魔法少女エメラルえりな

第13話「新しい自分へ」

 

 

それは、突然の出来事でした。

 

魔法との出会い。

異世界から来た少年を助けるための戦い。

大切な人との別れ。

悲しみに駆られての衝突。

衝撃の真実と、自分自身との向き合いと対立。

 

様々な出来事の中、私たちは旅立っていく。

かけがえのない友達との時間と、長く続いていく未来への道を・・・

 

魔法少女エメラルえりな、始まります。

 

 

 篤との戦いと一刻の別れを経て、えりなたちはアースラを訪れていた。だがその直前、明日香が突然倒れ、今も医務室で眠りについていた。

 医療班の診断では、魔力浪費と精神的束縛からの解放による過労である。安堵を覚えるえりなたちだったが、ラックスはそれでも心配でたまらず、医務室にて明日香に付きっ切りになっていた。

 明日香とラックスの心配を抱えながらも、えりな、リッキー、健一はアースラの休憩室に留まっていた。そこへなのはとはやてがやってきた。

「なのはさん、はやてさん。」

 えりなが振り返り、笑顔で2人に声をかける。するとなのはとはやても笑顔を返す。

「あの、あのときはいろいろありがとうございました。もしもあなた方の助けがなかったら、私たち、負けてたかもしれなかったです・・」

「ううん。今回はえりなちゃんや明日香ちゃん、アレンくんが頑張ったから解決できたんだよ。私たちは、ただ背中を押しただけ。」

「そうやね。今回このカオスコアの事件を解決したのはえりなちゃんたちや。」

 感謝の言葉をかけるえりなに、なのはとはやてが弁解を入れる。そしてアレンとソアラもこの休憩室を訪れた。

「お久しぶりです、なのはさん、はやてさん。」

 アレンがなのはたちに向けて一礼する。

「あれ?アレンくん、フェイトさんは?」

 えりなが問いかけると、アレンは彼女に眼を向けて答える。

「フェイトさんなら、アルフさんと一緒に医務室にいるよ。」

「アルフ、さん・・?」

「フェイトさんの使い魔、彼女の強い相棒だよ・・」

 疑問符を浮かべるえりなに、アレンが微笑んで答える。

「それではやてさん、シグナムさんたちはどうしたんですか?」

「うん。別世界にもカオスコアが飛び散ってたんでな。みんなはそっちの回収に行ってるよ。もう回収終わって本局に来とるさかい。」

 ソアラが問いかけると、はやてが笑顔で答える。するとリッキーが沈痛の面持ちを浮かべる。

「僕がきちんとカオスコアを運んでいれば、こんなことにならなかったのかもしれない・・みなさん、僕の・・」

 リッキーが言いかけると、えりながとっさに彼の口元に指を当てる。

「それ以上は言っちゃダメだって。悪く思えちゃうけど、この出来事があったから、私はリッキーに会えたんだよ。それから、明日香ちゃんやアレンくん、みんなとも・・」

「えりなちゃん・・・ありがとう。僕もえりなちゃんに会えて、本当によかったと思ってる・・」

 えりなの弁解を聞いて、リッキーも素直な気持ちを伝える。するとなのはが2人の肩に優しく手を乗せる。

「小さな出会いでも、かけがえのない出来事になる。その絆を大切にしてあげよう。」

「なのはさん・・・ありがとうございます・・・」

 なのはに励まされたえりなが、素直に感謝の気持ちを述べた。

 

