魔法少女エメラルえりなMiracles

第13話「未来への道」

 

 

それは、ひとつの奇跡でした。

 

悲しみ、辛さ、絶望。

様々な悲劇とすれ違いに打ちひしがれながらも、希望をつかもうとする手。

 

多くの経験と、それと向き合う決意。

少年少女は、それぞれの未来へと足を進めていく。

 

私たちの旅は、ここから始まっていく・・・

 

魔法少女エメラルえりなMiracles、始まります。

 

 

 パンドラの魔力が消失したことで、サイノンを覆っていた空間歪曲が緩和へと向かっていた。時間凍結を受けていたラックスとソアラも、魔力の煙を全身からあふれさせながら、元の色を取り戻していた。

「あれ?私、今まで・・・?」

「・・そうだ。パンドラの時間凍結にかかって、動けなくなってたんだ・・」

 意識を取り戻したソアラとラックスが、自分たちの置かれている現状を確かめる。そしてえりなたちを発見して駆け寄る。

「明日香、みんな、大丈夫!?

「ラックス・・元に戻ったんだね・・」

 ラックスが声をかけると、明日香が振り返って微笑む。だが意識を失ったえりなと玉緒を目の当たりにして、ラックスとソアラが深刻の面持ちを浮かべる。

「えりな、玉緒・・・いったい、どうしたっていうの・・・!?

「大丈夫だ、ラックス。2人とも疲れて眠っているだけだ。休息を取れば、時期に眼を覚ます・・」

 心配の声をかけるラックスに、アレンが真剣の面持ちで答える。

「とにかく管理局に戻ろう。ジャンヌさんに回復していただいたとはいえ、全然無事というわけではないから・・」

「それなら、もっと近いところがあるよ。」

 アレンが言いかけると、ライムが気さくな笑みを見せて上空を指し示す。その先を明日香たちも見上げる。

 空間歪曲が消失して鮮明になった空。その虚空の先に点在していたのは、1隻の戦艦だった。

 

 パンドラの魔力の消失で、時空管理局本局を脅かしていた時間凍結も消失した。固まっていたリッキー、ユーノ、エースたちもその束縛から解放された。

「えりなちゃんたちが、やってくれたみたいですね・・・」

「それにこの気配・・なのはたちも・・」

 リッキーが呟きかけると、ユーノも答えて頷く。そこへクリスが歩み寄り、2人に声をかける。

「なのはさんたちは空間歪曲の壁に阻まれてしまっていて、ライムさんとジャンヌさんが強引に突っ込みましたけど。」

「ライムとジャンヌも来てるのですか?・・またまた大がかりなことになってしまいましたね・・」

「この光景を見ても十分大がかりですけどね。」

 ユーノが苦笑いを浮かべて言いかけると、クリスは笑顔を絶やさずに答える。その横でリッキーは沈痛の面持ちを浮かべていた。

「どうしたの、リッキー?どこか、痛めたところが・・」

 ユーノが心配の声をかけると、リッキーは首を横に振る。

「僕、何もできませんでした・・えりなちゃんやみんなを援護することもできず・・・」

 リッキーは自分を責めていた。今回の事件と戦い、彼は主だった活躍をしていたいと思っていた。えりなを助けようと奮起するも、パンドラの時間凍結にかかってしまい、そのまま身動きができなくなってしまった。

 そのことがリッキーに重圧をかけ、責任を痛感させていた。

 そんな彼の肩に優しく手を乗せてきたのはユーノだった。

「リッキーもよく頑張っていたよ。君の助力がなければ、えりなはカオスコアの力を引き出せなかったんだから・・」

「それでも・・それでも僕は・・・」

「焦ることはない。リッキーも自分の道をじっくり探していけばいいよ・・」

 ユーノがかけたこの言葉に、リッキーが戸惑いを見せる。

「君もこの前や今回の事件の中で、多くのことを学び、成長した。少なくとも、これらの経験で君は強さを持ったはずだよ。」

「ユーノさん・・・」

「僕はこの無限書庫の管理を行う道を選んだ。君にも君だけの道がきっとあるはずだよ。」

 ユーノの励ましを受けて、リッキーは笑顔を取り戻した。自分たちの未来はまだまだ長く続いていることを、彼らは悟るのだった。

「さて、なのはやえりなたちのところに行こう。みんな疲れてると思うから、僕たちが支えてあげないと。」

「分かりました、ユーノさん。」

 ユーノの言葉にリッキーが頷く。そこへクリスが2人に声をかけてきた。

「みなさんはミーティアに乗ったようですよ。行ってあげてください。」

「ミーティア・・それじゃ、ハイネさんが手引きしてくれたんですか・・」

 クリスの言葉を受けて、ユーノが笑みをこぼす。ミーティアの救援によって、ライムの介入が可能となったのである。

 

