Blood -Chrono Heaven- File.8 太陽の影

 

 

 一夜が明け、窓から差し込んできた朝日の光で健人は眼を覚ました。

 昨晩は自分の欲望に従い、しずくを石化してその体を弄んだ。そしてその石化を解き、互いの気持ちを理解して、抱き合ったまま眠りについたのだった。

 疲れきっていたのか、しずくは未だに健人の腕に抱かれて眠っていた。2人は一糸まとわぬ姿で互いの肌に触れ合っていた。そののくもりを確かめるように、健人は右手を握り締めた。

(オレはもう、ひとりじゃない。そしてしずくをひとりにもさせない。オレたちは、ともに生きていく。シュンもあおいちゃんも、必ず助け出してみせる。)

 健人が握り締める右手を見つめながら、改めて決意を固める。

 もうひとりにはならない。仲間たちをひとりにはさせない。今の健人にあるのは、しずくとの共生とシュンとあおいの救出だけだった。

 しばらく自分の手を眺めていると、しずくが眼を覚ました。

「おはよう、健人。」

「しずく・・・ああ、おはよう。」

 しずくに声をかけられ、健人は挨拶を返す。

「体も心も元気が出ました。というわけで、改めて出かけよう。シュンとしずくを助けに。その手がかりを求めてね。」

 しずくが起き上がり、健人に満面の笑みを見せる。健人もしずくに笑みを見せる。

「2人を助けて、島のみんなが元に戻ったら、また健人に石にされてもいいかな。」

「えっ・・!?」

「・・なんてね。」

 しずくの言葉に健人が驚き、しずくがそんな彼に照れ笑いする。

 もしも再び健人が欲を暴走させたとしても、しずくは石に変えられることに対してあまり抵抗を感じていなかった。

「さぁ、まずは2人を助けないとね。」

 しずくは立ち上がり、大きく背伸びをする。裸の彼女の髪が揺らめく。

 健人も頷いて、脱ぎ捨ててあった衣服に手を伸ばした。

 

 朝食を終え、健人としずくはシュンたちを探しに玄関の扉を開けた。そこで彼らの前にいたのは、憤慨を抱えた近所の住民だった。

 彼らはブラッドを敵と見なすような内容のはちまきやプラカードを所持し、健人たちを鋭く睨みつけていた。中には小石や卵を投げつけてくる人までいた。

「ど、どうしたの、みんな・・・!?」

 何事か分からず、しずくが声を荒げる。その問いかけに、中年の女性が前に出てきて答えた。

「アンタ、ブラッドなんだろ?」

「えっ・・!?」

 女性の声にしずくが戸惑う。

 ブラッドは、昼間は眼が紅く、夜は蒼くなる外見的な特徴を持っている。その知識のある者は、彼女たちをブラッドであることに気付くのは容易なことだった。

「お前らがいるとオレたちの命が危ないんだよ!」

「貴様らがとんでもないことをしてくれたおかげでな!」

「さっさと死んでしまえ、この死神が!」

 健人たちの前に立ちはだかる群集から、彼らを虐げる罵声が飛び交う。

「ち、ちょっと待って!私たちが何をしたの!?何のことだか分かんないよ!」

 しずくの悲痛の叫び。しかしそれは人々の怒りを煽るだけだった。

「フンッ!とぼけやがって。アンタらブラッドがいると、世界が滅びるんだよ。」

「世界が!?・・・バカな!」

「ウソではありませんよ。」

 驚愕する健人に答えたのは、隣の街から急行してきた数人の女性警察官だった。彼女たちは群集をかき分けて、健人たちの眼前に現れる。

「あなたたちは、太陽に突然出現した大黒点については知っていますね?」

「うん。今までにないくらい大きさだって・・」

 警察官の1人の質問にしずくは頷いた。

 彼女の言ったとおり、太陽の黒点が異常なスピードで膨らみ始め、人類がかつて経験したことのない大きさにまで成長していた。そのため、世界中に気象異変が起き、冷害や地割れなどの被害が続出し、人々を不安に陥れていた。