 過労によって眠っていた明日香が、ようやく眼を覚ました。ゆっくりと体を起こすと、ラックスが喜びをあらわにしていた。

「明日香、眼を覚ましたんだね・・・!」

「ラックス・・・ここは・・・」

 周囲を見回して現状を確かめようとする明日香。そこで彼女は、部屋の傍らにいた金髪の少女とオレンジの髪の女性を眼にする。

「フェイトさん・・・私は、いったい・・・?」

 明日香が疑問を投げかけると、フェイトの代わりに女性、アルフが答える。

「ここはアースラの医務室だよ。アンタは倒れて、ここまで運ばれてきたんだよ。」

「倒れた・・今までムリをしてたせいかも、しれません・・・」

 アルフから事情を聞いて、明日香が物悲しい笑みを浮かべた。

「ホントに心配したんだよ、明日香・・ここの人たちが大丈夫だって言ってくれても、もう眼を覚まさないんじゃないかって心配で心配で・・」

「ラックス・・・心配かけてゴメンね・・・」

 涙ながらに微笑むラックスに、明日香が微笑んで謝罪する。するとラックスは小さく首を横に振った。

「それにしても、こうして見るとホントに似てる気がしてくるよ。昔のフェイトとあたしに・・」

 そこへアルフが語りかけ、フェイトも微笑んで同意した。2人は昔の自分たちを、眼の前にいる少女と使い魔と重ねていたのだった。

「明日香、あなたはどんなことにも負けない。自分の気持ちを忘れなければ、どんなことも乗り越えられるから・・」

「フェイトさん・・はい。私も頑張ります。フェイトさんやアルフさん、みんなの気持ちに負けないように・・」

 フェイトの励ましの言葉を受けて、明日香が決意を告げる。ラックスも彼女の心境を察して笑みをこぼしていた。

 そしてフェイトが真剣な面持ちを浮かべて、明日香に語りかけた。

「明日香、あなたにはお兄さんがいた。心から信頼していたお兄さんが・・」

 フェイトの言葉に、明日香が沈痛の面持ちを浮かべる。

「私には母さんがいた。でも私のことは愛してはくれなかった。それでも、たったひとりの母さんだから・・」

「・・何となくですが分かります・・かけがえのない家族だから、とても大切にしたい。大切に思われたい。その人がいなくなったら、どんなに割り切ろうとしても、寂しいですよね・・」

 フェイトの過去と心境を察して、明日香も同意を見せる。

「でもそんな気持ちを支えてくれる友達がいる。フェイトさん、あなたにとってそれはなのはさん、はやてさん、そしてアルフさんですね・・」

 明日香が言いかけてアルフに視線を送ると、アルフが照れ笑いを浮かべる。

「と、友達だなんて、そんな大したもんじゃないよ。アハハハ・・」

 弁解を入れようとするアルフに、明日香とラックスも安らぎを込めた笑みをこぼした。そしてフェイトは明日香に手を差し伸べる。

「これからも頑張っていこう、明日香。私たちも、あなたの友達でいたい・・・」

「フェイトさん・・・はい。」

 明日香は微笑んで、フェイトの手を取って握手を交わす。明日香の強い絆がまたひとつつながったのであった。

 

 そしてアースラは時空管理局本局に到着した。そこでははやてと別行動を取っていたヴォルケンリッターが待っていた。

「はやて、おかえり!」

 赤髪の少女、ヴィータがはやてに飛びついてきた。彼女を受け止めて笑顔を見せるはやての姿を見て、えりなたちも笑みをこぼす。

 そしてアレンとソアラは、同じく待機していたクリスを見つけて歩み寄った。

「クリス・ハント提督、アレン・ハント、ただいま戻りました。」

 アレンがクリスに対して一礼する。彼は彼女の息子としてではなく、1人の局員としての気構えを見せていた。

「本局から見ていました。よく頑張りましたね、アレン。」

 クリスが笑顔で賞賛するが、アレンは顔色を変えない。

「提督、僕はえりなを検査室に連れて行きます。僕自身、安心できる結果が出ることを、切に願っています。」

 アレンはそういうとクリスの前から離れて歩き出す、ソアラも戸惑いを覚えつつ、アレンを追って駆け出した。

 微笑んで2人を見送るクリスに、なのはが寄ってきた。

「ずい分成長してしまいましたね、アレンくん。私が魔法を教えていた頃なんかより、ずっと強くなって・・」

「でもあの子はまだまだこれからですよ。それはあの子自身が1番分かっていることでしょう。」

 言いかけるなのはに、クリスも微笑を浮かべて答える。巣立っていく雛鳥を見送る心境を覚えて、クリスは奇妙な高揚感を感じていた。

「僕が見てきただけでも、アレンの活躍と成長には眼を見張るものがありましたよ。」

 そこへクロノとエイミィも現れ、クロノがクリスに声をかける。

「うわぁ、クロノくん、エイミィさん、久しぶりだね♪」

「そうだね。なのはちゃん、元気だった?」

 なのはが声をかけると、エイミィも笑顔を見せる。久方の再会に喜びを見せる2人に、クロノは苦笑いを浮かべ、クリスは笑顔を見せていた。

 