 特務艦「ミーティア」に乗艦したえりなたち。そこでは先に乗っていたなのは、フェイト、はやて、アルフ、そしてシグナムたちの姿もあった。

「ライムちゃん、ジャンヌちゃん、無事だったんだね。」

「なのはちゃん、みんな、心配かけたね。でもご覧のとおりだよ。」

 なのはが笑顔で声をかけると、ライムも気さくな笑みを見せて答える。

「けど相変わらずムチャするヤツだよな、ライム。空間歪曲のど真ん中に突っ込んでいきやがるんだからな。」

「アハハ。けどああでもしなかったら、えりなたちが危なかったところだよ。」

 ヴィータが憮然とした態度で言いかけると、ライムが少し真面目に答える。

「言っとくけど、これが僕の性分みたいなもんだよ。眼の前に誰かが危なくなってるのに、指をくわえてみてるなんてできないよ。」

「仕方のないことだ・・ところでえりなはどうした?眼が覚めたのか?」

 ライムの言い分に半ば呆れながらも、シグナムが訊ねてくる。そのとき、意識を取り戻したえりなが医務室から出て、明日香たちのいる広場に姿を見せてきた。

「えりな、もう大丈夫なの?」

「明日香ちゃん・・うん。ちょっと疲れただけ。休んだら落ち着いたよ。」

 明日香が声をかけると、えりなが微笑んで答える。

「玉緒ちゃんも眼が覚めてるよ。今、シャマルさんが玉緒ちゃんの診察をしてる。」

「シャマルさんとジャンヌさんは治療のエキスパート。玉緒もそれほど大きな損傷は見られなかったから、すぐにここに来るだろうね。」

 えりなの言葉にアレンが続ける。そして健一が肩を落として安堵を浮かべる。

「それにしてもホントにムチャばかりしたよな。どうなっちまうのかと、オレも冷や冷やしたぜ。」

 健一が口にした言葉に、突然なのはやヴィータたちが深刻な面持ちを浮かべる。そしてなのはがえりなたちに向けて言いかける。

「えりなちゃん、アレンくん、みんなも・・これからはみんなのためにも、あまりムチャはしないでほしいの。」

「なのはさん・・・?」

 なのはのこの言葉にえりなと明日香が当惑を見せる。

「ムチャをすると、必ずリスクがついて回る。みんなには、そのために傷ついてほしくないの。」

「なのはさん・・・どうしてそこまで強く言うんですか・・?」

 なのはの言葉に、えりなは疑問を返さずにはいられなかった。

「確かにムチャが危ないって言うのは分かります。でも、そこまで言う必要は・・」

「えりな、なのはさんは戦技教導官の立場上だけで忠告してくれているわけじゃないんだ・・」

 えりなが反論しているところへ、アレンが口を挟んできた。

「なのはさん、話しても構いませんよね、あのことを?」

「おい、アレン、それはなのはに悪いって・・」

 アレンの言葉をヴィータが制しようとするが、アレンは首を横に振る。

「いいえ。ここは話しておかないとまず納得しないでしょう。主題を話さずに警告ばかりするのは、あまりにも不器用ですよ。」

 アレンの言葉にヴィータもなのはもこれ以上は言いとがめなかった。アレンは落ち着いてから、えりなたちに語り始めた。

「なのはさんは、この時空管理局の魔導師としてはすごい人だよ。“誰もが認めるエースオブエース”とも呼ばれるほどに。でもこれまでの活躍が、全部完全無欠だったわけじゃない・・」

 アレンの口から語られるなのはの過去に、えりなたちは固唾を呑んだ。

 なのは幼少期の頃から、民間協力者として活躍していた。数々の事件の中、彼女は自分の意思を貫くためにムチャもした。そのムチャが功を奏したことも中にはあった。

 だが彼女が管理局に所属してから2年後のことだった。数々のムチャが体に負担を蓄積させ、ついに悲劇を招いた。

 本来なら難なくこなせるはずの任務。だがなのはは傷つき倒れ、瀕死の重傷を負ってしまった。度重なるムチャが祟り、体が疲弊しきっていたのだ。

 もはや魔導師として活躍できるどころか、歩くこともままならなかった。九死に一生を得たものの、なのはは自分のムチャのためにみんなに迷惑をかけたことを悔やんだ。

 その悲劇の現場にはヴィータが居合わせ、その見舞いにはフェイトとライムも立ち会っていた。これはなのはの考えを改めさせるだけでなく、彼女を取り巻く人間の様々な感情が交錯した出来事でもあった。

