CHRNO CRUSADE –時の勇者- Chapter.5「アズマリア」

 

 

「姉さん・・・?」

 驚愕したルドセブがサテラを見つめる。

「大丈夫だった・・かしら・・・ルドセブ・・・?」

「サテラ姉さん!」

 駆け寄ろうとしたルドセブの眼の前で、サテラからフィオレの槍が引き抜かれる。腹部から出血が起こり、サテラがうずくまる。

 そんな中、サテラはうっすらとフィオレの顔色をうかがった。しかしフィオレは顔色ひとつ変えてはいなかった。

「とどめは必要ですか?」

 フィオレのためらいもないこの言葉に、サテラは愕然とした。

 眼の前にいるこの女性はもはや姉のフロレットではない。悪魔によって生み出された、心のない人形。サテラはそう思うしかなかった。

「姉さん!しっかりして、姉さん!」

 ルドセブがサテラに寄り添って、必死に呼びかける。激痛にうなだれながらも、サテラはルドセブに笑みを見せる。

「ルドセブ・・・私を姉さんと慕ってくれて・・・正直嬉しかった・・・」

「姉さん・・・?」

「でも・・・私はもう戻れない・・・フロレット姉さまは・・・もう帰ってこない・・・」

 サテラは絶望した。探し続けていた姉はもう戻ってはこない。フィオレとして人形として生き続けることになる。

「なら・・・せめて・・・」

 サテラはルドセブを突き飛ばし、槍を振り上げていたフィオレに抱きついた。弱りきった彼女に抱かれ、フィオレは手から槍を落とす。

「ロゼット、クロノ・・後は、頼んだわよ・・・」

「サテラ・・・?」

 困惑の表情を浮かべるロゼットに、サテラは青く透き通った宝石を1つ放り投げた。瘴気の壁をすり抜け、宝石はロゼットの手に納まる。

 ロゼットたちに全てを託し、サテラはフィオレを抱きしめた。

「これからは、私がそばにいますわ、お姉様・・・」

 サテラは左手に握り締めている、血でぬれた紅い宝石に力を注ぐ。

(さよなら・・・みんな・・・)

「相愛なる六月(リーベンツヴァイリング)・・・」

 胸中で別れを告げたサテラが呟いたのは、宝石封印の言葉だった。

 使い魔晶換のために使う宝石に対象の魂を封じ込める晶換術だった。その対象はフィオレと、サテラ自身・・・

 紅い宝石がまばゆいばかりの光を放ち、部屋を照らし出し瘴気を吹き飛ばす。その衝撃にロゼットたちが身を守る。

 やがて2人の宝石使いを包んだ光が消える。困惑するルドセブが近づくと、そこには1つの紅い宝石が落ちていた。その中には、抱き合ったまま眼を閉じているサテラとフィオレの姿があった。

「サ・・・サテラ、姉さん・・・」

 ルドセブが紅い宝石を手に取ろうとした。

 そのとき、部屋が激しい揺れに襲われた。サテラの晶換術の衝撃で、地下室の崩壊を招いてしまったのである。

 床に亀裂が生じ、その中に宝石が落下してしまう。

「姉さん!」

 ルドセブが必死に手を伸ばすが、宝石は亀裂の底へと消えてしまった。

「サテラ姉さん!」

 涙ながらに叫ぶルドセブ。姉が戻ってこないことを悟ったサテラは、フィオレとともに命を散らすことを選んだのだった。

「危ない!部屋が崩れるよ!」

「ルドセブ、こっち!」

 クロノが危機を察し、ロゼットがルドセブを呼びつける。ルドセブも涙を拭いながら、部屋を出て行く。後ろめたい気持ちを抱えながら。

 不敵な笑みを浮かべるアイオーンが、崩れる瓦礫の中から姿を消した。

 