 えりなの心身に対して心配を抱えながら、リッキーは本局内のある場所を訪れていた。それは様々な書物やデータが保存されている「無限書庫」である。

 そこで秘書長を務めている親戚に会うため、リッキーはその前に来ていた。

(こういう威厳のある場所に行くと、どうしても緊張してしまうよ〜・・)

 冷や汗を感じながら、リッキーは書庫の扉に手を伸ばす。

「リッキー、来てたんだね。」

 そのとき、背後から声がかかってリッキーが振り向く。メガネをかけた茶髪の青年が微笑みを見せていた。

 リッキーの親戚であり、この無限書庫の秘書長であるユーノ・スクライアである。

「ユーノさん、お久しぶりです。ちょっとした事情で本局に来たので、ここへ立ち寄ろうと思っていたところです・・」

 リッキーがユーノに一礼を送る。するとユーノが苦笑いを浮かべて答える。

「そんなにかしこまらなくていいよ。それよりクロノから聞いたよ。僕も駆けつけたかったんだけど、データ処理に手間取ってしまって・・」

「いいえ。今回は僕が引き起こしたことなんです。僕がしっかりカオスコアを管理していればこんなことには・・だから僕は何とかしようと・・」

 リッキーが謝罪の言葉をかけると、ユーノが笑顔を見せて、リッキーの髪を優しく撫でた。

「なのはと一緒に、ジュエルシードを探していたときの僕と同じだ。僕もあのとき、自分だけで何とかジュエルシードを回収しようとしていた・・」

 ユーノはリッキーに語りかけながら、昔の自分を思い返していた。そこでユーノは、当時の自分と今回のリッキーを重ねていた。

「そしたらなのはに怒られたよ。1人で抱え込むのはダメだって。僕のためだけじゃない。自分が僕を助けたいという気持ちのためにも、なのはは僕に協力してくれたんだ・・」

「・・何だか、似たもの同士が多いかなって、思っちゃいますね。アハハ・・」

 リッキーもユーノの言葉に共感して、思わず苦笑いをこぼした。

「それで、えりなちゃんはどうなったの?これから検査だって聞いてるけど・・」

「はい・・今から検査室に行って、結果を聞いてきます。」

 リッキーはユーノに再び一礼すると、検査室に向かっていった。一生懸命になっている彼の後ろ姿を見て、ユーノは誇らしさを感じていた。

 

 本局内の検査室。そこでえりなは精密な身体検査を受けていた。

 カオスコアの擬態である彼女は、いつコアの暴走を引き起こすか分からない。その闇の力に溺れることなく、さらにコアの人格と和解したと彼女から聞かされてはいたが、確証がないため、完全に安心することはできなかった。