「研究団は、その現象の根源が、あなたたちブラッドにあると判断したのです。」

「な・・・何を根拠にそんな・・!」

 苛立ちを隠せなくなるしずくに、警察官は淡々と話を続けた。

「神教に携わる信者たちは、ブラッドが世界にたったひとり存在する天使を拉致したことで、もうじき神の怒りが降りかかると語ってくれました。」

「天使?・・・まさか!?」

 健人には心当たりがあった。

 この世界に存在する天使、白鳥あおいのことを思い返していた。彼女は全たちにさらわれたまま、行方が知れていない。

「よって、信者たちや私たちが下した決断は、あなたたちブラッドを壊滅し、私たちに危害が及ぶ前に神の怒りを沈めることです。」

「ちょ、ちょっと待って!」

 銃口を向ける警察官に、しずくが動揺する。しずくにも天使のことを思い出していた。

「私たちは、あおいちゃんを自由にしてあげようとしただけだよ!それなのに、シュンがあの子を・・!」

「誰がやったかなんて関係ない!ブラッドがやったことに変わりはない!」

 しずくの訴えを群集の怒号がさえぎる。

「とにかく、世界を救うにはあなたたちの命を絶たなければなりません。不本意ではありますが、生き延びるためにあなたたちの殺害を遂行します!」

 女性警察官たちが発砲し、困惑するしずくに向けて弾丸が飛ぶ。そこに健人が力を放って光の壁を作り、飛び込んできた弾丸を受け止めて蒸発させる。

 ブラッドの力を目の当たりにした人々が動揺し、健人が彼らに鋭い視線を向ける。

「どうしてもオレたちを許せないなら、それは仕方がない。しかし、しずくを傷つけるつもりなら、オレは容赦しないぞ!」

 健人がなおも銃を構える女性警察官たちに右手を伸ばす。そこから白い光が放たれ、警察官と接触する。すると光の触れた部分が、灰色がかった白色に変わった。

「ちょ・・な、何なの、コレ!?」

「体が、動かない・・・!」

 冷静を保っていた女性警察官の顔が、恐怖や動揺の色に染まる。その姿を見て、しずくが健人に視線を向ける。

「ちょっと健人、いくらなんでもやりすぎだよ!」

「大丈夫だ。威力も効果も極力抑えてある。2、3時間すれば、自然と元に戻る。」

 笑みを漏らす健人の前で、警察官の体が石化していく。変わりゆく自分の体を見て、彼女たちから冷静さは失われていた。町の人々もブラッドの力に動揺し、健人に対する敵対の意思が揺らいでいた。

「とにかく、今のうちだ。」

 健人が、戸惑っているしずくの腕を引っ張り、その場を駆け出す。

「イヤァ!このまま石になるなんて・・・!」

 警察官の恐怖は募り、健人を射殺するどころの心境ではなかった。

 やがてその恐怖を顔に焼き付けたまま、彼女たちは石像と化して、その場に立ち尽くしていた。

 周囲の人々も健人の力の前に怯え、彼らを追うことができなかった。

 その間に、健人としずくの姿は町から遠ざかっていった。

 

 人々からの襲撃から逃れた健人としずくは、町外れの廃工場に身を潜めて小休止をとっていた。

 人々に見放された彼らは、シュンとあおいを助けに向かう以外に道は残されていなかった。

「それにしても、いったい何がどうなってるんだ・・・人間たちがオレたちを・・・」

「私と早人はいろんなことをやってきたけど、近所からこんなに憎まれたのは初めてだよ。何でも屋やってたから、いろいろな人から恨まれてるけど、近所はそれでも私たちを受け入れてくれたのに・・・」