「ふう・・危なかった。」

 命からがら地下室から脱出したクロノたちが、別荘近くの海岸で息を整えていた。同時に、サテラの死に悲しみを抱いていた。

「サテラ姉さん・・・」

 涙を流してルドセブがうなだれる。ロゼットはサテラから渡された宝石をじっと見つめていた。サテラが自分に全てを託してこれを渡したとロゼットは感じていた。

「あ、あれは・・」

 そのときクロノは、別荘のそばで光を放っているものを発見した。

「あれは・・おそらく転移装置だ。アイオーン、僕たちを誘っているんだ。」

「それじゃ、罠ってこと?」

 聞いてきたのはルドセブだった。クロノとロゼットがルドセブに振り返る。

「クロノ兄さん、言ってたよね?ロゼット姉さんには、聖女の証である聖痕がつけられたって。もしかしたら、罪人のホントの狙いは、姉さんじゃないのかな・・・!?」

 ルドセブの指摘に、クロノは動揺する。アイオーンは再び、聖女の力を欲しているのではないかと。

 聖女もアストラルラインをつかさどることができる。本当の自由を手に入れるため、ロゼットを誘い込んでいるのではないだろうか。

 疑問が浮かび上がるクロノの横で、ロゼットは真剣な眼差しを見せていた。

「私がいったい誰なのか、私自身も不安よ。でも今は、まっすぐ進んでいくしかないのよ。」

 ロゼットの前向きな気持ちからの言葉。しかしルドセブの不安は消えなかった。

「でも、みんな傷ついて死んでいく・・・そんな先に何があるっていうの!?」

 ルドセブの不安はもっともだった。

 ヨシュアやヘブンスベルの子供たちを救うために、クロノと契約し、マグダラの修道士となった。しかし命をかけた進行をしても何の進展もなく、逆にアズマリアをさらわれ、アンナたちを犠牲にし、サテラまでも死に追いやってしまった。

 それらの責任を痛感していたロゼットたちは、ついに決意する。

「ルドセブ、アンタはヘブンスベルに帰りなさい。」

「えっ!?姉さん!?」

「ロゼットの言うとおりだ、ルドセブ。」

 ロゼットの言葉にクロノも同意する。しかしルドセブは納得しない様子だった。

「何でだよ、姉さん、兄さん!?オレだって姉さんたちを守りたい!これ以上、誰かを死なせたくないよ!」

「だからよ。」

 ロゼットのその言葉に、ルドセブは押し黙る。

「これ以上誰も死なせたくない。だからアンタを連れて行きたくないのよ。」

「姉さん・・・?」

「でもアンタにも、ちゃんとした役割がある。悪魔からみんなを守ってほしいの。」

 ロゼットは戸惑いを隠せないルドセブの肩に手を乗せ、優しく微笑む。

「私たちを信じてるなら、あそこで待ってて。必ずヨシュアとアズを連れて帰ってくるから。」

 ロゼットとクロノの笑みを見て、ルドセブは悟った。彼女たちと同様、彼女から与えられた願いもまた重要であることを。

「分かったよ、姉さん。その代わり、これを持ってってほしいんだ。」

 了解したルドセブが、ポケットから1つの宝石を取り出す。

「これは、宝石じゃないか。」

 クロノが驚きの声を上げる。ルドセブはクロノに視線を移して、ロゼットにその宝石を手渡した。

「これ、じいちゃんの発明なんだ。これをサテラ姉さんが使ってる宝石と併せて使うと、宝石使いじゃなくても使い魔を呼び出すことができるんだって。」

「えっ!?」

 ロゼットが驚き、サテラから受け取った宝石を取り出して見比べる。

「でも、使えるのは1回だけ。しかも実験とかしてないから、ちゃんと使えるとは言い切れないんだって。」

「エルダー・・・」

「これをオレだと思って、持ってってよ。そしてみんなを助けてよ。」

 ロゼットに託された2つの宝石。エルダー、ルドセブ、サテラの思いを受け継いで、ロゼットは強く握り締めた。

「ありがとう、ルドセブ。絶対にムダにしないから。」

 2つの宝石をポケットに入れて、ロゼットは振り返る。ルドセブを引き離した後ろめたさを押し殺しながら、罪人との戦いの場に赴こうとしていた。

「行くわよ、クロノ。」

「うん・・」

 ロゼットとクロノはルドセブに背を向けたまま、転移装置の中に足を踏み込む。その直後、金色の光に包まれて、2人の姿は消えた。

「頼んだよ・・・ロゼット姉さん、クロノ兄さん・・・」

 ロゼットたちに全てを託し、彼女たちの消えた場所をじっと見つめていたルドセブであった。

 