「そんな・・なのはさんにそんなことが・・・」

 アレンの話を聞いて、えりなが深刻な面持ちを浮かべる。

「ムチャをすることがどういうことか。ムチャがどんなに危ないことか。あたしらやなのははよく分かってる。特になのはは、自分の周りの人間がムチャをすることをよく思っちゃいねぇんだよ・・」

 ヴィータが釘を刺すようにえりなたちに言いかける。ムチャということがどれほど危険なことか、えりな、明日香、健一は理解していた。

 だがえりなはなのはたちの見解に対し、反論を持ちかけた。

「確かにムチャは危ないってことは十分に分かりました。でも、自分を貫くために、他の誰かのために、時にムチャをしなくちゃならないときだってあるはずです。」

「えりな・・・」

 えりなの言葉に健一が困惑を膨らませる。

「魔法の力を手に入れてから、いろいろなことの連続でした。私自身、何をどうすればいいのか分からなかったです・・でも、今ははっきりと言えます。何のために頑張るのか・・」

 切実な心境で語りかけるえりなに、なのはたちは真剣な面持ちで耳を傾けていた。

「みんなを、みんなの心を守りたい。それが私の頑張る理由・・私の正義です!」

 えりなが言い放つ揺るぎない決意。その気持ちに明日香も健一も感化されていた。だがなのはは引き下がらなかった。

「えりなちゃんの気持ちは分かる。でもそれは感情の域を出ていない。ルールと安全を守れなければ、それはただの暴力でしかないの。」

「ではあなたは、みんなの気持ちとルールと、どっちを取るんですか!?私はみんなの守るためなら、悪にでも何でもなる!今の私にはその覚悟がある!自分が目指したい未来が見えてきています!」

 互いに一歩も譲らないなのはとえりな。

「私はみんなを守るためにこの魔法の力を使う!たとえきれいごととかわがままだとか言われても、私はこの気持ちだけは、誰にも譲れません!」

「えりな・・・本当にお前はバカみたいに一直線なんだから・・・」

 えりなの言葉を受けて、健一が呆れながらも立ち上がる。

「えりなはオレでも手が付けられないくらいの頑固者でしてね。1度思い込んだらそう簡単には止まらないですよ。」

「健一・・・」

 健一が奮起を見せると、えりなが笑みをこぼす。

「お前との腐れ縁長いしな。お前はオレがついてないと、ホントにとことん突っ込んじまうからな。」

「もう、健一ったら。私があなたのことをしっかり面倒見なくちゃなんないでしょうに。」

 気さくな笑みを見せる健一に、えりなが呆れた素振りを見せる。そして2人は真剣な面持ちを浮かべて、なのはたちに眼を向ける。

「悪いがオレたちは、行けるとこまでとことん突っ走っていくんで。」

「まぁ、お互いが傷つかないように、お互いが面倒見合うということで。」

 揺るぎない見解を言い渡す健一とえりな。するとライムが気さくな笑みを浮かべて言いかける。

「これまたずい分度胸のある2人だよ。ここまで来るとなかなか無碍にできないよ。」

「でもライム、えりなたちの考えには・・」

 ライムの言葉にフェイトが苦言を呈する。だがライムは、えりなたちが今の自分たちの気持ちを曲げないことを分かっていた。

「前にユーノから聞いたよ。自分の力だけで事件解決しようと考えたら、なのはちゃんに怒られたって。周りのみんなを傷つけさせないために、周りのムチャを叱り付けるというのは、そのときのユーノくんと同じなんじゃないかな?」

「・・・もう、ライムちゃんったら。こういうときだけ説得力のあることをいうんだから・・・」

 ライムに諭されて、なのはが肩を落とす。自分の言い分が間違ってなく、えりなの言い分が正しいことではないと分かっていながらも、えりなを止めることもできないとも分かっていたため、なのはは腑に落ちない心境に駆られていた。

“よう、お前ら。久しぶりだな。”

 そのとき、通信回線を伝って、えりなたちのいる部屋に声がかかってきた。ミーティア艦長、ハイネ・ヴェステンフルスである。

「その声はハイネ。久しぶりですね。」

 ジャンヌが微笑んで、ハイネに声をかける。

“みんないろいろと活躍してるみたいじゃないか。話は聞いてるぜ。”

「ハイネさんも、いろいろと活躍の話は聞いていますよ。」

 気さくに声をかけてくるハイネに、ジャンヌも微笑んで答える。

“丁度、ユーノもここに来たぜ。もう1人、スクライアの坊主も連れてきてる。”