 健人としずくはひどく動揺していた。

 今まで親しみのあった人々から迫害を受け、命まで狙われ、彼らは鎮痛の面持ちでいっぱいだった。

「あおいちゃんを連れ去ったくらいで、神が怒りのいかずちを落とすなど・・・」

「町の人たちが言ったことは本当よ。」

 突然の声に健人が立ち上がって身構えた。彼の眼前に、虚ろな悲痛の面持ちで立っている麻衣が語りかけてきた。

「姉さん!?」

「あの太陽の黒点が、神の怒りの証なのよ。」

「どういうことなの!?神の怒りって・・!?」

 しずくが麻衣に問い詰める。麻衣はしずくに視線を移して答えた。

「これは、私たちが引き起こした罪に対する防衛手段なの。」

「防衛手段!?」

「私たちはその手段のために、世界にたったひとり存在する天使を連れ去った。それが・・」

「あおいちゃんだと・・」

「そうよ、健人。でもそれ以前に、この罪と罰は行われていたのよ。」

「どういうことだ!?」

「彼女はミスター・ブロンズに養子として引き取られた。自分の私欲を満たそうと彼女の力を利用するためにもね。」

 あおいはかつて、美女、美少女をブロンズ像に変えてコレクションしていたミスター・ブロンズの娘として引き取られていた。本当の自由を手にするため、しずくたちの活躍で彼女は豪邸を抜け出したのである。

「だけどそれが、天使の力を私欲ために利用したとして神の怒りを引き起こしてしまった。彼女はあなたたちに解放され、ブロンズは死亡したけど、それでも神の怒りは治まらなかった。ブラッドであるブロンズが引き起こした怒りは、同じブラッドである私たちにも向けられた。ブラッドが全滅しない限り、神の怒りは治まらない。」

「そ、そんなことが・・・そのために神の怒りが・・・」

「神の怒りは、近いうちに世界を壊滅させるほどの閃光をもたらすわ。たとえそのためにどんな命が失われても神はためらわないわ。世界を巻き込むことになっても、確実に私たちブラッドを滅ぼしに来るわ。」

 悲しい眼を健人たちに向ける麻衣。彼女の語ったことを信じられず、健人たちはひどく困惑していた。

「そこで私があなたの前に現れた理由はただひとつ。一緒に来てほしいの。」

 麻衣の言葉に健人たちは驚愕し憤慨する。

「ふざけるな。誰がアンタたちに・・!」

「話は最後まで聞きなさい。私たちに協力してほしいためにここに来てはいるけど、無理やり連れて行くつもりはないわ。あくまであなたたちの選択に任せるつもりよ。」

 麻衣の心苦しさのこもる言葉に健人たちは耳を傾ける。

「私たちはいままで計画の準備をしてきた。それは、6人のブラッドと1人の天使を人柱にする必要はあるの。」

「人柱って・・あおいちゃんを犠牲にするつもりなのか!?」

「これ以外に方法がないのよ。この前の戦いで十分だったはずの6人のブラッドのうち2人が死亡した。だから・・」

「その2人の代わりになってほしい、と・・・」

 苛立つ健人。困惑しながら訊ねるしずく。その言葉に麻衣は頷いた。

「ブラッドと天使の力をあわせて、神の怒りのいかずちをはね返すのよ。」

「それで、本当に世界が救われるのか・・!?」

 怒りを押し殺して、健人が麻衣に問い詰める。

「それで神のいかずちを抑えたって、また新たな攻撃が飛んでくるぞ。まさか・・神殺しを行おうとでもいうのか・・!?」

 頷く麻衣に健人は憤怒し、彼女のシャツを掴み上げる。

「何をバカなことを!アンタらは最悪の大罪を犯そうというのか!?どこまで勝手なことをすれば気が済むんだ!」

「とにかく、私と一緒に来て!賛同しなくてもいい!詳しい話だけでも聞いて!」

 首を締め付けられ、苦痛に顔を歪める麻衣が、健人に必死に抗議する。

 健人は彼女を締める手を離し、きびすを返して再び言い放つ。

「オレたちはアンタたちには手を貸さない。シュンとあおいも救い出してみせる。」

 あくまで計画に賛同しない健人と、その言動に鎮痛の面持ちになる麻衣。

 姉弟のこの姿に、しずくは戸惑いを隠せず、2人に視線を交互に移していくだけだった。

 

