GUNDAM WAR

-Confusion of SEED-

第10章

 

 

 シンのデスティニーとキラのフリーダムの激突と、爆発の閃光。まばゆい光と衝撃を、ルナマリアたちも痛感していた。
「シンさん・・シンさん!」
 閃光の中に消えたシンに、ソラが叫び声を上げる。
「シンに呼びかけていますが、応答がありません!」
「デスティニーの反応が弱まって、レーダーで捉えられません!」
 メイリンとマイがシンの行方を追う。
「2人とも、引き続きシンへの連絡とデスティニーの捜索を続けて!」
「はい!」
 タリアが指示して、メイリンたちが答える。
「シン、フリーダムと同士討ちになったのでは・・・!?」
「そう考えるのは早いわ。今は捜索を続けることを考えて・・」
 不安を口にするアーサーに、タリアが注意を言う。
「シンを見つけ、フリーダムへの警戒も続けながらプラントを守る。それが私たちができることよ・・」
 自分たちのやるべきことを把握して、タリアは捜索と警戒、防衛を続ける。
「私たちも捜さないと・・!」
 ルナマリアもシンを捜すことを決めて、インパルスのレーダーに目を向ける。
「私たち、戦闘の宙域へ行きます!ハル、行こう!」
「うん!」
 ソラが呼びかけて、ハルが答える。ファルコンがデスティニーを捜しに動き出す。
「私も一緒に行くわ、2人とも!」
 ルナマリアが声を掛けて、インパルスもついていった。デスティニーの行方を追って、インパルスとファルコンが宙域を進行する。
「シン・・どこ!?・・どこにいるの・・・!?」
 ルナマリアが必死の思いでシンを探し続ける。
「デスティニーは高い動力を備えている機体・・たとえシンさんが気絶していても、遠すぎなければデスティニーの反応がつかめないことはない・・!」
「あの爆発でも、そんなに遠くまで飛ばされるわけがない・・シンさんはきっと、この近くにいる!」
 ハルとソラが言葉を交わして、シンとデスティニーを探す。
「シン、私たちみんなで帰るんでしょ?ステラが待ってる・・ステラのところへ、みんなのところで行くんでしょ・・?」
 ルナマリアが捜索を続けながら、シンへの想いを膨らませていく。
「みんな無事に帰って、ステラに会いに行こう、シン・・・!」
「ルナマリアさん・・・必ず、シンさんを見つけます・・・!」
 ルナマリアの想いを聞いて、戸惑いを感じたソラが決心を強める。
「必ずこの辺りのどこかに・・必ずいる・・・!」
「シンさん、どこなんですかー!?応答してください!」
 ソラも思いを口にして、ハルがさらに声を張り上げる。
「あっ!・・この反応・・デスティニー!」
 ハルがレーダーにデスティニーの反応を確かめて、声を上げる。
「どこ!?ハル、どこ!?」
 ソラが声を上げて、ルナマリアと共にレーダーと周辺に目を向ける。インパルスのレーダーにもデスティニーの反応が映った。
「気を付けて、2人とも・・フリーダムの反応はないけど、生き延びているかもしれない・・・!」
「はい・・注意します・・・!」
「分かりました・・・!」
 ルナマリアが呼びかけて、ソラとハルが答える。インパルスとファルコンが反応のしたほうに向かう。
 2機が来たのはデスティニーとフリーダムが最後に激突した地点から離れていた。
「ここまで飛ばされたってこと・・・!?」
「あの爆発、相当なものだったから・・・」
 ソラが声を上げて、ハルが言いかけて周りを見回す。
「シン・・・シン!」
 ルナマリアが目を見開いて叫ぶ。
「あっ!デスティニーの反応が!」
「えっ!?」
 そのとき、ハルがレーダーに反応が現れたのを目撃して、ソラが声を上げる。その直後、ルナマリアの視界にデスティニーの姿が入った。
「シン、大丈夫!?返事をして、シン!」
 ルナマリアが呼びかけるが、シンから返事がない。インパルスが損傷しているデスティニーに近寄る。
(デスティニーは、手足と頭部が損傷しているけど、ボディはまだ・・!)
 シンが無事だと信じるルナマリア。インパルスのコックピットから出て、彼女は外からデスティニーのコックピットのハッチを開ける。
 コックピットにはシンがいた。外傷は見られなかったが、彼は意識を失っていて動かない。
「シン!しっかりして、シン!」
 ルナマリアがシンに寄り添って呼びかける。するとシンが唇を震わせて、声を発した。
「シン・・早く連れて行かないと・・・!」
「ルナマリアさん!」
 意を決するルナマリアに、ソラの声が飛び込んできた。ファルコンもインパルスとデスティニーのそばに駆けつけてきた。
「シンさんは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫!私の声に反応しているわ!」
 ソラが呼びかけて、ルナマリアが答える。
「このままデスティニーごとシンを連れていくわ・・!」
「分かりました!このままミネルバへ・・!」
 ルナマリアが声をかけて、ハルが答える。インパルスとファルコンをデスティニーを抱えて、ミネルバに向かっていく。
「ミネルバ、デスティニーを発見しました!そちらへ帰艦します!医療班に準備をお願いします!」
“ルナマリアさん!・・はい!直ちに連絡します!”
 ルナマリアが呼びかけて、マイが喜びを込めて返答する。
「シン、帰ろう・・ミネルバに・・プラントに・・・」
「シンさん・・戻ってきてくれて・・よかった・・・」
 ルナマリアが優しく声をかけて、ソラもシンの無事に安堵を感じていく。インパルスたちがミネルバに戻り、着艦した。
 ドックに駆けつけていた救護班が搬送の準備を整える中、ルナマリアがデスティニーのハッチを開けて、シンを出す。
「すぐに応急処置を!絶対に死なせないで!」
「はい!」
 ルナマリアの呼びかけに、救護班の1人が答える。救護班はシンを医務室に連れていく。
「デスティニー、インパルス、ファルコン、着艦しました!」
 アーサーがタリアに報告をする。
「フリーダムの反応は?」
「レーダーに反応なし!他の部隊から発見の知らせはありません!」
 タリアからの質問にメイリンが答える。
「本艦は1度プラントに戻ります。負傷者を運び、本艦と機体の整備を行いながら、警戒に当たります。」
「了解!」
 タリアが指示を送り、アーサーが答える。ミネルバがプラントに向けて移動し、キラの捜索は別の部隊が行うことになった。

