Blood -sucking impulse- File.12 欲、心、想い
様々なことが繰り広げられていた日々が終わりを告げ、何事もなかったかのように朝日が昇ってきた。
アークレイヴ本部があった場所の始末はほぼ完了し、また新たな部隊とその本部の設立が決定されていた。もちろん、ブラッドに対する調査や警備は怠っていない。
アークシティがそんな騒ぎを見せている傍ら、宅真、葉月、ミサは疲れきって眠っていた。そして窓から差し込んできた朝日を受けて、先に宅真が眼を覚ました。
(いろんなことがありすぎて、何から整理していいのかも分からない・・・)
困惑の面持ちを見せながら、宅真は窓に視線を向ける。窓からは依然として日の光がかすかに差し込んできていた。
(日の光・・ブラッドには何でもないけど、水晶と比べると輝きが強すぎるな・・・)
つまらないことを考えたと思い、宅真は小さく苦笑をもらした。すると彼が起きているのに気付いて、葉月とミサが眼を覚ました。
「あ、たっくん・・・」
「・・あたし、いつの間にか寝ちゃってたんだ・・・」
葉月が宅真に顔を向け、ミサが記憶を巡らせている。2人が無事でいることに、宅真は微笑んだ。
「おはよう、葉月ちゃん、ミサちゃん。気分はどうかい?」
「うん、平気・・」
宅真に声をかけられ、葉月は小さく笑って頷いた。ミサは未だに困惑を隠せなかった。
「大丈夫、ミサ?顔色がよくないみたいだけど・・・」
葉月が気にして心配の声をかけるが、ミサは沈痛の面持ちを見せるだけで答えない。彼女の気持ちを察して、葉月も困惑を浮かべる。
「ゴメン、ミサ・・私のわがままが、ミサを傷つけるようなことに・・・」
「いいよ・・・葉月が決めたことなんだから・・・それをアイツは手伝っただけ・・・」
葉月に心配かけまいとするミサ。しかし自分の困惑も葉月の悲壮も消え去らなかった。
「でも、これからどうするの?・・このまま、アイツと一緒に・・・?」
「うん・・アークレイヴが崩壊してから、私、たっくんと一緒にいるって決めたの・・私の体が、弄ばれることになっても・・・」
葉月の決意が固いことを悟って、ミサもひとつため息をついてから受け入れることを決めた。
「それで、ミサはどうするの?アークレイヴはもうないし・・」
今度は葉月がミサにたずねた。ミサは少し考えてから、大きく息を吸ってから答える。
「そうね。アークレイヴの代わりにまた新しく部隊が出来上がるって聞いてるわ。でも正式に認知されるまで時間があるし、しばらくここに厄介にさせてもらおうかな。」
ぶっきらぼうに答えるミサに、葉月と宅真が笑みを返す。彼まで微笑んできたことに、ミサはムッとする。
「か、勘違いしないでよ。あたしは葉月のことが心配だからそう決めたのよ。」
照れくさそうに弁解を入れるミサ。宅真はその言葉を聞き入れて頷いた。
そしてその日の夜が訪れた。葉月が元気になったと見計らって、宅真は彼女を改めて石化することを決めていた。
夕食を終えたところで、宅真は葉月を寝室に招いた。彼女が移動するのを見て、ミサもついていった。
「悪いけど、アンタにこれ以上、乙女の素肌を見せるわけにはいかないんだからね。葉月を裸にしても、あたしがしっかり覆い隠しちゃうから。」
自信ありげな笑みを向けるミサ。振り向いた宅真と葉月がそれを見て微笑む。
「なら一緒に来るといいさ。葉月ちゃんもそのほうがいいだろうからさ。」
宅真が告げて視線を移すと、葉月も小さく頷いた。そして再び3人は寝室へと場所を移した。
夜の闇が入り込んでくるひとつの部屋。人がいなければいたって静かだった。
今この場で、欲情に駆られた青年の快楽が始まろうとしていた。2人の少女を巻き込んで。
宅真が手を離したところで、ミサが葉月を抱き寄せる。そして宅真と間を空けて彼を見据える。
「あたしも葉月もただじゃやられないわよ。どうしてもっていうなら、いっぺんに楽しんじゃえばいいわ。」
ミサが言い放ち、葉月が戸惑い、宅真は気さくな様子を見せている。
