Blood –Eternal Lovers- File.11 永遠
自分の放つ闇を跳ね返されて、ランは愕然となる。ララとルナが彼女に紅い剣の切っ先を向ける。
「私たちのことは放っておいて・・そうすれば何もしないから・・・」
ルナが真剣な面持ちで呼びかけるが、ランは聞き入れようとしない。
「そうはいかない・・あなたたちをこのまま、不幸の中に放り込むわけにはいかない・・ここでもう1度オブジェにするから・・・!」
「邪魔をするなら命はない。それを承知の上でかかってくるのか?」
ララの忠告さえもランは拒絶する。ランの体から、再び漆黒の闇があふれてくる。
「お前の闇は通用しないと言ったはずだ。今度はお前の命を奪うことをためらいはしない。」
「そんなことはない!闇は何もかも包み込んで放さない!あなたたちの体も心も!」
冷静に語るララに、ランが黒い触手を伸ばす。だがこれもララの振りかざした剣にかき消される。
「諦めろ・・もうお前は、私たちの中に踏み込むことはできない・・・」
愕然となるランに、ララとルナが歩み寄っていく。ランは力ずくでもと、眼に意識を傾ける。
カッ
ドクンッ
ランが放った眼光を受けて、ララとルナが衝動を覚える。
「これでもう1度オブジェに・・・!」
ピキッ パキッ パキッ
笑みを浮かべるランの前で、ララとルナの体を石化が侵食する。
「もう元に戻させない・・オブジェになったら、解けないように念を入れるから・・」
ランが笑みをこぼしてから、石化の速度を一気に上げようとした。だがララとルナが念じただけで、かけられていた石化が一瞬にして消失した。
「そんな・・・!?」
再び石化が破られたことに、ランは眼を疑っていた。吐息をひとつついてから、ララがランに言いかける。
「いい加減に理解しろ。どれだけ拒絶しようとも、お前は私たちを捕らえられない・・・」
「冗談じゃない・・こんなの、認められるはずがない・・幸せが壊されるなんて、絶対に認めない・・・!」
「拒絶したいならそれもいいだろう。だがその拒絶も、現実逃避のための言い訳に過ぎない・・」
否定を繰り返すランだが、ララは冷静さを崩さなかった。ランの悲痛さを哀れんで、ルナは困惑を浮かべていた。
「もうやめよう・・今の私はブラッド。普通の人間じゃない。だから友達を元に戻してほしいなんていわない・・」
ルナが深刻な面持ちでランに言いかける。
「ただ、私たちの邪魔をしないで・・私たちは外に行くんだから・・・」
「ダメ!外に出たら不幸が待っている!」
「今の私たちなら、どんな不幸だって跳ね返せるから・・それができる力も気持ちもあるから・・・」
行く手をさえぎるランにも、ルナは動じることはない。
「命がほしければそこをどけ。耐久力が並外れていても、不死ではないのだから・・」
「私は死なない!まだ全員を幸せにしていないから!」
いきり立ったランが、闇雲に飛びかかっていく。
「ついに血迷ったか・・だが・・・」
ララはさらにため息をつくと、向かってきたランに剣を突き出した。紅い刃がランの体を貫いた。
「えっ・・・!?」
この一瞬にランは愕然となった。ララの剣が刺さっていることに、彼女は動揺を隠せなくなっていた。
「・・・でも、私はこのくらいで死んだりは・・・」
「ううん・・これでおしまいだよ・・・」
笑みを浮かべたランに、ルナが低く告げる。直後、ランの体をルナの紅い剣が突き刺さった。
「なっ・・・!?」
2本目の剣を刺されて、ランが眼を見開く。おもむろに剣を引き抜こうとするが、剣は彼女の意思に反してビクともしない。
「私たちの誓いは、あなたには破れない・・・」
ルナは告げると、ララとともに紅い剣を引き抜く。鮮血をまき散らしながら、ランが仰向けに倒れる。