 キラとの戦いは終わった。
 ミネルバがプラントに戻り、シンは医療施設に運ばれた。彼の体に重傷はなく、すぐに病室での安静を過ごすことになった。
「シン・・・」
 病室にいたルナマリアとソラがシンの身を案じる。その病室にはソラとハルもいた。
「目を覚ましますよね、シンさん?・・あの激しい戦いの後ですが、それでもまた元気になりますよね・・・?」
「もちろんだよ・・シンさんはどんなことも乗り越えてきたんだから・・今回だって・・・!」
 ハルが問いかけて、ソラがシンへの信頼を口にする。
「シンは私が見ているわ。あなたたちはミネルバに戻るのよ。」
 ルナマリアがシンを見つめたまま、ソラたちに呼びかける。
「ルナマリアさんはこのままシンさんのそばについているんですね・・」
 ハルが聞いて、ルナマリアが小さく頷いた。
「分かりました・・何がありましたらそちらにも連絡しますから・・・」
 ハルがルナマリアに答えて、ソラと一緒に病室を出ようとした。
 そのとき、眠りについていたシンがゆっくりと目を開いた。
「シン!」
「えっ!?」
 ルナマリアが声を上げて、ソラとハルが驚きを覚える。
「ルナ、みんな・・・ここは・・・?」
「ここはプラントの医療施設よ。私たちであなたを見つけて、ここまで運んだの・・」
 シンが問いかけて、ルナマリアが状況を話す。
「プラント・・・フリーダムは・・キラはどうなった・・・!?」
 シンがキラのことを気にして、周りを見回す。
「あなたが倒したわ、シン・・何度も戦場となった宙域を捜索したけど、キラは見つからない・・・」
「そうか・・遺体も手がかりも見つかってないか・・・」
 ルナマリアから話を聞いて、シンが安堵とも不安ともいえない複雑な気分を感じていた。
「シンさんはもう少し休んでいてください。プラントも地球も宇宙も、騒動が落ち着いてきていますし、私たちだけでも何とかできます・・」
 ソラが微笑んでシンに言いかける。
「だけど・・・」
「あなたに何かあったら、あなたの帰りを待っている人が悲しみます・・」
 言葉を返すシンをソラが呼び止める。ハルもソラと一緒にシンに微笑みかけていた。
「ここはあなたの負けね、シン。少し病室でおとなしくしてて・・」
「ルナ・・分かった。何かあったら呼んでくれ。そのときは今度こそ行くからな・・」
 ルナマリアにも言われて、シンは彼女たちの思いを受け入れることにした。
「では私たちは行きます。また戻って来たときに会いに来ます・・」
 ソラがシンに挨拶をして、ハルとともに病室を出た。
「それじゃシン、また来るからね・・」
「あぁ・・オレもしっかり休んで、戻るからな・・」
 声をかけ合い微笑むルナマリアとシン。ルナマリアもシンの病室を後にした。
(オレは今度もキラを止めることができた・・だけどアイツがまた現れるかもしれない・・オレたちや世界をムチャクチャにしようとして・・・)
 シンがキラを討ったことを実感しながらも、また現れるのではないかという疑念も抱いていた。
(もしまたキラが出てきたなら、オレは戦う・・戦いを起こそうとする敵と、オレは戦い続ける・・・)
“それを自ら選んだ、か・・”
 決意を確かめたとき、シンの耳に声が入ってきた。彼の視界にはレイの幻が映っていた。
「レイ・・・」
 一瞬戸惑いを浮かべたシンだが、すぐに落ち着いて頷いた。
「ゴメン、レイ・・オレはお前と議長を助けられなかった・・・そもそもオレは、レイたちにとっては裏切り者だ・・・」
“気にするな、シン。これがお前が選択した、戦いのない世界への道なのだろう?オレたちのことは考えず、このままお前の信じる道を進んでいけばいい・・”
 謝るシンにレイが微笑みかける。
“オレは未来を目指そうとしなかったが、お前はお前の未来を選んだ。世界のために、平和のために戦いを続ける道を・・・”
「レイ・・・」
“お前が選び進んでいく道を、オレは信じる。ギルも、お前のことを見守っている・・”
 戸惑いを感じているシンに、レイが自分の思いを告げた。
「オレは議長の示す、決められた生き方はできない・・だけどそれでも、戦いのない世界が来るまで戦う・・戦いを終わらせるために戦うっっていうのも、おかしな話だけど・・・」
“その矛盾を抱えながらも、戦いを終わらせる。それがお前の背負った運命だ。”
 シンの考えを聞いて、レイが答えた。
“戦う運命を背負い、悲劇の運命を切り裂く。それがお前だ、シン。”
「あぁ。これからもみんなを守る・・ルナもミネルバもプラントも、ステラも・・」
 信頼を送って見届けるレイに、シンが答える。シンがルナマリアたちと一緒にステラのところへ帰ることを、レイも理解していた。
“シン、オレはオレの全てを、お前に託す・・・”
「こんなオレを信じてくれて・・・ありがとう、レイ・・・」
 これからも見届けることを決めたレイに、シンが感謝する。レイは微笑んでから、シンの前から姿を消した。
(オレは戦う・・これからも大切な人を守る・・オレのこの手で・・この力で・・・)
 強固な決意を胸に秘めて、シンは再びベッドに横たわった。