「リッキーだよ。」

 ハイネの言葉を聞いて、えりなが笑顔を見せる。転移装置に向かう彼女に続いて、健一も広場を後にした。

「ち、ちょっと、えりな、健一!・・・すみません、なのはさん、みなさん。こんなことになるとは・・・」

 えりなたちを呼び止めようとしたアレンが、なのはたちに謝罪して頭を下げる。だがなのはは微笑みを消さなかった。

「気にしなくていいよ、アレンくん。えりなちゃんは私たちの気持ちを理解しつつ、自分を貫こうとする気持ちと覚悟を示した。危なっかしいけど、絶対間違ってるとは言い切れないよ・・・それにしても、アレンくんが私のことを知っていたなんて・・」

「す、すみません。教わる以上、教官や先生に関することはある程度理解しなくてはいけないと思いまして・・・口外してはいけないものと分かっていたのですが、今はえりなのために・・・それに・・」

 アレンが弁解を言えると、なのはがきょとんとなる。

「これは僕の個人的な直感ですけど・・えりなとなのはさん、どこか似ているところがあると思ったんです・・・うまくは分からないんですけど・・・」

 アレンが告げたこの言葉になのはだけでなく、明日香もフェイトたちも当惑を覚える。だがなのはとえりなの共通点を思い立ち、ジャンヌが笑みをこぼした。

「確かに。いつも真っ直ぐで、なかなか自分を曲げない。悪く言ったらガンコって言っちゃうんだけど・・」

「多分、ここで僕たちが強引に止めても、自分たちで痛い目を見ない限りは聞かないだろうね。どうします、教導官殿?」

 意地悪そうに言いかけるライムに、なのはは困り顔を浮かべる。

「確かに力はあるし負けん気も強い。後は魔導師としての知識と認識を叩き込んでやれば、貴重な戦力になりそうやね。」

「はやてちゃんまで・・・よーし!こうなったら私も腹を割らなくちゃね!」

 仲間たちに後押しされて、なのはも心を決めた。その心境を察したアレンは、おもむろに席を立つ。

「なのはさん、僕はこれから行くところがあるので、ここで失礼します。ソアラ、行くよ。」

「う、うん・・」

 アレンはソアラを連れてこの場を離れる。彼が向かおうとしている場所を理解して、明日香がとラックスが深刻な面持ちを浮かべる。

「エース提督のところですね・・・気の毒に感じていますよ、アレンのことを・・」

「そうやね・・彼が執務官を目指すきっかけの人やからなぁ・・少なからずショックはあるみたいや・・」

 明日香の言葉にはやても沈痛の面持ちで頷く。なぜエースがそこまで力に執着したのか、彼女たちも信じられない気持ちを感じていた。

 

 リッキーとユーノがミーティアに乗艦したところへ、えりなと健一が駆けつけてきた。

「リッキー、ユーノさん、元に戻ったんだね。」

「えりなちゃん、健一、いろいろ心配かけちゃったみたいで・・」

 笑顔を見せるえりなに、リッキーが苦笑いを浮かべて答える。

「なるほど。君がグラン式デバイスを使う新人だね。」

 そのとき、えりなたちは1人の青年に声をかけられる。振り返った先にいる青年と少女の姿にユーノは見覚えがあった。

「ユウキさん、仁美さん、久しぶりです・・・!」

 ユーノに声をかけられて2人が笑みを見せる。

 神楽(かぐら)ユウキ。時空管理局特別調査員にして、デバイスの前身である三種の神器のひとつ「シェリッシェル」の使い手である。

 京野仁美(きょうのひとみ)。三種の神器「クライムパーピル」の使い手で、今年から時空管理局の魔導師として新たな人生を歩みだした。そのポテンシャルの高さは、管理局の上層部も眼を見張るものがあると賞賛されているほどである。