 慎重かつ適切に行われていく心身の検査。数十分かけて、ようやくえりなの検査が終了した。

 その彼女を待っていたアレンとソアラに、リッキーが駆けつけてきた。

「あ、リッキー、今検査が終わったところだよ。」

 ソアラが駆けつけてきたリッキーに、笑顔を見せて声をかける。

「それで、結果はどうなったの・・?」

 リッキーが問いかけると、アレンは少し複雑な心境を見せた。

「今のところは問題はない。カオスコアが暴走する様子は見られない。だがこれはあくまで現状の問題だ。今後コアが暴走して、えりなを支配しないとは言い切れない。」

 アレンの言葉にリッキーが深刻な面持ちを見せる。するとアレンは微笑みかけて続ける。

「だけど大丈夫だ。えりなはカオスコアの魔力に振り回されるほど弱くはない。リッキーも分かっていると思うんだけど・・」

「アレン・・そうだよね・・えりなちゃんは本当に強い。だから自分の気持ちを貫き通せて、みんなとも分かち合おうともしている・・」

 アレンの言葉を受けて、リッキーは安堵の微笑をこぼした。彼らは改めて、えりなを信じ抜くことを心に決めた。

「検査は終わったようだな・・」

 そこへピンクのポニーテールをした女性がやってきて、リッキーたちに声をかけてきた。ヴォルケンリッターの将、剣の騎士、シグナムである。

「シグナムさん、お久しぶりです。」

 アレンがシグナムに向けて一礼する。するとシグナムが少し困ったような笑みをこぼす。

「そんなにかしこまらないでくれ。私は、お前の力を評価しているつもりだ。」

「いえ、僕はまだまだですよ。今回の事件では必死になってましたけど・・」

 シグナムの弁解に、アレンも苦笑いを浮かべる。

「そういえばアレン・ハント、お前のデバイスはベルカ式だったな?」

「あ、はい。そうですが・・」

 シグナムの質問に答えて、アレンは剣のペンダントを取り出し、彼女に見せた。

「いずれお前と一戦交えたい。互いの心のために・・」

「シグナムさん・・・はい。もしも戦うときが来たら、正々堂々と戦いましょう。」

 シグナムとアレンは互いに微笑み、握手を交わした。魔導師の卵が、また新たな絆と道を見出したのだった。

 

 眼を覚ましたえりなに告げられた申告は、彼女にとって複雑なものだった。

 現時点ではカオスコアが暴走を来たすどころか、深く沈静化しているようだった。ひとまずは問題はないが、いつまた暴走するかどうか予断を許さないのも事実だった。

 困惑を抱えているえりなを、明日香たちやなのはたちが迎えてくれていた。

「えりな、あまり思いつめないで。こういうのは自分の気持ち次第で白にも黒にもなる。それは他のみんなにとっても言えることだから。」

 フェイトが深刻な面持ちを見せているえりなに励ましの言葉をかける。先輩の魔導師の言葉を受けて、えりなは微笑んだ。

「ありがとうございます、フェイトさん・・みなさん、私は大丈夫です。これからも自分の心と向き合い、これからを頑張っていこうと思います。」

「えりなちゃん・・これから、どうしていくの?」

 えりなが自分の心境を告げると、なのはが問いかけてきた。

「私は、管理局で頑張っていこうと思います。詳しいことはこれから考えますが、私は私のできることをやっていきたいと思っています・・」

 えりなの言葉を受けて、なのはが笑顔を見せる。そして明日香が前に出て、えりなに声をかける。

「私も管理局で頑張ろうと思ってる。まずは執務官を目指そうと思う。」

「明日香ちゃん・・明日香ちゃんなら、どれを目指しても乗り越えられるよ、きっと。」

 えりなに励まされて、明日香が安らぎを覚える。そして2人は絆を深める意味を込めて、握手を交わした。

「僕の魔導師としての道もまだまだこれからだと思ってる。えりな、明日香、これからもよろしく。」

 その2人の手に、アレンが自分の手を重ねてきた。えりな、明日香、アレン。3人の魔導師としての道が、再び幕を開けたのだった。

「君たちの奮起に、僕たちも期待しているよ。アレン、ソアラ、今回はひとまずお別れとなるが、いつかまた一緒に仕事を行うことがあるかもしれない。そのときはよろしく。」

 クロノの言葉を受けて、アレンも頷く。そして2人も強く握手を交わし、互いの活躍を願った。

「僕は発掘の仕事を続けようと思います。でもえりなちゃんやみなさんに何かあったときには、すぐに駆けつけるつもりです。」

 リッキーもえりなやなのはたちに自身の決意を告げる。

「オレは・・・少し考えさせてくれないか・・」

 だが健一は少し思いつめた面持ちで、呟くように言いかける。その心境を察してか、えりなも沈痛な面持ちを見せる。

「君の道だ。焦ってすぐに決めることはない。君も僕たちも、まだまだこれからなんだから・・」

 そこへクロノが再び励ましの言葉をかけた。何とか迷いに押しつぶされないような気持ちを持つことができて、健一は安堵を見せた。

「さて、みんな、とりあえず家に戻って、気持ちの整理をして、しっかり休んでね。」

 エイミィがえりなたちに呼びかけると、えりなたちは微笑んで頷いた。そして少年、少女たちは各々の家路へと着いた。

 