 ルナマリアたちによるプラント、地球、その周辺の宙域の警護が行われた。しかし結局キラの生存は確認されず、他の者による戦闘行為も見られなかった。
 そしてキラとの戦いが終わって数日後。シンが療養を終えてルナマリアと合流した。
「シン、もう大丈夫なの?」
「あぁ。体のほうは大丈夫だ・・ただデスティニーのほうはまだ完全に直ったわけじゃない・・」
 ルナマリアが声を掛けて、シンが落ち着いて答える。
 医師からの診察を受けて、シンが任務に戻ることを許可された。彼が休んでいる間にデスティニーの修復が進められていたが、外見が元通りになったものの万全の状態ではなかった。
「それならまだ休んでいた方が・・・」
「いや、期待の操縦に体を慣らしておきたかったから・・この状態で激しい戦闘をするのは難しいのは分かっている・・」
 不安を口にするルナマリアだが、シンは警護に参加しようとする。
「シン自身も治ったばかりなんだから、ムチャしないでよ・・」
「あぁ。分かってる・・」
 ルナマリアに注意されて、シンが答えた。
 デスティニーとインパルス、ファルコンが散開して警護を行った。キラの生存も他の勢力の介入も認められなかった。
「これでひと区切りしたということね。私たちの戦いは・・」
「あぁ・・ここからミネルバに戻ったら、またデスティニーの修理が進められる・・今度こそ万全の状態にするために・・」
 ルナマリアが言いかけて、シンが深刻な面持ちを浮かべる。
「戦いの後もバタバタしてしまったけど・・ミネルバに戻ったら、ステラのところに帰る。みんなと一緒にな・・」
「そうね・・ステラを心配させちゃいけないもんね・・」
 シンがステラのことを言って、ルナマリアが頷いた。
「ソラ、ハル、2人も会ってほしい。」
「もちろんです!ありがとうございます!」
 シンが続けて言って、ソラが答える。
「もう少し調査を続けて、ミネルバに戻ります。」
 ハルが言って、ファルコンが移動した。シンのデスティニーとルナマリアのインパルスも散開した。
 シンも加わって調査と警護が続けられた。敵の出現や襲撃がないまま、シンたちは引き上げることになった。