 上空に浮遊する孤島。その奥の部屋には、多くの機械が置かれて起動していた。

「もうすぐだよーん。もうすぐアストラルラインは・・ウフフフ・・・」

 その中央で機械を操作していた1人の女性。罪人シェーダが満面の笑顔を浮かべていた。

「地上代行者(アポスルズ)を7人そろえ、ついにこの時がやってきた。オレたちが、魔界(パンデモニウム)からの束縛から解放され、本当の自由を手に入れるときが。」

 そこへアイオーンが不敵な笑みを浮かべて現れた。彼の出現にシェーダが振り返る。

「でも、クロノと一緒にいたあの子猫ちゃん、あの部屋から抜け出しちゃったみたいよ〜ん。」

 アズマリアが脱走を図ったことに気付いたシェーダ。しかし彼女は焦る様子もなく、アイオーンも笑みを消していなかった。

「まぁいいさ。このくらいの余興がないとおもしろくない。それに、あの娘がここにやってくるまでの時間つぶしにもなるしな。」

 きびすを返し、部屋を出て行くアイオーン。

「さて、僕も見学に行くとしますか。」

 シェーダも笑いを浮かべながら、アズマリアを追いかけた。部屋の機械のレーダーには、アポスルズの力を察知する機能が備わっており、アズマリアの動きを的確に捉えていた。

 

 シェーダの察知どおり、アズマリアは部屋を抜け出し、廊下を駆け抜けていた。手には果物ナイフが握られて、護身用に持ち出していた。

(早くロゼットたちのところに行かなくちゃ!この悪い人たちのやろうとしていることを、成功させちゃいけない!)

 魔界の破壊と人間世界の崩壊。それを引き起こしての自由の獲得。アイオーンのその企みを阻もうと、アズマリアは脱走を決意したのである。

 しかし彼女の眼の前に、1人の悪魔が立ちはだかる。一瞬恐怖を感じ怯えるアズマリアだったが、彼女の脳裏にロゼットのまっすぐ突き進む姿が浮かび上がる。

 彼女はロゼットのようになりたいと常にがんばっていた。その気持ちは、今の彼女にも宿っている。

(ロゼットだって戦ってるのよね。だから私も、がんばらないと!)

