Blood Endless Desire- File.12 果てなき想い

 

 

 トールは消滅した。トモミに血を吸われた彼は、トモミを手中にしようとする直前で霧散するように消えていった。

「私・・助かったの・・・?」

 あまりに突然のことに、トモミは驚きと困惑を感じるばかりになっていた。

 トールが消失していったことで、彼に石化されていた美女たちが元に戻った。石になっている間の意識はなかったが、自分が裸の意思にされていく恐怖と恥じらいは記憶に残っていた。

「私・・体が石になって・・・!?

「元に、戻ったの・・・!?

「キャッ!裸じゃないの!」

 困惑と悲鳴が飛び交う部屋の中、トモミは疲れ果てて起き上がることができなくなっていた。

(ブラッドの力で傷は治った・・でも傷を治すまでの出血と、治すまでに使った力で、起き上がることもできなくなっている・・・)

 疲弊したトモミが思考を巡らせていく。彼女の視界に倒れているミーアの姿が入ってくる。

(ミーア・・これで私は、あなたから解放されたの・・・?)

 心の中で問いかけるトモミ。だがミーアからも、誰からも答えが返ってこない。

(ブラッドにはなったけど、私は1人で生きていける・・自分で自分の道を決めることができる・・・)

 何とか割り切ろうとするトモミ。体力の回復を見計らって、彼女はゆっくりと立ち上がる。

(でも、ずっと私に執着してきたミーアを、なぜか見捨てられない・・・)

 ミーアと完全に決別することができず、トモミが彼女を抱きかかえる。

(もう目を覚まさないのは分かってる・・でも、ここまで私と一緒にいたんだから・・・)

 弔いだけでもしておこうと、トモミはミーアを連れて部屋を出ていった。

 

 人気のない道や場所を選んで進み、トモミはミーアを連れて落ち着ける場所を探した。彼女はかつて自分が使っていた学校の寮の部屋に来ていた。

 そこでトモミは自分の代えの服を着て、ミーアにも服を着させた。2人の体格が近かったため、着させるのに問題はなかった。

「いつまでも裸でいさせるのも、いい気がしないから・・」

 トモミが目を閉じているミーアに微笑みかける。

「あなたのおかげで、私は全てを狂わされた・・私は普通に生きていけたらよかったのに・・・」

 今までの自分の時間を思い返していくトモミ。

 ミーアの介入で彼女は日常を狂わされた。邪な存在に出会わなければ、普通の時間を過ごせていた。ミーアがブラッドにしなければ、何もないまま死ぬこともできた。

 憎んでいたはずの相手。それなのにいつしか心を通わせ、触れ合うようになっていった。

「ミーアがいなければ・・・それなのに、私は・・・」

 憎しみよりも感情移入が強まり、トモミはいつしか涙を浮かべていた。

「どうして・・どうしてミーアにそこまで・・・自分でもおかしいって思えるのに・・・」

 気持ちと涙をこらえることができず、泣き崩れるトモミ。彼女のミーアへの憎しみが薄れ、次第に感情移入へとつながっていった。

「せめて・・せめて今夜だけは一緒に・・・それなら、みんなも納得できるよね・・・?」

 気持ちを抑えきれなくなり、トモミがミーアに寄り添った。心身ともに疲れ果てていたトモミは、そのまま眠りについた。

 

 トモミが目を覚ましたときには、既に朝日が部屋の中に差し込んできていた。

「昼?・・本当に力を使い果たしていたみたい・・・」

 外からの日の光を受けながら、体を起こすトモミ。

「今でも今までどおりの日常を過ごしたいと思っているけど・・もう叶わないことも知っている・・・」

 トモミは呟きながら起き上がり、横たわっているミーアを見下ろす。

「1人で生きていくよ、ミーア・・気持ちを切り替えて、私は私の生き方をしていくから・・・」

 ミーアに向けて声をかけていくトモミ。ミーアを嫌悪していたトモミだが、目に涙をあふれさせていた。

「どうして涙が出てくるのか分かんない・・ミーアは私を苦しめた張本人なのに・・・」

 ミーアに対する自分の気持ちが今も分からず、トモミが体を震わせる。涙を拭っても、次々と涙があふれてくる。

「やっぱり・・ミーアのことにひかれていたみたいね・・・いつの間にか、許していたのかな・・・」

「そうであったなら、私は嬉しいな・・・」

 そのとき、自分の呟きに答える返事がして、トモミが驚きを覚える。今まで意識を失っていたミーアが、ようやく目を覚ましたのである。

「ミ、ミ、ミーア!?死んでいなかったの!?