 ミネルバもシンたちと共に警護の任務を行っていた。
「フリーダムの生存の可能性は、限りなくゼロになりましたね・・」
「だからといって油断してはいけないけど、キラ・ヤマトばかりに気を取られている時間もない。フリーダムによって被害を被ったプラントのことも考えなければならないわ・・」
 安心を見せるアーサーに、タリアが言い返す。
「これから私たちはプラントの防衛と復興に力を入れます。同時にデスティニーの修復を完了させます。」
「了解。それで、シンとルナマリアはこれからどうするのですか・・?」
 指示を送るタリアに答えて、アーサーがシンたちのことを聞く。
「デスティニーの修復が終わったら、地球へ向かうわ。ステラのところへ帰るために。」
「このまま行かせてよろしいのですか?ザフトやプラントに影響を及ぼすことになるのでは・・?」
 タリアの答えを聞いて、アーサーが不安を覚える。
「上層部はよしとしないかもしれない。でもシンたちなら大丈夫よ。シンは戦いのない世界を願っているから・・」
「信じているんですね、シンたちのこと・・」
「私は信じることにしたのよ。生き方はその人1人1人で決めるべきだと。それでも争いのない世界は実現できると・・シンを見て、そう思ったの・・」
「それは・・実現できたらどんなにいいことかとは思いますが・・・」
 シンたちを信じるタリアに、アーサーが戸惑いを覚える。
「メイリンさん、シンさんが行くときになったら、一緒に行ってあげてください。」
 マイがメイリンにお願いをしてきた。
「でもマイ、あなたもソラたちと一緒に行きたいと思っているんじゃ・・」
「私まで行ったら、ミネルバのオペレーターがいなくなってしまいます。お姉さんであるルナマリアさんと一緒に行ってあげてください。」
 気に掛けるメイリンにマイが気遣う。
「マイ・・・艦長・・」
 メイリンが戸惑いを感じて、タリアに振り向く。
「メイリン、ルナマリアたちと同行するのを許可します。このことをルナマリアたちにも伝えるわ。」
「ありがとうございます、艦長!みんなへは私が話します!」
 タリアが許可を出して、メイリンが喜んで敬礼した。
(人は誰かに人生を全て決められるものではない。自らの意思で生き方を選ぶ。シンも自らの意思を持ち、フリーダムに勝った・・)
 タリアが今回の戦いとその中での自分たちの意思について考えていく。
(残念に思うのは、ギルバート、レイ、あなたたちを守れなかったこと・・私もシンも、そう思っている・・)
 タリアがレイとギルバートに対する罪の意識を感じていく。
(私も生きていくわ。私自身で選んだ道を・・)
 脳裏に現れたレイとギルバートに対して、タリアは自信の決意を告げた。シンを見届けることを決めていたレイが、タリアにも小さく頷いた。
 付き合いから別れた後から、考え方だけでなく生き方までも違ってしまったタリアとギルバート。彼の死を辛く感じながらも、タリアはこのまま別の道を歩もうとしていた。

 レクイエムの砲撃やキラの襲撃で甚大な被害が生じたプラント。敵への警戒を続けたまま、ザフトもプラント復興に協力した。
 その中でミネルバとデスティニーたちの修復が進められ、万全の状態となった。
 それからシンとルナマリアはタリアからの許可を得てソラ、ハルと共に地球に向かうことにした。
 デスティニーとファルコンがインパルスを連れて地球へ降下した。
「また地球に来た・・ステラの待っている地球に・・」
 シンが地面に足を付けていることを実感して呟く。
「この近くにステラのいる施設が・・?」
「ううん、施設から離れたところよ。モビルスーツが降下してきたら警戒が強まって、それでステラを巻き込めないから・・」
 ソラが問いかけて、ルナマリアが顔を横に振る。機体で迎撃することができても、ステラをそれに巻き込むわけにいかないと、ルナマリアもシンも考えていた。
「それに、帰る前に立ち寄りたいところがあるんだ・・」
「立ち寄りたいところ・・?」
 シンが話を続けて、ハルが疑問符を浮かべた。シンが悲しみを感じて、表情を曇らせた。