 アズマリアは勇んで、果物ナイフを悪魔に向けて突き出した。殺傷力の乏しいそのナイフでは、悪魔は倒せないはずだった。

 しかし、アズマリアの持つ神の力がナイフに宿り、刃が悪魔の体に突き刺さった瞬間、神々しい光が悪魔に痛烈な衝撃を与えた。

「なにぃぃぃーーー・・・・!!?」

 絶叫を上げながら、悪魔は光を宿したナイフによって消滅し霧散する。

「や・・やったの・・・?」

 思わぬ撃破に戸惑うアズマリア。脱力してその場に座り込んでしまう。

 そこへ大量の悪魔が次々と集まってきた。その中には、罪人シェーダの姿もあった。

「逃げちゃうなんていけないねぇ。お仕置きをしないとねぇ、子猫ちゃ〜ん。」

 シェーダは戯れのような笑みを浮かべてアズマリアを見下ろしていた。アズマリアは怯えて、立ち上がることもままならなくなっていた。

「ロ・・ロゼット・・・」

 思わずアズマリアは呟いていた。そんな彼女に、数人の悪魔が咆哮を上げて飛びかかる。

 そのとき、その悪魔たちにいくつもの爆発が起こる。強烈な破裂音が起こり、その爆発には十字架の光が宿っていた。

「これは・・聖火弾!」

 眼を疑ったアズマリアが振り返る。その先には、銃を構えたロゼットと、十字架の剣を構えたクロノの姿があった。

「ロゼット!クロノ!」

「大丈夫かい、アズマリア!?」

 アズマリアが歓喜の声を上げ、クロノが心配の声をかける。

「アズ、下がってて!クロノ、一気に片付けるわよ!」

 ロゼットがクロノとアズマリアに指示を送る。クロノは頷き、悪魔の群れに飛びかかる。

 降り抜いた剣の光の刃が、次々と悪魔をなぎ払っていく。十字架の剣は、クロノの強力な武器となっていた。

 その反対方向に向けて、ロゼットが聖火弾を連射する。バラバラに撃ち込んでは効果がないを察し、各1ヶ所ずつに集中攻撃を与える。

 予測どおり、悪魔は一点を狙われ、崩れ落ちていく。

「さぁ、ヨシュアはどこ!?」

 ロゼットが悪魔たちに向かって叫ぶ。悪魔たちは動揺してうめくだけだった。

 何人かの悪魔を倒したクロノが一息つく。そこへ黒い刃が振り下ろされ、クロノが気付いて後退する。

 態勢を整えたクロノが視線を戻すと、白髪の男が不敵な笑みを浮かべて、床に叩きつけていた漆黒の剣を持ち上げた。

「アイオーン!」

「ずい分と腑抜けになったものだな、クロノ。」

 あざ笑うアイオーンが飛び出し、クロノに漆黒の剣を振り下ろす。クロノはそれを十字架の剣で受け止める。

「早く本来の姿に戻ったらどうだ?こんな姿のお前を見るのは見るに耐えんな。」

「何とでも言え!」

 クロノが剣を振り抜き、アイオーンを退ける。しかしアイオーンはまだ余裕を見せていた。

「それに、人の力は、決して悪魔に屈したりはしない!」

「矛盾だらけの答えだな。」

 クロノとアイオーンが同時に飛び出す。そして互いの剣を衝突させ、つばぜり合いに持ち込む。

「クロノ!」

 そこへロゼットが聖火弾を撃ち込んだ。弾丸はアイオーンの剣の刀身に命中し、2人の悪魔に衝撃を与える。

「ぐっ!」

 アイオーンが危機を覚えて後退する。しかしそこへ、クロノが剣を叩きつける。そしてアイオーンの持つ剣を弾き飛ばす。

「ぐあっ・・!」

 アイオーンが衝動にうめく。彼の顔に、クロノの剣の刃がかすめる。

 そしてそのまま態勢を崩すアイオーン。

「もらった!」

 クロノが剣を構え、アイオーンに向けて突き出す。

 そのとき、その十字架の剣が激しく叩き落される。光の刃が床に叩きつけられる。

「何っ!?」

 うめくクロノとアイオーンの間に、兜を被った悪魔が降り立つ。

「ジェナイ!?」

 毒づくクロノに、ジェナイが左手の刃を突きつけた。

「クロノ、リゼールの恨みを晴らしてやる!」

 ともに自由を得ようと戦ってきた仲間、リゼールを倒された怒りに燃えるジェナイ。クロノに向けてその刃を振りかざす。

 その激情の猛攻に押されるクロノ。そして十字架の剣を弾き飛ばされる。

(し、しまっ・・!)

 武器を失い、毒づくクロノ。そんな彼に、ジェナイの容赦ない追撃が迫る。

 繰り出される刃を素手で何とか受け止めるクロノ。しかしジェナイは、クロノをそのまま押し込み、そして窓から外に突き飛ばした。

「クロノ!」

 ロゼットがたまらず駆け寄ろうとする。アズマリアも彼女に続く。

 クロノの危機を察したロゼットは、胸に下げた懐中時計を起動させ、クロノの封印を解いた。

 ジェナイに突き飛ばされ、孤島から上空に投げ出されたクロノ。窮地に追い込まれた彼の体から黒い瘴気があふれ出す。

 漆黒の霧に包まれて、クロノが本来の姿に戻る。背の翼をはためかせ、空中を旋回し孤島の庭に着地する。ジェナイも不敵に笑いながら、その草地に足をつく。

 態勢を整えたクロノは、すぐさま少年の姿を取る。ロゼットの命の削減を抑えようと思ったからである。

「クロノ!なぜそんな無様な姿になる。さっさと元の姿に戻れよ!」

 焦りを隠せないクロノに対し、ジェナイはさらに怒りを募らせた。手を抜かれているという侮辱と思われたからである。

 憤慨した罪人(とがびと)が、容赦なくクロノに襲いかかる。

 

「このままじゃ、クロノが・・!」

 広場に取り残されたアズマリアが焦りの声を上げる。ロゼットはすぐにクロノに封印をかけた。

(無事だって分かって思わず封印をかけちゃったけど、このままじゃクロノが・・アイツ、今は丸腰だわ。援護しないと・・・)

 何とかクロノをサポートしようと考えていたロゼット。しかし、動きの早い罪人を捉えるには、自分はあまりにも遅かった。

(こんなとき、サテラがいてくれたら・・・)

 サテラを脳裏に思い起こさせるロゼット。宝石使いなら、この状況を打破することが可能だっただろう。しかしサテラはもういない。

(宝石・・・そうか!)

 ロゼットはポケットに入れていた、ルドセブから渡された宝石を、サテラから託された宝石と一緒に取り出す。

(サテラ、ルドセブ、エルダー、アンタたちの思い、ムダにしないわ!)