「どうして、こんな簡単に・・私が抜けないほどに貫いていたっていうのに・・」
「ルナが言ったはずだ。私たちの誓い、お前のようなヤツに破ることはできないと・・」
声を振り絞るランに、ララが真剣な面持ちで言いかける。
「ようやく気付かされた・・死ぬことよりも、生きることを願うほうが、心の強さを引き出すことを・・」
ララは言いかけると、動けずにいるランの前に立ち、剣を構える。
「生の不幸を嫌うお前には、死を与えてやるのが慈悲になるのだろう・・・」
「待って・・・私にはまだ・・・みんなを幸せにしなければいけないのに・・・」
悲痛の声を上げるランに、ララが剣を振り下ろした。3度目の貫通を受けて、ランは動かなくなった。
「これで石化が解けて、みんなが元に戻るんだね・・・」
ルナが呟きかけるが、沈痛さを浮かべたままだった。その様子をララが気にする。
「喜ばないのか?お前の人生を狂わせた女なのだぞ・・・」
「だってこの人も、自分の幸せを願っていたから・・・」
ルナの答えを聞いて、ララが思わず笑みをこぼす。
「つくづく甘いことだな。お前も、お前を許している私自身も・・・」
「でも、それでいいのかもしれない・・無闇に感情的になっていたらキリがなくなるよ・・・」
「そうだな・・だがお前と一緒なら、それほど腹を立てることもなくなるか・・・」
ルナと言葉を交わすと、きびすを返して部屋から出ようとする。
「行くぞ。もうここに用はない・・」
「うん・・・」
ララに呼びかけられて、ルナが頷く。だがルナは再びランに眼を向ける。
「さようなら・・弱かった私・・・」
ランと昔の自分に別れを告げて、ルナはララを追いかけて部屋を出て行った。
ランに石化されていた美女たちは、ランの死によって石から元に戻っていた。長らく石になっていたため、彼女たちは精神的に不安定になるなど、様々な様子を見せていた。
美女たちを警察が保護したのは、それから10分以上たってからのことだった。
警察が踏み込んでくる前に、ララとルナはランの屋敷から出てきていた。2人はランの私服を拝借していた。
「厄介なことは避けなければならないからな・・」
「裸で歩くよりはいいよね・・・」
憮然と言いかけるララに、ルナが相槌を打つ。
「これで私たちは、また終わりのない生き地獄を体感することになるな・・・」
ララが口にした言葉に、ルナがおもむろに笑みをこぼす。
しばらく歩いて街外れの通りに来たところで、ララは唐突に足を止めた。
「ルナ・・・ひとつ、頼みがある・・・」
「頼み・・・?」
ララの申し出にルナが当惑を見せる。
「私を1度、殺してくれないか・・・?」
ララが口にした言葉に、ルナが息を呑む。
「ララ、どうして・・・!?」
「心配するな。殺そうとしても死なないことは、お前も分かっているはずだ。」
「それは分かってるけど・・それでも、どうして・・・!?」
「お前に殺してほしいのは、これまでの私だ。お前が過去との因果を終わらせたように、私もこれまでの自分と、完全な決別を果たしたい。それを叶えられるのは、ルナ、お前しかいない・・・」
ララの気持ちを悟って、ルナは困惑する。永遠の命を得ている自分たちは、殺しても死ぬことがない。それでも殺そうとすることに少なからず不安を感じる。
できることなら避けたい。それがルナの本心だった。
「ララの願いでも、こんなことをするのは正直辛い・・でも私も、吸血鬼なんだよね・・・」
「お前の手を汚してしまうことを、私も快く思わない・・だがこれは、お前にしか頼むことができないんだ・・・」
「分かってる・・ララの願いは、私が叶えるしかない・・・」
ルナは頷くと、ブラッドの力を使って、紅い剣を手にする。ララは両手を広げて、ルナに身を委ねる。