 2人はミーティアに乗艦し、活躍の場を広げつつあった。

「もしかして、ユウキさんたちが手回しを・・・?」

「いや。実際に動き出すよう命令を出したのはハイネだよ。もちろん、オレも仁美もライムちゃんも、事態を知ってその気になったけどね。」

 ユーノの問いかけに、ユウキが気さくな笑みを浮かべて答える。そしてユウキと仁美が、えりなとリッキーに眼を向けてきた。

「あなたたちが坂崎えりなちゃんとリッキー・スクライアくんね?あなたたちのことはみんなから聞いてるよ。」

「そんな。私ってそんなに注目されてるんですか・・・?」

 仁美が声をかけると、えりなが照れ笑いを浮かべる。そのやり取りに周囲から笑みがこぼれる。

「局内でも噂が立ってるよ。エースの再来だとか。

「エース・・そういえばなのはさんも“エース”って呼ばれていましたね・・」

 ユウキの言葉にえりなが戸惑いを浮かべる。

「まぁ、裏づけされた活躍をしてるってことなんだよね。その点では君も同じだと思うよ。」

「そうですか・・私はただ夢中になってただけで・・玉緒ちゃんやみんなを守りたい一心で・・」

「その気持ちはすごく大事だよ。だけどそれをやり通すには、覚悟と責任がついて回ることは、肝に銘じたほうがいいよ。」

「覚悟と、責任・・・」

「自分を貫く勇気と、そこから生まれた間違いを受け入れる覚悟、そしてそれに対する責任。これは管理局の局員に限らず、誰にでも言えることだからね。」

 ユウキからの激励に戸惑いながらも、えりなは真剣な面持ちを浮かべて頷く。

「分かっています。それでも私は、私たちは信じる道を進んでいきます。その覚悟も罪も、ちゃんと背負っていきます・・・!」

「そうか・・・やっぱり、6年前のなのはちゃんにそっくりだ。自分のために、他の誰かのために一生懸命になってる・・」

 えりなの決意を聞いたユウキが、彼女の頭を優しく撫でる。

「オレたちもだが、これからは君たちが頑張る時代だ。お互い、頑張っていこう。」

「ユウキさん・・・はいっ!」

 えりなは笑顔で頷き、ユウキと握手を交わした。

 

 時空管理局の本局内の1室。そこでは今回の事件の重要参考人であるエースが、クリスからの取調べを受けていた。エースと親交のあったクリスが聴取を行いたいと志願し、他の上位の局員や提督たちはこれを了承した。

 クラウン立会いの中で取調べが行われている部屋を、アレンがソアラを連れて訪れた。

「クラウンさん、僕もいいですか?」

「アレンくん、ソアラちゃん・・・構いませんけど、大丈夫・・・?」

 心配の声をかけるクラウンに、アレンは真剣な面持ちで頷いた。彼の到着に気付いたクリスが、クラウンに向けて頷きかける。

 クラウンがドアを開けると、アレンはソアラに制止をかけて部屋に入る。無表情のエースに眼を向けて、アレンは深刻な面持ちで声をかける。

「エース提督・・どうして、このようなことを・・・僕は、あなたがこのようなことをしたのが、今でも信じられません・・・」

 アレンが問いかけると、エースは突然不敵な笑みを浮かべてきた。

「私は力がほしかったのだ・・何も守れない自分が許せなかったから・・・」

「何も守れないって・・・提督・・・」

「私はかつて、ロストロギア関連の事件に立ち会ったことがあった。だが先陣を切った私が手傷を負い、私を守ろうとして、私の部下たちが、そのロストロギアの暴走で命を落としてしまったのだ・・私が無力だったために起こった悲劇だ・・・」

「だから、そこまでに力に執着して、三銃士の封じた闇の力さえも得ようとしたのですか・・・」

 エースの言葉を聞いてアレンは深刻さを募らせる。だがアレンはすぐに真剣な面持ちに戻って言いかける。

「エース提督・・いえ、エース・クルーガー、あなたは大きな間違いをしている。本当の強さというのは、力の大きさだけで計れるものではない。力に溺れず、自分を貫き通す心、勇気のことをいうんです。」

 切実に語るアレンに、クリスもクラウンも真剣に耳を傾ける。

「僕はカオスコア事件、そして今回の事件の中で、多くのことを学びました。自分の心を貫くことがどんなにすごいことか。たった一歩を踏み込む勇気が、自分の未来を左右するほどの意味合いを持っていることを、僕は理解しました・・これからは僕は、僕の中にある、僕の中に芽生えつつある正義と思いを育んでいきたいと思います。」

「アレンくん・・・」

 アレンの見解と決意を聞いて、エースが当惑を見せる。

「あなたにはとても感謝しています。あなたの活躍と人柄がなければ、あなたが優しさを傾けてきてくれなければ、僕の執務官としての道は伸びなかったでしょう・・今まで、ありがとうごじあました、エース提督。これからも、僕やみんなのことを見守っていてください・・・」

 アレンはエースに言いかけると、深々と頭を下げた。その決意、そして恩師との決別と巣立ちを目の当たりにして、ソアラは涙ながらに微笑んで頷いた。

「では、僕はこれからやらなくてはならないことがありますので、失礼します・・・」

「アレンくん・・」

 アレンが席を立ったところで、エースが声をかけてきた。

「・・・すまなかった・・・えりなくんたちにも、伝えておいてほしい・・・」

「・・・分かりました・・・」

 エースの申し出をアレンは受け入れ、改めて部屋を後にした。彼の眼に涙が浮かび上がってるのを、ソアラは気付いていた。

 