 バートンに戻ってきたえりなを待っていたのは、雄一とまりなの歓迎と千春の厚い抱擁だった。

「えりな、おかえり・・無事だったのね・・・」

「う、うん・・お母さん、苦しいよ・・・」

 喜びをあらわにしている千春に強く抱きしめられて、えりながたまらず声を上げる。その親子の抱擁を見て、一緒にいた健一と明日香が笑みをこぼす。

 リッキーとラックスはそれぞれ子狐と子犬の姿になっており、えりなたちのやり取りを見上げていた。

「えりな、その、えりなは・・」

 雄一が笑みを消して口ごもると、えりなは父の心境を察して微笑んだ。

「お父さん、私は大丈夫だよ。いろいろありましたが、坂崎えりな、今こうして帰ってまいりました。」

 えりなが雄一たちに弁解を入れて一礼する。だが雄一たちの困惑は拭えなかった。

「心配しないで。たとえ自分が何であっても、私が私であることに変わりないんだから。」

「・・そうだよね。いつものように子供以上に子供みたいなところを見せてるんだから、紛れもなくお姉ちゃんだよ。」

「それってどういう意味よ〜・・」

 そこへまりなが笑顔を見せて言いかけると、えりながふくれっ面を見せて反論する。そのやり取りに、周囲に再び笑みがこぼれた。

 えりなも笑みをこぼしていたが、しばらくして真剣な面持ちを浮かべた。

「お父さん、お母さん、まりな、私、時空管理局というところで頑張っていきたいと思います。」

「えりな・・・」

 えりなの突然の発言に、雄一と千春は深刻さを覚える。

「危険だらけの仕事になると思います。でも、私自身が今1番やりたいことだとも思っています・・どうか、私のわがままを許してください・・・」

 えりなは雄一たちに対して、再び一礼する。彼女の決意を理解して、千春が彼女に微笑みかける。

「えりなが自分で考えて、自分で決めたことなのでしょう?なら、私たちは反対はしないわ。」

「お母さん・・・」

「でも自分で決めたことは、それなりの厳しさと覚悟が必要となってくる。それは分かっててほしいの・・・」

 念を押す千春に、えりなは微笑んで頷いた。

「でも心配だよね。お姉ちゃんのことだから、きっとどっかでドジっちゃうんじゃないかな。」

「コラ、まりなー!」

 再びまりなにからかわれて、えりなが抗議の声を上げる。そこへ姫子と広美がバートンを訪れてきた。

「えりな、今の今までどこ行ってたのよ!」

「えっ!?姫子ちゃん、広美ちゃん・・!?

 2人の登場にえりなが驚きを見せる。

「オレが呼んだんだよ。なかよし3人組なんだから、一応話したほうがいいんじゃないかって思って・・」

「もう、健一ったら・・・ありがとう・・」

 事情を話す健一に一瞬不満を見せるも、えりなは微笑んで感謝の言葉をかけた。

「姫子ちゃん、広美ちゃん、実は2人にも話しておきたいことがあるの・・・」

 えりなは真剣な面持ちで、姫子と広美に語りかけた。今までのこと、これからのことを聞かされて、少し複雑な心境に陥るも、姫子たちもえりなの決意を真っ直ぐに受け入れた。

 