「すまない、ルナ・・私の胸を、その剣で貫いてくれ・・・」
「うん・・・行くよ、ララ・・・」
ララに促されて、ルナが剣を構えて突き出す。紅い刃がララの胸に刺さり、体を貫いた。
ララが剣に刺されたまま、仰向けに倒れる。本来ならば心臓を貫かれれば確実に死ぬことになるのだが、永遠の呪縛はそれを許さない。
何事もなかったかのように起き上がるララ。彼女は血があふれてきている体を起こして、ルナの剣を引き抜く。
「すまない、ルナ・・これで、これまでの私は息絶えた・・・」
淡々と言いかけるララ。剣で刺された彼女の体の傷が徐々に消えていく。
「これからはお前と一緒の時間を過ごしたい・・それが私の気持ちだ・・・」
「ララ・・・一緒にいたいのは、私も同じだよ・・・」
微笑みかけるララに、ルナも笑顔を見せる。ルナがゆっくりとララに近づき、強く抱きしめる。
「でも覚えておいて・・ララの痛みは、私の痛みであることを・・・」
「ルナ・・・あぁ。だがお前も覚えておけ。お前の痛みも、私の痛みであることを・・・」
ララの言葉にルナが涙ながらに頷く。
「今夜も付き合ってくれるか・・・?」
「ララが言うなら、私は断らないよ・・・」
ララもルナを抱きしめて、2人はそのまま口付けを交わした。
その日の夜、ララとルナは肌の触れ合いをした。互いのぬくもりを感じ合って、2人は安らぎを覚えていく。
「ララの肌・・あたたかい・・・」
「お前の体も・・私の傷ついた心を癒してくれる・・・」
ルナとララが心地よさを覚える。ララがルナの胸に顔を近づけ、乳房を舐め始める。
「ララ、そんなに舐めたら・・・アハァ・・・」
ルナが高揚感を募らせていく。ララもルナに触れたいという衝動に駆り立てられていた。
「我慢するな・・ここなら全てを解放できる・・・」
「ララ・・・うん・・ララ・・・」
ララに促されて、ルナはさらに息を荒げる。解放感に駆り立てられたルナの秘所から愛液があふれてきた。
「ハァ・・ハァ・・・今度は・・ララの番だよ・・・」
「ルナ・・・ためらうことはない・・お前の気持ちを全て、私にぶつけてこい・・・」
ルナの呼びかけにララが言葉を返す。その返事を受けて、ルナがララの胸をつかんで揉み始める。
押し寄せる刺激にララも高揚感を感じていく。
「もっとだ・・もっと・・・私の感情を解き放ってくれ・・・」
ララに促されて、ルナが彼女の胸の谷間に顔をうずめてきた。吐息が胸に伝わって、ララはさらに恍惚を覚える。
ついにララの秘所からも愛液があふれてきた。
「いい気分だ・・・抱えていたものが、全て外に出て行ってしまったようだ・・・」
「私も・・体が楽になったみたい・・・」
自分たちの解放感に、ララとルナが安堵を浮かべる。そしてルナがララの秘所に舌を入れる。
「くっ・・・」
恍惚が一気に高まり、ララが顔を歪める。吹き出した愛液が、ルナの顔にかかる。
その感触を確かめて、ルナも心地よさを膨らませる。そこへララが顔を近づけ、ルナと口付けを交わす。
舌が絡み合い、愛液までも入り混じる。ララとルナは今まさに、ひとつに解け合っているかのようだった。
(ララ・・・これからもずっと一緒だよね・・・)
(私たちには無限の時間がある・・たとえ命に有限があっても、私たちが離れ離れになることはない・・・そうだろう、ルナ・・・)
恍惚の中で心の声を上げるルナとララ。この心地よさを宿したまま、2人は一夜を過ごした。
夜を終えて朝日が昇り出そうとしていたときだった。眼を覚ましたララとルナは、互いの顔を見つめ合っていた。
「ルナとなら、私はいつでも気を休めることができる・・・」
「私もララとなら、心を落ち着けられる・・何も不安にならなくていい・・・」