「分かってるよ。じゃ、一緒にやってみるか。女の子同士というのも、なかなかいいと思うよ。」
葉月とミサを見つめながら、宅真が優しく語りかける。
「じゃ、オレの眼を見て。オレがちゃんと導いてあげるから。」
「いいわよ。やってみなさいよ!たとえあたしが裸にされても、葉月の体はアンタには見せないから!」
石化への誘いを見せる宅真に対し、ミサが葉月を抱きかかえてかばうように言い放つ。もしも葉月が石にされるなら自分も。彼女はそう覚悟していた。
2人がブラッドの青年をじっと見つめる。彼の蒼い眼に光が宿り、次第に強まっていく。
カッ
その光が解き放たれ、葉月とミサの瞳に飛び込んでいく。
ドクンッ
彼女たちの胸に強い高鳴りが響き渡る。依然に体感した衝動。石化がかけられた証明だった。
2人は思わず自分の胸を押さえる。その衝動と感覚が次第に心地よいものへと変わっていく気がしていた。
ミサは葉月を強く抱きしめた。葉月の体を宅真に見られないように必死に覆い隠す。
「それじゃ始めるよ。気を楽にして、石になっていくことを楽しんで。」
ピキッ ピキッ ピキッ
宅真が呼びかけた直後、葉月とミサの両足が白く固まった。依然体感したものと同じ石化。衣服を引き裂いて丸裸にする石化が、再び彼女たちを侵食し始めた。
「ミサ、足が石になって・・・」
「大丈夫。葉月はあたしがそばにいるから。こんなもの、あたしがあなたを守ってあげるから・・」
自身が石になっていくことを感じながら、葉月とミサが声を発する。
「これからどんどん上に進めていくからね。だからもっと感じてほしい。」
宅真が彼女たちに優しく語りかけながら、石化に意識を傾ける。
ピキッ ピキキッ
葉月のスカート、ミサのジーンズが引き裂かれ、石の下半身がさらけ出される。
「ダメ・・石化が私にどんどん伝わってくるよ・・・」
「しっかりしなさい、葉月・・こんなことに負けちゃダメだよ・・・」
石化の快感を覚えて葉月が呟く。その感覚に負けまいと、ミサは必死に葉月に呼びかける。
「ミサ、もういいよ・・このまま石になるだけなんだから・・・」
「葉月・・・!」
既に石化に、宅真に体を預けようとしている葉月に、ミサはたまらず彼女の体を抱きしめる。
「あたしは葉月を守る。たとえあたしがアイツに何をされたとしても!」
宅真と葉月に決意を言い放つミサ。正義感と友情が彼女の最大の動機となっていた。
しかし彼女の強い意思でも、石化の束縛を振り払うことには至らなかった。
「そんなにいきり立つこともないよ。君たちはこのままオレの石化に包まれていくのさ。」
宅真がミサに優しく語りかける。ゆっくり近づき、2人の少女の意思の素足を撫でる。
「やっぱりきれいな足してるね。普通にモデルとしても十分やっていけるんじゃないかな。」
彼の言葉や誘いに、葉月だけでなくミサも戸惑いを見せる。自分の体に関して誉められたのは、葉月以外で、異性でも初めてのことだった。しかもそれほど自身を自慢したり評価したりしたわけではなかったので、なおさらのことだった。
「そ、そんなこと言われたって、あたしは嬉しくも何ともないんだから・・」
ミサが頬を赤らめながら、ぶっきらぼうに言う。それを見て宅真と葉月も微笑んだ。
「さ、やるなら早くやっちゃってよ。あんまりじらされるのはイヤなんだから。」
「そう焦らなくても。時間はたっぷりあるし、オレも楽しませてもらいたいよ。」
急かすミサだが、宅真は石化を進めず、また石化していない彼女と葉月の胸に手を伸ばした。
「う・・うく・・・」
柔らかな抱擁に包まれて、少女たちは快楽を覚えてうめく。互いに眼が合った瞬間、今までにない気持ちが2人の中に湧き上がる。
「葉月・・・」
「ミサ・・私・・・」
ふくれ上がっていく快感を抑えきれず、葉月とミサが顔を近づける。そしてその唇が重なる。
宅真に撫で回されている胸に、自ら触れようとする。快楽の共有のために無意識にしている行為だった。
「ミサ・・たっくんのいうとおり、ミサの体・・本当にきれいだね・・・」
「葉月も、ふくらみのある胸してるね・・触ると、なんでか気持ちよくなってくる・・・」