 その夜、バートンではパーティーが開かれた。えりなの成長と旅立ちへの祝宴を込めて、雄一が突発的に開いたものである。

 雄一と千春が腕によりをかけて振舞う品々に、みんなは賑わいを見せていた。かつての悲痛さと緊迫が和らぐかのような高揚感が漂っていた。

 その賑わいの合間を縫って、えりなと健一はバートンの外に出ていた。そこで2人は夜空の星を見上げていた。

「きれいな星・・今までの辛いことを忘れさせてくれるみたい・・・」

「・・同意してほしいっていうなら、他の誰かを誘ったほうがよかったんじゃねぇか?生憎オレはロマンティストじゃねぇんでな。」

 感嘆の言葉をかけるえりなに、健一が憮然さを見せる。だがすぐに真剣な面持ちを浮かべて、健一はえりなに言葉をかける。

「えりな・・オレも、魔導師を目指そうと思う・・」

「健一・・・」

 健一の切り出した言葉にえりなが戸惑いを見せる。

「今回の出来事で、オレは自分自身の答えを見つけることができた気がしてるんだ。だからつかみかけたその答えの糸をさらに引っつかんで、昇っていきたいんだ・・」

「・・健一だったら、どんな道だってきっと進んでいけるよ・・・でも、何のために魔導師に?」

 健一の決意を聞いて、えりなが問いかける。

「何となく分かってるけど、あえて、健一の口から直接聞きたいの・・・」

 えりなに問われて少し戸惑いを見せるも、健一は気を取り直して真剣に答える。

「笑わないで聞いてくれよな・・・オレに守りたいものができた。そいつを守りたいから、魔導師を目指そうって思ったんだ・・・」

 健一の真意を知り、えりなは納得したように頷いた。

「おかしいか?おかしいなら、笑ってくれて構わねぇぞ・・」

「ううん。すごくいいと思う・・・」

 照れくさそうに言いかける健一に、えりなが笑顔を見せた。

「えりな、もしどうしてもダメだってときはオレに頼りな。オレがすぐに駆けつけて、あっという間に事件を解決してやるからさ。」

「もう、また見栄張っちゃって・・でも・・・」

 告白する健一に苦笑するも、えりなは瞳を閉じて微笑んだ。

「・・ありがとう・・・」

 えりなに感謝されて、健一は気恥ずかしくなって押し黙ってしまう。だが2人とも、互いに分かち合ったと思い、安堵を覚えた。

「少しだけ話は聞かせてもらったよ。」

 そこへリッキーとともに、明日香がラックスを抱えて外に出てきていた。えりなは笑顔を見せて迎えたが、健一は話を聞かされたことにさらに気恥ずかしくなっていた。

「えりな、健一、これからは親友、仲間同士よ。お互い、頑張っていこうね。」

「明日香ちゃん・・・うん。頑張ろうね♪」

 明日香の言葉に笑顔を見せて、えりなは明日香の手を取る。

「ったく。女同士の友情に男を混ぜるなっての。」

 健一がぶっきらぼうに言いかけながら、2人の手に自分の手を乗せる。それぞれの決意を胸に秘めて、3人はこの場で誓いを立てた。

 互いが自分の信念に基づいて、未来を歩んでいくことを。

「今度、アレンくんたちに、健一専用のデバイスを出してもらえるように頼んでみるね。」

「ブレイブネイチャーを使ったとき、剣の形になってたから、アームドデバイスが合うと思うよ。」

 気を遣うえりなと明日香に言われて、健一がまたも気恥ずかしくなった。

 楽しくもひと時の休息は、その後しばらく続いた。

 

 みんなが岐路に着き、自宅にて就寝した中、えりなは自分の部屋にて窓越しに外を見つめていた。彼女は改めて、夜空の星を見つめていた。

 そんな彼女をじっと見つめていたのはカオスコアの人格、もうひとりのえりなだった。

「もう迷いはないみたいだね。」

 カオスコアの呼びかけに、えりなは振り返って微笑む。

「もう1度言っておくよ。その体はアンタだけじゃなく、私のものでもあるんだ。」

「うん。分かってる。」

「もしもアンタがどうしようもないくらいに堕ちたら、今度こそ私がアンタに成り代わる。まぁ、私が言わなくても、アンタは肝に銘じてるみたいだけど。」

 互いに笑みを見せ合う2人のえりな。

「アンタの中でじっくり見させてもらうよ。アンタの決意ってヤツをさ。」

 カオスコアはそう告げると、えりなの前から霧のように姿を消した。

「ありがとう・・・私、頑張るよ・・あなたに負けないように。リッキーや明日香ちゃんや健一、みんなに笑われないように・・・」

 自分の気持ちと改めて向き合い、えりなは自分の未来を目指して歩き出していくことを心に決めた。

 