 眼を覚ました玉緒はシャマルからの診察を受けていた。落ち着きを取り戻した玉緒の体は平常で、パンドラからの悪影響は残っていなかった。

「何事もなくてよかったです・・えりなちゃんと融合したりするから、かなりの負担がかかっているのかと予期していましたけど・・」

「そうですか・・・ありがとうございます、シャマルさん。シャマルさんのおかげで、あたし、元気になれた気がします。」

 笑顔を見せあうシャマルと玉緒。2人のいる医務室に、ヴィッツたち三銃士とジャンヌが入ってきた。

「玉緒・・無事だったのか・・・」

「ヴィッツ、アクシオ、ダイナ・・・よかった・・みんな無事で・・・」

 微笑みかけるヴィッツに喜びを感じ、玉緒が抱きしめる。再会を分かち合い、アクシオもダイナも笑みをこぼした。

「みなさんも体のほうに異常は見られません。激しい運動をしても問題はないでしょうね・・・」

「・・でも、問題は、私たちの処置・・今回の事件の罪人となることに変わりはないだろう・・・」

 シャマルの言葉を聞いて安堵するも、ヴィッツたちはこれまで自分たちが犯してきた罪を痛感して、深刻な面持ちを浮かべる。玉緒もえりなたちに対する罪悪感を感じて沈痛の面持ちを浮かべる。

 重い空気に包まれ始めていた医務室に、フェイトとライムがやってきた。

「それなら心配は要らない。確かに罪状は出るけど、保護観察の扱いになると思うから。」

「えっ?本当なのか?・・しかし、オレたちはお前たちに・・」

 フェイトの言葉を聞いても、ダイナは深刻さを拭えないでいる。

「そんなに思いつめることじゃないよ。君たちはパンドラの暴走を食い止めようと躍起になってくれた。それにそれ以前のパンドラスフィアに関する行動も、玉緒ちゃんを助けるためにしたことだよね?」

 そこへライムが気さくな笑みを浮かべて補足する。自分たちの行動を思い返して、ヴィッツたちは彼女の言ったとおりの心境であったことを思い返していた。

「玉緒もその保護観察処分を受けることになるけど、私たち時空管理局があなたたちをしっかり保護するから。」

「本当にゴメンなさい・・お手柔らかにお願いしますね、みなさん♪」

 フェイトの優しい言葉を受けて、玉緒は笑顔で答えた。ヴィッツ、アクシオ、ダイナも改めて安堵の笑みをこぼした。

 だが玉緒たちには深刻な問題がひとつあった。それは結果的に病院を抜け出してきてしまったことである。

 いったん病院に戻った玉緒たちは、担当医から厳重な注意をされたのだった。しかし事なきを得るにいたり、玉緒たちはそこでも安堵を見せるのだった。

 

 本局へとたどり着き、えりなたちはミーティアから降りた。そこで彼女たちは、先に本局に戻っていたアレンとソアラと会う。

「アレンくん、ただいま。」

「おかえり、えりな、みんな。母さんはエース提督の取調べを続けてる。これまでの実績から罪は軽減されそうだけど、保護観察までには至らないと思う。」

 挨拶をしてきたえりなに、アレンが物悲しい笑みを浮かべて答える。エース提督の行動に、アレンは少なからず動揺を感じているようだった。

 そこへなのはが歩み寄り、えりなたちが振り返る。えりなへの言動に不満を感じていた健一に睨まれるも、なのははあえて気に留めずにえりなに声をかける。

「あなたたちをこのまま放っておいたら、本当に危なっかしいと思うからね。私が教えられることをしっかりと教えてあげる。」

「なのはさん・・・」

 なのはの申し出にえりなが戸惑いを見せる。

「でも私はあくまで、実践向きの指導をしてあげるだけ。あなたが自分を貫くと言い張った以上、私から教わることを十分に肝に銘じてほしいの。それだけは分かってほしい。」

「それはつまり、私が魔導師としての自覚を持てってことですよね・・・?」

 えりなが真剣な面持ちで言いかけると、なのはも真剣な面持ちで頷く。

「言っておきますけど、そのまま鵜呑みにするわけじゃないですよ・・それによく言いますよね。勉強は教わるのではなく“盗む”んだって。エヘヘヘ・・」

 照れ笑いを見せるえりなに、なのはは呆れ顔を浮かべた。

「これは、手の焼く教育になりそうだね・・時空管理局戦技教導官、高町なのは二等空尉よ。」

「坂崎えりなです。お互い、頑張りましょうね、なのはさん。」

 なのはとえりなが微笑んで、握手を交わす。2人のエースの友好に、周囲から拍手が湧き上がった。

「辻健一です。オレに、えりなを守らせてください。」

 そこへ健一が2人の手に自分の手を乗せてきた。彼も自分の決意を2人に向けて告げてきた。

 3人のやり取りを見て、アレンも笑みをこぼしていた。一時は一触即発の空気になったが、その中で自分の意思と決意を貫き通しつつ、なのはとえりなは和解していた。

 2人のエースのこれからの活躍を、人々は期待し、祝福した。

 