 2つの宝石を握り締めた右手を上げ、ロゼットは念じる。自分に全てを託した人々の思いを込めて。

 彼女は自分の姿に、サテラの姿が重なるような感覚を感じた。

「晶換(ラーデン)!」

 使い魔を呼び出す言葉を発するロゼット。すると2つの宝石が輝き、水色の光を帯びたエイの形状をした使い魔が姿を現す。

 サテラの使う宝石の中でも最速を誇る、深遠なる三月(ディーフフィッシェン)である。

「捕まって、アズマリア!」

 使い魔の背に乗ったロゼットが、アズマリアに手を差し伸べる。アズマリアが急いでロゼットの手を取り、使い魔の背に乗る。

「しっかり捕まってて!」

「はいっ!」

 ロゼットに言われ、アズマリアは彼女の体にしっかりとしがみついた。

 それを確認したロゼットは、腰のベルトに収めてあったもうひとつの拳銃を取り出した。彼女の使用する武器の中で最高の威力を持ち、反動が少ない四聖文字砲(デトラグラマトン)である。

 この四聖文字砲とディーフフィッシェンを駆使し、ロゼットはクロノを援護すべく、外に飛び出した。

 この使い魔の速さは何度か実感しているロゼットだったが、アズマリアは初めての体感だった。必死にロゼットにしがみつきながら、クロノの戦いを見ようと眼を開く。

 クロノはジェナイの猛攻になす術がなくなっていた。ロゼットは四聖文字砲の銃口をジェナイに向ける。

「いっけぇーー!!」

 叫びながら、ロゼットは引き金を引いた。銃口からまばゆいばかりの光が放射し、孤島の園に向かって伸びていく。

 そして閃光は、ジェナイの左手の刃の1本の刀身を叩き折った。

「何っ!?」

 不意をつかれたジェナイが驚愕し、発砲したロゼットたちに視線を移す。

「くっ!この人間が!」

 憤慨したジェナイが飛び出し、残った1本の刃を振りかざした。ロゼットは反応はしたものの、使い魔はその刃に切り裂かれる。

「うわっ!」

 激しい振動を受け、ロゼットがうめく。使い魔は傷つき、孤島の園に落下する。

 そのさらなる衝撃で、草地に放り出されるロゼットとアズマリア。ロゼットはアズマリアを抱え、彼女の代わりに体を打たれる。

「ロゼット!」

 クロノが立ち上がり、ロゼットたちに駆け寄ろうとする。そのとき、使い魔が落下した衝撃で緩んでいた園の地盤が崩壊し、そこにいた人々を飲み込んでいく。

 落下したその場所は、もとの広場だった。何とか着地したクロノとロゼットたち。使い魔は力を失い、消滅していた。

 巻き起こる砂煙と瓦礫の中から、ジェナイが再びクロノを狙って飛びかかってきた。

 振り下ろされた刃を後退してかわすクロノ。武器を持たない彼は、再び防戦を強いられてしまった。

 一方、アズマリアをかばって床に叩きつけられたロゼット。骨折などといった重傷はなかったものの、激突の痛みに体が悲鳴を上げていた。

 そこへ不敵な笑みを浮かべているアイオーンが立ちはだかった。

「お前もしぶといな、ロゼット・クリストファ。」

 余裕を見せる罪人に対し、ロゼットは四聖文字砲を構える。アイオーンは丸腰だったが、それでも相手を殺傷させる力を備えているに違いないと彼女は感じていた。

 ロゼットにかばわれているアズマリアが、ゆっくりと体を起こす。彼女の視線が、ジェナイに押されているクロノを捉える。

「クロノ!」

 クロノの危機に叫ぶアズマリア。

 そのとき、彼女の眼に剣を形作る十字架が転がっていた。クロノが使用していたものである。

 考える間もなく、アズマリアは動き出していた。一直線に駆け出し、床に置かれた十字架を拾い上げる。

 同時に、クロノがジェナイの刃に押され、しりもちをついてしまった。やられると思い覚悟するクロノと、勝利を確信し刃を構えるジェナイ。

「クロノ!」

 そのとき、アズマリアの声がかかり、クロノが振り向く。彼女が彼に向けて、十字架を放り投げてきた。

 クロノはそれを受け取り、光の剣を出現させる。繰り出された刃をかいくぐり、ジェナイに向けて剣を振りかざした。

「ぐああぁぁぁーーーー!!!」

 絶叫を上げるジェナイの胴を、光の剣がなぎ払う。

「おのれ・・・クロノ・・・が・・・!」

 体を切り裂かれたジェナイが、憎悪の言葉を発しながら消滅した。

 ひとまず危機を脱して安堵の吐息をつくクロノ。彼の右頬にはジェナイの刃がかすめて傷がつけられていた。アズマリアもクロノの無事に笑みをこぼす。

 

 

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