかった。

 インパルス砲を発射したコーラルに対し、カグツチもビーム砲で迎え撃つ。激しい閃光の衝突でまばゆい輝きが巻き起こる。

 その閃光を突き抜けて、カグツチがコーラルに突進してくる。銃砲の狙いを定める間もなく、コーラルはまたも突き飛ばされる。

 カグツチがコーラルに対して追撃を仕掛けようとする。そこへ再びデュランが砲撃で阻んでくる。

「邪魔しないで、ナツキ!コーラルはあたしが倒すのよ!」

「いい加減にしろ、マイ!そんなことをしても、何の意味もないぞ!」

「勝手なこと言わないで・・・コーラルを倒さないと、タクミの気持ちは・・・!」

 マイを必死に止めようとするナツキだが、タクミを想うマイの心に歯止めはかからない。

「もしもこれ以上邪魔をするって言うなら・・あたしはナツキも・・!」

 マイは銃砲を構えるデュランに向けて、アクセルをかけてくる。

(これ以上、周囲に危害を及ぼそうと言うなら・・・!)

「ロードシルバーカートリッジ!」

 ナツキはとっさに銃口をカグツチに向け、銃身に白銀の弾が装てんされる。そして放たれた弾丸は途中で弾け、無数の氷の刃となってカグツチに向かう。

 それをマイは双刀のビームサーベルを振りかざしてかいくぐり、突破する。

「何っ!?」

 驚愕するナツキ。カグツチが光刃をデュランの右脇に突き立てる。そこから右肩にかけて刃を突き上げる。

「ぐあぁっ!」

 激しい衝撃を受けたナツキがあえぐ。体勢を保てなくなり、デュランが火花を散らしながら落下していった。

 

「あぁぁ・・・ナツキ・・・」

 眼前でデュランが半壊していく様を目の当たりにして、シズルが愕然となっていた。いつもは冷静で穏やかさを欠かさない彼女だが、ナツキの危機に冷静さを保てなくなっていた。

「シ、シズルさん・・しっかり・・・」

 エルスティンが心配の声をかけるが、シズルは愕然となったまま意識がおぼろげになる。

「私、シズルさんを医務室に連れて行きます!」

 エルスティンはシズルを連れて、作戦室を後にする。その間にもクサナギの外では、コーラルとカグツチの戦いは続けられていた。

 バスターフォーマーのインパルス砲も、カグツチの光刃になぎ払われる。

“クサナギ!ブレイドフォーマーを!”

 アリカから間髪置かずに指示が飛び込んでくる。それを受けてユキノがブレイドフォーマーの発進を促す。

「ザクの発進準備を!私も出ます!」

 ニナもたまらずひと言言ってから、アリカの加勢に向かうべく作戦室を飛び出した。

 

 ブレイドフォーマーへの換装を終えたコーラル。対艦刀を握り締め、カグツチに決死の抵抗を見せようとしていた。

「こんなところで・・こんなところで負けちゃいけない・・・!」

 焦りさえ感じているアリカが息を荒げながら、鬼気迫るカグツチを見据える。理由は何であれ、世界に平和を導くため、ここで負けるわけにはいかない。

「みんなが幸せでいるためにも、ここで負けるわけにはいかない!」

 そのとき、アリカの中で何かが弾けた。マイと同様に五感が研ぎ澄まされ、相手の動きを的確に捉えていく。

 ビームサーベルを振り下ろしてきたカグツチの攻撃を紙一重でかわし、対艦刀を振りかざす。刀身はカグツチの右肩を叩き、機体を弾き返す。

 しかしマイはそれに構わず、力任せにコーラルを突き飛ばす。地上に激突しそうなところを、アリカはブースターを噴射させてそれを免れる。

 そこへカグツチがコーラルに向かって急降下してくる。アリカは即座に体勢を立て直して、対艦刀を突き出す。

 カグツチもビームサーベルを突き出してくる。双方の刃が突き出され、刀身が衝突する。

(ここで負けられない・・負けたくないよ!)

(あたしはタクミの命も夢も奪ったこの機体を、絶対に許せない!)

 力、そして感情の衝突。心身の荒々しい激突の末、カグツチのビームサーベルがコーラルの対艦刀の刀身を叩き折った。

「えっ・・・!?」

 この瞬間に驚愕するアリカ。彼女はこの瞬間だけ周囲が白黒になって時間が止まった感覚に陥った。

 そこへカグツチがその勢いのまま、コーラルにビームサーベルを突き立てた。光刃が機体を貫き、まばゆい閃光を放つ。

 貫かれたコーラルの機体はそのまま地上に叩きつけられた瞬間、粉塵を巻き上げると同時に爆発を引き起こす。その爆風に煽られながら、カグツチが飛翔して離れていった。

 

 マイ、ナツキを追ってオーブに向かっていたジーザス。作戦室のレーダーは常にカグツチとデュランのエネルギーを補足していた。オーブのMS、コーラルの反応も。

 ところが、3つの反応のうちデュランが消え、そしてしばらくしてコーラルの反応が消えた。

「どういうことなの・・デュランとコーラルが・・・」

 アオイが監視を続けているレーダーに眼をやったミドリが思考を巡らせる。

「もしかして、マイちゃんがナツキさんとコーラルを・・・!?」

「言わないで!・・そんなバカなこと、あっていいわけ・・・!」

 アオイが口にした不安を、ミドリが声を荒げながらさえぎる。

「そうよ・・あんなに一生懸命で、あんなに頑張っているマイちゃんが、そんな馬鹿げたことをするはずがないわ・・・!」

 歯がゆい気持ちになりながらも、ミドリはレーダーを注視する。

 そのとき、ジーザスの艦体が突然揺らぎ、ミドリがふらつく。他のクルーたちもこの振動に動揺を浮かべていた。

「おわわわ、な、何なの!?」 

「クサナギ近辺で巨大な爆発が発生!エネルギー値からして、MSのエンジン爆破かと思われます!」

「MSの爆発・・・まさか、コーラルの・・!?」

 ミドリの脳裏によぎった恐れていた事態。それがついに現実のものとなってしまった。

 

 2機の壮絶な戦いの中で突然起こった大爆発。その衝動と閃光を目の当たりにし、クサナギのクルーたちが呆然となる。

 発進準備を急いでいたニナもアカネも、その爆発に動きを止める。

 医務室でカグツチとコーラルの戦いをモニターで見つめていたエルスティンは、驚愕のあまりに体を震わせている。彼女の横のベットでは、シズルがようやく気を落ち着けていた。

「そんな・・こんなことって・・・!?」

 エルスティンは、モニターに映し出されている光景に眼を疑っていた。

「アリカちゃん・・・アリカちゃん!」

 エルスティンはたまらず叫んだ。カグツチの怒りの炎の前に、アリカとコーラルは爆炎の中に消えていった。

 

 

次回予告

 

怒れる心が引き起こした最悪の事態。

ジーザスとクサナギの戦力が著しく激減した。

この淀む現状の中で、マイの心はさらに揺らぐ。

ミコト、シホが踏み入れる場所。

少女たちに、暗黒からの誘いが迫る。

 

次回・「虚無への誘惑」

 

無垢なる心、力に変えよ、スサノオー!

 

 

作品集

 

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