感嘆の声を上げて、笑顔を見せるララとルナ。
「ララ・・私たち、これからどこに行くの・・・?」
「さぁな・・時間があるのに目的がない・・虚しいものだな・・・」
ルナが問いかけると、ララが苦笑いを浮かべる。
「今までどおり、世界を回るとしよう・・そのうち、答えが見つかるかもしれない・・・」
「そういう目的の旅も、心が弾んでいいよね・・私も答えを探してみるよ・・・」
「時間がたくさんある・・私たちの時間に終わりはないのだから・・・」
「今までだったら辛く考えていたけど、もうそんなに辛くはならないと、私は思う・・ララと一緒だから・・・」
言葉を交わして、ララとルナが再び互いの体を抱きしめあう。そのぬくもりに安らぎを覚えて、ララが涙を流す。
「これだけ抱きしめても、まだお前を抱き足りない・・どんなに抱いても抱き足りないと思うだろう・・それでも、私は満たされると感じるまで、お前を何度でも抱きしめていたい・・・」
「ララ・・それは私も同じだよ・・・私もララを抱きしめていたい・・何度だって・・・」
気持ちに駆り立てられるまま、ララとルナは口付けを交わす。その心地よさに、2人は身を委ねていく。
(私はこれからはルナのために生きていく。今までは世界の地獄から逃れるために戦い、生きてきた。だがこれからは私は、世界の地獄の中にある、わずかばかりの光明を目指して生きていく・・ルナとならば、その光明を見つけ出すことができる・・時間はかかるだろうが、ルナとならば乗り切れる・・・)
その口付けの中、ララは心の声を呟いていた。今度は死ぬためではなく、生きるために戦っていく。それがララの決意だった。
街外れの森の中にある洞窟。その洞窟の中を拠点としていた魔物が、迷い込んできた美女を氷付けにしていた。
「ヘッヘッへ。次はどんな子を凍らせてやろうかなぁ・・」
歓喜と期待を胸に秘めて、魔物が次の暗躍に乗り出そうとした。そのとき、洞窟内に足音が響き、魔物が耳を研ぎ澄ます。
「また誰か迷い込んできたのかな、ヘッヘッへ・・」
不気味な笑いを浮かべて、魔物が歩き出す。その背後には凍結して真っ白に固まり、動かなくなった少女たちが立ち並んでいた。
外に向かって歩いていく魔物。侵入してきた人物の影に気付き、魔物が足を止める。
「もう少し近づいてきたら、一気に凍らせてやるぞ・・・」
獲物の接近を見計らう魔物。その人影が魔物の視界に入ってきた。
「今だ!」
魔物がその人影に向けて吹雪を放つ。だがその吹雪が鋭いもので突然切り裂かれる。
「その程度の冷気では、私たちを凍てつかせることはできない・・」
そこへ声がかかり、魔物が眉をひそめる。魔物の前に現れたのは、紅い剣を手にしたララだった。
「その力、ブラッドか、お前・・・!」
「ブラッド・・私にとっては関係のないことだがな・・・」
声を荒げる魔物に、ララが不敵な笑みを見せる。遅れてルナも姿を見せてきた。
「ブラッドの娘を凍らせるのも面白いか・・」
「お前では私たちを止められない。この力も、永遠からもな・・・」
いきり立って迫ってきた魔物を、ララは剣を振りかざして切り捨てる。彼女は刀身についた血を振り払うと、その紅い剣を消失させる。
「行くぞ、ルナ・・ここでも答えは見つからなかった・・・」
「そう簡単に見つからないってことなんだね・・・」
呼びかけるララと、沈痛の面持ちを浮かべるルナ。凍結から解放された女性たちを背にして、2人は洞窟を後にした。
(未だに答えは見つかっていない・・だが必ず答えを見つけ出せる・・私には、ルナがいるのだから・・・)
断ち切れることのない絆を胸に宿して、ララは歩いていく。生きる希望を胸に抱いて、彼女は永遠を生きていくのだった。