 こうして「パンドラ事件」は沈静化した。

 パンドラの復活とその力の奪取を図ったエース・クルーガーには懲役が科せられた。玉緒と三銃士たちは保護観察処分となり、時空管理局に従事することとなった。その中で玉緒が魔導師志願を申し出ており、その意気込みを買う者たちもいた。

 えりな、明日香、リッキー、ラックス、健一は一路、アレン、ソアラ、クリス、なのはたちと別れ、「バートン」へと戻っていった。そこでえりなたちは、雄一、千春、まりな、姫子、広美にこれまでとこれからの事情を話した。

 時空管理局に本格的に所属するえりなたちを、雄一たちは心から祝福していた。その決意を祝うためなのか、その夜店内はパーティーが開かれた。

 自分たちの決意と家族や親友たちに後押しされて、えりなたちは新たな旅路に着くのだった。

 

 

 それから、4年の歳月が流れた・・・

 

 

 連続していた任務を終えて、ミッドチルダに帰還していたアレンとソアラ。2人は郊外の丘の上から、ミッドチルダの市街を見下ろしていた。

「最近頑張ってるね、アレン。みんながアレンを頼ってるから、私も何だか鼻が高くなっちゃうよ。」

「これでもムチャしているほうだと僕自身は思う。それにストッパーをかけてくれてるのは君だよ、ソアラ。おかげで適度に緩急がついてきているよ。」

 笑顔を振りまくソアラに、アレンが微笑みかける。

「僕たちの未来はまだまだこれからだ。ソアラ、これからも僕をサポートしてくれ。」

「もちろんだよ・・そういえばアレン、後でみんなと合流するんだよね?」

「うん。えりなや健一が猪突猛進になっていないか、直に確かめておかないと。」

 アレンは苦笑いを浮かべると、ソアラとともに丘を降りていった。

 

 

アレン・ハント。時空管理局執務官。階級は二尉扱い。

パンドラ事件から1年後、執務官となり、本格的に法務や事件捜査を担当するようになった。

魔法技術の師であるなのはとの交友は継続しつつ、甘えたくないという理由から別部隊での活躍が目立っている。それでも彼女を尊敬の対象としていることに変わりはない。

使い魔であるソアラとともに、管理局管轄下の事件に挑んでいる。

 

 

「玉緒、体のほうはもう大丈夫なのか?」

 医療班からの診察を終えた玉緒に、ヴィッツが声をかけてきた。すると玉緒は笑顔を見せて、

「うん。もう大丈夫。このミッドチルダの医療技術がなかったら、多分あたしの心臓は完治しなかったかもって。」

「もう、ホントに心配しちゃってたんだよ・・でもホント、治ってよかったよ・・・」

 アクシオも玉緒の完治を心から喜び、眼に大粒の涙を浮かべていた。少し大人びてきたアクシオを、玉緒は優しく抱きしめた。

「今まで心配かけてホントにゴメンね。でもあたしはもう大丈夫だから。」

「ありがとう、玉緒。お前のおかげで、オレたちはこれまで戦ってこれた・・これからもともに頑張っていこう。」

 ダイナが微笑んで玉緒と握手を交わす。玉緒と三銃士の旅は、ここから始まるのだ。

 

 

豊川玉緒。時空管理局調査官。階級は三等陸尉。

パンドラ事件における保護観察を終えて、魔導師としての活躍の場を広げていく。その中、グラン式オールラウンドデバイス「ミラクルズ」を与えられる。

ミッドチルダでの治療と療養にて、彼女の出身地である第97管理外世界の医療技術では不可能とされていた心臓病を完治。身体の異常は解消された。

ヴィッツたちとともに多くの事件、特にロストロギア関連の事件の解決に貢献している。

 

 