互いの触れ合いながら、そのぬくもりを感じ取っていく葉月とミサ。その快楽がもたらしているのは、その触れ合いによるものなのか、石化の影響なのか。それを気に留めず、さらに触れ合う2人。
「ふう。何だか、自分たちだけで十分楽しめてるみたいだね。」
宅真が彼女たちを見て、微笑ましい心地を覚えていた。
「ミサちゃんも、なんだかんだ言って、いろいろ楽しんでいるみたいじゃない。」
ミサに視線を移して、宅真が安堵を込めた吐息をつく。先ほどの正義感あふれた強きな態度は、今起きている石化と抱擁にかき消されていた。
さらに押し寄せてくる快感に、ミサは思わず眼をつむる。その気持ちが外にあふれそうなほどだったが、既に石になっていた秘所からは愛液があふれることはない。
「そろそろいいかな?胸のほうも石化してみるよ。」
葉月とミサの体から手を離し、宅真が石化に意識を傾ける。快楽に浸っているのか、彼女たちは否定の意思を見せなかった。
ピキキッ パキッ
宅真のかけた石化が進行し、2人の少女の上着を引き裂く。これで彼女たちの衣服が全て剥がされ、丸裸にされたことになる。
「ミサ・・とっても気持ちいいよ・・体が石になって・・私の中にある全てが解き放たれているみたい・・・」
「あたしもだよ、葉月・・・どうして・・どうしてアイツの力で気分がよくなってるんだろう・・・」
葉月とミサがさらに快楽に浸っての言葉を掛け合う。
「それは多分、たっくんだからだよ・・たっくんの気持ちが石化と一緒に伝わってきているんじゃないかと思う・・・」
「アイツはあたしたちを弄んでいるんだよ・・・それなのに、あたしは・・・」
本心と裏腹な言葉をかけながら、その本心、その快楽を堪能してしまっているミサ。再び葉月と口付けを交わす。
1回目よりも長めの口付け。2人の舌が絡み合い、さらなる快楽へと2人の心を上らせていく。
そんな2人を見ているうち、宅真は悩ましい面持ちを浮かべていた。
(そうか・・これがオレが追い求めていた欲望、心の充実だったのかもしれない・・・)
自分の追及していたものの真実を理解したような感覚に陥って、彼は呆然となる。
(石化でも何でも、触れ合って感じあって心地よくなっていく。それを見てオレは満足していっていたんだ・・・)
悩ましい面持ちと安堵の笑みを浮かべたまま、宅真は快楽を堪能している葉月とミサに寄り添った。彼の接触さえも、2人にとっては快感に思えていた。
「葉月ちゃん、ミサちゃん、オレは、オレたちは生きてるんだよね・・・」
必死の面持ちで2人に呼びかける宅真。自分の充実が何か、分かった気がしたからだった。
「生きていると、かわいい女の子やきれいな美女が生きてることを実感しているということが、オレの心を満たす欲望だったのかもしれない・・・」
心を込めて告げる宅真。葉月とミサは快楽にさいなまれて、彼の言葉を聞いているのかは分からなかった。
それでも宅真は自分の気持ちが2人に伝わっていると信じることにした。今は快楽に包まれているが、面と向かって言ったなら必ず伝わっていると彼は思っていた。
パキッ ピキッ
宅真が進行させた石化が、葉月とミサの首元を競り上がっていく。大きな動きができなくなった2人は、互いに寄り添い合って友情と愛情を抱擁という形で噛み締める。
(葉月、あたし、何となく分かった気がする・・気持ちがいいって、自分が抱えてるもの全部を放り投げて楽になってしまうことなのかもしれないって・・・)
(これが、私がたっくんにひかれた理由だと思う・・何もかもなくしてひとりぼっちになってた私を、吸血衝動にかかって自分を見失いそうになっていた私を優しく抱きとめてくれたのはたっくんだから・・・)
互いを見つめあい、自分の思いを伝えていく葉月とミサ。口にはしなかったが心の声でしっかりと伝わっていた。
ピキッ パキッ
2人の唇が、頬が、髪が白く固まっていく。
フッ
そして感情を映し出している瞳さえも白くなり、葉月とミサは完全に石化に包まれた。
(・・・これが・・これがオレの求めていた、心の充実感・・オレの欲・・・)