 その後、シンたちはオーブの慰霊碑を訪れていた。
 オーブは政府の立て直しに掛かりきりになっていて、中立国、国家としての機能が壊滅的になっている。プラントやザフト、コーディネイターへの怒りをぶつけてもおかしくない状態にあったが、国内や周辺でも争いは起こっていない。
「オーブに来るなんて・・いくら素性を隠してやってきたと言っても、僕たちがここに来るのは・・・」
「でも、気付かれてないのか、私たちを襲ってくる人はいないみたい・・・」
 ハルが不安を覚えて、ソラが周囲の様子を気にする。
「また、ここに来れるとは・・・」
 シンが慰霊碑を見つめて呟く。
「ここでオレはアイツを出会って、アイツと何度も戦った・・世界全体を巻き込んで、混乱を広げて・・・」
「キラ・・ラクス・・あの人たちね・・・」
 慰霊碑にてキラと対面したときのことを思い返すシンに、ルナマリアが戸惑いを見せる。
「オレはあのとき言った。“いくらきれいに花が咲いても、人はまた吹き飛ばす”と・・ロゴスや連合軍だけでなく、アイツらもそんな馬鹿げた破壊者になってしまった・・・」
 シンはキラとの会話と、これまでの戦いを思い返していく。
 オーブと共に戦火を広げて巻き込み、家族を奪ったキラ。力への渇望と共に、オーブや戦争、キラへの憎悪を抱くことになった。
「そして、議長も同じ道を進んでしまった・・力を持ったオレも、人のことが言えなくなってしまったが・・・」
 自分たちの罪と皮肉を感じて、シンが物悲しい笑みをこぼす。
「身勝手や綺麗事は許してはならない・・自分たちの勝手を押し付けるための・・・そんなことを受け入れたらダメなんだ・・」
「シン・・・」
「花が吹き飛ばされることのない、荒らされない世界を作らないといけない・・花が枯れるまで咲き続けられる、平和の世界を・・・」
 シンの決意を聞いて、ルナマリアも真剣な面持ちで頷く。
「花が吹き飛ばされない世界・・人も動物も・・・戦いのない世界・・・」
「そのハッキリした答えは見つかっていないし、その雰囲気もまだ感じない・・・でも・・・」
「シンさんは答えを見つけようとする・・ううん、私たちも答えを見つけなくちゃ・・・!」
「僕たちだって、その答えを自分で見つけられるはずだ・・」
 ソラとハルもシンの決意を聞いて、自分で自分の生き方をする大切さを理解する。
「戦いのない平和のための戦いを選んだ・・シンも、私も・・・」
「そして最終的に、オレが救われないことになったとしても・・・」
 ルナマリアの言葉に頷いて、シンが慰霊碑に背を向ける。
「迷いも後悔もない・・オレが自分で選んだ選択だから・・・」
 自分の意思と決意を貫くシンが、1人歩き出す。
 今の世界を守らなければ未来はない。過去を切り捨てては今も未来も守れない。
 まして理屈をこねて自分を押し通したところで、本当の平和は訪れない。明確な信念と覚悟を持たなければならない。
 シンの意思と決意、覚悟は確立していた。
「私たちも行きましょう。今度こそステラのところへ。」
「はい。」
 ルナマリアが声を掛けて、ソラが答えた。2人とハル、メイリンもシンについていく。
 ステラのところへ向かうシンの前に、キラの幻影が現れた。
(キラ・・・)
 シンがキラを見て目つきを鋭くする。シンが歩き続け、キラの幻影を通り抜けた。
(何度現れても、オレはアンタを討つ・・大切な人を守るため、戦いのない世界を目指して・・・)
 シンが自分の決意をキラに向けて告げる。
(たとえアンタたちがオレと同じ気持ちを持っていたとしても、やり方を間違えているアンタたちを認めるわけにいかない・・)
 完全にキラたちと敵対する意思を示すシン。
(また現れて戦いを仕掛けてきても、オレがアンタを討つ・・何度でも・・・!)
 キラを完全に押さえる意思を頭の奥底に置いて、シンが再び歩き出す。
 ギルバートやレイが示したのとは違う形で、戦いのない世界を実現する。そのために戦う運命を自らの意思で背負った。
 シンは答えを見つけ確立させた。自分なりの生き方を。
「みんな、行こう・・」
 シンが振り向いて声を掛けた。ルナマリアたちが微笑んで、シンと一緒に歩き出した。