「勝手に私を殺さないでほしいな・・もっとも、こうして生きていられたのが不思議なくらいだが・・・」

 驚きを隠せなくなっているトモミに、ミーアが淡々と答えていく。

「トモミ、お前はこれからどうするつもりなんだ?この際だから、ここで聞いておきたい・・」

「ミーア・・・私の考えはもう決まってる・・たとえあなたが生きていても死んでいても・・・」

 真剣な面持ちを見せて問いかけてくるミーアに、トモミが自分の気持ちを口にしていく。

「私は私の思うように生きていく・・体はブラッドになっても、人間みたいに生きちゃいけないなんて言わせない・・・誰の血もこれ以上吸いたくないし、できることなら戦いもしたくない・・・」

 トモミが真剣な面持ちを見せて、ミーアに声をかけていく。

「でも、ミーアが好き勝手にさせるわけにもいかない・・自分の都合で、私みたいに誰かを弄ぶようなこと、私は認めない・・・」

「トモミ・・・」

「だからミーア、あなたを連れていく・・私がちゃんと見張っていないといけないから・・・」

 戸惑いを覚えるミーアに、トモミが手を差し伸べてくる。

「私と一緒に来てもらうよ、ミーア・・私が勝手にさせないから・・」

「トモミ・・・また、お前と一緒にいてもいいのか・・・?」

「そんなことを聞かれても、いいとか悪いとか答えるつもりはない・・一緒に来てもらうって言ったでしょ・・・」

 問いかけてくるミーアに、トモミが目つきを鋭くして言葉を返す。

「もうあなたの好きなようにはさせない・・勝手なことをしたら、私が止めるから・・・」

「トモミ・・・それでいい・・お前と一緒にいられるなら、私は何でもお前の思い通りになろう・・」

 自分の考えを告げるトモミに、ミーアが微笑みかける。彼女の手をトモミがつかんで引っ張り上げる。

「罪滅ぼし・・になるかどうかは分からないが、お前の好きにするといい・・私は本当に構わない・・」

「だから、あなたの許可は求めていないって・・・」

 微笑みかけてくるミーアに、トモミが不満を見せる。その直後、ミーアが突然トモミに口づけをしてきた。

「ち、ちょっと!」

 たまらずミーアを突き飛ばして離れるトモミ。彼女はいきなりミーアに口づけをされたことに、大きく動揺していた。

「い、いきなり何するの、ミーア!?

「私を弄んでくれ・・私はお前の好きに弄ばれたい・・・」

 声を荒げるトモミに、ミーアが悩ましい面持ちを見せる。すがりついてくる彼女に、トモミは肩を落とす。

「本当に・・本当に私の思い通りにならないんだから・・・」

 諦めるしかないと思い、トモミはミーアに寄り添うのだった。

 

 それからトモミは感情のままにミーアの体に触れていった。

 トモミに胸を撫でられて、ミーアが快感を覚えて苦悶の表情を浮かべる。罪悪感を振り切ろうとしながら、トモミはミーアにすがりついていった。

(これがトモミの私への感情・・私がブラッドにしたことを、トモミは強く憎んでいたのだな・・・)

 荒々しくなっているトモミの心境を、ミーアは感じ取っていく。

(これまで散々トモミを振り回してきたからな・・それなりの代償を支払わなければ、分かち合うことなどできるはずもない・・いや、どんなことをしても分かち合えないのかもしれないが・・)

 自分のトモミへの罪の意識を感じていくミーア。トモミが胸に顔をうずめてきて、ミーアがさらなる恍惚に襲われる。

「もっとやってくれ、トモミ・・もっと・・もっと・・・」

 快楽に駆り立てられて、ミーアがあえぎ声を上げる。快楽が強まり、彼女の秘所から愛液があふれてくる。

「ミーアが・・・ミーアが許せないはずなのに・・・私は・・私の気持ちを押しつけたくなってる・・・」

 感情をぶつけるように、トモミはひたすらミーアの体に触れていった。快感の高まりにより、トモミも秘所から愛液をあふれさせていた。

「もう・・私の思うままに・・ミーアを・・・!」

 込み上げてくる気持ちに突き動かされるままに、トモミはミーアにすがりついていった。

(私がミーアの勝手を止める・・犠牲になるのは、私だけでいい・・・)

 ミーアとの抱擁の中、トモミは心の中で誓いを立てていた。ブラッドとなってしまってからの時間を、ミーアとともに過ごしていくことを。

 

 ミーアと触れ合っていく間に、トモミは眠りについていた。彼女が目を覚ましたのは、次の夜明けの前だった。

「ようやく目が覚めたようだな、トモミ・・ひどく疲れていたのは、お前のほうだったかもしれない・・・」

 起き上がるトモミに、ミーアが声をかけてきた。

「・・これから見張られるって分かってたはずなのに・・私から逃げなかったね、ミーアは・・」

「お前が私の全てになったからな・・逃げるはずがないだろう・・・」

 眉をひそめるトモミに、ミーアが淡々と答える。

「私はお前との時間をこれからも続けていく・・そうすれば、お前も私を見張れて好都合だろう・・?」

「本当に全然思い通りにならないんだから、ミーアは・・・」

 ミーアの思惑通りになっていると思い知らされ、トモミは肩を落とすしかなかった。

「それじゃ、気分が落ち着いたらここを出るよ・・今の私は、ホントはここにはいられないから・・・」

「どこまでも付き合おう・・それが私の辿るべき道だ・・・」

 トモミの呼びかけにミーアが微笑んで頷く。2人は気持ちを新たにして、街から旅立つのだった。2人きりの時間を過ごして。

 

この悲劇を味わうのは、私だけでいい。

ミーアと心と体を通わせるのも、私だけでいい。

この血まみれの想いを受け止めるのも、私だけ・・・

 

 

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