宅真は裸身の少女の石像を抱きとめた。今は冷たく固い体をしていたが、彼は彼女たちからあたたかいものを感じ取っていた。
満たされた。初めて満たされた。そんな気がしていた。
いや、満たされた気がしているだけなのかもしれない。でもまやかしだろうと幻だろうと、この快楽に浸っていたい。今も、これからも。
(また、楽しみたいと思ったなら、石化させればいいか・・・)
石の肌を優しく撫で回しながら、宅真は安堵の笑みを浮かべた。また欲に駆られたなら、また同じことを繰り返せばいいのだ。
2人から体を離し、彼は指を軽く鳴らした。すると葉月とミサを包んでいた石の殻が弾けるように剥がれ落ちた。
石化の拘束から解放され、脱力し、この場に座り込む2人の少女。戸惑いを浮かべている彼女たちを、宅真は見下ろして微笑んだ。
「とりあえず今夜はここまでだね。またこんな風にしたくなるかもしれないから、そのときはよろしくね。」
「たっくん・・・」
優しく語りかけてくる宅真に、葉月は困惑を浮かべたまま見上げる。その横でミサがムッとした面持ちを見せていた。
「もうこんな弄ばれ、まっぴらゴメンだわ。今度はアンタの鼻っ柱をへし折ってやるんだから。」
頬を赤らめながら、ミサが宅真に言い放つ。それが本心の裏腹であることを、彼は薄々分かっていた。
「ミサちゃんのその元気、また触れてみたいな。」
宅真がそういうと葉月が微笑み、ミサも照れ隠しに視線をそらした。
それから数日が経過した。アークシティを起点に新たな特殊部隊の設立を上層部は承認した。世界平和のため、改めて第一歩を踏み出したのだった。
その情報を耳にしたミサは、早速その真意を確かめようと、宅真の自宅を出ようとしていた。
「もしもその新しい部隊に入れそうなら、迷うことなく入るつもりだから。どっちにしても、それなりの覚悟は決めてる。」
玄関で振り返ったミサが、見送りに来た宅真と葉月に言いつける。
「何かあったらまたここに戻ってくるといいよ。オレと葉月ちゃんは、いつでもミサちゃんを待ってるからね。」
「冗談じゃないわよ。もうここには2度と戻らないわよ。アンタのいる場所になんて。」
微笑む宅真にミサがムッとする。この反応が本心でないことを分かっているので、葉月は微笑みかけていた。
「葉月、ホントに一緒に行かないの?何とか説明して説得すれば、みんな分かってくれるはずだよ。」
すぐさま沈痛の面持ちを浮かべて葉月に呼びかけるミサ。しかし葉月の気持ちは変わらなかった。
「ゴメンね、ミサ・・でも、私はたっくんのそばにいたいの・・ブラッドになって、昔の自分を捨ててしまったから・・・」
「そう・・・」
物悲しい笑みを浮かべて語りかける葉月。ミサは眼からうっすらと涙をあふれさせて、小さく頷いた。
「分かった。もうこれ以上は止めない・・でも念のために、あなたの席を空けて待ってるからね。」
「でもブラッドは受け入れてもらえないんじゃないの?少なくても、上の人たちが・・」
「かもね。でももし何か言ってきても、聞こえないフリするから。」
不安を見せる葉月にミサがからかうような笑みを見せる。
「とにかく、あたしはあなたが来るのを、ずっと待ってるからね、葉月。」
「うん・・ありがとう、ミサ。」
互いに笑みを見せ合って、決意と再会への願いを秘める葉月とミサ。親友と、幾度か敵対したブラッドの青年に視線を送ってから、ミサは外に出た。
「行っちゃったね、ミサちゃん・・でも、ホントにこれでいいのかい?」
ふと心配の声をかける宅真。すると葉月が彼に寄り添って微笑んだ。
「いいんだよ・・私が決めたことなんだから・・・もう私は、たっくんのものだから・・・」
「葉月ちゃん・・・」
「・・これからは、ずっとたっくんと一緒だからね・・・」
葉月は宅真に抱きついた。自らの体と心を完全にブラッドの青年に預けたのだった。
純粋に欲情に駆られた青年とそれに身を委ねた少女。
2人は互いになくてはならない存在となった。
彼らの欲、心、想いを阻むことは、もう誰にもできない・・・