 シンたちの帰りを待ちながら、ステラは施設で子供たちと遊んでいた。
 シンたちとキラの戦いについて、ステラも医師から聞かされていた。シンを信じていたステラは、死が絡む事件に直面しても怯えたり混乱したりすることはなかった。
「プラントのほうは大丈夫かな・・?」
「フリーダムが攻撃して、プラントが大変なことになってるって・・」
 子供たちが戦いやプラントのことを気にする。
「ちょっと・・ステラお姉ちゃんのそばでそういう話をしたらダメだよ・・・!」
 女の子の1人がステラの気にして、その男の子たちに小声で注意する。
「だいじょうぶ・・ステラ、シンのこと、しんじてるから・・・」
 聞こえていたステラだが、動じることなく子供たちに微笑んで答えた。
「みんな、戻ってくるかな・・・?」
「来るよ!シン兄ちゃんは強いし、どんなことにも負けたりしないんだから!」
 子供たちもシンたちのことを話して信じていく。
「みんな、シンのこと、しんじてる・・ステラと、おなじ・・・」
 ステラが彼らの言葉を聞いて喜ぶ。彼らと同年代であるかのように、ステラは無邪気に交流をしていた。
「あっ!あれ!シンお兄ちゃんたちだよ!」
「えっ!?」
 そのとき、子供の1人が声を上げて、指さした方をステラが目を向ける。シンたちが施設に帰ってきて、子供たちに迎えられた。
「シン!」
 ステラが声を上げて、シンたちのところへ走ってきた。
「ステラ、戻ったよ。みんな一緒に・・」
「シン、ルナ、メイリン、おかえり・・シンのともだちもきてくれた・・・」
 シンが声を掛けて、ステラが喜ぶ。彼女はソラたちに目を向けて微笑んだ。
「はじめまして。僕はハル・ソーマ。ハルって言うんだ。」
「私はソラ。よろしくね、ステラ。」
 ハルとソラがステラに自己紹介をする。
「ハル・・ソラ・・シンのともだち・・・」
「うん。そして、ステラの友達になってもいいかな・・?」
「うん・・ソラもハルも、ステラのともだち・・・」
「よろしくね、ステラ。」
 ステラが微笑んで、ソラと笑顔を見せ合った。2人が握手をした手の上に、ハルも自分の手を乗せた。
「また、ステラの新しい友達ができたね。」
「あぁ・・よかった・・」
 ルナマリアが喜び、シンが安らぎを感じていく。
「ステラたちのいるこの場所を・・プラントを守る・・2度と戦いが起きないようにするために、オレは戦い続ける・・・!」
 シンが真剣な面持ちを浮かべて、決意を口にして右手を握りしめる。
「私もその戦いをするよ・・この帰るべき場所を守りたいから・・・」
「ルナ・・・」
 自分の決意を口にするルナマリアに、シンが戸惑いを見せる。
「シンみたいにすごくはないけど、私だって守ることはできるから・・シンを助けることだって・・」
「ルナ・・ありがとう・・オレはルナもステラもみんな守りたいと思っているけど・・ルナたちと協力したいとも思っている・・これからも、みんな生きて帰るんだ、ここへ・・」
 互いの想いを伝え合い、ルナマリアとシンが互いの手を握る。
 守りたい場所、守りたい人、そのためにやるべきこと。その多くが共通のものとなった。
 シンもルナマリアもそう考え、想いを募らせていた。


戦争で家族を失い、戦いを終わらせる戦いの中で大切な仲間も失った。
それでも守りたい人、守りたい場所を守ったシン。

戦いのない世界の形、答えはまだ見つかっていない。
その答えを見つけるため、大切な人、大切な場所を守るため。
シンは戦う運命を背負った。
キラのような、世界や平和を乱す敵と戦う運命を。
自らの意志で。

この決意に、後悔はない。

 

 

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