 要塞のエネルギー増殖炉の中央部屋に立っていたシュンと全。

 その天井には、大黒点がはっきりと見える太陽がのぞける。神の怒りは刻一刻と、世界の破滅に向けて近づいていた。

「これで世界を救う救済措置になるかな?」

 シュンが黒点を見つめたまま全に問いかけ、全は不敵な笑みを浮かべて答える。

「この機械にお前のエネルギーを通せば、そのエネルギーを拡散させることができる。威力は落ちるが全世界にその効果を及ぼせるだろう。」

「うん、やってみるよ、全。」

 全に促され、シュンは淡い光を放つ球体、エネルギー増殖装置に手を伸ばす。そして球体にブラッドの力を注ぎ込む。

「このエネルギー増殖炉によって、シュンの、時間を操るSブラッドの力の1つ、時間凍結が全世界に及ぶ。」

「これで神の怒りの世界への被害を最小限に抑えられるね。」

「集中しろ。エネルギーがうまく増加しなくなるぞ。」

 笑みを漏らすシュンの言葉に、全も笑みを浮かべて返す。

 ブラッドの力を受けてさらに輝きを増した球体の光は、その真上の天井にある別の球体へと移動し、さらに力を強めていく。

「悪気があるわけじゃない。だけど、神の怒りでみんなが痛い思いをしないためには、こうするしかないんだ。」

 シュンが悲しい眼で上空の光を見つめる。

 光はまばゆいばかりに輝き、今にもあふれるくらいに蠢いていた。

 シュンが光に向かって両手を伸ばす。

「世界を守るため、時間よ凍てつけ!」

 シュンが叫ぶと、光は弾け飛ぶように拡散した。そして噴水のように広がった。

「これで、世界の時間が凍てつく。時の止まった物質は、どんな圧力をかけられても破壊されることはない。たとえ神のいかずちでも、しのぐことができるだろう。」

 散らばっていく光を見つめて、全が呟きを漏らす。時間を停止させることで、世界の被害は最小にくい止められるはずだった。

 

 見つめ合う健人と麻衣も、接近するエネルギーを感知して振り返った。

「なんだ、この凄まじい力は・・!?」

「なんだか、寒気がする・・胸が、痛い・・・」

 動揺する健人と悲痛に顔を歪めるしずく。麻衣はその力の正体を知っていた。

「力を解放して、光を防ぎなさい!」

「えっ!?ね、姉さん!?」

「早くしなさい!時間を止められるわよ!」

 驚く健人に麻衣が叫ぶ。健人は戸惑っているしずくを抱き寄せて、麻衣とともに力を解放して光を張る。

 広がっていく光は、健人たちの作り出した光と衝突して火花を散らす。2つの力が相殺されているのだ。

 閃光は廃工場の酸化して赤茶けた鉄棒さえも白く染め上げていた。舞いかけた砂塵、流れ落ちる川の水も、光の影響で白く停止していく。

 やがて光が治まったことを見計らって、麻衣が光を解き、健人も続けて力を消す。

「こ、これって・・・!?」

 しずくが周囲を見回して驚愕する。広がった光の影響で、周囲は真っ白になって時間を停止していた。

 健人が凍てついた廃工場を見渡してから、麻衣に視線を向ける。

「時間凍結・・・シュンの仕業か・・!?」

「ええ、そうよ。もう計画は始まってるのよ。」

「どういうことだ!?」

「神の怒りの世界への被害を極力抑えるためよ。」

 麻衣の言葉に健人の顔が硬直する。

 時間凍結された物質は、どんな力を受けたとしても危害が及ぶことはない。神の怒りから回避させるために、シュンが世界に力を放出したことを麻衣は知っていた。

「でも、それは私たちにとっては、ただの気休めにしかならないわ。」

「どういうことですか?」

 沈痛な面持ちの麻衣に、しずくが困惑しながら訊ねた。

「本当の計画はここからなのよ。これから降りかかる神のいかずちを、1人の天使と6人のブラッドの力が打ち砕く。神の怒りをくい止めることができれば、私たちの大罪に終止符が・・」