 それから数日後、えりなは時空管理局にて本格的な魔法訓練を受けるべく、旅立とうとしていた。彼女の肩には子狐の姿のリッキーが乗っかっていた。

「いよいよだね・・緊張してるけど、どんなことにもくじけないでいられる気がする・・」

「えりなちゃんならどんなことも乗り越えられる。今までだってそうだったじゃない・・・」

 期待感を覚えるえりなに、リッキーが相槌を打つ。

「先に来ていたみたいね、えりな、リッキー。」

 そこへ明日香とラックスが現れ、えりなが振り返る。

「いろいろあったけど、今度は分かり合える仲間ってことでよろしくね。」

 子犬の姿のラックスが気さくに声をかけてきた。

「何だよ、お前ら。ずい分早いじゃねぇか・・」

 そこへ健一が憮然とした態度で声をかけてきた。

「今日はなぜか早く眼が覚めちゃって・・自分でも不思議なくらい・・・」

 えりなは健一に答えてから、空を仰ぎ見るように大きく深呼吸する。そこで彼女は、これから自分の進んでいく姿を思い描いていた。

「みんな、そろったみたいだね。」

 そこへアレンとソアラが現れ、えりなたちに声をかけてきた。

「詳しい話やこれからの流れは向こうで話す。みんな、準備はいいかい?」

 アレンの言葉にえりなたちが頷いた。

「ところでアレンくん、執務官っていうのには、もうなれたの?」

「えっ?・・まさか。そう簡単になれるようなら、僕なんか戦艦の艦長になれてるさ。」

 えりなの問いかけにアレンが苦笑いを浮かべて答える。執務官への道のりは生半可なものではない。高度の技術と能力が求められる分、指揮権は高位に位置している。

「でも努力次第で、えりなも明日香も執務官になるのはそう遠くないって、母さんも艦長も言っていたよ。」

 アレンの言葉に、えりなと明日香が微笑みあう。

「健一くん、あともう少しで、健一くん専用のアームドデバイスが完成するらしいよ。」

「えっ!?ホントか!?

 ソアラの言葉に健一が笑顔を見せる。

「でも健一くんの場合は、もう少し訓練が必要みたいだね。」

「えっ・・!?

「だって、えりなちゃんも明日香ちゃんも、独学だけど魔法の使い方を覚えているよ。」

 えりなと明日香を指し示すソアラに、健一は肩を落とす。その反応にえりなたちも笑みをこぼす。

「ま、その気になるのはしばらくお預けってことか・・・」

「そうなっちゃうね・・・」

 ため息混じりに言いかける健一に苦笑いを浮かべて答えるえりな。そして彼女たちは気を落ち着けて、再び空に眼を向けた。

「いよいよ始まる・・私たちの新しい一歩が・・・」

 えりなの言葉に明日香たちが微笑んで頷く。

「自分が誰でだろうと、目の前の人が誰だろうと関係ない。分かち合えることに、そういった隔たりなんて何にもないんだから・・・」

「これからは私は、どんな人に対しても、優しく手を差し伸べていこうと思う。無闇に何かを傷つけたりしない・・・」

「僕は全ての人たちが幸せになってほしいと願っている。だからせめて、僕の眼に映る限り、僕の知る限りでも、みんなの幸せのために頑張っていきたい・・・」

 えりな、明日香、アレンがそれぞれ決意を告げる。そしてそれぞれのデバイスを手にして掲げる。

「ブレイブネイチャー・・」

「ウンディーネ・・」

 ブレイブネイチャー、ウンディーネにえりなと明日香が呼びかけ、箱の鍵穴に鍵を差し込む。

「ストリーム・・」

Bewegung.”

 アレンの呼びかけにストリームが答える。

「イグニッションキー・オン!」

 えりなと明日香が鍵を回し、デバイスを起動させる。

(そう・・この鍵を回すみたいに、私たちは、私たちの未来の扉の鍵を開ける・・・)

 自分のこれから歩んでいく未来を見据えながら、えりなたちはブレイブネイチャーを手にして駆け出した。

 

 

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