 ミッドチルダの市街にたどり着いた明日香は、子犬の姿のラックスを伴って通りを歩いていた。えりなと健一との待ち合わせのため、彼女たちはその場所を目指していた。

「少し遅れてしまったね、ラックス。えりなは笑顔で迎えてくれるだろうけど、健一は文句を言ってくるかも。」

「事件と任務があったからね。2人ともしょうがないって言って、あたしたちのことを許してくれるよ、きっと。」

 苦笑いを浮かべる明日香に、ラックスが笑みをこぼす。えりなと健一の優しさはこの年月を経ても変わらない。2人ともそう思っていた。

「それじゃ駆け足で行くよ、明日香。いくら優しくても、待たせていいことにはなんないからね。」

「もう、せっかちなんだから、ラックスは。」

 陽気に駆け出していったラックスを追って、明日香も微笑んで走り出した。

 

 

町井明日香。時空管理局所属。階級は三等空尉。

2年の自然保護隊での活動を経て、航空武装隊に所属。現在は1831航空隊に身を置いている。

現場指揮と遠距離攻撃を任せられることが多く、砲撃魔導師としての風格を表してきている。

現在もラックスとともに数々の活躍を見せている。えりなとは時折コンビを組むことも少なくない。

 

 

 数々の次元世界を渡っての旅を経て、ミッドチルダに帰還したリッキー。彼は時空管理局本局に赴き、ユーノとの久方の再会をしていた。

「お久しぶりです、ユーノさん。遠くから聞いていますよ。また博士号を取ったそうじゃないですか。」

「それほどでもないよ・・リッキーもずい分たくましくなったね。旅の成果は出てるのかな?」

「自慢するほどでもないんですけど。まぁ、いろいろ回りましたから、体力とかだけじゃなく知識をつきましたよ。」

 照れ笑いを浮かべるユーノに、リッキーが笑顔で答える。

「ユーノさん、ゆっくりお話したかったのですが、えりなちゃんたちと待ち合わせをしていますので・・」

「僕のことは気にしなくていいよ。落ち着いたらまた連絡をもらえるかな?」

「はい。もちろんです。」

 リッキーはユーノに笑顔のまま答えると、疲れを感じさせないほどの活発さを見せて駆け出していった。

 

 

リッキー・スクライア。時空管理局所属魔導師。階級は准空尉。

えりなたちと別れた後に数々の時空世界を転々として、自分に磨きをかけていった。少しでもえりなたちをサポートしたいという原動力が、彼を突き動かしてきた。

現在は救助隊に所属。彼の魔法、特に回復系魔法は、他の医療魔導師に引けを取らないほどになっている。

 

 

 ミッドチルダの中央公園を待ち合わせ場所として、1番乗りしていたえりな。仲間たちとの再会を待ちわびていたあまり、彼女は早く来すぎてしまっていた。

「いくらなんでも早く来すぎだろ。かなり待ちぼうけしちまっただろうに。」

 肩を落として待っていたえりなに、健一が呆れた面持ちで声をかけてきた。

「だって、待ちきれなかったっていうか何というか・・」

「まったく・・腕は上達しても、相変わらずなとこもあるな。やっぱお前はえりなだ。」

 苦笑いを浮かべるえりなに、健一が気さくな笑みをこぼした。

「けど、そんなお前だからこそ、オレは守ってやりたいって思うんだよな。守り甲斐が十二分にあるからな。」

「もう、健一ったら・・・でも、そんな健一を、私は好きでいたいよ・・・」

 健一の優しさを受け入れて、えりなは心からの喜びを感じていた。

 

 

辻健一。時空管理局所属。階級は准陸尉。

陸士104部隊に所属。前衛の切り込み陸士としての力量を開花させていく。

えりなと任務をこなすことも多く、そのコンビは今でも健在である。

 

 

坂崎えりな。時空管理局所属。階級は三等空尉。

様々な陸上警備隊、航空武装隊に転属し、現在は1039航空隊にて活躍している。主に前衛における切り込みを行い、現場の人々や部隊の局員の防衛に全力を注いでいる。

健一とともになのはから管理局魔導師としてのノウハウを叩き込まれており、多くの人々の期待を一身に背負って、空を駆け抜ける。

 

 

 中央広場にて、互いの気持ちを確かめ合ったえりなと健一。2人はいつしか互いを抱きしめあっていた。

「えりな、たとえ世界の裏側からでも、お前を助けに駆けつけてきてやるからな。」

「言っとくけど、私ももう守られてばかりじゃないよ。私も健一やみんなを守る・・私の持てる全力で・・・」

 互いの切実な気持ちを伝える健一とえりな。2人は顔を近づけ、唇を重ねた。

 絶対に守り抜く。そのためなら奇跡だって起こしてみせる。それがえりなと健一の、揺るぎない決意となっていた。

 彼らの旅はまだ、始まったばかり・・・

 

 

未来に向かって・イグニッションキー・オン!

 

 

作品集

 

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