「そんなことはない!」

 麻衣の言葉を健人がさえぎった。

「そんなのは何の確証もない平和じゃないか!それに、たくさんの命を犠牲にして、本当に平和になると思ってるのか!?」

「これ以外に方法はないのよ!こうなった以上は、もう引き返すことはできないのよ!」

 互いに上げる悲痛の叫び。自分たちの命を代償にしても神の襲撃を迎撃しようとする麻衣たちと、それを否定する健人。しかし彼がどんなに拒もうとも、すでに世界の時間は停止し、全たちの計画は開始されている。

 止められた時間の中で動き出した策略の中、健人は歯がゆい思いを抱え、しずくは未だに動揺を隠せないでいた。

「とにかく、私が今願っていることはたったひとつ。健人、しずくさん、あなたたちが私と一緒に来てほしいことだけよ。」

「だから何度言えば分かる!?オレたちはアンタたちの計画には手を貸さない!これ以上言うなら・・」

 健人が握り締めていた右手を伸ばし、ブラッドの力で紅い剣を出現させる。

「たとえ姉さんでも倒す!そして自力でシュンとあおいちゃんを見つけ出す!」

「待って、健人!」

 構えた健人をしずくが呼び止める。動きを止めた健人が見つめる中、しずくが真剣な眼差しで麻衣に話しかけた。

「あなたと一緒に行けば、シュンやあおいちゃんに会えるんですか?」

 しずくの問いかけに麻衣は頷いた。

「分かりました。わたし、一緒に行きます。」

「しずく!」

 しずくの決意に健人が驚愕する。このまま麻衣についていけば、どんな事態に陥るか分からないと彼は考えていた。

「確かに姉さんについていけば、シュンとあおいちゃんに必ず会えるだろう。しかし、どんな危険なことになるか分からないのも事実だ。自ら危険に飛び込むような、無謀なマネは・・!」

「でもこの機会を逃したら、他にシュンたちを探す方法がなくなる気がするの。だからたとえ危険でも、私は麻衣さんについていくわ。」

 苛立つ健人に振り向き、笑顔を見せるしずく。

「大丈夫だよ。どんな危険がやってきても、私は死んだりしないしシュンたちも死なせたりしないよ。」

 しずくの揺るぎない意思に、健人は肩の力を抜いて、右手に握っていた剣を消失する。

 麻衣についていけば、全たちの策略の真っ只中に飛び込むことになる。しかし、それ以外にシュンたちを救い出す手段を見出せていないことも確かだった。

 罠に飛び込むことになっても、麻衣の誘いを受けながらもシュンたちを助け出す。その願いを秘めたしずくには、もう迷いはない。

 健人はひとつ嘆息をついて、しずくに苦笑を見せる。

「分かったよ。オレの負けだ。一緒に行くよ、しずく。」

 健人の言葉にしずくが満面の笑みを浮かべる。

「あまり時間もないし、他に方法を探しているわけにもいかないからな。」

「ありがとう、健人。」

 しずくが視線を健人から、肩を落として笑みを浮かべている麻衣に移した。

「でも、行く前に1回、町に戻ってもいいですか?」

「えっ?」

 しずくの言葉に麻衣が思わずきょとんとなる。しずくは待ち構えているだろう戦いの前に、町の様子を一目見ておこうと思っていた。

 たとえシュンの力で時間凍結された町であっても。

「それは、かまわないけど。」

 麻衣が了承すると、しずくは一目散に廃工場を飛び出し、健人も後に続く。

 2人の屈託のない後姿を見て、思わず笑みを漏らしてから麻衣も彼らの後を追った。

 

 

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